説明

受信装置及び受信方法

【課題】SSB多重化を適用したOFDM信号を受信する受信装置又は受信方法において、良好な伝送誤り特性が得られるようにすること。
【解決手段】受信装置10は、上側波帯の復調データおよび下側波帯の復調データから上側波帯に含まれる下側波帯の情報シンボルに基づく影響成分と下側波帯に含まれる上側波帯の情報シンボルに基づく影響成分とをそれぞれ除去し(13)、除去後の復調データを復号する(21)。また、復号された情報シンボル(u,v,p,r)をフィードバックして上記の影響成分を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上側波帯が第1シンボルで変調され下側波帯が第2シンボルで変調された複数のサブキャリア信号が直交周波数分割多重化されている無線信号を受信する受信装置及び受信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
OFDM(直交周波数分割多重)方式にSSB(単側波帯)多重化を適用することで、通常のOFDM方式の二倍の伝送容量を実現する技術が検討されている。OFDM方式において、複数のサブキャリア信号のUSB(上側波帯)およびLSB(下側波帯)に異なる情報シンボルで変調されたSSB信号を合成しても、複数のサブキャリア信号の直交性がほぼ維持されたまま、約二倍の伝送容量を実現することができる。
【0003】
このような伝送方法に関連する技術として、非特許文献1には、直交する4つのSSB要素の変調技術について開示されている。また、非特許文献2には、SSB化されたQPSK(四位相偏移変調)信号の復号技術について開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】G.Ohta, M.Nanri, M Uesugi, T.Sato and H.Tominaga, "A Study of New Modulation Method Consisted of Orthogonal Four SSB Elements Having a Common Carrier Frequency", IEEE, The 11th International Symposium on Wireless Personal Multimedia Communications (WPMC), Lapland, Finland, Sep. 2008
【非特許文献2】B.Pitakdumrongkija, et al, "Single sideband QPSK with turbo equalization for mobile communications", IEEE, Vehicular Technology Conference - Spring 2005, pp. 538-542, May 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、OFDM方式にSSB多重化を適用した伝送方式において、各サブキャリア信号のUSB信号とLSB信号とを単純に分離して復調および復号を行った場合、伝送誤り特性が劣化して所望の受信性能が得られないという課題があった。
【0006】
このような伝送誤り特性の劣化は、サブキャリア信号のUSBとLSBとの干渉が原因であると考えられた。この干渉は、変調時のサブキャリア信号のSSB化およびその復調の際にサブキャリア信号に対して行われるヒルベルト変換が、有限の周波数範囲に制限された擬似的な変換であることに起因すると考えられた。
【0007】
本発明の目的は、SSB多重化されたOFDM信号を受信する受信装置又は受信方法において、良好な伝送誤り特性が得られるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る受信装置は、上側波帯と下側波帯とが別の情報シンボルで変調された複数のサブキャリア信号が直交周波数分割多重化されている無線信号を受信する受信装置であって、前記複数のサブキャリア信号を分離する信号分離部と、前記サブキャリア信号を復調して上側波帯の復調データおよび下側波帯の復調データを得る復調部と、前記上側波帯の復調データおよび前記下側波帯の復調データから上側波帯に含まれる下側波帯の情報シンボルに基づく漏れ成分と下側波帯に含まれる上側波帯の情報シンボルに基づく漏れ成分とをそれぞれ除去するフィルタ部と、前記フィルタ部を通過した上側波帯の復調データと下側波帯の復調データとを復号して前記上側波帯に含まれる情報シンボルと前記下側波帯に含まれる情報シンボルとをそれぞれ推定する復号部と、を具備し、前記フィルタ部は、前記復号部により推定された情報シンボルに基づいて前記上側波帯の情報シンボルに基づく漏れ成分と前記下側波帯の情報シンボルに基づく漏れ成分とを生成する構成を採る。
【0009】
本発明の一態様に係る受信方法は、上側波帯と下側波帯とが別の情報シンボルで変調された複数のサブキャリア信号が直交周波数分割多重化されている無線信号を受信する受信方法であって、前記複数のサブキャリア信号を分離する信号分離ステップと、前記サブキャリア信号を復調して上側波帯の復調データおよび下側波帯の復調データを得る復調ステップと、前記上側波帯の復調データおよび前記下側波帯の復調データから上側波帯に含まれる下側波帯の情報シンボルに基づく漏れ成分と下側波帯に含まれる上側波帯の情報シンボルに基づく漏れ成分とをそれぞれ除去するフィルタステップと、前記フィルタステップを通過した上側波帯の復調データと下側波帯の復調データとを復号して前記上側波帯に含まれる情報シンボルと前記下側波帯に含まれる情報シンボルとをそれぞれ推定する復号ステップと、を具備し、前記フィルタステップは、前記復号ステップで推定された情報シンボルに基づいて前記上側波帯の情報シンボルに基づく漏れ成分と前記下側波帯の情報シンボルに基づく漏れ成分とを生成する方法とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、SSB多重化されたOFDM信号を受信する受信装置又は受信方法において、良好な伝送誤り特性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態の受信装置を示すブロック図
