説明

口中吸収促進食品組成物

【課題】
生理機能を有する成分の口中粘膜からの吸収を容易にし、消化管等での分解・代謝等の影響を受けない形で生理機能成分を体内に供給するための、新しい形態の食品組成物を提供する。
【解決手段】
33〜36℃における粘度が15000〜130000cPとなるように、増粘多糖類及び生理機能成分を含有させることにより、口中粘膜と接触した状態を保つことが可能となり、口中からの生理機能成分の吸収を容易にする食品組成物が提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口中に滞留し、生理機能成分の口腔粘膜における吸収に優れた口中吸収促進食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、飲食物を摂取すると、栄養成分は消化管で分解、代謝を受けて吸収され、また肝臓でも分解、代謝されることが知られている。フェノール性化合物等の生理機能を有する成分を摂取した場合、この分解、代謝により生理機能を有する成分がそのままの形では生体内で利用されにくくなる(非特許文献1参照)。一方、口腔粘膜から薬効成分が速やかに吸収される薬剤が知られている。例えば、ニトログリセリン錠は舌下にて溶かして使用するものであり、狭心症の発作が起こったときに速やかに作用する。また、チューインガムを担体とした薬剤も知られている(特許文献1参照)。このように、チューインガム、錠剤等、口中に比較的長く留まる食品に生理機能成分を含有させた場合、口腔粘膜からの吸収性が高められることが期待される。しかしながら、チューインガムは徐放性で長く吸収されるため好ましいが、ガムベースに成分が吸着されてしまい、放出される成分のロスが大きい。錠剤は、速やかに吸収されやすいとはいえるが、噛んでしまうと口中に留まりにくく、噛まずに舐め続けた場合は、口中粘膜との接触面が小さく吸収性が必ずしも良いとはいいきれない。
【0003】
ところで、チアーパック容器に充填された、ゼリー様の食感を有する飲料が上市されている(例えば特許文献2)。これらは、嚥下を容易にするものであり、口中に滞留するものではなく、また水分活性が高く、開封した場合は保存性の無いものである。また、特許文献3にはキャンディーやチューインガムに分岐鎖アミノ酸を含有し、該アミノ酸が舌下吸収されることを期待した食品組成物が開示されている。この食品組成物は、キャンディーやチューインガムといった従来形態のものであり、また、効果は使用者のアンケート調査をしているに過ぎず、吸収性が向上しているのかどうかは定かではない。
【非特許文献1】FOOD Style 21 Vol.7(2):2003,p37-40
【非特許文献2】European Journal of Nutrition Vol.44(1):2005,p1-9
【特許文献1】特表2003−509455号公報
【特許文献2】特開平7−236434号公報
【特許文献3】特開2005−40117号公報
【特許文献4】特開2003−180286号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、生理機能を有する成分の口中粘膜からの吸収を容易にし、消化管等での分解・代謝等の影響を受けない形で生理機能成分を体内に供給するための、新しい形態の口中吸収促進食品組成物を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、口中粘膜への接触面を大きく取ることができるものとして、ゾル状の形態の口腔組成物について検討し、特定の粘度を有するものが、伸びがよく口中粘膜への接触面積を高めることができるとともに、唾液で容易に流されること無く、口中粘膜と接触した状態を保つことが可能であり、代謝されない形での生理機能成分の体内への供給を高めることを見出した。すなわち、本発明は以下の発明を包含する。

