説明

収納家具の転倒防止装置

【課題】 収納家具の本来の収納性を維持しながら設置後の見栄えがよく、しかも良好な突っ張り性を確保することができる収納家具の転倒防止装置を提供することを課題とする。
【解決手段】 天井面Yに配設された補強板6に上面11aが当接するチャンネル状のカバー部材11、側板2の突出部上面に当接するベース部材12、カバー部材11の上面11aの直下に設けられた中間部材13、ベース部材12と中間部材13との間に介装されたコイルバネ14、コイルバネ14を支持すると共に頭部15cがカバー部材11の上面11aから突出するバネ軸15、コイルバネ14を初期の圧縮状態でロックするロック部材、コイルバネ14の伸張時にベース部材12がカバー部材11の両側面11b,11b下端の所定量上方位置より下方に突出しないように規制するバネ軸15の中間部15b、及びカバー部材11の両端部の開口を覆う蓋部材18を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収納家具の上部と天井面との間に設置して該収納家具の転倒防止を図る装置に関し、家具の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、床面に載置される収納家具の転倒防止を図るため、該家具と壁面や天井面等とをねじやL型金具で結合したり、該家具と天井面との間で突っ張るアジャスタを設置するのが一般的である。しかしながら、これらの方法では天井面や床面の不陸を吸収するのは困難であり、また、収納物の重量による家具の沈み込みが生じた場合には、ねじや金具の再度の取り付け、アジャスタの調整等が必要となり、保守は面倒である。
【0003】
このような問題を解消する転倒防止装置としては、例えば特許文献1や特許文献2に記載のものがある。まず、図10に示すように、特許文献1に記載の装置AはラックBの転倒防止を図るためのもので、ねじ棒A1と、該ねじ棒A1の一端部に接続されたカップA2と、該カップA2の内部に装着された圧縮バネA3とを有している。
【0004】
そして、ねじ棒A1をラックBの最上部板B1にねじ込み、ねじ棒A1の上端部のカップA2にバネA3を装着したのち、天板B2を介して天井面Yにあてがった状態でねじ棒A1の最上部板B1へのねじ込み量を調整することにより、この装置AはラックBと天井面Yとの間で突っ張り、ラックBの転倒防止を図ることができる。また、この装置Aによれば、前述した不陸や沈み込みがあったとしても、バネA3の付勢力によって天板B2は天井面Yに押し付けられるため、保守は容易となる。
【0005】
一方、図11に示すように、特許文献2に記載の装置Cは収納庫Dの転倒防止を図るためのもので、天井面Yにあてがう滑り止め用のプレートC1と、該プレートC1に結合された例えばゴム製筒状のバネ材C2と、該バネ材C2の内方に設けられて該バネ材C2を伸張状態から圧縮状態とするときに操作するシャフトC3と、上記バネ材C2を圧縮状態に保持すると共にその状態を解除するときに操作するストッパC4と、これらを収納庫Dの上面に取り付けるための取付台C5とを有している。
【0006】
そして、バネ材C2が圧縮状態とされた2つの装置C,Cを収納庫Dと天井面Yとの間に設置したのち、取付台C5の側部に設けられた図示しない窓部を介してストッパC4を操作してバネ材C2を圧縮状態から伸張状態とすることにより、プレートC1は天井面Yに押し付けられる。すなわち、これらの装置C,Cは収納庫Dと天井面Yとの間で突っ張り、収納庫Dの転倒防止を図ることができる。また、これらの装置C,Cによれば、上記不陸や沈み込みがあったとしても、バネ材C2の付勢力によってプレートC1は天井面Yに押し付けられるため、保守は容易となる。
【0007】
【特許文献1】登録実用新案公報第3017667号公報
【特許文献2】特開2000−336811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に記載の装置Aでは、ラックBの内部にねじ棒A1の下端部が突出するため、このラックBの収納性が損なわれるという問題がある。一方、特許文献2に記載の装置Cでは、バネ材C2が露出するため見栄えが悪く、また、特にバネ材C2がゴム製である場合には物が当って傷付き、突っ張り性が損なわれるおそれがあるという問題がある。さらに、この装置Cを収納庫Dの上面に設置する場合、上面は通常強度的に弱く、所望の突っ張り性が得られないおそれがある。
【0009】
そこで、本発明は、収納家具の本来の収納性を維持しながら設置後の見栄えがよく、しかも良好な突っ張り性を確保することができる収納家具の転倒防止装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は次のように構成したことを特徴とする。
