説明

反芻動物のための獣医用抗プロラクチン組成物

本発明は、反芻動物に投与される抗プロラクチン獣医用組成物に関する。該組成物は、ドーパミン受容体のアゴニストであり、反芻動物の泌乳の実質的減少や乳腺退縮を促進するのに、および乳房疾患または感染を治療および/または予防するのに、特に有用である少なくとも1つの抗プロラクチン化合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反芻動物に投与される抗プロラクチン獣医用組成物に関する。この組成物は、ドーパミン受容体の少なくとも1つの抗プロラクチンアゴニストを含み、好都合な乳房退縮、乳房組織の再生および泌乳減少に特に有用である。また、本発明組成物は、反芻動物の妊娠において、有害あるいは流産を起こさせる作用を与えないので、妊娠期間中に投与することができる。
【背景技術】
【0002】
反芻動物において、泌乳は一般に、5〜20ヶ月持続し、乳牛では、約10ヶ月持続する。この泌乳期間の後は、通常、搾乳を停止し、次の泌乳の開始点である分娩まで伝統的に約60日間続く期間(乾乳期間として知られる)中、乳牛を休養させる。酪農業において、この乾乳期が、反芻動物の健康および福祉を実質的に改善することがわかっている。この種の乳房に提供される生理的休養は、乳腺の再生および次の泌乳の準備にとって必要である。それは、重大な経済的影響をもつ乳房内の炎症および感染の出現などの搾乳および分娩中に引き起こされる健康関連のトラブルの出現も制限する。
【0003】
抗プロラクチン化合物は、高プロラクチン血症、下垂体腺腫、パーキンソン病を治療するため、あるいは、健康上の理由から授乳することができない特定の女性において泌乳の停止を誘発するために、ヒト用医薬において処方される。このような医薬は、乳分泌を活性化させる主なホルモンとしての下垂体プロラクチンのインヒビターを含む。それは、胎児に与える悪影響により、妊娠中の使用がはっきりと禁じられている、パーロデル(登録商標)(ブロモクリプチン、ノバルティス)、ドスティネックス(登録商標)またはカバサール(登録商標)(カルベゴリン、ファイザー)などの医薬に関係する。搾乳を停止するために処方する際には、24時間以内に乳が出るのを停止するために、分娩の直後に投与することが推奨される。
【0004】
獣医用医薬においては、組成物は、Galastop(登録商標)(カベルゴリン、セヴァ・サンテ・アニマル)などのプロラクチンインヒビターに基づき、雌のネコおよびイヌにおける偽妊娠の泌乳に対する治療として、さらに投与することができる。それらは、早期離乳または妊娠中絶の後に、あるいは出産または分娩後の母牛からの新生仔牛の即時引き離し中にも処方される。ヒト患者などの動物において、プロラクチン分泌インヒビターは、常に、毒性、奇形胎児のリスクおよび自然流産のリスクにより、妊娠後に処方されている。
【0005】
反芻動物において、プロラクチンは、乳腺の成熟および離乳後の泌乳の開始にとって重要な役割を演じるが、確立された泌乳中の乳汁産生に影響を及ぼさないことが確立されている(Karg H. & Shams D.、J. Reprod Fertil.、1974 Aug; 39(2); 463-72 − Shamsら、Experentia、1972; (28):697-699 − Akersら、Endocrinology、1981; (109):23-30 − Plant K.ら、Domest Anim Endocrinol、1987; (4); 279-290 − Knight、Livestock Production Science、2001、(70); 87-93 - Dalhら、J; Anim. Sci.、2003; (81)、supl3; 11-17)。
【0006】
プロラクチンの減少が、乳牛および山羊などの主な乳畜において確立された泌乳中の乳汁産生において、非常に弱い影響しか及ぼさないか、または影響を及ぼさないことを示している多くの刊行物に反して、出願人は、驚いたことに、ドーパミン受容体の抗プロラクチン化合物アゴニストの単回投与が、泌乳の実質的減少をもたらし、乳房退縮からなる乾乳の初期段階の効率的誘導を可能にすることを見出した。
【0007】