【図2】送信装置を示すブロック図
【図3】送信装置の変調部の要部を示す構成図
【図4】受信装置の復調部の要部を示す構成図
【図5】ヒルベルト変換器の詳細を示す構成図
【図6】ヒルベルト変換器の特性を説明する図
【図7】漏れ成分除去フィルタの詳細を示す構成図
【図8】伝送誤り特性のシミュレーション結果を示す特性図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態の受信装置10を示すブロック図、図2は、この受信装置10に対応する送信装置40を示すブロック図である。
【0014】
この実施の形態の受信装置10および送信装置40は、USBとLSBとが異なる情報シンボルでデジタル変調された複数のサブキャリア信号をOFDM方式で送受信するものである。
【0015】
送信装置40は、図2に示すように、送信するデータを入力するデータ入力部46と、入力データを符号化する畳込み符号部45と、符号化されたビット列の並べ替えを行うインタリーバ44とを備えている。また送信装置40は、並べ替えられたビット列をQPSKの複素シンボル列にマッピングするシンボルマッパ43と、マッピングされた複素シンボル列に応じて基底帯域の複数のサブキャリア信号をデジタル変調する4−SSB変調部42と、複数のサブキャリア信号を伝送帯域に変換し且つ直交多重化させて送信するOFDM送信部41などを備えている。
【0016】
データ入力部46、畳込み符号部45、インタリーバ44およびシンボルマッパ43は、SSB多重化のために各サブキャリア信号のUSBとLSBとに対応して2組設けられている。
【0017】
受信装置10は、図1に示すように、OFDM受信部11、4−SSB復調部12、漏れ成分除去フィルタ13、および、復号部21等を備えている。
【0018】
復号部21は、LC MMSEイコライザ(低複雑度−最小平均二乗誤差等化器)14、デインタリーバ16、MAP(Maximum a posteriori probability)復号部17、インタリーバ15、および、出力部18等を備えている。
【0019】
OFDM受信部11は、送信装置40からOFDM信号を受信するとともに、伝送帯域の複数のサブキャリアを分離し、基底帯域へ変換して、4−SSB復調部12へ出力する。
【0020】
4−SSB復調部12は、詳細は後述するが、各サブキャリア信号の復調を行ってサブキャリア信号のUSBとLSBとに含まれる2つのQPSKの情報シンボルを軟判定する。そして、4−SSB復調部12は、軟判定の結果である復調データ(例えば対数尤度比データ)を漏れ成分除去フィルタ13へ出力する。
【0021】
漏れ成分除去フィルタ13は、詳細は後述するが、2つの情報シンボルの尤度を表わす復調データから、サブキャリア信号のUSBとLSBとの干渉成分(互いの漏れ成分)を除去する。そして、漏れ成分除去フィルタ13は、除去後の復調データを復号部21へ出力する。この干渉成分は、復調データから復号部21が推定した情報シンボルに基づき算出される。そのため、漏れ成分除去フィルタ13の干渉成分の除去処理と、復号部21の復号処理とは、再帰的に繰り返し行われることで、上記の干渉成分の除去が正常に行われるようになっている。
【0022】
復号部21は、漏れ成分除去フィルタ13から順次入力される復調データ列に基づいて各復調データの硬判定を行って情報シンボルを復号する。
【0023】
LC MMSEイコライザ14は、復号結果から求められる復調データの推定値と、復調データの出力との平均二乗誤差が最小になるように、入力される復調データ列に対して等化処理を行う。そして、LC MMSEイコライザ14は、等化処理後の復調データ列をデインタリーバ16へ出力する。
【0024】
デインタリーバ16は、畳込み符号化されている情報シンボル列の復号のために復調データ列の並べ戻しを行った後、この復調データ列をMAP復号部17へ出力する。
【0025】
MAP復号部17は、再帰的アルゴリズムにより、符号化されている情報シンボル列と復調データ列の判定値とが高い確率で一致するように各復調データの判定を行う。そして、MAP復号部17は、各復調データの判定結果を出力部18とインタリーバ15とへ出力する。
【0026】
インタリーバ15は、上記の等化処理のために復号された情報シンボル列を並べ替えてMMSEイコライザ14へ戻す。
【0027】
LC MMSEイコライザ14とMAP復号部17とは、一連の復調データ列に対して等化処理と復号処理とを再帰的に繰り返すことで、復号の特性を向上させる。
【0028】
出力部18は、復号データを外部へ出力するとともに、硬判定された情報シンボル(u,v,p,r)を漏れ成分除去フィルタ13へフィードバックする。
【0029】
図3は、送信装置の4−SSB変調部の要部を表わした構成図である。
【0030】
送信装置40の4−SSB変調部42は、2つの情報シンボル(d1=u+jv,d2=p+jr(ここで、u、v、p、rは情報ビット))をそれぞれデジタル変調(例えばQPSK変調)する複数の変調部(図3では省略)と、変調された信号を加減算する複数の加算器2と、変調された信号に対してサブキャリア信号の基底帯域の周波数を中心周波数としたヒルベルト変換を行う複数のヒルベルト変換器F1とを有する。
【0031】
図3において、「u」と「p」は、上記の情報シンボルd1,d2によりそれぞれデジタル変調された2つの変調信号の各同相成分、「v」と「p」は、これら2つの変調信号の各直交位相成分を表わしている。
【0032】
この4−SSB変調部42の出力は、上記複数の加算器2および複数のヒルベルト変換器F1により、次式1に示す4−SSB同相信号(S4SSB,I)と4−SSB直交位相信号(S4SSB,Q)となる。
【数1】

