説明

受信装置及び受信方法

【課題】複数の送信データを空間多重で無線通信する場合において、受信装置の消費電力を低減させる。
【解決手段】複数の送信データを空間多重で送信する送信装置から送信データを受信する受信装置が、送信データを変調することによって得られるデータ部分信号と、受信装置において既知のパターンであるパイロット信号とを含む送信信号を送信装置から受信する受信し、受信されたデータ部分信号に復調処理を行うことで送信データを復元し、受信されたパイロット信号に基づいて、送信装置から他の受信装置宛てに送信された送信信号による干渉信号の電力に関する値を算出し、所定の閾値と算出した値とを比較することで干渉信号の電力が所定値を超えているか否か判定し、超えている場合には復調部の復調処理を停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間多重を用いて複数の送信データを同時に通信する無線通信技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、2.4GHz帯または5GHz帯を用いた高速無線アクセスシステムとして、IEEE802.11g規格、IEEE802.11a規格などの普及が目覚しい。これらのシステムでは、マルチパスフェージング環境での特性を安定化させるための技術である直交周波数分割多重(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調方式を用い、最大で54Mbpsの物理層伝送速度を実現している。
【0003】
ただし、ここでの伝送速度とは物理レイヤ上での伝送速度である。MAC(Medium Access Control)レイヤでの伝送効率は50〜70%程度であるため、実際のスループットの上限値は30Mbps程度である。その上、情報を必要とする通信相手が増えればこの特性は更に低下する。一方で、各家庭にも光ファイバを用いたFTTH(Fiber to the home)が普及したことにより、有線LAN(Local Area Network)の世界ではEthernet(登録商標)の100Base−Tインタフェースをはじめ、100Mbpsの高速回線の提供が普及している。そのため、無線LANの世界においても更なる伝送速度の高速化が求められている。
【0004】
そのための技術として、IEEE802.11nにおいて、空間多重送信技術としてMIMO(Multiple input multiple output)技術が導入された。さらに、IEEE802.11acでは、マルチユーザMIMO(MU−MIMO)通信方法が検討されている(非特許文献1)。下り回線におけるMU−MIMO通信では、複数の端末に対し、同一タイムスロット、同一周波数チャネルで送信が行われる。このとき、送信局におけるチャネル情報の精度が十分でないと、信号同士で干渉が生じ、通信が失敗してしまう。
【0005】
図4は、従来のMU−MIMOによる送受信システムの構成を示す図である。図4に示す送受信システムは、基地局9と複数台の端末装置8(8−1〜8−K)を備える。
基地局9は、データ選択・出力回路91、送信信号生成回路92、無線信号送受信回路93、アンテナ94(94−1〜94−N)、受信信号復調回路95、チャネル情報記憶回路96を備える。
【0006】
各端末装置8(8−1〜8−K)は、複数のアンテナ81(81−1−1〜81−1−M、・・・、81−K−1〜81−K−M)、無線信号送受信回路82(82−1〜82−K)、受信信号復調回路83(83−1〜83−K)、送信信号生成回路84(84−1〜84−K)を備える。
Kは端末装置8の台数を表し、Mはi番目の端末装置8のアンテナ81の数を表し、Nは基地局9のアンテナの数を表す。
【0007】
基地局9から端末装置8への送信において、データ選択・出力回路91は、通信相手となる1又は複数の端末装置8を決定し、決定した通信相手へ送信する1又は複数の情報(送信データ)を送信信号生成回路92に出力する。同一のタイミングで出力された一組の送信データは、同一のタイムスロット且つ同一の周波数チャネルで空間多重により送信される。
【0008】
送信信号生成回路92は、チャネル情報記憶回路96が記憶しているチャネル情報を用いて、通信相手への空間多重数、送信ウエイト、変調方式、符号化方式を決定する。送信信号生成回路92は、送信データ毎に変調・符号化を行い、送信ウエイトを乗算し、信号検出や通信情報伝達に用いるパイロット信号(既知信号)を挿入することによって送信信号を生成する。送信信号生成回路92は、生成した送信信号を無線信号送受信回路93へ出力する。
無線信号送受信回路93は、入力された送信信号を搬送波周波数にアップコンバートし、アンテナ94−1〜94−Nを介して送信する。
【0009】
基地局9の通信相手となるK個の端末装置8は、各端末装置8が備える複数のアンテナ81を介して信号を受信する。以下、i番目の端末装置8−iの構成について説明する。i番目の端末装置8−iは、アンテナ81−i−1〜81−i−Mのうち少なくとも一つのアンテナ81−iを介して信号を受信する。受信された信号(受信信号)は、無線信号送受信回路82−iに入力される。無線信号送受信回路82−iは、受信信号の周波数を搬送波周波数からダウンコンバートし、ダウンコンバート後の受信信号を受信信号復調回路83−iに入力する。受信信号復調回路83−iは、受信したパケットと同期を行い、パイロット信号からチャネル情報を取得し、受信信号を復号することによって送信データを復元する。そして、受信信号復調回路83−iは、復元した送信データ(以下、「受信データ」という。)を出力する。以上が、基地局9から端末装置8−iへの送信処理の流れである。
【0010】
次に、各端末装置8−iから基地局9への送信処理の流れについて説明する。まず、端末装置8−iにおいて送信データが送信信号生成回路84−iに入力されると、送信信号生成回路84−iが送信データに基づいて送信信号を生成する。具体的には、送信信号生成回路84−iは、送信データに対して変調・符号化を行って信号を生成し、生成した信号にパイロット信号などの制御フレームを付加することによって送信信号を生成する。送信信号生成回路84−iは、生成した送信信号を無線信号送受信回路82−iに出力する。
【0011】
無線信号送受信回路82−iは、送信信号の周波数を搬送波周波数にアップコンバートし、アップコンバート後の送信信号を複数のアンテナ81(81−i−1〜81−i−M)の少なくとも一つから送信する。また、無線信号送受信回路82−iは、受信信号復調回路83−iからチャネル情報の入力を受け、フィードバック情報として基地局9へ送信しても良い。
【0012】
基地局9は、アンテナ94−1〜94−Nの少なくとも一つを介して信号を受信する。無線信号送受信回路93は、受信した信号(受信信号)の周波数をダウンコンバートし、ダウンコンバート後の受信信号を受信信号復調回路95に出力する。受信信号復調回路95が復調に用いたチャネル情報、または復調信号に含まれるチャネル情報は、チャネル情報記憶回路96によって記憶される。なお、復調信号に含まれるチャネル情報とは、端末装置8−iの受信信号復調回路83−iによってフィードバックされたチャネル情報であり、端末装置8−iと基地局9との間のチャネル情報である。チャネル情報記憶回路96は、受信信号復調回路95によって取得された上り回線のチャネル情報に対して、上り回線と下り回線の間のずれを補正するキャリブレーション処理を行ってから記憶しても良い。
【0013】
以下、複数の通信相手に空間多重方式を用いて通信する例として、BD指向性制御法について示す。なお、以下の説明では、{}で囲まれた文字は、ベクトルを示す太字を示す。また、“ルート(A)”は、値Aの二乗根を示す。チャネル情報記憶回路96において得られた端末8−iのj番目の周波数チャネルに対するチャネル情報を表すチャネル応答行列{H}i,j(M×N行列)は、下式のように、特異値分解により、右特異行列{V}i,j(N×N行列)、左特異行列{U}i,j(M×M行列)及び固有値の二乗根ルート(λi,j,l)を対角要素とし、非対角行列を0とする行列{D}i,j(M×N行列)に分けられる。なお、Fは通信に用いる周波数チャネル数を示し、iは1以上F以下の値である。
【0014】
【数1】