【0011】
まず、請求項1に記載の発明は、上方に突出する側板を備えた収納家具の上部と天井面との間に設置されて、弾性力に基づく突っ張り性によって収納家具の転倒を防止する転倒防止装置であって、天井面に当接する上面と上記側板の突出部に両側から係合する両側面とを有するチャンネル状のカバー部材と、該カバー部材内に収容されて上記側板の突出部上面に当接するベース部材と、該ベース部材を上記カバー部材内で下方に付勢するバネ部材と、該バネ部材を圧縮状態として上記カバー部材の上面と上記ベース部材とを接近させた状態でロックするロック手段と、上記カバー部材内に設けられて上記バネ部材の伸張時に上記ベース部材がカバー部材の両側面下端の所定量上方位置より下方に突出しないように規制するストッパ手段とが備えられていることを特徴とする。
【0012】
次に、請求項2に記載の発明は、上記請求項1に記載の発明において、カバー部材の上面から突出するピン部材が設けられていることを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、上記請求項1または請求項2に記載の発明において、バネ部材はコイルバネであると共に、ベース部材には該コイルバネに挿入されるバネ軸が立設され、該バネ軸の上部がカバー部材の上面から突出するピン部材とされていることを特徴とする。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、上記請求項3に記載の発明において、バネ部材とバネ軸とは、それぞれ複数備えられていることを特徴とする。
【0015】
また、請求項5に記載の発明は、上記請求項3または請求項4に記載の発明において、カバー部材の上面の直下にバネ軸が貫通する孔部を有する中間部材が設けられていると共に、バネ部材は該中間部材とベース部材との間に介装されており、かつ、ストッパ手段は、上記中間部材の孔部と、該孔部を貫通したバネ軸の上部に設けられて該孔部より径の大きい大径部とで構成されていることを特徴とする。
【0016】
また、請求項6に記載の発明は、上記請求項5に記載の発明において、ロック手段は、ベース部材に立設された支軸に設けられて水平面内で回動する細長いロック部材と、中間部材に設けられて上記ロック部材を所定の向きにおいてのみ挿通可能とする孔部とで構成されており、かつ、カバー部材の少なくとも一方の側面に、上記ロック部材を回動させるための工具を操作可能に工具操作窓部が設けられていることを特徴とする。
【0017】
また、請求項7に記載の発明は、上記請求項1から請求項6のいずれかに記載の発明において、カバー部材の両端部の開口を覆う蓋部材が備えられていることを特徴とする。
【0018】
そして、請求項8に記載の発明は、上記請求項1から請求項7のいずれかに記載の発明において、ベース部材には、当該転倒防止装置を側板の上部にねじ止めするためのねじ孔部が設けられていると共に、カバー部材の上面には、上記ねじ孔部に対応する箇所にねじ止め用の工具を操作可能に工具操作窓部が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
まず、請求項1に記載の発明によれば、この転倒防止装置をベース部材を介して側板の突出部に設置するので、収納家具の本来の収納性を維持することができる。その場合、ベース部材がカバー部材の両側面下端の所定量上方位置より下方に突出しないようにバネ部材を規制するストッパ手段を備えているので、カバー部材の両側面は常時側板の突出部に両側から係合可能となり、カバー部材の設置状態ひいては当該装置の設置状態が安定する。
【0020】
また、当該装置ではベース部材、バネ部材、ロック手段、及びストッパ手段をチャンネル状のカバー部材内に収容しているので、設置後の見栄えがよい。
【0021】
そして、側板の突出部上面に当接するベース部材と天井面に当接するカバー部材の上面との間にバネ部材を介装しているので、当該装置を収納家具と天井面との間に設置後、ロック手段を介してバネ部材の初期の圧縮状態を解除すれば、バネ部材はベース部材ひいては収納家具とカバー部材の上面ひいては天井面との間で突っ張り、収納家具の転倒防止を図ることができると共に、天井面や床面の不陸があったり収納物の重量による収納家具の沈み込みが生じたとしても、バネ部材の付勢力によって良好な突っ張り性を確保することができる。
【0022】
その場合、側板という収納家具の中でも上下方向の荷重に強い箇所に当該装置を設置するので、突っ張り性は一層良好に確保される。ところで、収納家具にねじ軸をねじ込んで設置する方式の従来の装置では、収納家具側に鬼目ナットのようなねじ込み部を設ける必要があるので、該ねじ込み部を側板の上部に設けた場合、施工時に収納家具の高さ調整のため側板の上部を切断するのは容易ではなく、また、切断後に再度ねじ込み部を設けることになって面倒である。それに対して本発明によれば、元々上記ねじ込み部を設ける必要がないので、側板の高さ調整つまり収納家具の高さ調整に容易に対応することができるメリットがある。
