説明

反芻動物用のメタン生成抑制剤および飼料用組成物

【課題】 反芻動物の飼料効率を向上させ、亜硝酸中毒を予防するルーメンにおけるメタン生成抑制剤の提供。
【解決手段】 有効成分として微生物由来の亜硝酸還元酵素を含み、ルーメン中の亜硝酸還元活性を向上させることを特徴とする反芻動物用のメタン生成抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は反芻動物用のメタン生成抑制剤および飼料用組成物に関し、詳しくは有効成分として微生物由来の亜硝酸還元酵素を含むことを特徴とする反芻動物用メタン生成抑制剤並びに当該メタン生成抑制剤を含有することを特徴とする反芻動物用飼料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
反芻動物のルーメンからのメタン生成は、飼料のエネルギー利用効率の損失となるのみでなく、地球温暖化現象に寄与する温室効果ガスであり、メタン生成を減らすことは極めて重要である。
【0003】
ルーメン内では他種多様の微生物による発酵が行われており,種々の代謝産物が生成される。メタンもその1つでメタン生成細菌により生成すると考えられている。ルーメン内メタン生成細菌は水素資化菌で、水素を利用して二酸化炭素を還元し、メタンを生成する。従って、これより強力な還元反応が存在すれば、メタン生成は阻害される。(特許文献1および2等)
【0004】
ルーメン内のメタン発生を抑制する方法としては、反芻動物にモネンシンやアイベリンといったイオノフォアを給与する方法が知られている。一方、ルーメンでの還元能の調節に着目した方法として、システインを給与する方法(特許文献3)、フマル酸を給与する方法(特許文献4)などが知られている。また、メタン発生はルーメン内で硝酸塩が亜硝酸塩、ヒドロキシアミンを経てアンモニアまで還元される事により低減される事が知られていたが、ルーメンでは亜硝酸還元活性が律速であることから(非特許文献1)、メタン発生抑制のためには亜硝酸を速やかに還元する事が必要であった。また、近年は窒素肥料による牧草の栽培により飼料中の硝酸含有量が高くなっておりルーメン内に亜硝酸が高蓄積しやすい事も問題となっている。
【0005】
ルーメン内に蓄積する亜硝酸はその毒性からルーメン微生物の活性低下や動物に亜硝酸中毒を引き起こすことも知られている。硝酸の還元によりルーメンのメタン発生を抑制する試みとしては、ルーメン微生物の混合培養系において、硝酸添加によりルーメン常在の硝酸還元能微生物の数を増加させることが明らかになっている。(非特許文献2)。また、硝酸還元能を有するプロピオニバクテリウム・アシジプロピオニシ(Propionibacterium acidipropionici)を含むメタン生成抑制剤、乳酸菌や酵母等、羊乳由来の微生物を含むメタン生成抑制剤が開発されていたが、(特許文献5および1)、ルーメン内の亜硝酸還元活性を向上させるメタン生成抑制剤は開発されておらず、反芻動物のルーメン内で亜硝酸還元活性を強化し、亜硝酸の蓄積を抑制しながら硝酸塩からの一連の還元能を増強し、反芻動物が硝酸塩を摂取しても亜硝酸中毒が抑制され、メタン生成も低減する方法が期待されていた。
【0006】
これまでにエシェリヒア・コリ等の微生物は亜硝酸還元酵素(nirBD、nrfABCDEFG、非特許文献3および4)を有していることが知られていたが、エシェリヒア・コリや亜硝酸還元能を向上させた微生物を含む飼料用組成物は開発されていなかった。
【特許文献1】特開2003−88301号公報
【特許文献2】国際公開第WO96/39860号パンフレット
【特許文献3】特開平7−322828号公報
【特許文献4】特開平11−46694号公報
【特許文献5】米国特許第6120810号明細書
【非特許文献1】Iwamoto M.,Asanuma N.、Anim Sci J 、1972年、70 : 471-478
【非特許文献2】Iwamoto M.,Asanuma N. and Hino T.、Anaerobe、2002年、8, 209-215
【非特許文献3】Cole J.、FEMS Microbiology Letters Volume 136, 1996年2月Issue 1
【非特許文献4】Henian Wang and Robert P. Gunsalus、Journal of Bacteriology, 2000年10月、p. 5813-5822, Vol. 182, No. 20
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明は、反芻動物のルーメン内のメタン生成を抑制し飼料効率を向上する及び/又は亜硝酸中毒を予防するメタン生成抑制剤、飼料組成物並びにこれを反芻動物に供与する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、反芻動物のルーメン液中に、または経口で、微生物由来の亜硝酸還元酵素を投与することにより、ルーメン中での亜硝酸還元活性が向上し、メタン生成を抑制することを見出し、本発明を完成させた。すなわち本発明は以下の通りである。
(1)有効成分として微生物由来の亜硝酸還元酵素を含み、ルーメン中の亜硝酸還元活性を向上させることを特徴とする反芻動物用のメタン生成抑制剤。
(2)上記亜硝酸還元酵素が微生物菌体あるいは微生物菌体培養液として提供されることを特徴とする、(1)に記載のメタン生成抑制剤。
(3)上記微生物が微生物細胞内での亜硝酸還元酵素活性が上昇するように改変されたことを特徴とする(1)又は(2)に記載のメタン生成抑制剤。
(4)上記微生物が腸内細菌、コリネ型細菌、枯草菌、メチロフィラス属細菌、放線菌、ルーメン微生物からなる群から選ばれる一種又は二種以上の微生物である(1)〜(3)のいずれかに記載のメタン生成抑制剤。
(5)上記亜硝酸還元酵素が下記(A)又は(B)に記載のタンパク質である(1)〜(4)のいずれかに記載のメタン生成抑制剤:
(A)それぞれ配列番号10、12、14〜20又は22に示すアミノ酸配列を有するタンパク質からなる群より選ばれる一種又は二種以上のタンパク質、又は
(B)それぞれ配列番号10、12、14〜20又は22に示すアミノ酸配列において1〜30個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列を有し、かつ亜硝酸還元酵素活性を有するタンパク質からなる群から選ばれる一種又は二種以上のタンパク質。
(6)上記微生物が、亜硝酸還元酵素をコードする遺伝子の発現が増強されたことを特徴とする微生物である(1)〜(5)のいずれかに記載のメタン生成抑制剤。
(7)上記亜硝酸還元酵素をコードする遺伝子が、エシェリヒア属細菌、コリネ型細菌、バチルス属細菌由来の遺伝子である(6)に記載のメタン生成抑制剤。
(8)上記亜硝酸還元酵素をコードする遺伝子が下記(a)又は(b)に記載のDNAである(6)に記載のメタン生成抑制剤:
(a)それぞれ配列番号9、13又は21に示す塩基配列を含むDNA、又は
