説明

収縮包装用多層フィルムおよびその製造方法

【課題】熱収縮性と収縮包装後の変形回復性を両立した収縮包装用多層フィルムおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】層(A)と、前記層(A)上に積層されるヒートシール層と、からなる収縮包装用多層フィルムであって、前記ヒートシール層は、密度が0.900〜0.930g/cm3である、少なくとも1種のエチレン−α−オレフィンランダム共重合体(X)からなる層であり、前記層(A)は、密度が0.900〜0.930g/cm3である、少なくとも1種のエチレン−α−オレフィンランダム共重合体(Y)を30〜80質量%と、密度が0.860〜0.890g/cm3である、少なくとも1種のエチレン−α−オレフィンブロック共重合体(Z)を20〜70質量%と、を含む組成物からなる層である、収縮包装用多層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収縮包装用多層フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、収縮包装(シュリンク包装と同義語)は被包装物の形状、大きさに依らず、同時に複数個の製品を迅速かつタイトに包装するために使用されている。また、得られた包装物の外観が美しく、内容物を衛生的に保ち、視覚による品質管理が容易なことから、食品、雑貨などの包装に使用されている。被包装物を包装フィルムで覆う方式には、ピロー収縮包装やオーバーラップ包装などの方式が挙げられる。
【0003】
収縮包装は、通常、フィルムに少し余裕をもたせて、ヒートシール、溶断シールなどにより内容物を一次包装したのち、シュリンクトンネルの熱風などによりフィルムを熱収縮させる方法が一般的であり、タイトで美しい仕上がりが得られる。
このような収縮包装の内、ピロー収縮包装において、フィルムには1)熱収縮性、2)包装機械適正、3)光学特性、4)収縮包装後の変形回復性が良好であることが要求される。
【0004】
1)熱収縮性については、種々の容器形状において、予めフィルムを用いて規定の余裕率に一次包装された包装体が、熱風収縮トネルを通過後に、角残りなどがなくタイトに仕上がるために、高収縮率を有していることが必要とされる。
2)包装機適性については、包装機械での金属ロールとフィルム間での滑り性が良好であること、フィルム幅方向への伸張特性が良好であること、シールを行った後で、樹脂の抜け落ち(メルトホール)がないことが必要とされる。
3)光学特性については、特に収縮後のフィルムが透明であり、かつ冷凍、冷蔵条件のもと包装体が保管された場合に、フィルム表面への水滴の付着が抑制され、内容物の視認性が良好であることが必要とされる。
4)包装後の変形回復性については、特に惣菜、精肉などを蓋なしのトレーに盛り付け収縮包装した場合に、包装体同士の段積み加重などによってフィルムが伸張された痕が短時間で復元することが必要とされる。
【0005】
実用上、上記の要求特性は被包装物の形状や、流通過程、保管時における取り扱われ方、及び各環境条件等によって要求度が異なり、熱収縮包装フィルムはこの要求度を満たすことは必須である。一方で、コストや省資源化及びゴミの減量化等の環境ニーズを配慮する結果として、通常、フィルム厚みとしては数種類の品揃えが必要となっている。熱収縮包装に使用されるフィルムとしては、透明性に優れたポリオレフィン系樹脂を用いた多層フィルムが従来知られている。
【0006】
例えば、特許文献1では、線状低密度ポリエチレンとエチレン−α−オレフィン共重合体の混合物からなる両表面層と、線状低密度ポリエチレンと長鎖分岐を有する低密度ポリエチレンの混合物からなる芯層を有する電子線を照射して架橋されたポリエチレン系架橋シュリンクフィルムが開示されている。
【0007】
特許文献2では、線状低密度ポリエチレンからなる両表面層と、超低密度ポリエチレンとエチレン−α−オレフィン共重合体からなる内部層、線状低密度ポリエチレンを主成分とするエチレン系重合体からなる内部層を有する、電子線を照射して架橋されたポリエチレン系架橋シュリンクフィルムが開示されている。
【0008】
特許文献3では、エチレン−α−オレフィン共重合体と、110℃未満に融解ピーク温度を有するエチレン系共重合体からなる低温収縮性フィルムが開示されている。
【0009】
特許文献4では、両表面層が、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂およびエチレン−α−オレフィン系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂からなり、結晶性ポリプロピレン系樹脂と熱可塑性エラストマーとからなる内部層を少なくとも1層含む熱収縮性多層フィルムが開示されている。
【0010】
また、特許文献5〜7では、エチレン−α−オレフィンブロック共重合体を少なくとも一層有する積層フィルムが開示されている。
【0011】
【特許文献1】特許第3614810号公報
【特許文献2】特開2007−118576号公報
【特許文献3】国際公開第2005/049702号パンフレット
【特許文献4】特開2007−144741号公報
【特許文献5】特表2007−529615号公報
【特許文献6】特表2007−529616号公報
【特許文献7】特表2007−529617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1及び2に開示されているポリエチレン系架橋シュリンクフィルムは、良好な包装機適性、光学特性を有しているが、いずれも収縮包装後の変形回復性が不十分であるといった欠点を有している。
また、特許文献3及び4に開示されている収縮包装用フィルムでは、低温収縮性を有しているが、変形回復性の更なる改良が望まれている。
さらに、特許文献5〜7に記載の積層フィルムに関しては、収縮包装用フィルムとしての更なる改良が望まれている。
【0013】
以上のとおり、特許文献1〜7に開示されている収縮包装用フィルムは良好な包装機適性、光学特性を有しているが、収縮包装後の変形回復性の更なる改良が望まれている。
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、熱収縮性と収縮包装後の変形回復性を両立した収縮包装用多層フィルムおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、異なる密度範囲を有するエチレン−α−オレフィンランダム共重合体(Y)とエチレン−α−オレフィンブロック共重合体(Z)とを特定の含有量にて、ヒートシール層が積層される層(A)の樹脂として用いることにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明は、以下の収縮包装用多層フィルムおよびその製造方法を提供する。
[1]
層(A)と、前記層(A)上に積層されるヒートシール層と、からなる収縮包装用多層フィルムであって、
