説明

受話器

【課題】受話器の周波数対音響出力特性を広い周波数領域にわたって平坦化する。
【解決手段】スピーカからの音波が前気室空間を伝播して受話口壁部に設けられた音孔から外部へ出力される受話器において、受話口壁部の内面の少なくとも4分の1の面積を占める中央部分を閉塞し、音孔を、上記中央部分の領域と前気室空間の周壁との間の領域に位置づける。するとスピーカが発する音波は、前気室空間内を、受話口壁部の周壁側に設けられた音孔の内部開口へ向け伝播するから、上記音波は振動板の中心近傍の極めて狭い領域で互いに接するだけとなって、前気室空間における音波の気流の乱れを少なくできて(高周波領域における音波の減衰を少なくできて)、受話器の周波数対音響出力特性を広い周波数領域にわたって平坦化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電話機のハンドセット等において使用される受話器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のアナログ電話回線は、伝送周波数帯域の上限が3ないし3.4kHzであるが、ISDNディジタル回線では、伝送周波数帯域の上限が7kHz程度まで広帯域化されている。さらにIP回線では、20kHzまでの音声伝送帯域を使用することも可能である。かかる広帯域の回線で通信を行えば、通話品質が向上して音声等を高品質(明瞭)に伝送できるが、高品質で伝送された音声信号を人間が聴覚で高品質と感じるためには、更に受話器の広帯域化を実現しなければならない。そこで例えば、図5に示すように、電気音響変換器(例えばスピーカ、以下、単に「スピーカ」と表示することがある)20の前面側に前気室30を設け、この前気室30の受話口に設けた音孔を通して受話器の外部に伝播させることで、受話器10の周波数対音響出力特性を改善するとともに、後気室40をスピーカ20の後方に設けて、受話器10の周波数対音響出力特性を所望の特性にする技術が開発された(例えば特許文献1及び2)。ここで、前気室の形状等で決まる受話器の音響出力の上限周波数(受話器の電気信号入力に対し音響出力の大きな低下を伴わずに出力できる上限周波数(以下「fr」と表示することがある)は、(1)式に示すように、前気室の音孔の数nの平方根に比例し、且つ前気室の容積c1とスピーカの振動板の等価容積c2との和の平方根に反比例することが知られている。
fr=kr(n/c1+c2)1/2・・・・(1)式
従って、受話口に配置し得る限りの音孔を設けて音孔の数nを増やせば、また前気室30の容積c1を小容積化すれば、受話器10を広帯域化することができる。
【特許文献1】特開平10−150698号公報
【特許文献2】特開2003−23482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前気室の容積c1を小容量化しても、スピーカの振動板の等価容積c2が存するから、c1+c2の減少には限界があって、広帯域化にも限界がある。そこで受話口の全領域にわたって音孔の数nを増やして、広帯域化を図ると、スピーカの振動板から各音孔への音波の伝播路において、隣接する音孔への伝播路(図5中の破線の矢印)が接する領域R(図5中破線の楕円で示す領域)が生じる。これら領域Rでは、振動板から隣接する音孔への伝播距離の相違等によって、各音波の衝突で気流が乱れるため、高音(高周波)領域の音波が減衰する。その結果、受話器の高周波領域における音響出力特性が劣化する(受話器の再生音の品質が劣化する)。そこで本発明は、前気室内の気流の乱れを防ぐことで、高域周波数の音波の減衰を軽減して、広い周波数領域にわたって周波数対音響出力特性を平坦化することができる受話器の実現を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、本発明に係る受話器は、請求項1に記載のように、電気音響変換器と前気室とを有し、前気室は、一端側に電気音響変換器を、他端側に受話口壁部を有し、前気室が有する前気室空間は、音源側壁部と受話口壁部と周壁とで画され、電気音響変換器が生ずる音波が、前気室空間を伝播して受話口壁部に設けられた音孔から該受話器の外部へと出力される受話器において、複数の音孔のいずれの内部開口も、受話口壁部の内面の外郭形状を画する第1の閉曲線と、第1の閉曲線と相似形で且つ同一位置に重心点を有すると共に第1の閉曲線の2分の1の長さを有する第2の閉曲線との間に位置している。