(b)それぞれ配列番号9、13又は21に示す塩基配列又は同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ亜硝酸還元酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(9)(1)〜(8)のいずれかに記載のメタン生成抑制剤を含有することを特徴とする反芻動物用飼料組成物。
(10)(9)に記載の飼料組成物を反芻動物に投与することによる反芻動物の発育を改善する方法。
(11)(9)に記載の飼料組成物を反芻動物に投与することによる亜硝酸中毒を予防する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のメタン生成抑制剤により、反芻動物のルーメンにおけるメタン生成は有意に抑制され、飼料のエネルギー効率が向上する。また、温室効果ガスであるメタン生成を減らすことによって地球温暖化現象などの環境問題へも貢献できる。さらに、本発明のメタン生成抑制剤は反芻動物の亜硝酸中毒を予防するためにも有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明のメタン生成抑制剤は、有効成分として微生物由来の亜硝酸還元酵素を含み、ルーメン中の亜硝酸還元活性を向上させることを特徴とする反芻動物用のメタン生成抑制剤である。また、本発明における反芻動物とは、偶蹄目反芻亜目に属する哺乳類のことであり、胃が三または四室に分かれ、食物を反芻するもののことを指す。例えば、ウシ、ヒツジなどが挙げられる。
【0012】
本発明における亜硝酸還元活性とは、亜硝酸を還元する活性を意味し、亜硝酸還元酵素によって触媒される。また、本発明において「亜硝酸還元活性を向上させる」とは、微生物由来の亜硝酸還元酵素を含むメタン生成抑制剤を投与することによって、ルーメン中での亜硝酸還元活性が投与しない場合と比べて向上することを意味する。投与しない場合に比べてルーメン中の亜硝酸がアンモニアに還元されていればよい。亜硝酸還元活性は、好ましくは、ルーメンの体積(1l)あたり1時間で0.1mM/h/l以上、さらに好ましくは0.2mM/h/l以上に向上していることが好ましい。
【0013】
亜硝酸還元酵素は、亜硝酸が還元される反応を触媒する酵素である。本発明にて有効成分として用いられる亜硝酸還元酵素は、本来ルーメン中に存在する微生物由来ものであっても、存在しない微生物由来ものであってもよく、亜硝酸還元活性を有しており、投与によって反芻動物の消化系に共生する多様な微生物集団の自然平衡に重大な損害を与えるものでなければどのような微生物由来の酵素でもよい。
【0014】
本発明の亜硝酸還元酵素としては、エシェリヒア属細菌、サルモネラ属細菌、シゲレラ属細菌、エンテロバクター属細菌を中心とする腸内細菌、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)を代表とするコリネ型細菌、バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)を代表とする枯草菌、メチロフィラス属細菌、アクロモバクター属およびシュードモナス属、プロタミノバクター属及びメタノモナス属、メチロバチルス属(特開平4-91793号公報)、バチルス属(特開平3-505284号公報)などに属するC1化合物を資化可能な微生物、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)を代表とする放線菌、パイロバクテリム・アエロフィラム(Pyrobaculum aerophilum)、セラモノナス・ルミナンティアム(Selenomonas ruminantium )、ベイロネラ・パルビューラ(Veillonella parvula)、ウォルネラ・サクシノジェーンズ(Wolnella succinogenes)等のルーメン微生物由来の酵素が利用出来る。
【0015】
腸内細菌群の中では、エシェリヒア属細菌に属するエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)、特に毒性を有さないK株あるいはB株、例えば、K株の派生株であるK-12株のW3110株や、MG1655株由来、またバチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)としては、168 Marburg株 (ATCC 6051)、PY79 (Plasmid, 1984, 12, 1-9)等由来の酵素が好適である。
【0016】
コリネ型細菌としては、コリネバクテリウム属に属する微生物、ブレビバクテリウム属に属する微生物又はアースロバクター属に属する微生物が挙げられ(Int. J. Syst. Bacteriol., 41, 255(1991))、このうち好ましくは、コリネバクテリウム属又はブレビバクテリウム属に属するものが挙げられ、更に好ましくは、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス(Brevibacterium ammoniagenes)又はブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)に属する微生物由来の酵素が好適である。
【0017】
C1化合物を資化可能な菌としては、例えばメチロフィラス・メチロトロファス(Methylophilus methylotrophus)AS1株(NCIMB10515)、バチルス・メタノリカス(Bacillus methanolicus)に属する微生物由来の酵素が好適である。
【0018】
これらの亜硝酸還元酵素活性の確認は、適当な反応系、または培養系に添加した亜硝酸の減少を観察することによって亜硝酸還元活性を測定することができる。また、フェレドキシンを電子供与体とするもの(EC 1.7.2.2、EC 1.7.7.1)は、奥貫らの方法(1970年シトクロム p195-207)(EC 1.7.2.2) 、井田らの方法(1976年 別冊 タンパク質核酸酵素 p349-355) (EC 1.7.7.1)で測定することが出来、NAD(P)Hを電子供与体にするもの(EC 1.7.1.4) は、N.R.Harborneらの方法(Molecular Microbiology, 6, 2805 (1992))で測定できる。
【0019】
本発明の亜硝酸還元酵素は、データベース(Swiss-Prot、EMBL)に登録されているものが利用出来る。
EC 1.7.1.4の亜硝酸還元酵素として登録されているものは、例えば以下のものが利用出来るが、これらに限定されない。
1. sp:NASD_BACSU [P42435] Nitrite reductase [NAD(P)H] (バチルス・ズブチルス由来).
2. sp:NASE_BACSU [P42436] Assimilatory nitrite reductase [NAD(P)H] small subunit (バチルス・ズブチルス由来).
3. sp:NASB_BACSU Assimilatory nitrate reductase electron transfer subunit.