前記ヒートシール層は、
密度が0.900〜0.930g/cm3である、少なくとも1種のエチレン−α−オレフィンランダム共重合体(X)からなる層であり、
前記層(A)は、
密度が0.900〜0.930g/cm3である、少なくとも1種のエチレン−α−オレフィンランダム共重合体(Y)を30〜80質量%と、
密度が0.860〜0.890g/cm3である、少なくとも1種のエチレン−α−オレフィンブロック共重合体(Z)を20〜70質量%と、を含む組成物からなる層である、収縮包装用多層フィルム。
[2]
前記エチレン−α−オレフィンランダム共重合体(Y)の密度が0.900〜0.920g/cm3である、前記[1]に記載の収縮包装用多層フィルム。
[3]
前記エチレン−α−オレフィンランダム共重合体(Y)の100℃以下の融解熱量の比率が30〜80%である、前記[1]または[2]に記載の収縮包装用多層フィルム。
[4]
前記エチレン−α−オレフィンブロック共重合体(Z)の融点が100〜130℃であり、結晶化温度が80〜100℃である、前記[1]〜[3]のいずれか一項に記載の収縮包装用多層フィルム。
[5]
前記エチレン−α−オレフィンブロック共重合体(Z)の結晶融解熱量が10〜50J/gである、前記[1]〜[4]のいずれか一項に記載の収縮包装用多層フィルム。
[6]
電子線照射により架橋された、前記[1]〜[5]のいずれか一項に記載の収縮包装用多層フィルム。
[7]
収縮包装用フィルム全体のゲル分率が20〜60質量%である、前記[1]〜[6]のいずれか一項に記載の収縮包装用多層フィルム。
[8]
前記層(A)の両面に前記ヒートシール層が積層される、前記[1]〜[7]のいずれか一項に記載の収縮包装用多層フィルム。
[9]
ヒートシール層と層(A)の原料樹脂を環状ダイスより共押出しし、得られたチューブ状パリソンを冷却する工程、
延伸機内で再加熱して延伸開始温度が、ヒートシール層と層(A)に用いられる原料樹脂の融点〜150℃の範囲内の温度で、流れ方向及び幅方向に2〜10倍の倍率で延伸を行う工程、
を含む、前記[1]〜[8]のいずれか一項に記載の収縮包装用多層フィルムの製造方法。
[10]
前記チューブ状パリソンに電子線照射による架橋処理を行う工程をさらに含む、前記[9]に記載の収縮包装用多層フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の収縮包装用多層フィルムを用いることで、収縮包装後の変形回復性と熱収縮性を両立することができる。
特に、本発明の収縮包装用多層フィルムを用いて嵩高い惣菜などを蓋なしトレーに盛り付けて収縮包装した場合に、高収縮率を有しタイトな包装仕上がりが得られるため、輸送中の振動によるトレー内での被包装体の移動を抑制することができる。また、本発明の収縮包装用多層フィルムは変形回復性を有するため、商品の段積みによって生じるフィルムの伸張痕が復元することで緩み、弛みが軽減された美麗な包装体仕上がりを維持することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0019】
本実施の形態の収縮包装用多層フィルム(以下、単に「フィルム」と略記する場合がある。)は、ヒートシール層と層(A)とを有し、ヒートシール層が層(A)上に積層される収縮包装用多層フィルムである。
フィルムの前記ヒートシール層は、密度が0.900〜0.930g/cm3である、少なくとも1種のエチレン−α−オレフィンランダム共重合体(X)からなる層である。
フィルムの前記層(A)は、密度が0.900〜0.930g/cm3である、少なくとも1種のエチレン−α−オレフィンランダム共重合体(Y)を30〜80質量%と、密度が0.860〜0.890g/cm3である、少なくとも1種のエチレン−α−オレフィンブロック共重合体(Z)を20〜70質量%と、を含む組成物からなる層である。
【0020】
(ヒートシール層)
本実施の形態において、ヒートシール層は密度が0.900〜0.930g/cm3である、少なくとも1種のエチレン−α−オレフィンランダム共重合体(X)(以下、単にランダム共重合体(X)と略記する場合がある。)からなる層である。
フィルムが該ヒートシール層を有することで、包装機械適正、特に滑り性と、シール強度、そして収縮包装後の光学特性(光沢度)が良好となる。
密度が0.900g/cm3以上であるランダム共重合体(X)を用いることにより、フィルム表面のベタツキが少なく、包装機械との滑り性が良好となる。密度が0.930g/cm3以下であるランダム共重合体(X)を用いることにより、フィルムの光沢度が良好となる。
本実施の形態において、エチレン−α−オレフィンランダム共重合体(X)の密度は、滑り性、光沢度などの観点から、0.905〜0.930g/cm3であることが好ましい。
【0021】
本実施の形態において用いられるエチレン−α−オレフィンランダム共重合体(XおよびY)は、エチレンと炭素数が3〜18のα−オレフィンから選ばれる少なくとも1種類の単量体とのランダム共重合体であり、エチレン−α−オレフィン共重合体におけるα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセンなどが挙げられる。
エチレン−α−オレフィンランダム共重合体は、マルチサイト系触媒またはシングルサイト系触媒のどちらの触媒を用いて重合されたものでもよいが、透明性が必要な内容物を包装する場合、シングルサイト系触媒で重合されたものを使用することが好ましい。この場合には、透明性の観点から、GPCによって測定される分子量分布(Mw/Mn)が3.5以下のものを使用することが好ましい。
エチレン−α−オレフィンランダム共重合体のメルトフローレートは、0.2〜7.0g/10minであることが好ましい。メルトフローレートが0.2g/10min以上である場合、フィルム強度が得られる点で好ましく、7.0g/10min以下である場合、延伸工程での安定性が得られる点で好ましい。
【0022】
ヒートシール層には、本実施の形態のフィルムとしての特性を損なわない範囲で、ランダム共重合体(X)以外の他の樹脂を配合してもよい。その他の樹脂としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−アクリル酸エチル共重合体樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体樹脂、エチレン−メタアクリル酸メチル共重合体樹脂、エチレン−メタアクリル酸共重合体樹脂、アイオノマー樹脂、高圧法低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、上記のランダム共重合体(X)とは異なるX線法による結晶化度が30%以下のα−オレフィン共重合体よりなる軟質樹脂、これら樹脂を酸変性などにより改質した樹脂、ポリブテン系樹脂、結晶性1、2−ポリブタジエン系樹脂、非晶性ポリプロピレン系樹脂などが挙げられる。
【0023】
