説明

反応速度測定装置

【課題】試料の種類によらず速い反応速度を測定する。
【解決手段】試料容器11に試料が入れられ、基準側の材料容器に基準となる材料が入れられ、液体収納筒14に液体が注入された状態で電源がONされる。試料側の回転軸13および基準側の回転軸が同時に回転し、液体収納筒14内の液体が試料容器11に混合されて撹拌される。撹拌による撹拌熱と、測定対象の試料と液体とが混合されることによる反応熱とが発生する。基準側では、撹拌熱のみが発生する。試料側および基準側で発生する熱量が異なるため温度差が生じ、温度差に応じた電圧が温度検出部5の熱電対35に発生し、データ処理部42により電圧値に基づく温度差が算出される。算出された温度差は、撹拌熱などの反応熱以外の要因による温度変化分が相殺されたものとなり、反応熱のみによる温度変化量が算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばセメントと水の初期反応速度を測定するのに適用される反応速度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱量計として、伝導熱量計、恒温壁熱量計、断熱熱量計が知られている。伝導熱量計は、恒温体(ヒートシンク)と試料容器とで熱伝導体を兼ねた感熱体を挟む構造を有する、試料容器側または恒温体側から、感熱体を通じての熱移動量を時間的に積分し、熱量を求める方法と、長時間ほぼ一定熱量が継続する時、感熱体の両端に生じる温度差によって電力を求める方法とがある。
【0003】
恒温壁熱量計について説明する。物理的に断熱された容器(一般はデュワー瓶)内で熱的変化が生じると、その変化量に比例した温度変化が生じる。この温度変化を測定し、熱量を求める方法が恒温壁熱量計である。断熱熱量計は、恒温槽に断熱試料容器(デュワー瓶等)を配置し、容器内で2物質以上のものを混ぜ合わせた時に発熱または吸熱変化が生じたとき、その容器と恒温槽との温度差が限りなくゼロに近づくように電気的断熱制御を行い、容器内で発生した温度変化を測定してその容器内の温度上昇値から熱量を求める方法である。すなわち、恒温壁熱量計に電気的断熱制御を付加したものである。
【0004】
下記の特許文献1および2には、断熱熱量計を使用してセメントの温度変化を測定する装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−241520号公報
【特許文献2】特開2009−097882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した恒温壁熱量計および断熱熱量計を用いた場合には、測定終了後に硬化する試料を用いたり、試料の混合比を無制限に変化させて反応速度を測定することができない。また、伝導熱量計を用いた場合には、比較的緩やかな反応速度を測定することは可能であるが、速い反応速度を測定することができない。すなわち、従来は、測定後に硬化する試料を用いて、試料の混合比を任意に選択可能であるが、速い反応速度を測定することができないという問題点があった。
【0007】
したがって、この発明の目的は、速い反応速度を測定することができる反応速度測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、この発明は、恒温体に対して第1および第2の試験機器が挿入され、
第1の試験機器は、
第1の試料が入れられる第1の容器と、
第2の試料が入れられる第2の容器と、
測定開始時に、第2の試料を第1の容器内に入れる第1の混合開始制御部と、
第1の容器内を攪拌する第1の攪拌部と、
第1の容器の外面に接触される第1の熱測定素子とを備え、
第2の試験機器は、
第1の試料に相当する第1の材料が入れられる第3の容器と、
第2の試料に相当し、第1の材料との間で反応エネルギーを生じない第2の材料が入れられる第4の容器と、
測定開始時に、第2の材料を第3の容器内に入れる第2の混合開始制御部と、
第3の容器内を攪拌する第2の攪拌部と、
第3の容器の外面に接触される第2の熱測定素子とを備え、
第1および第2の熱測定素子の出力の差成分によって、第1の試料に第2の試料を混合したときに発生する相互作用エネルギーの速度解析を行う反応速度測定装置である。
好ましくは、第1の試料がセメントであり、第2の試料が水である。
さらに、第2の容器および第4の容器のそれぞれは、
両端が開放された複数の円筒と、円筒のそれぞれの一端を閉じるパッキング部と、パッキング部を昇降させる上下棒と、上下棒が取り付けられた可動板とからなり、