4. sp:NIRB_ECOLI [P08201] Nitrite reductase [NAD(P)H] large subunit (エシェリヒア・コリ由来).(配列番号10)
5. sp:NIRD_ECOLI [P23675] Nitrite reductase [NAD(P)H] small subunit (エシェリヒア・コリ由来).(配列番号12)
【0020】
EC 1.7.2.2 に分類される亜硝酸還元酵素として登録されているものは、例えば以下のものが利用出来る。
1. sp:NRFA_ECOLI [P32050] Cytochrome c-552 precursor (Ammonia-forming cytochrome c nitrite reductase) (Cytochrome c nitrite reductase)(エシェリヒア・コリ由来) (配列番号14)
2. prf:2001439E nrfB protein - (エシェリヒア・コリ由来) (配列番号15)
3. prf:1924370B NrfC protein - (エシェリヒア・コリ由来) (配列番号16)
4. prf:1924370C NrfD protein - (エシェリヒア・コリ由来) (配列番号17)
5. prf:2001439EL nrfE protein - (エシェリヒア・コリ由来) (配列番号18)
6. sp:NRFF_ECOLI [P32711] Formate-dependent nitrite reductase complex nrfF subunit precursor (エシェリヒア・コリ由来)(配列番号19)
7. sp:NRFG_ECOLI [P32712] Formate-dependent nitrite reductase complex nrfG subunit (エシェリヒア・コリ由来) (配列番号20)
【0021】
EC 1.7.7.1に分類される亜硝酸還元酵素として登録されているものは、例えば以下のものが利用出来る。
1. NP_602008 putative nitrite reductase (コリネバクテリウム・グルタミカム由来)(配列番号22)
2. BAC19454 putative ferredoxin-nitrite reductase(コリネバクテリウム・エフィシェス由来)
3. CAC33947 putative nitrite sulphite reductase(ストレプトマイセス・セリカラー由来)
【0022】
亜硝酸還元酵素は、複数個のサブユニット構造を形成しているものが多いが、ルーメン中でルーメン中の亜硝酸還元活性を向上させることが出来れば、一部のサブユニットを欠いていてもよい。また本発明の亜硝酸還元酵素は、タンパク質の亜硝酸還元酵素の活性が損なわれない限り、1若しくは複数の位置での1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含む亜硝酸還元酵素をコードするものであってもよい。ここで「数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には2〜30個、好ましくは2〜20個、より好ましくは2〜10個である。
【0023】
本発明の亜硝酸還元酵素は、上記の本来亜硝酸還元活性を有している微生物由来のものだけでなく、本来は亜硝酸還元活性を有しないが、亜硝酸還元酵素をコードする遺伝子を導入することにより、亜硝酸還元能を獲得した微生物由来の亜硝酸還元酵素も含まれる。また、本発明の亜硝酸還元酵素は、亜硝酸還元活性を有する微生物であれば、野生株由来でもよいが、細胞内の亜硝酸還元酵素活性が上昇するように改変されたことを特徴とする微生物由来であることが好ましい。
【0024】
本発明において、「細胞内の亜硝酸還元酵素活性が上昇するように改変された」とは、細胞当たりの亜硝酸還元酵素活性が高くなるように改変したことをいう。これには非改変株、例えば野生株に比べて亜硝酸還元酵素活性が高くなった場合も含まれる。例えば、細胞当たりの亜硝酸還元酵素の分子の数が増加した場合や、亜硝酸還元酵素分子当たりの活性が上昇した場合などがこれに該当する。また、比較対象となる野生株としては、例えばエシェリヒア・コリMG1655、及びバチルス・ズブチルス168株が挙げられる。
【0025】
亜硝酸還元酵素活性を上昇するためには、種々の方法が知られている。酵素活性を上げる方法としては、酵素をコードする遺伝子の発現量を増加させる、つまりコピー数をプラスミドなどの染色体外DNAで増やす方法(米国特許5830716号明細書参照)、あるいは、染色体上で増やす方法、酵素をコードする遺伝子のプロモーターに変異を導入し活性を上げる方法(国際公開パンフレットWO00/18935参照)、あるいは、より強いプロモーターにより置換するなどの方法が知られている。また、亜硝酸還元酵素活性を増強するために、亜硝酸還元酵素の比活性が高くなるような変異を、亜硝酸還元酵素をコードする遺伝子のコード領域内に導入することによっても達成出来る(Cole J.、FEMS Microbiology Letters Volume 136, 1996年2月Issue 1)参照)。ここで、用いられる遺伝子は、自己の亜硝酸還元酵素をコードする遺伝子、他種微生物の遺伝子、何れでもよい。
【0026】
亜硝酸還元酵素をコードする遺伝子としては、NAD(P)Hを電子供与体にする酵素(EC
1093349888125_0.4)としてnirD、nirB遺伝子が、フェレドキシンを電子供与体にする酵素の遺伝子としてnrfABCDEFG遺伝子(EC 1.7.2.2)またはnirA遺伝子(EC 1.7.7.1)が挙げられるが、亜硝酸還元酵素をコードしている遺伝子で、宿主の中で発現可能な遺伝子であれば何れを用いてもよい。上記亜硝酸還元酵素をコードする遺伝子は、自己に由来する遺伝子および他の生物由来の遺伝子のいずれも使用することができる。これらの遺伝子は、亜硝酸還元酵素活性を有していれば、その一部の遺伝子が欠失していてもよい。これらの亜硝酸還元酵素をコードする遺伝子は、既にGenBank等で明らかになっており、以下の配列が使用出来る。
【0027】
例えば、NAD(P)Hを電子供与体にする亜硝酸還元酵素(EC:1093349888125_1.4)を持つ微生物あるいは遺伝子としては、以下の微生物由来のものがあげられ、本遺伝子によってコードされるタンパクが本発明の亜硝酸還元酵素として使用することが出来る。
(nirBD)
エシェリヒア・コリ GenBank Accession Number:
AAC76390(nirB)nitrite reductase (NAD(P)H) subunit [gi:1789765](配列番号9(塩基番号1〜2544)、アミノ酸配列 配列番号10)
AAC76391(nirD) nitrite reductase (NAD(P)H) subunit [gi:1789766](配列番号11(配列番号9:塩基配列番号2541〜2864)、アミノ酸配列 配列番号12)
サルモネラ・チフィCT18 GB:
CAD08139(nirB)nitrite reductase (NAD(P)H) large subunit [gi:16505117]
CAD08138(nirD) nitrite reductase (NAD(P)H) small subunit [gi:16505116]
サルモネラ・チフィムリウム GB:
AAL22336(nirB) nitrite reductase large subunit [gi:16422031]
AAL22337(nirD) nitrite reductase small subunit [gi:16422032]
シゲレラ・フレキシネリ GB:
AAP19331(nirB). nitrite reductase (NAD(P)H) subunit [gi:30043611] AAN44848(nirD) nitrite reductase (NAD(P)H) subunit [gi:24053832]
バチルス・ズブチルス GB:
CAB12123(nasE) assimilatory nitrite reductase (subunit) [gi:2632615]
CAB12124(nasD) assimilatory nitrite reductase (subunit) [gi:2632616]
CAB12126(nasB) assimilatory nitrate reductase (electron transfer subunit) [gi: 2632618]