同様に、そして、予期に反して、出願人は、有害あるいは流産を起こさせる作用を引き起こすことなく、妊娠中の泌乳減少を誘発するため、乳房退縮および組織の乾乳状態を促進するために、ドーパミン受容体のアゴニストである抗プロラクチン化合物を含む獣医用組成物を反芻動物に投与することができることを見出した。
【0008】
反芻動物へのこれらの獣医用組成物の投与は、泌乳の著しい減少および乳房退縮をもたらし、このことが、妊娠期間中でさえ、泌乳状態の停止の改善をもたらすので、それ自体が、特に有利であることを明らかにしている。また、該獣医用組成物は、乳房の健康の著しい改善、乳房の損傷を受けた分泌組織のより良い再生、ならびに続いての泌乳中の反芻動物の乳房疾患および/または感染および乳房炎などの頻度の減少を確実にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明の概要
本発明は、反芻動物に投与される、ドーパミン受容体の少なくとも1つの抗プロラクチン化合物アゴニストを含む獣医用組成物に関する。本発明の獣医用組成物の抗プロラクチン化合物は、エルゴリン由来のドーパミン受容体アゴニストまたは非エルゴリン由来のドーパミン受容体アゴニストから選ばれる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、これらの組成物は、泌乳減少を誘発するために、治療有効量で、特に単回処置として、投与される。また、これらの組成物は、妊娠における有害または流産を起こさせる作用を引き起こすことなく、妊娠している反芻動物へも投与されうる。それらは、反芻動物の重要な福祉を提供し、反芻動物の乳房退縮、反芻動物の乳房内の炎症および感染の治療および/または予防において特に有用である。本発明はさらに、反芻動物において乳房退縮を誘発する方法ならびに乳房炎などの反芻動物の乳房の感染を予防および/または治療する方法に関する。本発明は最後に、反芻動物における乳房退縮の促進および乳汁産生の減少のため、ならびに反芻動物における乳房炎の治療および/または予防のためのキットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】プラセボグループおよび処置動物グループ(C646)における、第0日(D0)に5mcg/kgのカベルゴリンの単回注射を行った、7日前(D-7)〜7日後(D7)の朝および夕方の乳汁産生のパーセンテージの変化(ベースラインを100として比較)を示すグラフである。
【図2】プラセボグループおよび処置動物グループ(C646)における、ベースラインを100として比較した、第0日(D0)に5mcg/kgのカベルゴリンの単回注射を行う前の期間I(D-2およびD-1)および注射を行った後の期間II(D0〜D7)において24時間毎に観察したプロラクチン率のパーセンテージにおける変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な記載
本発明は、最初の搾乳および次の搾乳の時点で、治療される動物において泌乳減少を誘発するために、単回投与される、ドーパミン受容体の少なくとも1つの抗プロラクチン化合物アゴニストを含む獣医用組成物に関する。本発明は、泌乳の実質的減少を誘発するために、単回投与において、十分な治療量で投与される獣医用組成物の使用に関する。
【0013】
プロラクチンは、乳腺刺激および催乳効果を有する下垂体ホルモンであり、そのことは、該ホルモンが、乳腺の成長および乳汁分泌を活性化させることを意味する。プロラクチンの放出は、プロラクトリベリンによって刺激され、ドーパミンによって阻害される。下垂体におけるドーパミンの阻害作用は、特にD2受容体などのドーパミンのシナプス後受容体によって媒介される。
【0014】
化合物は、それらがプロラクチンの放出を阻害するので、抗プロラクチンとして知られている。それは、ドーパミン作動性化合物またはセロトニン作動性化合物に関係する。ドーパミン作動性化合物は、プロラクチン分泌を阻害するための、下垂体前葉上の特にプロラクチン分泌細胞に存在するドーパミン受容体に結合するドーパミン受容体のアゴニストである。
【0015】