ヒートシール層内でのその他の樹脂の比率としては、本実施の形態のフィルムとしての特性を損なわない範囲であれば特に限定されるものではないが、ヒートシール層の樹脂中、50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは40質量%以下である。ヒートシール層でのランダム共重合体(X)以外の他の樹脂の比率が50質量%以下である場合、フィルムの光沢度が良好となる点で好ましい。
【0024】
ヒートシール層の収縮包装用多層フィルム全層に対する厚み比率は、本実施の形態のフィルムとしての特性を損なわない範囲であれば特に限定されるものではないが、10〜50%であることが好ましく、より好ましくは15〜40%である。ヒートシール層の比率が10%以上である場合、シール強度が良好となる点で好ましく、50%以下である場合、延伸安定性が良好となる点で好ましい。
【0025】
(層(A))
本実施の形態において、層(A)は密度が0.900〜0.930g/cm3である、少なくとも1種のエチレン−α−オレフィンランダム共重合体(Y)を30〜80質量%含み、密度が0.860〜0.890g/cm3であるエチレン−α−オレフィンブロック共重合体(Z)を20〜70質量%含む組成物からなる層である。
【0026】
本実施の形態において、エチレン−α−オレフィンランダム共重合体(Y)(以下、単にランダム共重合体(Y)と略記する場合がある。)の密度は、0.900〜0.930g/cm3であり、好ましくは0.900〜0.920g/cm3である。密度が0.900g/cm3以上である場合、フィルムの走行性が安定し、密度が0.930g/cm3以下である場合、フィルムに低温収縮性が付与される。
【0027】
本実施の形態において、ランダム共重合体(Y)の層(A)での成分としての比率は30〜80質量%であり、40〜80質量%が好ましい。比率が30質量%以上である場合、延伸安定性が得られ、80質量%以下である場合、柔軟性が得られる。
【0028】
ランダム共重合体(Y)の100℃以下の融解熱量の比率は、20〜90%であることが好ましく、より好ましくは30〜80%である。100℃以下の融解熱量の比率が20%以上である場合、フィルムに低温収縮性が付与される点で好ましく、100℃以下の融解熱量の比率が90%以下である場合、フィルムの寸法安定性が得られる点で好ましい。
本実施の形態において、100℃以下の融解熱量の比率とは、示差走査熱量計(以下、単に、「DSC」と略記する場合がある。)で測定される2nd.融解挙動において、結晶融解熱量(ΔHm)に対する100℃以下での融解熱量の比率を意味し、以下の実施例
に記載の方法により求めることができる。
【0029】
本実施の形態において、エチレン−α−オレフィンランダム共重合体(Y)は、ヒートシール層で使用されるエチレン−α−オレフィンランダム共重合体(X)と同一であっても、異なっていてもよい。
【0030】
本実施の形態において、エチレン−α−オレフィンブロック共重合体(Z)(以下、単にブロック共重合体(Z)と略記する場合がある。)は、密度が0.860〜0.890g/cm3である。
【0031】
ブロック共重合体(Z)は、エチレンと炭素数が3〜18のα−オレフィンから選ばれる少なくとも1種類の単量体とのブロック共重合体が好ましく、エチレン−α−オレフィン共重合体におけるα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセンなどが挙げられる。
【0032】
ブロック共重合体(Z)の密度は、0.860〜0.890g/cm3であり、0.865〜0.880g/cm3であることが好ましい。密度が0.860g/cm3以上である場合、包装機でのフィルムの走行性が安定し、密度が0.890g/cm3以下である場合フィルムの変形回復性が良好となる。
【0033】
本実施の形態において、ブロック共重合体(Z)の層(A)での成分としての比率は20〜70質量%であり、20〜60質量%が好ましい。比率が20質量%以上である場合、柔軟性が得られ、70質量%以下である場合、延伸安定性が得られる。
【0034】
ブロック共重合体(Z)の融点は、100〜130℃であることが好ましく、105〜125℃であることがより好ましい。融点が100℃以上である場合、フィルムに耐熱性を付与でき、融点が130℃以下である場合、延伸安定性が得られる。
本実施の形態において、融点とは示差走査熱量計にて測定される融点を意味する。
【0035】
ブロック共重合体(Z)の結晶化温度は、80〜100℃であることが好ましく、85〜100℃であることがより好ましい。結晶化温度が80℃以上である場合、フィルムの寸法安定性が良好となり、結晶化温度が100℃以下である場合、延伸安定性が得られる。
本実施の形態において、結晶化温度とは示差走査熱量計にて測定される結晶化温度を意味する。
【0036】
ブロック共重合体(Z)の結晶融解熱量は10〜50J/gであることが好ましく、より好ましくは15〜45J/gである。結晶融解熱量が10J/g以上である場合、耐熱性が付与される点で好ましく、結晶融解熱量が50J/g以下である場合、変形回復性が良好となる点で好ましい。
本実施の形態において、結晶融解熱量とは示差走査熱量計にて測定される結晶融解熱量を意味する。
【0037】
ブロック共重合体(Z)の100℃以下の融解熱量の比率は、50%以下であることが好ましく、より好ましくは40%以下である。100℃以下の融解熱量の比率が50%以下である場合、耐熱性の点で好ましい。
本実施の形態において、100℃以下の融解熱量の比率とは、示差走査熱量計で測定される2nd.融解挙動において、結晶融解熱量(ΔHm)に対する100℃以下での融解
熱量の比率を意味し、以下の実施例に記載の方法により求めることができる。
【0038】
本実施の形態において、ブロック共重合体(Z)は、(I)第1のオレフィン重合触媒と、(II)同等の重合条件下で第1のオレフィン重合触媒によって調製されるポリマーとは化学的性質又は物理的性質が異なるポリマーを調製可能な第2のオレフィン重合触媒と、(III)鎖シャトリング剤とを組み合わせて得られる混合物又は反応生成物を含む組成物の存在下のもと、エチレンとα―オレフィンを重合することで形成されるブロック共重合体である。本実施の形態に有用なエチレン−α−オレフィンブロック共重合体(Z)の具体的な生成方法は、特表2007−529615号公報、特表2007−529616号公報、特表2007−529617号公報に開示されており、これらすべての記載内容全体を本明細書に援用する。
【0039】
本実施の形態において、融点、結晶化温度、結晶融解熱量は示差走査熱量計を用いて測定することにより規定することができる。