好ましくはE.coliのnirD又はnirB、或いはバチルス・サチルスのnasD、nasE、又はnasB遺伝子が用いられる。EC 1.7.1.4で示される亜硝酸還元酵素をコードする遺伝子の多くは、オペロン構造を有しており、nirBがコードするタンパク質は、亜硝酸還元酵素のラージサブユニットを、nirDがコードするタンパク質は、亜硝酸還元酵素のスモールサブユニットを構成しており、nirB遺伝子は配列番号9の塩基番号1〜2544、nirD遺伝子は配列番号9の塩基配列番号2541〜2864番目(配列番号11)に該当する。
【0028】
またフェレドキシンを電子供与体にする酵素(EC 1.7.2.2)を持つ微生物あるいは遺伝子としては、以下のようなものが挙げられ、これらの遺伝子は亜硝酸還元酵素の各サブユニットをコードしていると考えられ、本遺伝子によってコードされるタンパクを本発明の亜硝酸還元酵素として使用することが出来る。(Mol. Microbiol. 1994 Apr; 12(1):153-63)
(nrfABCDEFG)
エシェリヒア・コリ nrfオペロン(配列番号13)
AAC77040 (nrfA) periplasmic cytochrome [gi:1790506](配列番号13 塩基番号303-1739 アミノ酸配列 配列番号14)
AAC77041(nrfB)a penta-haeme cytochrome c [gi:1790507](配列番号13 塩基番号1784-2350アミノ酸配列 配列番号15)
AAC77042(nrfC)Fe-S centers [gi:2367345](配列番号13 塩基番号2347-3018 アミノ酸配列 配列番号16)
AAC77043 (nrfD) transmembrane protein; [gi:1790509](配列番号13 塩基番号3015-3971 アミノ酸配列 配列番号17)
AAD13457(nrfE)possible assembly function; [gi:1790511](配列番号13塩基番号 4051-5709 アミノ酸配列 配列番号18)
AAD13458(nrfF)involved in attachment of haem c to cytochrome c552 [gi:1790512](配列番号13 塩基番号5702−6085 アミノ酸配列 配列番号19)
AAD13459 (nrfG) [gi:1790513](配列番号13 塩基番号6082-6678 アミノ酸配列 配列番号20)
【0029】
またフェレドキシンを電子供与体にする酵素(EC 1.7.7.1)を持つ微生物あるいは遺伝子としては、以下のようなものが挙げられ、本遺伝子によってコードされるタンパクを本発明の亜硝酸還元酵素として使用することが出来る。
(nirA)
コリネバクテリウム・グルタミカム NP_602008(nirA) putative nitrite reductase [gi:19554006](配列番号21)
マイコバクテリウム・ツバクロシス CAA17319(nirA)possible oxidoreductase [gi:16505265]
ストレプトマイセス・セリカラー CAC33947(nirA)putative nitrite/sulphite reductase [gi: 13276829]
パイロバクテリム・アエロフィラム AAL64294(nirA)ferredoxin-nitrite reductase [gi:18160980]
好ましくはコリネバクテリウム・グルタミカムのnirA遺伝子ホモログが用いられる。
【0030】
これらの亜硝酸還元酵素をコードする遺伝子は以下のような方法で取得出来る。例えば、エシェリヒア・コリの染色体DNAを鋳型とするPCR法(PCR:polymerase chain reaction; White,T.J. et al., Trends Genet. 5,185 (1989)参照)によって取得することができる。例えばエシェリヒア属細菌の亜硝酸還元酵素をコードするnirBD増幅用のプライマーとしては配列番号1及び2に示す塩基配列を有するオリゴヌクレオチドが挙げられる。前記染色体DNAの採取源としては、例えば、nirBD、nrfABCDEFGの取得においてはエシェリヒア・コリの野生株、例えばW3110株(ATCC39936)やMG1655株、バチルス・ズブチルスの野生株168株が挙げられる。またnirAホモログの取得においては、コリネバクテリウム・グルタミカム ATCC13869等が上げられる。
【0031】
W3110株及びMG1655株、168株、ATCC13869株は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection、住所:10801 University Boulevard, Manassas, VA 20110-2209, United States of Americaから入手できる。
【0032】
本発明に用いる亜硝酸還元酵素は、コードされるタンパク質の亜硝酸還元酵素の活性が損なわれない限り、1若しくは複数の位置での1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含む亜硝酸還元酵素をコードするものであってもよい。ここで「数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には2〜30個、好ましくは2〜20個、より好ましくは2〜10個である。
【0033】
上記のような亜硝酸還元酵素と実質的に同一のタンパク質をコードするDNAは、例えば部位特異的変異法によって、配列番号10、12、14〜20、又は22に示すアミノ酸配列が1〜30個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含むように、亜硝酸還元酵素をコードする遺伝子のコード領域を改変することによって得られる。また、上記のような改変されたDNAは、従来知られている変異処理によっても取得され得る。変異処理としては、変異処理前のDNAをヒドロキシルアミン等でインビトロ処理する方法、及び変異処理前のDNAを保持する微生物、例えばエシェリヒア属細菌を、紫外線照射またはN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)もしくはEMS等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理する方法などが挙げられる。
【0034】
上記亜硝酸還元酵素をコードする遺伝子の変異は、亜硝酸還元酵素の活性が維持されるような保存的変異である。上記の置換は、アミノ酸配列中の少なくとも1残基が除去され、そこに他の残基が挿入される変化である。亜硝酸還元酵素の元々のアミノ酸を置換し、かつ、保存的置換とみなされるアミノ酸としては、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからAsn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。
【0035】
上記のような変異を有するDNAを、適当な細胞で発現させ、発現産物の活性を調べることにより、亜硝酸還元酵素と実質的に同一のタンパク質をコードするDNAが得られる。
【0036】
また本発明に用いられる亜硝酸還元酵素をコードする遺伝子は、DNA又はこれを保持する細胞から、例えば配列番号9、13又は21に示す塩基配列又は同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、亜硝酸還元酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAも含まれる。ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、好ましくは0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。
【0037】
プローブとして、例えば配列番号9、13又は21の塩基配列の一部の配列を用いることもできる。そのようなプローブは、配列番号9、13又は21塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、配列番号1又は3の塩基配列を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。プローブとして、300bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件としては、例えば50℃、2×SSC、0.1%SDSなどが挙げられる。
【0038】
亜硝酸還元酵素と実質的に同一のタンパク質をコードするDNAとして具体的には、配列番号10、12、14〜20又は22に示すアミノ酸配列と、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を有し、かつ亜硝酸還元酵素と同等の活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられるが、亜硝酸還元酵素活性を有していればいずれでもよい。