【0015】
ここで{H}i,j,lkは、j番目の周波数チャネルにおいて、送信装置のl番目のアンテナと端末装置8−iのk番目のアンテナとの間の伝達係数を表す。右特異行列{V}i,jのうち、{V}’i,jは、固有値に対応する列ベクトル群であり、{V}’’i,jは、0に対応する列ベクトル群である。シングルユーザ通信において、最大の周波数利用効率が得られる方法として知られる固有ベクトル送信においては、{V}’i,jの列ベクトルを送信ウエイトとすることで、対応する固有値λi,j,lで表せる信号電力を得ることができる。ここで、λi,j,1≧λi,j,2≧・・・≧λi,j,Miである。また、上付きの添え字Hは、共役複素行列を表す。
【0016】
次に、マルチユーザに対するBD法による通信相手の選択方法を示す。以下、K台の端末装置8(8−1〜8−K)に対して通信を行う場合について説明する。i番目の端末装置8−iに対する送信ウエイトの演算方法は以下の通りである。端末装置8−i以外の端末装置8に対応する集合チャネル行列を、{H}i,jと表す。集合チャネル行列{H}i,jは、以下のような式で表される。
【0017】
【数2】

【0018】
{R}i,jは、端末装置8−iにおけるj番目の周波数チャネルの受信ウエイトである。{R}i,jを対角要素が1の対角行列と仮定すれば、受信ウエイトの仮定を行わずに送信ウエイトを決定することとなる。この{H}i,jに対して特異値分解を行うと、{H}i,jを以下のように表すことができる。
【0019】
【数3】

【0020】
{V}’i,jは、固有値{D}i,jに対応する信号空間ベクトルである。{V}’’i,jは固有値がない、もしくは固有値0に対応するヌル空間ベクトルである。ここで、{V}’’i,jで表せるヌル空間に対し、送信を行うと、端末装置8−i以外の通信相手の受信ウエイトに対し、干渉を生じない。よって、複数の通信相手に空間多重方式を用いて通信するには、j番目の周波数チャネルに用いる送信ウエイトとして、ここで得られた{V}’’i,jに線形演算を行い得られるウエイトを用いればよい。
【0021】
例えば、以下のような処理を行えばよい。まず、端末装置8−iに対応するチャネル行列{H}i,jに{V}’’i,jを乗算する。次に、得られた{H}i,j{V}’’i,jの行ベクトルに対して、直交化法を用いて得られる基底ベクトルのエルミート転置行列、または、{H}i,j{V}’’i,jに特異値分解を行って得られる右特異ベクトルのいずれかを、{V}’’i,jに乗算し、得られる行列の列ベクトルを選択し、送信ウエイトとすることができる。{H}i,j{V}’’i,jから得られた行列を{G}i,jとすると、送信ウエイトベクトル{W}i,jは、[{V}’’i,j{G}i,jLiと表せる。ここで、[]Aは、括弧内の行列からA個の列ベクトルを選択する関数である。また、Lは、端末装置8−iへの通信における空間多重数を表す。
【0022】
このようにして、各通信相手に対してそれぞれ送信ウエイトを演算することができる。また、各通信相手に対するj番目の周波数チャネルに対する送信ウエイト{W}は、以下の式で表される。
【0023】
【数4】