可動板を上昇させることによって、複数の円筒のパッキング部を同時に動かして複数の円筒内の第2の試料および第2の材料を第1の容器および第3の容器に対して入れるようにする。
【発明の効果】
【0009】
上述したように、この発明では、試料容器の外面に対して熱測定素子を接触させるので、反応後に硬化する試料の反応速度を測定できる。さらに、この発明では、双子型の構成とすることによって、高精度に反応速度を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の一形態による反応速度測定装置の一例の構成を示す略線図である。
【図2】測定機構の一例の構成を示す略線図である。
【図3】支持プレートおよび上下プレートの一例の構成を示す略線図である。
【図4】温度検出部の一例の構成を示す略線図である。
【図5】温度検出回路の一例の構成を示すブロック図である。
【図6】セメントおよび水を混合した場合の温度変化の一例を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は、この発明の実施の一形態による反応速度測定装置1の一例の構成を示す。反応速度測定装置1は、双子型構成を有し、筐体2、恒温体3、測定機構4aおよび4b、温度検出部5aおよび5bで構成されている。測定機構4aおよび4bは、互いに同一の構成を有する。
【0012】
恒温体3は、例えば円柱状のアルミニウムブロックを切削加工することによって形成され、中心から対称の位置に、同一径の2つの貫通する孔が形成されている。各孔には、後述する測定機構4aおよび4bがそれぞれ挿入されて固定される。また、各孔の底面側には、後述する温度検出部5aおよび5bがそれぞれ固定される。
【0013】
この発明の実施の一形態では、一方の孔に固定された測定機構4aに対して測定対象となる試料を入れ、他方の孔に固定された測定機構4bに対して基準となる試料を入れて測定を行う。図1では、測定機構4aの各構成要素に対してのみ参照符号が付加され、測定機構4bの各構成要素に対しては、参照符号を省略している。
【0014】
測定機構4aの一例について説明する。測定機構4aは、試料容器11、蓋12、回転軸13、4本の試料収納筒14、2本の支柱15、撹拌子16、パッキング部17、上側可動プレート18および下側可動プレート19で構成されている。
【0015】
試料容器11は、測定対象の第1の試料を入れるための容器であり、ステンレスやアルミニウム、銅等の金属製の材料を用いて形成されている。試料容器11の材料は、用途に応じて適宜選択され、例えば、試料容器11の強度を優先する場合には、ステンレスが選択され、熱容量を優先する場合には、アルミニウムが選択され、熱伝導率を優先する場合には、銅が選択される。
【0016】
試料容器11は、底面がテーパ形状とされ、例えば内面にテフロン(登録商標)加工が施されている。これは、測定終了後に試料例えばセメントが硬化した場合でも、試料を容易に取り出すことができるようにするためである。試料容器11は、試料が入れられると、蓋12にねじ込みによって固定される。
【0017】
測定機構4bは、上述した測定機構4aと同様の構成を有する。試料容器11に相当する材料容器に対して基準材料例えばセメントに相当し、反応熱を発生しない材料が入れられる。例えば反応が終了したセメントを粉末としたもの、セラミックス粉末等が使用される。基準材料は、試料としてのセメントとほぼ同様の粒径、比重等の特性を有する。
【0018】
図2Aは、蓋12の上面図であり、図2Bは、図2Aに示す点線X−X' の断面図である。図2Aに示すように、蓋12には、中心に軸受けが設けられている。また、中心から対称の位置には、4本の試料収納筒14と、2本の支柱15とが設けられている。
【0019】
図2Bに示すように、蓋12に対して、軸受けを介して回転軸13が回転自在に挿入される。回転軸13の一方の先端には、撹拌子16が取付けられる。蓋12に試料容器11が固定された際に、撹拌子16が試料容器11内に配置される。撹拌子16は、試料容器11に対して上面側から差し込むような形状とされ、例えば、くし形の板が、上面側から見た場合に十文字状となるように形成されている。くし形の目的は、例えばセメントと水とを速やかに且つ完璧に練り合わせるためと、測定終了後に試料が硬化した場合でも、撹拌子16を容易に回収できるようにするためである。攪拌子としては、他の形状のものを使用しても良い。
【0020】
