説明

受信機、レーダ装置及びSTC制御方法

【課題】パルス幅の異なるパルス信号を用いるレーダ装置のSTC回路において、シークラッタの除去が十分に行え、かつ物標で反射されたパルス信号の探知も容易に行えるようにすることである。
【解決手段】第1減衰器3は、距離値と減衰量との関係を示すゲインSTC1(r)に基づいて短パルス受信信号を減衰させる。第2減衰器4は、ゲインSTC1(r)とはゲインSTC2(r)に基づいて長パルス受信信号を減衰させる。信号選択器5及び受信用長/短パルス切替器9は、第1減衰器3の出力と前記第2減衰器4の出力のいずれか一方を選択する。入力部16は、信号選択器5及び受信用長/短パルス切替器9の切替の距離値を入力するためのものである。STC制御器及び長/短パルス切替制御器17は、入力部16で入力された距離値で信号選択器5及び受信用長/短パルス切替器9に切替を行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パルス幅の異なる複数種類のパルス信号を受信する受信機、そのような受信機を含むレーダ装置及びSTC(Sensitivity Time Control)制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、レーダ装置は、送信を行なっている間、送信電力の受信機への漏れのため、信号を受信できない状態となる。特にパルス圧縮レーダ装置においては、送信信号パルスのパルス幅が比較的長いため、受信できない時間が長くなり、近距離の目標が見えないという不都合を生ずる。特許文献1(特許第2652950号公報)に記載されているように、従来のパルス圧縮レーダ装置にあっては、長/短パルス複合方式によってこのような問題の解決を図っている。
【0003】
即ち、送信時点から送信信号のパルス幅の時間内においては圧縮パルス幅に相当する短パルスで送受信を行い、その後は本来の送信信号(長パルス)を用い、短パルスについての受信信号と長パルスについてパルス圧縮受信した信号とを合成する方式である。
【0004】
図7には、例えば特許文献1に記載されている、長/短パルス複合方式を採用するパルス圧縮レーダ装置の構成例が示されている。図7に示されているパルス圧縮レーダ装置100は、アンテナ1と、サーキュレータ2と、信号選択器5と、受信信号の出力端子6と、パルス圧縮受信機7と、長パルス送信機8と、受信用長/短パルス切替器9と、短パルス受信機10と、遅延線路11と、送信用長/短パルス切替器12と、短パルス送信機13と、長/短パルス切替信号の入力端子14とを備えている。
【0005】
次に、図8を参照して動作を説明する。
【0006】
図8(a)に示すように、入力端子14に印加される長/短パルス切替信号は1送信周期Tの開始時点からの一定期間Tを短パルス送受信の期間として、以後を長パルス送受信の期間とするものである。この長/短パルス切替信号に基づき、送信用長/短パルス切替器12および受信用長/短パルス切替器9は所要の切替動作を行う。まず、入力端子14に短パルス送受信を指示する長/短パルス切替信号が入力すると、短パルス送信機13が出力する送信信号SPTは、送信用長/短パルス切替器12を通り、サーキュレータ2を介してアンテナ1から空気に放射される(図8(b))。目標から反射して来た信号は再びアンテナ1で受信され、サーキュレータ2及び受信用長/短パルス切替器9を通って短パルス受信機10に入力される(図8(c))。短パルス受信機10で信号処理された短パルス受信信号SPRは、遅延線路11を経て、後述する長パルス受信信号と重畳すべく時間的整合をとるための時間Tだけ遅延して(図8(d))、信号選択器5に入力される。このようにして、送信周期Tのうち長パルス送受信に先立って割り当てる短パルス送受信周期としての一定期間T内に、短パルス受信信号SPRは信号選択器5に入力される。1送信周期Tの開始時点から一定期間Tを経過すると、入力端子14に長パルス送受信を指示する長/短パルス切替信号が入力する。