受信装置
【課題】複数の送受信アンテナを用いるMIMO無線通信において、通信の品質を劣化させるISI及びIAIの除去能力を高めることにより、高信頼な受信結果が得られる受信装置を提供する。
【解決手段】LDPC復号器21の復号結果をMIMO−MLSE等化器32にフィードバックし、MIMO−MLSE等化器32でISI及びIAIの除去を行う。その結果をLDPC復号器34で復号する。再びLDPC復号器34の復号結果をMIMO−MLSE等化器32にフィードバックしてISI及びIAIの除去を行う。これを繰り返して行う。
【解決手段】LDPC復号器21の復号結果をMIMO−MLSE等化器32にフィードバックし、MIMO−MLSE等化器32でISI及びIAIの除去を行う。その結果をLDPC復号器34で復号する。再びLDPC復号器34の復号結果をMIMO−MLSE等化器32にフィードバックしてISI及びIAIの除去を行う。これを繰り返して行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディジタル無線通信方式における等化及び信号分離方式の受信装置に関するものである。特に、時間領域等化器において、周波数選択性通信路に於けるマルチ入力、マルチ出力(Multiple-Input Multiple-Output, MIMO、以下「MIMO」という。)システムにおいて優れたビット誤り率特性を実現させる受信装置を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
第1の従来技術としてVitebi Algorithmを用いた最尤系列推定(MLSE : Maximum Likelihood Sequence Estimation)等化方式がある。最尤系列推定とは“送信信号系列から最も尤もらしい送信信号系列”を推定する方式であり、周波数選択性通信路に於いて受信機で行う等化処理方式の中で最適である。
【0003】
従来技術としてMIMO通信路に於ける等化手法にSC/MMSE(Soft Canceller with MMSE filter)等化方式がある(特許文献1)。復号器からフィードバックされる復号結果をもとにISI(Inter-Symbol Interference)及びIAI(Inter-Antenna Interference)を受信信号から除去し、MMSEフィルタに入力することによって信号の検出を行う手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許公開2010−233212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
MIMO無線通信において、通信品質を大きく劣化させる原因はISI及びIAIである。ISI及びIAIの除去性能を高めることにより受信通信品質の向上を図る。しかし、特許文献1の技術においては、初回はLDPC復号器の軟値出力が無いため、SC/MMSE等化器72でISIとIAIのソフトキャンセルを行うことができないという問題があった。
また、Viterbi Algorithm(VA)を用いたMLSE等化では、軟値の出力を行えないため、このままでは受信信号に関する情報量が減少して復号器からの正確な復号結果が得られない。
また、MLSE等化ではバースト誤りが発生しやすいため、誤りを拡散させるインターリーバが必要である。
【0006】
本発明は、斯かる実情に鑑み、複数の送受信アンテナを用いるMIMO無線通信において、通信の品質を劣化させるISI及びIAIの除去能力を高めることにより、高信頼な受信結果が得られる受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、MIMO無線通信路において通信を行う受信装置であって、
遅延波による符号間干渉及びアンテナ間干渉を最尤系列推定によって除去するMLSE等化部と、前記MLSE等化部の出力をLDPC復号するLDPC復号部と、を備え、
前記MLSE等化部は、前記LDPC復号部の復号結果を用いて前記符号間干渉及び前記アンテナ間干渉を除去することを特徴とする。
【0008】
前記MLSE等化部は、トレリス線図の双方向からパスメトリックを計算するBi−directional SOVA(Soft Output Viterbi Algorithm)を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、MIMO無線通信において、LDPC復号器の復号結果をMLSE等化器にフィードバックし、復号器の復号結果をMLSE等化器のブランチメトリックの計算の際に用いる送信信号の事前確率へ入力して、これを繰り返すことによって、ISI及びIAIの除去能力を高め、高信頼度の受信結果が得られる。
