説明

受信機、列車無線システム及び復調方法

【課題】LCX方式と空間波方式を併用して無線通信を行う列車無線システムを効果的に実現する。
【解決手段】DSTBC方式を使用する区間B1,B2と、他の所定の変調方式を使用する区間Aとが混在する路線を有する列車無線システムにおいて、列車側(移動局208)の受信機は、DSTBC方式又は前記所定の変調方式により変調された無線信号を受信すると、第1相関演算手段により、前記無線信号についてDSTBC方式に対応した相関演算を行い、第2相関演算手段により、前記無線信号について前記所定の変調方式に対応した相関演算を行い、判定手段により、前記第1相関演算手段による相関演算の結果と前記第2相関演算手段による相関演算の結果とを比較して、前記無線信号の変調方式を判定し、復調手段により、前記判定手段による判定結果の変調方式に対応する復調処理を前記無線信号に対して行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル無線通信において、差動時空間ブロック符号化(DSTBC;Differential Space−Time Block Coding)方式を使用する区間と差動時空間ブロック符号化方式を使用しない区間とが混在する列車無線システム、当該列車無線システムにおける列車側の受信機及び当該受信機による復調方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル無線システムにおいて、例えば、地下区間を有する列車無線システムでは、線路沿いに敷設された漏洩同軸ケーブル(LCX;Leaky CoaXial cable)から漏洩する電波を用いて無線通信を行うLCX方式を採用している場合が多い。鉄道事業者によっては地下区間を含まない明かり区間でもLCX方式を使用しており、全区間をLCX方式としている鉄道事業者もある。
【0003】
列車無線システムでは、線路と平行してLCXが敷設されるため、明かり区間においては積雪や土砂災害時の倒木によるケーブル断線の可能性があり、保守にかかる費用が増大する。このため、LCXが経年劣化した際のリプレースは、地下区間を除く明かり区間については空間波方式に置き換えたいという要望も多い。
しかしながら、列車無線システムでは、1線区当たり1つの周波数が与えられることが多いため、単純に空間波方式を採用するだけでは、基地局の境界付近で同一波干渉が発生し、回線品質が著しく低下する懸念がある。
【0004】
近年、このような同一波干渉の対策として、送信ダイバーシチの一手法であるDSTBC方式が注目されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
DSTBC方式は、従前の変調方式であるπ/4シフトQPSK(Quadri Phase Shift Keying)方式と同一の入力フレームフォーマットで実現される。また、DSTBC方式の受信機は、π/4シフトQPSK方式の受信機と共通の回路が多い。このため、例えば、受信機の構成要素の内、ベースバンド復調処理をDSP(Digital Signal Processor)で実現する場合には、DSPファームウェアの復号処理(検波演算、AFC(Auto Frequency Control)処理を含む)や同期処理のための基準信号のみの変更で、H/W(Hard Wareを変更することなく、両方式に共用できる受信機を実現することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−303086号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】V.Tarokh and H.Jafarkhani、“A differential detection scheme for transmit diversity”、IEEE Journal of Selected Area Communications、Vol.18、No.7、pp1169−1174、Jul.2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、列車無線システムのリプレースを行うにあたり、一部区間を空間波方式に置き換える場合には、列車側の受信機を、LCX方式に応じた無線通信と空間波方式に応じた無線通信とに適応させる必要がある。
本発明は、上記のような事情に鑑みて為されたものであり、LCX方式と空間波方式を併用して無線通信を行う列車無線システムを効果的に実現することができる技術を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、DSTBC方式により変調された無線信号が送信される区間と、DSTBC方式以外の所定の変調方式により変調された無線信号が送信される区間とが混在する路線を有する列車無線システムにおいて、当該路線を走行する列車に、以下のような受信機を設けた。
【0009】
すなわち、列車側の受信機は、DSTBC方式又はDSTBC方式以外の所定の変調方式により変調された無線信号を受信すると、第1相関演算手段により、前記受信した無線信号についてDSTBC方式に対応した相関演算を行い、第2相関演算手段により、前記受信した無線信号について前記所定の変調方式に対応した相関演算を行い、判定手段により、前記第1相関演算手段による相関演算の結果と前記第2相関演算手段による相関演算の結果とを比較して、前記受信した無線信号の変調方式を判定し、復調手段により、前記判定手段による判定結果の変調方式に対応する復調処理を前記受信した無線信号に対して行う。
【0010】
したがって、DSTBC方式を用いて無線通信を行う区間と、他の変調方式(例えば、π/4シフトQPSK方式)を用いて無線通信を行う区間とを有する列車無線システムを構築するに際して、列車側の受信機において、列車の走行に伴う変調方式の変化を自動的に検知して復調処理の方式(復調方式)を切り替えることが可能になる。
【0011】
上述した本発明に係る受信機について、より具体的な構成を以下に示す。