回転軸13の他方の先端は、図1に示すように、筐体2の上面より突出している。図示しないが、回転軸13の先端に歯車が取り付けられ、例えばベルトやチェーン等を介してモータの回転が伝達されるようになされている。モータが回転することにより回転軸13が回転し、試料容器11内の試料が撹拌される。また、回転軸13の中央付近には、軸周面から突出する突起13aが設けられている。
【0021】
試料収納筒14は、第2の試料としての液体(水)を収納するためのものである。例えば円筒状に形成され、上面および底面に開口部を有する。試料収納筒14の底面側は、先細のテーパ形状とされている。試料収納筒14の上面の開口部から、パッキング部17が挿入される。パッキング部17は、上下棒およびOリング17aからなり、上下棒の一方の先端に金属ブロックが取り付けられ、金属ブロックの周面に弾性材料で形成されたOリング17aが取付けられている。
【0022】
パッキング部17が試料収納筒14内に挿入した際に、Oリング17aがテーパ形状に形成された底面の開口部に挿入され、Oリング17aにより試料収納筒14の底面の開口部が塞がれる。Oリング17aにより底面の開口部が塞がれている場合に、試料収納筒14は、その内部に液体を溜めることができる。そして、Oリング17aが上下棒によって上方向へ引き上げられることにより、試料収納筒14の底面の開口部が開放され、試料収納筒14に溜められた液体が蓋12に固定された試料容器11内に注入される。
【0023】
パッキング部17における上下棒の他方の先端は、上側可動プレート18に固定されている。上側可動プレート18は、図3Aに示すように、板状に形成され、中心に回転軸13を通すための孔21と、中心から対称の位置に支柱15を通すための孔22とが形成されている。また、上側可動プレート18の下面には、複数の試料収納筒14に対応するパッキング部17の上下棒がそれぞれ固定されている。
【0024】
上側可動プレート18がコイルスプリングのバネ力に抗して下方向に押し込まれることにより、上側可動プレート18に固定されたパッキング部17のOリング17aが試料収納筒14の底面の開口部に押し込まれ、試料収納筒14の底面の開口部を塞ぐことができる。また、上側可動プレート18が上方向に引き上げられることにより、試料収納筒14の底面の開口部が開放される。
【0025】
下側可動プレート19は、図3Bに示すように、板状に形成され、中心に回転軸13を通すための孔23と、中心から対称の位置に支柱15を通すための孔24と、中心から対称の位置にパッキング部17の上下棒を通すための孔25とが形成されている。孔23の内側には、回転軸13の突起13aに対応して溝26が設けられている。回転軸13の突起の位置と、下側可動プレート19の中心の孔の溝26の位置とを合わせ、下側可動プレート19を押し込むことにより突起13aが溝26を通過し、下側可動プレート19を下方向に移動させることができる。
【0026】
支柱15に対して、蓋12と下側可動プレート19の間にコイルスプリングが設けられている。支柱15巻き付けられたコイルスプリングの外径は、下側可動プレート19の孔24の外径よりも大とされている。そのため、下側可動プレート19を押し込むことにより、支柱15に設けられたコイルスプリングが孔24を通過することなく縮み、下側可動プレート19に対して上方向の弾性力が発生する。
【0027】
下側可動プレート19を押し込んだ状態で回転軸13が回転されると、回転軸13の突起13aの位置と溝26の位置とがずれて、回転軸13の突起13aが下側可動プレート19に接触するため、下側可動プレート19が突起13aより下方の位置に固定される。
【0028】
また、下側可動プレート19が固定された状態で回転軸13が回転し、回転軸13の突起と下側可動プレート19の溝26との位置が一致すると、支柱15のコイルスプリングの弾性力により下側可動プレート19が上方向に急激に上昇して上側可動プレート18の裏面に衝突し、上側可動プレート18が押し上げられる。上側可動プレート18の下側可動プレート19と対向する面には、衝突時の音を小さくし、衝撃を緩和するための弾性シートを貼るようにしても良い。
【0029】
温度検出部5aおよび5bの一例の構成について説明する。なお、温度検出部5aおよび5bは、同一の構成であるため、以下の説明において特に区別する必要がない場合には、単に温度検出部5と適宜称して説明する。図4Aは、温度検出部5を上面から見た上面図であり、図4Bは、図4Aに示す点線Y−Y' で示す断面を矢印方向から見た断面図である。温度検出部5は、ホルダー31、上下駆動棒32、コイルスプリング33、カバー34で構成され、図4Aに示すように、ネジ等を用いて恒温体3に固定されている。
