説明

取り扱い性に優れた弾性糸

【課題】弾性糸は伸長率が大きく、軽度の張力で伸びることから編み織り工程やその準備工程での張力管理に多大な労力を要し、場合によっては特殊な張力調整器機や積極給糸装置が必要で特殊な準備機や特殊な編み織り機が必要である課題を有する。
【解決手段】加熱収縮熱処理前の破断伸度が80〜300%であって、加熱収縮熱処理後の破断伸度が500%以上で、伸長回復率50%以上である弾性糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製布工程での取り扱い性に優れた弾性糸関し、更に詳しくは熱処理前の伸度が低く取り扱い性が優れる一方、製布後の布帛は高品位かつ伸縮性を発現する弾性糸に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン(ウレア)弾性繊維(スパンデックス)を用いた弾性繊維は、その優れた伸縮性特性から衣料分野等に広く用いられており、年々その用途を拡大している。弾性繊維はベアーで使われる場合もあるが、触感や布帛表面の光沢や色の均一性の面で非弾性糸との混用で芯鞘型複合紡績糸や、カバリング糸等の複合弾性糸として用いられることが多い(例えば特許文献1、2参照)。
しかしながら、該弾性糸は伸長率が大きいため、特殊な積極給糸装置、特殊な準備機や特殊な編み織り機が必要であり、これらの装置を用いても取り扱い性、作業性に難点を有していた。更に、該弾性糸は、外乱に弱く、摩擦等の軽度の外乱で大きなテンション変動を起こし、ひいては製品(織物、編み物等)の外観品位を損ねる原因となっていた。製品布帛品位を確保する手段として、編織構成等の検討がなされているが(例えば特許文献3参照)、品位を確保するために製品の構成が制限され、またその効果も十分とはいえなかった。また従来の弾性糸は高伸度かつ高収縮力であるため、パッケイジの巻硬度をあげると、経時的に伸張率に内外層差が発生し、あるいは解除不良を招くという理由により、ソフトに巻く必要があった(例えば特許文献4参照)。その結果、巻き形状、解除テンションが不安定で、解除時にループの発生や綾落ち、品位不良のトラブルの危険性があった。
【特許文献1】特開2001−355138号公報
【特許文献2】特開2004−36016号公報
【特許文献3】特開平10−158905号公報
【特許文献4】特開平7−61708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本名発明は、従来技術を背景になされたもので、製品製造工程での取り扱い性が良好である一方で、製品として優れた伸張回復性を示し、更には良好な製品外観品位を得ることを可能とする弾性繊維を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、該架橋型ポリオレフィン弾性繊維の熱セット特性に鑑みて、従来のスパンデックス等では達成できなかった、多少の張力変動でも安定した品質を確保できることを見出し本発明に到った。すなわち本発明は
1.加熱収縮熱処理前の破断伸度が80〜300%であって、加熱収縮熱処理後の破断伸度が500%以上で、伸長回復率50%以上である弾性糸であり、
2.該弾性繊維が架橋型ポリオレフィン系弾性繊維である。
【発明の効果】
【0005】
本発明の弾性糸は製編織時に解除張力変動が少なく、伸度も適度に低いことから、張力による糸長差が生じにくい、取扱性、工程管理性に優れ、経時によるパッケイジの内外層差で伸張率差が少なく、染色仕上げ工程ではじめて、弾性が発現するため均一な布張力下で弾性発現ができるので布幅変動が少なく、十分なストレッチ性を発揮する、従来にない取り扱い性、伸縮性能を併せ持つという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明にかかる弾性糸は、加熱収縮熱処理前の破断伸度が80〜300%であることが好ましい。より好ましくは80〜250%、更に好ましくは80〜200%である。破断伸度が80%未満であれば永久歪が多くなり、後の収縮熱処理時の収縮が抑制され、結果的に処理後の伸度および伸長回復性が低下することや、場合によっては伸長セット時に部分破断が生じ、後の製布工程で糸切れが生ずることもあるからである。また、300%を超えると工程中の張力変動で弾性糸の糸長が変動し、布帛の欠点につながり、張力調整器や積極給糸装置なしでは、均一な布帛を得ることができない。