具体的には、サンプル量を5〜10mgとし測定雰囲気を窒素雰囲気とし熱量標準としてインジウムを使用して行う。加熱プログラムとしては、まずサンプルを10℃/分の昇温速度で0℃から200℃まで昇温し(1st.融解挙動)、200℃で1分間放置後、10℃/分の降温速度で200℃から0℃まで冷却し0℃で1分間放置した(1st.結晶化挙動)。その後、10℃/分の昇温速度で0℃から200℃まで昇温した(2nd.融解挙動)。融点は上記の2nd.融解挙動から得られた比熱曲線において、最大吸熱量を示す温度である。また、結晶化温度は1st.結晶化挙動にて得られた比熱曲線において、最大発熱量を示す温度である。また、2nd.融解挙動にて得られた、完全溶融状態の比熱曲線を低温側に直接外挿して得られる直線をベースラインとして、結晶融解熱量が得られる。また、100℃以下での融解熱量比率は、100℃以下での融解熱量を結晶融解熱量にて割り返すことで求められる。
【0040】
本実施の形態において、層(A)には、本実施の形態のフィルムとしての特性を損なわない範囲で、ランダム共重合体(Y)およびブロック共重合体(Z)以外の他の樹脂を配合してもよい。その他の樹脂としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−アクリル酸エチル共重合体樹脂、エチレン−メタアクリル酸共重合体樹脂、アイオノマー樹脂、高圧法低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、これら樹脂を酸変性などにより改質した樹脂、プロピレン単独重合体樹脂、プロピレン−エチレン共重合体樹脂、プロピレン−エチレン−ブテン共重合体樹脂、非晶性ポリプロピレン系樹脂などが挙げられる。
【0041】
層(A)内でのその他の樹脂の比率としては、本実施の形態のフィルムとしての特性を損なわない範囲であれば特に限定されるものではないが、50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは40質量%以下である。層(A)でのランダム共重合体(Y)およびブロック共重合体(Z)以外の他の樹脂の比率が50質量%以下である場合、フィルムの曇り度が良好となる点で好ましい。
【0042】
層(A)の収縮包装用多層フィルム全層に対する厚み比率は、本実施の形態のフィルムとしての特性を損なわない範囲であれば特に限定されるものではないが、50〜90%であることが好ましく、より好ましくは50〜80%である。層(A)の比率が50%以上である場合延伸安定性が得られ、層(A)の比率が90%以下である場合フィルムの走行性が安定する。
【0043】
(収縮包装用多層フィルム)
【0044】
本実施の形態の収縮包装用多層フィルムは、層(A)と、前記層(A)上に積層されるヒートシール層と、からなる収縮包装用多層フィルムであって、前記ヒートシール層は、密度が0.900〜0.930g/cm3である、少なくとも1種のエチレン−α−オレフィンランダム共重合体(X)からなる層であり、前記層(A)は、密度が0.900〜0.930g/cm3である、少なくとも1種のエチレン−α−オレフィンランダム共重合体(Y)を30〜80質量%と、密度が0.860〜0.890g/cm3である、少なくとも1種のエチレン−α−オレフィンブロック共重合体(Z)を20〜70質量%と、を含む組成物からなる層である、収縮包装用多層フィルムである。
【0045】
収縮包装用多層フィルムには、良好な防曇性と滑り性を付与するために添加剤などを配合してもよい。添加剤としては、多価アルコールの脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステルなどが挙げられる。
多価アルコールの脂肪酸エステルとしては、多価アルコールのモノ脂肪酸エステル、ジ脂肪酸エステル、トリ脂肪酸エステル、ポリ脂肪酸エステルなどが挙げられ、炭素原子数が8〜18の飽和または不飽和脂肪酸のモノグリセリンエステル、ジグリセリンエステル、トリグリセリンエステル、テトラグリセリンエステル、ソルビタンエステルが好ましく、より好ましくは炭素原子数が12〜18の飽和または不飽和脂肪酸のモノグリセリンエステル、ジグリセリンエステル、トリグリセリンエステル、テトラグリセリンエステル、ソルビタンエステルである。具体的には、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノミリステート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンジパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、グリセリンモノオレート、グリセリンジオレート、グリセリントリオレート、グリセリンモノリノレート、ソルビタンラウレート、ソルビタンミリステート、ソルビタンパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンジオレート、ソルビタントリオレート、ソルビタンリノレート、ジグリセリンラウレート、ジグリセリンミリステート、ジグリセリンパルミテート、ジグリセリンステアレート、ジグリセリンオレート、ジグリセリンリノレート、トリグリセリンラウレート、トリグリセリンオレート、トリグリセリンステアレート、テトラグリセリンラウレート、テトラグリセリンオレート、テトラグリセリンステアレートなどが挙げられるが、ラウリン酸またはオレイン酸のグリセリンエステルと、ジグリセリンエステルを併用することが防曇性と滑り性を両立するために好ましい。
【0046】
収縮包装用多層フィルムに良好な防曇性と滑り性を付与するための添加剤を配合する層としては、ヒートシール層および/または層(A)、そしてヒートシール層と層(A)との間に中間層が存在する場合はヒートシール層と中間層に加えることが好ましい。各層の樹脂への添加方法としては、添加剤を高濃度含有させた樹脂(マスターバッチ)を用いて希釈する方法だけでなく、添加剤を加熱させ溶融状態とし、直接樹脂に注入する方法も活用できる。
また、その他の添加剤として多価アルコールの脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル以外の界面活性剤、酸化防止剤、帯電防止剤、低分子量石油樹脂に代表される粘接着剤、ミネラルオイルなどの液体添加剤は、防曇性、滑り性を損なわない程度に各層に添加することもできる。
【0047】
本実施の形態の収縮包装用多層フィルムは、その特性を損なわない範囲で、エチレン−α−オレフィンランダム共重合体(X)からなるヒートシール層と、エチレン−α−オレフィンランダム共重合体(Y)とエチレン−α−オレフィンブロック共重合体(Z)からなる層(A)との間に、中間層を用いてもよい。中間層は、(i)防曇性を持続させるための防曇剤の保持層として、(ii)ヒートシール層と層(A)との接着性を向上させ、層間剥離を抑制するため、(iii)回収した樹脂を押出機で再ペレット化したものを入れる、フィルムの回収層といった理由から設けると好ましく、上記(i)、(ii)、(iii)の理由からその本来の特性を損なわない範囲で、ヒートシール層、層(A)に使用される共重合体以外の他の樹脂や添加剤などを60質量%以下で配合してもよい。その他の樹脂としては、ポリブテン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−アクリル酸エチル共重合体樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体樹脂、エチレン−メタアクリル酸メチル共重合体樹脂、エチレン−メタアクリル酸共重合体樹脂、アイオノマー樹脂、高圧法低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、プロピレン単独重合体が挙げられる。