【0010】
また、本発明によれば、軟値を出力できるSOVAを採用したMLSE等化器を用いるので、受信信号に関する情報量を減少させることなく復号器に入力を受け渡せることができる。
【0011】
また、本発明によれば、LDPC符号化を用いることによりインターリーバが不要になり、簡易な構造にできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】LDPC符号化MLSEターボ等化器の送受信機の構成を示すブロック図である。
【図2】送受信アンテナ数2×2で通信路遅延パス数2である通信路に於けるBPSK変調を用いた場合のトレリス線図を示す図である。
【図3】従来のLDPC符号化SC/MMSEターボ等化器の送受信器の構成を示すブロック図である。
【図4】送受信アンテナ数2×2の3遅延パス静的等電力フェージング通信路に於けるMIMO−MLSEターボ等化器とMIMO−SC/MMSEターボ等化器のBPSK変調を用いた場合において、BER特性のフィードバックによる改善を示す図である。
【図5】送受信アンテナ数2×2の3遅延パス静的等電力フェージング通信路に於けるMIMO−MLSEターボ等化器とMIMO−SC/MMSEターボ等化器のQPSK変調を用いた場合において、BER特性のフィードバックによる改善を示す図である。
【図6】送受信アンテナ数2×2の静的等電力フェージング通信路に於けるMIMO−MLSEターボ等化器とMIMO−SC/MMSEターボ等化器の遅延パス数の増加によるBER特性を示す図である。
【図7】3遅延パス静的等電力フェージング通信路に於けるMIMO−MLSEターボ等化器とSC/MMSEターボ等化器の送受信アンテナ数の増加に伴うBER特性の変化を示す図である。
【図8】3遅延パス準静的等電力レイリーフェージング通信路に於けるMIMO−MLSEターボ等化器とSC/MMSEターボ等化器の送受信アンテナ数の増加に伴うBER特性の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0014】
まず本発明(LDPC符号化MLSEターボ等化器)の概略を、図1を用いて説明する。図1は、MIMO通信路におけるLDPC符号化MLSEターボ等化器の送受信機の構成を示すブロック図である。この送受信機10は、送信機20と受信機30から構成される。
【0015】
送信機20は、LDPC符号器21、S/P変換器22、QAM変調器23−1,23−2、送信アンテナ24−1,24−2を備える。送信機20では、LDPC符号器21によりLDPC符号化された情報ビット系列を、S/P変換器22により直列並列変換してからQAM変調器23−1,23−2によりQAM変調して送信シンボルとし、各送信アンテナ24−1,24−2から送信する。
【0016】
受信機30は、受信アンテナ31−1,31−2、MIMO−MLSE等化器32、P/S変換器33、LDPC復号器34を備える。受信機30では、MIMO−MLSE等化器32により、ISIとIAIを補償し、復調QAM信号からBit LLRを得て、P/S変換器33により並列直列変換してからLDPC復号器34に入力する。LDPC復号器34から出力されたBit LLRを帰還してMIMO−MLSE等化器32に入力し、Bit LLRを考慮して再びISIとIAIの補償を行う。LDPC復号器34は、MIMO−MLSE等化器32の出力を再びLDPC復号する。これを繰り返すことによってBER特性が改善される。
【0017】
送信アンテナ数をnT、受信アンテナ数をnRとする。各送信受信アンテナ間の通信路は、1シンボル時間Ts毎の遅延のタップ付き遅延線モデルで表せる。通信路の遅延マルチパス波数をLとする。また、説明を簡単にするためにBPSK変調を用いた場合の説明を行う。
【0018】
時刻tの送信アンテナiからの送信シンボルをxti、送信アンテナiから受信アンテナjへのl番目の遅延パスの複素利得をhl(i)(j)(i=1,…,nT,j=1,…,nR)とすると、時刻tの受信アンテナjの受信信号ytjは式(1)で表せる。
【0019】
【数1】
【0020】
このとき、図2に示すように、各時刻の状態数が2nT(L−1)で、ブランチの本数が2nTLであるトレリス線図が描ける。状態S=(i,j)は送信アンテナ1において情報i、送信アンテナ2において情報jを送信したことを表す。i,jは0あるいは1である。このトレリス線図からViterbiアルゴリズムを用いて、送信信号系列を最尤系列推定(MLSE)することができる。但しViterbi等化器の出力は軟値であるBit LLRで行う。このためBi−directional SOVA (Soft Output Viterbi Algorithm)を用いる。
