説明

受粉剤、水性受粉剤、花粉水性分散剤および受粉方法

【課題】花粉を散布により受粉させることができ、高い花粉発芽率と旺盛な花粉管の伸長を保持すると共に溶液内での均一な花粉の分散性、花の柱頭への花粉の付着性および付着した花粉の視認性を保持する花粉水性分散剤の調製に用いることができる受粉剤、水性受粉剤、花粉水性分散剤および受粉方法の提供。
【解決手段】花粉の発芽率を高めるための受粉剤であって、スクロースおよびソルビトールを必須成分として含有し、あるいはさらにプロリンを含有することを特徴とする受粉剤により課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受粉剤、水性受粉剤、花粉水性分散剤および受粉方法に関するものであり、さらに詳しくは、水性受粉剤に花粉を分散させた花粉水性分散剤を花の柱頭に散布して人工受粉を行うために使用する、受粉剤、水性受粉剤、花粉水性分散剤および受粉方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国の果樹産業では担い手の高齢化が進んでおり管理作業の省力化および軽労化が求められてきた。
中でも人工受粉作業は開花期間中という非常に限られた期間に行わなければならず労働力の確保が難しく、梵天を使用し花粉を一花ごとに手作業で受粉させなければならないため、省力的な人工受粉技術が強く求められ、多くの受粉装置や方法が提案されてきた。
【0003】
例えば、花粉を入れた容器から花粉を噴射して受粉させる花粉交配具(特許文献1参照)、植物全体に振動を与えて受粉させる自動受粉装置(特許文献2、3参照)、花粉に静電気を与え、雌しべとの間に電位差を生じさせて受粉させる果実花の受粉方法(特許文献4参照)、養蜂箱に改良を加え、蜜蜂の身体に花粉や殺菌剤などの薬剤を付着させて受粉させる蜜蜂による花粉の受粉方法およびその受粉交配装置(特許文献5参照)、石細胞にジベレリンなどの植物ホルモン、アミノ酸、核酸、訪花昆虫を誘引しうるマンニットなどの物質を吸着させた増量剤を花粉に対して2〜30倍混和し、羽毛を用いて果樹の花の柱頭に付着させて受粉する果樹花粉増量剤の品質改良方法(特許文献6参照)などがある。
【0004】
キウイフルーツの花粉を、寒天により粘度をもたせた水溶液に分散させて、これをスプレー散布して人工受粉を行う溶液受粉技術が記載されている(非特許文献1参照)。
この技術は、樹体や人体に与える影響はほとんどなく、取扱いは簡便且つ安全である。しかし、キウイフルーツでは既に実用化されているものの、それ以外の花粉では、水溶液に混入した場合、花粉が吸水により急激に膨張し、発芽力を急速に失ってしまうため、これまで成功例は報告されていない。
【0005】
この問題を解決するために、溶液に混合した花粉を散布により受粉させる技術は作業時間を大幅に短縮できること、少量の降雨時にも作業が可能なことから実用化が進んでいる。
例えば、油を用いて葯付き状態の花粉を精製する工程と、この油に浸漬した状態の精製花粉に多孔質粉粒を混和する工程と、この混和物を水溶液に分散して水性分散液を調製する工程と、この水性分散液を花に散布する工程とを含む溶液受粉方法が提案されている(特許文献7、8参照)。
【0006】
溶液受粉の際に使用する前記水性分散液に、スプレーなどを用いて散布できるように、寒天、ゼラチン、グリセリン、ポリアクリル酸塩、キサンタンガムなどの増粘剤と、花粉管の伸長を促進するためのスクロースやグルコースなどの糖類を、花粉の発芽率に悪影響を及ぼさない範囲内で混ぜた液体増量剤を添加すること、必要に応じて油にトコフェロール、オリザノール、リコピンなどの抗酸化剤を添加したり、アニオン系界面活性剤、カチオン系のアミン塩類の界面活性剤、両性イオン系のアミノ酸型界面活性剤、非イオン系の界面活性剤を油や水性分散液に添加できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−306942号公報
【特許文献2】特開2002−112653号公報
【特許文献3】特開平7−289105号公報
【特許文献4】特開平4−287622号公報
【特許文献5】特開平6−141717号公報
【特許文献6】特開昭52−47436号公報
【特許文献7】特開2008−72920号公報