【0033】
ここで、Htrun(x)は変調信号xに対するヒルベルト変換器F1による変換後の信号を表わす。
【0034】
図4は、受信装置の4−SSB復調部の要部を表わした構成図である。
【0035】
受信装置10の4−SSB復調部12は、図4に示すように、OFDM受信部11により分離及び抽出された基底帯域のサブキャリア信号に対して、このサブキャリアの周波数を中心としたヒルベルト変換を行う複数のヒルベルト変換器F2と、上記サブキャリア信号の加減算を行う加算器2と、これらのヒルベルト変換および加減算後の信号に対してそれぞれ検波を行って軟判定された復調データ(d11,d12,d21,d22)を出力する複数の検波器4を備えている。
【0036】
この4−SSB復調部12により得られる4つの復調データ(d11,d12,d21,d22)は、雑音および伝送路の歪みがなければ、次式2の値となる。
【数2】

【0037】
図5は、ヒルベルト変換器の詳細を示す構成図、図6は、ヒルベルト変換器の特性を説明する図である。
【0038】
送信装置40の4−SSB変調部42に備わるヒルベルト変換器F1と、受信装置10の4−SSB復調部12に備わるヒルベルト変換器F2とは、図5に示すように、タップ数が「N+1」のFIR(Finite Impulse Response Filter)フィルタから構成される。すなわち、ヒルベルト変換器F1,F2は、信号を一定の遅延で順次伝送する複数の遅延ブロックdn-N/2−dn+N/2と、これらの複数の遅延ブロックdn-N/2−dn+N/2にそれぞれ対応した複数の乗算器3と、複数の乗算器3の出力をそれぞれ加算する複数の加算器2等を有している。
【0039】
このような構成により、複数の遅延ブロックdn-N/2−dn+N/2に信号が伝送されると、各遅延ブロックdn-N/2−dn+N/2は信号振幅に応じた信号を対応する乗算器3へ出力し、複数の乗算器3によりこの信号に各遅延ブロックdn-N/2−dn+N/2に対応した係数h-N/2−h+N/2が乗算される。そして、この乗算後の信号が複数の加算器2で加算されて出力される。各乗算器3で乗算される係数h-N/2−h+N/2には、図6の信号応答図に示されるように周知のヒルベルト変換器と同様の値が採用されている。図6の信号応答図はヒルベルト変換器にパルス信号を入力したときの応答出力を表わしている。
【0040】
ヒルベルト変換器F1,F2は、入力信号に対して、インパルス応答時間が有限に切り詰められた擬似的なヒルベルト変換(Truncated Hilbert Transform)を行うものである。すなわち、ヒルベルト変換器F1,F2のタップ数は有限個であり、タップの係数列H=(h-N/2,・・・,h+N/2)は、図6に示すように、インパルス応答時間の有限の範囲に対応するものである。言い換えれば、ヒルベルト変換器F1,F2は、周波数範囲が有限のヒルベルト変換を行うものであり、完全なヒルベルト変換を行うものでない。
【0041】
