説明

収着材料

【課題】塩化物系の混合塩からなる電解質融液中のCs又はSr、例えば、塩化物系使用済電解質融液中に残留するFPであるCs又はSrを選択的に収着することで、電解質の再生が簡便化出来る収着材料が求められている。
【解決手段】Feを必須成分とし、モル%で表して、Feが1〜50、Pが50〜80、かつ、Al、B、TiO、CoO、NiO、CeO、Cr、La、MoO、Nb、WOから選択される1種以上の合計が1〜40のFe−P系ガラスからなり、塩化物系の混合塩からなる電解質融液中のCs又はSrを選択的に収着することを特徴とする収着材料。ガラス転移点が450℃以上である特徴も持つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化物系の混合塩からなる電解質融液中のCs又はSr、例えば、使用済核燃料の乾式再処理工程で生じる塩化物系使用済電解質融液中に蓄積した核分裂生成物であるCs又はSrを選択的に収着させることで、電解質と核分裂生成物を分離可能なFe−P系ガラスからなる収着材料に関する。
【背景技術】
【0002】
使用済核燃料の乾式再処理工程は、溶媒である塩化物系の高温溶融塩に使用済燃料を溶解し、電解処理することにより陰極に析出する電解析出物であるウランや超ウラン元素(TRU)を回収し、再処理製品としている。このような工程で発生する使用済電解質は、アクチノイド物質や核分裂生成物(FP)を含有しているために、高レベル放射性廃棄物として廃棄される。そのため、廃棄物量の低減や経済性の観点から、使用済電解質の再生を行う必要性がある。
【0003】
従来の技術として、使用済電解質融液中に残留するアクチノイド物質を還元・抽出工程で取り除き、ゼオライトカラムを通過させることでFPを吸着・除去する再生処理工程が検討されている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、この再生処理工程では、FPを吸着したゼオライトを安定化させるためにソーダライト固化体に転換する際、ゼオライト中のFPが脱離する。これにより、この脱離したFPを再度ゼオライトに吸着させて安定化させる必要があるため、最終的にFPを安定化させたソーダライト固化体が大量に発生する。そのため、環境負荷及び経済性の点から大きな課題となっている。
【0004】
この問題を解決すべく、使用済電解質融液中のFPをリン酸塩に転換することにより沈殿分離し、電解質の再生を試みる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、使用済電解質融液中に残留するFPのうちランタノイド系の塩(例えば塩化ランタン等)はリン酸塩に転換することにより沈殿物として塩化物系電解質融液から分離するものの、リチウムを除くアルカリ金属或いはアルカリ土類金属(例えば、塩化セシウム、塩化ストロンチウム等)はリン酸塩に転換しても塩化物系電解質融液中に沈殿しないものがあるという問題がある(例えば、非特許文献2参照)。そのため、沈殿分離後の電解質融液もまた処理・処分が必要であり、経済性の面から大きな課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−303934号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「乾式再処理技術開発における要素技術開発の現状」明珍宗孝、青瀬晋一、サイクル機構、No.24別冊、2004、11、p166
【非特許文献2】「乾式再処理から発生する廃溶融塩の固化技術の開発」豊原尚美 他、日本原子力学会和文論文誌、Vol.1、No.4、2002、p420
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであって、塩化物系の混合塩からなる電解質融液中のCs又はSr、例えば、塩化物系使用済電解質融液中に残留するFPであるCs又はSrを選択的に収着することで、電解質の再生が簡便化出来るFe−P系ガラスからなる収着材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はFeを必須成分とし、モル%で表して、Feが1〜50、Pが50〜80、かつ、Al、B、TiO、CoO、NiO、CeO、Cr、La、MoO、Nb、WOから選択される1種以上の合計が1〜40、含むことを特徴とするFe−P系ガラスからなり、塩化物系の混合塩からなる電解質融液中のCs又はSrを選択的に収着することを特徴とする収着材料である。
【0009】
また、前記ガラスのガラス転移点が450℃以上であることを特徴とする上記の収着材料である。
【0010】