本発明に係る受信機は、一構成例として、第1変調方式(例えば、DSTBC方式)又は第2変調方式(例えば、π/4シフトQPSK方式)により同期ワードを含めて変調された無線信号を受信するアンテナと、前記受信した無線信号に対して第1変調方式に対応する復調処理を行う機能及び第2変調方式に対応する復調処理を行う機能を有する復調手段と、同期ワードを第1変調方式により変調した第1基準信号及び第2変調方式により変調した第2基準信号を予め記憶する基準信号記憶手段と、前記受信した無線信号の同期ワード部分と第1基準信号とに基づいて相関演算を行う第1相関演算手段と、前記受信した無線信号の同期ワード部分と第2基準信号とに基づいて相関演算を行う第2相関演算手段と、第1変調方式に係る相関演算の結果と第2変調方式に係る相関演算の結果とを比較(例えば、時系列毎に算出した相関演算値の最大値同士を比較)して、第1変調方式に係る相関演算の結果の方の相関度が高い場合(例えば、相関演算値の最大値が第1変調方式の方が高い場合)に、前記受信した無線信号の変調方式を第1変調方式と判定し、第2変調方式に係る相関演算の結果の方の相関度が高い場合(例えば、相関演算値の最大値が第2変調方式の方が高い場合)に、前記受信した無線信号の変調方式を第2変調方式と判定する判定手段と、前記判定の結果に応じて、前記復調手段で使用する復調処理を切り替える切替手段と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、LCX方式と空間波方式を併用して無線通信を行う列車無線システムを効果的に実現することができる。即ち、例えば、空間波方式の区間(及びLCX方式の区間のうち空間波方式の区間に隣接する部分)においてDSTBC方式を用い、残余の区間において他の変調方式(例えば、π/4シフトQPSK方式)を用いる列車無線システムを構築するに際して、列車側の受信機において復調処理の切り替えを円滑に行うことが可能となる。また、例えば、空間波方式の区間ではDSTBC方式により送信ダイバーシチを行うようにすることで、空間波方式の区間においても同一波干渉を対策することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】リプレース前の列車無線システムの構成例を示す図である。
【図2】リプレース後の列車無線システムの構成例を示す図である。
【図3】π/4シフトQPSK方式の受信機の構成例を示す図である。
【図4】相関演算のシミュレーション計算例を示す図である。
【図5】DSTBC方式の受信機の構成例を示す図である。
【図6】π/4シフトQPSK方式及びDSTBC方式に共用の受信機の構成例を示す図である。
【図7】自乗演算部312の出力と自乗加算部512の出力との関係を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1には、リプレース前の列車無線システムの構成例を示してある。
本例の列車無線システムは、中央卓101と、中央装置102と、3つの基地局103,104,105と、移動局108とを有する。
中央装置102と各基地局103,104,105は、例えば、光ファイバケーブル等の有線回線で接続される。
各基地局103,104,105には、それぞれの設置箇所を起点にして列車の上り方及び下り方に敷設された2つのLCXが接続される。本例では、基地局103にLCX106a,106bが接続してあり、基地局104にLCX106c,106dが接続してあり、基地局105にLCX106e,106fが接続してある。各LCX106a〜106fは、移動局108が搭載される列車の走行経路となる線路に沿って敷設されており、当該列車に搭載される移動局108は、これらのLCX106a〜106fを利用したLCX方式の無線回線で各基地局103,104,105と接続される。
本例の列車無線システムは、このような構成において、中央卓101と移動局108との間で音声による通話及びデータ通信を行うシステムである。
【0015】
本例の列車無線システム(リプレース前)では、基地局103でカバーする無線エリアAは地下区間であり、基地局104及び基地局105でカバーする無線エリアBは地下区間がない明り区間である。
また、本例の列車無線システム(リプレース前)では、各基地局103,104,105と移動局108との間の無線伝送は1つの周波数を使用し、変調方式はπ/4シフトQPSK方式を使用する。すなわち、リプレース前の列車無線システムでは、全区間でπ/4シフトQPSK方式を使用する。
【0016】
以上のような構成の列車無線システムについて、LCXの老朽化に伴い、以下の要求条件を満たす構成へリプレースするものとする。
地下区間においては、古いLCXを新しいものに交換する。一方、明り区間においては、空間波方式を有する構成に変更することでLCXの保守費の低減化を図る。更に、リプレース後の空間波方式の区間では同一波干渉の対策を実施する。ここで、基本的に、基地局及び移動局のH/W(ハードウェア)の置き換えは行わないこととするが、同一波干渉の対策の要求に対して、DSPファームウェアの変更が必要な場合は最低限の基地局及び移動局のみ変更することとする。
【0017】
図2には、以上の要求条件を満たす列車無線システム(リプレース後)の構成例を示してある。
リプレース後の列車無線システムについて、リプレース前の構成(図1)との相違点、即ち、リプレースにより変更した部分を中心に説明する。
【0018】
地下区間であるエリアAについては、旧LCX106a,106bを新しいLCX206a,206bに交換する。
明り区間である図1のエリアBについては、地下区間と隣接する旧LCX106cを新しいLCX206cに交換する。このLCX206cに対応する区間をエリアB1と再定義する。
一方、エリアBにおける残りの旧LCX106d〜106fは、八木アンテナなどの空間波方式のアンテナ207a〜207cに置き換える。これらのアンテナ207a〜207cに対応する区間をエリアB2と再定義する。