抗プロラクチンドーパミン作動性化合物が、ドーパミン受容体に結合するのが好ましい。これらの化合物が、ドーパミンD2受容体に結合するのが最も好ましい。これらの抗プロラクチン抗セロトニン作動性化合物は、視床下部におけるドーパミン放出を刺激することによって作用して、プロラクチン分泌の阻害をもたらす。本発明の獣医用組成物が、プロラクチンドーパミン作動性化合物を含むのが好ましい。
【0016】
これらの抗プロラクチン化合物は、エルゴリン由来のドーパミン受容体アゴニストおよび/またはその誘導体から選ぶことができる。これらのエルゴリン誘導体は、公知であり、次の一般構造を有する:
【化1】

エルゴリン由来の抗プロラクチンアゴニストの例は、カベルゴリン、メテルゴリン、リスリド、ブロモクリプチン、エルゴメトリンならびに抗プロラクチン活性を共有する化合物のすべての誘導体である。
【0017】
化学名が、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-N-[(エチルアミノ)カルボニル]-6-(2-プロペニル)-8g-エルゴリン-8-カルボキサミドであるカベルゴリンは、ドーパミンD2受容体に特異的な抗プロラクチンアゴニストである。特に、カベルゴリンは、米国特許第4,526,892号に記載されている。
その化学構造は、次の通りである:
【化2】

カベルゴリンは、ドスティネックス(登録商標)およびカバサール(登録商標)などの名称で市販されているヒト用薬物の有効成分を構成する。また、カベルゴリンは、偽妊娠中の泌乳になりやすい雌イヌ用のGalastop(登録商標)の名称で市販されている獣医用組成物の基本的有効成分である。ドスティネックス(登録商標)にしても、Galastop(登録商標)にしても、カベルゴリンベースで構成されるこれらの組成物は、妊娠中に決して投与されない。
【0018】
メテルゴリンは、l ((6aR,9S,10aR)-4,7-ジメチル-4,6,6a,7,8,9,10,10a-オクタヒドロインドロ-[4,3-fg]キノリン-9-イル)メチルカルバミン酸ベンジルの化学名で知られる合成化合物である。この化合物は、ドーパミン受容体ならびにセロトニン5HT受容体に結合して、ドーパミンの放出およびプロラクチン分泌の阻害を活性化する抗プロラクチン化合物である。メテルゴリンは、次の化学構造を有する:
【化3】

1,1-ジエチル-3-((6aR,9S)-7-メチル-4,6,6a,7,8,9-ヘキサヒドロインドロ[4,3-fg]キノリン-9-yl)ウレアの化学名でも知られるリスリドは、次の化学式を有する:
【化4】

これは、プロラクチンのドーパミン作動性インヒビターであるアゴニスト化合物である。ヒト患者における無月経および高プロラクチン血症の治療用としてArolac(登録商標)の名称で市販されている。
【0019】
ブロモクリプチンは、ブロモ-2 エルゴクリプチンの名称およびエルゴタマン-3', 6', 18-trione, 2-ブロモ-12'-ヒドロキシ-2'-(1-メチルエチル)-5'α-(2 -メチルプロピル)の化学名で知られている。その化学式は、次の通りである:
【化5】

特に、脳下垂体および高プロラクチン血症の腫瘍の治療に、あるいは分娩後の泌乳を抑制するために婦人科において用いられるパーロデル(登録商標)およびBromo-Kin(登録商標)などの組成物は、治療有効量の、エルゴリン由来のドーパミン作動性アゴニストであるブロモクリプチンを含む。
【0020】
d-リセルグ酸β-プロパノールアミドの名称でも知られるエルゴメトリンまたはエルゴノビンは、抗プロラクチンドーパミン作動性アゴニストとして獣医用組成物に組み込むこともできる。その化学式は、次の通りである:
【化6】

ドーパミン受容体のアゴニストである他の抗プロラクチン化合物を本発明組成物に用いることができ、特に妊娠期間中の反芻動物に投与することができる。これらは、非エルゴリン由来のドーパミン受容体アゴニストである抗プロラクチン化合物から選ぶことができる。このような化合物の例は、ロピニロール、プラミペキソールおよびキナゴリドならびに抗プロラクチン活性を有するその誘導体である。
【0021】
化学名が4-(2-ジプロピルアミノエチル)-1,3-ジヒドロインドール-2-オンであるロピニロールは、ドーパミンD2およびD3受容体のアゴニストとして作用する。その化学式は、次の通りである:
【化7】

