説明

受話信号周波数特性補正方式およびその方式に用いるハンドセット

【目的】ハンドセットの受話口の耳への当て方によらず、受話口と耳との間の音(実耳音)が常に所望の周波数帯で平坦な聴き易い受話音質になるように、実耳音の周波数特性を監視しながら、受話信号の周波数特性を補正することができる受話信号周波数特性補正方式およびその方式に用いるハンドセットを提供する。
【構成】受話口面の表面側だけの実耳受話音を検出するために検出マイクロホンが配置されたハンドセットを用い、その検出マイクロホンの出力を複数分割した各周波数帯検出信号レベルと、受話入力を前記複数と同数に分割した各周波数帯受話信号レベルとの比較出力に従って、前記各周波数帯受話信号レベルを制御した出力を合成して得られる合成出力を前記ハンドセットの受話器に供給するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、受話信号の周波数特性を補正する方式およびその方式に用いるハンドセットに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来の電話通信では、例えば通話者が聴覚に障害がある場合等において受話器または受話回路の周波数特性を高域が強調される特性になるように修正する等の受話信号の周波数特性に対する補償対策がとられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、通常の通話時において、ハンドセットの受話口を耳に当てて、電話受話通話をする時、受話口の耳への当て方によって受話の音質が変化する。すなわち、受話口を耳に軽く当てると、受話口と耳との間に隙間が出来て、受話口と耳の間の音(実耳音)のうち低域が漏洩して、かすれたような硬い音になる。また、耳に受話口をしっかり当てると、受話口と耳との間に隙間が小さくなり、受話音の低域の漏洩量も小さくなって、低域から高域まで平坦な聴きやすい音質になる。しかし、このように、しっかり当てると耳が痛くなったり、しっかり当てているつもりが当て方がゆるくなってきたりして、低域が減衰した音量の低い受話音になってしまうことになる。
【0004】本発明の目的は、ハンドセットの受話口の耳への当て方によらず、受話口と耳との間の音(実耳音)が常に所望の周波数帯で平坦な聴き易い受話音質になるように、実耳音の周波数特性を監視しながら、受話信号の周波数特性を補正することができる受話信号周波数特性補正方式およびその方式に用いるハンドセットを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】この目的を達成するために、本発明による受話信号周波数特性補正方式は、ハンドセットの受話口面の表面側だけの実耳受話音を検出するために配置された検出マイクロホンの出力を複数分割した各周波数帯検出信号レベルと、受話入力を前記複数と同数に分割した各周波数帯受話信号レベルとの比較出力に従って、前記各周波数帯受話信号レベルを制御した出力を合成して得られる合成出力を前記ハンドセットの受話器に供給するように構成されている。また、本発明によるハンドセットは、ハンドセットの受話口面に、該受話口面の表面側だけの実耳受話音を検出するために検出マイクロホンが配置された構成を有している。
【0006】
【実施例】図1は、本発明方式の概略構成を示すブロック図であり、図2は本発明によるハンドセットの構造例を示す斜視図(a)及び断面図(b)である。図1及び図2(a)(b)のようにハンドセット1の受話口1Aのへこみ面2に、実耳音を検出するマイクロホン3を実装する。4は受話器、5は受話増幅器、6は周波数特性補正回路、7はピックアップ増幅器である。8はゴム,シリコン,エポキシ等のパッキングであり、マイクロホン3の背面を完全密閉し、マイクロホン3がハンドセット1の受話口1Aのへこみ面の正面側の音だけを検知するように設けられている。図1において、受話入力の信号ポイント■の信号を複数に分割した各周波数帯の検出信号レベルAと、実耳音を検出したマイクロホン3の出力を増幅するピックアップ増幅器7の出力点の信号ポイント■の信号を複数に分割した各周波数帯の受話信号レベルBを比較して、その差分dEi により周波数補正回路6で周波数特性を補正して、実耳受話音の周波数をフラットに(例えば、低域が低下したりしないで)再生することができる。
【0007】図3は、周波数特性補正回路6の一例を示すもので、実耳受話検出マイクロホン3の出力を適正に増幅された信号ポイント■の信号は、バンドパスフィルタ61−1〜61−iで、中心周波数f1 ,f2 ,f3 ,…fi の周波数バンドに分割される。このように分割した後、バンド毎に対数圧縮器62−1〜62−iにそれぞれ接続する。また、受話入力信号Sinは、バンドパスフィルタ64−1〜64−iで同じ中心周波数f1 ,f2 ,f3 ,…fi の周波数バンドに分割する。このように分割した後、各バンド毎に、対数圧縮器67−1〜67−iにそれぞれ接続し、さらに並列に接続で外部入力で増幅度を制御できる増幅器62−1〜62−iにそれぞれ接続する。同じ周波数バンドの実耳受話音のバンド出力レベルAと、受話信号入力Sinのバンド出力レベルBを比較器63−1〜63−iでそれぞれ比較してそのレベル差が、規定のレベル差になるように、外部入力で増幅度を制御することができる各利得可変増幅器65−1〜65−iの増幅度を調整する。これらの利得可変増幅器65−1〜65−iの出力の各バンドを合成回路66で合成して、受話駆動増幅器5に入力し、受話器4から音を出す。62−1〜62−iと67−1〜67−iは比較器63−1〜63−iの比較レベル範囲を広くとるために挿入した対数圧縮器である。