このような長/短パルス切替信号が入力すると、パルス圧縮用の長パルス送信機8が出力するパルス幅T(T≦T)の送信信号が、送信用長/短パルス切替器12を通り、サーキュレータ2を介してアンテナ1から放射される(図8(e))。目標で反射されて再びアンテナ1で受信された信号は、サーキュレータ2及び受信用長/短パルス切替器9を通ってパルス圧縮受信機7に入力される。パルス圧縮受信機7で、マッチドフィルタを通過した後(図8(f))、信号選択器5に入力される。信号選択器5では、1送信周期Tの開始時点から時間Tだけ経過した後の一定期間Tでは遅延線路11の出力を選択し、その後の期間ではパルス圧縮受信機7の出力を選択する。その結果、信号選択器5は、図8(g)に示すように、短パルス受信信号SPRと長パルス受信信号LPRを時間合成して出力することになる。なお、図8の信号波形には包絡線のみが示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前述した長/短パルス複合方式を採用する従来のパルス圧縮レーダ装置にあっては、次のような問題がある。
【0008】
長/短パルス複合方式を採用するパルス圧縮レーダの海面や雨などによって発生する不要な反射波であるクラッタからの受信電力の比は、短パルスのパルス幅をτ(μs)、長パルスのパルス幅をτ(μs)とするとτ/τになる。そのため、短パルス、長パルスの合成間のクラッタによる受信電力は不連続になる。
【0009】
一般に、海面反射によるクラッタを除去する方法としてSTC回路が使用される。海面反射によるクラッタ受信電力が、後述する数2で表わされるように距離値の3乗に反比例することから、STC回路は、スロープ関数を用いて、通常、減衰量を距離値の3乗に比例させる制御を行う。
【0010】
しかしながら、長/短パルス複合方式を採用するパルス圧縮レーダにSTC回路を付加しようとすると、パルス幅の異なるパルス信号を用いるためクラッタの受信電力が異なり、STC回路の減衰量の制御が難しくなることが予想される。例えば、海面反射によるクラッタの除去が十分に行えなかったり、逆に、受信信号を大きく減衰させすぎて物標の反射信号を探知できなかったりすることがある。
【0011】
図9(a)は、海面反射がないときの距離値と受信電力との関係を示すグラフである。距離値と受信電力との関係を示すグラフにおいては、横軸が対数距離を示し、縦軸が対数受信電力を示している。ノイズの受信電力Nは、数1で表され、パルス幅に関わらず一定である。そのため、海面反射のないときの受信電力を示す図9(a)の曲線Cn11は、ノイズフロアーを示す水平な直線になっている。
【0012】
【数1】

【0013】
図9(a)に示す距離値r11は、レーダ装置における信号処理が、短パルスから長パルスに切替わる距離の値である。即ち、距離値r11を受信境界として、距離値r11よりも近距離の受信領域Ar1では短パルスが扱われ、遠距離の受信領域Ar2では長パルスが扱われる。海面反射がないときは、レーダ装置で受信される受信電力Prのレベルは、いずれの受信領域Ar1,Ar2でも同じになる。
【0014】
図9(b)は、海面反射があるときの距離値と受信電力との関係を示すグラフである。海面反射の受信電力Prは、数2で表される。
【0015】
【数2】

【0016】
短パルスとパルス圧縮後の長パルスとの尖頭送信電力の差がDP1(dB)であるとき、同じ距離から戻ってくる短パルスと長パルスについて、海面反射の受信電力Prの差はDP1(dB)になる。そのため、海面反射があるときには、短パルスから長パルスに切り換わる境界(距離値r11)では、受信電力Prの差DP1が生じ、図9(b)の曲線Cn12が不連続になる。曲線Cn12において、受信領域Ar1及び受信領域Ar2の範囲b1のところでは、距離が長くなるに従ってクラッタの影響が徐々に小さくなるので受信電力Prも徐々に小さくなる。また、受信領域Ar2の範囲b2のところでは、クラッタの影響がほとんどなくなり一定のノイズフロアーが現れる。
【0017】
