説明

受注サーバ及び受注プログラム

【課題】需要変動を含めた納期期間の評価を行い、販売価格への反映が可能な受注サーバを得る。
【解決手段】サーバ7は、リアルタイムに時刻別や地域別に受注情報を収集するデータベース5と、収集した受注情報から地域ごと及び製品ごとに予め需要変動の大きさ(ボラティリティ)を算出する算出手段6とを有し、一方、サーバ11は、顧客から入力された製品名と数量を受け付ける入力受付手段8を形成するプログラムと、算出手段6により算出されたボラティリティと製品の基本価格を基に、オプション料を各納期別に算出し、この算出したオプション料を反映した納期期間ごとの販売価格提示を行う販売価格提示手段9を形成するプログラムを有し、提示された納期期間ごとの販売価格から顧客がいずれかを選択することにより発注契約が行われるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、納期期間の評価を行い、販売価格への反映が可能な受注サーバ及び受注プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の技術では、納期期間を評価し、それを顧客に金銭的評価として提示する方法として、期間の長さや繁忙時期に注目し、それを販売価格に反映するもの、及び期間の長さによる販売側のコスト増減を販売価格に反映するものがあった。
前者は、航空券の販売でよく見受けられる。後者の例として、特許文献1には、顧客が要求する納期に対し、販売側は納期に連動した生産負荷変動コストを反映した販売価格を提示する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−74105号公報(第3〜5頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の両者共、あくまで販売側の都合を、販売価格に反映させているだけである。その納期の間に発生する需要変動リスクを考慮していないという問題がある。
顧客が代理店とした場合、在庫補充のための納期が長いということは、補充待ちの間に発生する需要変動により在庫が切れるリスクが発生する。このため、顧客側では在庫を多くする必要があった。例えば、製品がエアコンであれば、夏には需要変動が大きい。
在庫が切れるリスクには、納期の長さと共に、需要変動の激しさの度合いが影響する。需要変動自体は、代理店ではコントロールできないため、納期を短くすることで、在庫切れリスクを最小化することを通常行う。その結果、本来、短納期発注が必要でない取引まで、全て短納期で発注することになるため、さらに需要変動を激しくさせる悪循環となる問題があった。
顧客側には、当然、短納期発注を止めるインセンティブが必要であるが、そのインセンティブの配分方法が、販売側の都合では協調的な行動は期待できない。よって上述の両者の納期評価法では、顧客がその納期を受け入れることで発生するであろうコスト(=リスク)の評価ができていないことになる。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、需要変動を含めた納期期間の評価を行い、販売価格への反映が可能な受注サーバ及び受注プログラムを得ることを目的にしている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係わる受注サーバにおいては、需要変動の大きさを地域ごと及び製品ごとに予め算出し、算出した結果を記憶装置に記憶させる算出手段、顧客の発注予定の製品名及びその製品の発注予定数量を受信し、顧客の所在する地域及び顧客の発注予定の製品名に対応する需要変動の大きさを記憶装置から取得するボラティリティ取得手段、及びこのボラティリティ取得手段によって取得された顧客の所在する地域及び顧客の発注予定の製品名に対応する需要変動の大きさに基づき、納期期間に対応する評価額であるオプション料を納期期間ごとに算出し、この算出したオプション料を反映した納期期間ごとの販売価格を顧客に提示する販売価格提示手段を備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明は、以上説明したように、需要変動の大きさを地域ごと及び製品ごとに予め算出し、算出した結果を記憶装置に記憶させる算出手段、顧客の発注予定の製品名及びその製品の発注予定数量を受信し、顧客の所在する地域及び顧客の発注予定の製品名に対応する需要変動の大きさを記憶装置から取得するボラティリティ取得手段、及びこのボラティリティ取得手段によって取得された顧客の所在する地域及び顧客の発注予定の製品名に対応する需要変動の大きさに基づき、納期期間に対応する評価額であるオプション料を納期期間ごとに算出し、この算出したオプション料を反映した納期期間ごとの販売価格を顧客に提示する販売価格提示手段を備えたので、需要変動の大きさを含めた納期期間の評価を行い、販売価格へ反映させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1による受注システムを示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1による受注システムのデータベースにおける受注情報のテーブルとボラティリティ算出のためのデータ抽出を示す図である。