【0048】
本実施の形態において、ヒートシール層と層(A)の配置としては、ヒートシール層が層(A)に積層されている配置であれば、特に限定されるものではないが、例えばヒートシール層(以下、単に「S」と略記する場合がある。)と、層(A)(以下、単に「A」と略記する場合がある。)からなる2層の場合:S/A、両表面層が、ヒートシール層からなる3層の場合:S/A/S、中間層(以下、単に「B」と記載する場合がある。)を1層用いる全3層からなる場合:S/B/A、S/A/B、両表面層がヒートシール層からなり、中間層を1層用いる全4層からなる場合:S/B/A/S、中間層を2層用いる全4層である場合:S/B/A/B、両表面層がヒートシール層からなり、中間層を2層用いる全5層からなる場合S/B/A/B/Sなどが挙げられる。また、中間層Bと異なる中間層(以下、単に「D」と略記する場合がある。)を併用することも可能であり、S/B/A/D、S/D/A/B、S/D/B/A、S/B/D/Aからなる4層、S/D/B/A/S、S/B/A/D/S、S/B/D/A/Sからなる5層や、S/B/D/A/B/Sからなる6層、S/B/D/A/B/D/Sからなる7層など、他に8層、およびそれ以上の層からも構成することができる。
本実施の形態における層の配置としては、S/B/AまたはS/A/Sなどの少なくとも3層から構成されることが好ましい。
【0049】
中間層の収縮包装用多層フィルム全層に対する厚み比率は、特性を損なわない範囲で特に限定されるものではないが、60%以下であることが好ましく、より好ましくは55%以下である。中間層の比率が、60%以下である場合、延伸安定性が良好となる点で好ましい。
【0050】
本実施の形態の収縮包装用多層フィルムの厚みは5〜60μmが好ましく、より好ましくは6〜50μm、さらに好ましくは7〜40μmの薄肉の領域である。フィルムの厚みが5μm以上の場合はフィルムの剛性が向上し、包装時の作業性がよい点で好ましく、60μm以下の場合はフィルムの熱収縮に要する熱量が軽減でき、より短時間、低い温度で熱収縮が可能となる点で好ましい。
【0051】
収縮包装用多層フィルムのゲル分率は、沸騰p−キシレン中に150メッシュの金網に入れた試料を12時間浸漬し、不溶解部分の割合を次式より算出したもので、フィルムの架橋度の尺度として用いることができる。
ゲル分率(質量%)=(抽出後の試料質量/抽出前の試料質量)×100
収縮包装用多層フィルムのゲル分率は、20〜60質量%であることが好ましく、より好ましくは25〜55質量%である。ゲル分率が20質量%以上である場合、フィルムに耐熱性が付与される点で好ましい。ゲル分率が60質量%以下である場合、延伸安定性が良好となる点で好ましい。
【0052】
収縮包装用多層フィルムの熱収縮率は、ASTM D−2732に準じて測定することができる。測定温度はピロー収縮包装を想定し、120℃にて評価する。
120℃での熱収縮率は収縮包装後に角残りのない、美麗な仕上がりを得るために、フィルムの流れ、幅両方向において50〜80%であることが好ましい。120℃での熱収縮率が50%以上である場合角残りのない美麗な包装仕上がりが得られる点で好ましい。また、120℃での熱収縮率が80%以下である場合、より低温で収縮包装することが可能となる点で好ましい。
【0053】
収縮包装用多層フィルムの熱収縮応力は、ASTM D−2838に準じて測定することができる。測定温度は、実際に収縮包装を行う温度を想定し、120℃で測定する。熱収縮応力は規定のフィルム余裕率を持った一次包装体を収縮トンネルで熱収縮する際に予め針などを用いて設けられた小孔から迅速に空気を除くために必要である。また、蓋なしトレー包装でのトレー内での被包装体の移動を抑制するために必要である。
フィルムの120℃における流れ、幅両方向の少なくとも一方の最大熱収縮応力が100〜350gf/mm2であることが好ましく、より好ましくは120〜330gf/mm2である。熱収縮応力値が100gf/mm2以上である場合、フィルム収縮時に事前に設けられた小孔から空気を除きやすくなり、収縮後の包装体においてタイト感が得られ、被包装体のトレー内での移動を抑制でき、熱収縮応力値が350gf/mm2以下の場合、熱収縮応力によってフィルム内部の空気を取り除く際に、発泡ポリスチレン製などのトレーが変形するのを抑制することができる。
【0054】
(収縮包装用多層フィルムの製造方法)
本実施の形態の収縮包装用多層フィルムの製造方法は、ヒートシール層と層(A)の原料樹脂を環状ダイスより共押出しし、得られたチューブ状パリソンを冷却する工程、延伸機内で再加熱して延伸開始温度が、ヒートシール層と層(A)に用いられる原料樹脂の融点〜150℃の範囲内の温度で、流れ方向及び幅方向に2〜10倍の倍率で延伸を行う工程、を含む、前記収縮包装用多層フィルムの製造方法である。
【0055】
本実施の形態における収縮包装用多層フィルムの製造方法としては、シングルバブルインフレーション法、ダブルバブルインフレーション法、トリプルバブルインフレーション法、テンター法が挙げられるが、収縮性の観点よりシングルバブルインフレーション法、ダブルバブルインフレーション法、トリプルバブルインフレーション法が好ましい。このなかでもダブルバブルインフレーション法がより好ましい。以下にダブルバブルインフレーション法による製造方法を記す。
【0056】
本実施の形態において、まず数種の押出機械より各層に使用する原料樹脂を溶融させ、環状ダイスより、それぞれの樹脂を共押出しし、チューブ状の未延伸パリソンを得る。チューブ状の未延伸パリソンの冷却方法としては、チューブ状パリソンの外側から冷却媒体を水として冷却固化する場合と、外側から冷却媒体を水としさらにチューブ状パリソン内側からは内部を水で通水した表面をブラスト処理し、粗くした冷却マンドレルに沿わし、チューブ状パリソンの内外両側より冷却固化し、これを急冷固化する場合があり、何れの方法を用いてもよい。
【0057】
冷却固化したチューブ状パリソンに電子線照射による架橋処理を行うことが好ましい。電子線照射は、フィルムの片側、両側いずれの側から照射してもよい。電子線照射量としては延伸安定性、耐熱性の観点より5〜150kGyが好ましく、10〜130kGyがより好ましい。
【0058】
次に、チューブ状パリソンを延伸機内に誘導し、延伸開始点の温度がヒートシール層、層(A)に用いるエチレン−α−オレフィンランダム共重合体(XおよびY)ならびにエチレン−α−オレフィンブロック共重合体(Z)の融点以上であり、かつ150℃以下となるように加熱しながら、速度差を設けたニップロール間でエアー注入を行い、延伸安定性の観点より、流れ(MD)方向、幅(TD)方向にそれぞれ、好ましくは2〜10倍、より好ましくは3〜9倍の倍率で延伸を行う。なお、延伸開始点とはバブルの内圧により、TD方向に膨らみ始める位置を指し、延伸開始点温度とは、その位置でのチューブ状パリソン表面温度を指す。
