説明

反芻動物用飼料

【課題】合成品によらず天然物によって反芻動物の低カルシウム血症を予防すること。
【解決手段】リュウキュウヤナギ、シロバナコウボクからなる群から選ばれた少なくとも1種類の葉乾燥粉末又は葉溶媒抽出物を含有することを特徴とする反芻動物用飼料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反芻動物用飼料に関する。さらに詳述すれば、リュウキュウヤナギもしくはシロバナコウボクの葉乾燥粉末を配合した反芻動物用配合飼料及びその飼料を給与して、低カルシウム血症を抑制もしくは緩和する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低カルシウム血症は、牛やめん羊等の反芻動物で発症する疾病であり、産歴の進んだ高泌乳牛の分娩前後に症例が多い。
低カルシウム血症は分娩に合わせて合成される乳汁への急激なカルシウム流出に対し、消化管からのカルシウム吸収や骨からのカルシウム動員(骨吸収)が著しく停滞することが原因で発症すると考えられている。実際、乳房を実験的に切除した乳牛においては分娩前後に血清カルシウム濃度の低下は認められない。
分娩時の低カルシウム血症のうち起立不能、体温低下、食欲不振などの症状を示すものを乳熱と呼び、重篤な場合には昏睡を経て死亡ないしは廃用に至る。乳熱による起立不能による圧挫は二次的に筋肉や神経の損傷を引き起こしてその後カルシウム剤の治療によっても起立不能が治癒しないダウナー症候群を引き起こすケースも多い。また、カルシウムは筋肉の運動に必要であることから、低カルシウム血症は第四胃の運動性を低下させて第四胃変位を引き起こす場合も多い。このように低カルシウム血症は周産期病と呼ばれる分娩前後の疾病の多くに深く関わっており、今日の遺伝的改良が進んだ高泌乳牛において生産性を低下させる重要な問題となっている。
【0003】
従来、乳熱の予防には乾乳期における低カルシウム飼料の給与、分娩直前(2〜8日)のビタミンD製剤の投与、飼料中のカチオン−アニオンバランスの制御及び分娩前後の液状カルシウム剤の投与などの方法が実践されてきた。
【0004】
しかしながら、低カルシウム飼料は飼料原料由来のカルシウムの影響が大きいために含量のコントロールが難しく、分娩後も継続された場合には逆に乳熱の発症リスクが高まってしまうことから、分娩前後でカルシウム濃度の異なる飼料に切り替えることや液状カルシウム剤の投与が推奨されるため高度な個体管理が要求される。ビタミンD製剤についても、分娩の48時間以上前に投与しなければ効果が望めないと言われており、予定よりも分娩が早まってしまった牛には対応できない。飼料中のカチオン−アニオンバランスは粗飼料の品質によって大きく左右されるためコントロールが難しいことに加え、陰イオン塩を添加するなどした場合には嗜好性の低下を招く恐れがある。このような理由から、乳熱の予防方法は完全に確立されているとは言い難いのが現状であり、乳熱を予防する効果の高い配合飼料又は混合飼料の開発が望まれている。
【0005】
ビタミンDは、カルシウム結合蛋白質等を介した小腸からのカルシウムの能動的吸収や、骨から血中へのカルシウム放出(骨吸収)を促進する作用を有し、生体内のカルシウム代謝及び血中カルシウム濃度の維持に重要な役割を果たす。生体内で産生もしくは腸管から吸収されたビタミンDは、肝臓で25位が水酸化され25−ヒドロキシビタミンD(25−OH−ビタミンD)となり、次いで腎臓で1α位が水酸化されて活性型ビタミンD(1,25−(OH)ビタミンD)へ代謝される。ビタミンD及び25−ヒドロキシビタミンDはビタミンD受容体との親和性が低くビタミンDとしてほとんど機能しないが、活性型ビタミンDに代謝されることによってビタミンD受容体と高い親和性を示すようになり、生体内で機能する。
ビタミンDから活性型ビタミンDへの代謝は、腎臓や上皮小体の機能及びカルシウム・リンの血中レベルに依存して、1α位の水酸化の段階で厳密に制御されているため、ビタミンDの投与は活性型ビタミンD濃度の上昇に必ずしも直結するわけではない。そこで、1α位が水酸化されていることから速やかに活性型ビタミンDに代謝される1α−ヒドロキシビタミンD(1α−OH−ビタミンD)や活性型ビタミンDを投与した試験が数多く実施されており、一定の乳熱の予防効果が認められている(例えば、非特許文献1〜非特許文献3参照。)。しかし、一般的に反芻動物の飼料となる天然物には1α−ヒドロキシビタミンDや活性型ビタミンDはほとんど含まれておらず、上述の試験は全て合成品により実施されている。