STC回路を備えるレーダ装置においては、一般に、STC回路のSTCゲインカーブを与える、距離値と減衰量との関係を示すスロープ関数を設定する。ところが、長/短複合方式を採用するパルス圧縮レーダ装置においては、パルス幅の異なるパルス信号を用いるためスロープ関数の設定が難しく、シークラッタの除去が十分に行えなかったり、逆に、STC回路において受信信号を大きく減衰させすぎて物標で反射されたパルス信号を探知できなかったりすることがある。
【0018】
この発明の目的は、パルス幅の異なるパルス信号を用いるレーダ装置のSTC回路において、シークラッタの除去が十分に行え、かつ物標で反射されたパルス信号の探知も容易に行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係る受信機は、順次送信された短パルス送信信号及び短パルス送信信号よりもパルス幅の長い長パルス送信信号の反射波である短パルス受信信号及び長パルス受信信号を受信する受信機であり、第1減衰器と第2減衰器とスイッチと入力部と制御部とを備える。第1減衰器は、距離値が増加するに従って減衰量が減少する関係を示す第1関数に基づいて短パルス受信信号を減衰させる。第2減衰器は、距離値と減衰量について第1関数とは異なる関係を示す第2関数に基づいて長パルス受信信号を減衰させる。スイッチは、第1減衰器の出力と第2減衰器の出力のいずれか一方を選択する。入力部は、スイッチの切替の距離値を入力するためのものである。制御部は、入力部で入力された距離値でスイッチに切替を行わせる。
【0020】
本発明の受信機では、短パルス受信信号と長パルス受信信号でパルス幅が異なるため海面反射の受信電力に差が有る場合であっても、第1減衰器で減衰させた短パルス受信信号を使うか第2減衰器で減衰させた長パルス受信信号を使うかの切替を行う距離値を、入力部から入力することができる。そのため、同一の距離値であっても、第1関数と第2関数とが異なることを利用して切替えを行う距離値を適切に選ぶことで、例えば、ある場面では、短パルス受信信号を用いて海面反射によるクラッタを抑制することができ、他の場面では、物標に係る受信信号が除去されてしまうのを、長パルス受信信号を用いることにより防ぐことができる。
【0021】
本発明に係るSTC制御方法は、順次送信された短パルス送信信号及び短パルス送信信号よりもパルス幅の長い長パルス送信信号の反射波である短パルス受信信号及び長パルス受信信号を受信する受信工程と、距離値が増加するに従って減衰量が減少する関係を示す第1関数に基づいて短パルス受信信号を減衰させる第1減衰工程と、距離値と減衰量について第1関数とは異なる関係を示す第2関数に基づいて長パルス受信信号を減衰させる第2減衰工程と、第1減衰器の出力と第2減衰器の出力のいずれか一方を選択するスイッチの切替の距離値を入力する入力工程と、入力工程で入力された距離値でスイッチを切替える切替工程とを備える。
【0022】
本発明のSTC制御方法では、短パルス受信信号と長パルス受信信号でパルス幅が異なるため海面反射の受信電力に差が有る場合であっても、第1減衰器で減衰させた短パルス受信信号を使うか第2減衰器で減衰させた長パルス受信信号を使うかの切替を行う距離値を、入力工程で入力することができる。そのため、切替工程で切り換えるときに、同一の距離値であっても、第1関数と第2関数とが異なることを利用して切替えを行う距離値を適切に選ぶことで、例えば、ある場面では、短パルス受信信号を用いて海面反射によるクラッタを抑制することができ、他の場面では、物標に係る受信信号が除去されてしまうのを、長パルス受信信号を用いることにより防ぐことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、パルス幅の異なるパルス信号を用いるレーダ装置のSTC回路において、シークラッタの除去が十分に行え、かつ物標で反射されたパルス信号の探知も容易に行える。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係るレーダ装置の概要を示すブロック図。
【図2】(a) STC制御で用いられるSTCゲインカーブの一例を示すグラフ。(b) 図2(a)のSTCゲインカーブを用いかつ海面反射があるときの受信電力のグラフ。