【0024】
ここで、送信ウエイト{W}1,j〜{W}K,jは1番目の端末装置〜K番目の端末装置への送信ウエイト行列である。{W}i,jはj番目の周波数帯域におけるi番目の端末装置に対する送信ウエイト行列であり、N×Lの行列である。この送信ウエイトを用いた場合の、端末装置8−iにおけるj番目の周波数チャネルに対応する受信信号{y}i,jは、以下の式で表される。
【0025】
【数5】

【0026】
ここで、{x}i,jは、j番目の周波数チャネルを用いて送信された端末装置8−i宛の送信信号である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】IEEE, “Proposed specification framework for TGac,” doc.: IEEE 802.11-09/0992r21, Jan. 2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
上記の式5において、左側から{R}i,jを乗算すると、チャネル情報誤差がなければ、{R}i,j{H}i,jと{W}l,jは直交し、{R}i,j{H}i,j{W}l,j={0}となる(ただし、l(小文字のエル)はiと異なる値であり、{0}は0を要素とする行列である)。しかし、基地局9のチャネル情報に誤差があれば、上記の式5の2行目の右辺第2項が0にならず、他の端末装置8宛の信号が端末装置8−iに受信される。そのため、送信された信号同士で干渉が生じ、伝送品質が低下してしまう。
【0029】
また、ここでは、BD法による送信ウエイトの結果から、送信信号同士の干渉による劣化を説明した。しかし、いかなるMU−MIMO通信においても、このような干渉を除去する必要がある。ZF(Zero forcing)アルゴリズムを用いた場合でも、BD法と同様にユーザ間干渉が除去できる。または、SO(Successive Optimization)法では、上記の式2の代わりに、集合チャネル行列が以下のように定義される。
【0030】
【数6】