【0019】
また、地下区間(エリアA)に対応する基地局103はそのままとし、従前のように変調方式としてπ/4シフトQPSK方式を用いる。
一方、明り区間(エリアB1,B2)に対応する基地局104,105は、同一波干渉対策として変調方式をDSTBC方式に変更する。この変調方式の変更は、DSPファームウェアのみの変更とし、H/Wの置き換えは行わない。上記変更を施した基地局104,105を、以下、基地局204,205と称す。
これにより、リプレース後の列車無線システムでは、π/4シフトQPSK方式を使用する区間とDSTBC方式を使用する区間とが混在することになる。
【0020】
また、移動局108については、π/4シフトQPSK方式とDSTBC方式のどちらを受信しても復調可能な構成に変更する。この場合も、両方式の共用の受信機となるようにDSPファームウェアの変更を行う。上記変更を施した移動局108を、以下、移動局208と称す。
【0021】
リプレース後の列車無線システム(π/4シフトQPSK方式を使用する区間とDSTBC方式を使用する区間とが混在する列車無線システム)について、移動局208がエリアAからエリアB1,B2へ移動する場合を考える。
尚、以下の説明で着目する通信の方向は、基地局103,204,205から移動局208へ向けた通信(AtoBまたはダウンリンク)に限定する。
【0022】
移動局208がエリアAに在線する場合は、LCX方式を用いてπ/4シフトQPSK方式により基地局103と移動局208との間の通信を行う。
移動局208がエリアB1に在線する場合は、LCX方式を用いてDSTBC方式により基地局204と移動局208との間の通信を行う。従って、エリアAからエリアB1に移動した際に、移動局208の受信方式はπ/4シフトQPSK方式からDSTBC方式へ切り替わる。
【0023】
ここで、LCXの指向性がLCXケーブルの敷設方向に対して垂直方向のみであると仮定すると、エリアAとエリアB1の境界で想定されるπ/4シフトQPSK(基地局103からの送信波)とDSTBC(基地局204からの送信波)の干渉は、通信品質に影響を与えないレベルとすることができる。
【0024】
また、移動局208がエリアB2に在線する場合は、空間波方式を用いてDSTBC方式により基地局204,205と移動局208との間の通信を行う。
すなわち、エリアB2の区間では、DSTBC方式を使用することで、基地局204と基地局205の中間地点で発生する同一波干渉を回避することが可能である。
【0025】
ここで、DSTBC方式は2種類の出力系列(本例では、A系列、B系列と称す)を有する。本例においては、基地局204では、LCX206cからA系列、アンテナ207aからB系列を出力し、基地局205では、アンテナ207bからA系列、アンテナ207cからB系列を出力する構成を用いている(例えば、特願2010−148599号明細書を参照)。
【0026】
次に、移動局208の受信機の構成について説明する。
移動局208の受信機は、π/4シフトQPSK方式及びDSTBC方式に共用の受信機である。この共用受信機を説明するに先立って、π/4シフトQPSK方式の受信機と、DSTBC方式の受信機について説明しておく。
【0027】
先ず、π/4シフトQPSK方式の受信機について、図3に示す構成例を参照して説明する。
図3に例示したπ/4シフトQPSK方式の受信機は、受信用アンテナ301、受信部302、A/D(Analog to Digital)変換器303、直交検波部304、ローパスフィルタ305、ルートロールオフフィルタ306、ダウンサンプル器307、復号判定部309、同期ワード(SW;Synchronous Word)テーブル部310、相関演算部311、自乗演算部312、最大値検索部313、タイミング検出部314、タイミング生成部315を有する。
【0028】
受信用アンテナ301は、π/4シフトQPSK方式変調波を受信する。
受信部302は、受信用アンテナ301により受信されたπ/4シフトQPSK方式変調波の信号(受信信号)を受信周波数から所望の中間周波数IF(Intermediate Frequency)に変換する。
A/D変換器303は、中間周波数IFに変換された受信信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する。以降の処理はデジタル信号処理となる。
【0029】
直交検波部304は、A/D変換器303から出力される中間周波数IFの受信信号を同相値I(In−Phase)と直交値Q(Quadrature−Phase)に分解する。
ローパスフィルタ305は、直交検波部304の出力に係る中間周波数IFに対するイメージ成分を除去する。
ルートロールオフフィルタ306は、ローパスフィルタ305の出力に対して更にフィルタリングを行う。
【0030】
ダウンサンプル器307は、ルートロールオフフィルタ306の出力について、A/D変換器303のサンプリング周波数と伝送シンボルレートの周波数関係により、(オーバサンプル数)=(サンプリング周波数)/(伝送シンボルレート)=Mに対して1/Mの間引き処理を行う。
【0031】
差動演算部308は、ダウンサンプル器307の出力に基づいて、(式1)の演算を行う。
【数1】

但し、nは、1シンボル時間毎に変化する0から始まる時系列番号であり、無線フレームの先頭でゼロクリア(0に初期化)される。
また、rは、シンボル時間nでのダウンサンプル器307の出力(同相値I及び直交値Q)の値により、r=I+jQで表される複素数である(jは虚数単位)。
また、*は、共役複素数を表す演算子である。
また、xは、差動演算部308の出力で、π/4シフトQPSK方式の送信機(基地局103の送信機)におけるシンボルマッピング部の出力xの推定値であり、複素数である。
【0032】
復号判定部309は、差動演算部308から出力されるxのシンボルの信号配置の結果に基づいてビットデータを復元する。
