説明

受動型赤外線センサ

【課題】筺体内に近接して配置された各々角度調整可能な複数の検知器の検知信号を個別に処理可能で各検知器の使用可否を個別に設定可能に構成することにより、検知ゾーンの設定作業を簡単に行うことができると共に、侵入者に対する検知性を高めつつ小動物等の外乱による誤動作を抑えることが可能な受動型赤外線センサを提供する。
【解決手段】それぞれ光学系と赤外線検知素子を有し警戒距離に対応して近接配置された複数の検知器を備え、検知器は、それぞれ光学系と赤外線検知素子を有して各々個別に角度調整可能に近接配置された警戒距離の異なる複数の検知器からなり、信号処理手段は、複数の検知器で検知された各信号を単独で処理していずれかの検知器で人体を検知した際に人体検知信号を出力可能であると共に、複数の検知器は、設定手段によりその使用可否が設定可能であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、警戒エリア内において人体の放射する赤外線を光学系と赤外線検知素子を有する検知器で検知可能な受動型赤外線センサに係わり、特に、筺体内に複数の検知器を配置した受動型赤外線センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、受動型赤外線センサ(以下、赤外線センサという)は、ベースやカバー等からなる筺体内に、焦電素子(赤外線検知素子)とミラーハウジング(光学系)からなる検知器を配置し、警戒エリア内から放射される赤外線(熱線)をミラーハウジングで集光しつつ焦電素子で検知し、この検知信号を信号処理手段で処理して赤外線に係わる移動物体が人体か否かを判別し、人体の場合に所定の検知信号を出力するようになっている。なお、この種の赤外線センサは、例えば特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平11−203566号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような赤外線センサにあっては、警戒距離が短いセンサ近傍の検知ゾーンと、警戒距離が長いセンサ遠方の検知ゾーンを同一の焦電素子で検知する構成であることから、例えばパイプシャッター等の赤外線を透過する仕切りを用いて区切られた警戒エリアにおいては、検知ゾーンが警戒エリアの外側まで到達して誤報のおそれがあるセンサ遠方の検知ゾーンの場合に、その検知ゾーンを構成しているミラーやレンズに赤外線の集光や透過を妨げる目隠しを貼付したり、あるいは検知器自体の向きを調整して、検知ゾーンが警戒エリアの外側まで到達しないようにする必要がある。
【0004】
そのため、目隠しを貼付する場合は、複数のミラーやレンズのどの部分に貼付すれば目的とする検知ゾーンの目隠しができるかどうかが解り難く、また、貼付面が平面でなく簡単に貼付することが難しい等、検知ゾーンの設定作業が面倒になり易い。また、検知器自体の向きを調整する場合は、各検知ゾーンの検知性能の均一性を崩してしまうことになり、侵入者に対する検知性能を高めつつ小動物等の外乱による誤動作を抑えることが難しいのが実情である。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、筺体内に近接して配置された各々角度調整可能で警戒距離の異なる複数の検知器の検知信号を単独で処理可能で各検知器の使用可否を個別に設定可能に構成することにより、検知ゾーンの設定作業を簡単に行うことができると共に、侵入者に対する検知性能を高めつつ小動物等の外乱による誤動作を抑えることが可能な受動型赤外線センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、ベースとカバー等からなる筺体内に配置されて、平面視で扇形の複数の検知ゾーンからなる警戒エリア内の赤外線を集光する光学系及び該光学系で集光した赤外線を検知する赤外線検知素子を有する検知器と、該検知器で検知された検知信号を処理する信号処理手段と、を備えた受動型赤外線センサにおいて、前記検知器は、それぞれ前記光学系と赤外線検知素子を有して各々個別に角度調整可能に近接配置された警戒距離の異なる複数の検知器からなり、前記信号処理手段は、前記複数の検知器で検知された各信号を単独で処理していずれかの検知器で人体を検知した際に人体検知信号を出力可能であると共に、前記複数の検知器は、設定手段によりその使用可否が設定可能であることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、前記信号処理手段が、前記設定手段により設定された使用可の検知器の検知信号に基づいて人体検知信号を出力可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のうち請求項1に記載の発明によれば、光学系と赤外線検知素子をそれぞれ有すした角度調整可能な複数の検知器が筺体内に近接配置されると共に、この複数の検知器からの検知信号が信号処理手段で単独で処理されると共に、各検知器の使用可否が設定手段により設定可能であるため、各検知器の検知ゾーンの範囲を狭くしつつ設定手段の操作で使用する検知器を設定できて、検知ゾーンの設定作業を簡単に行うことができると共に、警戒距離に応じた複数の検知器により、侵入者に対する検知性能を高めつつ小動物等の外乱による誤動作を抑えることができる。
【0009】
また、請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、設定手段により設定された使用可の検知器の検知信号に基づいて信号処理手段が人体検知信号を出力するため、使用可に設定された検知器の検知信号に基づく人体検知が可能となり、侵入者の検知性能を一層高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1〜図7は、本発明に係わる受動型赤外線センサの一実施形態を示し、図1がその斜視図、図2が内部構成を示す概念図、図3が制御系のブロック図、図4及び図5が動作の一例を示すフローチャート、図6及び図7が警戒エリアの平面図及び側面図である。
【0011】
図1に示すように、受動型赤外線センサ1(赤外線センサ1という)は、警戒エリアの天井や壁面に取り付けられる円盤状のベース2aと、このベース2aを覆うように着脱可能に取り付けられた半球状のカバー2bと、前記ベース2aやカバー2bを互いに着脱可能に係止させるリング状の係止部材2c等からなる筺体2を備えている。
【0012】
そして、この赤外線センサ1は、図2に示すように、前記円盤状のベース2a上に、近傍用の検知器3と中間用の検知器4及び遠方用の検知器5からなる3つの検知器3〜5が、それぞれ互いに近接して略三角形の頂点に位置するようにして配置されている。前記検知器3は、光学系としてのミラー3aと赤外線検知素子としての焦電素子3b、及び後述する増幅・フィルタ部3cを有し、また、前記検知器4、5は、光学系としてのミラーハウジング4a、5aと赤外線検知素子としての焦電素子4b、5b、及び後述する増幅・フィルタ部4c、5cを有している。
【0013】
このとき、検知器4と検知器5は、ベース2aの直径方向の一端側寄りに左右方向に併設されており、各検知器4、5の前記焦電素子4b、5bは、前記増幅・フィルタ部4c、5cが形成された素子基板7上に実装されている。また、検知器4、5の前記ミラーハウジング4a、5aは、前記素子基板7の両端に連結された一対の側壁8aと、この側壁8aの後端部に一体形成された底壁8b等を有し、その内面には複数のミラー8cが形成されている。さらに、前記ミラーハウジング4a、5aは、その側壁8aがベース2aに固定された一対の支持板9に回動可能に取り付けられることにより、各検知器4、5のミラー8cの向きがそれぞれ所定方向に設定されて、ミラー8cで反射(集光)された赤外線(熱線)が各焦電素子4b、5bに入射されるように構成されている。
【0014】