【0031】
そして、特定の端末への信号のみを除去するように伝送品質が決定される。この場合、基地局9は、端末装置8−iに対して、(i−1)個の他の端末装置8に対してヌルを向けて送信するように送信ウエイトを決める。端末装置8−iは、(i−1)個の他の端末装置8宛ての信号による干渉を受けることになるが、(K−i)個の端末装置8に関する干渉は除去される。しかし、チャネル推定誤差が基地局9に存在すると、ある端末装置8−iにおいて、(K−i)個の端末装置8に送信された送信信号による干渉が増大する。
【0032】
いずれのMU−MIMOの送信ウエイト決定においても、チャネル推定誤差が存在しない場合には送信ウエイトを用いることで干渉電力量が0となるか、干渉電力量がある期待値まで低減される。しかし、基地局9のチャネル情報にチャネル推定誤差が含まれる場合、他の端末装置に送信された信号による干渉が生じ、想定した符号化率と変調方式で送信されたデータに誤りが生じ、通信が失敗する問題があった。この場合、端末装置において復号のために要した消費電力は無駄となっていた。
【0033】
上記事情に鑑み、本発明は、複数の送信データを空間多重で無線通信する場合において、受信装置の消費電力を低減させる技術の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0034】
本発明の一態様は、複数の送信データを空間多重で送信する送信装置から前記送信データを受信する受信装置であって、前記送信データを変調することによって得られるデータ部分信号と、受信装置において既知のパターンであるパイロット信号とを含む送信信号を前記送信装置から受信する受信部と、前記受信部によって受信されたデータ部分信号に復調処理を行うことで前記送信データを復元する復調部と、前記受信部によって受信された前記パイロット信号に基づいて、前記送信装置から他の受信装置宛てに送信された送信信号による干渉信号の電力に関する値を算出し、所定の閾値と算出した値とを比較することで前記干渉信号の電力が所定値を超えているか否か判定し、超えている場合には前記復調部の前記復調処理を停止させる復調停止判定部と、を備える。
【0035】
本発明の一態様は、上記の受信装置であって、前記復調停止判定部は、通信のパラメータと前記閾値との対応付けを記憶しており、前記受信部によって受信された信号における前記パラメータと対応する前記閾値に基づいて前記判定を行う。
【0036】
本発明の一態様は、上記の受信装置であって、前記受信部は、前記送信装置によって選択された前記閾値を前記データ部分信号とともに受信し、前記復調停止判定部は、前記受信部によって受信された前記閾値に基づいて前記判定を行う。
【0037】
本発明の一態様は、複数の送信データを空間多重で送信する送信装置から前記送信データを受信する受信装置が行う受信方法であって、前記送信データを変調することによって得られるデータ部分信号と、受信装置において既知のパターンであるパイロット信号とを含む送信信号を前記送信装置から受信する受信ステップと、前記受信部によって受信されたデータ部分信号に復調処理を行うことで前記送信データを復元する復調ステップと、前記受信部によって受信された前記パイロット信号に基づいて、前記送信装置から他の受信装置宛てに送信された送信信号による干渉信号の電力に関する値を算出し、所定の閾値と算出した値とを比較することで前記干渉信号の電力が所定値を超えているか否か判定し、超えている場合には前記復調部の前記復調処理を停止させる復調停止判定ステップと、を有する。
【0038】
本発明の一態様は、上記の受信方法であって、前記復調停止判定ステップにおいて、通信のパラメータと前記閾値との対応付けを記憶している記憶部から、前記受信部によって受信された信号における前記パラメータと対応する前記閾値を読み出し、読み出した前記閾値に基づいて前記判定を行う。
【0039】
本発明の一態様は、上記の受信方法であって、前記受信ステップにおいて、前記送信装置によって選択された前記閾値を前記データ部分信号とともに受信し、前記復調停止判定において、前記受信ステップにおいて受信された前記閾値に基づいて前記判定を行う。
【発明の効果】
【0040】
本発明では、受信された信号に基づいて干渉信号の電力量を評価し、所定の閾値を超える電力量の干渉信号が受信された場合にはデータの復調処理を行わない。そのため、失敗する可能性の高い復号処理に要する電力を削減でき、受信装置の消費電力を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態におけるMU−MIMOによる送受信システムの構成を示す図である。
【図2】基地局におけるパイロット信号送信処理の概略を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態における受信側の装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】従来のMU−MIMOによる送受信システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図1は、本発明の一実施形態におけるMU−MIMOによる送受信システムの構成を示す図である。図1に示す送受信システムは、基地局1と複数台の端末装置2(2−1〜2−K)を備える。
基地局1は、データ選択・出力回路11、送信信号生成回路12、無線信号送受信回路13、アンテナ14(14−1〜14−N)、受信信号復調回路15、チャネル情報記憶回路16、WLT生成回路17を備える。
【0043】
基地局1は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、基地局用プログラムを実行することによって機能する。なお、基地局1の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されても良い。基地局用プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されても良い。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。
【0044】
各端末装置2(2−1〜2−K)は、複数のアンテナ21(21−1−1〜21−1−M、・・・、21−K−1〜21−K−M)、無線信号送受信回路22(22−1〜22−K)、受信信号復調回路23(23−1〜23−K)、送信信号生成回路24(24−1〜24−K)、復調停止判定回路25(25−1〜25−K)を備える。
Kは端末装置2の台数を表し、Mはi番目の端末装置2のアンテナ21の数を表し、Nは基地局1のアンテナの数を表す。
【0045】
各端末装置2は、バスで接続されたCPUやメモリや補助記憶装置などを備え、端末用プログラムを実行することによって機能する。なお、端末装置2の各機能の全て又は一部は、ASICやPLDやFPGA等のハードウェアを用いて実現されても良い。端末用プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されても良い。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。
【0046】
基地局1から端末装置2への送信において、データ選択・出力回路11は、通信相手となる1又は複数の端末装置2を決定し、決定した通信相手へ送信する1又は複数の情報(送信データ)を送信信号生成回路22に出力する。同一のタイミングで出力された一組の送信データは、同一のタイムスロット且つ同一の周波数チャネルで空間多重により送信される。
【0047】
送信信号生成回路12は、チャネル情報記憶回路16が記憶しているチャネル情報を用いて、通信相手への空間多重数、送信ウエイト、変調方式、符号化方式を決定する。送信信号生成回路12は、送信データ毎に変調・符号化を行い、送信ウエイトを乗算し、信号検出や通信情報伝達に用いるパイロット信号(既知信号)を挿入することによって送信信号を生成する。送信信号生成回路12は、生成した送信信号を無線信号送受信回路13へ出力する。
無線信号送受信回路13は、入力された送信信号を搬送波周波数にアップコンバートし、アンテナ14−1〜14−Nを介して送信する。
【0048】
基地局1の通信相手となるK個の端末装置2は、各端末装置2が備える複数のアンテナ81を介して信号を受信する。以下、i番目の端末装置2−iの構成について説明する。i番目の端末装置2−iは、アンテナ21−i−1〜21−i−Mのうち少なくとも一つのアンテナ21−iを介して信号を受信する。受信された信号(受信信号)は、無線信号送受信回路22−iに入力される。無線信号送受信回路22−iは、受信信号の周波数を搬送波周波数からダウンコンバートし、ダウンコンバート後の受信信号を受信信号復調回路23−iに入力する。受信信号復調回路23−iは、受信したパケットと同期を行い、パイロット信号からチャネル情報を取得する。受信信号復調回路23−iは、取得したチャネル情報を復調停止判定回路25−iに出力する。
【0049】
復調停止判定回路25−iは、チャネル情報に基づいて、干渉信号の電力量を算出する。ここで評価される干渉信号は、他の端末装置2−g(gはiと異なる値)に対して送信された信号であって、端末装置2−iによって受信された信号である。そして、算出された電力量が所定の閾値を超えている場合、復調停止判定回路25−iは、データ部分の復調処理の停止を受信信号復調回路23−iに指示する。受信信号復調回路23−iは、復調処理の停止の指示を受けた場合、データ部分の復調処理を完了させることなく、処理対象となっていた受信信号に対する処理を終了する。一方、受信信号復調回路23−iは、復調処理の停止の指示を受けない場合、データ部分の復調処理を実行し、復調を完了させる。受信信号復調回路23−iは、データ部分の復調処理によって送信データを復元する。そして、受信信号復調回路23−iは、復元した送信データ(以下、「受信データ」という。)を出力する。以上が、基地局1から端末装置2−iへの送信処理の流れである。
【0050】
次に、各端末装置2−iから基地局1への送信処理の流れについて説明する。まず、端末装置2−iにおいて送信データが送信信号生成回路24−iに入力されると、送信信号生成回路24−iが送信データに基づいて送信信号を生成する。具体的には、送信信号生成回路24−iは、送信データに対して変調・符号化を行って信号を生成し、生成した信号にパイロット信号などの制御フレームを付加することによって送信信号を生成する。送信信号生成回路24−iは、生成した送信信号を無線信号送受信回路22−iに出力する。
【0051】
無線信号送受信回路22−iは、送信信号の周波数を搬送波周波数にアップコンバートし、アップコンバート後の送信信号を複数のアンテナ21(21−i−1〜21−i−M)の少なくとも一つから送信する。また、無線信号送受信回路22−iは、受信信号復調回路23−iからチャネル情報の入力を受け、フィードバック情報として基地局1へ送信しても良い。
【0052】
基地局1は、アンテナ14−1〜14−Nの少なくとも一つを介して信号を受信する。無線信号送受信回路13は、受信した信号(受信信号)の周波数をダウンコンバートし、ダウンコンバート後の受信信号を受信信号復調回路15に出力する。受信信号復調回路15が復調に用いたチャネル情報、または復調信号に含まれるチャネル情報は、チャネル情報記憶回路16によって記憶される。なお、復調信号に含まれるチャネル情報とは、端末装置2−iの受信信号復調回路23−iによってフィードバックされたチャネル情報であり、端末装置2−iと基地局1との間のチャネル情報である。ここで、チャネル情報とは、チャネル行列でもよいし、チャネル行列から得られるユニタリ行列や、それらの行列を圧縮したものであってもよい。チャネル情報記憶回路16は、受信信号復調回路15によって取得された上り回線のチャネル情報を用い、送受信回路間の情報により、上り回線と下り回線の違い補正するキャリブレーション処理を行ってから記憶しても良い。
【0053】
次に、復調停止判定回路25の具体的な処理について、基地局1におけるパイロット信号の送信処理も含めて説明する。図2は、基地局1におけるパイロット信号送信処理の概略を示す図である。図2には、パイロット信号に関する処理において、基地局1と端末装置2の各アンテナ21で送受信される信号の例を示す。
【0054】
図2において、ST、LT、WLTはそれぞれ送信されるパイロット信号を表している。STは、ショートトレーニングシンボル(Short・Training・Symbols)を示す。LTは、ロングトレーニングシンボル(Long・Training・Symbols)を示す。WLTは、ウエイティッドロングトレーニングシンボル(Weighted・Long・Training・Symbols)を表す。Dataは送信データ(実データ)が符号化・変調されることによって生成された信号を示す。本実施形態の説明において、このDataの信号を「データ部分」又は「データ部分信号」と表すこともある。
【0055】
以下の説明において、LはWLTの数を表す。これらのパイロット信号は、基地局1の各アンテナ14から送信され、端末装置2−1〜2−Kの各アンテナ21で受信される。R−STは、各端末装置2で受信されたSTを表す。R−LTは、各端末装置2で受信されたLTを表す。R−iは、端末装置2−i(i=1、2、・・・、K)で受信されたWLTを表す。各端末装置2は、受信したRSTやRLTを用いて、受信した信号の受信タイミングを検出し、周波数オフセットを補償する。端末装置2は、STだけを用いて受信タイミングと周波数オフセットを推定し、LTを用いなくとも良い。なお、ST及びLTは、無指向性のアンテナで送信される。一方、WLTは指向性をもって送信される。
【0056】
WLTは基地局1が用いる送信ウエイトから形成される指向性で送信されるパイロット信号である。WLT−lkは、基地局1のk番目のアンテナ14−kから、l番目に送信されたWLTを表す。図2において、上述したようにLは送信されたWLTの数を表す。l番目のWLTのj番目の周波数チャネルの送信ウエイトベクトルを以下の式のように表す。
【0057】
【数7】

