説明

受動型人感装置

【課題】受動型の人体検知のシステムにおいて、光学系の設定に依存せず、その検知距離を安定させ、より確度の高い人体検知の性能を持つ受動型の赤外線センサを提供する。
【解決手段】本発明に係わる受動型人感装置は、人体から発せられる赤外線を受光して電気信号に変換する受動型赤外線センサ、および受動型赤外線センサの出力信号を増幅する増幅回路を備え、増幅された受動型赤外線センサをMCUに取り込むためのADコンバーター、および量子化された出力の波形解析を行うためのアルゴリズムを有するMCUを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受動型の人体検知のシステムにおいて、光学系の設定に依存せず、その検知距離を安定させ、より確度の高い人体検知の性能を持つ受動型の赤外線人感装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気製品市場において、省エネルギー化ならびに人の状態に応じた動作を行う市場要求が高まり、人の動きや位置などと連動して電力管理や機能管理を行うニーズが高まっている。
【0003】
現在、市場において、人体の状態を捉える人感のシステムとしては、人体から発せられる赤外線を受動的に捉える焦電型赤外線センサが一般的に普及している。特に省エネルギーを目的とする場合、市場では電気製品の待機電力も重要視されており、センシング機能システム自体も消費電力が低いことが求められ、受動型の赤外線センサは、より一般的に普及している。
【0004】
また、既知の技術として、特開平7−43604(特許文献1)の様に、人体との距離を知る手段として、受動型赤外線センサに異なる距離測定の手段を加えた人感センサのシステムがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7―43604号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
焦電型赤外線センサを始めとする受動型赤外線センサにおいて、その原理上、人を検知した際に発せられる信号出力の強さは、指向された検知エリア内にある人体の温度と人体の背景の温度との間の温度差に大きく依存する。すなわち、その温度差によって、受動型の赤外線センサが検知可能な距離は変化する。また、人を検知した際に発せられる信号出力の発生頻度は、指向された検知エリア内にある人体の投影面積と速度に大きく依存する。これらのため、幅広い環境温度や、様々な人体の状態が想定される一般的な市場の使用環境において、受動型の赤外線センサは、指向された検知エリアのなかで、人体を検知可能な範囲もしくは人体の検知を避けたい範囲を限定することが困難である。
【0007】
前述の既知の技術のような異なる距離測定の手段を別に備えた場合、人体と人感センサの距離の情報が明確となる。しかし、距離測定の手段を追加することで生産コストは大きく増加し、また、距離測定の手段に用いられるセンサは能動型となり、消費電力も増加し、デザイン面でも不利となる。
【0008】
距離測定の手段を追加しないで検知距離を補正するための一般的に既知な手段として、市場には、受動型赤外線センサの近傍の温度を計測し、センサ信号出力の増幅率を変化させる手段がある。しかし、実使用上は、センサ近傍の温度と指向される検知エリアの背景温度の相関性が低い場合が多く、また、増幅率を上げる場合、ノイズ出力の増大により、誤った検知を行う確率が高まる。
【0009】
受動型人感装置は、その検知エリアを、成形レンズやミラーレンズの光学系によって指向させる手段が最も一般的であるが、その指向された検知エリアの終端が、壁や床や天井などであり、且つその終端が要求される検知距離を満足する位置に配することが可能であれば、前述の検知距離の不確定さは解消される場合がある。しかし、電気製品のデザイン上の事由で、赤外線センサや光学系の配置が制限される場合が多く、指向された検知エリアにおいて、その明確な終端がない、もしくは不必要に遠くまで検知エリアが配設される場合が多くなる一方で、検知距離を一定の確率で正確に判断することを求められるケースが増えている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係わる受動型人感装置は、人体から発せられる赤外線を受光して電気信号に変換する受動型赤外線センサ、および受動型赤外線センサの出力信号を増幅するアナログ増幅回路を備え、増幅された受動型赤外線センサの信号出力をMCUに取り込むためのADコンバーター、および量子化された信号出力の波形解析を行うためのアルゴリズムを有するMCUを備え、これらにより、人体からの赤外線を検知し、電気製品の機能のコントロールに利用可能とする。
【0011】
本発明に係わる受動型人感装置は、ADコンバーターを介してMCUに読み込まれた出力信号の振幅と微分値を認識するアルゴリズムを有し、それぞれのしきい値を設定できるものとする。加えて、信号出力のピーク(山)もしくはバレー(谷)が、一定時間あたりに一定のしきい値を越えた回数を計数する。これらにより、統計的に人体が近距離にある場合に発生しやすい振幅の大きな信号出力ならびに急峻で微分値の大きな信号出力を識別することで、人体が相対的に近距離にあることが認識可能となる。また、人体が近距離にある場合、光学系で形成される検知エリアが集中しているため、一定時間内に発生する信号出力のピークとバレーの発生回数が増えることを識別することで、人体が相対的に近距離にあることがより確度良く認識可能となる。
【0012】