【0021】
図2において、時刻tと時刻t+1の各状態を結ぶブランチは、それぞれブランチメトリック値を持っている。ブランチメトリック値の計算式を式(2)に示す。
【0022】
【数2】
【0023】
式(2)のlnPr(xti)は、LDPC復号器34から帰還され入力されるBit LLR値Λ(xti)を元に式(3)を用いて計算することができる。
【0024】
【数3】
【0025】
次に式(4)を用いてパスメトリックμt(st)の計算を行う。図2のように時刻tのある状態に一つ前の時刻t−1の状態から伸びる複数本のブランチが繋がっている。一つ前の時刻の状態st−1がもつパスメトリックμt−1(st−1)に、繋がっているブランチのブランチメトリックを加算し、時刻tにおけるパスメトリックμt(st−1→st)とする。時刻tの状態stに繋がるパスの中から最小のパスメトリックを持つものをサバイバルパスとして残す。
【0026】
【数4】
【0027】
このパスメトリックの計算を前方向(t:0→n)、後方向(t:n→0)、それぞれの方向から行う。前方向から計算を行ったパスメトリックをμtf、後方向から計算したパスメトリックをμtbとする。
【0028】
時刻tの状態毎に前方向のパスメトリックμtfと後方向からのパスメトリックμtbを加算したμtを求める。時刻tにおいてμtが最小となるものをμtminとする。
【0029】
また、時刻tにおいて最小のパスメトリックμtminを持つパスの時刻tの送信信号と競合する最小のパスメトリックμtcを探す。μtcは、時刻t−1から時刻tへ遷移するブランチの中で推定シンボルと異なるシンボルが割り当てられたブランチの中から選び、式(5)の値とする。
【0030】
【数5】
【0031】
ここで、Bit LLRの計算を行う。長さτの受信信号系列Yτを受信したとき、送信信号系列Xτを送った確率は式(6)になる。
【0032】
【数6】
【0033】
受信雑音は白色ガウス雑音であるので送信信号系列Xτを送信した場合の受信信号系列Yτの発生確率は式(7)で与えられる。
【0034】
【数7】
【0035】
式(7)の両辺の対数をとると式(8)になる。
【0036】
【数8】
【0037】
xtiのBit LLRは式(9)で表せる。
【数9】
【0038】
次に、比較対象である従来のLDPC符号化SC/MMSEターボ等化器の概略を、図3を用いて説明する。図3にLDPC符号化MIMO−SC/MMSEターボ等化器の送受信機の構成を示す。この送受信機50は、送信機60と受信機70とから構成される。
【0039】
送信機60は、LDPC符号器61、S/P変換器62、QAM変調器63−1,63−2、送信アンテナ64−1,64−2を備え、図1のLDPC符号化MIMO−MLSE等化器である送信機20と同じ構成である。したがって、詳しい説明は省略する。
【0040】
受信機70は、受信アンテナ71−1,71−2、MIMO−SC/MMSE等化器72、P/S変換器73、LDPC復号器74を備える。受信機70では、MIMO−SC/MLSE等化器72により、ISIとIAIを補償し、復調QAM信号からBit LLRを得て、P/S変換器73により並列直列変換してからLDPC復号器74に入力する。LDPC復号器74から出力されたBit LLRを帰還してMIMO−SC/MLSE等化器72に入力し、Bit LLRを考慮して再びISIとIAIの補償を行う。LDPC復号器74は、MIMO−SC/MLSE等化器72の出力を再びLDPC復号する。LDPC復号器74から帰還された軟値Bit LLRをSC/MMSE等化器72に入力し、ISIとIAIの干渉成分をソフトキャンセルする。その後、MMSEフィルタを通すことによって、等価的なAWGN通信路を得て、Bit LLRを出力する。
【0041】
しかし、初回はLDPC復号器74の軟値出力が無いため、SC/MMSE等化器72でISIとIAIのソフトキャンセルを行うことができない。そこでLDPC復号器74からの帰還入力が無いときは、その入力Bit LLR値を0としてSC/MMSE等化器72の等化処理を行う。その後、SC/MMSE等化器72の判定結果を用いてISI及びIAIのソフトキャンセルを逐次行っていく。
【0042】
以下、本発明に係る送受信機(図1の送受信機10)の特性について説明する。
本発明の特性を説明するにあたり、既存方式であるLDPC符号化SC/MMSEターボ等化方式(図3の送受信機50)を比較対象とする。本発明、比較方式ともにLDPC符号は符号化率R=0.5を用いている。
【0043】