【0058】
l番目のWLTでは、1〜Fの周波数チャネルで、{w}’1,1 〜 {w}’1,Fの送信ウエイトを用い、既知信号を送信する。l番目のWLTにおいて、j番目のサブキャリアで既知信号sl,jを送信すると、端末装置2−iにおける受信信号ベクトル{y}l,i,jは以下の式8のように表される。
【0059】
【数8】

【0060】
{n}l,i,jはノイズベクトルである。ここで、図2の送信信号WLT−lkでは、w’l,1,kl,1 〜 w’l,F,kl,FがIDFTされた後に送信されており、受信信号R−i−lmは、端末2−iにおけるm番目のアンテナ21の受信信号yl,i,1,m 〜 yl,i,F,m がDFTの後に得られる。よって、j番目の周波数チャネルに注目すると、端末装置2−iにおいて、L個のWLTは1〜Lの受信信号を用いて、以下のように表される。
【0061】
【数9】

【0062】
i,jが既知であるため、受信信号行列{Y}i,jからsi,jを除算することによって、{H}i,j{W}'が得られる。式9で表される値は、熱雑音行列{N}i,jが加わっているため誤差を含む。しかし、同一の信号を繰り返したり、{H}i,j{W}'i,jが雑音より十分大きい(SNRが大きい)環境で用いることで、誤差を小さくすることができる。j番目の周波数チャネルにおけるWLT用の送信ウエイト{W}'は、以下の式10として表される。
【0063】
【数10】

【0064】
ここで、端末装置2−1〜2−Kへの空間多重するデータストリーム数をL〜Lとすると、{W}i,jはN×L行列であり、式4で説明されたように端末装置2−iに対し決定された送信ウエイトである。ここで、L〜Lの総和をL’と定義する。{A}は、列ベクトルが互いに直交する直交行列であり、L’×Lの行列である。{A}として、対角成分が1で、非対角成分が0の対角行列を用いることもできる。この場合、式9において、{A}を省略できる。ここで、LはL’以上の数が用いられると、チャネル情報の推定精度を高くすることができる。{A}は予め複数のL’に対して、基地局1と端末装置2において記憶しておく。このように制御することで、{A}とsi,jから{H}i,j{W}は以下のように推定できる。
【0065】
【数11】

