説明

収穫後農産物用硝酸低減剤および収穫後農産物の硝酸を低減化する方法

【課題】収穫後農産物の冷蔵保存時や冷蔵輸送時などのポストハーベスト時に炭酸ガスを少量ずつ持続的に発生させ、農産物周辺の炭酸ガス濃度を持続的に高濃度に保つことにより、農産物における葉の窒素投資量を減少させ、延いては硝酸を効果的に低減化する、安全で確実な収穫後農産物用硝酸低減剤および収穫後農産物の硝酸を低減化する方法を提供すること。
【解決手段】芳香族有機酸と炭酸塩とを含有することを特徴とする収穫後農産物用硝酸低減剤および該硝酸低減剤を用いる収穫後農産物の硝酸を低減化する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農産物の硝酸低減剤および農産物の硝酸を低減する方法に関する。さらに詳しくは、摂取時に人体には好ましくない農産物中の硝酸を、収穫後の輸送・貯蔵・保存中に、特に低温での冷蔵輸送、冷蔵貯蔵、冷蔵保存中に効果的に減少させ、さらには各種農産物の変色や柔軟化などの自動劣化を効果的かつ持続的に遅延させ、保存性を高めるのにも有効な、安全性の高い収穫後農産物用硝酸低減剤および収穫後農産物の硝酸を低減化する方法の提供を目的とする。
【背景技術】
【0002】
従来から、野菜や果実などの農産物の生産過程においては、生産効率を上げる目的で、硝酸を多量に使用する農法がとられており、結果として市販される多くの農産物は硝酸過多になっている(非特許文献1、2)。
【0003】
硝酸は経口的に摂取されると、口腔内や消化器官内で微生物の作用により亜硝酸に還元される。この亜硝酸は血中に入り、ヘモグロビンの鉄を酸化し、呼吸阻害の原因となるメトヘモグロビンを生成させ、ヒトに害を及ぼす。亜硝酸は、また、胃の中でアミン類と反応し、発がん性を有するN−ニトロソ化合物に変換されることが指摘されている(非特許文献3、4)。
【0004】
一方、ヒトが摂取する硝酸の大部分は野菜から摂取されるといわれており(非特許文献1、4)、野菜中の硝酸含量を低減させれば、ヒトが摂取する硝酸量を減じることができ、硝酸が原因となる上記のヒトの健康に対する悪影響を低減化できる。
【0005】
したがって、野菜をはじめとする農産物中の硝酸濃度低減への試みが様々に検討されてきた。例えば、農産物栽培時の窒素施肥量の制限や緩効性肥料の利用、施肥窒素の形態としてのアンモニア態窒素の利用、品種の選定、さらには光、温度、水分、pHなどの栽培環境の制御、そして硝酸化成抑制剤の利用などが野菜の硝酸濃度低減対策として提言されてきた(非特許文献5)。
【0006】
また、具体的な硝酸濃度低減方法として、水耕栽培時に収穫に先立って、栄養液での栽培を止め、水のみで栽培する方法(特許文献1)や、発酵させた木質系土壌改良剤を栽培土壌に配合する方法(特許文献2)、マグネシウム塩やカルシウム塩などの塩類を植物体に作用させる方法(特許文献3〜5)、硝酸還元酵素の構成要素であるモリブデンを含有する硝酸低減剤を葉面に散布する方法(特許文献6)などが提案されている。
【0007】
しかしながら、これらの提言や提案もそれぞれ別の新たな問題点を内包することとなり、野菜の高硝酸化対策の決定打にはなっていない。例えば、野菜の硝酸含量は、窒素施肥量がある限度を超えると高くなることから、窒素施肥量を制限し、窒素の吸収量を減らす対策が考えられるが、窒素施肥を抑制すると、今度は窒素不足で収量が低下してしまうという新たな問題点を惹起してしまう。
【0008】
また、上記の農産物中の硝酸濃度低減への試みは、水耕栽培、土壌配合、土壌潅水、葉面散布などと方法は異なるが、いずれも農産物の生産時に適用する手段であり、農産物の高硝酸化対策のみに配慮した生産方法としてなら採用も考えられるが、一方で効率的な農業生産が求められる生産農家が実際的に使用できる方法としては問題点を残している。