【特許文献8】特開2006−246702号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】矢野隆,「液体増量剤を用いたキウイフルーツの人工受粉」,果試ニュース,愛媛県立果樹試験場,平成15年3月,第18号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記溶液受粉方法は、油を用いて葯付き状態の花粉を精製する工程と、この油に浸漬した状態の精製花粉に多孔質粉粒を混和する工程と、この混和物を水溶液に分散して水性分散液を調製する工程と、この水性分散液を花に散布する工程とを含むので、花粉を散布により受粉させることができるので作業時間を大幅に短縮できるなどの利点があるが、花粉処理に手間がかかり、コストアップになる問題があった。
【0010】
本発明の第1の目的は、花粉を散布により受粉させることができ、高い花粉発芽率と旺盛な花粉管の伸長を保持すると共に剤内での均一な花粉の分散性、花の柱頭への花粉の付着性および付着した花粉の視認性を保持する花粉水性分散剤の調製に用いることができる受粉剤であって、作物の生産現場において受粉剤を使用することで生産者がより安心して使用できる受粉剤を提供することである。
本発明の第2の目的は、本発明の受粉剤を水に溶解して調製することができる水性受粉剤を提供することである。
本発明の第3の目的は、本発明の水性受粉剤を花粉を分散して調製することができる花粉水性分散剤であって、人工受粉作業の省力化および軽労化を実現することができる花粉水性分散剤を提供することである。
本発明の第4の目的は、本発明の花粉水性分散剤を花の柱頭に散布することにより受粉させる、人工受粉作業の省力化および軽労化を達成できる受粉方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意研究に努めた結果、前記従来技術には、花粉の発芽と花粉管の伸長を向上させることを目的としてスクロースおよびソルビトールを添加した受粉剤は記載がなく、また、それにさらにプロリンを添加した受粉剤も記載がないことを見いだし、そしてスクロースおよびソルビトールを混用した、あるいはさらにプロリンを添加した受粉剤の水性受粉剤を用いることにより、この水性受粉剤に花粉を分散させた花粉水性分散剤を容易に調製することができ、この花粉水性分散剤を、花の柱頭に散布して受粉させることにより、花粉の発芽率と花粉管の伸長を高めることができることを見いだし本発明を完成するに至った。
【0012】
また、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを添加することで花粉水性分散剤内における花粉の均一な分散性を付与でき、モモ樹脂を添加することで花粉水性分散剤の粘性を高めて花の柱頭への付着性を付与でき、食紅を添加することで花器付着の視認性を付与できることを見いだし、さらに、カルシウムを添加することで受粉剤を特殊肥料としても有用であることを見出し本発明を完成するに至った。
【0013】
前記課題を解決するための本発明の請求項1は、花粉の発芽率を高めるための受粉剤であって、スクロースおよびソルビトールを必須成分として含有し、あるいはさらにプロリンを含有することを特徴とする受粉剤である。
【0014】
本発明の請求項2は、請求項1記載の受粉剤において、さらに、ポリオキシアルキレンエーテル、モモ樹脂、食紅から選ばれる少なくとも1つを含有することを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項3は、請求項1あるいは請求項2記載の受粉剤において、さらに、カルシウムを含有することを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項4は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の受粉剤を用いて調製された、少なくともスクロースを5〜40質量%、ソルビトールを2〜20質量%、あるいはさらにプロリンを5〜100質量ppm含有し、残部が水であることを特徴とする水性受粉剤である。
【0017】