【0066】
このようにWLTを用いて、全ての端末装置2宛に用いる送信ウエイトに対応するチャネル行列{H}i,j{W}g,jが得られる。ここで、iがgの場合、端末装置2−iにとって自装置宛ての送信ウエイトに対するチャネル情報が得られる。一方、iがgと異なる場合、他の端末2−g宛ての送信ウエイトに対するチャネル情報となる。このようにして、式5における、信号成分の電力(信号電力)の大きさを、{H}i,j{W}i,jから推定できる。また、干渉信号の電力(干渉電力)の大きさを、{H}i,j{W}g,j (gとiとは異なる)から推定できる。ここで、基地局1が送信する際には、想定している信号品質に応じて、変調方式や符号化率を決定している。すなわち、MU−MIMOによる複数端末装置への送信において、想定しない伝搬環境の変動が生じた場合には、受信側で復号することが不可能となる。しかし、送信を行う基地局1の送信方法のアルゴリズムを予め端末装置2が取得していれば、{H}i,j{W}g,j (gとiとは異なる)の干渉信号の電力が、基地局1において想定されていた電力よりも大きいか否かについて、信号のデータ部分を復調することなく、端末装置2−iにおいて判定できる。
【0067】
いくつか例をあげて、端末2−iにおける受信可否の判定方法を示す。基地局装置においてチャネル情報誤差のないチャネル情報を有する場合、ZF方やBD法を基地局が用いている場合には、端末2−iにおいて仮定している受信ウエイトRi,jに対し、以下の式が全ての要素がほぼ0(または受信時の熱雑音程度の値)になる。
【0068】
【数12】

【0069】
式12の第1項の[{A}−1Lgは、Aの逆行列(L×L’行列)から、端末装置2−g宛の送信ウエイトに対応するL個の列ベクトルを選択して得られる行列である。式12の第2項は、受信行列{Y}に受信ウエイトと{A}の逆行列を乗算後、端末装置2−g宛の送信ウエイトに対応するL個の列ベクトルを抜き出して得られる。式12の第2項と第3項との間に成り立つ等式は、式11で示されているように熱雑音が加わるため、厳密には=(イコール)にはならない。しかし、熱雑音が無視できるものとし、等式として扱っても良い。以下の説明では、受信時の熱雑音の影響を考慮しない。また、受信ウエイトを仮定していない場合は、{R}i,jとして対角要素1、非対角要素0の対角行列を用いるか、{R}i,jを式11から省略できる。{r}i,j,kは{R}i,jのk番目の行ベクトルであり、{w}g,j,kは{W}g,jのk番目の列ベクトルである。基地局1のチャネル情報は、実際の伝搬環境とのずれを表すチャネル情報誤差を含むため、式12は0にならない。復調停止判定回路25−iは、予め閾値Γを記憶しておき、測定された干渉電力が閾値Γを超えた場合に、受信信号復調回路23−iに対しデータ部分の復調処理の停止を指示する。よって端末装置2は、式12により得られる行列の少なくとも一部を用いて、干渉電力を推定する。
干渉電力は、以下の数式のいずれかによって推定することができる。それぞれ式12から、受信信号行列{Y}jと受信ウエイト、行列{A}jの逆行列の少なくとも一部のベクトルを用いて計算できる。以下式12におけるsi,jが絶対値が1となる信号であるものと仮定し、|si,j|の記載を省略する。
【0070】
【数13】

【数14】

【数15】

【数16】

【数17】

【数18】

【0071】
また、送信アルゴリズムとしてSO法を用いた場合には、端末装置2−(i+1)〜2−Kへの送信信号が、端末2−iに対してヌルを向けるように送信される。すなわち、端末装置2−iは、端末装置2−(i+1)〜2−Kへの送信ウエイトに対応する、{H}i,j{W}(i+1),j 〜{H}i,j{W}K,j を用いて干渉電力を推定する。言い換えれば、式13〜17においてi+1≦g≦K とし、式18を以下のように変形して用いても良い。
【0072】
【数19】