【図3】入力部のツマミで選択される距離値と減衰量の関係を示すグラフ。
【図4】(a) STCゲインカーブを用いかつ海面反射がないときの受信電力のグラフ。(b) STCゲインカーブを用いかつ海面反射があるときの受信電力のグラフ。
【図5】(a) STC制御で用いられるSTCゲインカーブの他の例を示すグラフ。(b) 図5(a)のSTCゲインカーブを用いかつ海面反射がないときの受信電力のグラフ。(c) 図5(a)のSTCゲインカーブを用いかつ海面反射があるときの受信電力のグラフ。
【図6】(a) STC制御で用いられるSTCゲインカーブの他の例を示すグラフ。(b) 図6(a)のSTCゲインカーブを用いかつ海面反射がないときの受信電力のグラフ。(c) 図6(a)のSTCゲインカーブを用いかつ海面反射があるときの受信電力のグラフ。
【図7】従来のレーダ装置の概要を示すブロック図。
【図8】(a) 長/短パルス切替信号の波形図、(b) 短パルス送信信号の波形図、(c) 短パルス受信機に入力された短パルス受信信号の波形図、(d) 信号選択器に入力された短パルス受信信号の波形図、(e) 長パルス送信信号の波形図、(f) 長パルス受信信号の波形図、(g) 長/短パルス合成受信信号の波形図。
【図9】(a) STC回路を用いずかつ海面反射がないときの受信電力のグラフ。(b) STC回路を用いずかつ海面反射があるときの受信電力のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態に係るレーダ装置について図1を参照しながら説明する。図1は、STC回路を備えるレーダ装置の構成の概要を示すブロック図である。図1に示されているように、レーダ装置20は、図7に示されている従来のレーダ装置100に対して、第1減衰器3と、第2減衰器4と、スレッショルド決定部15と、入力部16と、STC制御器及び長/短パルス切替制御器17とをさらに備えて構成されている。第1減衰器3は、短パルス受信機10と遅延線路11との間に設けられ、第2減衰器4は、パルス圧縮受信機7と信号選択器5との間に設けられている。シュレッショルド決定部15は、信号選択器5と出力端子6との間に設けられている。STC制御器及び長/短パルス切替制御器17は、入力部16の設定に応じて、信号選択器5と受信用長/短パルス切替器9と送信用長/短パルス切替器12に対して出力される制御信号CSを生成するとともに、第1減衰器3及び第2減衰器4を制御する信号STC1(r)、STC2(r)を生成する。制御信号CSは、図7の入力端子14に入力される長/短パルス切替信号に相当するものである。
【0026】
(1)STC制御
(1−1)STC制御に係わる構成部分
STC制御器及び長/短パルス切替制御器17は、制御信号CSによって信号選択器5及び受信用長/短パルス切替器9の切替を行う。それにより、短パルス受信機10及び第1減衰器3を通過する経路とパルス圧縮受信機7及び第2減衰器4を通過する経路との選択が行なわれる。短パルス受信機10及び第1減衰器3を通過する経路では、受信信号Rxは、短パルス受信機10によりフィルタリングされた後、第1減衰器3により減衰される。パルス圧縮受信機7及び第2減衰器4を通過する経路では、受信信号Rxは、パルス圧縮受信機7によりフィルタリングされた後、第2減衰器4により減衰される。信号選択器5で選択された受信信号は、信号選択器5からシュレッショルド決定部15に対して出力される。シュレッショルド決定部15では、受信信号の信号レベルから閾値が決定される。この閾値を越える受信信号が物標を示す受信信号として処理される。
【0027】
STC制御器及び長/短パルス切替制御器17は、入力部16からの指示に応じて、制御信号CSにより信号選択器5及び受信用長/短パルス切替器9を切替えるべき距離値を変更することができる。また、STC制御器及び長/短パルス切替制御器17は、第1減衰器3が用いるゲインSTC1(r)と第2減衰器4が用いるゲインSTC2(r)を、第1減衰器3及び第2減衰器4に与える。
【0028】