【0009】
そこで、農産物の生産時ではなく、収穫の後の貯蔵、輸送、保存など、ポストハーベスト時に硝酸濃度低減技術を適用すれば、より効率的に、硝酸濃度を低減させられると考えられるが、有効かつ実用的な硝酸低減技術や手段は未だ報告されていない。したがって、ポストハーベスト時の硝酸低減、すなわち、収穫後農産物の硝酸低減対策を具現化した新技術の提案が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−61570号公報
【特許文献2】特開2006−271237号公報
【特許文献3】特開2006−109719号公報
【特許文献4】特開2006−36684号公報
【特許文献5】特開2008−184454号公報
【特許文献6】特開2003−180165号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】大槻理美子、菊川清見:「国内産野菜からのニトロソアミン生成効率」、食品衛生学雑誌、第46巻、第2号、58頁〜61頁、2005年
【非特許文献2】藤沼賢司、井部明広、田端節子、橋本秀樹、斉藤和夫、中里光男、石川ふさ子、守安貴子、嶋村保洋、菊池洋子、小川仁志、牛山博文、横山敬子、安田和男:「野菜類などの硝酸根、亜硝酸根含有量調査」、東京都健康安全研究センター研究年報、第58号、195頁〜203頁、2007年
【非特許文献3】山下市二:「野菜の硝酸」、食品衛生学雑誌、第43巻、第1号、J12頁〜J15頁、2002年
【非特許文献4】村田美穂子、石永正隆:「市販飲料中の硝酸塩および亜硝酸塩の含有量調査」、食品衛生学雑誌、第46巻、第4号、165頁〜168頁、2005年
【非特許文献5】安田環:「野菜の硝酸濃度とその低減対策」、農業および園芸、第79巻、第6号、647頁〜651頁、2004年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって本発明の目的は、上記従来技術の問題点を克服し、収穫後農産物の冷蔵保存時や冷蔵輸送時などのポストハーベスト時に炭酸ガスを少量ずつ持続的に発生させ、農産物周辺の炭酸ガス濃度を持続的に高濃度に保つことにより、農産物における葉の窒素投資量を減少させ、延いては硝酸を効果的に低減化する、安全で確実な収穫後農産物用硝酸低減剤および収穫後農産物の硝酸を低減化する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の目的を達成すべく鋭意研究の結果、芳香族有機酸と炭酸塩との混合物を収穫後農産物用硝酸低減剤として用い、さらにはこれをタブレットに成形することにより上記の如き従来技術の問題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、芳香族有機酸と炭酸塩とを含有することを特徴とする収穫後農産物用硝酸低減剤(以下単に「硝酸低減剤」という)を提供する。
【0014】
上記本発明の硝酸低減剤においては、芳香族有機酸が、桂皮酸、コーヒー酸、p−クマル酸、安息香酸、バニリン酸、シリンガ酸、フェルラ酸およびサリチル酸から選ばれる少なくとも1種であること;炭酸塩が、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウムまたは炭酸カルシウムであること;タブレットに成形されていること;および冷蔵用であることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、前記本発明の硝酸低減剤を、収穫後の農産物と同一雰囲気中に共存させることを特徴とする収穫後農産物用硝酸低減化方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の硝酸低減剤は、後述するように、農産収穫物の貯蔵や保存に必須な冷蔵条件下においても、優れた炭酸ガス上昇能を発現しつつ、農産物、特にほうれん草や小松菜などの葉菜類野菜における葉の窒素投資を減少させ、葉の硝酸濃度を低減化し、当該農産物の安全性の向上に寄与し、同時に硝酸低減剤自体の安全性をも具備するものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。