【図3】この発明の実施の形態1による受注システムの需要変動を説明する図である。
【図4】この発明の実施の形態1による受注システムの処理を示すフローチャートである。
【図5】この発明の実施の形態1による受注システムの顧客の端末画面に表示される表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による受注システムを示す構成図である。
図1において、受注システムは、販売側に配置されたコンピュータにより形成され、需要変動の大きさを算出するサーバ7と、販売側に配置されたコンピュータにより形成され、サーバ7により算出された需要変動の大きさに基づき、納期ごとの販売価格を算出し、顧客に提示するサーバ11と、顧客側に配置されたコンピュータにより形成され、発注のための入力を行うサーバ4とにより構成される。
サーバ4は、顧客が製品名と数量を入力する入力手段1を形成するプログラムと、サーバ11から掲示された納期期間別の販売価格を選択する選択手段2を形成するプログラムと、発注を行う発注手段3を形成するプログラムとを搭載している。
このサーバ4は、少なくともブラウザを有するものであればよい。自身で画面を表示できるように構成されていてもよく、また、サーバ11から入力画面の提供を受けるように構成されていてもよい。すなわち、何らかのパソコンであればよい。
【0010】
サーバ7は、記憶装置に形成され、リアルタイムに時刻別や地域別に受注情報を収集するデータベース5と、収集した受注情報から地域ごと及び製品ごとに予め需要変動の大きさ(ボラティリティ)を算出し、記憶装置に記憶させる算出手段6とを形成するプログラムを搭載している。
サーバ11は、顧客からの発注予定の製品名とその数量の入力を受け付け、顧客の所在する地域及び発注予定の製品に対応するボラティリティを記憶装置から取得する入力受付手段8(ボラティリティ取得手段)を形成するプログラムと、算出手段6により算出されたボラティリティと製品の基本価格を基に、金融工学で使用されるヨーロピアン・プット・オプションのオプション料をブラック=ショールズ式などにより各納期期間別に算出し、販売価格に反映して、顧客に提示する販売価格提示手段9を形成するプログラムと、顧客が提示された販売価格を選択し、発注した契約を完了させる契約手段10を形成するプログラムを搭載している。
これらのサーバ4、サーバ7、サーバ11と、サーバ4及びとサーバ11間の例えばイ
ンターネットであるインタフェース12と、サーバ7及びサーバ11間のインタフェース13により、需要変動を考慮した要求納期期間評価が可能な受注システムが構成される。
【0011】
図2は、この発明の実施の形態1による受注システムのデータベースにおける受注情報のテーブルとボラティリティ算出のためのデータ抽出を示す図である。
図2(a)は、データベースに保存される受注情報のテーブルを示す図であり、図2(b)は、入力受付手段からの問い合わせに基づき、図2(a)から抽出された受注情報である。
図2において、データベース5は、リレーショナルデータベースにおける受注情報のテーブルを有する。このテーブルでは、受注日、受注時刻、受注No(受注の識別子)、製品名、受注数、単価、納期(納期日時)、顧客名、顧客場所(顧客の住所がある地域別)のフィールドが定義されている。
【0012】
図3は、この発明の実施の形態1による受注システムの需要変動を説明する図である。
図3において、縦軸に需要、横軸に納期期間を取り、照会21は、納期期間が2日で、かつ需要変動80パーセントの期間を示し、照会22は、納期期間が5日で、かつ需要変動20パーセントの期間を示している。図では、明らかに照会21のボラティリティが大きい。このとき、販売価格から差し引かれる金額であるオプション料は、照会21>照会22となる。なお、ボラティリティは、需要の変動幅(縦軸方向の変動)によって示される。
【0013】
図4は、この発明の実施の形態1による受注システムの処理を示すフローチャートである。
【0014】
図5は、この発明の実施の形態1による受注システムの顧客の端末画面に表示される表示例を示す図である。
図5において、顧客側に表示される表示画面30には、製品名31と、数量32と、納期期間(希望日時)の選択33と、照会または契約した日付34と、会社名35と、支社(支店)名36と、オーダ番号37の各欄が設けられ、さらに、発注を行うための発注ボタン38が設けられている。