すなわち、かかる範囲を満たすことにより、積極給糸装置や特殊は張力調整機を持たない装置で織物の準備工程や編み織り機に供給することができ、従来の弾性糸と比して格段に取り扱い性、製品品位が向上する。
【0007】
本発明にかかる弾性糸は、加熱収縮後の破断伸度は500%以上が望ましく、より好ましくは600%以上800%以下である。500%未満では得られる布帛のストレッチ性が不足し、伸長応力も高くなって、伸長特性が不十分である。800%を超えると、伸長性が大きくなりすぎ、回復性能が不十分で形態安定性に劣る。
【0008】
本発明に係る弾性糸に用いる弾性繊維は、分枝を有した架橋型ポリオレフィン繊維であって、実質的に線状であるオレフィンに架橋処理を施されてなる繊維であってもよい。
該弾性繊維は、ポリウレタン弾性繊維に比べ、伸張して熱セットすると伸度は大きく低下し、その後更に過熱収縮させると、伸張回復性を再発現するという、本発明の課題を達成するに適した特性を有するからである。
【0009】
ここで分枝していて実質的に線状であるオレフィン繊維とは、オレフィン系モノマーを重合させた重合物であるものを言う。
例えばαオレフィンを共重合させた低密度ポリエチレンや特表平8−509530号公報記載の弾性繊維がこれに当たる。また架橋処理の方法としては、例えばラジカル開始剤やカップリング剤などを用いた化学架橋や、エネルギー線を照射することによって架橋させる方法等が挙げられる。製品となった後の安定性を考慮するとエネルギー線照射による架橋が好ましいが、本発明はこれらの方法に限定されるものではない。
【0010】
本発明における架橋型ポリオレフィン繊維を含む弾性糸は、実際の工程においては、上述のように仮セット性があることから、製織編時に低伸縮化できるため、非弾性糸と同等の取扱いができ、後の精練、染色工程で伸縮性能が回復できる特性を持たせることで適用することができる。加えて架橋構造を導入することで耐熱性が付与しえ、結晶融点以上の熱処理に耐えうることも大きな利点である。
【0011】
本発明にかかる弾性糸は通常の溶融紡糸方法でモノフィラメントまたはマルチフィラメントとして巻き取られ、架橋処理がなされて、架橋型ポリオレフィン系弾性糸が得られる。この弾性糸を伸長しながら結晶の融点である60℃以上で熱セットすることで得ることができる。この熱セット処理は架橋後に実施するがオンライン架橋できる場合は紡糸ラインで架橋に引き続き連続処理することも可能である。セット温度は実質糸温度が60℃以上であれば良く、加工速度および加熱装置の長さにより設定温度を決めればよい。加熱方法は乾熱、湿熱を問わない。ただし、架橋型ポリオレフィン系弾性糸は金属との摩擦が大きいため、非接触型の装置が均一な処理のために好ましい。また同繊維の溶断温度は220℃近辺にあり、糸の劣化の観点より、180℃未満とすることが望ましい。伸長率は架橋後の弾性糸の伸度により決定されるが、伸度が最も一般的な600%の糸の場合は2倍〜4.5倍の伸長率とすることで、目的のセット上がり伸度を得ることができる。同セットにあたっては加熱ローラーで処理することも可能であるが、十分に冷却後に張力を開放して、パッケイジに巻く配慮が必要である。伸長しながらパッケイジに巻き上げ、チーズ状でバッチ熱処理処理することも可能であるが、加熱時に部分粘着が生じ解除性が損なわれるので好ましくない。
【0012】
本発明でいう伸長回復率は300%伸長時の回復率を意味し、50%未満では前述の伸長性能が不十分で弾性糸とは言いがたい性能である。
以下、実施例を用いて詳述するが本発明の実施形態を限定するものではない。
【実施例】
【0013】
以下、実施例で詳細な説明をするが、本発明の実施形態を限定するものではない。
本発明の評価は以下の方法で実施した。
(A)[糸の伸度の測定方法]
TENSILON型伸長試験機でゲージ長=50mm、伸張速度=500mm/min、記録紙速度=200mm/minの条件のもと、初荷重を0.9mg/dtexとして破断伸度を測定し、3回の測定結果を平均して破断伸度とした。
(B)[糸の伸長回復率の測定方法]
糸の伸度の測定と同法で300%まで伸長し、瞬間的に500mm/min.の速度で元の方向に戻し、応力が0となるゲージ長をL1とし、伸長前のゲージ長L0とで回復率を次式より求める。 回復率={(4・L0−L1)/(3・L0)}×100(%)