本発明、比較方式ともに、各送信・受信アンテナ間の通信路は、各通信路の位相は0〜2πの間で一様分布する等電力の3パス周波数選択性静的通信路とする。また通信路のチャネル推定は受信側で完全であるということを前提としている。
本発明、比較方式ともに、変調方式はBPSK変調、QPSK変調の2通りの場合を示す。
【0044】
変調方式がBPSK変調の場合の本発明と比較方式の計算機シミュレーションによるBER特性を図4に、変調方式がQPSK変調の場合のBER特性を図5に示す。なお、以降の図(図4〜図8)において、#NはN回フィードバックしたことを表す。
【0045】
図4、図5より軟値フィードバックを行う毎にBER特性が改善されている様子が確認できる。軟値フィードバック3回において、本発明は、BPSK変調では、SC/MMSE等化器に比べ、BER=10−3で約0.5dB、QPSK変調では約1.0dB改善されている。SC/MMSE等化器では軟値フィードバック1回で大きくBER特性が改善される。これはフィードバック0回に於いてはLDPC復号器からSC/MMSE等化器にBit LLRが入力されないため、干渉除去に用いるソフトレプリカを生成できないのでBER特性が悪くなるが、フィードバック1回ではソフトレプリカを生成できる為、BER特性が大きく改善されることによる。
【0046】
図4、図5より、フィードバック回数は3回でBER特性がほぼ収束するため、以降の計算機シミュレーションではフィードバック回数は3回で行う。
【0047】
図6にQPSK変調での通信路遅延パス数の増加に伴うBER特性の変化を示す。通信路遅延パス数は2及び3ある。
【0048】
図6より本発明と比較方式は共に、通信路遅延パスの多い方が、パスダイバーシチの効果でBER特性が改善される。
【0049】
図7、図8に本発明と比較方式のBPSK変調での送受信アンテナ数の増加に伴うBER特性の変化を示す。図7は等電力の3パス静的通信路、図8は等電力の3パス準静的レイリーフェージング通信路におけるBER特性である。
【0050】
図7,8より、送受信アンテナ数が増加に対し、MLSE等化器及びSC/MMSE等化器共にBER特性が改善される。これは両方式共に、空間ダイバーシチの効果によりBER特性が改善されるからと考えられる。また、図7の静的3パス通信路では、SC/MMSE等化器に対するMLSE等化器の改善度は、1×1,2×2,4×4の順で大きい。しかし4×4ではこの差は非常に小さい。さらに、図8の3パス準静的Rayleighフェージング通信路では、SC/MMSE等化器に対するMLSE等化器の改善度は、1×1の場合は小さいが、2×2、4×4の場合は大きな改善が得られている。
【0051】
以上、この発明の実施の形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等された発明も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
ディジタル無線通信方式における等化器に関する発明である。特に、LDPC符号化MIMO−MLSEターボ等化器は優れたISI及びIAIの除去性能をもつため、優れたビット誤り率特性を実現させるディジタル無線通信方式として利用可能性がある。
【符号の説明】
【0053】
10 送受信機
20 送信機
21 LDPC符号器
22 S/P変換器22
23−1,23−2 QAM変調器
24−1,24−2 送信アンテナ
30 受信機
31−1,31−2 受信アンテナ
32 MIMO−MLSE等化器
33 P/S変換器
34 LDPC復号器
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディジタル無線通信方式における等化及び信号分離方式の受信装置に関するものである。特に、時間領域等化器において、周波数選択性通信路に於けるマルチ入力、マルチ出力(Multiple-Input Multiple-Output, MIMO、以下「MIMO」という。)システムにおいて優れたビット誤り率特性を実現させる受信装置を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
第1の従来技術としてVitebi Algorithmを用いた最尤系列推定(MLSE : Maximum Likelihood Sequence Estimation)等化方式がある。最尤系列推定とは“送信信号系列から最も尤もらしい送信信号系列”を推定する方式であり、周波数選択性通信路に於いて受信機で行う等化処理方式の中で最適である。
【0003】