農産物の硝酸低減のための有効手段として、農産物の周辺における高炭酸ガス濃度の維持が挙げられる。高炭酸ガス濃度環境は農産物の窒素投資の再配分を促し、葉における窒素量を低減させ、炭酸同化に関わる酵素量を減少させる。その結果、当該酵素の不足分を補うためにタンパク質の合成が促進され、その際の窒素分の供給に農産物生体細胞内に過剰に蓄積された硝酸が使用されると考えられ、その結果、農産物の硝酸量が低減化すると考えられる。
【0018】
以下に、本発明の硝酸低減剤の収穫後農産物に対する硝酸低減作用をさらに詳しく説明する。そもそも植物体では、根から吸収された硝酸イオンは、大部分は葉などの硝酸同化が行われる地上部の器官に輸送され、そこでまず、硝酸還元酵素(NR)により亜硝酸イオンに還元され、さらに亜硝酸イオンは亜硝酸還元酵素(NiR)によりアンモニアイオンにまで還元される。
【0019】
このプロセスにおける中間産物の亜硝酸イオンには細胞毒性があるので、細胞内ではNiR活性がNR活性を上回るように制御されており、生じた亜硝酸イオンは直ちにアンモニアイオンに還元され、細胞内に亜硝酸イオンが蓄積されないようになっている。また、亜硝酸イオンから生じたアンモニアイオンも毒性を持つので、細胞内では直ちにアミノ酸に変換され、細胞内にアンモニアイオンが蓄積されないように制御されている。つまり、葉などの硝酸同化が行われる器官内では、NRやNiRなどの多くの酵素が関与する一連の反応の流れ(flux)により、毒性を持つ中間産物が細胞内に蓄積されないような仕組みで、硝酸イオンはアミノ酸へと同化される。
【0020】
一方、葉を構成する全窒素量のうち、7割以上は光合成に関わるタンパク質や酵素の窒素に由来している。中でもリブロース二リン酸カルボキシラーゼ・オキシゲナーゼ(Rubisco)という酵素は、葉の可溶性タンパク質の40%、或いは葉身全窒素の20〜30%を占めるといわれている。このRubiscoは、光合成における炭酸同化反応(カルビンベンソン回路)の初発反応、すなわち、二酸化炭素がリブロース1,5−二リン酸(RuBP)に固定されて、最初の安定な中間産物である3−ホスホグリセリン酸(PGA)を2分子生じる反応を触媒する酵素であり、炭酸同化反応においてはキー酵素である。
【0021】
さて、本発明の硝酸低減剤は、芳香族有機酸および炭酸塩からなり、農産植物が発散する蒸散水などの水と反応することにより徐々に炭酸ガスを発生し、密閉系において高炭酸ガス濃度環境を構築する作用を有する。本発明の硝酸低減剤を野菜などの農産植物存在雰囲気に共存させ、当該植物を高炭酸ガス濃度環境下に置くと、当該植物において窒素投資の再配分が進み、葉の窒素含量は減少する方向に変化する。その結果、上記の炭酸同化反応におけるキー酵素であるRubisco量も2次的に減少してしまう。
【0022】
そうなると、不足分の酵素を補うために細胞内ではタンパク質合成が促進され、アミノ酸の供給が促される。アミノ酸を供給するためには、アミノ酸の原料であるアンモニアイオンが必要になり、このアンモニアイオンを硝酸イオンから獲得しようとする作用が働く。つまり、上述の硝酸同化における一連の反応の流れと逆の反応の流れが発生し、過剰な硝酸イオンとして液胞に蓄積されていた硝酸イオンが、この「硝酸同化と逆の反応の流れ」により消費され、結果として葉における硝酸イオン量が低減化するものと思われる。
【0023】