本発明に係わる受動型人感装置に用いられるADコンバーターを配したMCUには、電気製品のタッチスイッチなどを制御するために一般的に利用されるタッチセンサ制御用ICなどを利用することが可能であり、タッチセンサ制御用ICの静電容量のポートに増幅された信号出力を取り込むことで、電気製品に使用されるMCUの総数を削減してコストの低減、消費電流の低減、デザインの自由度を増大させることが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係わる受動型人感装置は前述のような構成、アルゴリズムとなっているため、搭載される電気製品周辺の人体の存在を検知し、より高精度に人体の位置を認識することが可能であり、人体の位置によって電気製品の制御を変えること、例えば、比較的人体が電気製品に近接している場合のみ電気製品を制御するなど、受動型赤外線センサの検知原理による欠点を補完した制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】人体が遠い位置を移動する場合の実際の信号出力。
【図2】人体が近い位置を移動する場合の実際の信号出力。
【図3】受動型人感装置のブロック構成図。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0015】
図3は本発明に係わる受動型人感装置の概要を説明したものである。受動型人感装置17は、主に電気製品に取り付けられ、受動型赤外線センサ11の前方に、成型レンズやミラーレンズなどによる光学系15で検知エリア16が配設される。受動型赤外線センサ11は、アナログ増幅回路12に接続され、増幅されたアナログ信号出力は、ADコンバーター13を介してMCU14に読み込まれる。ADコンバーター13の変わりに容量変化を捉える回路とすることで、MCU14は、電気製品に既に具備されているタッチセンサ用制御ICなどを利用することも可能となる。図1は、受動型赤外線装置17において、検知エリア16の遠い位置を移動する人体からの赤外線を受けて発せられ、アナログの増幅回路12によって増幅された実際の信号出力18の様子である。図2は、受動型赤外線装置17において、検知エリア16の近い位置を移動する人体からの赤外線を受けて発せられ、アナログの増幅回路によって増幅された実際の信号出力18の様子である。
【0016】
人体が遠い位置を移動する場合の信号出力1は振幅9が小さく、信号出力波形のバレー3の間隔時間5が長い。一方、人体が近い位置を移動する場合の信号出力2は振幅10が大きく、信号出力波形のバレー4の間隔時間6が短い。これらの信号出力は、ADコンバーター13で量子化され、MCU14に読み込まれる。
【0017】
MCU14に読み込まれた量子化された信号出力は波形解析され、振幅、微分値、一定の時間内にピーク8もしくはバレー4が既定のしきい値を越える回数を識別し、それぞれが予め設定された値を越える場合、受動型人感装置は、人体が電気製品に近接していると認識する。
【0018】
MCU14は、人体の近接を認識した後の一定時間において、振幅、微分値、一定の時間内にピーク8もしくは4が既定のしきい値を越える回数のそれぞれに予め設定されていた値を減少させることで、人体の認識をより高感度に行うことを可能にする。人体の認識が高感度になった設定は、人体が認識されるたびにリトリガーされ、一定時間内、同じ設定が保持される。一定時間以上、人体の認識がされない場合、それぞれの設定位置は初期設定に戻る。
【0019】
上記のように近接した人体を、より高確率で高感度に捉えるアルゴリズムとすることで、遠い位置の人体との感度との間により大きなコントラストを得ることが可能となり、受動型の赤外線検出方式でありながら、体感的に一定距離内に限定された検知エリアを形成することが可能となる。これは、例えば、モニターを有するような電気製品に人体が近接したことを選択的に捉える必要があるといった、省エネルギー目的もしくは安全目的の人感機能に要求される仕様に整合がよい 。
【符号の説明】
【0020】
1 人体が遠い位置を移動する場合の信号出力
2 人体が近い位置を移動する場合の信号出力
3 人体が遠い位置を移動する場合の信号出力のバレー
4 人体が近い位置を移動する場合の信号出力のバレー
5 人体が遠い位置を移動する場合の信号出力のバレー間隔
6 人体が近い位置を移動する場合の信号出力のバレー間隔
7 人体が遠い位置を移動する場合の信号出力のピーク
8 人体が近い位置を移動する場合の信号出力のピーク
9 人体が遠い位置を移動する場合の信号出力の振幅
10 人体が近い位置を移動する場合の信号出力の振幅
11 受動型赤外線センサ
12 アナログ増幅回路
13 ADコンバーター
14 MCU
15 光学系
16 検知エリア
17 受動型人感装置
18 増幅されたアナログ信号出力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体からの赤外線を電気信号に変換する受動型赤外線センサと、受動型赤外線センサの信号出力を増幅するアナログ増幅回路があり、増幅された信号出力を量子化して波形解析を行うことを特徴とする受動型人感装置。
【請求項2】
前記の波形解析のためにADコンバーターを搭載したMCUを備えたことを特徴とする請求項1に記載の受動型人感装置。
【請求項3】
前記の波形解析のために静電容量型のスイッチ制御用ICを備えたことを特徴とする請求項1に記載の受動型人感装置。
【請求項4】
前記の波形解析に、振幅、微分値、ピークとバレーの発生頻度を認識し、規定値以上の値となった場合、より高感度の状態を一定時間、リトリガーで維持するアルゴリズムを備える請求項1に記載の受動型人感装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−173271(P2012−173271A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38707(P2011−38707)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000229081)日本セラミック株式会社 (129)