本発明の請求項5は、請求項4記載の水性受粉剤に花粉を分散させたことを特徴とする花粉水性分散剤である。
【0018】
本発明の請求項6は、請求項5記載の花粉水性分散剤を、花の柱頭に散布して受粉させることを特徴とする受粉方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の請求項1は、花粉の発芽率を高めるための受粉剤であって、スクロースおよびソルビトールを必須成分として含有し、あるいはさらにプロリンを含有することを特徴とする受粉剤であり、
作物の生産現場において生産者がより安心して使用できる受粉剤であり、作物の生産現場において受粉剤と水を用いて水性受粉剤を調製し、この水性受粉に花粉を分散させて花粉水性分散剤を手間がかからずに容易に調製することができ、そして、この花粉水性分散剤を用いて散布により受粉させることができるので作業時間を大幅に短縮でき、経済性に優れるなどの利点があり、かつ、この花粉水性分散剤は花粉の均一分散性および花の柱頭への花粉の付着性に優れており、花の柱頭に散布して受粉させることにより、花粉の発芽率と花粉管の伸長を高めることができるという顕著な効果を奏する。
【0020】
本発明の請求項2は、請求項1記載の受粉剤において、さらに、ポリオキシアルキレンエーテル、モモ樹脂、食紅から選ばれる少なくとも1つを含有することを特徴とするものであり、
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを添加することで水性受粉剤内における花粉の均一な分散性をより確実に付与でき、モモ樹脂を添加することで花の柱頭への付着性をより確実に付与でき、食紅を添加することで花器付着の視認性をより確実に付与できるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0021】
本発明の請求項3は、請求項1あるいは請求項2記載の受粉剤において、さらに、カルシウムを含有することを特徴とするものであり、
カルシウムを添加した受粉剤は特殊肥料として有用であるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0022】
本発明の請求項4は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の受粉剤を用いて調製された、少なくともスクロースを5〜40質量%、ソルビトールを2〜20質量%、あるいはさらにプロリンを5〜100質量ppm含有し、残部が水であることを特徴とする水性受粉剤であり、
スクロースおよびソルビトールを所定の範囲で含有し、あるいはさらにプロリンを所定の範囲で含有することにより、より確実に花粉の発芽率と花粉管の伸長を高めることができるという顕著な効果を奏する。
【0023】
本発明の請求項5は、請求項4記載の水性受粉剤に花粉を分散させたことを特徴とする花粉水性分散剤であり、
作物の生産現場において生産者がより安心して調製したり使用できる花粉水性分散剤であり、花粉の均一分散性および花の柱頭への花粉の付着性に優れており、花の柱頭に散布により受粉させることができるので、作業時間を大幅に短縮でき、経済性に優れ、花粉の発芽率と花粉管の伸長を高めることができるという顕著な効果を奏する。
【0024】
本発明の請求項6は、請求項5記載の花粉水性分散剤を、花の柱頭に散布して受粉させることを特徴とする受粉方法であり、
作物の生産現場において生産者がより安心して作業でき、作業時間を大幅に短縮でき、経済性に優れ、かつ花粉の発芽率と花粉管の伸長を高めることができるという顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の受粉剤、水性受粉剤、花粉水性分散剤および受粉方法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に本発明の受粉剤、水性受粉剤、花粉水性分散剤および受粉方法を図1を用いて詳細に説明する。
図1(イ)に示したように、まず、スクロース1およびソルビトール2を必須成分とし、あるいはさらにプロリン3をそれぞれ所定量配合して常温、常圧にてよく混合して本発明の受粉剤4を調製する。
本発明の受粉剤4は各粉体成分の粉体混合物であってもよく、この粉体混合物を適宜製剤化した製剤であってもよい。