納期期間の選択33では、照会日を基準にして、それ以降の納品希望日時とそれに対応する販売価格が表示される。
【0015】
次に、受注システムの動作について、図4にしたがって説明する。
このシステムでは、まず、ステップS1とステップS2で、ボラティリティを算出し、記憶装置に記憶しておく。ステップS1では、この受注システムでの契約が成立したときの受注情報と、その他取引での受注情報が入力され、データベース5に格納される。この受注情報は、図5に示される画面に表示された各情報が含まれる。このような、地域別や製品別に受注情報が日々収集され、データベースに格納される。
【0016】
ステップS2(第一のステップ)では、算出手段6により、データベース5に格納された受注情報を基にして、地域ごと及び現時点でのボラティリティを算出し、記憶装置に記憶させる。
データベース5は、地域別や製品シリーズ別、製品別に受注情報を日々収集する。受注情報の具体的な保存方法(リレーショナルデータベースにおけるテーブル定義)とボラティリティ算出のためのデータ抽出の例を図2に示す。
まず、データベース5のフィールドを、受注日、受注時刻、受注の識別子、受注数、単価、納期日(納期日時)、顧客名、顧客の住所がある地域別に設ける。次に、入力受付手段8からの問い合わせ(日別や地域別、対象とするデータ期間)に従い、算出手段6で使用するデータを抽出する。
【0017】
算出手段6では、計量経済学で使用される、GARCH(Generalized Autoregressive Conditional Heteroskedasticity)もしくは移動平均法などを用いてボラティリティを算出する。これにより、現時点での希望するボラティリティが算出できる。
本稿では、GARCHによるボラティリティ推定法を使用する。
まず、データベース5から抽出した情報を、式(1)により、受注数の変動率の時系列データに加工する。
今回は受注数の変動率を用いたが、受注金額もしくは平均受注単価の変動率を使用するなど、現状に合わせる必要がある。
【0018】
【数1】

【0019】
なお、式(1)のIn()は自然対数関数である。この式(1)で求めたpは、あくまでt時点からt+1時点での受注数の変動率であり、その期間の変動の大きさ、つまりボラティリティを表しているわけではない。次に、下記GARCH(1,1)の式(2)ではpのみが必要であるため、式(1)で求めた時系列データのpを投入し、分散であるσの2乗を求め、ボラティリティであるσを1/2乗することで求めることができる。
今回はGARCH(1,1)のモデルを用いてボラティリティを推定する。ω、α、βはパラメータであり、対象の時系列データを基に最尤推定法や、モンテカルロ法を使ったベイズ推定法を行って推定する。y、εでのN(x,y)は、(平均、標準偏差)を表し、()内の数字である正規分布に従う確率変数である。
【0020】
【数2】

【0021】
これにより、現時点での希望するボラティリティが算出できる。
ステップS2のボラティリティの算出周期は、例えば、通常は1日周期とし、とくに需要変動の激しいときは、1時間周期とするなど、柔軟に運用することができる。
また、ステップS2での算出結果は、地域ごと及び製品ごとに記憶装置に記憶しておき、地域及び製品を特定すれば、その地域及び製品の現時点でのボラティリティが読み出せるようにしておく。
【0022】
上述のステップS1、S2は、準備段階である。
実際の運用に当たっては、ステップS3〜ステップS11をリアルタイムで実行する。まず、入力手段1により、顧客は希望する製品名と数量を入力する(ステップS3)と、この情報はインタフェース12から、入力受付手段8に伝達される。
入力受付手段8は、入力された情報を受信し(第二のステップ)、この受信した情報を基にして、顧客のいる地域を取得する(ステップS4)。これは図5の支社名36から県レベルの地域が取得できるようになっている。このため、会社名35と支社名36から地域が特定できるようなテーブルをデータベース5に設けておく。
次いで、製品の基本価格を取得する(ステップS5)。このための製品の価格情報はデータベース5に設けておく。さらに、算出手段6に問い合わせて、予め算出され、記憶されている地域ごと及び製品ごとのボラティリティのうちから、顧客がいる地域のその製品の現時点でのボラティリティσを取得する(第三のステップ)。
【0023】
次いで、販売価格提示手段9は、製品名と数量及び製品の基本価格並びに顧客がいる地域の現時点でのボラティリティσを基にして、各納期期間別のオプション料pを算出する(ステップS6、第四のステップ)。この算出方法は、ヨーロピアン・プット・オプションを算出するブラック=ショールズ式(式(3))や、バイノミアル・モデルなどを使用する。今回はブラック=ショールズ式を紹介する。
【0024】
【数3】