なお、図6において、係数列「H+H」の範囲がインパルス応答時間の無限の範囲を表わしている。ここで、係数列Hは、図6の左右の波括弧の範囲の各タップ係数を含み、係数列Hに対応する中央の範囲の係数をゼロとした係数列である。また、係数列Hは、図6の左右の波括弧の範囲が無限長の係数列を表わしている。完全なヒルベルト変換器は、このような無限の範囲に渡るタップ数および係数列を有するFIRフィルタにより実現される。また、図6において、係数列「H=H+H」の範囲は、ヒルベルト変換器F1,F2より大きなインパルス応答時間の有限の範囲を表わしている。このように有限であるが広い範囲に渡るタップ数および係数列を有するFIRフィルタは、完全なヒルベルト変換に近似する変換を行うものである。FIRフィルタのインパルス応答時間を長くすると、変換時間の遅延が大きくなり、前後のシンボル間干渉を生じさせる。従って、ヒルベルト変換器F1,F2のインパルス応答時間の大きさには制限が生じる。
【0042】
ヒルベルト変換器F1,F2は、上述のようにインパルス応答時間が有限のヒルベルト変換器であるため、次式3に示すように、或る信号(例えば、u,v,p,r)に対してヒルベルト変換を2回行っても元の信号(符号が逆転した元の信号)に戻らない。そして、変換前と変換後の信号に僅かな差が生じる。
【数3】

【0043】
一方、式2に示した4つの復調データ(d11,d12,d21,d22)は、ヒルベルト変換Htrun(x)が、理想的なヒルベルト変換H(x)であれば、次式4のような結果になる。式4において「u,v,p,r」は、変調信号u,v,p,rの検波値を同一記号で表わしている。ハット記号はヒルベルト変換後の信号の検波値を示している。
【数4】

【0044】
しかしながら、インパルス応答時間が有限のヒルベルト変換器F1,F2を用いているため、式2に示した4つの復調データ(d11,d12,d21,d22)は次式5のような結果になる。すなわち、復調データには、サブキャリア信号のUSBとLSBとの干渉成分(USBからLSBへの漏れ成分およびLSBからUSBへの漏れ成分)に相当する関数Gの成分が含まれる。なお、式5の右辺は信号の検波値を表わしている。
【数5】

【0045】
従って、上述した漏れ成分除去フィルタ13は、上記の4つの復調データ(d11,d12,d21,d22)から関数Gの成分を除去する。
【0046】
図7は、漏れ成分除去フィルタの詳細を示す構成図である。
【0047】
漏れ成分除去フィルタ13は、出力部18から硬判定されたビットデータ(u,v,p,r)を入力するバッファ131と、ビットデータを引数として関数Gの値を算出するG演算部132と、4−SSB復調部12から入力される復調データd1,d2を入力するバッファ133と、復調データd1,d2からG演算部132により変換された値を加減算する加減算器134等を備えている。なお、出力部18からバッファ131へフィードバックされるデータは軟判定データとしても良い。
【0048】
G演算部132は、次のようにして、フィードバックされたビットデータ(u,v,p,r)に基づいて式5の関数Gに係る成分を求める。ここで、式7に示すように、ヒルベルト変換の行列表記を導入する。ヒルベルト変換器F1,F2による変換は、式7に示すように、そのタップ係数列(h-N/2,・・・,h+N/2)に基づき決定される行列Hによって表わすことができる。ここで、「x」は、信号xの値を時系列に各要素に並べたベクトルを示す。
【0049】
【数6】

【0050】
インパルス応答時間が有限長のヒルベルト変換器F1,F2の変換行列Hは、式8に示すように、理想的なヒルベルト変換の変換行列Hから、図6に示した左右の無限長の範囲のタップ係数により決定されるFIRフィルタの変換行列Hを減算した値となる。
【0051】
従って、関数Gによる変換は、式9に示すように、行列表記により表わすことができる。
【数7】