【0023】
次に、請求項2に記載の発明によれば、カバー部材の上面から突出するピン部材を設けているので、該ピン部材が挿通される孔部を天井面側に設けることにより、施工時の当該装置の位置合わせが容易となり、また倒れが防止される等、作業性が向上する。特に、天井面側に孔部を設けた補強板を配設して、新築時のみならず改築時あるいは転居時においても、天井面の強度状態に拘わらず収納家具の転倒防止を図ることができる。
【0024】
また、請求項3に記載の発明によれば、バネ部材としてのコイルバネがバネ軸によって安定的にベース部材上の所定の箇所で支持されて、正しく上下方向の付勢力を生成させることができる。その場合、バネ軸の上部を上記請求項2に記載のピン部材として利用するため、部品点数の低減ひいてはコストの削減を図ることができる。
【0025】
また、請求項4に記載の発明によれば、バネ部材とバネ軸とをそれぞれ複数備えることにより、バネ部材によってカバー部材の上面とベース部材との間をより均等に支持することができ、より広い受圧面積を確保することも可能となる。しかも、バネ軸がカバー部材の上面から突出しており、該バネ軸の上部が天井面側の孔部に係合することにより、天井面側に対する当該装置の回転が防止され、施工時の作業性が一層向上する。
【0026】
また、請求項5に記載の発明によれば、ストッパ手段が中間部材の孔部とバネ軸に設けられた大径部という比較的単純な構成で具体化され、コストの高騰を抑制することができる。
【0027】
また、請求項6に記載の発明によれば、ロック手段がロック部材と中間部材の孔部という比較的単純な構成で具体化され、コストの高騰を抑制することができる。しかも、手回しドライバ等の適宜の工具で工具操作窓部を介してロック部材を回動させるだけで容易にバネ部材のロック状態つまり初期の圧縮状態を解除することができ、施工時の作業性に優れる。
【0028】
また、請求項7に記載の発明によれば、蓋部材を備えることにより、カバー部材の両端部方向からの見栄えが向上する。さらに、バネ部材が最も圧縮された状態においても、蓋部材の下縁がベース部材より下方に位置しないように寸法を設定することにより、蓋部材の下縁が側板の突出部上面に干渉することはなく、当該装置の側板への設置を妨げない。さらに、例えば蓋部材の下縁とベース部材との間に生成される隙間を観察すればバネ部材の圧縮あるいは伸張状態がわかり、バネ部材が所定量を超えて伸張していると、収納家具の下部にアジャスタが設けられている場合にはこれを調整して、バネ部材を所定の状態とする等の処置を施すことができる。
【0029】
そして、請求項8に記載の発明によれば、ベース部材を介してねじ止めすることにより、当該装置を側板の突出部に堅固に固定することができ、安定して良好な突っ張り力を確保するのに効果的となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0031】
すなわち、図1及び図2に示すように、本発明に係る収納棚1は、上方に突出する複数の側板2…2と、互いに隣接する各一対の側板2,2間に架設された複数の棚板3…3とを有し、多数の収納空間が形成されている。また、この収納棚1は、床面Xに複数のアジャスタ脚4…4と該アジャスタ脚4…4を受ける脚受け部材5…5とを介して設置されている。そして、この収納棚1の上部と天井面Yとの間に、補強板6を介して複数の転倒防止装置7…7が装着されている。
【0032】
アジャスタ脚4は、収納棚1の設置高さを調整するためのものである。一方、脚受け部材5は、上記アジャスタ脚4を介して収納棚1の重量を面状かつ弾性的に受けるものであり、また、床面Xに対する滑り止め機能も備えている。
【0033】
図3〜図5に示すように、本発明の特徴部分である転倒防止装置7は、収納棚1に設けられた側板2の突出部と天井面Yとの間に、天井面Yに図示しない両面粘着テープで貼り付けられた収納棚1の幅方向に長い補強板6を介して設置される。そして、この転倒防止装置7は、カバー部材11、ベース部材12、中間部材13、一対のコイルバネ14,14、同じく一対のバネ軸15,15、支軸16、ロック部材17、及び一対の蓋部材18,18を有している。なお、図4及び図5は施工途中の状態つまりコイルバネ14,14が初期の圧縮状態の場合を示すもので、補強板6と転倒防止装置7との間に若干の隙間が形成されているが、施工後にはカバー部材11は矢印a及び細い二点鎖線で示すように補強板6に押し付けられるようになる。
【0034】