従来技術としてMIMO通信路に於ける等化手法にSC/MMSE(Soft Canceller with MMSE filter)等化方式がある(特許文献1)。復号器からフィードバックされる復号結果をもとにISI(Inter-Symbol Interference)及びIAI(Inter-Antenna Interference)を受信信号から除去し、MMSEフィルタに入力することによって信号の検出を行う手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許公開2010−233212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
MIMO無線通信において、通信品質を大きく劣化させる原因はISI及びIAIである。ISI及びIAIの除去性能を高めることにより受信通信品質の向上を図る。しかし、特許文献1の技術においては、初回はLDPC復号器の軟値出力が無いため、SC/MMSE等化器72でISIとIAIのソフトキャンセルを行うことができないという問題があった。
また、Viterbi Algorithm(VA)を用いたMLSE等化では、軟値の出力を行えないため、このままでは受信信号に関する情報量が減少して復号器からの正確な復号結果が得られない。
また、MLSE等化ではバースト誤りが発生しやすいため、誤りを拡散させるインターリーバが必要である。
【0006】
本発明は、斯かる実情に鑑み、複数の送受信アンテナを用いるMIMO無線通信において、通信の品質を劣化させるISI及びIAIの除去能力を高めることにより、高信頼な受信結果が得られる受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、MIMO無線通信路において通信を行う受信装置であって、
遅延波による符号間干渉及びアンテナ間干渉を最尤系列推定によって除去するMLSE等化部と、前記MLSE等化部の出力をLDPC復号するLDPC復号部と、を備え、
前記MLSE等化部は、前記LDPC復号部の復号結果を用いて前記符号間干渉及び前記アンテナ間干渉を除去することを特徴とする。
【0008】
前記MLSE等化部は、トレリス線図の双方向からパスメトリックを計算するBi−directional SOVA(Soft Output Viterbi Algorithm)を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、MIMO無線通信において、LDPC復号器の復号結果をMLSE等化器にフィードバックし、復号器の復号結果をMLSE等化器のブランチメトリックの計算の際に用いる送信信号の事前確率へ入力して、これを繰り返すことによって、ISI及びIAIの除去能力を高め、高信頼度の受信結果が得られる。
【0010】
また、本発明によれば、軟値を出力できるSOVAを採用したMLSE等化器を用いるので、受信信号に関する情報量を減少させることなく復号器に入力を受け渡せることができる。
【0011】
また、本発明によれば、LDPC符号化を用いることによりインターリーバが不要になり、簡易な構造にできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】LDPC符号化MLSEターボ等化器の送受信機の構成を示すブロック図である。
【図2】送受信アンテナ数2×2で通信路遅延パス数2である通信路に於けるBPSK変調を用いた場合のトレリス線図を示す図である。
【図3】従来のLDPC符号化SC/MMSEターボ等化器の送受信器の構成を示すブロック図である。
【図4】送受信アンテナ数2×2の3遅延パス静的等電力フェージング通信路に於けるMIMO−MLSEターボ等化器とMIMO−SC/MMSEターボ等化器のBPSK変調を用いた場合において、BER特性のフィードバックによる改善を示す図である。
【図5】送受信アンテナ数2×2の3遅延パス静的等電力フェージング通信路に於けるMIMO−MLSEターボ等化器とMIMO−SC/MMSEターボ等化器のQPSK変調を用いた場合において、BER特性のフィードバックによる改善を示す図である。
【図6】送受信アンテナ数2×2の静的等電力フェージング通信路に於けるMIMO−MLSEターボ等化器とMIMO−SC/MMSEターボ等化器の遅延パス数の増加によるBER特性を示す図である。
【図7】3遅延パス静的等電力フェージング通信路に於けるMIMO−MLSEターボ等化器とSC/MMSEターボ等化器の送受信アンテナ数の増加に伴うBER特性の変化を示す図である。
【図8】3遅延パス準静的等電力レイリーフェージング通信路に於けるMIMO−MLSEターボ等化器とSC/MMSEターボ等化器の送受信アンテナ数の増加に伴うBER特性の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0014】