ロピニロールは、パーキンソン病の治療のためのヒト用医薬として処方されるレキップ(登録商標)およびRopark(登録商標)などの製品の組成物において見出される。
【0022】
プラミペキソールは、特に、ドーパミンD2およびD3受容体に結合するもう1つのドーパミン作動性アゴニストである。その化学名は、(6S)-N6-プロピル-4,5,6,7-テトラヒドロ-1,3-ベンゾチアゾール-2,6-ジアミンであり、その式は、次の通りである:
【化8】

プラミペキソールは、パーキンソン病およびむずむず脚症候群の治療のためにミラペックス(登録商標)、ミラペキシン(登録商標)またはシフロール(登録商標)の名称で市販されているので、製剤業界において周知である。
【0023】
ロチゴチンは、6-(プロピル-(2-チオフェン-2-イルエチル)アミノ)テトラリンn-1-オールの化学名で同様に知られている。その化学式は、次の通りである:
【化9】

ロチゴチンは、最近、名称ニュープロ(登録商標)のパッチ剤の形状での経皮投与によるパーキンソン病の治療に承認された。
【0024】
キナゴリドまたは(3R,4aR,10aS)-3-(ジエチルスルファモイルアミノ)-6-ヒドロキシ-1-プロピル-3,4,4a,5,10,10a-ヘキサヒドロ-2H-ベンゾ[g]キノリンもまた、プロラクチン分泌のインヒビターである。これは、ドーパミンD2受容体の特異的アゴニストである。その化学式は、次の通りである:
【化10】

キナゴリドは、マクロプロラクチノーマまたは高プロラクチン血症の治療用のNorprolac(登録商標)(Ferring Pharmaceuticals)の商品名で市販されている。
これらの一連の化合物は、以前から、妊娠していない対象に投与されている。
【0025】
しかしながら、出願人は、驚いたことに、治療有効量のこれらの化合物の反芻動物への単回投与が、実際に、泌乳の著しい減少をもたらし、乳房退縮を促進し、泌乳減少を改善することを見出した。これまで知られていたことに反して、出願人は、これらの化合物は、特に有害または流産を起こさせる作用を引き起こすことなく反芻動物の妊娠期間中の乳汁産生の効果的停止を可能にするので、特に有利であることを明らかにした。最後に、本発明組成物は、処置される反芻動物における乳房炎のリスクを著しく減少させた。
【0026】
後記実施例において実証されるように、乳房退縮および泌乳減少を促進するために、妊娠中でも、分娩後でも、単回用量を非ヒト動物に投与することができる。量または治療有効用量は、処置される反芻動物および組成物の投与様式に応じて変わる。これらの用量は、当業者が容易に用いることができる、後記の実施例に基づく系統的な試験によって容易に決定することができる。本発明の治療有効用量の例は、5〜50mcg/kg、または5〜25 mcg/kgを含む。
【0027】
本発明によれば、組成物の投与後に、1日間、2日間、3日間、4日間、5日間または6日間および〜7日間などの期間にわたって、5〜60%、20〜50%または25〜35%などの泌乳の実質的減少が得られるように、組成物が、処置および動物毎に単回用量で投与されるのが好ましい。実施例2において実証されるように、泌乳減少は、最初の搾乳の時点で著しいが、続いての搾乳中にも著しい。
【0028】
妊娠中、より正確には、後の方の3分の2の期間中の反芻動物に、有害あるいは流産を起こさせる作用を引き起こすことなく、本発明組成物を投与することができる。例として、乳牛の妊娠期間中、3ヶ月以上から獣医用組成物を投与することができる。妊娠3ヶ月〜8ヶ月の間に、妊娠中の反芻動物に投与するのが好ましい。
【0029】
本発明によれば、反芻動物は、ウシ、ヒツジ、ヤギまたはラクダなどの草食動物を意味することを意図している。乳牛および乳羊などの乳汁産生乳房反芻動物に本発明組成物を投与するのが好ましい。
【0030】
本発明によれば、妊娠期間中または妊娠期間外に、本発明組成物を投与することができる。該組成物は、特に、分泌組織が崩壊し、退化する、泌乳停止、乳房退縮の初期から、泌乳減少を促進し、乾期中の乳房に影響を及ぼすホルモン、生理または形態の連続的変化に影響を与える。驚くべきことに、反芻動物の妊娠期間中に投与しても、有害または毒性効果、胎児の奇形もしくは流産を起こさせる作用がないことが報告された。
【0031】