本発明の硝酸低減剤の収穫後農産物とは、取り入れの済んだ農産物で、貯蔵、輸送、保存、陳列、家庭内保存、冷蔵庫内保存などの状況に置かれている農産物をいう。本発明で用いられる硝酸低減剤および硝酸低減方法によって硝酸が低減される農産物の範疇には、基本的には緑色植物であればどんな農産物も入るが、硝酸濃度が比較的高い葉菜類野菜、特にほうれん草、小松菜、チンゲンサイ、ターサイ、大根菜、水菜、サラダ菜、菊菜、春菊などが比較的好適に硝酸低減される。また、本発明の硝酸低減剤の硝酸とは、NO3で表される原子団および該原子団を含む化合物をいい、硝酸根、硝酸イオン、硝酸基、硝酸塩などが含まれ、低減化される対象という意味では硝酸性窒素、或いは硝酸態窒素も含まれる。
【0024】
本発明でいう芳香族有機酸とは、分子中にベンゼン環とカルボキシル基をそれぞれ1つ以上有する有機化合物のことをいい、具体的には桂皮酸とその誘導体(コーヒー酸、フェルラ酸、p−クマル酸など)、安息香酸、バニリン酸、シリンガ酸、サリチル酸などをいう。桂皮酸とその誘導体とは、プロペン酸(またはアクリル酸)の3位の炭素の水素が置換基を有していてもよいフェニル基によって置換された構造を持つ下記の式(1)で表される化合物の総称である。式中のXおよびYは、水素原子、水酸基、メトキシル基などの置換基であり、XとYは同一でも異なるものでもよい。
【0025】

【0026】
本発明で使用される桂皮酸またはその誘導体は、それ自身抗菌・防黴効果並びに鮮度保持効果を有するものが好ましいが、具体例としては、桂皮酸、フェルラ酸、コーヒー酸、シナピル酸、p−クマル酸などが挙げられる。これらは単独または2種以上組み合わせて使用される。特に食品添加物である桂皮酸は抗菌効果が強く好ましい。桂皮酸は、特開平5−117125号公報や特開平9−154482号公報などに開示されている如く、黴や細菌に対する抑制効果を有しているのに加えて、特開平9−154482号公報や特開平10−117680号公報に示されているとおり、鮮度劣化の原因となるエチレン濃度低減効果を有している。
【0027】
さらに、特開平10−117680号公報や特開平10−273401号公報などに示されている如く、農園芸産物のクロロフィルの劣化を抑制し、瑞々しい緑色を長く保持する効果をも有している。したがって、桂皮酸を本発明における芳香族有機酸として用いれば鮮度保持効果と硝酸低減効果が同時に発揮される。
【0028】
本発明において別の好ましい芳香族有機酸としては、安息香酸またはその誘導体が挙げられる。安息香酸の誘導体としては、それ自身抗菌・防黴効果が強いものが好ましいが、具体的にはバニリン酸、シリンガ酸、サリチル酸などが挙げられる。また、本発明で用いられる安息香酸は、抗菌効果が強い上に食品添加物であるので、効果と安全性の両面で好ましい。
【0029】
本発明で用いられる炭酸塩としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸カルシウムなどが挙げられる。上記の炭酸塩は、それぞれ単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。また、食品添加物である炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸カルシウムなどは安全性の面からも好ましい。
【0030】
本発明において好ましい芳香族有機酸と炭酸塩の組み合わせの一つは、桂皮酸と炭酸水素ナトリウムである。この両者は食品添加物として指定されているので、安全性が高い。桂皮酸は特開平9−154482号公報に示されているように、その蒸気が、エチレン合成酵素の活性を阻害し、鮮度劣化の原因となるエチレンの発生を抑制するため、農産物に対して鮮度保持効果を発揮する。また、特開2002−80301号公報に示されているように、密閉系において農産物が発散する蒸散水などの水の存在下、桂皮酸と炭酸水素ナトリウムの混合物が発生する炭酸ガスも農産物に対して鮮度保持効果を発揮する。