カバー部材11はアルミニウム製で、施工後に補強板6に当接することになる上面11aと側板2の突出部に両側から係合する両側面11b,11bとを有するチャンネル状とされている。また、上面11aには、バネ軸15,15の上部が突出可能に孔部11c,11cが設けられている。
【0035】
ベース部材12はスチール製で、カバー部材11内に収容されて側板2の突出部上面に当接するもので、長手方向の両端に上方に向く折曲部12a,12aと、長手方向に沿った両側に下方に向く折曲部12b,12bとを有している。なお、後者の折曲部12b,12bは、この転倒防止装置7を側板2の突出部に設置するときに、該側板2を両側から抱き込むガイド機能を備えている。
【0036】
また、ベース部材12の長手方向の両端近傍には、この転倒防止装置7を側板2の突出部上面にねじZ1,Z1を用いて固定するためのねじ孔部12c,12cが設けられており、一方、カバー部材11の上面11aには、上記ねじ孔部12c,12cに対応する箇所に、ねじ止め用の電動ドライバ等の工具を操作可能に工具操作窓部11d,11dが設けられている。なお、カバー部材11の上面11aには、この転倒防止装置7を補強板6にねじZ2,Z2を用いて固定する場合に利用されるねじ孔部(図3及び図4に一方のみ示す)11e,11eが設けられている。
【0037】
中間部材13はスチール製かつ略チャンネル状のもので、カバー部材11の上面11aの直下にビス19…19で固定されており、バネ軸15,15が貫通する孔部13a,13aが設けられている。また、中間部材13の長手方向の両端には、ベース部材12を側板2にねじ止めするときに、その作業を可能とするための切欠部13b,13bが設けられている。
【0038】
コイルバネ14,14はベース部材12をカバー部材11内で下方に付勢するもので、ベース部材12と中間部材13との間に介装されている。その場合、各コイルバネ14の上部は、樹脂製のバネ受け部材20で受けられている。
【0039】
バネ軸15,15はベース部材12に長手方向に所定の間隔を置いて立設されており、コイルバネ14,14に挿入されてこれらを支持する。各バネ軸15は、ベース部材12から延びる最も小径の基部15aと最も大径の中間部15bと中間径の頭部15cとで構成されている。その場合、中間部15bは、中間部材13に設けられた孔部13aより上方に設けられていると共に該孔部13aよりも径が大きく設定されている。頭部15cは、カバー部材11の上面11aの孔部11cから突出して補強板6に設けられた孔部6aに嵌り込むもので、面取りされている。
【0040】
支軸16は、一対のコイルバネ14,14に挟まれてベース部材12に立設されており、その上部に水平面内で回動する樹脂製の細長いロック部材17が設けられている。一方、中間部材12には、このロック部材17に対応する箇所に該ロック部材17を図3に細い二点鎖線で示す所定の向きにおいてのみ挿通可能とする平面視略矩形の孔部13cが設けられており、ロック部材17と中間部材13の孔部13cとにより、コイルバネ14,14を圧縮状態としてカバー部材11の上面11aとベース部材12とを接近させた状態でロックするロック機構が構成される。また、ロック部材17の下部は所定の形状に切り欠かれている。そして、カバー部材11の両側面11b,11bに、上記ロック部材17を回動させるための手回しドライバ等の工具を操作可能に工具操作窓部11f,11fが設けられている。
【0041】
蓋部材18,18はカバー部材11の両端部の開口を覆う樹脂製のもので、着脱可能に備えられている。すなわち、各蓋部材18には、カバー部材11内方に略板状に延びる各一対の上部係合部18a,18aと、一部スリットされて断面が略ロ字様に延びる下部係合部18b,18bとが設けられており、一方、カバー部材11の上面11aには、上部係合部18a,18aの先端近傍の突起が嵌り込む係合孔部11g…11gが、カバー部材11の両側面11b,11bには、下部係合部18b,18bが係合する長手方向に沿って延びるレール部11h,11hが設けられている。
【0042】
そして、図6及び図7に、付勢力が所望の値の下限に低下するまでコイルバネ14,14が伸張した状態の転倒防止装置7を示している。すなわち、これは転倒防止装置7を収納棚1の側板2の上部に装着して、カバー部材11の工具操作窓部11fを介してロック部材17を図3に実線で示した状態から細い二点鎖線で示したように90度回動させて中間部材13の孔部13cに落とし込むことにより、コイルバネ14,14の初期の圧縮状態を解除して、コイルバネ14,14が適切な伸張状態となることにより、収納棚1と補強板6ひいては天井面Yとの間で良好な付勢力が確保されたのちに、例えば収納棚1の大きな沈み込みが生じた場合を示しており、沈み込んだ側板2に固定されたベース部材12と天井面Yに固定された補強板6つまりカバー部材11ひいては中間部材13との間で、コイルバネ14,14が限界まで伸張している。