また、前記検知器3は、ベース2aの前記直径方向の他端側寄りに配置され、複数のミラーからなる前記ミラー3aが所定角度で配置されると共に、このミラー3aの所定距離前方の素子基板6上に、前記増幅・フィルタ部3cが形成されると共に焦電素子3bが実装されている。
【0015】
なお、図示はしないが、ベース2aの所定位置には、素子基板6、7上に実装された焦電素子3b、4b、5bで検知された信号を処理する後述する信号処理部11が形成された信号処理基板が配置されており、この信号処理基板の信号処理部11から検知信号等が無線や有線で図示しないコントローラに送信されるようになっている。また、前記焦電素子3b、4b、5bとしては、例えば2つの焦電素子を互いに逆極性で直列に差動接続し、プラス(+)極性の焦電素子の出力信号と、マイナス(−)極性の焦電素子の出力信号との合成出力が得られる2素子1出力の差動出力型が使用されるが、多素子多出力型を使用することも可能である。
【0016】
図3は、前記赤外線センサ1の制御系のブロック図を示している。以下、これについて説明する。3つの検知器3〜5は、素子基板6、7上に形成された前記増幅・フィルタ部3c〜5cを介して前記信号処理基板上の信号処理部11(信号処理手段)にそれぞれ接続されている。前記増幅・フィルタ部3c〜5cは、各焦電素子3b、4b、5bで検知された検知信号を増幅すると共に、この検知信号を濾過して熱源の移動に関する検知信号のみを通過させるもので、その増幅率やフィルタの周波数特性は、例えば各検知器3〜5に応じて予め所定に設定されている。
【0017】
また、前記信号処理部11は、例えばマイコン等により形成されて判定部11aや記憶部11b等を有し、その入力側には設定部12(設定手段)が接続されている。この設定部12は、各検知器3〜5の使用可否を設定する設定スイッチ12a〜12cと、各検知器3〜5の検知回数設定用の設定スイッチ12dと、各検知器3〜5の検知感度設定用の設定スイッチ12eと、各増幅・フィルタ部10a〜10cの周波数特性設定用の設定スイッチ12f、及び前記検知信号と比較されて人体か否かを判定するための基準値(閾値)設定用の設定スイッチ12g等を有している。
【0018】
また、信号処理部11の出力側には、判定部11aで判定した人体検知信号をコントローラに送信するための送信部13aや、設定部12による設定状態を例えばコード表示したり、人体検知信号の出力(発報)を表示可能な表示部13b等からなる出力部13が接続されている。なお、前記設定部12や出力部13の形態は、図示した例に限定されず、適宜の形態を使用することができる。
【0019】
次に、このように構成された信号処理部11の動作の一例を、図4及び図5のフローチャートに基づいて説明する。なお、図4及び図5に示すフローチャートは信号処理部11の前記記憶部11bに記憶されたプログラムに従い自動的に実行される。先ず、各検知器3〜5の使用可否の設定は、図4に示すように、例えば赤外線センサ1を警戒場所の天井等に取り付けて、その警戒エリア(検知ゾーン)等の各種設定を行うために、赤外線センサ1の電源を投入すると、プログラムが開始(S100)され、前記設定部12の検知器3〜5の使用可否を設定する設定スイッチ12a〜12cがオンか否かが判断(S101)される。この判断S101は「YES」になるまで繰り返される。
【0020】
そして、判断S101で「YES」の場合は、オンされた設定スイッチ12a〜12cに対応した検知器3〜5が使用可に設定されて信号処理部11の記憶部11bに記憶(S102)される。次に、3つの検知器3〜5の使用可否が全て設定されたか否か判断(S103)され、この判断S103で「NO」の場合は、ステップS101に戻り、該ステップS101以降を繰り返す。一方、判断S103で「YES」の場合、すなわち3つの検知器3〜5の使用可否が全て設定された場合は、一連のプログラムが終了(S104)する。つまり、このフローチャートによれば、3つの検知器3〜5の使用可否が、各検知器3〜5に対応した設定部12の設定スイッチ12a〜12cのオン操作によって個別に設定されることになる。
【0021】