【0059】
延伸後に必要に応じて、寸法安定性および収縮応力の調整のためにヒートセット処理を施してもよい。ヒートセット処理の方法としては、延伸フィルムに熱風を吹き付ける間接加熱工程または熱ロールなどに延伸フィルムを接触させる直接加熱工程などを選択することができる。
また、延伸後にコロナ処理、オゾン処理、火炎処理などの表面処理を行うと、印刷用途にも適した収縮包装用多層フィルムが得られる。得られたフィルムは所定のサイズにスリット加工することが好ましい。
【実施例】
【0060】
以下、本実施の形態を実施例および比較例により具体的に説明するが、本実施の形態は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
なお、本実施の形態で用いられる評価方法および測定方法は下記のとおりである。
【0061】
<1.密度>
密度勾配管を用いて、JIS−K−7112に従って測定した。
【0062】
<2.メルトフローレート(MFR)>
温度190℃、荷重2.16kgの条件下でJIS−K−7210に従って測定した。
【0063】
<3.融点、結晶化温度、結晶融解熱量>
パーキンエルマー社製、入力補償示差走査熱量測定装置「Diamond DSC(登録商標)」を用いて測定した。サンプル量を5〜10mgとし測定雰囲気を窒素雰囲気とし熱量標準としてインジウムを使用して行った。加熱プログラムとしては、まずサンプルを10℃/分の昇温速度で0℃から200℃まで昇温し(1st.融解挙動)、200℃で1分間放置後、10℃/分の降温速度で200℃から0℃まで冷却し0℃で1分間放置した(1st.結晶化挙動)。さらにその後、10℃/分の昇温速度で0℃から200℃まで昇温を行った(2nd.融解挙動)。融点は2nd.融解挙動から得られた比熱曲線において、最大吸熱量を示す温度とした。また、結晶化温度は1st.結晶化挙動にて得られた比熱曲線において、最大発熱量を示す温度とした。また、2nd.融解挙動にて得られた、完全溶融状態の比熱曲線を低温側に直接外挿して得られる直線をベースラインとして、結晶融解熱量(ΔHm)を求めた。
100℃以下の融解熱量の比率は、上記結晶融解熱量と同様の方法で100℃以下での融解熱量を結晶融解熱量(ΔHm)にて割り返した値(%)を用いた。
【0064】
<4.ゲル分率>
沸騰p−キシレン中に150メッシュの金網に入れた試料を12時間浸漬し、不溶解部分の割合を次式より表示したもので、フィルムの架橋度の尺度として用いた。
ゲル分率(質量%)=(抽出後の試料質量/抽出前の試料質量)×100
【0065】
<5.熱収縮率>
ASTM D―2732に準拠して測定した。フィルムを流れ(MD)方向、幅(TD)方向にそれぞれ10cm×10cmとなるようにサンプリングを行い、120℃の温度で熱風乾燥機を用いて30分間収縮させた。5枚のフィルムを収縮させ、寸法変化を求め、MD、TD両方向でそれぞれ、平均値を求めた。
【0066】
<6.熱収縮応力>
ASTM D−2838に準じて測定した。オイルバスを用いて120℃での最大熱収縮応力値で評価した。フィルムを幅10mm×長さ50mmにサンプリングし、各温度に設定されたオイルバスに浸漬した際のピーク値を計測し、MD方向、TD方向それぞれ3回の測定を行って、平均値を求めた。
【0067】
<7.包装試験>
7−1.包装体外観
得られたフィルムを390mm巾にスリットし、株式会社フジキカイ製の「FW−3451A−αV(登録商標)」を用いて、30パック/分で包装を行った。トレーは、中央化学株式会社製トレー「CK20−11E(登録商標)」を用い、100gの粘土をトレーに載せた状態で30パック包装し、130℃に設定したシュリンクトンネル中で5秒間の熱処理を行い、フィルムを収縮させた後に包装仕上りの評価を行った。
〔評価基準〕
○:包装体前後のシール周辺に小皺や角残りがなく、フィルムと被包装物の間の空気溜りもなかった。
△:包装体前後のシール周辺に小皺があるが、角残りはなく、空気溜りもなかった。
×:フィルムが収縮しきらずに、空気溜りが残っていた。
【0068】
<8.光学特性>
8−1.曇り度
ASTM D−1003に準拠して測定した。上述した<7.包装試験>と同様の条件でピロー収縮包装を行い、得られた包装体のトレー上面のフィルムを50mm×50mmに切り出して評価した。
8−2.光沢度
ASTM D−2457に準拠して測定した。上述した<6.包装試験>と同様の条件でピロー収縮包装を行い、得られた包装体のトレー上面のフィルムを50mm×50mmに切り出して評価した。
曇り度が2.5%以下で、かつ光沢度が140%以上であることにより、フィルムに高級感があり、極めて商品価値が高いレベルと評価することができる。
【0069】
<9.変形回復性(押し込み荷重、復元時間)>
上述した、<7.包装試験>と同様の条件でピロー収縮包装を行い、得られた包装体を用いて下記方法にて評価した。
ピロー収縮包装体の中央に1000mm/minの一定速度で直径15mmの金属の丸棒(先端が半径7.5mmの半球)をトレー上面から20mmの深さまで押込み、その後、1000mm/minの速度で引き抜いた。20mm押し込んだ際の荷重を押し込み荷重とした。丸棒を引き抜いた直後(丸棒がフィルムに接触してから3秒後)から、押込みによってフィルムに生じた押し痕がなくなるのに要する時間を復元時間とした。なお、中の粘土は押込み時にフィルムに接触しないようにトレーの隅へ移動した。
【0070】
9−1押込み荷重
〔評価基準〕
○:400gf以上:耐荷重に大変優れ、包装体の段積みなどによってフィルムが伸長されづらく、押し込み痕が生じづらいレベル。
△:300〜400gf:耐荷重に優れるが、条件によっては包装体の段積みなどによって、フィルムが伸張され押し込み痕が生じるレベル。
×:300gf以下:耐荷重が劣り、包装体の段積みなどによってフィルムが伸張され押し込み痕が生やすいレベル。
【0071】
9−2復元時間
〔評価基準 復元時間〕
○:復元時間180秒未満:包装後の変形回複性に大変優れ、包装体の輸送後においてもユルミやシワが残存しにくいレベル。
△:復元時間180秒以上300秒未満:包装後の変形回複性に優れるが、条件によっては包装体の輸送後においてユルミやシワが残存するレベル。
×:300秒以上:包装後の変形回複性が良好でなく、包装体の輸送においてユルミやシワが残存するレベル。
【0072】
<10.輸送後の外観>
被包装体を100gの粘土から、0℃の冷蔵庫で保管された水練り品(円盤状の天ぷら×4枚)約240gに変更した以外は、上述した<6.包装試験>と同様の条件でピロー収縮包装を行い、包装体を得た。続いて、得られた包装品体を3段に積み重ねて2列にして、段ボールに入れ、片道約400kmの距離を車で往復輸送させた。輸送時の温度は、冷蔵温度(0〜10℃)とし、段ボール内には、3段積みしたトレーと別の3段積みしたトレーの間には段ボールの板を挿入して、互いに緩衝しないようにした。一番上のトレーと段ボールの蓋の間には、隙間がない程度に緩衝材を入れた。