入力部16は、制御信号CSを出力すべき距離値の変更をSTC制御器及び長/短パルス切替制御器17に対して指示できるように構成されている。そのため、レーダ装置20の操作者が入力部16を使って制御信号CSを出力する距離値を設定することができる。
【0029】
(1−2)STC制御における切替距離値の変更
図2に示したSTC制御器及び長/短パルス切替制御器17から第1減衰器3に与えられる短パルス用のゲインSTC1(r)及び、第2減衰器4に与えられる長パルス用のゲインSTC2(r)は、図2(a)に示すSTCゲインカーブC1,C2のように設定されている。
【0030】
入力部16からSTC制御器及び長/短パルス切替制御器17への指示がない状態では、図2(a)に示す距離値r1で、短パルス受信信号と長パルス受信信号の切替が行われる。距離値r1までの受信領域Ar11では、STC制御器及び長/短パルス切替制御器17からの制御信号CSにより、信号選択器5及び受信用長/短パルス切替器9は、短パルス受信機10と第1減衰器3とを通る経路を選択し、距離値r1に達してから後の受信領域Ar21では、パルス圧縮受信機7と第2減衰器4とを通る経路を選択する。
【0031】
距離値r1で短パルス受信信号と長パルス受信信号の切替を行うと、クラッタとノイズとは図2(b)に実線と点線で示した曲線Cn1のような受信電力になる。そのため、距離値r1近傍の短パルス受信信号のクラッタは十分に抑制される。
【0032】
しかし、物標の受信信号が減衰されすぎて、例えば図2(b)の受信信号レベルPr1の値になってしまって閾値よりも小さくなる場合がある。このように、距離値r1よりも少し近いところの物標の有無の確認を行ないたいときには、受信境界を距離値r1よりも近い距離値r2に変更する。
【0033】
切替のタイミングを距離値r1から距離値r2に変更するためには、入力部16において距離値の設定を距離値r1から距離値r2に変更する。この変更を受けて、STC制御器及び長/短パルス切替制御器17から信号選択器5及び受信用長/短パルス切替器9に出力する制御信号CSにより、距離値r2までの受信領域Ar11では、信号選択器5及び受信用長/短パルス切替器9は、短パルス受信機10と第1減衰器3とを通る経路を選択し、距離値r2に達した時点で切替え、距離値r2より後の受信領域Ar21では、短パルス受信機10と第1減衰器3とを通る経路からパルス圧縮受信機7と第2減衰器4とを通る経路を選択する。
【0034】
このように距離値r2よりも長い距離から帰ってきた受信信号がパルス圧縮受信機7と第2減衰器4とを通るため、図2(a)に示すように、距離値r2と距離値r1の間にあった物標の受信信号の減衰量が少なくなる。それにより、図2(b)に示すように、切り換え前の受信信号レベルPr1が閾値より小さかった物標の受信信号について、切替え後には、受信信号レベルPr2が閾値を超え、距離値r2と距離値r1の間において物標が存在することがレーダ装置20において検知される。
【0035】
<特徴>
(1)
入力部16で入力された距離値で信号選択器5及び受信用長/短パルス切替器9(スイッチ)に切替を行わせるため、STC制御器及び長/短パルス切替制御器17(制御部)は制御信号CSを出力する。この制御信号CSによって、信号選択器5及び受信用長/短パルス切替器9の切替距離値を距離値r1にするか、距離値r2にするかによって、距離値r2から距離値r1までの間の受信信号について、短パルス受信信号及び長パルス受信信号のいずれを用いるかの選択を行なうことができる。短パルス受信信号を用いれば距離分解能などにおいて短パルス受信信号の特徴を生かすことができる。一方、長パルス受信信号を用いれば、STC制御において第2減衰器4の減衰量(第2関数の値)の方が第1減衰器3の減衰量(第1関数の値)よりも小さいので、物標の受信信号の受信電力が小さい場合でも閾値を超えさせることができる場合があり、物標の有無を検知し易くなる。
【0036】
なお、上記実施形態では、短パルス受信信号と長パルス受信信号の2つのパルス信号を用いたが、パルス幅の異なる3つ以上のパルス信号を用いて各パルス信号間の受信境界を移動するように構成してもよく、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0037】