当業界で周知であり、これらの各動物の治療に適合する多くの投与方法で、本発明獣医用組成物を投与することができる。皮膚、経口または非経口で、本発明組成物を投与するのが好ましい。非経口で本発明組成物を投与するのがより好ましく、筋肉内または皮下注射が特に好ましい。本発明組成物は、選択された投与方法に適する形態である。したがって、本発明組成物は、溶液剤または経口もしくは注射用懸濁液剤の形態、または固体もしくは半固体の形態、粉末剤、カプセル剤、顆粒剤、糖衣錠、軟カプセル剤、スプレー剤、カプレット、ピル剤、錠剤またはペースト剤の形態でありうる。
単回注射用用量で、獣医用組成物を投与するのが有利である。
【0032】
剤形および薬物に応じて、獣医用組成物は、経口または非経口で投与される液体または固体製剤の製造のための医薬的な従来成分をさらに含むことができる。さらに、経口製剤の場合、反芻動物に直接投与するか、または食物に混ぜて投与することができる。
【0033】
さらに、本発明組成物は、製剤の型に応じて、溶媒、フロー剤、滑沢剤およびラクトースもしくはデンプンなどのいずれかの適当な賦形剤を含んでもよい。滑沢剤として、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、L-ロイシンまたはグリセリルトリベヘネートなどを用いることができる。崩壊剤として、カルボキシメチルデンプンナトリウムまたは網状カルボキシメチルデンプンナトリウムを用いることができる。フロー剤として、純ケイ素またはコロイド状二酸化ケイ素を用いることができる。
【0034】
治療量の少なくとも1つの前述の抗プロラクチン化合物を、溶媒、pH調整剤、緩衝剤、懸濁剤、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤および/または保存剤と混合し、次いで、混合物を従来の方法で皮膚または筋肉内注射用に加工することによって、注射用製剤を製造することができる。溶媒の例は、C8-C10中鎖トリグリセリド、ミグリオール(登録商標)812などの名称で市販されているカプリン酸,カプリル酸およびトリグリセリドの混合物などの油性溶媒である。従来の方法にしたがって、注射用製剤を凍結乾燥することもできる。
【0035】
懸濁剤の例として、メチルセルロース、ポリソルベート80、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリエチレンソルビタンモノラウレートが挙げられる。溶解補助剤の例として、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート80、ニコチンアミド、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、マクロゴールおよびエチルエステル脂肪リシン酸が挙げられる。また、安定化剤として、硫酸ナトリウム、メタ硫酸ナトリウムおよびエステルが挙げられ、保存剤として、p-ヒドロキシ安息香酸メチル、p-ヒドロキシ安息香酸エチル、ソルビン酸、ベンジルアルコール、フェノール、クレゾールおよびクロロクレゾールが挙げられる。等張化剤の1つの例は、マンニトールである。溶液剤および注射用懸濁液剤の製造中、それらが血液と等張であることを確実にする方がよい。
【0036】
反芻動物の乳房炎の標準的治療と併せて、本発明の獣医用組成物を投与するのが有利である。乳房炎の標準的治療または予防用組成物の例は、乳房用局所殺菌剤、ペニシリンM、セファロスポリン、ゲンタマイシンもしくはコリスチンなどの抗生物質またはリゾチームもしくはムラミダーゼなどの酵素である。
【0037】
本発明はさらに、を改善するため、反芻動物の福祉および健康を改善するための、乳汁産生期間の減少を促進するため、乳房退縮を促進するため、および乳房内の炎症および感染を治療および/または予防するために、妊娠期間中または期間外に反芻動物に投与される獣医用組成物の製造のための、上述したドーパミン受容体のアゴニストとして作用する治療有効量の少なくとも1つの抗プロラクチン化合物の使用に関する。妊娠の維持に適した治療用量で妊娠期間中にこれらの獣医用組成物を投与する場合、有害または流産を起こさせる作用を引き起こすことはない。
【0038】