【0005】
かかる第2の閉曲線は、受話口壁部の内面の少なくとも4分の1の面積を占める中央部分を閉塞するから、該受話器は、中央部分と第1の閉曲線との間の領域に位置づけられた内部開口を通して、音波を外部に出力する。第2の閉曲線の外側に相対する、電気音響変換器の振動板の4分の3を占める外周部から発生した4分の3の音波が、受話口壁部の内面の4分の3の面積を占める外周部分から放出され、受話口壁部の内面の4分の1の面積を占める中央部分に集中することなく放出されるため各音波の間の気流の乱れが少なくなる。従って、該受話器では、電気音響変換器の振動板から各内部開口へ向かう音波は、振動板の中心近傍の極めて狭い領域で、互いに接するだけであって、各音波の間の気流の乱れが少なくなる(高周波領域における音波の減衰を少なくできる)。よって該受話器は、中域周波数から高周波領域(例えば10kHz)近傍にかけて周波数特性を平坦化できる。
【0006】
請求項2に記載の受話器は、更に受話口壁部の内面に電気音響変換器の振動板が有する曲面と相補的な曲面を形成して(例えば、電気音響変換器の振動板が凸曲面であるときには、凸曲面と相補的な凹曲面を受話口壁部の内面に形成して)両曲面の間に音波の伝播路を形成するとともに、内部開口が、受話口壁部の内面の曲面の外郭形状を画する第3の閉曲線の外側に位置している。従って電気音響変換器の振動板が発する音波は、相補的な両曲面の間の伝播路を各音孔の内部開口に向かって伝播して、各音孔から外部に出力される。よって該受話器では、電気音響変換器の振動板が有する曲面と相補的な曲面が受話口壁部の内面に形成されていない場合よりも、音波の進行が整えられて、伝播路(前気室空間)における気流の乱れを更に少なくできる。こうして該受話器は、中域周波数からfr近傍にかけての周波数特性を更に良好なものとすることができる。
【0007】
請求項3に記載の受話器は、第1の閉曲線を円とし、複数の音孔を第1の閉曲線と同心円をなす音孔配列円上に設けることで、振動板から各音孔の内部開口までの伝播路の対象性・同一性を最良の状態にして(振動板から各音孔への伝播距離を同一にして)、音波の進行を最も良好に整えることができる。よって該受話器は、前気室空間における気流の乱れを最も少なくできて、中域周波数からfr近傍にかけての周波数特性を更に良好なものにする。
【発明の効果】
【0008】
以上のとおり、本発明にかかる受話器は、前気室空間内を伝播する音波の衝突を少なくすることで、前気室空間内の気流の乱れを防ぎ、前気室内における高域周波数の音波の減衰を軽減して、広い周波数領域にわたって周波数対音響出力特性を平坦化するという効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明にかかる受話器を説明する。
【実施例1】
【0010】
図1、図2及び図4に基づき、本発明にかかる受話器の一実施例(実施例1)について説明する。図1はハンドセット1の外観例を示すものであり(図1中の2は受話器側端部)、図2は、受話器を含む受話器側端部2の概略断面構成を示す図である。
図2に示す受話器10は、ハンドセット1の受話器側端部2にスピーカ20と前気室30とを有している。スピーカ20では、基板21の一方の面に振動板22がスペーサ23を介在して取り付けられ、基板21と相対する振動板22の面にはコイル24aが取り付けられ、基板21の中央部には磁気回路24bが取り付けられている(磁気回路24bがコイル24aを振動させることで振動板が振動する)。前気室30は、一端側においてスピーカ20の振動板22が音源側壁部となり、他端側に振動板22と3mm隔てて平行に位置づけられた受話口壁部31を有し、振動板22、受話口壁部31、及び円環状の断面を有する周壁32(内径25mm)とで、前気室空間30a(略円柱形状の空間)を形成している。