【0014】
[実施例1]
破断伸度が600%の架橋型ポリオレフィン繊維44dtexのモノフィラメントのチーズを一対のローラー上に設置し、横取り方式で1.3倍のドラフト下でフィードローラー供給し、後設のドローローラー間で、1.92倍で伸張しながら、フィードローラーとドローローラーの間に設置された非接触型のスリットヒーター(ヒーター長=500mm)で、140℃で熱セットし、ドローローラーの表面速度の97.5%の速度で巻き取った。このときのドローローラーの表面速度は300m/分であった。巻き取られたパッケイジの形状は良好であった。得られた糸の伸度と沸水処理後の伸度および伸長回復率を表1に示した。同糸を20インチ径のサントーニ型丸編機でナイロン加工糸44dtex10フィラメントと交編し、弾性糸の混率が8%のフライス編地を得た。この時、弾性糸は積極給糸を使うことなくナイロン加工糸と同等に縦取り方式で供給したが、最内層までスムーズに解除でき、得られた編地には、編み段はなく均一な編地が得られた。同編地を常法で精練すると、編地幅が60%に収縮し、高品位で伸縮性に富む肌着に適した編地が得られた。
【0015】
[実施例2]
破断伸度が600%の架橋型ポリオレフィン繊維156デシテックスのモノフィラメントとし、トータルドラフト倍率を4.5とした以外は実施例1と同法で弾性糸を得た。巻き取られたパッケイジの形状は良好であった。得られた糸の伸度と沸水処理後の伸度および伸長回復率を表1に示した。
平均繊維長が26mmの綿繊維よりなる粗糸をフロントローラーとバックローラー間で48倍にドラフトし、同時に該延伸セットした架橋型ポリオレフィン繊維をフロントローラーに解除張力のままドラフトすることなく供給し、撚係数を4.2として70gの張力下で精紡コップに巻取り、12綿番手の芯鞘型複合紡績糸を得たが、このとき弾性糸の最内層までスムーズに解除することができた。架橋型ポリオレフィン繊維の混用率は7.9%であった。該紡績糸を70℃で15分間キヤーセットした。該紡績糸を540本まとめてロープ状として、12本づつを平行して走行させ、公知のロープ染色機でインジゴ染浴濃度3g/リットルの染色槽に30秒間浸漬し、約100%に絞り、酸化のためのエアリングを2分を1サイクルとして8サイクルをそれぞれ実施して染色した後、洗浄、オイリング、乾燥、糊付け乾燥してインジゴロープ染めしたロープ状物を得た。これを分繊して経糸とした。この時ロープ状の複合弾性糸にはほとんど伸縮性がなく、スムーズに分繊した。緯糸に先染め綿糸12番手を打ち込み、常法精練糊抜きを実施し、サンフォライズ加工してデニムクロスを得た。同布は縦方向に伸縮性のある高品位の布帛でストレッチジーンズに適した布帛であった。
【0016】
[比較例1]
供給する弾性糸を伸長セットしていない架橋型ポリオレフィン繊維44dtexとし、機上でコンペンセターで2.5倍にドラフトしたこと以外は実施例1と同法で編み物を得た。編み立て解除時に伸縮性が大きく、取り扱い性が極めて悪く、編みたて時に解除斑が発生し、編み段だらけでムラムラで品位の悪い編地でしかなかった。
【0017】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明の弾性糸は製編織時に解除張力変動が少なく、伸度も適度に低いことから、張力による糸長差が生じにくい、取扱性、工程管理性、に優れ、染色仕上げ工程ではじめて、弾性が発現するため、弾性が均一な布張力下で発現し、均一で十分なストレッチ性を発現させるため、高品位を確保することができる。また、巻き形状も安定でラージパッケイジ化も期待でき、産業界に寄与すること大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱収縮熱処理前の破断伸度が80〜300%であって、加熱収縮熱処理後の破断伸度が500%以上で、伸長回復率50%以上であることを特徴とする弾性糸。
【請求項2】
該弾性繊維が架橋型ポリオレフィン系弾性繊維であることを特徴とする請求項1記載の弾性糸。

【公開番号】特開2006−77375(P2006−77375A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−265331(P2004−265331)
【出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】