【非特許文献1】Bar et al,J.Dairy Sci.68:1952−1958,1985
【非特許文献2】Sachs et al,J.Dairy Sci.70:1671−1675,1987
【非特許文献3】Gast et al,J.Dairy Sci.62:1009−1013,1979
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、天然物である活性型ビタミンD様因子を含有するリュウキュウヤナギあるいはシロバナコウボクの葉乾燥粉末又は葉溶媒抽出物を反芻動物に給与することによって、低カルシウム血症を予防もしくは緩和することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、反芻動物にリュウキュウヤナギあるいはシロバナコウボクの葉乾燥粉末又は葉溶媒抽出物を反芻動物に給与することによって、血清活性型ビタミンD(1,25−(OH)ビタミンD)及びカルシウム濃度が上昇することで前記の課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
ナス科の植物であるリュウキュウヤナギ(和名:ルリヤナギ、学名:Solanum malacoxylon(=Solanum glaucophyllum))やシロバナコウボク(学名:Cestrum Diurnum)は活性型ビタミンD様因子を含有していることが知られている(Herrath et al,Dtsch Med Wochenschr.Nov22;99(47):2407−2409,1974)(Wasserman et al,Biochem Biophys Res Commun.Jan6;62(1):85−91,1975)。これらの植物の葉が活性型ビタミンD様活性を持つのは、水溶性成分として活性型ビタミンDの配糖体が含まれていることによると考えられており(Wasserman et al,Science Nov19;194(4267):853−855,1976)(Huqhes et al,Nature Jul28;268(5618):347−349,1977)、その応用例として採卵鶏においては、リュウキュウヤナギの葉の給与によって血漿中活性型ビタミンD濃度の上昇や卵殻質の改善などが報告されている(特願2000−138510)。
近年の消費者は合成品の敬遠傾向が強いことから、天然の活性型ビタミンD様因子を含むリュウキュウヤナギの葉あるいはシロバナコウボクの葉を低カルシウム血症の予防に活用できれば非常に有用であると考えられる。
【0009】
ところが、活性型ビタミンDは生体内での活性が強いが故に、用量によっては過剰症を引き起こす恐れがある。牛では活性型ビタミンDの過剰症と考えられるリュウキュウヤナギ中毒症はEnteque Secoという病名で知られており、カルシウム代謝の異常、肺動脈・大動脈へのカルシウム沈着(Puche et al,Calcif.Tissue Int.26(1):61−64,1978)や柔組織・表皮の萎縮、毛包・皮脂腺・汗腺の退行等の上皮組織の異常と上皮細胞増殖阻害(Gimeno et al,J.Vet.Med.A Physiol.Pathol.Clin.Med.47(4):201−211,2000)等多数の症例報告がある。
また、シロバナコウボクについても同様に牛で中毒症が報告されている(Krook et al,Cornell Vet.Oct;65(4):557−575,1975)。
しかし、上記の報告は放牧牛の過剰摂取による中毒症状についてであり、薬理作用を及ぼす範囲の用量でリュウキュウヤナギやシロバナコウボクの葉を給与して、反芻動物に対する生物的効果もしくは低カルシウム血症の予防効果を検証した報告例はない。
【実施例】
【0010】
以下、本発明に係る実施例を示す。
実施例1:リュウキュウヤナギ又はシロバナコウボクの葉乾燥物
本発明で用いる乾燥物はリュウキュウヤナギの葉又はシロバナコウボクの葉あるいはリュウキュウヤナギの葉の搾汁又はシロバナコウボクの葉の搾汁を乾燥させたものを用いることができる。乾燥方法は公知の手段、例えば天日乾燥、加熱乾燥、流動層乾燥、凍結乾燥などを用いることができる。乾燥は常温で行なわれても加熱条件下で行なわれても良い。また、乾燥は常圧で行なわれても減圧下で行なわれてもよい。常圧で加熱する場合には80℃以下の加熱で3時間以下であれば有効成分の損失はないが、この限りではない。水分は12重量%以下とすることが望ましい。
【0011】
実施例2:リュウキュウヤナギ又はシロバナコウボクの葉溶媒抽出物