【0039】
他の細菌の亜硝酸還元酵素をコードする遺伝子も、通常の遺伝子の取得法と同様にして、細菌の染色体DNAからPCR法等によって取得することができる。
【0040】
染色体DNAは、DNA供与体である細菌から、例えば、斎藤、三浦の方法(H. Saito and K.Miura, Biochem.B iophys. Acta, 72, 619 (1963)、生物工学実験書、日本生物工学会編、97〜98頁、培風館、1992年参照)等により調製することができる。
【0041】
取得された遺伝子は、エシェリヒア・コリ及び/又は目的とする細菌の細胞内において自律複製可能なベクターDNAに接続して組換えDNAを調製し、これをエシェリヒア・コリに導入しておくと、後の操作がしやすくなる。エシェリヒア・コリ細胞内において自律複製可能なベクターとしては、pSTV29、pUC19、pUC18、pHSG299、pHSG399、pHSG398、RSF1010、pBR322、pACYC184、pMW219等が挙げられる。また、細胞内でタンパクを大量発現させて精製が容易に出来るようにHis-Tag等がついた発現ベクターを用いてもよい。
【0042】
取得された遺伝子と目的とする細菌で機能するベクターを連結して組換えDNAを調製するには、前記遺伝子の末端に合うような制限酵素でベクターを切断し、T4 DNAリガーゼ等のリガーゼを用いて前記遺伝子とベクターを連結すればよい。
【0043】
亜硝酸還元酵素活性の強化は、上述のように亜硝酸還元酵素を構成するタンパク質をコードする遺伝子の発現を増強することによって達成される。同遺伝子の発現量の増強は、例えば上述したように、同遺伝子のコピー数を高めることなどによって達成される。例えば、前記遺伝子断片を、細菌で機能するベクター、好ましくはマルチコピー型のベクターと連結して組換えDNAを作製し、これを宿主に導入して形質転換すればよい。
【0044】
組換えDNAを細菌に導入するには、これまでに報告されている形質転換法に従って行えばよい。例えば、エシェリヒア・コリ K−12について報告されているような、受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してDNAの透過性を増す方法(Mandel,M.and Higa,A.,J. Mol. Biol., 53, 159 (1970))があり、バチルス・ズブチリスについて報告されているような、増殖段階の細胞からコンピテントセルを調製してDNAを導入する方法(Duncan,C.H.,Wilson,G.A.and Young,F.E., Gene, 1, 153 (1977))がある。あるいは、バチルス・ズブチリス、放線菌類及び酵母について知られているような、DNA受容菌の細胞を、組換えDNAを容易に取り込むプロトプラストまたはスフェロプラストの状態にして、組換えDNAをDNA受容菌に導入する方法(Chang,S.and Choen,S.N.,Molec. Gen. Genet., 168, 111 (1979); Bibb,M.J., Ward,J.M. and Hopwood,O.A.,Nature, 274, 398 (1978); Hinnen,A., Hicks,J.B.and Fink,G.R.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75 1929 (1978))も応用できる。また、電気パルス法(特開平2-207791号公報)によっても、細菌の形質転換を行うことができる。
【0045】
遺伝子のコピー数を高めることは、同遺伝子を細菌の染色体DNA上に多コピー存在させることによっても達成できる。細菌の染色体DNA上に遺伝子を多コピーで導入するには、染色体DNA上に多コピー存在する配列を標的に利用して、相同組換えにより行う。染色体DNA上に多コピー存在する配列としては、レペティティブDNA、転移因子の端部に存在するインバーテッド・リピートなどが利用できる。あるいは、特開平2−109985号公報に開示されているように、目的遺伝子をトランスポゾンに搭載してこれを転移させて染色体DNA上に多コピー導入することも可能である。
【0046】
亜硝酸還元酵素の強化は、上記の遺伝子増幅によるもの以外に、染色体DNA上またはプラスミド上の亜硝酸還元酵素をコードする、遺伝子のプロモーター等の発現調節配列を強力なものに置換することによっても達成される。例えば、lacプロモーター、tacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター等が強力なプロモーターとして知られている。また、国際公開WO00/18935号に開示されているように、遺伝子のプロモーター領域に数塩基の塩基置換を導入し、より強力なものに改変することも可能である。これらのプロモーター置換または改変により亜硝酸還元酵素をコードする遺伝子の発現が強化され、亜硝酸還元酵素活性が強化される。これら発現調節配列の改変は、遺伝子のコピー数を高めることと組み合わせてもよい。
【0047】
また亜硝酸還元酵素をコードする遺伝子は、好気的条件で発現が制御されることが多く、亜硝酸還元酵素をコードする遺伝子上流のプロモーターを好気的条件で制御を受けず、構成的に発現する強力なプロモーターに置換することによって、通気条件によらず発現量を高めることが出来る。例えば、tacプロモーター等に制御領域を置換することが考えられる。また制御領域に制御を受けないような部位特異的変異を導入することによって、通気条件によらず発現量を高めることが出来る。
【0048】
菌体の培養方法として液体培養、固体培養等の通常の細菌培養方法を用いることが出来る。経済性の見地からすれば好気的に液体培養する方法が好ましく、その例としては好気条件下での通気撹拌培養法や振とう培養法などが挙げられる。亜硝酸還元酵素をコードする遺伝子は好気的条件で発現が制御される場合が多く、発現が制御される場合には嫌気条件下でパラフィン法を用いた空気との接触を避ける方法や、還元剤を培地に加える方法、密閉容器内で窒素ガスに置換する等の培養法も用いられる。
【0049】
その培地としては、用いる菌株が増殖し得るものなら任意の培地成分が使えるが、例えば、炭素源としては同化できる炭素化合物またはこれを含有するものであればよく、グルコース、澱粉もしくは液化澱粉等の澱粉水解物、糖蜜等の糖類を単独あるいは組み合わせて用いることが出来る。また例えば、窒素源としては同化できる窒素化合物またはこれを含有するものであればよく、有機窒素含有物としては各種アミノ酸、コーンスティープリカー、麦芽エキス、ペプトン、大豆粉、脱脂大豆粉等が、また無機窒素化合物としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩等を単独あるいは組み合わせて用いることが出来る。その他、菌の生育及び酵素生産に必要な各種の有機物や無機物またはこれを含有するもの、例えばリン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、マンガン塩等の塩類、ビタミン類、酵母エキス等を適宜添加することもできる。
【0050】
本発明の微生物由来の亜硝酸還元酵素は、例えば微生物の培養液から精製される亜硝酸還元酵素であってもよい。亜硝酸還元酵素の精製は、硫安沈殿、カラムクロマトグラフィー、エタノール沈殿等によって行うことができる。また、本発明の微生物由来の亜硝酸還元酵素は、その微生物が亜硝酸還元活性を有するものであれば、微生物の培養液由来のもの、例えば、微生物菌体そのものを乾燥化させたもの、アセトン化等を行った微生物培養液処理物、または微生物菌体を含む培養液等の何れの形態で提供されても良い。
【0051】
本発明の亜硝酸還元酵素の調製は、上記微生物を培地中で培養して、対数増殖期等タンパクが精製しやすい時期の菌体を用い、硫安沈殿、カラムクロマトグラフィー、エタノール沈殿等で精製する。また精製せずに培養液を液体の状態で、あるいは乾燥させた菌体を、亜硝酸還元酵素を含むメタン生成抑制剤として用いることが出来る。本発明で用いる酵素または酵素溶液は、使用する菌株、及び目的とする酵素に合わせた培地成分を用いて製造することができ、酵素溶液で使用する場合には適宜濃縮した状態で用いた方がより効率的に処理を進めることができる。
【0052】
本発明において、ルーメン中の亜硝酸還元酵素活性が上昇した効果の確認は、人工ルーメン系(T. Hino et al.,J.Gen. Appl. Microbiol., 39, 35〜45(1993))で確認出来るが、in vivoで実際に反芻動物に経口投与して確認してもよい。