まず本発明(LDPC符号化MLSEターボ等化器)の概略を、図1を用いて説明する。図1は、MIMO通信路におけるLDPC符号化MLSEターボ等化器の送受信機の構成を示すブロック図である。この送受信機10は、送信機20と受信機30から構成される。
【0015】
送信機20は、LDPC符号器21、S/P変換器22、QAM変調器23−1,23−2、送信アンテナ24−1,24−2を備える。送信機20では、LDPC符号器21によりLDPC符号化された情報ビット系列を、S/P変換器22により直列並列変換してからQAM変調器23−1,23−2によりQAM変調して送信シンボルとし、各送信アンテナ24−1,24−2から送信する。
【0016】
受信機30は、受信アンテナ31−1,31−2、MIMO−MLSE等化器32、P/S変換器33、LDPC復号器34を備える。受信機30では、MIMO−MLSE等化器32により、ISIとIAIを補償し、復調QAM信号からBit LLRを得て、P/S変換器33により並列直列変換してからLDPC復号器34に入力する。LDPC復号器34から出力されたBit LLRを帰還してMIMO−MLSE等化器32に入力し、Bit LLRを考慮して再びISIとIAIの補償を行う。LDPC復号器34は、MIMO−MLSE等化器32の出力を再びLDPC復号する。これを繰り返すことによってBER特性が改善される。
【0017】
送信アンテナ数をnT、受信アンテナ数をnRとする。各送信受信アンテナ間の通信路は、1シンボル時間Ts毎の遅延のタップ付き遅延線モデルで表せる。通信路の遅延マルチパス波数をLとする。また、説明を簡単にするためにBPSK変調を用いた場合の説明を行う。
【0018】
時刻tの送信アンテナiからの送信シンボルをxti、送信アンテナiから受信アンテナjへのl番目の遅延パスの複素利得をhl(i)(j)(i=1,…,nT,j=1,…,nR)とすると、時刻tの受信アンテナjの受信信号ytjは式(1)で表せる。
【0019】
【数1】
【0020】
このとき、図2に示すように、各時刻の状態数が2nT(L−1)で、ブランチの本数が2nTLであるトレリス線図が描ける。状態S=(i,j)は送信アンテナ1において情報i、送信アンテナ2において情報jを送信したことを表す。i,jは0あるいは1である。このトレリス線図からViterbiアルゴリズムを用いて、送信信号系列を最尤系列推定(MLSE)することができる。但しViterbi等化器の出力は軟値であるBit LLRで行う。このためBi−directional SOVA (Soft Output Viterbi Algorithm)を用いる。
【0021】
図2において、時刻tと時刻t+1の各状態を結ぶブランチは、それぞれブランチメトリック値を持っている。ブランチメトリック値の計算式を式(2)に示す。
【0022】
【数2】
【0023】
式(2)のlnPr(xti)は、LDPC復号器34から帰還され入力されるBit LLR値Λ(xti)を元に式(3)を用いて計算することができる。
【0024】
【数3】
【0025】
次に式(4)を用いてパスメトリックμt(st)の計算を行う。図2のように時刻tのある状態に一つ前の時刻t−1の状態から伸びる複数本のブランチが繋がっている。一つ前の時刻の状態st−1がもつパスメトリックμt−1(st−1)に、繋がっているブランチのブランチメトリックを加算し、時刻tにおけるパスメトリックμt(st−1→st)とする。時刻tの状態stに繋がるパスの中から最小のパスメトリックを持つものをサバイバルパスとして残す。
【0026】
【数4】
【0027】
このパスメトリックの計算を前方向(t:0→n)、後方向(t:n→0)、それぞれの方向から行う。前方向から計算を行ったパスメトリックをμtf、後方向から計算したパスメトリックをμtbとする。
【0028】
時刻tの状態毎に前方向のパスメトリックμtfと後方向からのパスメトリックμtbを加算したμtを求める。時刻tにおいてμtが最小となるものをμtminとする。
【0029】
また、時刻tにおいて最小のパスメトリックμtminを持つパスの時刻tの送信信号と競合する最小のパスメトリックμtcを探す。μtcは、時刻t−1から時刻tへ遷移するブランチの中で推定シンボルと異なるシンボルが割り当てられたブランチの中から選び、式(5)の値とする。
【0030】
【数5】
【0031】
ここで、Bit LLRの計算を行う。長さτの受信信号系列Yτを受信したとき、送信信号系列Xτを送った確率は式(6)になる。
【0032】
【数6】