本発明はさらに、反芻動物への皮膚、経口または非経口投与によって、治療有効量で、上述した獣医用組成物を投与することを含む、乳汁産生の減少方法ならびに乳房炎の治療および/または予防方法に関する。本発明方法は、有害および流産を起こさせる作用を引き起こすことなく、妊娠中でも、反芻動物の乳房退縮および泌乳減少を促進するので、特に有利である。
【0039】
さらに本発明は、反芻動物の福祉および健康を改善するため、ならびに乳房退縮を促進するため、乳房内疾患および/または感染、特に乳房炎を治療および/または予防するために、反芻動物の乳汁産生の減少を促進するのに有用なキットに関する。本発明のキットは、反芻動物に投与するための治療有効量の少なくとも1つの上述した抗プロラクチン化合物であるドーパミン受容体のアゴニストを含む、最終的に滅菌状態となるための少なくとも1つの区画からなる。該キットは、皮膚、経口または非経口で本発明の獣医用組成物を投与する手段、ならびに該組成物の投与方法に関する指示書を含む。
【実施例1】
【0040】
カベルゴリンを主成分とする獣医用組成物の製造
500 μg/mlのカベルゴリンを含有する注射剤9リットルの製造
処方:
有効成分:カベルゴリン 4.53 g(滴定 100 %)
賦形剤:中鎖トリグリセリド 適量 9 L.
【0041】
ステップ1:
適切な容量の容器に4.53 gのカベルゴリンおよび1.5 kgの中鎖トリグリセリドを計り入れた、次いで、完全に溶解させるために、少なくとも60分間、磁気振とう機(500回転/分)で混合物を振とうした。
【0042】
ステップ2:
乾燥した容器に5 kgの中鎖トリグリセリドを計り入れた。窒素流および混合機を設定し、次いで、ステップ1で得られた濃溶液のカベルゴリンを容器に加えた。30分間振とうを継続し、次いで、中鎖トリグリセリドを加えることによって体積を最終体積である9リットルにした。さらに30分間振とうを継続し、次いで、0.45ミクロンの調整カートリッジを通して加圧窒素下で溶液を濾過した。蒸気によって予め殺菌した適当なフラスコに濾液を集め、窒素流で乾燥した。得られた溶液を121℃にて15分間滅菌し、次いで、滅菌、無発熱物質のフラスコに入れ、ゴム栓およびアルミニウムカプセルで閉め、洗浄し、オートクレーブを通した。
【実施例2】
【0043】
反芻動物におけるカベルゴリンを主成分とする獣医用組成物の効率の臨床試験
この試験は、6ヶ月間の泌乳における、プリムホルスタイン種の2回以上経産した8頭の乳牛の乳汁産生の減少を評価することを目的とした。これらの乳牛の年齢は、3〜9歳であり、試験開始時における乳汁の産生レベルは、20〜31kg/日である。試験は、クロスオーバーデザイン(2処置×2期間)にしたがって準備した。
製剤は、実施例1に記載したものであり、本試験に用いる注射剤に500 μg/mlのカベルゴリンを含有する。
【0044】
処置試験(C646):
カベルゴリン500 μg/mlの注射剤;体重100 kg当たり1 mlに相当する、5 μg/kgの用量の筋肉内注射1回。
【0045】
処置コントロール(プラセボ):
注射剤の製造用水、体重100 kg当たり約1 mlの処置試験における用量と同じ量を筋肉内1回注射。
【0046】
2つの処置の間の3週間の休薬期間を設け、処置の順序は、無作為に選択した(A-BまたはB-A)。処置前の7日間および処置後の7日間において、各搾乳時の個体の乳汁産生を観察した。プロラクチン血漿濃度の変化をモニターするために、血液サンプルを毎日採取した。
【0047】
図1に示す結果から、5 μg/kgの用量の処置試験薬の注射が、乳汁産生の減少を引き起こしたことがわかる。
処置試験薬の注射後の最初の搾乳(12時間後)から、乳汁産生の減少は、約27%であり、個体によっては42%を達成することができた。
処置試験後の7日間の観察期間中、乳汁産生の総減少は、約15 %であり、個体によっては27%を達成することができた。
【0048】
乳牛の集団における結果を一般化すると、最初の搾乳から個体によって5〜60%の乳汁産生の減少が測定された。処置試験薬の注射後の乳汁産生の減少は、次の搾乳において約25から35%である。この減少は、約2日間維持された。次いで、しかしながら、1週間後にその初期レベルを取り戻すことがないとはいえ、乳汁産生の進行的回復が観察された。
【0049】