【0031】
したがって、桂皮酸と炭酸水素ナトリウムの混合物を用いた硝酸低減剤が存在する雰囲気では、桂皮酸の効果と徐々に発生する炭酸ガスの効果により、農産物の鮮度が保持されつつ、さらに農産物中の硝酸濃度が効果的に減少すると考えられる。また、桂皮酸は抗菌効果を有するので、黴や細菌の汚染による農産物の品質劣化を阻止できる。この高炭酸ガス濃度・低エチレン濃度の効果と抗菌効果が相俟って、鮮度劣化などの農産物の品質劣化を防止しながら、顕著な硝酸低減効果が発揮されると考えられる。
【0032】
本発明の硝酸低減剤は15〜35℃の通常温度で用いられる他、野菜などの農産物を冷蔵庫などで冷蔵保存する際にも好適に用いられる。本発明で用いられる冷蔵用硝酸低減剤の冷蔵とは、外気温より低い温度の貯蔵温度で、貯蔵庫若しくは貯蔵容器、貯蔵施設内などに農産物を貯蔵または保存することをいい、貯蔵温度は−1.7℃〜15℃の場合をいう。本発明で用いられる冷蔵用硝酸低減剤は実際的には冷蔵庫若しくは冷蔵容器、冷蔵施設内などに農産物を冷蔵保存する際に用いられる。
【0033】
一般的に、野菜などの農産物は腐敗防止や鮮度保持の目的で、冷蔵保存される場合が多いが、冷蔵条件下においては、NRやNiRなどの硝酸同化に関係する酵素の活性が低下してしまうので、硝酸イオンが還元されずに細胞内に蓄積される傾向が強くなる。したがって、低温下で保存する場合は、野菜などの農産物の硝酸濃度は、通常温度で保存する場合よりも高くなる傾向を示す。
【0034】
本発明の硝酸低減剤は、このような冷蔵保存の際にも、農産物を高炭酸ガス濃度環境に置くことにより、葉部の窒素量を減少せしめ、延いては硝酸濃度を低減化することが可能である。したがって、本発明で用いられる冷蔵用硝酸低減剤は、冷蔵庫などで低温保存する場合、具体的には冷蔵庫の野菜室の標準温度である8℃±5℃の場合に特に好適に用いられる。
【0035】
(タブレット化)
タブレット化された本発明の硝酸低減剤は粉末状態の硝酸低減剤に比べて、取扱が容易であり、輸送しやすい。また、よりコンパクトであるので、スペース効率が高く、冷蔵庫などに置いても場所をとらない。これらの利点から、硝酸低減剤タブレットは実用性の高い形状として冷蔵庫用、容器用、袋用など広範囲の用途に用いられる。
【0036】
本発明で用いられるタブレットに成形した冷蔵用硝酸低減剤は、2種以上の硝酸低減剤成分粉末を混合し、圧縮成形することにより調製される。タブレット化に用いる機械は特に限定されず、粉末成分の一定量を圧縮成形することにより成形できる機能があればどのような機械も用いることができる。タブレット化時の圧縮成形圧は、タブレットの強度と関係があり、輸送中や取り扱い中にタブレットが崩れたりしないように、適切な圧縮成形圧でタブレット化する必要がある。本発明の硝酸低減剤をタブレット化する際に好適な圧縮成形圧は2〜1000kgf/cm2であり、さらに好ましくは10〜600kgf/cm2の圧縮成形圧が用いられる。
【0037】
タブレットは、1個あたり1〜150gのものが用いられるが、好ましくは2〜50gのものが、用途や使用状況に応じて用いられる。タブレットの使用量は任意であるが、使用空間の大小に応じて適宜用いられる。例えば、冷蔵庫の野菜室で用いる場合は、0.05〜20g/L量のタブレットが好適に用いられ、特に好ましくは0.1〜5g/L量のタブレットが用いられる。タブレットの形状は特に限定されない。
【0038】
