説明

取鍋予熱装置

【課題】 工場内環境を悪化させることなく、かつ、加熱エネルギーの効率の点で真に優れた取鍋予熱装置を提供する。
【解決手段】 上部に溶湯の注ぎ口となる開口部を有する取鍋1と、開口部を塞いで取鍋1を密閉する密閉蓋2と、密閉蓋2を貫通して取鍋1に装入される陽極電極3と陰極電極4とを備え、陽極電極3と陰極電極4との間にアークを発生させて取鍋1の内部を加熱することを特徴とする。陽極電極3は電極駆動装置9により昇降し、アークの発生および消滅の制御が可能となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造工場で用いられる取鍋の予熱ないし保温のための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
取鍋は、鋳造品を製造するための溶湯を、鋳造鋳型まで搬送するための容器として用いられている。1,500℃以上という高温の溶湯の急激な温度低下を防ぐために、溶湯を注湯する前に取鍋が600℃以上となるよう、取鍋を予熱する必要がある。また、取鍋内で溶湯を保持して待機させる場合も同様に、取鍋を600℃以上に保温する必要がある。そのため、従来より、ガスや重油等を燃料としたバーナーの燃焼エネルギーによって取鍋内を加熱して、取鍋の予熱・保温を図ることが行われており、例えば、バーナーで燃焼ガスを下向きに吹き付けて取鍋を予熱する手法等がある。
【0003】
しかし、この手法では、高温となった気体が取鍋上部の開口部から逃げていくので熱効率が悪く、取鍋を均一に加熱できない。このような事情から、鋳造用取鍋の底を上にし開口部を下向きとして耐火材からなる受台上に載置し、受台に設置したバーナーより上向きに燃焼ガスを吹き出して取鍋を予熱し、取鍋の開口端部と受台との間隙から排気する取鍋の予熱方法等(例えば、特許文献1参照。)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−71421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、バーナーによる燃焼では、燃焼を維持させるためや燃焼後の排気のために、バーナーと取鍋開放部との間に開口部分の存在が不可避となる。このような開口部分が存在することにより、取鍋内の燃焼による熱気と取鍋内壁の耐火物から発生する粉塵とが取鍋外へ放出されて、工場内環境を悪化させる要因となっている。
【0006】
また、開口部分の存在は、バーナーの加熱エネルギーを取鍋外へ放散させることになるので、上記特許文献1の手法によってもエネルギーロスは少なからず発生し、エネルギー効率の点で真に優れているとはいえない。このようなエネルギーロスは加熱時間を多く要することになるので、結果的にランニングコストを浪費することになってしまう。
【0007】
さらに、バーナーの燃焼には酸素が不可欠であり、耐火物が酸素と反応して劣化、損耗し、取鍋内壁の寿命を短くするという問題もある。取鍋内に残留した溶湯と酸素が反応して耐火物の損耗を早めることもある。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、工場内環境を悪化させることなく、かつ、加熱エネルギーの効率の点で真に優れた取鍋予熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明に係る取鍋予熱装置は、上部に溶湯の注ぎ口となる開口部を有する取鍋本体と、前記開口部を塞いで取鍋本体を密閉する密閉蓋と、前記密閉蓋を貫通して取鍋本体に双極の電極を装入し、当該電極間にアークを発生させて取鍋本体内部を加熱するアーク加熱手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
これによれば、高温で発生するアークの輻射熱を用いた加熱エネルギーは、密閉蓋で密閉されているので取鍋外部に放散されることがなく、加熱エネルギーを効率的に取鍋の予熱に利用することができる。また、密閉されているため、取鍋内部の熱気や粉塵が外部へ放出されることがなく、良好な工場内環境を維持することも可能である。
【0011】
ここで、前記アーク加熱手段は、電極を昇降させてアークの発生および消滅を制御するアーク制御手段を備えるのが好ましい。
【0012】
また、前記取鍋本体の内壁に、本体内部の温度を計測する温度計測手段を備えるのが好ましく、前記取鍋本体の内部に不活性ガスを注入する不活性ガス注入手段を備えるのがより好ましい。
【0013】