【0011】
受話口壁部31の内面31c(前気室空間30a側の面)には、音孔配列円C上に中心を位置づけた各音孔31aの内部開口31bが開口している。この音孔配列円Cは、受話口壁部31の内面31cの外郭形状を画する第1の円(閉曲線)C1と、この第1の円C1と同心円(重心位置が同位置)で、第1の円C1の2分の1の長さを有する第2の円C2との間に位置して、第1の円C1及び第2の円C2と同心円をなしている。こうして受話口壁部31は、少なくとも4分の1の面積を有する中央部分が閉塞されると共に、周壁32の近傍に、円周状に配置された音孔31a(直径2mmで、孔の数が20)を有している。後気室容器41は、図示しない例えば螺子等でハンドセット1の外筐1aに取り付けられ、スピーカ20の基板21を、周壁32とともに挟持して、基板21(中央部には磁気回路24bが取り付けられている)が振動板22と共に前気室空間30aと後気室空間40aの間に介在している。
【0012】
かかる構成を有する受話器10では、スピーカ20の振動板22が発した音波は、前気室空間30aを各内部開口31bへ向け伝播して(図2中の破線の矢印)、各音孔31aから外部に出力されて、人間の聴覚を刺激する。従って、各内部開口31bへ向かう音波は、振動板22の中心近傍の極めて狭い領域(図2中、破線の楕円で示す領域R)において互いに接するだけだから、各音波が互いに衝突することが少なくなって気流の乱れも少なくなる(高周波領域における音波の減衰が少なくなる)。
【0013】
図4は、受話器10の周波数対音響出力特性例である。破線L1は、図5に示す従来の受話器の周波数対音響出力特性例であり、受話器10の周波数対音響出力特性(実線L2)は、前気室空間30a内における各音波の間の気流の乱れが少ないため、10kHz近傍における音響出力が5ないし6dB増加して、中域周波数から高周波領域のfr(10kHz)近傍にかけての周波数特性が平坦な特性に近づく。
【実施例2】
【0014】
次に図3及び図4に基づき、本発明にかかる受話器の他の実施例(実施例2)について説明する。なお実施例1と同様の機能を有する構成要素には、同一の符号を附しその説明を省略する。
図3に示す受話器10aは、受話口壁部31の内面31cに凹曲面31dを形成したものであり、この凹曲面31dとスピーカ20の振動板22が有する凸曲面22aとは、相補的な曲面を有し、何れも第1の円C1と同一中心を有する直径16mmの第3の円(閉曲線)C3で画される領域内に形成されている。そして凸曲面22aの中心は、受話口壁部31方向に1mmの高さを有している。ここで振動板22と受話口壁部31とは、凸曲面22a及び凹曲面31dの領域を含む何れの領域においても、前気室空間30aの軸方向において1mmの間隔を有している。そして各音孔31aの内部開口31bは、第3の円(閉曲線)C3の外側の領域(周壁32の近傍領域)に位置する音孔配列円C(第1の円C1と同心円)上に設けられている。
【0015】
従ってスピーカ20が発する音波は、図3中の破線矢印に示すように、振動板22の中心(凸曲面22aの中心)から各内部開口31bまで、前気室空間30aの軸方向で伝播路が広くなったり狭くなったりすることなく一定間隔且つ放射状の伝播路を伝播して、各音孔31aから外部に出力されて、人間の聴覚を刺激する。かかる受話器10aでは、気流の乱れは受話器10aの凸曲面22aの中心近傍(破線の楕円で示す領域R)だけで生じるにすぎず、また振動板22から各内部開口31bまでの伝播路の対象性・同一性が最良の状態になるから(振動板から隣接する各内部開口31bへの伝播距離の相違をゼロにできるから)、音波の進行が最も良好に整えられて、前気室空間30a(伝播路)における気流の乱れを最も少なくできる。
【0016】
以上のとおり、受話器10aでは、前気室空間30a内における各音波の間の気流の乱れが受話器10よりも少ないから、図4の一点鎖線L3で示すように、周波数対音響出力特性は、10kHz近傍において、受話器10よりも更に2ないし3dB程度増加して、中域周波数から高周波領域のfr(10kHz)近傍にかけての周波数特性が更に平坦化される。