【0025】
ここで、Soは現在価格、Xは権利行使価格であるが、これを製品の基本価格とする。次に、σは需要変動の大きさであり、ボラティリティである。今回は予め算出手段6で算出した値を用いる。rはリスクフリーレートと呼ばれ、10年国債の利回りなど安全性の高い債権の利回りもしくは、ゼロとする。Tはオプションを行使するまでの期間(納期)であり、今回は各納期期間別で変化させる。なお、e−nのeは自然対数の底(ネイピア数)、N()は標準正規分布関数、ln()は自然対数関数である。
このブラック=ショールズ式より求めたオプション料pを、基本価格から差し引くか、基本価格から割り引くかを行うことで、現在の需要変動を考慮した格納期間別の販売価格を得ることができる。
【0026】
なお、図3に例を示しているが、例え納期が短くてもボラティリティが高い方がオプション料は高くなる。しかし、同じボラティリティならば納期が長い方が、オプション料は高くなることになる。
このようにして求めた納期別の販売価格を販売価格掲示手段9により、サーバ4に送信し、サーバ4で、図5のような画面で顧客に掲示させる(ステップS7、第四のステップ)。顧客は発注する場合(ステップS8:Y)、図5の画面上で、選択手段2により、納期期間と販売価格がセットになった選択肢のいずれかを選択する(ステップS9)。具体的には、画面30で、納期期間の選択33に表示された希望日時のいずれかを選択する。
次に、サーバ4の発注手段3により、発注情報を販売側のサーバ11に伝達する(ステップS10)。この発注手段3は、具体的には、図5の発注ボタン38を押下することにより行う。伝達された発注情報を基に契約手段10によって契約が完了となる(ステップS11)。
この契約情報は、図5の画面上に表示された、製品名31、数量32、選択された納期期間と、契約した日付34、会社名35、支社(支店)名36、オーダ番号37が含まれる。契約情報は、データベース5に受注情報として保存される(ステップS12)。
【0027】
実施の形態1によれば、顧客にとっては、自身の状況に合致した製品をリアルタイムに、オプション料が反映された販売価格で取得することが可能になる。
また、販売側は、顧客側に立った価格を提示し、需要変動の抑制に繋げることができる。
さらに、需要変動の大きいときは、最大値以上の在庫をもつ必要があったが、本発明によれば、在庫を減少させることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 入力手段
2 選択手段
3 発注手段
4 サーバ
5 データベース
6 算出手段
7 サーバ
8 入力受付手段
9 販売価格提示手段
10 契約手段
11 サーバ
12 インタフェース
13 インタフェース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
需要変動の大きさを地域ごと及び製品ごとに予め算出し、算出した結果を記憶装置に記憶させる算出手段、
顧客の発注予定の製品名及びその製品の発注予定数量を受信し、上記顧客の所在する地域及び上記顧客の発注予定の製品名に対応する上記需要変動の大きさを上記記憶装置から取得するボラティリティ取得手段、
及びこのボラティリティ取得手段によって取得された上記顧客の所在する地域及び上記顧客の発注予定の製品名に対応する上記需要変動の大きさに基づき、納期期間に対応する評価額であるオプション料を上記納期期間ごとに算出し、この算出したオプション料を反映した納期期間ごとの販売価格を上記顧客に提示する販売価格提示手段を備えたことを特徴とする受注サーバ。
【請求項2】
需要変動の大きさを地域ごと及び製品ごとに予め算出し、算出した結果を記憶装置に記憶させる第一のステップ、
顧客の発注予定の製品名及びその製品の発注予定数量を受信する第二のステップ、
上記顧客の所在する地域及び上記顧客の発注予定の製品名に対応する上記需要変動の大きさを上記記憶装置から読み出す第三のステップ、
この第三のステップにより読み出された上記顧客の所在する地域及び上記顧客の発注予定の製品名に対応する上記需要変動の大きさに基づき、納期期間に対応する評価額であるオプション料を上記納期期間ごとに算出し、この算出されたオプション料を反映した納期期間ごとの販売価格を上記顧客に提示する第四のステップを含み、
上記第一、第二、第三及び第四の各ステップをコンピュータにより実行させることを特徴とする受注プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−248651(P2011−248651A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121498(P2010−121498)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)