これによれば、取鍋内部の温度に応じてアークの発生・消滅を制御して、取鍋内部の温度を目標とする温度に調整することが可能となる。電気制御可能なアークによる加熱であるから、従来のバーナー式と異なり精度の高い制御が可能である。また、取鍋内部を不活性ガス雰囲気とすることで、アークの安定性が向上する。さらに、アークによる加熱のため、取鍋内に酸素を必要とすることがないから、取鍋内部を不活性ガス雰囲気とすることで、電極表面や耐火物の酸化を防止、損耗劣化を減少させることができ、取鍋内壁の寿命を向上させることもできる。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明に係る取鍋予熱装置によれば、アークによる加熱とともに取鍋の開口部を密閉蓋で密閉するので、加熱エネルギーを無駄なく活用することができ、取鍋内部の熱気や発生する粉塵を外へ放出することのない、加熱効率に優れ、かつ、良好な工場内環境を提供しうる取鍋予熱装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】取鍋予熱装置の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る取鍋予熱装置について図を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、取鍋予熱装置の構成を模式的に示す図である。
【0018】
取鍋予熱装置は、外皮が鉄鋼製で内壁が耐火物で構成されている取鍋1と、取鍋1の本体上方の開口部を塞いで取鍋1を密閉するための密閉蓋2と、取鍋1内でアークを発生させる陽極電極3、陰極電極4及び陰極電極板5と、密閉蓋2を押圧して密閉蓋2の密閉状態を保持させる蓋押圧ユニット6とを備えている。
【0019】
取鍋1は、その中心部に陽極電極3と陰極電極4の双極のカーボン電極が装入される。陽極電極3と陰極電極4は、電極駆動装置10によって昇降可能とされ、取鍋1に装入された陽極電極3と陰極電極4は、双極間で比較的高い負荷電圧により高温のアークを発生、持続させ、その輻射熱を利用して取鍋1の内壁の耐火物表面を予熱・保温する。ここで用いられる電源は、アークの安定性を考慮してDC(直流)電源とするのが好ましい。直流電源とすることで、高い加熱効率が得られ、ランニングコストが抑えられるというメリットもある。
【0020】
取鍋1に装入されている陰極電極4は先端に陰極電極板5を備えたL字型となっており、陽極電極3のみを昇降させる電極駆動装置9によって陽極電極3を陰極電極板5に近接させたり、離反させたりすることで、アークの発生・消滅を制御可能にしている。
【0021】
取鍋1の上方の開口部は、溶湯の注ぎ口となるものであるが、アークによる加熱が行われている際には密閉蓋2によって密閉される。蓋吊下げワイヤ8で吊下げられた密閉蓋2は、その裏面側、つまり、取鍋1の上面縁と接触する部分にセラミックウールが取り付けられている。蓋押圧ユニット6が、密閉蓋2の上面(表面)の3〜4か所を均等に押圧するとき、セラミックウールの厚みによって密閉度を調整することができる。例えば、セラミックウールの厚さを50mmとした場合、蓋押圧ユニット6の押圧によりセラミックウールの厚さが40mmとなるように調整するのが好ましい。そして、陽極電極3及び陰極電極4は密閉蓋2を貫通することになり、陽極電極3及び陰極電極4と密閉蓋2との隙間は、キャスタブル(不定形耐火物)を固化させた密閉シールリング7が取り付けられて、アーク加熱時における取鍋1の密閉度が高められている。
【0022】
ここで、取鍋1内壁の任意の位置に、取鍋1の内部の温度を計測する温度センサを埋設し、温度センサの計測値に基づいて電極駆動装置9を制御するのが好ましい。温度センサで内部温度を計測して、その温度に応じて電極駆動装置9により陽極電極3を昇降させて、アーク消滅、再着火の反復動作を行うことにより、予め設定された目標温度(例えば600℃)が維持できるようになる。
【0023】
このように構成された取鍋予熱装置において、取鍋を予熱する手順は以下のようになる。
【0024】
電極駆動装置10を作動させて取鍋1の中心部に陽極電極3と陰極電極4を装入する。蓋吊下げワイヤ8を降下させて密閉蓋2を取鍋1に被せ、蓋押圧ユニット6によって密閉蓋2で取鍋1の開口部を密閉する。
【0025】