【0017】
なお発明に係る受話器は、上記各実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形し実施できる。例えば、上記各実施例において、受話口壁部と音源側壁部とが平行に位置づけられていない場合でも、振動板から音孔の内部開口に向かう各音波は、振動板の中心近傍の極めて狭い領域で互いに接するだけであるから、各音波の間の気流の乱れが少なくなって、中域周波数から高周波領域のfr近傍にかけての周波数特性を平坦化できる。また前気室の周壁断面形状が円環状でない場合でも、振動板から音孔の内部開口に向かう各音波は、振動板の中心近傍の極めて狭い領域で互いに接するだけであるから、各音波の間の気流の乱れが少なくなって、中域周波数から高周波領域のfr近傍にかけての周波数特性を平坦化できる。また各音孔が音孔配列円上に整列して配列されていなくても、各内部開口が第1の閉曲線と第2の閉曲線との間に位置していれば、前気室空間内における各音波の間の気流の乱れを少なくできるから、中域周波数からfr近傍にかけての周波数特性が平坦化される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明にかかる受話器を備えたハンドセットの外観例を示すものである。
【図2】本発明の一実施例(実施例1)にかかる受話器を含む受話器側端部の概略断面構成を示す図である。
【図3】本発明の他の実施例(実施例2)にかかる受話器を含む受話器側端部の概略断面構成を示す図である。
【図4】本発明にかかる受話器の周波数対音響出力特性の改善例である。
【図5】従来の受話器側端部の概略断面構成を示す図である。
【符号の説明】
【0019】
10、10a 受話器
20 スピーカ(電気音響変換器)
22 スピーカの振動板(音源側壁部)
22a 振動板の曲面(凸曲面)
30 前気室
30a 前気室空間
31 受話口壁部
31a 音孔
31b 内部開口
31c 受話口壁部の内面
31d 内面の曲面(凹曲面)
32 周壁
C 音孔配列円
C1 第1の円(第1の閉曲線)
C2 第2の円(第2の閉曲線)
C3 第3の円(第3の閉曲線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前気室及び電気音響変換器を有し、
前記前気室は、一端側に電気音響変換器を、他端側に受話口壁部を有し、
前記前気室が有する前気室空間は、音源側壁部と前記受話口壁部と周壁とで画され、
前記電気音響変換器が生ずる音波が、前記前気室空間を伝播して前記受話口壁部に設けられた複数の音孔から外部へと出力される受話器において、
前記の複数の音孔のいずれの内部開口も、
前記受話口壁部の内面の外郭形状を画する第1の閉曲線と、
前記第1の閉曲線と相似形で且つ同一位置に重心点を有すると共に前記第1の閉曲線の2分の1の長さを有する第2の閉曲線との間に位置することを特徴とする受話器。
【請求項2】
請求項1記載の受話器に、更に前記受話口壁部の内面に前記電気音響変換器の振動板が有する曲面と相補的な曲面を形成して、前記受話口壁部の内面と前記電気音響変換器の振動板が有する曲面との間に音波の伝播路を形成し、
前記内部開口が、前記受話口壁部の内面の曲面の外郭形状を画する第3の閉曲線の外側に位置することを特徴とする受話器。
【請求項3】
前記第1の閉曲線が円であり、前記複数の音孔が前記第1の閉曲線と同心円をなす音孔配列円上に設けられたことを特徴とする請求項1または2に記載の受話器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−154038(P2008−154038A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−341104(P2006−341104)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【出願人】(000000181)岩崎通信機株式会社 (133)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】