調製した受粉剤4は安定性に優れており、図示しないバリアー性容器に密封包装することにより常温、常圧にて長期にわたり保存することができる。
受粉剤4を包装、貯蔵するなどの際には、鼠などによる蝕害に注意する必要がある。
【0027】
次いで、図1(ロ)に示したように、例えば生産者がこの受粉剤4を用いて、作物の生産現場において所定量の水5を配合して常温、常圧にてよく混合してスクロースを5〜40質量%、ソルビトールを2〜20質量%、あるいはさらにプロリンを5〜100質量ppm含有し、残部が水である本発明の水性受粉剤6を調製することができる。
もちろん、生産現場でなく、別途、この受粉剤4を用いて所定量の水5を配合して常温、常圧にてよく混合して、本発明の水性受粉剤6を調製することもできる。
本発明の水性受粉剤6は、各成分のそれぞれの配合量によっては、各成分が水によく溶解した流動性のよい水溶液の状態であったり、あるいは、各成分が水に溶解しているがゼリー状の粘性体の状態であったりするが、本発明においては、いずれも使用できる。
殺虫剤、除草剤、殺菌剤などの農薬成分は、花粉の発芽率に悪影響を及ぼすため、本発明の受粉剤や水性受粉剤などに混入しないようにする必要が有り、例えば各成分を計量したり、溶解したりする際に使用する容器などはよく洗浄して使用することが必要である。
【0028】
本発明で用いる水は化学的および生物学的に清潔な水であれば良く特に限定されるものではなく、水道水、井戸水、イオン交換水などあるいはこれらの2種以上の混合物を挙げることができる。
【0029】
そして図1(ハ)に示したように、この水性受粉剤6に別に用意した花粉7を投入して分散して花粉水性分散剤8を調製する。
本発明の花粉水性分散剤8は、使用する水性受粉剤6により花粉が分散した流動性のよい水溶液の状態であったり、あるいは、花粉が分散したゼリー状の粘性体の状態であったりするが、本発明においては、いずれも使用できる。
低温で保存した花粉を使用する場合には、例えば、低温で保存した花粉を室温で2時間程度さらして馴化して使用する。
【0030】
そして図1(ニ)に示したように、この花粉水性分散剤8をスプレー9を用いて花の柱頭に散布して受粉させる。花粉水性分散剤8を均一に散布するためには散布する際に、機械的あるいは手動でスプレーを振動させながら散布することが好ましい。
【0031】
本発明の花粉水性分散剤を散布して、花粉を花の柱頭に付着させる必要があるため花の柱頭に直接散布する必要があり結実率の向上の観点から、開花時に散布することが好ましい。
【0032】
本発明の花粉水性分散剤の散布方法は、特に限定されるものではなく市販の散布手段や装置を用いることができる。
【0033】
本発明の花粉水性分散剤の散布量は、少なくとも1個の有効花粉が花の柱頭に付着することが目視できればよく、特に限定されるものではない。後述するように全花粉水性分散剤中に花粉が0.25質量%以上含まれる花粉水性分散剤を使用することによって、確実に受粉できる確率を向上できる。
【0034】
本発明で用いる花粉は特に限定されるものではなく、どのような種類の花粉でも使用できる。本発明で用いる花粉は具体的には例えば、純花粉、粗花粉などを挙げることができる。
【0035】
本発明で用いるスクロースは特に限定されるものではなく、市販品を使用できる。具体的には、例えば、グラニュー糖を挙げることができる。
【0036】
本発明で用いるソルビトールは特に限定されるものではなく、市販品を使用できる。具体的には、例えば、花王社製、協和発酵社製などのソルビトールを挙げることができる。
【0037】
本発明で用いるプロリン(ピロリジン−2−カルボン酸)は特に限定されるものではなく、市販品を使用できる。具体的には、例えば、味の素社製、協和発酵社製、日本化薬社製などを挙げることができる。
【0038】
本発明で用いるスクロース、ソルビトール、プロリンの水性受粉剤中の濃度はスクロースは5〜40質量%、好ましくは20〜30質量%、ソルビトールは2〜20質量%、好ましくは5〜10質量%、プロリンは5〜100質量ppm、好ましくは10〜90質量ppmであり、残部は水である。
【0039】