【0073】
このように、送信アルゴリズムとしていずれの方式を用いたとしても、基地局1は、受信する端末装置2において受信信号が0となるか、もしくは所定の値以下となるものとして送信信号が送信される。各端末装置2は、送信ウエイトや受信ウエイトに対応する値を式12から、式13〜19のように算出する。各端末装置2は、算出された値が所定の値より大きいか否かに基づいて、データ部分を復調する前に、通信が失敗するか否か判定することができる。
【0074】
また、式18または19では、端末装置2−i以外の全ての端末装置宛の、全ての周波数の、全てのデータストリームにおける、全ての受信ウエイトに対する干渉電力の和を用いている。これを、端末装置2−i以外のある特定の端末装置2宛の干渉電力のみの和としても良い。また、ある特定の周波数チャネルのみの和としても良い。また、ある特定の受信ウエイトのみの和としても良い。また、ある特定のデータストリームに対する和としても良い。ここで得られた干渉電力をIとすると、端末装置2−iは干渉電力IとΓを比較し、IがΓよりも大きい場合は、データ部分の復調処理を中止する。また、式13〜19の干渉電力や、干渉信号{H}i,j{W}g,jを、送信信号生成回路24−i、無線信号送受信回路22−i、アンテナ21−i−1〜21−i−Mの少なくとも一つを介して、基地局1に対しフィードバックしても良い。
【0075】
また、閾値Γは、基地局1から各端末装置2にパイロット信号前後の送信信号を用いて通知しても良い。この場合には、基地局1の送信信号生成回路12は、決定した変調方式及び符号化率が、どの程度のマージンを持って設定されたかにより、当該端末装置2で生じても通信に問題を生じない干渉電力を指定する。例えば、端末装置2−iへの各データストリームとして、二つのデータストリームで、256QAM、3/4の符号化率を用いることを決定した場合、SINRの期待値が6dB下がっても通信が成功すると判断する。そして、送信信号生成回路12は、当該端末装置2の閾値Γとして、4σと設定しても良い。ここで、σは端末装置2−iの熱雑音の分散値である。4σと設定することで、雑音と干渉電力の和が4σとなり、SINRが6dB劣化することが想定される。式13〜19で表せる式では熱雑音は考慮されていないが、いずれも式12による計算に基づいて算出するため、式12の右辺の熱雑音の影響を受けている。よって、式12から得られる{r}i,j,k{H}i,j{w}g,j,lを元に干渉電力を推定すると熱雑音の電力も含んだ値となる。ただし、WLTのフォーマットにより、例えば通常の2倍の長さのOFDM信号を使うなどして、WLTの受信信号の検出感度を高めた場合には、その分熱雑音の量が小さくなるため、熱雑音量について補正する必要がある。
【0076】
また、閾値Γは、端末装置2−iが受信した信号パケットで指定されている変調方式と符号化率とデータストリーム数とに応じて決定されても良い。端末装置2−iの復調停止判定回路25−iは自端末宛の通信のパラメータと閾値Γの値とを対応付けた表を予め記憶しておく。通信のパラメータとは、閾値に関連する値であり、例えば空間多重数、変調方式、符号化率の全て又は一部の組合せである。通信のパラメータは、空間多重数、変調方式、符号化率のうちのいずれか一つの値であっても良い。復調停止判定回路25−iは、受信したデータパケットに示されたパラメータを読み込み、読み込んだ内容に対応する閾値Γを表から抽出する。そして、復調停止判定回路25−iは、干渉電力が閾値Γを超えるか否かに基づいて、データ部分の復調処理を行うか否か判断する。
【0077】
また、閾値Γは、干渉電力そのものを表す値として設けられるのではなく、干渉信号の電力に関する値として設けられても良い。例えば、閾値Γは、SINRに対して設けられても良い。この場合、復調停止判定回路25は、干渉電力そのものを算出するのではなく、閾値に応じて干渉信号の電力に関する値(この場合はSINR)を算出する。すなわち、復調停止判定回路25−iは、{H}i,j{W}i,jから得られる信号電力Sと、雑音電力の分散値σ、{H}i,j{W}g,jから得られる干渉電力Iに基づいて、式20の値を算出しても良い。
【0078】
【数20】

【0079】
または、前述のように式12に基づく計算では、熱雑音電力を含んだ信号電力および干渉電力を計算することになるため、単に{H}i,j{W}i,jから得られる電力と、{H}i,j{W}g,jから得られる電力との比をSINRとして用いてもよい。
そして、復調停止判定回路25−iは、算出した値と閾値Γとを比較して、干渉信号の電力が所定値(基地局1において予め想定されている値)を超えているか否か判定し、データ部分の復調処理を停止するか否か判断しても良い。
また、復調停止判定回路25−iは、SINRとの比較で用いる閾値Γについても、通信のパラメータに対する表を予め記憶しておき、読み出して比較を行っても良い。このように構成されることで、通信の形態に応じて適切な閾値Γを用いることが可能となる。また、基地局1から、閾値Γの値を各端末装置2に対して指定することもできる。
【0080】
また、基地局1のWLT生成回路17は、通信を行う相手装置全てに対してヌルを向けるような、j番目の周波数の送信ウエイト{w}0,jに対応するWLT信号を生成しても良い。この場合、信号指向性制御を行い、式21を用いてWLTを生成しても良い。
【0081】
【数21】

【0082】
各端末装置2−1〜2−Kの復調停止判定回路25は{w}0,jに対応する送信ウエイトの受信信号から、干渉電力を下記のように推定できる。
【0083】
【数22】

【数23】

【数24】

【0084】
これらの値は、式12において、[{A}−1として、{w}O,jに対応するAの逆行列の列ベクトルを選んだり、[{R}i,j{Y}i,j{A}−1として、{R}i,j{Y}i,j{A}−1から{w}O,jに対応する部分を抜き出すことで、得ることができる。また、送信ウエイト{w}0,jは直交化符号に含めず、
【0085】
【数25】

【0086】
として、WLTを生成しても良い。このようにすることで、WLTの送信ウエイト{w}0,jに対応する受信タイミングの受信信号
【0087】
【数26】

【0088】
から、干渉電力を求めることができる。ここで、aは送信ウエイト{w}0,jに対応する受信タイミングを表す。
干渉電力は、以下の式で算出できる。
【0089】
【数27】