【0053】
本発明に係るメタン生成抑制剤は、例えば粉末、顆粒、錠剤等の各種の形態で反芻動物に投与することが可能である。また必要に応じて賦形剤、増量剤等を適宜添加することもできる。メタン生成抑制剤における本発明の亜硝酸還元酵素の割合は、使用目的などを考慮して決定すればよく、タンパク質の純度が高い場合や非活性が高い場合などには少量で、培地をそのまま投与する場合や非活性が低い場合などには、高い割合で投与する。投与方法としては反芻動物のルーメン液中に直接投与するか、又は例えば経口投与などの方法を用いても良い。
【0054】
本発明のメタン生成抑制剤の投与時期は、特に規定するものではなく、飼料がルーメン内に滞留している間であれば何れの時期に投与しても良いが、メタン生成される前後にルーメンにメタン生成抑制剤が存在することが好ましいことから飼料投与直前、或いは同時にメタン生成抑制剤を投与することが好ましい。特に飼料に配合することで効率よく投与することができる。
【0055】
本発明のメタン生成抑制剤の投与量については、特に限定的ではないが、例えば、中に含まれるルーメン中の亜硝酸還元活性を向上させる亜硝酸還元酵素の量として、ルーメンの体積(1l)あたり1時間あたり亜硝酸を還元する活性が0.1mM/h/l以上、好ましくは0.21mM/h/l以上となるように投与すればよい。平均的なルーメンの体積を体重あたりに換算して投与してもよい。使用菌や投与動物によって適宜調整する。
【0056】
次に、本発明に係る反芻動物用飼料組成物は、上記のメタン生成抑制剤が添加されている飼料組成物であり、当該飼料組成物におけるメタン生成抑制剤の配合割合は、通常0.1〜10重量%、好ましくは1〜5重量%である。なお、反芻動物用飼料組成物については特に制限がなく、市販品をそのまま使用してもよく、あるいは必要に応じて市販品に対して適宜サイレージ、乾草などを加えてもよい。牛用の飼料組成物について例示すると、トウモロコシサイレージ40%、スーダングラス乾草またはアルファルファヘイキューブ14%、市販配合飼料46%からなるものがある。市販配合飼料の1例として、粗タンパク質16%以上、可消化性養分総量71%以上の飼料を挙げることができる。
一方、羊用の飼料組成物について例示すると、チモシー乾草85%と市販配合飼料15%からなるものがある。本発明において、メタン生成抑制剤を配合した飼料組成物は、反芻動物に自由摂取させればよい。また、長期間にわたって摂取させることができる。
【0057】
本発明のメタン生成抑制剤を含有する飼料組成物を反芻動物に投与することにより、反芻動物のルーメン内のメタン生成が抑制され飼料効率が向上する。さらに反芻動物の発育が改善され、また反芻動物の亜硝酸中毒を予防することもできる。
【実施例】
【0058】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
インビトロのルーメン液に亜硝酸、硝酸を適宜添加した系で,亜硝酸還元活性を強化したE.coliまたは野生株E.coliの添加により、亜硝酸が速やかに還元されメタン生成を抑制することを示した。
【0059】
実施例1
亜硝酸還元活性を強化したエシェリヒア属微生物の構築
<亜硝酸還元活性を強化したE.coli nir-Ptac株の作製>
エシェリヒア・コリ Nir株は亜硝酸還元酵素遺伝子nirBDのプロモーター領域がtacプロモーターに置換された株である。この株は以下のような手順で作製された。
まず、エシェリヒア・コリW3110株のゲノムを鋳型にni5、nic4.1(配列番号1、配列番号2)のプライマーを用いてPyrobest DNA ポリメラーゼ(タカラバイオ社製)でPCR反応を行った。PCRは98℃-10秒、59℃-30秒、72℃-3.5分を30サイクルの条件で行った。得られたPCR断片をpHSG398ベクター(タカラバイオ社製)のSmaIサイトに挿入し、挿入配列にPCRエラーがないことを確認してpNIRBDとした。
次にpNIRBDの挿入領域をKpnI、XbaIで切り出し、pMW219(ニッポンジーン)のKpnI、XbaIサイト間に挿入したプラスミド、pMW219-nirBDを構築した。このプラスミドではnirBDオペロンはlacZ遺伝子と順向きに挿入されている。
続いてpMW219-nirBDを鋳型に、nirex5、nirex3(配列番号3、4)のプライマーを用いてPyrobest DNA ポリメラーゼ(タカラバイオ社製)でPCR反応を行った。PCRは98℃-10秒、57℃-30秒、72℃-3.5分を30サイクルの条件で行った。得られたPCR断片をEcoRI、HindIIIで切断し、pKK223-3発現ベクター(Amersham Pharmacia Biotech)のEcoRI、HindIIIサイト間に挿入し、挿入配列にPCRエラーがないことを確認した(pKK-nirEx)。
さらにpKK-nirExを鋳型に、pKK-c200、NI’-c2035(配列番号5、6)のプライマーを用いてPyrobest DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)でPCR反応を行った。PCRは98℃-10秒、57℃-30秒、72℃-1分を30サイクルの条件で行った。得られたPCR断片をKpnI、SphIで切断した(断片1)。
W3110ゲノムを鋳型に、NI’-1、NI’-c925(配列番号7、8)のプライマーを用いてPyrobest DNA polymerase(タカラバイオ社製)でPCR反応を行った。PCRは98℃-10秒、57℃-30秒、72℃-1分を30サイクルの条件で行った。得られたPCR断片をKpnI、EcoRIで切断した(断片2)。
pHSG299ベクター(タカラバイオ社製)をEcoRI、SphIで切断し、上記断片1、断片2と3片連結を行ない、EcoRIサイトからSphIサイトの向きへ断片1、断片2が1コピーずつ挿入されたクローンを選択した。得られたクローンの挿入配列にPCRエラーがないことを確認しpHSG-nir-Ptacとした。
pHSG-nir-Ptacの挿入配列をHindIIIで切り出し、温度感受性ベクターpMAN997 (WO 99/03988号国際公開パンフレット)のHindIIIサイトに挿入しpMAN-nir-Ptacとした。
プラスミドpMAN-nir-Ptacを用いて、W3110株にC. T. Chungらの方法により形質転換し、LB+アンピシリンプレートで30℃でコロニーを選択した。選択したクローンを30℃で一晩液体培養した後、培養液を10-3希釈してLB+アンピシリンプレートにまき、42℃でコロニーを選択した。選択したクローンをLB+アンピシリンプレートに塗り広げて30℃で培養した後、プレートの1/8の菌体をLB培地 2 mLに懸濁し、42℃で4〜5時間振とう培養した。10-5希釈した培養液をLBプレートにまき、得られたコロニーのうち数百コロニーをLBプレートとLB+アンピシリンプレートに植菌し、生育を確認することで、アンピシリン感受性株を選択した。アンピシリン感受性株の数株についてコロニーPCRを行いゲノムとプラスミドが2回組み換えを起こしてゲノム上のnirプロモーター領域がtacプロモーターに置換された株を選択した。この株のゲノム中にベクター領域が挿入されていないことを確認しnir-Ptacとした。
ni5:tca gcc gtc acc gtc agc ata aca c(配列表 配列番号1)
nic4.1:ccg aca ggc gtg caa tgc gcg cag c(配列表 配列番号2)
nirex5:aaa aga att cga ggc aaa aat gag caa agt(配列表 配列番号3)
nirex3:ccc caa gct tca tgc aaa aag ggg agg cat(配列表 配列番号4)
pKK-c200:cgg ggt acc ttc tgg cgt cag gca gcc at(配列表 配列番号5)
NI’-c2035:aca tgc atg ccg tct acg ccc agc agt ttc(配列表 配列番号6)
NI’-1:cgg aat tcg tat gaa ggg cgt cag cgc g(配列表 配列番号7)
NI’-c925:cgg ggt acc ttc tta agt cac gga att gt(配列表 配列番号8)
【0060】
<硝酸・亜硝酸濃度の定量>
培養上清の硝酸、亜硝酸濃度はまずMerck社製NO2- 試験紙(Merckoquant Nitrite Test 1.10022.0001、 1.10007.0001)、NO3-試験紙(Merckoquant Nitrate Test 1.10020.0001)を用いて大まかに把握し、硝酸/亜硝酸アッセイキットC(Colorimetric, 同仁化学研究所)の測定範囲である0〜100μMになるよう希釈してから、同キットを用いて正確な濃度を測定した。吸光度の測定にはマイクロプレートリーダー(Molecular Devices社製SPECTRA MAX190)を用いた。