スクロースが5質量%未満では花粉の発芽率と花粉管の伸長を高めることができない恐れがあり、40質量%を超えると花粉の発芽率と花粉管の伸長を高めることができない恐れがある。
【0040】
ソルビトールが2質量%未満では花粉が吸水により急激に膨張し発芽力を急激に失う恐れがあり、20質量%を超えると花粉の発芽率と花粉管の伸長を高めることができない恐れがある。
【0041】
プロリンが5質量ppm未満では花粉の発芽率と花粉管の伸長をさらに高めることができない恐れがあり、そして100質量ppmを超えるとそれ以上は花粉の発芽率と花粉管の伸長を高まらない恐れがある。
【0042】
本発明で用いるポリオキシアルキレンエーテルは特に限定されるものではなく市販品を使用できる。具体的には例えば、花王社製を挙げることができる。
全水性受粉剤中にポリオキシアルキレンエーテルは10〜40質量ppmが好ましく、30〜40質量ppmがさらに好ましい。
ポリオキシアルキレンエーテルが10質量ppm未満では、花粉の均一分散性を向上できない恐れがあり、40質量ppmを超えると花粉の発芽率と花粉管の伸長を高めることができない恐れがある。
【0043】
本発明で用いるモモ樹脂は、モモの木から分泌される樹脂分を精製したものであり、食品衛生法および栄養改善法の一部を改正する法律(平成7年法律第101号)付則第2条第4項に規定する既存添加物名簿(平成8年4月16日厚生省告示第120号)法律第101号)に記載されているものである。
全水性受粉剤中にモモ樹脂は1〜3質量%が好ましく、1〜2質量%がさらに好ましい。
モモ樹脂が1質量%未満では花粉の柱頭への付着性を十分に付与できない恐れがあり、3質量%を超えるとモモ樹脂が溶解しない恐れがある。
【0044】
本発明で用いる食紅は特に限定されるものではなく市販品を使用できる。具体的には例えば、食用赤色104号を挙げることができる。
全水性受粉剤中に食紅は5〜100質量ppmが好ましく、50〜100質量ppmがさらに好ましい。
食紅が5質量ppm未満では柱頭への付着の視認性を高めることができない恐れがあり、100質量ppmを超えると花粉の発芽率と花粉管の伸長を高めることができない恐れがある。
【0045】
本発明で用いるカルシウムは特に限定されるものではなく、市販品を使用でき、具体的には例えば、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、硝酸カルシウムなどを挙げることができる。
全水性受粉剤中にカルシウム(Caとして)は200質量ppmが好ましく、400質量ppmがさらに好ましい。
カルシウムが200質量ppm未満では特殊肥料になり得ない恐れがあり、400質量ppmを超えると花粉の発芽率と花粉管の伸長を高めることができない恐れがある。
【0046】
前記のように本発明の花粉水性分散剤は、本発明の受粉剤を水に溶解させ、この水性受粉剤に花粉を分散させて調製することができる。
本発明の花粉水性分散剤中の花粉の濃度は特に限定されるものではないが、全花粉水性分散剤中に花粉は0.25質量%以上が好ましい。花粉が0.25質量%未満では受粉しない恐れがある。
【0047】
花粉を分散させた本発明の花粉水性分散剤を用いると、花粉が急激に膨張して発芽しなくなることがなく、発芽率が高まることについての作用機作の解明はできていないが、スクロースおよびソルビトールは溶液中の浸透圧の調整作用があることおよび花粉の栄養分としての作用があること、およびプロリンも花粉の栄養分として働いていることによると考えられる。もちろんこの考え方に限定されるものではない。
【0048】
本発明において、スクロースおよびソルビトールの2成分は必須成分であり、この2成分の混用でなければならない。さらに花粉の栄養成分としてのプロリンを添加することでさらに花粉の発芽率を高めることができる。
【0049】
本発明の花粉水性分散剤に、花粉の分散に有効なポリオキシアルキレンエーテルの他に、花の柱頭への付着性に有効なモモ樹脂、花の柱頭への付着の視認性に有効な食紅などとの混用も必要に応じて適宜行うことができる。
花粉の発芽率を保持・改善する効果、分散性を高める効果、花の柱頭への付着性を高める効果および花の柱頭への付着の視認性を高める効果を兼ね備えた施用を行うことで、人工受粉における省力化だけでなく、より高い結実率を得ることができる。そして、花粉を直接花の柱頭に付着させて受粉させる従来の人工受粉作業を、安心して溶液受粉へ変更することができる。