【0043】
この限界の伸張状態は、孔部13a,13aを介して中間部材13を貫通するバネ軸15,15に設けられた大径の中間部15b,15bが中間部材13に上方から当接することで実現されるものであり、中間部15b,15bが、図4及び図5に示した初期の圧縮状態における位置から図6及び図7に示した限界の伸張状態における位置の間、例えば図6及び図7に細い二点鎖線で示す位置にあれば、コイルバネ14,14はカバー部材11の上面11aを補強板6に良好に押し付ける。その場合、バネ軸15の中間部15bと中間部材13とは、ベース部材12がカバー部材11の両側面11b,11b下端の所定量上方位置より下方に突出しないように当接する。なお、収納棚1の沈み込みに伴い、ベース部材12に立設されたバネ軸15,15の頭部15c,15cは、補強板6の孔部6a,6a内でカバー部材11側に若干退避している。
【0044】
そして、限界の伸張状態では、図6及び図7に示すように、矢印b方向から見たときに、ベース部材12の上方に向く折曲部12a,12aの上縁が蓋部材18,18の下縁に対して所定の隙間βを空けて下方に位置するように、一方、初期の圧縮状態では、図4及び図5に示すように、矢印b方向から見たときに、折曲部12a,12aの上縁が蓋部材18,18で隠れるように、折曲部12aや蓋部材18の寸法、及びバネ軸15における中間部15bの配設位置等が設定されている。
【0045】
ここで、収納棚1への転倒防止装置7の装着手順の一例について説明すると、まず、各側板2の突出部に、図4及び図5に示したコイルバネ14,14がロック状態つまり初期の圧縮状態とされた転倒防止装置7をねじZ1,Z1で固定する。このように、工場から施工現場にコイルバネ14,14が初期の圧縮状態とされた転倒防止装置7を持ち込み可能であるので、作業性の向上を図ることができると共に、現場に伸張したバネ部材を設置したのちこれを圧縮するような、施工者の力加減に左右されるものではないので、常に安定して初期の良好な突っ張り力を確保することができる。
【0046】
次いで、各側板2の下面にアジャスタ脚4,4を取り付ける。そして、天井面Yに両面粘着テープを介して補強板6を貼り付けて補強する。この取り付けに両面粘着テープを用いることにより、ねじや釘を用いた場合のように天井面Yに傷が残ることはなく、また、天井面Yがねじや釘の効かない素材であったり、ねじや釘の使用が許されないような場合にも取り付けが可能となる。なお、天井面Yが強度的に十分強い場合には、補強板6を省略してもよい。
【0047】
次いで、各側板2に取り付けられたアジャスタ脚4,4に例えば両面粘着テープを介して脚受け部材5を結合した上で、各側板2の上部に装着された転倒防止装置7のカバー部材11の上面11aから突出するバネ軸15,15の頭部15c,15cが補強板6の孔部6a,6aに嵌り込むように各側板2を立てる。そして、アジャスタ脚4,4の各側板2へのねじ込み量を調節して上記カバー部材11の上面11aを補強板6に当接させると共に、各側板2の垂直を調整する。
【0048】
その場合、バネ軸15の頭部15cは面取りされているので、補強板6の孔部6aにスムーズに嵌り込んで作業が容易であると共に、この頭部15cによって孔部6a周辺の補強板6が損傷することはない。また、一対のバネ軸15,15の配設間隔は広い方が補強板6の孔部6a,6aに嵌め込み易い。そして、バネ軸15の頭部15cの径は小さい方が補強板6の孔部6aの径も小さくなり、目立たなくなって見栄えがよい。
【0049】
このようにして各側板2を垂直に立て、互いに隣接する一対の側板2,2間に棚板3…3を設置した上で、アジャスタ脚4…4の側板2…2へのねじ込み量を加減して収納棚1全体の水平垂直を調整したのち、例えば手回しドライバによって転倒防止装置7の工具操作窓部11fを介してロック部材17を90度回動させて所定の向きにしてこれを中間部材13の孔部13cに落とし込ませ、ロック状態を解除してコイルバネ14,14を伸張状態とさせる。その結果、図4及び図5に矢印a及び細い二点鎖線で示したように、コイルバネ14,14は、側板2の突出部上面に固定されたベース部材12に対して中間部材13ひいてはカバー部材11の上面11aを補強板6ひいては天井面Yに押し付けるようになり、この転倒防止装置7は、収納棚1と天井面Yとの間で突っ張るようになる。
【0050】
その場合、ロック部材17の下部は所定の形状に切り欠かれているため、ロック状態を解除するときに回動がスムーズとなり、かつ、中間部材13の孔部13cに落ち込み易くなる。また、ロック部材17は樹脂製であるので、中間部材13との接触音が緩和される。そして、一つのロック部材17で2つのコイルバネ14,14のロック状態を一斉に解除することができる構成であるため、作業性に優れるメリットがある。さらに、各コイルバネ14の上部は樹脂製のバネ受け部材20で受けられているので、コイルバネ14と中間部材12との当接音が緩和されるようになる。