【0030】
ホルダー31は、例えば円筒状に形成され、上面および底面に開口部を有する。上面の開口部は、底面の開口部よりも小とされている。ホルダー31には、図4Bに示すように、底面の開口部から上下駆動棒32およびコイルスプリング33が挿入され、底面の開口部にカバー34が固定される。
【0031】
上下駆動棒32は、先端の外径がホルダー31上面の開口部の内径よりも小とされ、中央部がホルダー31に内接するように形成されている。これにより、ホルダー31に上下駆動棒32を挿入した際に、上下駆動棒32の先端がホルダー31上面の開口部から突出するようにされる。
【0032】
上下駆動棒32の中心には、孔が形成され、温度検出素子としての熱電対35が挿入される。熱電対35は、異なる2つの金属導体の両端部を接続し、それぞれの端部に温度差を与えることにより熱起電力を発生するものである。この熱起電力を測定することにより、熱起電力に応じた温度を検出することができる。熱電対35としては、例えば銅およびコンスタンタンを材料としたT熱電対を用いることができる。熱電対35の両端に温度差に応じて電圧が発生し、この電圧が信号増幅器41に供給される。
【0033】
上下駆動棒32の先端には、銅板36が設けられている。この銅板36と熱電対35とをハンダ付け等により接着する。これは、熱電対35によって測定する熱を正確に検出するためである。
【0034】
このように構成された温度検出部5では、ホルダー31内のコイルスプリング33の弾性力と、上方向からの力とにより、上下駆動棒32が上下に動作する。すなわち、測定機構4および温度検出部5を恒温体3に固定することで、上下駆動棒32に対して測定機構4の試料容器11による上方向からの力と、コイルスプリング33の弾性による下方向からの力とが加えられる。そのため、試料容器11の底面と上下駆動棒32の先端が密着し、試料容器11内の試料の温度を正確に測定することができる。なお、銅板36の表面にシリコングリス等の熱伝導性材料を塗布すると、熱伝導性が向上してより好ましい。
【0035】
上述した測定機構4aおよび4b、ならびに温度検出部5aおよび5bが恒温体3に固定され、筐体2に収納される。そして、この筐体2を空気恒温槽に格納し、反応速度測定装置1の周囲の温度を所定の温度に保持する。このとき、測定機構4aおよび4bの回転軸13の他方の先端が筐体2の上面側から突出される。
【0036】
測定機構4aおよび4bにおける回転軸13の他方の先端には、例えばベルトやチェーン等を介して図示しない共通のモータが接続される。モータが駆動した場合には、モータの駆動力がベルトやチェーンを介して回転軸13に伝達され、2つの回転軸13が同一の回転数で同時に回転する。そして、それぞれの試料容器11内の試料が撹拌される。回転数は、0〜114[rpm]の範囲内で予め設定することができる。
【0037】
温度検出回路の一例の構成について説明する。温度検出回路は、図5に示すように、2つの温度検出部5aおよび5bに設けられた熱電対35、信号増幅器41およびデータ処理部42で構成されている。2つの温度検出部5における温度差を検出するため、それぞれの温度検出部5に熱電対35が接続される。例えば、熱電対35としてT熱電対を用いた場合には、コンスタンタンを材料とした金属導体同士が接続され、銅を材料とした金属導体の一端部が信号増幅器41の入力端に接続される
【0038】
。接点Aは、試料側の温度検出部5aにおける上下駆動棒32の先端と試料容器11とが接触する接点を示し、接点Bは、基準側の温度検出部5bにおける上下駆動棒の先端と試料容器とが接触する接点を示す。接点Aおよび接点Bの間に温度差が生じると、熱電対35に電圧が発生し、電圧が信号増幅器41に供給される。
【0039】
信号増幅器41は、基準側の熱電対35を基準として入力された電圧を増幅し、データ処理部42に供給する。データ処理部42は、供給された電圧値から温度差を算出する。温度差の算出方法としては、例えば、データ処理部42に図示しない記憶部を設け、この記憶部に電圧値と温度差との対応関係を示すテーブルを予め記憶しておく。そして、供給された電圧値に基づきテーブルを参照することにより、温度差を算出することができる。また、データ処理部42には、例えばモニタやプリンタ等の図示しない出力装置が接続され、検出結果を出力する。
【0040】