このようにして、各検知器3〜5の使用可否が設定された状態において、前記信号処理部11は、図5に示すようにして、人体検知信号Sを出力する。なお、図5は、主に検知器3について説明するが、検知器4、5についても同様である。図5に示すように、赤外線センサ1が所定位置に設置されてプログラムが開始(S200)されると、検知器3(もしくは検知器4、5)から検知信号の入力が有りか否かが判断(S201)される。
【0022】
この判断S201で「YES」の場合、すなわち、警戒エリア内の移動物体が検知器3の複数の検知ゾーンのうちの一つを横切り検知信号のレベルが前記閾値以上となった場合は、信号処理部11に設けられた図示しないカウンタがカウントアップ(S202)され、そのカウント数が検知回数n1(もしくはn2、n3)か否かが判断(S203)される。この判断S203で使用される検知回数n1は、各検知器3〜5毎に予め設定された回数であり、ステップS202におけるカウント数が検知回数n1の場合は、判断S203で「YES」となり、人体検知信号Sを出力(S207)して一連のプログラムが終了(S209)する。
【0023】
一方、前記判断S201で「NO」の場合、すなわち検知信号の入力がない場合は、例えば信号処理部11に設けられた図示しないタイマが動作中か否かが判断(S204)され、この判断S204で「YES」の場合は、タイマ時間内か否かが判断(S205)される。この判断S205で「NO」の場合は、カウンタをリセットすると共にタイマをリセット(S206)して判断S201に戻り、検知信号の入力を待つことになる。また、判断S204で「NO」の場合、及び判断S205で「YES」の場合も判断S201に戻る。また、前記判断S203で「NO」の場合、すなわち、最初の検知信号が入力されカウント数が検知回数n1に達していない場合は、タイマをスタート(S208)させて、判断S201に戻る。つまり、赤外線センサ1を設置した警戒状態において、各検知器3〜5により検知信号が警戒距離に対応して予め記憶された検知回数n1〜n3検知された際に、人体検知信号Sが出力部13からコントローラに出力されることになる。
【0024】
図6は、前記赤外線センサ1による警戒エリアの一例を示している。図6(a)(b)に示すように、警戒距離が近傍用の検知器3は、水平面において検知ゾーンA1〜A3と垂直面において検知ゾーンaを有し、また、警戒距離が中間用の検知器4は、水平面において検知ゾーンB1〜B7と垂直面において検知ゾーンbを有している。さらに、警戒距離が遠方用の検知器5は、水平面において検知ゾーンC1〜C7と垂直面において検知ゾーンcを有している。そして、これらの各検知ゾーンによって、赤外線センサ1に立体型の警戒エリアが形成されている。
【0025】
なお、本発明の赤外線センサ1の警戒エリアは、図6に示す立体警戒型に限らず、例えば図7に示す面警戒型の警戒エリアにも適用することができる。この面警戒型の警戒エリアは、図7(b)に示すように、垂直面において検知ゾーンd1〜d6を有しており、これらの各検知ゾーンd1〜d6は、図7(a)に示すように、水平面における検知ゾーンD1〜D6が1本程度にまとまった状態となっている。この面警戒型の警戒エリアの場合は、水平面において警戒エリアの幅が狭い場合に使用される。
【0026】
このように、上記実施形態の赤外線センサ1によれば、ミラー3aやミラーハウジング4a、5aと焦電素子3b、4b、5b等を有する複数の検知器3〜5が筺体2内に近接配置されると共に、この複数の検知器3〜5の検知信号が個別に処理され、かつ警戒距離の異なる各検知器3〜5の使用可否が設定部12により設定されるため、設定部12の設定スイッチ12a〜12cの操作により使用する検知器3〜5を個別に設定することができる。特に、3つの検知器3〜5の使用可が設定スイッチ12a〜12cのオン操作で設定可能であることから、使用否の検知器3〜5を対応した設定スイッチ12a〜12cをオフ操作で無効にすることができて、従来のように使用しない検知器3〜5にマスキングする等の作業が不要となり、赤外線センサ1の設置時の設定作業の能率向上を図ることができる。