【0051】
そして、カバー部材11の両端部に蓋部材18,18を嵌め込む。その場合、各蓋部材18に設けられた上部係合部18a,18a及び下部係合部18b,18bと、カバー部材11に設けられた係合孔部11g,11g及びレール部11h,11hとの係合を介して、該蓋部材18はカバー部材11に安定して着脱自在に装着される。
【0052】
そして、図4及び図6に示したように矢印b方向から見たときに、隙間βが観察されなければ、コイルバネ14,14の付勢力が良好に確保されていることを意味するので、設置作業を終了する。なお、隙間βが観察された場合には、該隙間βが観察されなくなるまでベース部材12つまりは側板2の突出部上面を上方に移動させるべく、アジャスタ脚4のねじ込み量を調整すればよい。
【0053】
以上のように構成したことにより、まず、この転倒防止装置7をベース部材12を介して側板2の突出部に設置するので、収納棚1の本来の収納性を維持することができる。その場合、ベース部材12がカバー部材11の両側面11b,11b下端の所定量上方位置より下方に突出しないようにバネ部材としてのコイルバネ14を規制する後述のストッパ手段を備えているので、カバー部材11の両側面11b,11bは常時側板2の突出部に両側から係合可能となり、カバー部材11の設置状態ひいてはこの転倒防止装置7の設置状態が安定する。
【0054】
また、この転倒防止装置7ではベース部材11、コイルバネ14、後述のロック手段、及びストッパ手段をチャンネル状のカバー部材11内に収容しているので、設置後の見栄えがよい。
【0055】
そして、側板2の突出部上面に当接するベース部材12と天井面Yに当接するカバー部材11の上面11aとの間にコイルバネ14を介装しているので、この転倒防止装置7を収納棚1と天井面Yとの間に設置後、ロック手段を介してコイルバネ14の初期の圧縮状態を解除すれば、コイルバネ14はベース部材12ひいては収納棚1とカバー部材11の上面11aひいては天井面Yとの間で突っ張り、収納棚1の転倒防止を図ることができると共に、天井面Yや床面Xの不陸があったり収納物の重量による収納棚1の沈み込みが生じたとしても、コイルバネ14の付勢力によって良好な突っ張り性を確保することができる。
【0056】
その場合、側板2という収納棚1の中でも上下方向の荷重に強い箇所にこの転倒防止装置7を設置するので、突っ張り性は一層良好に確保される。ところで、収納棚にねじ軸をねじ込んで設置する方式の従来の装置では、収納棚側に鬼目ナットのようなねじ込み部を設ける必要があるので、該ねじ込み部を側板の上部に設けた場合、施工時に収納棚の高さ調整のため側板の上部を切断するのは容易ではなく、また、切断後に再度ねじ込み部を設けることになって面倒である。それに対して本実施の形態によれば、元々上記ねじ込み部を設ける必要がないので、側板2の高さ調整つまり収納棚1の高さ調整に容易に対応することができるメリットがある。
【0057】
次に、カバー部材11の上面11aから突出するピン部材としてのバネ軸15を設けているので、該バネ軸15が挿通される孔部を天井面Y側に設けることにより、施工時のこの転倒防止装置7の位置合わせが容易となり、また倒れが防止される等、作業性が向上する。特に、天井面Y側に孔部6aを設けた補強板6を配設して、新築時のみならず改築時あるいは転居時においても、天井面Yの強度状態に拘わらず収納棚1の転倒防止を図ることができる。
【0058】
また、バネ部材としてのコイルバネ14がバネ軸15によって安定的にベース部材12上の所定の箇所で支持されて、正しく上下方向の付勢力を生成させることができる。その場合、バネ軸15の上部を前述したようにピン部材として利用するため、部品点数の低減ひいてはコストの削減を図ることができる。
【0059】
また、コイルバネ14とバネ軸15とをそれぞれ2つ備えることにより、コイルバネ14,14によってカバー部材11の上面11aとベース部材12との間をより均等に支持することができ、より広い受圧面積を確保することも可能となる。しかも、バネ軸15,15がカバー部材11の上面11aから突出しており、該バネ軸15,15の頭部15cが天井面Y側の孔部つまり補強板6の孔部6a,6aに係合することにより、天井面Y側に対するこの転倒防止装置7の回転が防止され、施工時の作業性が一層向上する。
【0060】
また、コイルバネ14の伸張状態を規制するストッパ手段が中間部材13の孔部13aとバネ軸15に設けられた中間部15bという比較的単純な構成で具体化され、コストの高騰を抑制することができる。
【0061】