SWテーブル部310は、同期ワードのビットパターンに対応するシンボルをテーブルで保有(記憶)する。このシンボルは相関演算部311において基準信号として使用される。以下の説明では、無線フレームの同期ワードのシンボル長を10シンボルとし、SWテーブル部310は、π/4シフトQPSK方式に対応する基準シンボルc〜c(複素数)を保有することとする。
【0033】
相関演算部311は、ダウンサンプル無しの受信入力(ダウンサンプル器307へ入力する前の受信信号)とSWテーブル部310の基準信号とに基づいて、(式2)の相関演算を行う。
【数2】

但し、Mはオーバサンプル数である。
また、mは、サンプル時間毎に変化する0から始まる時系列番号(サンプル番号)であり、無線フレームの先頭でゼロクリア(0に初期化)される。
また、C(m)は、相関演算部311の出力である。
また、cは、同期ワードのπ/4シフトQPSKのシンボルであり、SWテーブル部310に保有されている。
【0034】
自乗演算部312は、相関演算部311から出力されるサンプル番号m毎の相関値C(m)に基づいて、その自乗値を求める。
最大値検索部313は、自乗演算部312から出力されるサンプル番号m毎の相関自乗値|C(m)|に基づいて、相関自乗値|C(m)|の最大値CMAXと、その時点(最大値時点)のサンプル番号mである最大値サンプル番号Kを(式3)により求める。
【数3】

【0035】
タイミング検出部314は、最大値検索部313で得られた最大値サンプル番号Kに基づいて、タイミング誤差を計算する。
タイミング生成部315は、タイミング検出部314で得られたタイミング誤差に基づいて、A/D変換器303のサンプリングタイミングを調整する。
【0036】
図3に示したπ/4シフトQPSK方式の受信機の動作について説明する。
受信アンテナ301で受信したπ/4シフトQPSK変調波に対して、受信部302からダウンサンプル器307までの各処理は一般的な処理であるため、詳細の動作説明は割愛する。
図3の受信機では、ダウンサンプル器307によりダウンサンプルされた入力に対して、差動演算部308において(式1)の演算によりシンボルを再配置し、復号判定部309でビット符号に復元して出力する。
【0037】
一般に、無線システムでは、送信側と受信側のハードウェア構成の違いにより、それぞれの内部周波数やタイミング信号の精度が僅かながらでも異なることが問題となる。前者に対してはAFC処理、後者に対してはタイミング同期追従処理により、受信側で送信側の精度に追従する処理が必要となる。無線信号の受信側では、無線信号を分析して内部の周波数やタイミング精度を調整するが、これらの処理は、ビットパターンが固定(既知)である同期ワードのシンボルを基準信号として行われる。
図3の受信機における処理ブロック310〜315は、タイミング同期追従のための処理ブロックとなる。
【0038】
その動作について例を挙げて説明する。
ダウンサンプル無しの受信入力(ダウンサンプル器307へ入力する前の信号値)rに対して、SWテーブル部310で保有する同期ワードの基準信号との相関演算を(式2)により計算する。
そして、(式2)による相関演算の結果の自乗値(相関自乗値|C(m)|)の最大値CMAXを求めることで、基準信号に最も近い信号配置となるサンプル点(最大値サンプル番号K)を知ることができる。このサンプル点を基準点とし、ダウンサンプル器307で選択するサンプルポイントを求める。
最大値検索部313では、自乗演算部312の出力値に基づいて、(式3)を用いて相関自乗値|C(m)|の最大値CMAX及び最大値サンプル番号Kを求める。
【0039】
ここで、相関自乗値|C(m)|について説明する。
図4には、無線フレームにおける同期ワードがフレームの先頭から60シンボル番目にあるときの相関演算のシミュレーション計算例を示してある。なお、図4のグラフでは、サンプル番号mを横軸とし、相関自乗値|C(m)|を縦軸としている。
図4(a)は、同期状態における相関自乗値|C(m)|の計算例(オーバサンプル数M=8、同期ワードの開始シンボル番号=60の場合)である。
図4(b)は、受信信号と受信機タイミングとの関係例であり、同期状態を基準として、受信信号が遅れている場合の相関自乗値|C(m)|と、受信信号が早い場合の相関自乗値|C(m)|とを対比して示してある。
【0040】
タイミングが完全に同期した状態では、図4(a)に示すように、相関自乗値|C(m)|が最大値CMAX(本例では、|C(m)|=1)となるサンプル番号m(=最大値サンプル番号K)は、8×60=480となる。しかしながら、図4(b)に示すように、受信機タイミングに対して受信信号が遅い場合は、最大値サンプル番号Kの値は480より大きくなり、逆に受信信号が早い場合には、最大値サンプル番号Kの値は480より小さくなる。ここで、1サンプルのズレは1/Mシンボルのズレに相当する。
【0041】
タイミング検出部314では、基準サンプル番号(この場合は480)と最大値サンプル番号Kとの差をタイミング誤差として出力する。
タイミング生成部315は、タイミング検出部314で得られたタイミング誤差が正の値(K−480>0)の場合には、受信信号が受信機のサンプリングタイミングに対して遅いためサンプリングタイミングを遅くし、逆にタイミング誤差が負の値(K−480<0)の場合には、受信信号が早いためサンプリングタイミングを早くするように制御する。これにより、受信信号に追従したサンプリングタイミング生成が可能となる。以上のタイミング同期追従のための処理ブロック310〜315は、1フレームに1回動作する。
【0042】
次に、DSTBC方式の受信機について、図5に示す構成例を参照して説明する。
図5に例示したDSTBC方式の受信機は、受信用アンテナ301、受信部302、A/D変換器303、直交検波部304、ローパスフィルタ305、ルートロールオフフィルタ306、ダウンサンプル器307、差動演算部508、復号判定部309、2つのSWテーブル部510a,510b、2つの相関演算部511a,511b、自乗加算部512、最大値検索部513、タイミング検出部314、タイミング生成部315を有する。