同時に、図2に示すように、プロラクチン血漿濃度は減少した。プロラクチン血漿濃度の減少は、注射後24時間の時点で非常に急速であり、処置後1週間でまだ存在した。このプロラクチン減少は、動物によって10〜80%の間で変化する。カベルゴリンの単回投与は、乳汁産生の有意な減少と血漿プロラクチンの減少との間の相関関係を実証した。
【実施例3】
【0050】
反芻動物におけるカベルゴリンを主成分とする獣医用組成物の安全性の臨床試験
この試験は、本発明で処方される投薬計画によってカベルゴリンを主成分とする獣医用組成物を過剰投与した場合でさえも、妊娠している反芻動物におけるカベルゴリンの使用中に、流産および胎児毒性などのリスクがないことを示すことを目的とした。異なる妊娠段階にある乳牛のグループに異なる用量で処置薬を与える。
【0051】
妊娠3ヶ月(6頭):15 μg/kgの用量、48時間間隔で2回注射;
妊娠7〜8ヶ月(5頭):15 μg/kgの用量、48時間間隔で2回注射;
妊娠6.5〜7.5ヶ月(11頭):25 μg/kgの用量、48時間間隔で2回注射。
製剤は、実施例1に記載したものであり、本試験に用いる注射剤に500 μg/mlのカベルゴリンを含有する。
【0052】
処置前7日間から処置後15日間の期間中、定期的臨床検査を行った。
毎日の全般検査および流産;
苦痛および胎児生存能力を評価するための経直腸触診および超音波などの生殖管の臨床検査。
【0053】
プロゲステロン、硫酸エストロンおよびPAG(妊娠関連糖タンパク質)などの胎盤および胎児の健康を示す異なるホルモンおよびタンパク質の血漿濃度を追跡するために、処置の1日前および処置の15日後に、血液サンプリングを行う。新生仔牛の健康を評価するために、誕生まで動物を追跡する。
【0054】
結果から、25 μg/kgの用量での48時間間隔の2回のカベルゴリン注射が、流産を引き起こさないこと、妊娠あるいは新生仔牛の生存能力および健康に悪影響を及ぼさないことが示される。異なる用量の処置に関連する胎盤または胎児毒性を示すホルモンの変動がないことが観察された。
さらに、動物は一般に、この処置によく耐えた。結論として、25 μg/kgまでの用量にて48時間間隔でカベルゴリンを1回または2回投与することは、妊娠している乳牛にとって少なくとも危険ではない。
【実施例4】
【0055】
反芻動物におけるキナゴリドを主成分とする獣医用組成物の効率および流産に対する安全性の臨床試験
乳汁産生レベルが約18 kgの約7ヶ月間妊娠しているプリムホルスタイン種の2回以上経産した9頭の乳牛(約600 kg)を本試験に用いる。試験は、クロスオーバー(2処置×2期間)、休薬3週間として行う。
動物は、筋肉内注射製剤により、処置試験を受ける。
【0056】
処置試験:
キナゴリド0.5 mg/mlの注射剤;体重100 kg当たり1 mlに相当する、1〜3 mg/乳牛の用量の筋肉内注射1回。
処置コントロール(プラセボ):
注射剤の製造用水、体重100 kg当たり約1 mlの処置試験における用量と同じ量を筋肉内1回注射。
処置日の前後の7日間、各期間に対して、乳汁産生の追跡を行い、全試験期間を通して、実施例3と同様の流産の調査を行う。
【実施例5】
【0057】
反芻動物におけるブロモクリプチンを主成分とする獣医用組成物の効率および流産に対する安全性の臨床試験

乳汁産生レベルが約18 kgの約7ヶ月間妊娠しているプリムホルスタイン種の2回以上経産した9頭の乳牛(約600 kg)を本試験に用いる。試験は、クロスオーバー(2処置×2期間)、休薬3週間として行う。
動物は、筋肉内注射製剤により、処置試験を受ける。
【0058】
処置試験(ブロモクリプチン):
ブロモクリプチン10 mg/mlの注射剤;体重100〜50 kg当たり1 mlに相当する、100〜200 μg/kgの用量の筋肉内注射1回。
処置コントロール(プラセボ):
注射剤の製造用水、体重100 kg当たり約1 mlの処置試験における用量と同じ量を筋肉内1回注射。
処置日の前後の7日間、各期間に対して、乳汁産生の追跡を行い、全試験期間を通して、実施例3と同様の流産の調査を行う。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反芻動物の泌乳減少を誘発するため、および乳房退縮を促進するための、少なくとも1つのドーパミン受容体の抗プロラクチン化合物アゴニストを含む獣医用組成物。