〔評価基準〕
○:緩みや皺がなく、フィルムにタイト感があり、輸送前の状態と比べ被包装体が移動していない極めて優れた外観状態。
△:緩みや皺があるが、輸送前の状態と比べ被包装体が移動していない全体的には良好な外観状態。
×:緩みや皺があり、輸送前の状態と比べ被包装体が移動している良好でない外観状態。
【0073】
<11.総合評価>
〔評価基準〕
○:全てが○であり好適に使用できるレベル。
△:一部が△であるが、その他は○の評価であり、実用レベル。
×:×があり、実用レベルでない。
【0074】
実施例および比較例において使用した樹脂は、以下のとおりである。
<エチレン−α−オレフィンランダム共重合体>
・X1:エチレン−α−オレフィンランダム共重合体(宇部興産社製 ユメリット 0520F)
(シングルサイト触媒で重合されたもの、α−オレフィン:1−ヘキセン、密度:0.904g/cm3、メルトフローレート(以下、「MFR」と記す):2.0g/10min、融点:112℃、結晶化温度:97℃、結晶融解熱量:70J/g、100℃以下の融解熱量の比率:70%)
・X2:エチレン−α−オレフィンランダム共重合体(宇部興産社製 ユメリット 1520F)
(シングルサイト触媒で重合されたもの、α−オレフィン:1−ヘキセン、密度:0.914g/cm3、MFR:2.0g/10min、融点:113℃、結晶化温度:97℃、結晶融解熱量:96J/g、100℃以下の融解熱量の比率:55%)
・X3:エチレン−α−オレフィンランダム共重合体(宇部興産社製 ユメリット 215FA)
(シングルサイト触媒で重合されたもの、α−オレフィン:1−ヘキセン、密度:0.914g/cm3、MFR:2.0g/10min、融点:113℃、結晶化温度:97℃、結晶融解熱量:96J/g、100℃以下の融解熱量の比率:55%)
・X4:エチレン−α−オレフィンランダム共重合体(住友化学社製 スミカセンE FV201)
(シングルサイト触媒で重合されたもの、α−オレフィン:1−ヘキセン、密度:0.916g/cm3、MFR:2.3g/10min、融点:114℃、結晶化温度:101℃、結晶融解熱量:103J/g、100℃以下の融解熱量の比率:56%)
・X5:エチレン−α−オレフィンランダム共重合体(ダウケミカル社製 dowlex2032)
(マルチサイト触媒にて重合されたもの、α−オレフィン:1−オクテン、密度:0.926g/cm3、MFR:2.0g/10min、融点:121℃、結晶化温度:105℃、結晶融解熱量:128J/g、100℃以下の融解熱量の比率:26%)
・X6:エチレン−α−オレフィンランダム共重合体(宇部興産社製 ユメリット 2525F)
(シングルサイト触媒で重合されたもの、α−オレフィン:1−ヘキセン、密度:0.926g/cm3、MFR:2.5g/10min、融点:118℃、結晶化温度:105℃、結晶融解熱量:104J/g、100℃以下の融解熱量の比率:37%)
【0075】
<エチレン−α−オレフィンブロック共重合体>
・Z1:エチレン−α−オレフィンブロック共重合体(ダウケミカル社製 InfuseD9107.15)
(α−オレフィン:1−オクテン、密度:0.866g/cm3、MFR1.0g/10min、融点:120℃、結晶化温度:91℃、結晶融解熱量:18J/g、100℃以下の融解熱量の比率:7%)
・Z2:エチレン−α−オレフィンブロック共重合体(ダウケミカル社製 InfuseD9100.05)
(α−オレフィン:1−オクテン、密度:0.877g/cm3、MFR1.0g/10min、融点:120℃、結晶化温度:96℃、結晶融解熱量:37J/g、100℃以下の融解熱量の比率:4%)
【0076】
<低密度エチレン−α−オレフィンランダム共重合体>
・y1:エチレン−α−オレフィンランダム共重合体(ダウケミカル社製 Engage8100)
(α−オレフィン:1−オクテン、密度:0.870g/cm3、MFR:1.0g/10min、融点:59℃、結晶化温度:42℃、結晶融解熱量:17J/g、100℃以下の融解熱量の比率:100%))
・y2:エチレン−α−オレフィンランダム共重合体(ダウケミカル社製 Engage8150)
(α−オレフィン:1−オクテン、密度:0.868g/cm3、MFR:0.5g/10min、融点:57℃、結晶化温度:42℃、結晶融解熱量:18J/g、100℃以下の融解熱量の比率:100%))
・LD1
高圧法低密度ポリエチレン(旭化成ケミカルズ社製 サンテックLD M2004)
(密度:0.921g/cm3、MFR:0.4g/10min、融点:109℃、結晶化温度:95℃、結晶融解熱量:110J/g、100℃以下の融解熱量の比率:49%)
・LD2
高圧法低密度ポリエチレン(旭化成ケミカルズ社製 サンテックLD M2102)
(密度:0.922g/cm3、MFR:0.2g/10min、融点:110℃、結晶化温度:97℃、結晶融解熱量:106J/g、100℃以下の融解熱量の比率:46%)
【0077】
実施例1〜13および比較例1〜10として、表1および表2に示すような層の配置を有する収縮性多層フィルムの製造を行った。また、実施例1〜13および比較例1〜10において、ジグリセリンオレート(理研ビタミン社製 リケマール(登録商標)O−71−DE)およびグリセリンモノオレート(理研ビタミン社製 リケマール(登録商標)OL−100−E)を防曇剤として用いた。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
[実施例1〜13]
3台の押出機械より各層の使用原料を溶融させ、環状ダイスより、それぞれの樹脂を共押出しし、実施例1では片側ヒートシール層と層(A)からなる2層構成のチューブ状未延伸原反を得た。実施例2〜13では層(A)と、両表面層がヒートシール層からなる、3層構成のチューブ状の未延伸原反を得た。各層所定の比率となるように、各押出量を設定し、断面観察にて層構成を確認した。なお、チューブ状原反の外側から冷却媒体に水を用いて冷却固化した。
また、実施例1〜13では、ヒートシール層と層(A)に、防曇剤としてジグリセリンオレートとグリセリンモノオレートの質量比1:1である混合物を各層に使用する樹脂原材料に対して、2.0質量%添加した。添加方法として、防曇剤を押出機のスクリューの圧縮部手前に高圧ポンプにて注入する液体注入方法を用いた。