【0027】
また、3つ検知器3〜5を予め所定の向きに設定することにより警戒エリアがカバーされると共に、各検知器3〜5の検知ゾーンを個別に設定できるため、従来のような検知器の向き調整作業が不要となり、検知性能の均一性の崩れ等を防止できて、侵入者に対する検知性能を高めつつ小動物等の外乱による誤動作を抑えることが可能となる。特に、設定部12により設定された使用可の検知器3〜5の検知信号に基づいて信号処理部11が人体検知信号Sを出力することから、使用可に設定された検知器3〜5の検知信号に基づく人体検知信号Sの出力が可能となり、侵入者の検知性能を一層高めることができる。
【0028】
また、赤外線センサ1の警戒エリアとして、水平面においてA1〜A3、B1〜B7、C1〜C7の各検知ゾーンで垂直面においてa〜cの各検知ゾーンからなる立体警戒型の警戒エリアに適用し、側面視で扇形の複数の検知ゾーンに対応して各検知器3〜5を配置すれば、警戒距離に係わらず侵入者(人体)から放射される赤外線を確実に検知できる。また、垂直面においてd1〜d6を有しこれらが水平面において1本程度にまとまった面警戒型の警戒エリアに適用し、警戒距離が長いセンサ近傍からセンサ遠方までの各検知ゾーンに対応して複数の検知器3〜5を配置すれば、侵入者から放射される赤外線を確実に検知でき、赤外線センサ1の検知性能を一層高めることができる。
【0029】
さらに、3つの検知器3〜5の警戒距離が近傍、中間、遠方に設定されて筺体2の円盤状のベース2a上に略三角形状に近接して配置されると共に、3つの検知器3〜5のうち少なくとも2つの検知器4、5が、単独のミラーハウジング4a、5aを有して各々個別に角度調整可能に配置されているため、警戒距離が異なる各検知器3〜5による検知ゾーンを所望位置に確実に設定することができて、一層高精度な警戒エリアを得ることができると共に、3つの検知器3〜5の筺体2内における配置を効率的に行うことができて、小型で高性能な赤外線センサ1を得ることが可能となる。
【0030】
また、検知器3にミラー3aが使用され、検知器4、5にミラーハウジング4a、5aが使用されるため、警戒距離がそれぞれ異なる各検知器3〜5に最適な光学系を使用できて、各検知器3〜5における検知性能をより一層高めることができると共に、赤外線センサ1自体のコストアップを抑えることができる。また、設定部12の設定スイッチ12a〜12cの操作により、3つの検知器3〜5の各検知信号が単独で処理可能に構成されるため、例えば比較的警戒距離が短い範囲を警戒したい場合は検知器5を無効(使用不可)としたり、赤外線センサ1近傍にFAX等の誤報要因となる熱源がある場合には検知器3を無効とする等、警戒エリアの警戒状態の形態に合わせて3つの検知器3〜5を適宜に選択使用できて、各種形態の警戒エリアに的確かつ容易に対応することが可能となる。
【0031】
またさらに、赤外線センサ1に設けられる各検知器3〜5により警戒エリアが分離状態でカバーされるため、警戒距離の設定のため検知器3〜5の向きを調整する際に、センサ近傍の検知ゾーンに与える影響の考慮が不要となるほか、検知器3〜5がそれぞれ受け持つ検知ゾーンが従来のような一体型の光学系の検知器の場合に比較して解りやすいため、警戒エリア内にFAX等の誤報要因となる熱源がありその部分の検知ゾーンをマスキングするような場合において、その作業を簡単に行うことができ、これらのことから、赤外線センサ1の設置作業やメンテナンス作業の作業能率の向上を図ることができる。
【0032】
ここで、本発明に係わる前記赤外線センサ1のように、検知器が警戒距離の遠・近に対応して複数に分離されている遠近分離方式の赤外線センサ1の特徴を、従来の検知器が一つの一体型の赤外線センサと比較しつつ図8及び図9等を参照して説明する。なお、図8及び図9は、図7のような検知ゾーンを持つ赤外線センサについて、本発明に係わる方式の警戒距離調整方法と従来方式の警戒距離調整方法で調整した場合の検知ゾーンの状態を示している。図7に示すように、遠近分離方式の赤外線センサ1の場合は、例えば面警戒型の警戒エリアを形成する各検知ゾーンd1〜d4の幅に相対的な変化がほとんどなく、警戒エリアの外周を規制するために遠方の検知器の角度を変更しようとすると、遠方の警戒ゾーンd4の幅はd1−1、d4−2のように小さくなるが、近傍の検知ゾーンd1、d2等についてはほとんど変化させる必要がない。