【0052】
ここで、理想的なヒルベルト変換に近似するFIRフィルタを導入する。すなわち、上記のヒルベルト変換器F1,F2よりもタップ数を増大させたFIRフィルタを導入し、その変換行列をHとする。また、理想的なヒルベルト変換に近似するFIRフィルタにおいて、ヒルベルト変換器F1,F2の変換行列Hに対応する範囲のタップ係数をゼロにしたFIRフィルタの変換行列をHとする。すると、式9に現れる変換行列H,Hは、式10に示すように、上記変換行列H,Hによって近似的に表わされる。
【数8】

【0053】
それにより、関数Gによる変換は、上記の変換行列H,Hを用いて、式11のように近似的に表わすことができる。
【数9】

【0054】
漏れ成分除去フィルタ13のG演算部132は、フィードバックされる復号ビット(u,v,p,r)に基づき、この復号ビットを引数とした関数Gの値を演算により求める。詳細には、上記復号ビットの情報シンボルによって変調された基底帯域のサブキャリア信号を想定し、このサブキャリア信号を関数Gにより変換し、この変換後の信号を復調して得られるデータ値を、G演算部132は算出する。
【0055】
なお、復号ビットを引数とした関数Gの値は復号ビットの値に応じて一律に決定される。それゆえ、漏れ成分除去フィルタ13は、復号ビットの値ごとの関数Gの正確な値を保持しておき、復号ビットの値に応じて保持している値を抽出することで、関数Gの値を求めることができる。また、漏れ成分除去フィルタ13は、式11の行列演算を実際に行って、関数Gの値を求めることもできる。或いは、漏れ成分除去フィルタ13は、変換行列Hに対応するヒルベルト変換器と、変換行列Hに対応するFIRフィルタとを内蔵し、これらを使用して関数Gの値を求めることもできる。この場合、漏れ成分除去フィルタ13は、フィードバックされる復号ビットを基底帯域のサブキャリアの周波数信号に変換し、この周波数信号をヒルベルト変換器とFIRフィルタに通した後に復調処理を行って関数Gの値を求めることができる。
【0056】
漏れ成分除去フィルタ13は、上記のように算出された関数値(G(u),G(v),G(p),G(r))に基づき、軟判定された復調データ(d11,d12,d21,d22)から、上述したサブキャリア信号のUSBとLSBとの干渉成分(関数Gを含む項)を除去する。そして、漏れ成分除去フィルタ13は、この干渉成分を除去した復調データを復号部21へ出力する。このような漏れ成分除去フィルタ13の干渉成分の除去処理と、復号部21の復号処理とは、データをバッファ131,133で一時的に蓄積することで再帰的に繰り返し行われる。それにより、復号部21は、より正確な情報ビットの復号を行うことが可能となる。
【0057】
図8は、伝送誤り特性のシミュレーション結果を示す特性図である。この図は、加法性ホワイトガウスノイズ (AWGN: additive white Gaussian noise)によりビット当たりの雑音比(Eb/No:ビットエネルギー対雑音電力密度比)を変化させたときの受信装置10により受信されたデータのビットエラー率(BER)を表わしている。また、この図は、伝送データがターボ符号化されて伝送されるとともに受信装置10において5回の繰り返し復号によって復号された場合を表わしている。
【0058】
図8に示すように、この実施の形態の受信装置10によれば、各サブキャリア信号のUSBとLSBとにそれぞれQPSK変調を行ったOFDM方式の伝送(図8で「4SSB」により表わす)であっても十分な無線伝送性能が得られる。
【0059】
以上、本発明の実施の形態について説明した。
【0060】
なお、上記実施の形態では、上側波帯に含まれる下側波帯の情報シンボルに基づく漏れ成分と、下側波帯に含まれる上側波帯の情報シンボルに基づく漏れ成分とに対して、それぞれ対等独立に推定する復号ステップと除去するフィルタステップを設けたが、構成の一部を共通利用すること、ならびに上側波帯もしくは下側波帯の一方のみに対応する構成として、これにより抽出された側波帯の情報シンボルを用いて残された側波帯の情報シンボルを抽出することも容易に可能である。また、伝送データの符号および復号に畳込み符号およびMAP復号を適用した例を示したが、これらに制限されず、様々な誤り訂正符号および復号を適用することができる。また、変復調方式も、QPSK変復調に限られず、様々なデジタル変復調の方式を適用することができる。
【0061】
また、上記実施の形態では、本発明をハードウェアで構成する場合を例にとって説明したが、本発明はハードウェアとの連携においてソフトウェアで実現することも可能である。また、上記実施の形態の説明に用いた各機能ブロックは、典型的には集積回路であるLSIとして実現される。これらは個別に1チップ化されてもよいし、一部又は全てを含むように1チップ化されてもよい。ここでは、LSIとしたが、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。また、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路又は汎用プロセッサで実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)または、LSI内部の回路セルの接続および設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサを利用してもよい。さらには、半導体技術の進歩又は派生する別技術によりLSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックの集積化を行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、デジタル放送システムまたは移動通信システムに有用である。
【符号の説明】
【0063】
10 受信装置
11 OFDM受信部
12 4−SSB復調部
13 漏れ成分除去フィルタ
21 復号部
F1,F2 ヒルベルト変換器
40 送信装置
41 OFDM送信部
42 4−SSB変調部
45 畳込み符号部