次に、冷却固化したチューブ状未延伸原反を電子線照射装置に誘導し、チューブ状原反の両側から、所定の照射線量となるように、加速電圧750kVにて架橋処理を行った。続いて、延伸機内に誘導し、延伸開始点の温度がヒートシール層、層(A)に用いるエチレン−α−オレフィンランダム共重合体(XおよびY)、ならびにエチレン−α−オレフィンブロック共重合体(Z)の融点以上であり、かつ150℃以下となるように加熱しながら、速度差を設けた2対のニップロール間でエアー注入を行い、その内圧にてバブルを形成し、バブルをデフレーター部で折りたたんだ後、巻取機にて巻き取ってフィルム原反を採取した。流れ方向(MD)の延伸倍率は、加熱入りのニップローラーの速度と巻取機の速度との速比で調整した。そして、巻取り機のフィルム原反巾とパリソン巾との比を幅方向(TD)の延伸倍率とした。MD延伸倍率、TD延伸倍率は、7.0×7.0として、フィルム厚さ11μmのフィルムを得た。
得られたチューブ状のフィルムの両端をカットしながら、幅390mmのサイズに切り出して、2枚のフィルムとし、それぞれ1枚のフィルムとしたものを、幅450mm、内径76.2mm、厚さ10mmの紙巻に皺が入らない程度のテンションで200mの長さで巻き付け、評価用収縮包装用多層フィルムとした。
【0081】
〔比較例1〜10〕
実施例1〜13と同様にして、表2の比較例1〜10に示すような重合体を用いて収縮包装用多層フィルムを得て評価を行った。
【0082】
表3に実施例、比較例の評価結果を示す。
【0083】
【表3】

【0084】
表3の結果から明らかなように、実施例1〜13の収縮包装用多層フィルムは、熱収縮率、熱収縮応力、包装体外観、曇り度、光沢度、変形回復性、輸送後の外観の点で優れたものであった。特に、実施例1〜13の収縮包装用多層フィルムは、変形回復性に優れたものであった。
一方、比較例1、2では、層(A)にエチレン−α−オレフィンランダム共重合体(X3)と、エチレン−α−オレフィンブロック共重合体(Z)と同程度の密度を持つ、低密度エチレン−α−オレフィンランダム共重合体(y1、y2)からなる組成物を用いたが、得られたフィルムは、熱収縮性は優れているが、変形回復性(復元時間)が300秒以上と不足しており、輸送後の包装体外観が悪化した。
比較例3では、比較例1に対して、層(A)のエチレン−α−オレフィンランダム共重合体(y1)の比率を増加したが、比較例1と同様に、変形回復性(復元時間)が300秒以上と不足しており、輸送後の包装体外観が悪化した。
比較例4、5、6では、層(A)に低密度エチレン−α−オレフィンランダム共重合体(y1)を用いた以外は、実施例5、7、10と同様に行ったが、実施例に比べ変形回復性(復元時間)に要する時間が300秒以上であり、輸送後の包装体外観が悪化した。
比較例7〜9は、層(A)に低密度エチレン−α−オレフィンランダム共重合体(y1)を用いた以外は実施例11〜13と同様に行ったが、得られたフィルムは実施例に比べ変形回復性(復元時間)に要する時間が300秒以上であり、輸送後の包装体外観が悪化した。
比較例10では、層(A)にエチレン−α−オレフィンブロック共重合体(Z2)単体を用いた以外は、実施例11と同様に行ったが、得られたフィルムは柔軟であり変形回復性(押込み荷重)に要する荷重が300gf以下であり、輸送後の包装体外観が悪化した。
実施例1〜13の収縮包装用多層フィルムは、熱収縮性と収縮包装後の変形回復性とが両立された収縮包装用多層フィルムであった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の収縮包装用多層フィルムを用いることで、従来フィルムで成し遂げられていなかった、熱収縮性と変形回復性を両立することができ、種々の容器形状においても角残りのない美麗な仕上がりが得られると共に、包装体に荷重が印加された場合においても、フィルムの伸張痕が速やかに復元でき、輸送後においても収縮包装体の美麗な仕上がりを維持することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層(A)と、前記層(A)上に積層されるヒートシール層と、からなる収縮包装用多層フィルムであって、
前記ヒートシール層は、
密度が0.900〜0.930g/cm3である、少なくとも1種のエチレン−α−オレフィンランダム共重合体(X)からなる層であり、
前記層(A)は、
密度が0.900〜0.930g/cm3である、少なくとも1種のエチレン−α−オレフィンランダム共重合体(Y)を30〜80質量%と、
密度が0.860〜0.890g/cm3である、少なくとも1種のエチレン−α−オレフィンブロック共重合体(Z)を20〜70質量%と、を含む組成物からなる層である、収縮包装用多層フィルム。
【請求項2】
前記エチレン−α−オレフィンランダム共重合体(Y)の密度が0.900〜0.920g/cm3である、請求項1に記載の収縮包装用多層フィルム。
【請求項3】
前記エチレン−α−オレフィンランダム共重合体(Y)の100℃以下の融解熱量の比率が30〜80%である、請求項1または2に記載の収縮包装用多層フィルム。
【請求項4】
前記エチレン−α−オレフィンブロック共重合体(Z)の融点が100〜130℃であり、結晶化温度が80〜100℃である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の収縮包装用多層フィルム。
【請求項5】
前記エチレン−α−オレフィンブロック共重合体(Z)の結晶融解熱量が10〜50J/gである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の収縮包装用多層フィルム。
【請求項6】
電子線照射により架橋された、請求項1〜5のいずれか一項に記載の収縮包装用多層フィルム。
【請求項7】
収縮包装用フィルム全体のゲル分率が20〜60質量%である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の収縮包装用多層フィルム。
【請求項8】
前記層(A)の両面に前記ヒートシール層が積層される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の収縮包装用多層フィルム。
【請求項9】
ヒートシール層と層(A)の原料樹脂を環状ダイスより共押出しし、得られたチューブ状パリソンを冷却する工程、
延伸機内で再加熱して延伸開始温度が、ヒートシール層と層(A)に用いられる原料樹脂の融点〜150℃の範囲内の温度で、流れ方向及び幅方向に2〜10倍の倍率で延伸を行う工程、
を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の収縮包装用多層フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記チューブ状パリソンに電子線照射による架橋処理を行う工程をさらに含む、請求項9に記載の収縮包装用多層フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2009−298119(P2009−298119A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158267(P2008−158267)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】