【0033】
一方、図9に示す従来の赤外線センサの場合は、各検知ゾーンe1〜e6の幅に大きな相対的変化が生じ、近傍の検知ゾーンe1等が侵入者に対して大きくなりすぎる一方、遠方の検知ゾーンe6等は侵入者に対して小さくなり、小動物の投影面積がそこに占める割合と、侵入者の投影面積が検知ゾーンe1に占める割合との間に差がなくなるため、近傍の検知ゾーンe1等における侵入者を検知するための検知器の感度を上げると遠方の小動物も検知して誤報となるおそれがある。
【0034】
つまり、遠近分離式の前記赤外線センサ1は、複数のそれぞれ独立した検知器により警戒エリアが複数に分離されていることから、遠方を警戒する検知器は近傍の検知ゾーンを受け持つ必要がない。そのため、最長警戒距離を短くするために遠方を警戒する検知器の角度を調整しても、従来のように近傍の検知ゾーンの角度まで変更されることはなく、その結果、検知ゾーンの大きさの変化、特に遠方・近傍の検知ゾーンの大きさのバランスの崩れが小さく、検知対象物の移動速度に対し、それぞれの検知器に設定した周波数特性でカバーしきれない状態に陥り難い。また、遠方・近傍で検知器がそれぞれ個別であるため、遠方の検知器のみ感度を下げる等の方法により、遠方の検知ゾーンにおける小動物による誤報を低減することができる。
【0035】
さらに、赤外線センサ1の検知器が複数の検知器を有するため、遠方を警戒する検知器の検知ゾーンと近傍を警戒する検知器の検知ゾーンが重なっても、そこに侵入する熱源(移動物体)からの信号は、それぞれの検知器において互いに影響を受けることなく検知され、必要に応じて完全に独立した複数の検知器の信号として単独で発報判定したり、演算処理により発報判定を行う一つの検知器として扱うことができる。例えば、複数の検知器全体で検知回数(パルスカウント数)をある値に設定すれば、通常は検知ゾーンが密で検知回数が多くなりがちな近傍の検知ゾーンは重ならずより遠方側の検知ゾーンが重なっているため、警戒エリア内の場所に係わらず熱源の移動距離に対してより一様な検知回数になり易い。また、検知回数を検知器毎にそれぞれ独立して設定できるため、警戒エリア内の検知性能をより均一にすることができる。
【0036】
これに対して、従来の赤外線センサでは、全ての検知ゾーンの角度が変更され、また、もし検知器を独立させずに遠方を警戒する光学系と近傍を警戒する光学系とを分離したものがあったとしても、その方式では、最長警戒距離を短くするために遠方を警戒する光学系のみの角度を調整すると、遠方を警戒する光学系の検知ゾーンと近傍を警戒する光学系の検知ゾーンが重なった際に、その重なった検知ゾーンは重なっていない検知ゾーンと比べて感度が高くなり、例えば小動物等のように侵入者に対して比較的エネルギーの小さい外乱要素がかかっても、発報閾値を超える検知信号が得られ、誤報となるおそれがある。
【0037】
またさらに、遠近分離方式の赤外線センサ1においては、複数の検知器が独立しているため、例えば小型化のために特に遠方の検知ゾーンを形成する光学系の焦点距離を従来より短くした場合に、遠方の検知ゾーンを形成する検知器の増幅率を近傍の検知ゾーンを形成する検知器に影響なく上げることができ、それによって検知性能を落とさずに小型化を図ることができる。
【0038】
これに対して従来の赤外線センサは、遠方の検知ゾーンは検知対象に対して大きくなり感度が低くなりがちだが、近傍の検知ゾーンは検知対象に対して小さくなり感度が高くなりがちといった感度バランスの崩れに対し、検知ゾーンを形成する光学系の口径を変えてバランスをとる等の方法で多少の調整は行っていた。しかし、遠方の検知ゾーンを形成するにあたって大きくなりがちな検知ゾーンを小さくするために焦点距離を長くとった光学系においては、感度が低くなりがちなためさらに口径も大きくすることは、求められているセンサの小型化と相反することになり、十分な調整を行うことが難しい。このように本発明に係わる赤外線センサ1は、従来の赤外線センサに比較して多くの利点を有しているといえる。