(1)33〜36℃における粘度が15000〜130000cPであり、増粘多糖類及
び生理機能成分を含有することを特徴とする口中吸収促進食品組成物。
(2)増粘多糖類がカラギーナン、ジェランガム、ペクチンからなる群から選ばれる1種
または2種以上である(1)に記載の食品組成物。
(3)増粘多糖類がカラギーナンであり、その含有量が0.9〜1.5重量%である
(1)または(2)に記載の食品組成物。
(4)増粘多糖類がジェランガムであり、その含有量が0.6〜1.5重量%である
(1)または(2)に記載の食品組成物。
(5)増粘多糖類がジェランガム及びペクチンであり、ジェランガムの含有量が0.4〜
1.5重量%、ペクチンの含有量が0.03〜0.1重量%である(1)または
(2)に記載の食品組成物。
(6)水分活性が0.67以下である(1)〜(5)に記載の食品組成物。
(7)生理機能成分がフェノール性化合物である(1)〜(6)に記載の食品組成物。
(8)生理機能成分がロスマリン酸である(1)〜(7)に記載の食品組成物。
(9)(1)〜(8)の何れかに記載の食品組成物をチューブ状の容器または三方シール
袋または四方シール袋に充填されたものであることを特徴とする飲食品。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、含有する生理機能成分をより多く体内に供給することができるとともに、代謝されていない、活性の高い状態のままの生理機能成分をより多く体内に供給することができ、抗酸化、抗アレルギー、血流改善、脂質代謝、運動機能向上、血糖値低下等の生体内での機能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の口中吸収促進食品組成物においては、各種ビタミン、ミネラル類、コエンザイムQ10、α−リポ酸、アミノ酸、オリゴペプチド、γ−アミノ酪酸、グルコサミン、コンドロイチン、メラトニン、カプサイシノイド、カロチノイド等を生理機能成分として含有できるが、中でも、フラボノイド類、カルコン類、カテキン類、アントシアニジン類、また、それらの配糖体類、プロアントシアニジン類、カフェ酸、クロロゲン酸、エラグ酸、クルクミン、クマリン、デルフィニジン、ロスマリン酸等、また、それらの高分子成分であるリグナン等のフェノール性化合物が好ましく、フェノール性化合物は植物抽出物等の成分として含まれていてもよい。
本発明の口中吸収促進食品組成物は、水分活性が0.67以下であると、開封後でも保存性があり、繰り返し使用できるため好ましい。
【0008】
また本発明の口中吸収促進食品組成物は、33〜36℃における粘度が15000〜130000cPであるのがのぞましい。この範囲の粘度であれば口中で伸びて口中粘膜との接触面積を大きくすることができるとともに、すぐに流されてしまうことが無く、滞留しやすくなるため好ましい。なお本発明における粘度の測定は以下の方法を用いた。すなわちB型粘度計(FUDOH RHEO METER NRM−2010J−CW)を用いてローターNO.6、4rpmで測定し、安定値を粘度とした。サンプルは、300ml容ビーカーに入れ、粘度、品温を測定した。前記範囲の粘度を示すためには、グアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、プルラン、キサンタンガム、カラギーナン、カードラン、アラビアガム、グルコマンナン、寒天、ペクチン等の増粘多糖類が使用できるが、中でもカラギーナンを使用するのが好ましい。また前記粘度の範囲とするための増粘多糖類の含有量は、例えばカラギーナンであれば0.9〜1.5重量%、ジェランガムであれば0.6〜1.5重量%とする。またジェランガムとペクチンを併用する場合には、ジェランガムの含有量を0.4〜1.5重量%、ペクチンの含有量を0.03〜0.1重量%とするのが好ましい。
【0009】
本発明の口中吸収促進食品組成物は、その機能を損なわないかぎり、その他の各種成分を配合することができる。具体的には例えばスクロース、フラクトース、ガラクトース、マルトース、グルコース、キシロース、パラチノース、トレハロース、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、ラクチトール、マンニトール、還元パラチノース、アラビノース、ラフィノース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ等、乳化オリゴ糖、マルトオリゴ糖、酸糖化水飴、還元水飴、デキストリン、ポリデキストロース、澱粉等の糖質、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、酢酸等の酸味料、スクラロース、アスパルテーム、ステビア、アセスルファムカリウム等の甘味料、香料、着色料、食用油脂、タンパク質、果汁、乳製品、卵製品等を含有してもよい。
【0010】
本発明の口中吸収促進食品組成物は、例えば増粘多糖類、糖質を含む成分を混合、加水し、加熱することで得ることができる。このとき、生理機能成分も共に煮詰めを行ってもよいが、熱に弱い成分の場合は、加熱後に加えたほうが好ましい。また、得られた食品組成物をチューブ状の容器または三方シール袋または四方シール袋に充填したものは、取り出しが容易で携帯性に優れ、繰り返し使用できるため好ましい。
【実施例1】
【0011】
ソルビトール62重量部、トレハロース6.4重量部、カラギーナン1.4重量部、水15重量部を混合、加熱し、糖液を調製した。この糖液84.8重量部に、赤しそパウダー(ロスマリン酸20重量%含有)10重量部を水5重量部に溶解した水溶液15重量部、スクラロース0.03重量部、香料0.17重量部を加えて、ロスマリン酸を2重量%含有した食品組成物を調製した。赤しそパウダーは、特許文献4の実施例2の方法により得られた粉末にデキストリンを混合して、ロスマリン酸が20重量%となるように調整したものを使用した。得られた食品組成物は、水分活性0.61、33℃における粘度は25000cPであった。
【実施例2】
【0012】
ソルビトール33重量部、還元水飴47重量部、ジェランガム0.4重量部、ペクチン0.06重量部、水5.0重量部を混合、加熱し、糖液を調製した。この糖液82.4重量部、果汁7.65重量部に、赤しそパウダー(ロスマリン酸15重量%含有)6.5重量部を水2重量部に溶解した水溶液8.5重量部、乳酸カルシウム0.05重量部、クエン酸1重量部、クエン酸ナトリウム0.2重量部、スクラロース0.03重量部、香料0.17重量部を加えて、ロスマリン酸を1重量%含有した食品組成物を調製した。赤しそパウダーは、特許文献4の実施例2の方法により得られた粉末にデキストリンを混合して、ロスマリン酸が15重量%となるように調整したものを使用した。得られた食品組成物は、水分活性0.62、33℃における粘度は127500cPであった。
【0013】
比較例1
ソルビトール62重量部、トレハロース6.4重量部、赤しそパウダー(ロスマリン酸20重量%含有)10重量部、スクラロース0.03重量部、香料0.17重量部、水921.4重量部を混合し、ロスマリン酸を0.2重量%含有した水溶液を調製した。
【0014】
試験例
20〜40代の健常な男女6名を被験者として、実施例1及び比較例1で調製したものを摂取したときのロスマリン酸及びロスマリン酸代謝物(硫酸抱合体、グルクロン酸抱合体、メチル化体)の血漿濃度を測定した。試験は、ロスマリン酸を100mg摂取するように行った。すなわち実施例1の食品組成物は、5gを口に入れ、なるべく口中粘膜との接触面積が大きくなるように口の中で伸ばし、唾液により自然に嚥下されるまで口中で保持した。嚥下後、水で口中を軽くゆすいで残存物を嚥下した。一方比較例1の水溶液は、50gをすぐに嚥下した。被験者は、被験食品摂取の前夜より絶食とし、摂取直前に肘静脈から採血を行い、摂取後、5、10、15、20、30、60、120、240、360分後に肘静脈から採血を行った。なお実施例1及び比較例1の食品の摂取試験の間には、1週間のウオッシュアウト期間をおいた。
【0015】
採取した血液はヘパリン処理し、氷冷後、3000rpm、15分、4℃にて遠心分離した上清を採取し血漿を得た。血漿800μl、5%食塩水800μl、内部標準として0.1mg/ml 3-(3-ハイドロキシフェニル)プロピオン酸10μlを遠沈管に入れ、これに75(v/v)%ギ酸水128μlを加え混合した。さらに70(v/v)%アセトン水1.6ml、酢酸エチル8mlを加えて10分間振とうした。これを3000rpm、10分、4℃にて遠心分離し、有機溶媒層を回収した。回収した有機溶媒層を濃縮遠心し、窒素風乾した残渣を25(v/v)%アセトン水100μlに溶解した。これを16000×g、2分間遠心分離し上清を回収した。非特許文献2記載の方法により、回収した上清のロスマリン酸及びロスマリン酸代謝物の分析を行った。
実施例1及び比較例1の食品を摂取した時の、摂取0〜360分後の被験者のロスマリン酸及びロスマリン酸代謝物の平均血漿中濃度を図1及び図2に示す。また、摂取0〜360分後のロスマリン酸及びロスマリン酸代謝物の血漿中濃度−時間曲線下面積(AUC)を表1に示す。
【0016】
【表1】