【0033】
受信雑音は白色ガウス雑音であるので送信信号系列Xτを送信した場合の受信信号系列Yτの発生確率は式(7)で与えられる。
【0034】
【数7】
【0035】
式(7)の両辺の対数をとると式(8)になる。
【0036】
【数8】
【0037】
xtiのBit LLRは式(9)で表せる。
【数9】
【0038】
次に、比較対象である従来のLDPC符号化SC/MMSEターボ等化器の概略を、図3を用いて説明する。図3にLDPC符号化MIMO−SC/MMSEターボ等化器の送受信機の構成を示す。この送受信機50は、送信機60と受信機70とから構成される。
【0039】
送信機60は、LDPC符号器61、S/P変換器62、QAM変調器63−1,63−2、送信アンテナ64−1,64−2を備え、図1のLDPC符号化MIMO−MLSE等化器である送信機20と同じ構成である。したがって、詳しい説明は省略する。
【0040】
受信機70は、受信アンテナ71−1,71−2、MIMO−SC/MMSE等化器72、P/S変換器73、LDPC復号器74を備える。受信機70では、MIMO−SC/MLSE等化器72により、ISIとIAIを補償し、復調QAM信号からBit LLRを得て、P/S変換器73により並列直列変換してからLDPC復号器74に入力する。LDPC復号器74から出力されたBit LLRを帰還してMIMO−SC/MLSE等化器72に入力し、Bit LLRを考慮して再びISIとIAIの補償を行う。LDPC復号器74は、MIMO−SC/MLSE等化器72の出力を再びLDPC復号する。LDPC復号器74から帰還された軟値Bit LLRをSC/MMSE等化器72に入力し、ISIとIAIの干渉成分をソフトキャンセルする。その後、MMSEフィルタを通すことによって、等価的なAWGN通信路を得て、Bit LLRを出力する。
【0041】
しかし、初回はLDPC復号器74の軟値出力が無いため、SC/MMSE等化器72でISIとIAIのソフトキャンセルを行うことができない。そこでLDPC復号器74からの帰還入力が無いときは、その入力Bit LLR値を0としてSC/MMSE等化器72の等化処理を行う。その後、SC/MMSE等化器72の判定結果を用いてISI及びIAIのソフトキャンセルを逐次行っていく。
【0042】
以下、本発明に係る送受信機(図1の送受信機10)の特性について説明する。
本発明の特性を説明するにあたり、既存方式であるLDPC符号化SC/MMSEターボ等化方式(図3の送受信機50)を比較対象とする。本発明、比較方式ともにLDPC符号は符号化率R=0.5を用いている。
【0043】
本発明、比較方式ともに、各送信・受信アンテナ間の通信路は、各通信路の位相は0〜2πの間で一様分布する等電力の3パス周波数選択性静的通信路とする。また通信路のチャネル推定は受信側で完全であるということを前提としている。
本発明、比較方式ともに、変調方式はBPSK変調、QPSK変調の2通りの場合を示す。
【0044】
変調方式がBPSK変調の場合の本発明と比較方式の計算機シミュレーションによるBER特性を図4に、変調方式がQPSK変調の場合のBER特性を図5に示す。なお、以降の図(図4〜図8)において、#NはN回フィードバックしたことを表す。
【0045】
図4、図5より軟値フィードバックを行う毎にBER特性が改善されている様子が確認できる。軟値フィードバック3回において、本発明は、BPSK変調では、SC/MMSE等化器に比べ、BER=10−3で約0.5dB、QPSK変調では約1.0dB改善されている。SC/MMSE等化器では軟値フィードバック1回で大きくBER特性が改善される。これはフィードバック0回に於いてはLDPC復号器からSC/MMSE等化器にBit LLRが入力されないため、干渉除去に用いるソフトレプリカを生成できないのでBER特性が悪くなるが、フィードバック1回ではソフトレプリカを生成できる為、BER特性が大きく改善されることによる。
【0046】
図4、図5より、フィードバック回数は3回でBER特性がほぼ収束するため、以降の計算機シミュレーションではフィードバック回数は3回で行う。
【0047】
図6にQPSK変調での通信路遅延パス数の増加に伴うBER特性の変化を示す。通信路遅延パス数は2及び3ある。
【0048】
図6より本発明と比較方式は共に、通信路遅延パスの多い方が、パスダイバーシチの効果でBER特性が改善される。
【0049】
図7、図8に本発明と比較方式のBPSK変調での送受信アンテナ数の増加に伴うBER特性の変化を示す。図7は等電力の3パス静的通信路、図8は等電力の3パス準静的レイリーフェージング通信路におけるBER特性である。
【0050】