また、上記実施形態では、入力部16で設定する切替えのタイミングとして、距離値r1と距離値r2の2つを選択する場合について説明したが、切替えのタイミングを与える距離値は、離散的な値を選択するのではなく、切替距離値を連続的に変化させられるように構成することもできる。
【0038】
(2)
図2(a)に示した長パルス用のSTCゲインカーブC2(第2関数)と短パルス用のSTCゲインカーブC1(第1関数)とを比較して分かるように、同一距離については、長パルス受信信号の方が短パルス受信信号よりも減衰量が大きくなるように設定されている。そのため、切替える距離値を短くすれば確実に減衰量を小さくでき、操作が簡単になる。
【0039】
また、図2に示すように、STCゲインカーブC2のように全く減衰させない場合(距離値の増加に係わらず減衰量が一定の場合)には、第2減衰器4を省くことができ、あるいは減衰量可変の第2減衰器4の代わりに減衰量が一定になるような簡単な回路を用いることができ、回路構成が簡単になる。
【0040】
<変形例>
(1)
上記実施形態ではSTCゲインカーブC1を固定した場合について説明したが、STCゲインカーブを入力部16に設けたツマミによって選択することができるように構成することもできる。そして、STCゲインカーブを選択した場合に、各STCゲインカーブに合わせて切替える距離値を自動的に移動させるように構成することもできる。
【0041】
入力部16にツマミを設けて、入力部16のツマミの入力値に応じて、0,20,40,60,80,100の6つの値を選択できるように構成する場合を例に挙げて説明する。図3に示すグラフは、距離値と減衰量との関係を示しており、STCゲインカーブC10がツマミの値が0であるときに対応し、STCゲインカーブC12、C14,C16,C18,C20がそれぞれツマミの値が20,40,60,80,100であるときに対応している。
【0042】
ツマミによる入力値とSTC終了距離値sRの関係は数3で与えられる。
【0043】
【数3】

【0044】
定数の0.1は、ツマミの値が0のときの終了距離値sRが0.1〔NM〕であることを表している。指数の分子の定数である1.1は、ツマミの値が0〜100の範囲における減衰範囲が110dBであることを表している。通常、指数の分母の定数katamukiは、シークラッタが距離値に対して−3乗のカーブとなるため30に設定される。指数の分子の変数であるtumamiは、ツマミの値(0〜100)を表している。
【0045】
一方、短パルス受信信号と長パルス受信信号の受信境界の第1候補pRは、長パルスのパルス幅で決定される。つまり、受信境界の第1候補pRは、長パルスの最短受信距離値であり、数4で与えられる。
【0046】
【数4】

【0047】
図3に示す短パルス受信信号と長パルス受信信号の受信境界の第1候補pRは、設定したツマミの値に対して減衰量が0になる距離値である。終了距離値sRが、受信境界の第1候補pRより大きいときには、受信境界として終了距離値sRが自動的に選択される。一方、終了距離値sRが受信境界の第1候補pRより小さいときには、受信境界として第1候補pRが自動的に選択される。
【0048】
図4(a)及び図4(b)には、ツマミ40,60,80を選択したときの、それぞれの切替えの距離値r340、r360、r380が示されている。図4(a)に示されているように、海面反射がないときは、短パルス受信信号と長パルス受信信号のノイズフロアーは受信境界で連続的に変化する。図4(b)において、ツマミの値が40のときは、受信領域Ar1340が短パルス受信信号を用いた領域になり、受信領域Ar2340が長パルス受信信号を用いた領域になる。ツマミの値が60のときは受信領域Ar1360が短パルス受信信号に対応し、受信領域Ar2360が長パルス受信信号に対応する。同様に、ツマミの値が80のときは受信領域Ar1380が短パルス受信信号に対応し、受信領域Ar2380が長パルス受信信号に対応する。海面反射のあるときの受信電力を示す曲線Cn340,Cn360,Cn380をみると分かるように、受信境界r340、r360、r380において、長パルス受信信号と短パルス受信信号との尖頭送信電力の差DP2などがある。そのため受信境界が、レーダ装置20の表示器(図示省略)上で目立ってしまうがツマミを廻すと受信境界が移動するため、操作の感覚がマグネトロンを使用したレーダ装置に近くなる。