塩化物溶融塩に使用済核燃料を溶解し、電解処理する工程で発生する使用済電解質を加熱溶融した状態で、上記の収着材料に接触させて、Cs又はSrを選択的に収着させて該電解液からCs又はSrを除去する方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、塩化物系の混合塩からなる電解質融液中のCs又はSr、例えば、塩化物系使用済電解質融液中に蓄積した核分裂生成物であるCs又はSrを収着でき、電解質の再生が可能となり、環境及び経済面での負荷を低減することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、塩化物系の混合塩からなる電解質融液中のCs又はSrを選択的に収着する収着材料であり、Feを必須成分とするFe−P系ガラスからなる。
【0013】
本発明の成分系においてFeはCsを収着するための必須成分であり、P系ガラスで問題となる吸湿性を改善し、ガラスを安定化させる成分である。ガラス中にモル%で1〜50%の範囲で含有させることが望ましい。1%未満では上記作用を発揮しえず、50%を超えるとガラス化しなくなる。より好ましくは5〜45%の範囲、さらに好ましくは20〜35%の範囲である。
【0014】
はガラスの主成分であり、ガラス溶融を容易とする成分である。ガラスを形成するための必須成分である。ガラス中にモル%で50〜80%の範囲で含有させることが望ましい。50%未満では上記作用を発揮しえずかつガラス化が困難となり、80%を超えるとガラスの耐湿性が悪くなる。より好ましくは55〜75%の範囲である。
【0015】
Alはガラス作製の際に結晶化を抑制し、耐久性を向上させる成分である。またガラス中に含有することで、溶融塩に浸漬してCs又はSrを収着した後でも材料形状を維持できるようになる。
は軟化点及びCs又はSrの収着性を調整することが出来る成分である。
【0016】
TiOはガラスの耐熱性を向上させ、またAlと同様にCs又はSrを収着後の材料の形状を維持しやすくなる成分である
CoOはBと同様に、Cs又はSrの収着性を調整することが出来る成分である。
【0017】
NiOはB、CoOと同様に、Cs又はSrの収着性を調整することが出来る成分である。
【0018】
CeOは結晶化を抑制し、また、Bと同様に、Cs又はSrの収着性を調整することが出来る成分である。
【0019】
CrはTiOと同様に、ガラスの耐熱性を向上させ、ガラス作製の際に結晶化を抑制しする成分である。またガラス中に含有することで、溶融塩に浸漬してCs又はSrを収着した後でも材料形状を維持できるようになる。
【0020】
LaはBと同様に、Cs又はSrの収着性を調整することが出来る成分である。
【0021】
MoOはBと同様に、Cs又はSrの収着性を調整することが出来る成分である。
【0022】
NbはBと同様に、Cs又はSrの収着性を調整することが出来る成分である。ガラス中に含有することで、溶融塩に浸漬してCs又はSrを収着した後でも材料形状を維持できるようになる。
【0023】
MoOはBと同様に、Cs又はSrの収着性を調整することが出来る成分である。
【0024】
前記Al、B、TiO、CoO、NiO、CeO、Cr、La、MoO、Nb、WOから選択される1種以上の合計がモル%で1〜40%の範囲でガラス中に含有させることが望ましい。1%未満では、前記効果が得られず、40%以上ではガラス化が困難となる。より好ましくは1〜35%の範囲である。
【0025】
この他にも、一般的な酸化物で表すSiO、ZrO、CuO、V5、SnO、GeOなど、あるいはFやClなどを、上記性質を損なわない範囲で3%まで加えてもよい。
【0026】
上記ガラスのガラス転移点が450℃以上であることを特徴とする収着材料であることが望ましい。本発明の目的とする電解質の融点は一般的に450℃以上であるため、ガラス転移点がその温度以下では、使用時に形状を維持出来なくなる。
【0027】
本発明の収着材料のCs又はSrの収着効果は、イオン交換、分子篩い、反応・結晶化などのいずれかによるもの、あるいはその複合である。
【0028】
本発明の収着材料は特に形状を問わないが、収着効果を上げる目的で、表面積を大きくし、粉末状、繊維状、あるいは多孔質にしても良い。
【0029】
本発明の収着材料は、Cs又はSrを含有する塩化物系電解質の溶融塩に効果を示す。ただし、塩化物系電解質は、リン酸塩等の他の塩を含有しても良い。
【0030】
収着材料としてのガラスは、例えば源として正リン酸を、Fe源として酸化鉄を、Al源として酸化アルミニウムを、B源として硼酸を、TiO源として酸化チタンを、CoO源として酸化コバルトを、NiO源として酸化ニッケルを、CeO源として酸化セリウムを、Cr源として酸化クロムを、La源として酸化ランタンを、MoO源として3酸化モリブデンを、Nb源として酸化ニオブを、WO源として酸化タングステンを使用し、白金ルツボに投入し、電気加熱炉内で1100〜1300℃、1〜3時間加熱溶融した後、溶融ガラスを鋳型に流し込む等の手段で求める形状を作製すればよい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例に基づき、説明する。