本発明で用いる葉溶媒抽出物は溶媒として水、エタノール又は両者を混合した含水エタノールを用いることができる。また、ここでいう抽出溶媒には水、エタノールのほか抽出効率を大きく損なわない範囲で他の成分(塩類、アミノ酸類、糖類)などが含まれても良い。抽出はリュウキュウヤナギ又はシロバナコウボクの葉を公知の手段、例えば浸漬、静置保存、加熱還流などによって行なうことができる。また、抽出は常温で行なわれても加熱条件下で行われてもよい。抽出に要する時間は温度や乾燥条件にもよるが、通常30分程度以上である。抽出時間の上限は特に制限されないが、通常3年以下である。溶媒量は特に規定されないが、葉に対して等重量以上10倍量以下の溶媒で抽出することが望ましい。
本発明によれば上記葉溶媒抽出物は低カルシウム血症の予防作用を持つ抽出液と残渣に分離する。分離方法は公知の手段に従ってよく、例えば遠心分離や濾過などが挙げられる。本発明には抽出液をそのまま用いても良いし、抽出液の濃縮液あるいは濃縮乾燥物を用いても良い。濃縮は常圧又は減圧条件下で行なわれる。濃縮乾燥物は常圧又は減圧条件下で溶媒を蒸発させることで得られる。本発明の葉溶媒抽出物は元の葉乾燥品に対して当重量の抽出物を得た場合の最適添加量を設定しているが、抽出物の希釈あるいは濃縮倍率に応じて後述の最適添加量を調整すれば良い。
また、葉抽出液あるいは葉濃縮液を賦形剤に吸着させて水分を調整して使用しても良い。賦形剤はフスマ、糠、豆乳粕、パーム核粕など一般に飼料原料として用いられる原料を混合すれば得られる。賦形剤による水分調整を行なった場合には水分は12重量%以下にする事が望ましく、必要に応じて更に前述の葉乾燥物のように乾燥させても良い。
【0012】
実施例3:リュウキュウヤナギの葉の給与が血液性状に及ぼす影響の検討(高水準)
ホルスタイン種雌牛4頭(2〜4歳齢、体重469〜689kg)を供試して、リュウキュウヤナギの葉の給与が血清活性型ビタミンD及びカルシウム濃度に及ぼす影響を検討した。アルゼンチン産のリュウキュウヤナギの葉を用いて、無添加(無添加区)、体重1kg当たり2.5mg給与(2.5mg/kgBW区)、10mg給与(10mg/kgBW区)、40mg給与(40mg/kgBW区)の4区を設定し、各区1頭を割り当てて4日間の給与試験を行なった。リュウキュウヤナギの葉は乾燥粉末にし、賦形剤として脱脂糠を用いて基礎飼料に添加して給与した。基礎飼料はチモシー乾草と市販飼料を3:7の割合で日本飼養標準・肉牛(2001)成雌牛の維持要求量を満たす量を給与した。基礎飼料のミネラルの分析値を表1に示した。給与開始前及び4日間の給与終了時に採血を行い、各個体の血清の活性型ビタミンD濃度及びカルシウム濃度を分析した。
表2に血清の分析結果を示した。リュウキュウヤナギの葉の給与量増加に伴い、血清活性型ビタミンD濃度及びカルシウム濃度は上昇し、リュウキュウヤナギの葉の給与量と血清活性型ビタミンD及びカルシウム濃度との間に用量依存的な反応が確認された。また、10mg/kgBW以上の給与水準においては給与4日以内に著しい飼料摂取量の低下が確認された。
【0013】
ヒトにおける血清活性型ビタミンD濃度の正常範囲は20〜60pg/mL程度と言われているが、分娩前後を除いて乳牛においてもヒトとほぼ同じ範囲内にあることが報告されている(Barton et al,J.Dairy Sci.64:850−852,1981,Goff et al,J.Dairy Sci.85:1427−1436,2002)。実施例3ではいずれの試験区においても正常範囲を超える高値となっており、特に10mg/kg以上の水準においては200pg/mLを超える異常高値となっており、飼料摂取量の低下も確認されたことから一過性のビタミンD過剰症に陥ったものと推察された。
よって、体重1kg当たり10mg以上の用量でリュウキュウヤナギの葉乾燥粉末を給与した場合には反芻動物がビタミンD過剰症を引き起こす恐れがあることが示唆された。
【0014】
【表1】

【0015】
【表2】

【0016】
実施例4:リュウキュウヤナギの葉の給与が血液性状に及ぼす影響の検討(適正水準)
実施例3よりも低水準のリュウキュウヤナギの葉の給与が血清活性型ビタミンD及びカルシウム濃度に及ぼす影響を検討した。アルゼンチン産のリュウキュウヤナギの葉乾燥粉末を用いて、無添加(無添加区)、体重1kg当たり0.5mg給与(0.5mg/kgBW区)、1.0mg給与(1.0mg/kgBW区)、2.0mg給与(2.0mg/kgBW区)の4区を設定し、1期2週間の4×4ラテン方格法により試験を実施した。供試牛は実施例3と同一のホルスタイン雌牛4頭を用いた。使用したリュウキュウヤナギならびに基礎飼料についても実施例3と同様に設定した。ラテン方格の各試験期終了時に採血を行い、血清の活性型ビタミンD濃度及びカルシウム濃度を分析した。