【0061】
実施例2
インビトロのルーメン系での効果
<材料及び実験機器>
本実施例は、緩衝液および固形飼料の投入口、サーミスタープローブ、窒素ガス投入口、磁気的スターラー、近赤外メタンおよび二酸化炭素分析器を備えた、4つの1000ml発酵槽容器からなるインビトロ連続培養システム(高杉製作所社製)を用いて行った。2頭の非授乳のホルスタインウシ(平均体重800kg)をドナーとして、帯広畜産大学の施設動物の世話と利用委員会で承認された外科手術によって、ルーメンに瘻管を取り付け、タイ・ストール・バーンにて飼育した。ウシは基礎飼料の干し草(DM(dry matter): 87.33%, OM(organic matter): 98.98%, CP(crude protein): 14%, ADF(acid detergent fiber): 38.84%, NDF(neutral detergent fiber): 73.26%, ADL(acid detergent lignin): 4.10%, GE(gross energy): 4.45 Mcal)を維持レベル(55g DM kg-0.75 BW/日)で、午前8時と午後5時に同量を日に2回与えられ、水と塩化ナトリウムブロック(Fe: 1232, Cu: 150, Co: 25, Zn: 500, I: 50, Se: 15およびNa: 382mg/kg)を自由に取ることができる。そのウシから朝の餌やりの前にルーメン液を回収し、直ちにナイロン製の布で裏ごしして、酸素が取れるように口の空いた三角フラスコに入れた。裏ごししたルーメン液(400ml)の1つをオートクレーブした緩衝液(400ml)(Takahashi, J., Johchi, N,, Fujita, H., Br.J.Nutr. 61:741-8 (1998))の1つと混合した。すべての培養は嫌気性で39℃にて24時間、10gの上述した粉末の飼料(1mm スクリーン)を基質として添加して、4通り行われた。1試験につき、2つの容器をランダムに割り当てた。嫌気状態にするために窒素を20ml/分の割合で投入した。上記培養発酵基礎ユニット(高杉製作所株式会社、東京)を用いて、発酵容器の温度を39℃に保ち、内容物を混合した。
【0062】
<E. coli W3110およびE. coli nir-Ptac株の添加・接種・培養>
ルーメン微生物によるインビトロのルーメン中のメタン生成に対する、硝酸、亜硝酸、E. coli W3110およびE. coli nir-Ptac株の影響を調べるため、培養容器に硝酸(NaNO3、5または10mM)、亜硝酸(NaNO2、1または2mM)を添加し、培養したE. Coli W3110またはE. coli nir-Ptac株を植え付けた。ルーメン微生物によるインビトロのルーメン中の硝酸および亜硝酸還元に対する、E. coli W3110およびE. coli nir-Ptac株の影響を調べるため、硝酸(NaNO3, 5または10mM)、亜硝酸(NaNO2, 1または2mM)を添加した別々の培養容器に、E. Coli W3110またはE. Coli nir-Ptac株を接種した。それぞれの培養容器に接種したE. coli W3110またはE. coli nir-Ptac株の細胞量は、下記の方程式において表したように計算した。対照培地は硝酸および亜硝酸を加えずに培養し、E. coli W3110またはE. coli nir-Ptac株を植え付けた。
E. coli nir-Ptac株の構築は実施例1と同様にして行った。
E. coli W3110またはE. coli nir-Ptac株接種菌は、細胞をルリア・ベルタニ(Luria-Bertani,LB)ブロス寒天培地中で37℃にて10時間培養することによって調製した。この培養から、寒天培地プレート中の8分の1のE. Coli W3110またはE. coli nir-Ptac細胞をそれぞれ50mlLBブロス(1lにつき、トリプトン10g、酵母抽出物5g、NaCl10g)フラスコへと移し、コンスタントに振りながら(150rev 分-1)37℃でさらに12時間培養した。静止期の細胞を遠心分離(5000×g、5分、4℃)によって集菌した。E. coli W3110またはE. coli nir-Ptacの細胞ペレットを25mlの滅菌緩衝液(pH6.8)(McDaugall、1948年)で懸濁し、5mlの滅菌緩衝液で再懸濁した。それぞれの培養器に植え付けるE. Coli W3110またはE. coli nir-Ptacの量は以下の方程式によって計算する:
E = (A)×(B)/(C)×(D)
式中、E:植え付けるE. coli細胞の量(ml)
A:2
B:培養器中の溶液量(800ml)
C:緩衝液(McDaugall、1948年)で1:200に希釈した、培養E. coli W3110またはE. coli nir-Ptac細胞のOD660値
D:希釈率(200)
各培養器中に植え付けたE. coli W3110またはE. coli nir-Ptac細胞を計算すると、30.53〜39.40mlの間であった(約1×109cfu/ml)。
【0063】
<分析方法>
インビトロルーメン系に所定の材料を全て投入し、反応を開始した。反応開始時を0時間とし、ルーメンサンプルを0, 0.5, 1, 1.5, 2, 4, 6, 8, 10, 12 および24時間にて回収し直ちにpHおよび細胞成長(OD660)を調べ、次いでそれぞれのサンプルを、ルーメン中の硝酸、亜硝酸、アンモニア窒素および揮発性脂肪酸(VFA)を後に調べるために−20℃で保存した。ルーメン液のpHはpHメーター(HM-21P, 東亜電波工業、東京)を用いて測定した。微生物集団の増殖、培養液中のE. coli W3110およびE. coli nir-Ptacの増殖の指標として、光学密度660nm(OD660)を用いた。分光光度計(Part No. 100-004, Serial No. 5667-15, 日立、東京)でOD660を測定する前に、サンプルを蒸留水で1:200に希釈した。ルーメン中の硝酸および亜硝酸濃度は、硝酸および亜硝酸試験紙(Merck: Merckoquant Nitrite Test 1. 10022.0001, 1.10007.0001, Merckoquant Nitrate Test 1.10020.0001)で測った。サンプルを0〜100μMの硝酸および亜硝酸濃度になるように希釈した。より正確な濃度は、硝酸/亜硝酸アッセイキットC(Colorimetric, 同仁化学研究所)を用いて測定した。吸収係数はマイクロプレートリーダー、SPECTRA MAX 190 (Molecular Devices社)を用いて測定した。アンモニア窒素濃度はSarら(2004年)と同様にして測った。VFAの濃度は、2−エチル−n−酪酸を内部標準として用い、フレームイオン化検出器およびキャピラリーカラム(ULBON HR-52, 0.53 mm I.D. × 30 m 3.0 μm)を備えたガス−液体クロマトグラフィ(島津製作所、GC-14A、京都)で分析した。値はChromatopac data processing system (C-R 4A、島津)を用いて自動計算した。連続的なメタンおよび二酸化炭素生成率は、赤外線ガス分析器(高杉製作所)を用いて自動的に測定した。次いで、それらのデータを分析器からインターフェースを通して1分間隔でコンピューター(Windows(登録商標) XP Professional 1-2 CPU, IMB Corporation)に取り込み、蓄積した。
【0064】
<統計分析>
それぞれの試験におけるインビトロの連続培養を2日間、日に2回繰り返して行った(n=4)。累積メタンおよび二酸化炭素生成はベルタランフィモデル(Bertalanffy model)の非線形回帰分析[メタン(ml)または二酸化炭素(ml)=a+b(1-e-ct)3、式中、a:最初のメタンまたは二酸化炭素生成、b:2回目のメタンまたは二酸化炭素生成、c:一定のメタンおよび二酸化炭素生成率、t:時間(分)]によって、メタンおよび二酸化炭素生成の24時間の時間経過から推定した。試験の結果の平均値を、Statistical Analysis Systems Institute (SAS, 1994年)のGeneral Linear Models Proceduresを用いて、一元配置分散分析によって分析した。試験平均を統計学的にダンカンの多重検定(Duncan's Multiple−Range Testと比較した。P<0.05を有する差異を有意性ありとみなした。
【0065】
<結果>