また、コイルバネ14を圧縮状態としてカバー部材11の上面11aとベース部材12とを接近させた状態でロックするロック手段がロック部材17と中間部材13の孔部13cという比較的単純な構成で具体化され、コストの高騰を抑制することができる。しかも、手回しドライバ等の適宜の工具で工具操作窓部11fを介してロック部材17を回動させるだけで容易にコイルバネ14のロック状態つまり初期の圧縮状態を解除することができ、施工時の作業性に優れる。
【0062】
また、蓋部材18,18を備えることにより、カバー部材11の両端部方向からの見栄えが向上する。さらに、コイルバネ14が最も圧縮された状態においても、蓋部材18,18の下縁がベース部材12より下方に位置しないように寸法を設定することにより、蓋部材18,18の下縁が側板2の突出部上面に干渉することはなく、この転倒防止装置7の側板2への設置を妨げない。さらに、例えば蓋部材18,18の下縁とベース部材12との間に隙間βがあるか否かを観察すればコイルバネ14の圧縮あるいは伸張状態がわかり、コイルバネ14が所定量を超えて伸張していると、つまり隙間βが観察されると、収納棚1の下部に設けられているアジャスタ脚4を調整して、コイルバネ14を所定の状態とする等の処置を施すことができる。
【0063】
そして、ベース部材12を介してねじ止めすることにより、この転倒防止装置7を側板2の突出部に堅固に固定することができ、安定して良好な突っ張り力を確保するのに効果的となる。
【0064】
なお、本発明は、具体的に詳述した上記実施の形態に限定されることはなく、本発明の趣旨に沿うものであればよい。以下の説明に際しては、特に混乱を招かない限り、上記実施の形態と共通する構成要素については同じ符号を用いることにする。
【0065】
例えば、上記実施の形態では、一つの転倒防止装置7につき各一対のコイルバネ14,14とバネ軸15,15とを備えたが、これらをさらに増設してもよいし、逆に、例えば奥行きの狭い収納棚では、長さの短いカバー部材を用いた転倒防止装置とし、併せてコイルバネ14とバネ軸15とをそれぞれ一つ備えた構成としてもよい。
【0066】
また、上記実施の形態では、孔部13aを介して中間部材13を貫通するバネ軸15に、最も小径の基部15aと最も大径の中間部15bと中間径の頭部15cとを設け、中間部15bが中間部材13に上方から当接することによってコイルバネ14の伸張状態を規制したが、図8に示す転倒防止装置7Aのように、ベース部材12に立設されてコイルバネ14を支持するバネ軸35を、孔部13aを介して中間部材13を貫通する下方の小径の基部35aと上方の大径の頭部35cとで構成し、該頭部35cが上方から中間部材13に当接することにより、コイルバネ14の伸張状態を規制するようにしてもよい。なお、この場合にも、バネ軸35の頭部35cはカバー部材31の上面31aから突出している。
【0067】
また、上記実施の形態では、バネ軸15,35の頭部15c,35cがカバー部材11,31の上面11a,31aから突出していたが、図9に示す転倒防止装置7Bのように、ベース部材12に立設されたバネ軸45,45とは別体に、カバー部材41の上面41aに一対のピン部材51,51を突設してもよい。なお、この場合、バネ軸45には、孔部13aを介して中間部材13を貫通する小径の基部45aと上方の大径の頭部45cとが設けられており、例えば細い二点鎖線で示す状態の頭部45cが実線で示すように上方から中間部材13に当接することにより、コイルバネ14の伸張状態が規制されるようになる。
【0068】
そして、上記実施の形態では、カバー部材11,31の上面11a,31aからバネ軸15,35の頭部15c,35cが突出したり、カバー部材41の上面41aにピン部材51が突設されていたが、これらがカバー部材から突出しない構成としてもよい。その場合にも、収納棚の本来の収納性を維持しながら設置後の見栄えがよく、良好な突っ張り性を確保することができる転倒防止装置が実現される。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上説明したように、本発明によれば、収納家具の本来の収納性を維持しながら設置後の見栄えがよく、しかも良好な突っ張り性を確保することができる収納家具の転倒防止装置が提供される。すなわち、本発明は、収納家具の上部と天井面との間に設置して該収納家具の転倒防止を図る装置に関し、家具の技術分野に広く好適である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施の形態に係る収納棚の正面図である。
【図2】同じく側面図である。
【図3】転倒防止装置の一部を破断した平面図である。
【図4】図3のII−II線による断面図である。
【図5】図4のIII−III線による断面図である。