この発明の実施の一形態による反応速度測定装置1の測定手順について説明する。試料側の測定機構4aが恒温体3に固定されていない状態で、測定機構4aに設けられた試料容器11に、測定対象となる試料例えばセメントが入れられる。また、測定機構4bに設けられた試料容器に、基準となる試料(予め反応が終了した試料や、混合させても反応しない試料、具体的には、例えば反応が終了したセメントやセラミックス粉等)が入れられる。試料容器11が蓋12に固定される。
【0041】
測定機構4aおよび4bの上側可動プレート18を押し下げる。これにより、パッキング部17の先端に設けられたOリング17aが試料収納筒14の底面の開口部を塞ぐようにされる。試料収納筒14の蓋が開けられ、注射器、スポイト等によって試料と混合するための水などの液体が試料収納筒14に所定量だけ注入される。4本の試料収納筒14に対して均等に液体を注入する。例えば体積がRの液体を使用する場合、R/4ずつ液体が各試料収納筒に対して注入される。このようにすると、Oリング17aが上方に引っ張られて中の水等の液体を試料のセメントと混合する場合に、ムラなく液体を混合させることができる。
【0042】
次に、回転軸13の突起13aの位置と下側可動プレート19の溝26の位置とを合わせた状態で、下側可動プレート19を押し込む。その後、回転軸13を90°程度回転させ、回転軸13の突起の位置と下側可動プレート19の溝26の位置とをずらし、下側可動プレート19を固定する。測定機構4aおよび4bを恒温体3に固定する。これにより、試料容器11と温度検出部5aおよび5bとが接触する。
【0043】
このようにして準備された反応速度測定装置1を空気恒温槽に格納する。そして、周囲の温度を所定の温度に保持した状態で、反応速度測定装置1に予め設けられたスイッチをONすることによりモータが駆動し、試料側の測定機構4aおよび基準側の測定機構4bそれぞれの回転軸13が同時に回転する。
【0044】
回転軸13の回転により、回転軸13の突起の位置と溝26の位置とが一致すると、固定されていた下側可動プレート19が支柱15のコイルスプリングの弾性力によって上方向に押し上げられて上側可動プレート18に接触し、上側可動プレート18が上方向に押し上げられる。これにより、上側可動プレート18に固定されているパッキング部17が押し上げられ、試料収納筒14の底面の開口部が開放され、試料収納筒14内の液体が試料容器11に注入される。そして、試料収納筒14内において、試料と注入された液体とが混合され、回転軸13の先端に設けられた撹拌子16によって撹拌される。
【0045】
ここで、試料側の試料容器11内では、撹拌による撹拌熱と、測定対象となる試料と液体とが混合されることによる反応熱とが発生する。一方、基準側の試料容器11内には、反応が終了した試料や反応が起こらない試料が投入されているため、撹拌熱が発生するが、反応熱は発生しない。したがって、試料側の試料容器11内で発生する熱量と、基準側の試料容器内で発生する熱量とが異なるため、試料側の試料容器11内の温度と基準側の試料容器内の温度との間で温度差が生じる。
【0046】
試料側の温度検出部5aで検出される温度と、基準側の温度検出部5bで検出される温度との間に温度差が生じることにより、温度差に応じた電圧が熱電対35に発生する。この電圧は、温度検出回路における信号増幅器41によって増幅され、データ処理部42によって電圧値に基づく温度差が算出される。
【0047】
算出された温度差は、試料側と基準側とで共通に存在する撹拌熱などの反応熱以外の要因による温度変化分が相殺されたものである。したがって、試料側および基準側の温度差を算出することにより、基準側の温度を基準とした、試料側での反応熱のみによる温度変化量を算出することができる。
【0048】
測定結果は、例えば、反応速度測定装置1の周囲の温度を基準値として、算出された温度差に応じて測定対象となる試料の反応熱による温度変化が出力される。図6は、空気恒温槽内の温度を20℃に保持し、測定対象となる試料としてのセメントに水を混合した場合の測定結果の一例を示す。セメントに水を混合した場合には、混合直後から反応熱が発生し、周囲の温度である20℃から反応によって試料の温度が上昇する。
【0049】
図6に示す温度は、撹拌熱などの反応熱以外の要因による温度変化分を除いた、反応熱のみによる試料の温度である。これは、上述もしたように、試料側と基準側との温度差を算出することにより、反応熱以外の要因による温度変化分が相殺されるためである。したがって、この反応熱による温度変化の測定結果に基づき、反応速度を測定することができる。
【0050】