【0032】
源として正リン酸を、Fe源として酸化鉄を、Al源として酸化アルミニウムを、B源として硼酸を、TiO源として酸化チタンを、CoO源として酸化コバルトを、NiO源として酸化ニッケルを、CeO源として酸化セリウムを、Cr源として酸化クロムを、La源として酸化ランタンを、MoO源として3酸化モリブデンを、Nb源として酸化ニオブを、WO源として酸化タングステンを使用してこれらを表1,2の組成となるべく調合した。各調合原料を白金ルツボに投入し、電気加熱炉内で1250℃、3時間加熱溶融した。溶融ガラスを鋳型に流し込み、ブロック状とし、ガラス転移点以上に保持した電気炉内に移入して徐冷し、表1の実施例1〜11、表2の比較例1〜3に示す組成のガラスを得て、収着材とした。
【表1】

【表2】

【0033】
このようにして作製した各試料について、ガラス転移点、収着効果及び収着率を評価した。
【0034】
ガラス転移点は、JIS R 3103−3に基づき、熱機械分析装置TMA8310(リガク(株)製)を用いて測定した。
【0035】
Csの収着効果は、LiCl−KCl混合塩にCsClを0.6×10−3mol/g添加し、乾燥した大気中500℃で加熱することで溶融塩とし、上記収着材を同条件で比較するために、直径20mmφ、高さ50mmの円柱状に加工したものを5時間浸漬した。浸漬後の試料をX線回折により分析することで、Csの収着効果を評価した。
【0036】
Cs及びSrの収着率は、LiCl−KCl共晶塩5gにClが0.003molとなるように模擬FPの塩化物であるCsCl、SrCl、を添加し、化学量論量の3倍のリン酸塩転換材(LiPO)を加え、600℃で24時間溶融した。次いで、250〜425μmに粉砕・分級した上記収着材を0.5g投入し、480℃、500℃、520℃の処理温度で24時間溶融した。その後、冷却固化して、6Lの水で洗浄し、ICP発光分析装置ULTIMA2(Horiba Jobin Yvon製)を用いて、回収した洗浄液中のCs、Sr、Laの残留量を測定し、その残留量から収着率を評価した。
【0037】
(結果) 組成及び、各種試験結果を表に示す。
【0038】
表から明らかなように、実施例1〜11の各試料は、各組成が適切な範囲であるため、安定なガラスが得られ、またガラス転移点も所望の範囲に入っていた。溶融電解質に浸漬後、実施例1の粉末X線回折の結果を例として図1に示すが、浸漬後の試料よりCsを含む結晶が観測され、Csの収着効果が得られた。また、図2及び図3に、実施例1、2、4、11のCs及びSr収着率を例として示すが、すべての試料で20〜60%のCs及びSr収着率が得られた。
【0039】
これらに対して、比較例1は、組成が適切な範囲でないため、ガラス化はしたものの、ガラス転移点が所望の値より低かったため、溶融電解質に溶解してしまい、Cs及びSr収着効果は得られなかった。比較例2は、ガラス化しなかった。比較例3の試料は一般的なソーダライムガラスであるが、Feを含有していないため、Cs及びSrの収着効果は得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例1の粉末X線回折の結果である。
【図2】実施例1,2,4,11のCs収着率を示す図である。
【図3】実施例1,2,4,11のSr収着率を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feを必須成分とし、モル%で表して、
Feが1〜50、
が50〜80、かつ、
Al、B、TiO、CoO、NiO、CeO、Cr、La、MoO、Nb、WOから選択される1種以上の合計が1〜40、
含むFe−P系ガラスからなり、塩化物系の混合塩からなる電解質融液中のCs又はSrの選択的収着性を有することを特徴とする収着材料。
【請求項2】
前記ガラスのガラス転移点が450℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の収着材料。
【請求項3】
塩化物溶融塩に使用済核燃料を溶解し、電解処理する工程で発生する使用済電解質を加熱溶融した状態で、請求項1又は2に記載の収着材料に接触させて、Cs又はSrを選択的に収着させて該電解液からCs又はSrを除去する方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−185023(P2012−185023A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47984(P2011−47984)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】