【0050】
本発明の受粉剤、水性受粉剤、花粉水性分散剤に、は本発明の主旨を逸脱しない限り、公知の各種の添加剤を配合することができる。例えば、安息香酸ナトリウム、メチルパラベンなどの防腐剤を配合すれば腐敗を防止でき、その他、寒天、キサンタンガムなどの増粘剤を挙げることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例および比較例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
なお以下の実施例および比較例に記載の%、ppmは、質量%、質量ppmをそれぞれ示す。
【0052】
(実施例1)
(本発明の受粉剤の調製)
スクロース(関東化学社製)およびソルビトール(関東化学社製)を所定量配合してミキサーを用いて常温、常圧にてよく混合して受粉剤を調製した。
【0053】
(本発明の水性受粉剤の調製)
この受粉剤を用いて、所定量の水を配合してミキサーを用いて常温、常圧にてよく混合して本発明の水性受粉剤(スクロース10%およびソルビトール5%、残部は水)を調製した。
【0054】
(本発明の花粉水性分散剤の調製)
この水性受粉剤にモモの花粉(山梨県産)を常温、常圧にてよく混合してモモの花粉0.25%分散・懸濁して含有する本発明の花粉水性分散剤(1)を調製した。
【0055】
このようにして調整した本発明の花粉水性分散剤(1)を用いて、花粉の発芽率を調査した。
【0056】
(花粉発芽率測定法)
本発明の花粉水性分散剤(1)を用いて、25℃で、2時間インキュベートする。インキュベートした本発明の花粉水性分散剤(1)は、あらかじめスクロースを10%および寒天を1.5%溶解しプレーティングしたシャーレ上に200μリットルプレーティングし、25℃で3時間インキュベートした。
3時間後、実体顕微鏡により100倍の拡大率の下で発芽および未発芽の花粉の割合を調査し花粉発芽率を算出した。その結果を表1に示す。
【0057】
(比較例1)
ソルビトールを用いなかった以外は実施例1と同様にして、比較の花粉水性分散剤を調製し、花粉の発芽率を調査した。その結果を表1に示す。
【0058】
(比較例2)
スクロースを用いなかった以外は実施例1と同様にして、比較の花粉水性分散剤を調製し、花粉の発芽率を調査した。その結果を表1に示す。
【0059】
(比較例3)
花粉水性分散剤を用いず、水のみの比較の花粉水性分散剤を調製し、花粉の発芽率を調査した。その結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示したように、本発明の花粉水性分散剤(1)を用いた場合、比較例1のスクロース単独の花粉水性分散剤および比較例2のソルビトール単独の花粉水性分散剤を用いた場合に比べ、花粉の発芽率が高いことが判る。比較例3において、水のみの比較の花粉水性分散剤を用いた場合は発芽しなかった。
【0062】
(実施例2)
(本発明の受粉剤の調製)
スクロース(関東化学社製)およびソルビトール(関東化学社製)およびプロリン(関東化学社製)を所定量配合してミキサーを用いて常温、常圧にてよく混合して受粉剤を調製した。
【0063】
(本発明の水性受粉剤の調製)
この受粉剤を用いて、所定量の水を配合してミキサーを用いて常温、常圧にてよく混合して本発明の水性受粉剤(スクロース10%およびソルビトール5%およびプロリン50ppm、残部は水)を調製した。
【0064】
(本発明の花粉水性分散剤の調製)
この水性受粉剤にモモの花粉(山梨県産)を常温、常圧にてよく混合してモモの花粉0.25%分散・懸濁して含有する本発明の花粉水性分散剤(2)を調製した。
【0065】
このようにして調整した本発明の花粉水性分散剤(2)を用いて、実施例1と同様にして花粉の発芽率を調査した。
その結果、発芽率は90.3%であった。
プロリンを使用しなかった実施例1の発芽率は83.9%であり、プロリンを使用した実施例2の発芽率は90.3%であるので、プロリンは発芽率を向上させることが判った。
【0066】
(実施例3)
(本発明の受粉剤の調製)