【請求項2】
組成物が、5〜60%、20〜50%または25〜35%の泌乳減少を誘発するための治療有効量で投与される請求項1に記載の獣医用組成物。
【請求項3】
組成物が、妊娠している反芻動物において、有害または流産を起こしうる作用を引き起こすことなく治療有効量で投与される請求項1または2に記載の獣医用組成物。
【請求項4】
抗プロラクチン化合物が、エルゴリン由来のドーパミン受容体アゴニストおよび/またはその誘導体から選ばれる前記請求項のいずれか1つに記載の獣医用組成物。
【請求項5】
エルゴリン由来のドーパミン受容体アゴニストが、カベルゴリン、メテルゴリン、リスリド、ブロモクリプチン、エルゴメトリンおよび/またはその誘導体から選ばれる前記請求項のいずれか1つに記載の獣医用組成物。
【請求項6】
抗プロラクチン化合物が、非エルゴリン由来のドーパミン受容体アゴニストおよび/またはその誘導体から選ばれる請求項1〜3のいずれか1つに記載の獣医用組成物。
【請求項7】
非エルゴリン由来のドーパミン受容体アゴニストが、ロピニロール、プラミペキソール、ロチゴチン、キナゴリドおよび/またはその誘導体から選ばれる請求項6に記載の獣医用組成物。
【請求項8】
獣医用組成物が、非経口、皮膚または経口経路により投与される前記請求項のいずれか1つに記載の獣医用組成物。
【請求項9】
獣医用組成物が、注射により投与される前記請求項のいずれか1つに記載の獣医用組成物。
【請求項10】
組成物が、筋肉内注射または皮膚注射による単回投与として投与される請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
反芻動物の福祉を促進するための前記請求項のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項12】
反芻動物の疾患および/または感染の治療および/または予防用の前記請求項のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項13】
反芻動物が、ウシ、ヒツジ、ヤギまたはラクダから選ばれる草食動物である前記請求項のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項14】
反芻動物における泌乳減少を誘発するため、および乳房退縮を促進するための前記請求項のいずれか1つに記載の組成物の使用。
【請求項15】
獣医用組成物が、反芻動物当たり、および処置当たりの単回治療有効量で投与される請求項14に記載の使用。
【請求項16】
泌乳減少が、5〜60%、20〜50%または25〜35%である請求項14または15に記載の使用。
【請求項17】
泌乳減少が、該組成物の処置後7日間まで得られる請求項14〜16に記載の使用。
【請求項18】
泌乳減少が、処置後の最初の搾乳および次の搾乳中に起こる請求項14〜17に記載の使用。
【請求項19】
反芻動物の福祉を改善するための治療有効量の請求項1〜13のいずれか1つに記載の獣医用組成物を含む獣医用キット。
【請求項20】
獣医用組成物の運用方法および投与方法に関する指示書をさらに含む請求項19に記載のキット。
【請求項21】
反芻動物の泌乳減少を誘発するため、および乳房退縮を促進するための獣医用組成物の運用方法および投与方法に関する指示書をさらに含む請求項19および20のいずれか1つに記載のキット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2012−505178(P2012−505178A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530475(P2011−530475)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【国際出願番号】PCT/EP2009/063004
【国際公開番号】WO2010/040765
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(596079585)
【氏名又は名称原語表記】CEVA SANTE ANIMALE
【Fターム(参考)】