【0043】
なお、図5に係るDSTBC方式の受信機における処理ブロック301〜307,309,314,315は、図3に係るπ/4シフトQPSK方式の受信機における処理ブロック301〜307,309,314,315と同じ機能であるため、その説明は省略する。
ここで、受信アンテナ301は、図3ではπ/4シフトQPSK変調波を受信することが前提であるが、図5ではDSTBC変調波を受信することを前提とする。但し、これは説明上の違いであって、アンテナの構成要素が異なるわけではない。
【0044】
差動演算部508は、ダウンサンプル器307の出力に基づいて、(式4)の演算を2シンボル時間に1回行う。
【数4】

但し、nは、1シンボル時間毎に変化する0から始まる時系列番号であり、無線フレームの先頭でゼロクリア(0に初期化)される。(式4)は、nが奇数値の時に演算される。n=1の時の演算結果x、xは保障されない。
また、rは、シンボル時間nでのダウンサンプル器307の出力(同相値I及び直交値Q)の値により、r=I+jQで表される複素数である(jは虚数単位)。
また、*は、共役複素数を表す演算子である。
また、xは、差動演算部508の出力で、DSTBC方式の送信機(基地局204,205の送信機)におけるシンボルマッピング部の出力xの推定値であり、複素数である。
【0045】
SWテーブル部510a,510bは、同期ワードのビットパターンに対応するシンボルをテーブルで保有(記憶)する。この同期ワードのシンボルは、相関演算部511a,511bにおいて基準信号として使用される。本例では、後述する方法により同期ワードのビットパターンに対応するシンボルをDSTBC方式でも固定化(フレーム中の同期ワードをDSTBC符号化した結果を固定化)するようにし、当該固定化された同期ワードのシンボルを基準信号としている。
なお、SWテーブル部510aは、A系列の同期ワードのシンボルa〜a(複素数)を保有し、SWテーブル部510bは、B系列の同期ワードのシンボルb〜b(複素数)を保有することとする。
【0046】
相関演算部511a,511bは、主たる機能は、図3の受信機における相関演算部311と同じであるが、相関演算部511a,511bでは、基準信号として、SWテーブル部510a,510bに保有されているシンボルを使用する点が異なる。相関演算部511aで使用する基準信号は、SWテーブル部510aに保有されているシンボルa〜aであり、相関演算部511bで使用する基準信号は、SWテーブル部510bに保有されているシンボルb〜bである。
【0047】
相関演算部511a,511bでは、ダウンサンプル無しの受信入力(ダウンサンプル器307へ入力する前の受信信号)とSWテーブル部510a,510bの基準信号とに基づいて、(式5)の相関演算を行い、A系列に係るサンプル番号m毎の相関値A(m)と、B系列に係るサンプル番号m毎の相関値B(m)をそれぞれ計算する。
【数5】

但し、Mはオーバサンプル数である。
また、mは、サンプル時間毎に変化する0から始まる時系列番号(サンプル番号)であり、無線フレームの先頭でゼロクリア(0に初期化)される。
また、A(m)は、相関演算部511aの出力である。
また、B(m)は、相関演算部511bの出力である。
また、a,bは、同期ワードをDSTBC符号化した基準信号であり、SWテーブル部510a,510bに保有されている。
【0048】
自乗加算部512は、相関演算部511aから出力されるサンプル番号m毎の相関値A(m)と、相関演算部511bから出力されるサンプル番号m毎の相関値B(m)に基づいて、相関値A(m)の自乗値と相関値B(m)の自乗値との加算演算を(式6)により行う。
【数6】

但し、|AB(m)|は自乗加算部512の出力である。
【0049】
最大値検索部513は、主たる機能は、図3の受信機における最大値検索部313と類似しているが、最大値検索部513では、自乗加算部512から出力されるサンプル番号m毎の自乗加算値|AB(m)|に基づいて、自乗加算値|AB(m)|の最大値ABMAXと、その時点(最大値時点)のサンプル番号mである最大値サンプル番号Kを(式7)により求める点が異なる。
【数7】

【0050】
図5に示したDSTBC方式の受信機の動作について、図3に示したπ/4シフトQPSK方式の受信機との相違点を中心に説明する。
π/4シフトQPSK方式の受信機とDSTBC方式の受信機とで異なるのは、差動演算部とタイミング同期追従のための相関演算の部分である。
【0051】
図3の受信機における差動演算部308は、π/4シフトQPSKの復号処理に基づく(式1)の計算を行うのに対し、図5の受信機における差動演算部508は、DSTBCの復号処理に基づく(式4)の計算を行う。
また、タイミング同期処理における相関演算では、図3の受信機は、同期ワードのπ/4シフトQPSK符号化したシンボルcを基準信号とし、相関演算部311の出力の自乗値|C(m)|の最大値CMAXを求めるのに対し、図5の受信機は、同期ワードのDSTBC符号化後のシンボルで、A系列とB系列に係る2種類のaとbを基準信号とし、相関演算部511a,511bの各出力の自乗和|AB(m)|の最大値ABMAXを求める点が異なる。
【0052】
ここで、DSTBC方式において同期ワードのシンボルを固定化する技術について説明する。
DSTBC方式による符号化では、フレーム中の符号化対象のデータより前のデータに依存して符号化結果のパターンが変化するので、フレーム中の同期ワードに先行するデータ部分の変化に応じて同期ワードのシンボル(符号化結果)が変化することから、単純にDSTBC符号化を施すと、同期ワードのシンボルを確定できない。このため、同期ワードのシンボルを固定化するための工夫が必要となる。
【0053】
そこで本例では、フレーム中の同期ワード直前のビット列をDSTBC符号化した結果を固定化する技術を用いることで、後続する同期ワードについても、DSTBC符号化した結果が固定化されるようにしている。