【0008】レベル比較と、規定のレベル差になるようにする制御動作について、さらに説明する。実耳受話音検出マイクロホン3の出力が、バンドパスフィルタ61−1〜61−iを通った後、対数圧縮器62−1〜62−iで対数圧縮する(A)。受話入力信号Sinがバンドパスフィルタ64−1〜64−iを通った後、対数圧縮器67−1〜67−iで対数圧縮し(B)、また並列接続で外部入力電圧で利得を変える増幅器(VCA)65−1〜65−iに入る。対数圧縮された信号A,Bの差分dEi =B−Aをとり、このB−Aの電圧で利得可変増幅器65−1〜65−iの各利得を制御する。ハンドセット1の受話口1Aの耳への当て方が軽くて、実耳受話音検出マイクロホン3の信号ポイント■への出力が小さい時は、Aが小さいのでB−Aが大きくなり、B−Aが大きいから利得可変増幅器65−1〜65−iの利得が大きくなり実耳受話音が小さい状態から所要の大きさに増大する。逆に、ハンドセット1の受話口2の耳への当て方が強くて、実耳受話検出マイクロホン3の出力が大きい時は、Aが大きいのでB−Aが小さくなり、B−Aが小さいから利得可変増幅器65−1〜65−iの利得が小さくなり実耳受話音が大きい状態から所要の大きさに減少する。
【0009】図4は、周波数特性補正回路6の他の1例を示すもので、実耳受話検出マイクロホン3の信号ポイント■への出力をバンドパスフィルタ61−1〜61−iで分割した後、信号bとして、割り算回路(a/b)68−1〜68−iにそれぞれ入力する。また、受話入力信号Sinは、バンドパスフィルタ64−1〜64−iで分割した後、信号aとして、割り算回路68−1〜68−iにそれぞれ入力する。割り算回路68−1〜68−iの出力は、掛け算回路69−1〜69−iにそれぞれ入力する。また、掛け算回路69−1〜69−iには、設定値d1 〜di が定数発生回路71−1〜71−iからそれぞれ入力する。掛け算回路69−1〜69−iの出力は、ステップ制御回路70−1〜70−iにそれぞれ入力する。ステップ制御回路70−1〜70−iの出力は、利得可変増幅器65−1〜65−iの利得制御信号として制御レベルを時間的にステップ変化を与えながら、利得可変増幅器65−1〜65−iに対してそれぞれ出力される。実耳受話音検出マイクロホン3の信号ポイント■への出力が小さいと、信号bが小さくなり、割り算回路68−1〜68−iの出力は大きくなる。掛け算回路69−1〜69−iの出力は(a/b)×dとなって、設定値dのa/b倍の出力すなわち大きな出力が、ステップ制御回路70−1〜70−iにそれぞれ入力される。ステップ制御回路70−1〜70−iは、利得可変増幅器65−1〜65−iの利得をステップ状に上げていく。結果的に、実耳受話音が大きくなって、実耳受話音検出マイクロホン3の出力は大きくなっていく。
【0010】図3,図4の補正回路において、各バンドの実耳受話音が所要の大きさに制御されると、低域から高域まで平坦な実耳受話音が実現できる。図5はその一例を示す実耳受話音の周波数特性であり、(1)は受話口1Aを軽く耳に当てた場合、(2)は受話口1Aを強く耳に当てた場合、(3)は本発明により平坦に補正した場合を示す。なお、矢印で示すdEi は上記のように本発明で補正される差分である。
【0011】以上は、受話口1Aにへこみ面2が存在する場合について説明したが、受話口の面がへこみ面のない平坦な形状を有する場合には、耳に当てられたとき耳殻内側に対向する位置の受話口の面に検出マイクロホンを配置すればよい。
【0012】
【発明の効果】以上詳細に説明したように、本発明によれば、ハンドセットの受話口を耳に軽く当ててもまた強く当てても常に所望の帯域で平坦な聴き易い受話音質が得られるため、電話信号の受話をするハンドセットに適用して多大の効果を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明方式の実施例を示すブロック図である。
【図2】本発明によるハンドセットの構造例を示す斜視図(a)及び断面図(b)である。
【図3】本発明方式に用いる周波数特性補正回路の1例を示すブロック図である。
【図4】本発明方式に用いる周波数特性補正回路の他の例を示すブロック図である。
【図5】本発明方式の動作を説明するための特性図である。
【符号の説明】
1 ハンドセット
1A ハンドセットの受話口
2 へこみ面
3 検出マイクロホン
4 受話器
5 受話増幅器
6 周波数特性補正回路
7 ピックアップ増幅器
8 パッキング
61−1〜61−i,64−1〜64−i バンドパスフィルタ
62−1〜62−i,67−1〜67−i 対数圧縮器
63−1〜63−i 比較器
65−1〜65−i 利得可変増幅器
66 合成回路
68−1〜68−i 割り算回路
69−1〜69−i 掛け算回路
70−1〜70−i ステップ制御回路
71−1〜71−i 定数発生回路
r 受話ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ハンドセットの受話口面の表面側だけの実耳受話音を検出するために配置された検出マイクロホンの出力を複数分割した各周波数帯検出信号レベルと、受話入力を前記複数と同数に分割した各周波数帯受話信号レベルとの比較出力に従って、前記各周波数帯受話信号レベルを制御した出力を合成して得られる合成出力を前記ハンドセットの受話器に供給するように構成された受話信号周波数特性補正方式。
【請求項2】 ハンドセットの受話口面に、該受話口面の表面側だけの実耳受話音を検出するために検出マイクロホンが配置されたハンドセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開平8−18629
【公開日】平成8年(1996)1月19日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−173138
【出願日】平成6年(1994)7月4日
【出願人】(000000181)岩崎通信機株式会社 (133)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)