実施例2の結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
さらに図1および図2に、それぞれ硝酸処理および亜硝酸処理した混合ルーメン微生物の培養における、インビトロの累積メタン生成のプロフィルをまとめた。累積メタン生成は、対照培養と比較して、すべての試験において減少した。E. Coli W3110を5または10mM硝酸に接種した場合、接種しなかった5または10mM硝酸と比べ、累積メタン生成の減少が観察された。5または10mM硝酸および1または2mM亜硝酸にE. coli nir-Ptacを植え付けることによって、植え付けなかった5または10mM硝酸および1または2mM亜硝酸とそれぞれ比較して、劇的に累積メタン生成が減少した。
図3および図4には、それぞれ硝酸処理および亜硝酸処理した混合ルーメン微生物の培養における、インビトロの累積二酸化炭素生成のプロフィルを示した。累積二酸化炭素生成は、対照培養と比較して、すべての試験において減少した。硝酸の試験においては、10mM硝酸にE. coli nir-Ptacを植え付けたものが、一番低い累積二酸化炭素生成を示した。亜硝酸の試験においては、2mM亜硝酸にE. coli nir-Ptacを接種したものが一番大幅に累積二酸化炭素を減少させた。
図5および図6には、それぞれ硝酸処理および亜硝酸処理した混合ルーメン微生物のインビトロの連続培養における、ルーメン中の亜硝酸蓄積のプロフィルを示した。硝酸の試験においては、5または10mM硝酸で処理した混合ルーメン群にE. Coli W3110およびE. Coli nir-Ptacを接種したが、植え付けていない5または10mM硝酸とそれぞれ比較して、ルーメン中の亜硝酸濃度の上昇を起こした。亜硝酸の試験においては、1mM亜硝酸と比較して、1mM亜硝酸にE. Coli W3110を植え付けたものはルーメン中の亜硝酸濃度を下げ(p<0.01)、この値(p<0.01)は1mM亜硝酸にE. coli nir-Ptacを植え付けたものに相当した。2mM亜硝酸と比較して、2mM亜硝酸にE. coli W3110を植え付けたものはルーメン中の亜硝酸濃度を下げた。一番の値(p<0.01)は2mM亜硝酸にE. coli nir-Ptacを接種したもので見られた。
【0068】
以上の試験より、野生型E. coli W3110またはE. coli nir-Ptacはルーメン中の亜硝酸蓄積を減少させ、硝酸および亜硝酸による悪影響を抑制し、ルーメン中のインビトロのメタン生成を減少させうることが明らかになった。
【0069】
ni5:tca gcc gtc acc gtc agc ata aca c(配列表 配列番号1)
nic4.1:ccg aca ggc gtg caa tgc gcg cag c(配列表 配列番号2)
nirex5:aaa aga att cga ggc aaa aat gag caa agt(配列表 配列番号3)
nirex3:ccc caa gct tca tgc aaa aag ggg agg cat(配列表 配列番号4)
pKK-c200:cgg ggt acc ttc tgg cgt cag gca gcc at(配列表 配列番号5)
NI’-c2035:aca tgc atg ccg tct acg ccc agc agt ttc(配列表 配列番号6)
NI’-1:cgg aat tcg tat gaa ggg cgt cag cgc g(配列表 配列番号7)
NI’-c925:cgg ggt acc ttc tta agt cac gga att gt(配列表 配列番号8)
エシェリヒア・コリNirBD オペロン NirB遺伝子(配列表 配列番号9)
エシェリヒア・コリNirB タンパク(配列表 配列番号10)
エシェリヒア・コリNirD遺伝子(配列表 配列番号11)
エシェリヒア・コリNirD タンパク(配列表 配列番号12)
エシェリヒア・コリNrfABCDEFG オペロン(配列表 配列番号13)
エシェリヒア・コリNrfA タンパク(配列表 配列番号14)
エシェリヒア・コリNrfB タンパク(配列表 配列番号15)
エシェリヒア・コリNrfC タンパク(配列表 配列番号16)
エシェリヒア・コリNrfD タンパク(配列表 配列番号17)
エシェリヒア・コリNrfE タンパク(配列表 配列番号18)
エシェリヒア・コリNrfF タンパク(配列表 配列番号19)
エシェリヒア・コリNrfG タンパク(配列表 配列番号20)
コリネバクテリウム・グルタミカム NirA 遺伝子(配列表 配列番号21)
コリネバクテリウム・グルタミカム NirAタンパク(配列表 配列番号22)
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】混合ルーメン微生物の培養における、インビトロの累積メタン生成のプロフィルを示す(硝酸処理)。
【図2】混合ルーメン微生物の培養における、インビトロの累積メタン生成のプロフィルを示す(亜硝酸処理)。
【図3】混合ルーメン微生物の培養における、インビトロの累積二酸化炭素生成のプロフィルを示す(硝酸処理)。
【図4】混合ルーメン微生物の培養における、インビトロの累積二酸化炭素生成のプロフィルを示す(亜硝酸処理)。
【図5】混合ルーメン微生物のインビトロの連続培養における、ルーメン中の亜硝酸蓄積のプロフィルを示す(硝酸処理)。
【図6】混合ルーメン微生物のインビトロの連続培養における、ルーメン中の亜硝酸蓄積のプロフィルを示す(亜硝酸処理)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として微生物由来の亜硝酸還元酵素を含み、ルーメン中の亜硝酸還元活性を向上させることを特徴とする反芻動物用のメタン生成抑制剤。
【請求項2】
上記亜硝酸還元酵素が微生物菌体あるいは微生物菌体培養液として提供されることを特徴とする、請求項1に記載のメタン生成抑制剤。
【請求項3】
上記微生物が微生物細胞内での亜硝酸還元酵素活性が上昇するように改変されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のメタン生成抑制剤。
【請求項4】
上記微生物が腸内細菌、コリネ型細菌、枯草菌、メチロフィラス属細菌、放線菌、ルーメン微生物からなる群から選ばれる一種又は二種以上の微生物である請求項1〜3のいずれか1項に記載のメタン生成抑制剤。
【請求項5】
上記亜硝酸還元酵素が下記(A)又は(B)に記載のタンパク質である請求項1〜4のいずれか1項に記載のメタン生成抑制剤:
(A)それぞれ配列番号10、12、14〜20又は22に示すアミノ酸配列を有するタンパク質からなる群より選ばれる一種又は二種以上のタンパク質、又は
(B)それぞれ配列番号10、12、14〜20又は22に示すアミノ酸配列において1〜30個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列を有し、かつ亜硝酸還元酵素活性を有するタンパク質からなる群から選ばれる一種又は二種以上のタンパク質。
【請求項6】
上記微生物が、亜硝酸還元酵素をコードする遺伝子の発現が増強されたことを特徴とする微生物である請求項1〜5のいずれか1項に記載のメタン生成抑制剤。
【請求項7】
上記亜硝酸還元酵素をコードする遺伝子が、エシェリヒア属細菌、コリネ型細菌、バチルス属細菌由来の遺伝子である請求項6に記載のメタン生成抑制剤。
【請求項8】
上記亜硝酸還元酵素をコードする遺伝子が下記(a)又は(b)に記載のDNAである請求項6に記載のメタン生成抑制剤:
(a)それぞれ配列番号9、13又は21に示す塩基配列を含むDNA、又は
(b)それぞれ配列番号9、13又は21に示す塩基配列又は同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ亜硝酸還元酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のメタン生成抑制剤を含有することを特徴とする反芻動物用飼料組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の飼料組成物を反芻動物に投与することによる反芻動物の発育を改善する方法。
【請求項11】
請求項9に記載の飼料組成物を反芻動物に投与することによる亜硝酸中毒を予防する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−63002(P2006−63002A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−245705(P2004−245705)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】