【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側波帯と下側波帯とが別の情報シンボルで変調された複数のサブキャリア信号が直交周波数分割多重化されている無線信号を受信する受信装置であって、
前記複数のサブキャリア信号を分離する信号分離部と、
前記サブキャリア信号を復調して上側波帯の復調データおよび下側波帯の復調データを得る復調部と、
前記上側波帯の復調データおよび前記下側波帯の復調データから上側波帯に含まれる下側波帯の情報シンボルに基づく漏れ成分と下側波帯に含まれる上側波帯の情報シンボルに基づく漏れ成分とをそれぞれ除去するフィルタ部と、
前記フィルタ部を通過した上側波帯の復調データと下側波帯の復調データとを復号して前記上側波帯に含まれる情報シンボルと前記下側波帯に含まれる情報シンボルとをそれぞれ推定する復号部と、
を具備し、
前記フィルタ部は、前記復号部により推定された情報シンボルに基づいて前記上側波帯の情報シンボルに基づく漏れ成分と前記下側波帯の情報シンボルに基づく漏れ成分とを生成する
受信装置。
【請求項2】
前記フィルタ部は、変調時および復調時に前記サブキャリア信号に対して行われるインパルス応答が有限のヒルベルト変換に基づいて発生する前記漏れ成分を除去する
請求項1記載の受信装置。
【請求項3】
前記無線信号の前記複数のサブキャリア信号は、単側波帯化のためにインパルス応答が有限の第1のヒルベルト変換を含む処理を介してそれぞれ作成され、
前記復調部は、前記サブキャリア信号に対してインパルス応答が有限の第2のヒルベルト変換を含む処理を行って単側波帯化された変調信号の復調を行い、
前記フィルタ部は、前記復号部により推定され情報シンボルに対して、前記第1および前記第2のヒルベルト変換よりもインパルス応答の時間長が大きなヒルベルト変換に相当する変換処理を行って、前記漏れ成分を生成する
請求項2記載の受信装置。
【請求項4】
前記フィルタ部のフィルタ処理と前記復号部の復号処理とが再帰的に行われる
請求項1記載の受信装置。
【請求項5】
上側波帯と下側波帯とが別の情報シンボルで変調された複数のサブキャリア信号が直交周波数分割多重化されている無線信号を受信する受信方法であって、
前記複数のサブキャリア信号を分離する信号分離ステップと、
前記サブキャリア信号を復調して上側波帯の復調データおよび下側波帯の復調データを得る復調ステップと、
前記上側波帯の復調データおよび前記下側波帯の復調データから上側波帯に含まれる下側波帯の情報シンボルに基づく漏れ成分と下側波帯に含まれる上側波帯の情報シンボルに基づく漏れ成分とをそれぞれ除去するフィルタステップと、
前記フィルタステップを通過した上側波帯の復調データと下側波帯の復調データとを復号して前記上側波帯に含まれる情報シンボルと前記下側波帯に含まれる情報シンボルとをそれぞれ推定する復号ステップと、
を具備し、
前記フィルタステップは、前記復号ステップで推定された情報シンボルに基づいて前記上側波帯の情報シンボルに基づく漏れ成分と前記下側波帯の情報シンボルに基づく漏れ成分とを生成する
受信方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−90043(P2013−90043A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226845(P2011−226845)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)