【0039】
なお、上記実施形態においては、検知器3〜5として警戒距離が近傍・中間・遠方用の3つの検知器3〜5を筺体2内に略三角形状に配置したが、本発明はこの構成に限定されず、例えば、警戒距離が近傍と遠方用の2つの検知器をベース2a上に直径方向の上下位置に配置したり直径方向の左右位置に配置することもできるし、4つ以上の検知器を所定の配列で配置することも可能である。また、上記実施形態における、検知器の数、光学系の形態、赤外線センサのベースやカバー等の構造、制御系のブロック図等は一例であって、例えば光学系としてレンズを使用する等、本発明に係わる各発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、円盤状のベースに複数の検知器が配置される受動型赤外線センサに限らず、赤外線検知素子と光学系からなる複数の検知器が、各種形状のベースを有する筺体内に配置される全ての受動型赤外線センサに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係わる受動型赤外線センサの一実施形態を示す斜視図
【図2】同その内部構成を示す概念図
【図3】同制御系のブロック図
【図4】同その動作の一例を示すフローチャート
【図5】同他の動作の一例を示すフローチャート
【図6】同立体警戒型の警戒エリアを示す平面図及び側面図
【図7】同面警戒型の警戒エリアの平面図及び側面図
【図8】遠近分離方式の赤外線センサの警戒エリアの説明図
【図9】従来方式の赤外線センサの警戒エリアの説明図
【符号の説明】
【0042】
1・・・受動型赤外線センサ、2・・・筺体、2a・・・ベース、2b・・・カバー、3〜5・・・検知器、3a・・・ミラー、3b・・・焦電素子、3c・・・増幅・フィルタ部、4a、5a・・・ミラーハウジング、4b、5b・・・焦電素子、4c〜5c・・・増幅・フィルタ部、6、7・・・素子基板、8d・・・ミラー、9・・・支持板、11・・・信号処理部、11a・・・判定部、11b・・・記憶部、12・・・設定部、12a〜12g・・・設定スイッチ、13・・・出力部、S・・・人体検知信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースとカバー等からなる筺体内に配置されて、平面視で扇形の複数の検知ゾーンからなる警戒エリア内の赤外線を集光する光学系及び該光学系で集光した赤外線を検知する赤外線検知素子を有する検知器と、該検知器で検知された検知信号を処理する信号処理手段と、を備えた受動型赤外線センサにおいて、
前記検知器は、それぞれ前記光学系と赤外線検知素子を有して各々個別に角度調整可能に近接配置された警戒距離の異なる複数の検知器からなり、前記信号処理手段は、前記複数の検知器で検知された各信号を単独で処理していずれかの検知器で人体を検知した際に人体検知信号を出力可能であると共に、前記複数の検知器は、設定手段によりその使用可否が設定可能であることを特徴とする受動型赤外線センサ。
【請求項2】
前記信号処理手段は、前記設定手段により設定された使用可の検知器の検知信号に基づいて人体検知信号を出力可能であることを特徴とする請求項1に記載の受動型赤外線センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−71761(P2010−71761A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238419(P2008−238419)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000101400)アツミ電氣株式会社 (69)
【Fターム(参考)】