表3に血清の分析結果を示した。リュウキュウヤナギの葉の給与量増加に伴い、血清活性型ビタミンD濃度及びカルシウム濃度は上昇し、リュウキュウヤナギの葉乾燥粉末給与量と血清活性型ビタミンD(回帰式1)及びカルシウム濃度(回帰式2)との間に用量依存的な反応が確認された。
(回帰式1)
Y=23.41X+16.33(R=0.965)
X;リュウキュウヤナギの葉乾燥粉末給与量(mg/kgBW)
Y;血清活性型ビタミンD濃度(pg/mL)
(回帰式2)
Z=1.200X+9.150(R=0.993)
X;リュウキュウヤナギの葉乾燥粉末給与量(mg/kgBW)
Z;血清カルシウム濃度(mg/dL)
【0017】
リュウキュウヤナギの葉の給与量が最も多い2.0mg/kgBW区における血清活性型ビタミンD濃度は60.6±6.1pg/mLであり、この数値は前述の非泌乳牛の血清活性型ビタミンD濃度の正常範囲20〜60pg/mLの上限とほぼ一致した。また、血清カルシウム濃度は11.6±0.9mg/dLであり、牛の血清カルシウム濃度の正常範囲8〜12mg/dLの範囲内であった。以上の結果より、体重1kg当たり2.0mg以下の用量でリュウキュウヤナギの葉乾燥粉末を給与することにより、ビタミンD過剰症や高カルシウム血症を引き起こさない正常の範囲内で血清活性型ビタミンD濃度が上昇することが示唆された。
【0018】
【表3】

【0019】
実施例5:リュウキュウヤナギ事前給与牛への低カルシウム血症の誘起試験
次に、リュウキュウヤナギの葉を事前に給与した牛に対して人工的に低カルシウム血症を誘起し、反応を検討した。
アルゼンチン産のリュウキュウヤナギの葉乾燥粉末を用いて、無添加(無添加区)及び体重1kg当たり4.0mg給与(4.0mg/kgBW区)の2区を設定し、実施例3と同一のホルスタイン雌牛4頭を2頭ずつ振り分けた。使用したリュウキュウヤナギならびに基礎飼料についても実施例3と同様に設定した。事前の給与期間は14日間とし、14日目の給与終了直後に採血を実施した。採血終了と同時に、低カルシウム血症を誘起させることを目的として4.7%(w/v)NaEDTA溶液1.5Lを頸静脈中に3〜4時間かけて点滴注入し、点滴開始より12時間後まで30分毎に採血した。血清活性型ビタミンD濃度はEDTA溶液の点滴開始時から3時間毎に採取した検体につき測定し、血清カルシウム濃度については全ての検体を測定した。
2週間の給与期間終了後(=EDTA溶液の点滴開始時)の血清活性型ビタミンD濃度及び血清カルシウム濃度を表4に示した。試験1と同様に、血清活性型ビタミンD濃度及びカルシウム濃度は4.0mg/kgBW区において高い値を示した。なお、2週間の給与期間中、飼料摂取量の低下は認められなかった。
【0020】
【表4】

【0021】
EDTA溶液の点滴開始後の血清活性型ビタミンD濃度及びカルシウム濃度の推移を図1及び図2に示した。
EDTA溶液の点滴開始後、無添加区において血清活性型ビタミンD濃度は時間の経過に伴い増加したのに対し、4.0mg/kgBW区では減少した。しかし、点滴開始時点で4.0mg/kgBW区が大きく上回っていたため、血清活性型ビタミンD濃度は4.0mg/kgBW区の方が高い水準で推移した。
一方、血清カルシウム濃度は無添加区ではEDTA溶液の点滴開始後1.5〜5.5時間の間、低カルシウム血症の指標となる8.0mg/dLを下回ったのに対し、4.0mg/kgBW区では概ね10mg/dL以上の水準を維持した。
【0022】
分娩時にアルファルファと穀物からなるTMR(Total Mixed Ration)を給与した乳牛においては血清カルシウム濃度が平均約8mg/dLであったものが分娩時には約5mg/dL程度に約3mg/dL程度低下することが報告されている(Goff et al,J.Dairy Sci.85:1427−1436,2002)。本試験においてもEDTA溶液の点滴により無添加区と4.0mg/kgBW区いずれの区においても点滴開始2.5〜3.0時間後に点滴開始前と比較して血清カルシウム濃度が約3mg/dL低下し、分娩時に類似した状態を人為的に再現できたと言える。今回、4.0mg/kg区で10mg/dL以上の水準を維持したが、これは事前のリュウキュウヤナギの給与により点滴開始時点の血清カルシウム濃度が高かったことが影響したものと考えられる。以上の結果より、リュウキュウヤナギの葉乾燥粉末の給与が低カルシウム血症を予防することが示唆された。
【0023】