反応速度は、所定時間(数秒〜10分間)における温度上昇の度合いに応じて測定することができる。例えば、温度上昇の度合いが高く、立ち上がりが急峻である場合には、反応速度が速いとされる。また、温度上昇の度合いが低く、立ち上がりが緩やかである場合には、反応速度が遅いとされる。
【0051】
このように、この発明の実施の一形態では、試料と液体とを混合した直後から試料の温度を測定することができるため、混合直後に反応が開始される場合でも、反応速度を測定することができるとともに、速い反応速度を測定することができる。
【0052】
また、試料側および基準側の温度差を、試料容器の外部に設けられた温度測定部により検出するようにしているため、測定終了後に硬化してしまう試料を含む全ての試料についての温度差を検出することができる。
【0053】
さらに、試料側および基準側の2つの測定機構を用いて温度差を検出することにより、複数の物質を混合した際に発生する反応熱以外の要因による温度変化分を相殺することができるため、測定精度を向上させることができる。
【0054】
以上、この発明の実施の一形態について説明したが、この発明は、上述したこの発明の実施の一形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。例えば、恒温体3の形状は、円柱状に限られず、角形状でもよい。また、撹拌子16の形状は、くし形に限られず、例えば試料容器11に対して上面側から差し込むような形状であれば、どのような形状でもよい。
【0055】
この発明は、セメントと水のように、固体および液体を混合した場合の相互作用エネルギーの速度解析以外に、液体同士を混合した場合の速度解析に対しても適用できる。例えばアルコールと水を混合した場合の反応速度の解析に適用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 反応速度測定装置
2 筐体
3 恒温体
4,4a,4b 測定機構
5,5a,5b 温度検出部
11 試料容器
12 蓋
13 回転軸
14 試料収納筒
15 支柱
16 撹拌子
17 パッキング部
18 支持プレート
19 上下プレート
26 溝
31 ホルダー
32 上下駆動棒
33 コイルスプリング
34 カバー
35 熱電対
36 銅板
41 信号増幅器
42 データ処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
恒温体に対して第1および第2の試験機器が挿入され、
第1の試験機器は、
第1の試料が入れられる第1の容器と、
第2の試料が入れられる第2の容器と、
測定開始時に、上記第2の試料を上記第1の容器内に入れる第1の混合開始制御部と、
上記第1の容器内を攪拌する第1の攪拌部と、
上記第1の容器の外面に接触される第1の熱測定素子とを備え、
第2の試験機器は、
上記第1の試料に相当する第1の材料が入れられる第3の容器と、
上記第2の試料に相当し、上記第1の材料との間で反応エネルギーを生じない第2の材料が入れられる第4の容器と、
測定開始時に、上記第2の材料を上記第3の容器内に入れる第2の混合開始制御部と、
上記第3の容器内を攪拌する第2の攪拌部と、
上記第3の容器の外面に接触される第2の熱測定素子とを備え、
上記第1および第2の熱測定素子の出力の差成分によって、上記第1の試料に上記第2の試料を混合したときに発生する相互作用エネルギーの速度解析を行う反応速度測定装置。
【請求項2】
上記第1の試料がセメントであり、上記第2の試料が水である請求項1記載の反応速度測定装置。
【請求項3】
上記第2の容器および上記第4の容器のそれぞれは、
両端が開放された複数の円筒と、上記円筒のそれぞれの一端を閉じるパッキング部と、上記パッキング部を昇降させる上下棒と、上記上下棒が取り付けられた可動板とからなり、
上記可動板を上昇させることによって、上記複数の円筒の上記パッキング部を同時に動かして上記複数の円筒内の上記第2の試料および上記第2の材料を上記第1の容器および上記第3の容器に対して入れるようにする請求項1記載の反応速度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−276366(P2010−276366A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126562(P2009−126562)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(597133569)株式会社東京理工 (3)
【Fターム(参考)】