同期ワード直前のビット列をDSTBC符号化した結果の固定化は、概略的に、DSTBC方式により信号を送信する送信機について、次のような技術を用いることで実現される。
すなわち、先頭より後ろの所定箇所に同期ワードが配置されるフレームが用いられる。
そして、送信機では、初期値制御手段が、フレームの先頭から同期ワードより前の値に基づいて、送信対象を処理するDSTBC符号器において同期ワードの直前に対応する信号点が一定の点になるように、前記送信対象を処理するDSTBC符号器で前記フレームを処理するときの差動符号化の初期値を設定する。
【0054】
従って、送信対象を処理するDSTBC符号器(本線のDSTBC符号器)において同期ワードの直前に対応する信号点が一定の点になるようにすることにより、例えば、フレームの先頭から同期ワードより前の値(例えば、その一部)が送信対象のデータ内容により変化するような場合においても、同期ワードのマッピング配置を固定されたマッピングパターンとすることができ、送信機と受信機との間で、DSTBC方式により効率的に通信を行うことができる。
【0055】
ここで、フレームとしては、種々なものが用いられてもよく、例えば、先頭から同期ワードより前に送信対象となる音声などの変化し得るデータが配置されるフレームが用いられる。
また、同期ワードの直前に対応する信号点(シンボル値)が一定の点になるようにすることに関して、当該一定の点としては、種々な点が用いられてもよく、例えば、予め設定される。
【0056】
上記固定化に係る送信機の初期値制御手段は、一構成例として、次のような構成が用いられる。
すなわち、フレームの先頭から同期ワードより前の値について、S/P変換手段がシリアル/パラレル変換を行い、シンボルマッピング手段が当該シリアル/パラレル変換結果についてシンボルマッピングを行い、差動符号化手段が当該シンボルマッピング結果について所定の初期値を用いて差動符号化を行い、初期値更新手段が当該差動符号化結果に基づいて前記送信対象を処理するDSTBC符号器で前記フレームを処理するときの差動符号化の初期値を更新して設定する。
【0057】
また、上記固定化に係る送信機は、次のような構成として把握することもできる。
すなわち、DSTBC方式により信号を送信する送信機において、所定の初期値を用いてフレームの先頭から同期ワード直前の値に対して差動符号化を行う第1の差動符号化手段と、前記第1の差動符号化手段による同期ワード直前の差動符号化結果に基づいて初期値を設定する初期値設定手段と、前記初期値設定手段により設定された初期値を用いて前記フレームを送信対象とした差動符号化を行う第2の差動符号化手段とを備える。
【0058】
また、更に、前記初期値設定手段は、前記フレームの先頭から同期ワード直前の値に対して差動符号化を行ったときに取り得る前記同期ワード直前の差動符号化結果に対応させて初期値を設定したテーブルを備え、前記第1の差動符号化手段による同期ワード直前の差動符号化結果と前記テーブルに従って前記第2の差動符号化手段の差動符号化に用いる初期値を設定する。
【0059】
上記固定化は、以下のようなDSTBC方式の特性を利用したものである。
1)DSTBC方式では、所定の初期値を用いて所定の演算式により信号値を差動符号化した符号化結果は、この信号値がどのようなビット列の信号値であっても、有限個に分類される。すなわち、あらゆる信号値は、それらの符号化結果が有限個の状態として分類されるから、これら有限個の信号値であらゆる信号値を代表することができる。
2)そして、上記有限個の信号値を上記と同じ所定の演算式により差動符号化した符号化結果が所定の目標値になる初期値が分かれば、任意の信号値について符号化結果を所定の目標値とすることができるから、DSTBC符号化により目標とする符号化結果を得ることができる。
【0060】
したがって、DSTBC方式において、第1段の符号化処理で、フレームの先頭から同期ワード直前までの信号値を差動符号化した符号化結果に基づき、当該符号化結果に予め対応付けられた初期値をテーブル参照により特定し、当該特定した初期値を第2段の符号化における初期値としてフレーム全体の符号化処理を行なうことにより、当該フレームの同期ワード部分について目標となる所定の符号化結果を得ることができる。
【0061】
次に、π/4シフトQPSK方式及びDSTBC方式に共用の受信機(移動局208の受信機)について、図6に示す構成例を参照して説明する。
本例の共用受信機は、図2を参照して説明したようなシステム構成(π/4シフトQPSK方式を使用する区間とDSTBC方式を使用する区間とが混在する列車無線システム)が前提であり、当該システムにおける移動局208の受信機に対する要求に従い、π/4シフトQPSK方式の受信機及びDSTBC方式の受信機として共用するために次のような構成とした。
【0062】
移動局208の受信機は、π/4シフトQPSK方式の変調信号とDSTBC方式の変調信号の両方を受信可能とし、受信信号に基づいて基地局からの送信信号の変調方式を判別し、受信機の内部処理を切り替える構成とする。
即ち、図6の共用受信機は、図3に係るπ/4シフトQPSK方式の受信機と図5に係るDSTBC方式の受信機の共通部分はそのまま使用し、両者で異なる部分は切り替えにより選択して、若しくは並列に動作させることとし、更に、上記切り替えのための判定回路を設けた構成となっている。
【0063】
図6の共用受信機は、受信用アンテナ301、受信部302、A/D変換器303、直交検波部304、ローパスフィルタ305、ルートロールオフフィルタ306、ダウンサンプル器307、3つの方式切替部616a,616b,616c、2つの差動演算部308,508、復号判定部609、3つのSWテーブル部310,510a,510b、3つの相関演算部311,511a,511b、自乗演算部312、自乗加算部512、2つの最大値検索部513、方式判定部617、タイミング検出部314、タイミング生成部315、相関演算制御部618を有する。
【0064】