分娩前後の低カルシウム血症時の血清カルシウム濃度の低下幅を約3mg/dLとすると、分娩時に8mg/dL以上の正常な血清カルシウム濃度を保つためには分娩に入る前の血清カルシウム濃度として11mg/dL以上が必要となる。実施例4で得られた回帰式2より血清カルシウム濃度を11mg/dL以上に保つために必要なリュウキュウヤナギの葉乾燥粉末の添加量は約1.5mg/kgBW以上となる。
また、実施例3においてリュウキュウヤナギの葉乾燥粉末の10mg/kgBW以上の添加でビタミンD過剰症と考えられる著しい飼料摂取量の低下が見られた一方で、実施例5においては4mg/kgBWの添加で飼料摂取量に影響が見られなかったことから、飼料摂取量の低下を引き起こさずに添加できるリュウキュウヤナギの葉乾燥粉末の添加上限は4mg/kg以上10mg/kg未満と考えられた。
以上より低カルシウム血症予防の目的での体重1kgあたりのリュウキュウヤナギの葉乾燥粉末の最適添加量は1.5〜4.0mgと考えられた。乳牛の標準的な生体重は約650kg、胎児の生体重は40kg程度で合計約700kg程度であることから、1日1頭当たりのリュウキュウヤナギの葉乾燥粉末の最適添加量は約1〜2.8gと考えられた。一般的に分娩前の配合飼料給与量は2〜4kg、粗飼料も合算した総飼料摂取量は約10kgであることから、飼料に対してのリュウキュウヤナギの葉乾燥粉末の最適添加量は配合飼料当たりおおよそ0.025〜0.15重量%、トータルの飼料換算ではおおよそ0.01〜0.03重量%と推定された。
【0024】
上記の実施例ではリュウキュウヤナギを含有させたものを示したが、シロバナコウボクを含有させた場合にも同様の低カルシウム血症の予防又は緩和効果が得られる。
リュウキュウヤナギに含まれる活性型ビタミンD配糖体は活性型ビタミンD換算で約67〜89ppb程度であることが報告されている(Wasserman et al,Science Nov19;194(4267):853−855,1976)。一方、シロバナコウボクは少なくとも活性型ビタミンD換算で4ppb以上の活性型ビタミンD配糖体を含有することが知られている(Huqhes et al,Nature Jul28;268(5618):347−349,1977)。よって、シロバナコウボクを約20倍量含有させた場合にも、同一の有効成分が供給される。シロバナコウボクの最適添加量は配合飼料当たり0.5〜3.0重量%、トータルの飼料換算では0.2〜0.6重量%となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】EDTA溶液の点滴開始後の血清活性型ビタミンD濃度の推移を示すものである。
【図2】EDTA溶液の点滴開始後の血清カルシウム濃度の推移を示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リュウキュウヤナギ、シロバナコウボクからなる群から選ばれた少なくとも1種類の葉乾燥粉末又は葉溶媒抽出物を含有することを特徴とする反芻動物用飼料。
【請求項2】
前記葉溶媒抽出物が水、エタノールからなる群から選ばれた少なくとも1種類の溶媒による抽出物であることを特徴とする請求項1に記載の反芻動物用飼料。
【請求項3】
反芻動物が、牛、めん羊及び山羊からなる群から選ばれたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の反芻動物用飼料。
【請求項4】
給与期間が分娩3週間前から分娩1週間後の期間を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の反芻動物用飼料。
【請求項5】
低カルシウム血症あるいは低カルシウム血症に起因する乳熱、ダウナー症候群、第四胃変異の予防性又は緩和効果を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の反芻動物用飼料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の反芻動物用飼料を反芻動物に給与することを特徴とする反芻動物の飼育方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−29165(P2010−29165A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197794(P2008−197794)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(591010505)日本配合飼料株式会社 (10)
【Fターム(参考)】