本発明の硝酸低減剤の使用形態は、上記のタブレットの他、特に限定されないが、上記の芳香族有機酸、例えば、桂皮酸と炭酸塩、例えば、炭酸水素ナトリウムとを必要に応じて種々の添加剤とともに粉体または顆粒状とし、そのまま或いは成形して、または適当な担体に担持して使用される。また、芳香族有機酸を複数の芳香族有機酸、例えば、桂皮酸、桂皮酸の誘導体、安息香酸、バニリン酸、シリンガ酸、サリチル酸などから選ばれる複数の物質の混合物でもよいし、炭酸塩を複数の炭酸塩、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウムなどから選ばれる複数の物質の混合物でもよい。
【0039】
本発明の硝酸低減剤の使用量は、発生させる炭酸ガスの量に合わせて使用されるが、目安としては、農産物の種類によって差異はあるが、農産物100質量部に対して0.1〜150質量部程度の割合である。芳香族有機酸と炭酸塩との混合比は、任意に決定できるが、芳香族有機酸:炭酸塩の当量比が1:0.1〜1:10の範囲の時に好ましい硝酸低減効果が発現され、特に上記当量比が1:0.2〜1:2の範囲の時には顕著な硝酸低減効果が発現される。
【0040】
農産物の硝酸を低減化するためには、農産物と本発明の硝酸低減剤とを同一雰囲気中に共存させることが必要である。農産物と硝酸低減剤の共存の態様は特に制限されず、例えば、ポリ袋に両者を入れる、ダンボール箱に直接入れられた野菜類と硝酸低減剤とをコンテナ中で共存させる、或いは冷蔵庫の野菜室で野菜類と硝酸低減剤を共存させるなどの態様が挙げられる。いずれの共存の態様においても、本発明の硝酸低減剤の使用量は特に限定されない。
【0041】
このようにして、本発明の硝酸低減剤を野菜、果実などの収穫後農産物に作用させると、雰囲気の炭酸ガス濃度が持続的に高まり、通常温度での貯蔵のみならず、硝酸濃度が上昇しがちな冷蔵条件下においても該農産物の硝酸濃度の低減化が実現される。また、芳香族有機酸の持つ抗菌、防黴性も有効に作用し、汚染菌や悪臭の発生も抑制される。さらに、芳香族有機酸として桂皮酸を用いれば、農産物のクロロフィル劣化も抑制され、農産物の瑞々しい緑色が保持される。本発明の硝酸低減剤には本発明の効果を損しない範囲で添加剤、抗菌剤、防黴剤などを加えることができる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を挙げて本発明を詳しく説明する。なお、文中の硝酸低減剤素材の混合比率は質量基準である。
【0043】
実施例1(冷蔵下での本発明の硝酸低減剤のほうれん草に対する硝酸イオン低減効果)
ほうれん草の葉2枚(約8g)を市販の鮮度保持袋(ポリエチレン製、178×202mm)に入れた。このうち、1つの鮮度保持袋は対照とし、残りの鮮度保持袋には本発明の硝酸低減剤を入れ、ほうれん草の雰囲気に共存させた。硝酸低減剤は次のようにして鮮度保持袋に入れた。硝酸低減剤(桂皮酸:炭酸水素ナトリウム=2:1の混合粉末)の5gまたは10gを市販麦茶パック(ポリエステル製、110×105mm)に入れ、さらにこの麦茶パックをほうれん草が入っている上記鮮度保持袋に入れた。対照の袋には、麦茶パックのみを入れた。
【0044】
このようにして調製したほうれん草入り鮮度保持袋を冷蔵庫中で約8℃にて5日間放置し、各ほうれん草の硝酸イオン含量を測定した。硝酸イオン含量は次のようにして測定した。すなわち、各ほうれん草の葉を細かく切断した後、これを市販ジューサー(定格消費電力200W、サイズ:185×160×275mm)に投入し、100%のほうれん草ジュースを調製し、このジュースの硝酸イオン濃度を硝酸イオンメーター((株)堀場製作所製、堀場C−141硝酸イオン計)にて測定した。各ほうれん草の硝酸イオン含量の測定結果は表1に示した。表1の結果より、硝酸低減剤を共存させたほうれん草と対照のほうれん草の硝酸イオン含量を比較すると、明らかに硝酸低減剤を共存させたほうれん草の硝酸イオン含量が小さく、冷蔵条件下において本発明の硝酸低減剤は、ほうれん草に対して硝酸イオン低減効果を有することが分かった。