なお、図6の共用受信機における処理ブロック301〜307,314,315は、図3及び図5の受信機における処理ブロック301〜307,314,315と同じ機能であるため、その説明は省略する。
ここで、受信アンテナ301は、図3ではπ/4シフトQPSK変調波を受信することが前提であり、図5ではDSTBC変調波を受信することが前提であったが、図6ではどちらの変調波も受信するアンテナである。但し、これは説明上の違いであって、アンテナの構成要素が図3や図5と異なるわけではない。
【0065】
また、差動演算部308、SWテーブル部310、相関演算部311、自乗演算部312、最大値検索313は、π/4シフトQPSK方式の変調信号の復調において使用される処理ブロックであり、図3に係るπ/4シフトQPSK方式の受信機における処理ブロック308、310、311、312、313と同じ機能である。
また、差動演算部508、SWテーブル部510a,510b、相関演算部511a,511b、自乗加算部512、最大値検索513は、DSTBC方式の変調信号の復調において使用される処理ブロックであり、図5に係るDSTBC方式の受信機における処理ブロック508、510a,510b、511a,511b、512、513と同じ機能である。
【0066】
復号判定部609は、主たる機能は、図2及び図5の受信機における復号判定部309と同じであるが、復号判定部609では、同期ワードとのビット照合機能も備え、同期ワードとビット照合した結果に基づいて、現在の状態が、同期中の状態か、同期はずれの状態か、若しくは同期中から同期はずれ状態への移行中(以下、前方保護中)の状態かを判定して出力する点が異なる。
【0067】
方式切替部616a,616b,616cは、方式判定部617の出力に基づいて、受信信号がπ/4シフトQPSK変調波であると判定された場合(判定結果Qが出力された場合)にはスイッチをQ側に切り替え、逆に、受信信号がDSTBC変調波と判定された場合(判定結果Dが出力された場合)にはスイッチをD側に切り替える。なお、Q側には、π/4シフトQPSK方式に係る処理ブロック308、310、311、312、313が設けられ、D側には、DSTBC方式に係る処理ブロック508、510a,510b、511a,511b、512、513が設けられている。
【0068】
また、図6の共用受信機では、ルートロールオフ306の出力を入力として行う相関演算として、その基準信号をπ/4シフトQPSK方式に係る同期ワードのシンボルcと、DSTBC方式に係る同期ワードのシンボルa及びbの2通りのパターンで行う構成とする。すなわち、SWテーブル部310の基準信号を用いて相関演算部311によりπ/4シフトQPSK方式の相関演算を行う構成と、SWテーブル部510a,510bの基準信号を用いて相関演算部511a,511bによりDSTBC方式の相関演算を行う構成を有する。
【0069】
π/4シフトQPSK方式に係る自乗演算部312及び最大値検索部313は、図3に係るπ/4シフトQPSK方式の受信機と同様にして、相関演算部311から出力されるサンプル番号m毎の相関値C(m)に基づいて、相関自乗値|C(m)|の最大値CMAXと最大値サンプル番号Kを計算する。
また、DSTBC方式に係る自乗加算部512及び最大値検索部513は、図5に係るDSTBC方式の受信機と同様にして、相関演算部511aから出力されるサンプル番号m毎の相関値A(m)と、相関演算部511bから出力されるサンプル番号m毎の相関値B(m)に基づいて、自乗加算値|AB(m)|の最大値ABMAXと最大値サンプル番号Kを算出する。
【0070】
方式判定部617は、π/4シフトQPSK方式に係る最大値検索部313から出力される相関自乗値|C(m)|の最大値CMAXと、DSTBC方式に係る最大値検索部513から出力される自乗加算値|AB(m)|の最大値ABMAXとを比較し、その大小関係により、アンテナ301による受信波がπ/4シフトQPSK変調波かDSTBC変調波かを判定する。
具体的には、CMAX>ABMAXであれば、π/4シフトQPSK変調波を受信したと判定して、π/4シフトQPSK方式を示す判定結果Qを出力し、逆に、CMAX<ABMAXであれば、DSTBC変調波を受信したと判定して、DSTBC方式を示す判定結果Dを出力する。
【0071】
方式判定部617から出力される判定結果は、方式切替部616a,616b,616cに入力され、判定結果の変化(QからDへの変化、又は、DからQへの変化)に応じてQ側又はD側へのスイッチ切り替えが行われる。これにより、π/4シフトQPSK方式の受信機として動作する状態と、DSTBC方式の受信機として動作する状態とが適宜に切り替わることとなる。
【0072】
相関演算制御部618は、π/4シフトQPSK方式に係る相関演算部311と、DSTBC方式に係る相関演算部511a,511bについて、動作状態(ON:演算する/OFF:演算しない)を制御する。これは、図3の受信機における相関演算部311に係る(式2)や、図5の受信機における相関演算部511a,511bに係る(式5)は、1フレームに1回ずつ演算することが前提であるが、図6の共用受信機の構成において両者の相関演算をどちらも1フレームに1回ずつ行うと、演算負荷が重くなって消費電流が増加するため、必要な時だけ両方の相関演算を行うことで消費電流の低減化を図るものである。
【0073】
具体的には、相関演算制御部618は、方式判定部617による判定結果及び復号判定部609から出力される同期状態値に基づき、受信波がπ/4シフトQPSK変調波であることが明らかな場合には、π/4シフトQPSK方式の相関演算部311のみONとし、逆に受信波がDSTBC変調波であることが明らかな場合には、DSTBC方式の相関演算部511a,511bのみONとする。受信波の種類が明らかか否かの判定は、現在の方式判定部617による判定結果の状態に対して、復号判定部609から出力される同期状態値が「同期中」であれば確定する。