図7,8より、送受信アンテナ数が増加に対し、MLSE等化器及びSC/MMSE等化器共にBER特性が改善される。これは両方式共に、空間ダイバーシチの効果によりBER特性が改善されるからと考えられる。また、図7の静的3パス通信路では、SC/MMSE等化器に対するMLSE等化器の改善度は、1×1,2×2,4×4の順で大きい。しかし4×4ではこの差は非常に小さい。さらに、図8の3パス準静的Rayleighフェージング通信路では、SC/MMSE等化器に対するMLSE等化器の改善度は、1×1の場合は小さいが、2×2、4×4の場合は大きな改善が得られている。
【0051】
以上、この発明の実施の形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等された発明も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
ディジタル無線通信方式における等化器に関する発明である。特に、LDPC符号化MIMO−MLSEターボ等化器は優れたISI及びIAIの除去性能をもつため、優れたビット誤り率特性を実現させるディジタル無線通信方式として利用可能性がある。
【符号の説明】
【0053】
10 送受信機
20 送信機
21 LDPC符号器
22 S/P変換器22
23−1,23−2 QAM変調器
24−1,24−2 送信アンテナ
30 受信機
31−1,31−2 受信アンテナ
32 MIMO−MLSE等化器
33 P/S変換器
34 LDPC復号器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MIMO無線通信路において通信を行う受信装置であって、
遅延波による符号間干渉及びアンテナ間干渉を最尤系列推定によって除去するMLSE等化部と、
前記MLSE等化部の出力をLDPC復号するLDPC復号部と、
を備え、
前記MLSE等化部は、前記LDPC復号部の復号結果を用いて前記符号間干渉及び前記アンテナ間干渉を除去すること
を特徴とする受信装置。
【請求項2】
前記MLSE等化部は、
トレリス線図の双方向からパスメトリックを計算するBi−directional SOVA(Soft Output Viterbi Algorithm)を用いること
を特徴とする請求項1に記載の受信装置。
【請求項1】
MIMO無線通信路において通信を行う受信装置であって、
遅延波による符号間干渉及びアンテナ間干渉を最尤系列推定によって除去するMLSE等化部と、
前記MLSE等化部の出力をLDPC復号するLDPC復号部と、
を備え、
前記MLSE等化部は、前記LDPC復号部の復号結果を用いて前記符号間干渉及び前記アンテナ間干渉を除去すること
を特徴とする受信装置。
【請求項2】
前記MLSE等化部は、
トレリス線図の双方向からパスメトリックを計算するBi−directional SOVA(Soft Output Viterbi Algorithm)を用いること
を特徴とする請求項1に記載の受信装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2012−191602(P2012−191602A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−1990(P2012−1990)
【出願日】平成24年1月10日(2012.1.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2011年10月3日に発行された、「THE 14▲th▼ INTERNATIONAL SYMPOSIUM ON WIRELESS PERSONAL MULTIMEDIA COMMUNICATIONS」及び、2011年8月30日に発行された、「2011年ソサイエティ大会講演論文集」
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年1月10日(2012.1.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2011年10月3日に発行された、「THE 14▲th▼ INTERNATIONAL SYMPOSIUM ON WIRELESS PERSONAL MULTIMEDIA COMMUNICATIONS」及び、2011年8月30日に発行された、「2011年ソサイエティ大会講演論文集」
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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