実施例1の食品を摂取することにより、比較例1よりもロスマリン酸として約1.8倍、ロスマリン酸代謝物として約1.1倍吸収率が向上することが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】摂取5〜360分後の被験者のロスマリン酸の平均血漿中濃度
【図2】摂取5〜360分後の被験者のロスマリン酸代謝物の平均血漿中濃度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
33〜36℃における粘度が15000〜130000cPであり、増粘多糖類及び生理機能成分を含有することを特徴とする口中吸収促進食品組成物。
【請求項2】
増粘多糖類がカラギーナン、ジェランガム、ペクチンからなる群から選ばれる1種または2種以上である請求項1に記載の食品組成物。
【請求項3】
増粘多糖類がカラギーナンであり、その含有量が0.9〜1.5重量%である請求項1または2に記載の食品組成物。
【請求項4】
増粘多糖類がジェランガムであり、その含有量が0.6〜1.5重量%である請求項1または2に記載の食品組成物。
【請求項5】
増粘多糖類がジェランガム及びペクチンであり、ジェランガムの含有量が0.4〜1.5重量%、ペクチンの含有量が0.03〜0.1重量%である請求項1または2に記載の食品組成物。
【請求項6】
水分活性が0.67以下である請求項1〜5に記載の食品組成物。
【請求項7】
生理機能成分がフェノール性化合物である請求項1〜6に記載の食品組成物。
【請求項8】
生理機能成分がロスマリン酸である請求項1〜7に記載の食品組成物。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかに記載の食品組成物をチューブ状の容器または三方シール袋または四方シール袋に充填されたものであることを特徴とする飲食品。

【図1】
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【図2】
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