また、相関演算制御部618は、復号判定部609から出力される同期状態値に基づき、同期状態が「同期中」から「前方保護中」へ移行したことをトリガにして、π/4シフトQPSK方式の相関演算部311とDSTBC方式の相関演算部511a,511bをどちらもONの状態にする。
【0074】
図6の共用受信機について、復号判定部609から出力される同期状態値が「前方保護中」である場合について、自乗演算部312の出力と自乗加算部512の出力と方式判定部617の動作を、図7を参照して説明する。
図7には、自乗演算部312の出力と自乗加算部512の出力との関係を例示してある。なお、図7のグラフでは、サンプル番号(m)を横軸とし、自乗演算部312の出力(π/4シフトQPSK方式に係る相関自乗値|C(m)|)または自乗加算部512の出力(DSTBC方式に係る自乗加算値|AB(m)|)を縦軸としている。
【0075】
図7(a)は、受信波がπ/4シフトQPSK変調波であるときの自乗演算部312の出力|C(m)|と自乗加算部512の出力|AB(m)|の様子である。受信波がπ/4シフトQPSK変調波であるとき、自乗演算部312の出力|C(m)|の最大値CMAXと自乗加算部512の出力|AB(m)|の最大値ABMAXとの間に、CMAX>ABMAXの関係にあることは明白であり、この時、方式判定部617は判定結果Qを出力する。
【0076】
図7(b)は、受信波がDSTBC変調波であるときの自乗演算部312の出力|C(m)|と自乗加算部512の出力|AB(m)|の様子である。受信波がDSTBC変調波であるとき、自乗演算部312の出力|C(m)|の最大値CMAXと自乗加算部512の出力|AB(m)|の最大値ABMAXとの間に、CMAX<ABMAXの関係にあることは明白であり、この時、方式判定部617は判定結果Dを出力する。
【0077】
以上のように、本例では、列車無線システムを、DSTBC方式を用いて無線通信を行う区間(明り区間)と、他の変調方式(π/4シフトQPSK方式)を用いて無線通信を行う区間(地下区間)とを有する構成にリプレースするに際して、列車側の受信機において、列車の走行に伴う変調方式の変化を自動的に検知して復調処理の方式(復調方式)を切り替えることができる。また、従来、明り区間で用いられていたLCXを空間波方式に変更するにあたり、空間波方式の区間ではDSTBC方式により送信ダイバーシチを行うようにすることで、空間波方式の区間においても同一波干渉を対策することができる。
【符号の説明】
【0078】
101:中央卓、 102:中央装置、 103,104,105,204,205:基地局、 108,208:移動局、 106a〜106f,206a〜206c:LCX、 207a〜207c:アンテナ、
301:受信用アンテナ、 302:受信部、 303:A/D変換器、 304:直交検波部、 305:ローパスフィルタ、 306:ルートロールオフフィルタ、 307:ダウンサンプル器、 309:復号判定部、 310:SWテーブル部、 311:相関演算部、 312:自乗演算部、 313:最大値検索部、 314:タイミング検出部、 315:タイミング生成部、
508:差動演算部、 510a,510b:SWテーブル部、 511a,511b:相関演算部、 512:自乗加算部、 513:最大値検索部、
616a,616b,616c:方式切替部、 609:復号判定部、 617:方式判定部、 618:相関演算制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DSTBC方式及びDSTBC方式以外の所定の変調方式により変調された無線信号を受信して復調する受信機であって、
前記受信した無線信号について、DSTBC方式に対応した相関演算を行う第1相関演算手段と、
前記受信した無線信号について、前記所定の変調方式に対応した相関演算を行う第2相関演算手段と、
前記第1相関演算手段による相関演算の結果と前記第2相関演算手段による相関演算の結果とを比較して、前記受信した無線信号の変調方式を判定する判定手段と、
前記判定手段による判定結果の変調方式に対応する復調処理を前記受信した無線信号に対して行う復調手段と、
を備えたことを特徴とする受信機。
【請求項2】
DSTBC方式により変調された無線信号が送信される区間と、DSTBC方式以外の所定の変調方式により変調された無線信号が送信される区間とが混在する路線を走行する列車に、DSTBC方式及び前記所定の変調方式により変調された無線信号を受信して復調する受信機を設けた列車無線システムであって、
前記受信機は、
前記受信した無線信号について、DSTBC方式に対応した相関演算を行う第1相関演算手段と、
前記受信した無線信号について、前記所定の変調方式に対応した相関演算を行う第2相関演算手段と、
前記第1相関演算手段による相関演算の結果と前記第2相関演算手段による相関演算の結果とを比較して、前記受信した無線信号の変調方式を判定する判定手段と、
前記判定手段による判定結果の変調方式に対応する復調処理を前記受信した無線信号に対して行う復調手段と、
を備えたことを特徴とする列車無線システム。
【請求項3】
DSTBC方式及びDSTBC方式以外の所定の変調方式により変調された無線信号を受信して復調する復調方法であって、
前記受信した無線信号について、DSTBC方式に対応した相関演算と前記所定の変調方式に対応した相関演算とを行い、DSTBC方式に対応した相関演算の結果と前記所定の変調方式に対応した相関演算の結果とを比較して、前記受信した無線信号の変調方式を判定し、当該判定結果の変調方式に対応する復調処理を前記受信した無線信号に対して行うことを特徴とする復調方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−21497(P2013−21497A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153085(P2011−153085)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】