スクロース(関東化学社製)およびソルビトール(関東化学社製)およびプロリンおよびモモ樹脂を所定量配合してミキサーを用いて常温、常圧にてよく混合して受粉剤を調製した。
【0067】
(本発明の水性受粉剤の調製)
この受粉剤を用いて、所定量の水を配合してミキサーを用いて常温、常圧にてよく混合して本発明の水性受粉剤(スクロース10%およびソルビトール5%およびプロリン50ppm、モモ樹脂2%、残部は水)を調製した。
【0068】
(本発明の花粉水性分散剤の調製)
この水性受粉剤にモモの花粉(山梨県産)を常温、常圧にてよく混合してモモの花粉0.25%分散・懸濁して含有する本発明の花粉水性分散剤(3)を調製した。
このようにして調整した本発明の花粉水性分散剤(3)を用いて、サクランボの花房を10秒間浸漬した後、付着した液量を測定し、花の柱頭への付着性を調査した。
【0069】
そして、実施例3と同様にして、実施例2で調製した本発明の花粉水性分散剤(2)を用いて、サクランボの花房を10秒間浸漬した後、付着した液量を測定し、花の柱頭への付着性を調査した。
その結果、実施例2の本発明の花粉水性分散剤(2)の花の柱頭への付着量を100とすると、実施例3の本発明の花粉水性分散剤(3)の花の柱頭への付着量は120であった。
このように、本発明の花粉水性分散剤(3)を用いた場合、実施例2のモモ樹脂(ピーチガム)無添加の場合に比べ、花器への付着性が高いことが判った。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の受粉剤は、花粉の発芽率を高めるための受粉剤であって、スクロースおよびソルビトールを必須成分として含有し、あるいはさらにプロリンを含有することを特徴とする受粉剤であり、
作物の生産現場において生産者がより安心して使用できる受粉剤であり、作物の生産現場において受粉剤と水を用いて水性受粉剤を調製し、この水性受粉に花粉を分散させて花粉水性分散剤を手間がかからずに容易に調製することができ、そして、この花粉水性分散剤を用いて散布により受粉させることができるので作業時間を大幅に短縮でき、経済性に優れるなどの利点があり、かつこの花粉水性分散剤は花粉の均一分散性および花の柱頭への花粉の付着性に優れており、花の柱頭に散布して受粉させることにより、花粉の発芽率と花粉管の伸長を高めることができるという顕著な効果を奏するので、産業上の利用価値は甚だ大きい。
【符号の説明】
【0071】
1 スクロース
2 ソルビトール
3 プロリン
4 受粉剤
5 水
6 水性受粉剤
7 花粉
8 花粉水性分散剤
9 スプレー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
花粉の発芽率を高めるための受粉剤であって、スクロースおよびソルビトールを必須成分として含有し、あるいはさらにプロリンを含有することを特徴とする受粉剤。
【請求項2】
さらに、ポリオキシアルキレンエーテル、モモ樹脂、食紅から選ばれる少なくとも1つを含有することを特徴とする請求項1記載の受粉剤。
【請求項3】
さらに、カルシウムを含有することを特徴とする請求項1あるいは請求項2記載の受粉剤。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の受粉剤を用いて調製された、少なくともスクロースを5〜40質量%、ソルビトールを2〜20質量%、あるいはさらにプロリンを5〜100質量ppm含有し、残部が水であることを特徴とする水性受粉剤。
【請求項5】
請求項4記載の水性受粉剤に花粉を分散させたことを特徴とする花粉水性分散剤。
【請求項6】
請求項5記載の花粉水性分散剤を、花の柱頭に散布して受粉させることを特徴とする受粉方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−275252(P2010−275252A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131012(P2009−131012)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(391029495)エーザイ生科研株式会社 (5)
【Fターム(参考)】