【0049】
このように、ツマミによる選択によって入力部16に対して、第1減衰器3の距離値と減衰量の関係を示すSTCゲインカーブC10〜C20(第1関数)の変化を指示すると、入力部16では減衰量だけでなく信号選択器5及び受信用長/短パルス切替器9の切替の距離値を変化させる。それにより、表示器上でリング状に映る受信境界がツマミの切替に応じて移動する。このように受信境界にできるリング状の部分が切替に応じて移動することから、切替えていることが表示器の画面で確認し易くなるとともに、クラッタと物標の表示状況を確認し易くなる。
【0050】
(2)
なお、ツマミによって、短パルス受信信号の減衰量が選択できるように構成して、選択された減衰量により自動的に受信境界が移動する場合でも、受信境界が自動設定された後に上記実施形態のように手動で受信境界を移動させるように構成することもできる。
【0051】
また、ツマミによって直接、切替距離値を入力部16からSTC制御器及び長/短パルス切替制御器17に入力できるように構成してもよい。
【0052】
(3)
上記実施形態では、短パルス用のSTCゲインカーブC1と、長パルス用のSTCゲインカーブC2とを一組だけ用いて、受信境界を切替える場合について説明したが、短パルス用のSTCゲインカーブと長パルス用のSTCゲインカーブの組を複数組STC制御器及び長/短パルス切替制御器17のメモリ(図示省略)に記憶させておいて、場合に応じてSTCゲインカーブの組を変更できるように構成してもよい。
【0053】
他のSTCゲインカーブの組としては、例えば、図5(a)に示す短パルス用のSTCゲインカーブC3と長パルス用のSTCゲインカーブC4、及び図5(c)に示す短パルス用のSTCゲインカーブC5と長パルス用のSTCゲインカーブC5などがある。図5(a)のSTCゲインカーブC3,C4は、受信境界において同じ減衰量を持つように設定されている。そのため、海面反射がないときには、図5(b)に示すように受信境界においてノイズフロアーが連続的に変化する。STCゲインカーブC3,C4を用いると、STCゲインカーブC1,C2を用いた場合と異なり、短パルス受信信号が用いられる受信領域Ar14だけでなく、長パルス受信信号が用いられる受信領域Ar24においてもパルス信号の減衰が行なわれる。STCゲインカーブC3,C4を用いた場合、短パルス受信信号のクラッタ電力と長パルス受信信号のクラッタ電力では、長パルスのクラッタ電力の方が大きいため、図5(c)に示すように海面反射がある場合には受信境界(距離値r4)で受信電力に差DP3が生じて曲線Cn5が不連続になる。
【0054】
図6(a)に示すSTCゲインカーブC5は、短パルス受信信号と長パルス受信信号の両方に用いられる。即ち、短パルス受信信号と長パルス受信信号のSTCゲインカーブC5が同じ減衰量を持つように設定されている。この場合には、図6(b)に示すように、海面反射がないときの受信電力を示す曲線Cn6は、短パルス受信信号の受信領域Ar15から長パルス受信信号の受信領域Ar25に入ったときに減衰量が大きくなるため、受信境界(距離値r5)で不連続になる。しかし、図6(c)に示すように、海面反射があるときには、受信電力を示す曲線Cn7は、受信境界で連続になる。
【0055】
入力部16からの指示によりSTC制御器及び長/短パルス切替制御器17が上記のような異なるSTCゲインカーブの組に変更する場合にも、各組のSTCゲインカーブに適した受信境界r4,r5が自動的に選ばれるようにSTC制御器及び長/短パルス切替制御器17は構成される。そして、受信境界が自動設定された後に上記実施形態のように手動で受信境界を移動させるように構成することができる。
【0056】
(4)