ここで、取鍋1内部に窒素ガス(N2)やアルゴン(Ar)等の不活性ガスの注入口を設けて、不活性ガスを所定の濃度まで注入するのが好ましい。密閉された取鍋1の内部を不活性ガス雰囲気とすると、アークの安定性が向上するだけでなく、酸素を使わないので電極表面の酸化を防止でき、耐火物の損耗劣化が少なくなり、耐火物寿命を向上させることができるからである。なお、不活性ガスは、予熱を開始する前に予め注入するとしてもよいし、予熱中に断続的あるいは連続的に注入するようにしてもよい。アークの安定性を得るためには連続的に注入するのが効果的である。ただし、連続的に注入すると、加熱を抑制する作用があるため、一定時間ごと、すなわち、断続的に注入するのが好ましい。
【0026】
取鍋1を密閉して、内部を不活性ガス雰囲気とした後、電極駆動装置9を作動させて陽極電極3を上昇させ、陽極電極3と陰極電極板5との間に所定の電気条件(電圧・電流)でアークを発生させて予熱を開始する。電気条件を細かく設定することで、従来のバーナー式の予熱と異なり精度の高い制御も可能となる。そして、内壁に設けられた温度センサで内部の温度を計測し、目標温度を維持するよう、電極駆動装置9により陽極電極3の上下動を制御する。すなわち、目標温度に達すると陽極電極3を下降させ、陰極電極板5との導通によりアークを消滅させ、自動的にDC電源を切る(遮断する)。目標温度を下回ると陽極電極3を上昇させ、自動的にDC電源を入れ(起動し)再びアークを発生させて加熱する。このような制御を繰り返すことにより取鍋1内部の温度を目標とする数値範囲内に維持することができる。
【0027】
以上、説明したように、本実施の形態に係る取鍋予熱装置によれば、取鍋1上部の開口部を密閉蓋2で密閉するので、アークによる加熱エネルギーを外部へ逃がすことがなく、加熱効率に優れた取鍋予熱装置を実現することができる。また、取鍋1内部の熱気や取鍋1の内壁の耐火物等から発生する粉塵が外へ放出されることがなく、工場内の環境を良好なものとすることができる。
【0028】
以上、本発明に係る取鍋予熱装置について、実施形態に基づいて説明したが本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の目的を達成でき、かつ発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々設計変更が可能であり、それらも全て本発明の範囲内に包含されるものである。
【0029】
例えば、上記実施の形態では、密閉蓋で密閉させる手段として蓋押圧ユニットを用いたが、密閉度を確保できるものであれば、その他の手段であってもよい。
【0030】
また、上記実施の形態では、陽極電極を上下動させてアークの消滅・再着火の制御を行うとしたが、陰極電極の上下動であってもよいし、双極を上下動させて制御するとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、鋳造工場で用いられる取鍋の予熱保温装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 取鍋
2 密閉蓋
3 陽極電極
4 陰極電極
5 陰極電極板
6 蓋押圧ユニット
7 密閉シールリング
8 蓋吊下げワイヤ
9,10 電極駆動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部に溶湯の注ぎ口となる開口部を有する取鍋本体と、
前記開口部を塞いで取鍋本体を密閉する密閉蓋と、
前記密閉蓋を貫通して取鍋本体に双極の電極を装入し、当該電極間にアークを発生させて取鍋本体内部を加熱するアーク加熱手段とを備える
ことを特徴とする取鍋予熱装置。
【請求項2】
前記アーク加熱手段は、電極を昇降させてアークの発生および消滅を制御するアーク制御手段を備える
ことを特徴とする請求項1記載の取鍋予熱装置。
【請求項3】
前記取鍋本体の内壁に、本体内部の温度を計測する温度計測手段を備える
ことを特徴とする請求項1又は2記載の取鍋予熱装置。
【請求項4】
前記取鍋本体の内部に不活性ガスを注入する不活性ガス注入手段を備える
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の取鍋予熱装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−55908(P2012−55908A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199571(P2010−199571)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000225027)特殊電極株式会社 (26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】