【図6】コイルバネが限界まで伸張した状態を示す図4に相当する断面図である。
【図7】図6のIV−IV線による断面図である。
【図8】バネ軸の別なる構成を示す図7に相当する断面図である。
【図9】バネ軸とは別体にピン部材を設けた場合の図4に相当する断面図である。
【図10】従来の転倒防止装置の設置状態を示す断面図である。
【図11】従来の別なる転倒防止装置の設置状態を示す一部を破断した正面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 収納棚(収納家具)
2 側板
7,7A,7B 転倒防止装置
11,31,41 カバー部材
11a,31a,41a 上面
11b 側面
11d 工具操作窓部(ねじ止め用)
11f 工具操作窓部(ロック部材回動用)
12 ベース部材
12c ねじ孔部
13 中間部材
13a 孔部(ストッパ手段)
13c 孔部(ロック手段)
14 コイルバネ(バネ部材)
15,35,45 バネ軸(ピン部材)
15b 中間部(ストッパ手段)
16 支軸
17 ロック部材(ロック手段)
18 蓋部材
35c,45c 頭部(ストッパ手段)
51 ピン部材
Y 天井面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方に突出する側板を備えた収納家具の上部と天井面との間に設置されて、弾性力に基づく突っ張り性によって収納家具の転倒を防止する転倒防止装置であって、天井面に当接する上面と上記側板の突出部に両側から係合する両側面とを有するチャンネル状のカバー部材と、該カバー部材内に収容されて上記側板の突出部上面に当接するベース部材と、該ベース部材を上記カバー部材内で下方に付勢するバネ部材と、該バネ部材を圧縮状態として上記カバー部材の上面と上記ベース部材とを接近させた状態でロックするロック手段と、上記カバー部材内に設けられて上記バネ部材の伸張時に上記ベース部材がカバー部材の両側面下端の所定量上方位置より下方に突出しないように規制するストッパ手段とが備えられていることを特徴とする収納家具の転倒防止装置。
【請求項2】
カバー部材の上面から突出するピン部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の収納家具の転倒防止装置。
【請求項3】
バネ部材はコイルバネであると共に、ベース部材には該コイルバネに挿入されるバネ軸が立設され、該バネ軸の上部がカバー部材の上面から突出するピン部材とされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の収納家具の転倒防止装置。
【請求項4】
バネ部材とバネ軸とは、それぞれ複数備えられていることを特徴とする請求項3に記載の収納家具の転倒防止装置。
【請求項5】
カバー部材の上面の直下にバネ軸が貫通する孔部を有する中間部材が設けられていると共に、バネ部材は該中間部材とベース部材との間に介装されており、かつ、ストッパ手段は、上記中間部材の孔部と、該孔部を貫通したバネ軸の上部に設けられて該孔部より径の大きい大径部とで構成されていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の収納家具の転倒防止装置。
【請求項6】
ロック手段は、ベース部材に立設された支軸に設けられて水平面内で回動する細長いロック部材と、中間部材に設けられて上記ロック部材を所定の向きにおいてのみ挿通可能とする孔部とで構成されており、かつ、カバー部材の少なくとも一方の側面に、上記ロック部材を回動させるための工具を操作可能に工具操作窓部が設けられていることを特徴とする請求項5に記載の収納家具の転倒防止装置。
【請求項7】
カバー部材の両端部の開口を覆う蓋部材が備えられていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の収納家具の転倒防止装置。
【請求項8】
ベース部材には、当該転倒防止装置を側板の上部にねじ止めするためのねじ孔部が設けられていると共に、カバー部材の上面には、上記ねじ孔部に対応する箇所にねじ止め用の工具を操作可能に工具操作窓部が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の収納家具の転倒防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−158474(P2006−158474A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−350709(P2004−350709)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000000413)永大産業株式会社 (243)