【数28】

【0090】
また、式28において、特定の周波数チャネルのみを選択して干渉電力が算出されても良い。
【0091】
図3は、本発明の一実施形態における受信側の装置(端末装置2)の処理の流れを示すフローチャートである。
無線信号送受信回路22は、MU−MIMO通信用のパケット信号を受信すると(ステップS301)、自端末が通信相手として指定されているかを判定する(ステップS302)。通信相手として指定されていない場合(ステップS302−NO)、無線信号送受信回路22は、再び受信の待機を開始する。一方、自端末が通信相手として指定されている場合(ステップS302−YES)、復調停止判定回路25は、空間多重により同時に通信を行う端末装置2の中で何番目の通信相手であるかを判定する。そして、復調停止判定回路25は、受信したWLT信号から、干渉電力Iを推定する(ステップS303)。
【0092】
復調停止判定回路25は、推定した干渉電力Iが、予め記憶している閾値Γより大きいか否か判定する(ステップS304)。推定した干渉電力Iの値が閾値Γより大きい場合(超える場合:ステップS304−YES)、復調停止判定回路25は、データ部分の復調処理の停止を受信信号復調回路23に指示する(ステップS305)。受信信号復調回路23は、通信失敗であると判断し(ステップS309)、受信した信号に対する処理を終了する(ステップS310)。
【0093】
推定した干渉電力Iが、予め記憶している閾値Γより小さい場合(ステップS304−NO)、復調停止判定回路25は停止の指示を行わない。この場合、受信信号復調回路23は、データ部分の復調処理を行い(ステップS306)、正常に復調ができたか否か判定する(ステップS307)。復調が失敗した場合(ステップS307−NO)、受信信号復調回路23は、通信失敗であると判定し(ステップS309)、受信した信号に対する処理を終了する(ステップS310)。一方、復調に成功した場合(ステップS307−YES)、受信信号復調回路23は、通信成功と判断して(ステップS308)、受信した信号に対する処理を終了する(ステップS310)。
【0094】
このように構成された本発明の実施形態によれば、端末装置2において受信された信号のデータ部分の復調処理を行う前に、データ部分の復調処理が正常に行われるか否か推定できる。そして、正常に行われないと推定された場合にはデータ部分の復調処理が停止される。そのため、失敗に終わる可能性の高い復調処理を事前に止めることによって、その処理に要する電力が消費されず、消費電力の削減が可能となる。
なお、上述した停止の対象となるデータ部分の復調処理は、復調と復号とを含んでも良いし、いずれか一方のみであっても良い。
【0095】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0096】
1…基地局, 2−1〜2−K…端末装置(受信装置), 11…データ選択・出力回路, 12…送信信号生成回路, 13…無線信号送受信回路, 14−1〜14−N…アンテナ, 15…受信信号復調回路, 16…チャネル情報記憶回路, 17…WLT生成回路, 21−1−1〜21−K−M…アンテナ, 22…無線信号送受信回路(受信部), 23…受信信号復調回路(復調部), 24…送信信号生成回路, 25…復調停止判定回路(復調停止判定部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の送信データを空間多重で送信する送信装置から前記送信データを受信する受信装置であって、
前記送信データを変調することによって得られるデータ部分信号と、受信装置において既知のパターンであるパイロット信号とを含む送信信号を前記送信装置から受信する受信部と、
前記受信部によって受信されたデータ部分信号に復調処理を行うことで前記送信データを復元する復調部と、
前記受信部によって受信された前記パイロット信号に基づいて、前記送信装置から他の受信装置宛てに送信された送信信号による干渉信号の電力に関する値を算出し、所定の閾値と算出した値とを比較することで前記干渉信号の電力が所定値を超えているか否か判定し、超えている場合には前記復調部の前記復調処理を停止させる復調停止判定部と、
を備える受信装置。
【請求項2】
前記復調停止判定部は、通信のパラメータと前記閾値との対応付けを記憶しており、前記受信部によって受信された信号における前記パラメータと対応する前記閾値に基づいて前記判定を行う
請求項1に記載の受信装置。
【請求項3】
前記受信部は、前記送信装置によって選択された前記閾値を前記データ部分信号とともに受信し、
前記復調停止判定部は、前記受信部によって受信された前記閾値に基づいて前記判定を行う
請求項1に記載の受信装置。
【請求項4】
複数の送信データを空間多重で送信する送信装置から前記送信データを受信する受信装置が行う受信方法であって、
前記送信データを変調することによって得られるデータ部分信号と、受信装置において既知のパターンであるパイロット信号とを含む送信信号を前記送信装置から受信する受信ステップと、
前記受信部によって受信されたデータ部分信号に復調処理を行うことで前記送信データを復元する復調ステップと、
前記受信部によって受信された前記パイロット信号に基づいて、前記送信装置から他の受信装置宛てに送信された送信信号による干渉信号の電力に関する値を算出し、所定の閾値と算出した値とを比較することで前記干渉信号の電力が所定値を超えているか否か判定し、超えている場合には前記復調部の前記復調処理を停止させる復調停止判定ステップと、
を有する受信方法。
【請求項5】
前記復調停止判定ステップにおいて、通信のパラメータと前記閾値との対応付けを記憶している記憶部から、前記受信部によって受信された信号における前記パラメータと対応する前記閾値を読み出し、読み出した前記閾値に基づいて前記判定を行う
請求項4に記載の受信方法。
【請求項6】
前記受信ステップにおいて、前記送信装置によって選択された前記閾値を前記データ部分信号とともに受信し、
前記復調停止判定において、前記受信ステップにおいて受信された前記閾値に基づいて前記判定を行う
請求項4に記載の受信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−62585(P2013−62585A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198271(P2011−198271)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】