【0045】

【0046】
実施例2(冷蔵下での本発明の硝酸低減剤タブレットの小松菜に対する硝酸イオン低減効果)
小型プレス機(蛍光X線測定用タブレット作成用)のシリンダー部に、桂皮酸と炭酸水素ナトリウムを2:1(重量比)に混合した硝酸低減剤2.5gを入れ、215kgf/cm2の圧力で圧縮成型し、直径32mm、厚さ2mmのタブレットを作成した。次に、小松菜の葉2枚(約8g)を市販の鮮度保持袋(ポリエチレン製、178×202mm)に入れた。このうち、1つの鮮度保持袋は対照とし、残りの鮮度保持袋には本発明の上記の硝酸低減剤タブレットを入れ、小松菜の雰囲気に共存させた。硝酸低減剤タブレットは次のようにして鮮度保持袋に入れた。硝酸低減剤タブレット2個または4個を市販麦茶パック(ポリエステル製、110×105mm)に入れ、さらにこの麦茶パックを小松菜が入っている上記鮮度保持袋に入れた。対照の袋には、麦茶パックのみを入れた。このようにして調製した小松菜入り鮮度保持袋を冷蔵庫中で約8℃にて6日間放置し、各小松菜の硝酸イオン含量を測定した。
【0047】
硝酸イオン含量は次のようにして測定した。すなわち、各小松菜の葉を細かく切断した後、これを市販ジューサー(定格消費電力200W、サイズ:185×160×275mm)に投入し、100%の小松菜ジュースを調製し、このジュースの硝酸イオン濃度を硝酸イオンメーター((株)堀場製作所製、堀場C−141硝酸イオン計)にて測定した。各小松菜の硝酸イオン含量の測定結果は表2に示した。表2の結果より、硝酸低減剤を共存させた小松菜と対照の小松菜の硝酸イオン含量を比較すると、明らかに硝酸低減剤タブレットを共存させた小松菜の硝酸イオン含量が小さく、冷蔵条件下において本発明の硝酸低減剤タブレットは、小松菜に対して硝酸イオン低減効果を有することが分かった。
【0048】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の硝酸低減剤は、上述のように、農産収穫物の貯蔵や保存に必須な冷蔵条件下においても、優れた炭酸ガス上昇能を発現しつつ、農産物、特にほうれん草や小松菜などの葉菜類野菜における葉の窒素投資を減少させ、葉の硝酸濃度を低減化し、当該農産物の安全性の向上に寄与し、同時に硝酸低減剤自体の安全性をも具備するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族有機酸と炭酸塩とを含有することを特徴とする収穫後農産物用硝酸低減剤。
【請求項2】
芳香族有機酸が、桂皮酸、コーヒー酸、p−クマル酸、安息香酸、バニリン酸、シリンガ酸、フェルラ酸およびサリチル酸から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の硝酸低減剤。
【請求項3】
炭酸塩が、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウムまたは炭酸カルシウムである請求項1または2に記載の硝酸低減剤。
【請求項4】
タブレットに成形した請求項1〜3の何れか1項に記載の硝酸低減剤。
【請求項5】
冷蔵用である請求項1〜4の何れか1項に記載の硝酸低減剤。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の硝酸低減剤を、収穫後の農産物と同一雰囲気中に共存させることを特徴とする収穫後農産物用硝酸低減化方法。

【公開番号】特開2010−207146(P2010−207146A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56813(P2009−56813)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】