上記実施形態において、例えば、短パルス受信機10はローパスフィルタを主体に構成され、パルス圧縮受信機7はマッチドフィルタを主体に構成される。また、第1減衰器3は短パルス受信機10の前に配置してもよく、第2減衰器4は、パルス圧縮受信機7の前に配置してもよい。
【符号の説明】
【0057】
3 第1減衰器
4 第2減衰器
7 パルス圧縮受信機
10 短パルス受信機
11 遅延線路
15 シュレッショルド決定部
16 入力部
17 STC制御器及び長/短パルス切替制御器
20 レーダ装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0058】
【特許文献1】特許第2652950号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
順次送信された短パルス送信信号及び前記短パルス送信信号よりもパルス幅の長い長パルス送信信号の反射波である短パルス受信信号及び長パルス受信信号を受信する受信機であって、
距離値が増加するに従って減衰量が減少する関係を示す第1関数に基づいて前記短パルス受信信号を減衰させる第1減衰器と、
距離値と減衰量について前記第1関数とは異なる関係を示す第2関数に基づいて前記長パルス受信信号を減衰させる第2減衰器と、
前記第1減衰器の出力と前記第2減衰器の出力のいずれか一方を選択するスイッチと、
前記スイッチの切替の距離値を入力する入力部と、
前記入力部で入力された距離値で前記スイッチに切替を行わせる制御部と、
を有する、受信機。
【請求項2】
前記第2関数は、同じ距離値において減衰量が前記第1関数の値以下になる関係を持つ、
請求項1に記載の受信機。
【請求項3】
前記第2関数は、距離値の増加に係わらず減衰量が一定になるように設定されている、
請求項2に記載の受信機。
【請求項4】
前記入力部は、前記第1関数の減衰量と距離値との関係を変化させるツマミを有し、前記ツマミの設定に応じて前記スイッチの切替の距離値を変化させる、
請求項1から3のいずれか一項に記載の受信機。
【請求項5】
短パルス送信信号と前記短パルス送信信号よりもパルス幅の長い長パルス送信信号とを順次送信する送信機と、
前記短パルス信号の反射波である短パルス受信信号と前記長パルス送信信号の反射波である長パルス受信信号を受信するための受信器と、
距離値が増加するに従って減衰量が減少する関係を示す第1関数に基づいて前記短パルス受信信号を減衰させる第1減衰器と、
距離値と減衰量について前記第1関数とは異なる関係を示す第2関数に基づいて前記長パルス受信信号を減衰させる第2減衰器と、
前記第1減衰器の出力と前記第2減衰器の出力のいずれか一方を選択するスイッチと、前記スイッチの切替の距離値を入力する入力部と、
前記入力部で入力された距離値で前記スイッチに切替を行わせる制御部と、
前記送信機と前記受信機の送受を切替える送受切替器と、
前記送受切替器に接続されているアンテナと、
を備える、レーダ装置。
【請求項6】
順次送信された短パルス送信信号及び前記短パルス送信信号よりもパルス幅の長い長パルス送信信号の反射波である短パルス受信信号及び長パルス受信信号を受信する受信工程と、
距離値が増加するに従って減衰量が減少する関係を示す第1関数に基づいて前記短パルス受信信号を減衰させる第1減衰工程と、
距離と減衰量について前記第1関数とは異なる関係を示す第2関数に基づいて前記長パルス受信信号を減衰させる第2減衰工程と、
前記第1減衰器の出力と前記第2減衰器の出力のいずれか一方を選択するスイッチの切替の距離値を入力する入力工程と、
前記入力工程で入力された距離値で前期スイッチを切替える切替工程と、
を備える、STC制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−242234(P2012−242234A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112325(P2011−112325)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】