説明

口栓付容器の無菌充填方法

【課題】本発明の解決しようとする課題は、充填工場において製袋が可能であり、複雑な形状の口栓に対しても適用することができ、しかも口栓を経由せずに内容物を充填することができる口栓付容器の無菌充填方法を提案するものである。
【解決手段】以下の工程をこの順序で有することを特徴とする口栓付容器の無菌充填方法である。袋に密封包装した口栓に放射線を照射して、口栓を滅菌するa工程、口栓を収納した袋を殺菌液に浸漬して、袋の外表面を滅菌するb工程、袋を開梱し、口栓をパーツフィーダーで整列後に殺菌液を噴霧し、熱風乾燥するc工程、口栓付容器の本体を構成するフィルムを巻き出し、連続的に殺菌液に浸漬して滅菌した後、熱風乾燥するd工程、無菌環境においてフィルムを製袋し、口栓を溶着して口栓付容器を成形するe工程、無菌環境において口栓付容器の充填用開口部から内容物を充填した後、充填用開口部を熱シールするf工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に柔軟な包装材料からなる包装袋に口栓を取り付けた構造の口栓付容器に、無菌充填を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軟包装材料からなる包装袋にプラスチック製の口栓を取り付けた口栓付容器は、さまざまな用途に広く用いられている。しかし食品や飲料、医療医薬品などを充填するために、内容物を無菌状態で充填しなければならない場合には、いくつかの問題があった。
【0003】
最も安易な充填方法は、内容物を充填後に包装体全体をレトルト殺菌する方法であるが、内容物の変質に伴う風味の低下や品質の劣化、包装袋からの不純物の溶出、口栓の変形などの問題があった。
【0004】
レトルト殺菌に替えて、包装体全体を電子線照射によって殺菌する方法もあるが、大がかりな電子線照射設備を、充填ラインに設置しなければならないため、現実的ではない。また内容物によっては、変質の問題もあり、食品に対しては、制約がある。
【0005】
現在最も一般的に採用されている方法は、包装材料を過酸化水素水などの薬液に浸漬して滅菌する方法である。この方法は、フィルムなどのように単純な形状であれば浸漬後の薬液の除去も容易であり、良い方法であるが、例えば閉塞部のある口栓や、複雑な構造の口栓などでは、完全な滅菌が行われる保証が得られなかった。また細部に浸み込んだ薬液を完全に除去するのに困難が伴った。
【0006】
特許文献1に記載された袋の無菌化機は、バッグインボックス用内袋を滅菌する装置に関するものであり、無菌室内に配設された搬送チエーンの進行方向に従って次の装置を順次配設した袋の無菌化機である。
(a)搬送チエーンに取付けられた袋の注出口よりノズルを利用して無菌エアーを注入する装置。
(b)過酸化水素のミストをノズルを利用して袋内に噴入させて、袋の内部及び注出口部を殺菌する装置。
(c)加熱された無菌エアーをノズルを利用して袋内に噴入して乾燥する装置。
(d)袋内の空気を脱気する装置。
(e)滅菌されたキャップをキャップ装着装置により袋口にキャッピングする装置。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭63-61号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された無菌化機は、別の場所にある充填工場に搬入するバッグインボックス用内袋を滅菌するための装置であり、通常の工程に従って作られた内袋が完成した後に内部を滅菌し、無菌状態でキャッピングするものである。
【0009】
この方法は、バッグインボックス内袋のように、口栓の構造が単純でしかも口径が大きい場合には適用できるが、口栓の構造が複雑であったり、口栓の口径が小さくて、過酸化水素水噴霧用のノズルが挿入できないような場合には適用できなかった。
【0010】
また、袋の内部に噴霧した過酸化水素水を完全に乾燥するためには、相当の時間がかかるため、生産効率が悪いという問題もあった。
【0011】
またさらに、内容物の充填を口栓から行わなければならないため、口栓から充填できないような内容物には適用することができないという基本的な問題があった。
【0012】
本発明の解決しようとする課題は、充填工場において製袋が可能であり、複雑な形状の口栓に対しても適用することができ、しかも口栓を経由せずに内容物を充填することができる口栓付容器の無菌充填方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、以下の工程をこの順序で有することを特徴とする口栓付容器の無菌充填方法である。
(a)袋に密封包装した口栓に放射線を照射して、口栓を滅菌する工程。
(b)口栓を収納した前記袋を殺菌液に浸漬して、袋の外表面を滅菌する工程。
(c)前記袋を開梱し、口栓をパーツフィーダーで整列後に殺菌液を噴霧し、熱風乾燥する工程。
(d)口栓付容器の本体を構成するフィルムを巻き出し、連続的に殺菌液に浸漬して滅菌した後、熱風乾燥する工程。
(e)無菌環境において前記フィルムを製袋し、前記口栓を溶着して口栓付容器を成形する工程。
(f)無菌環境において前記口栓付容器の充填用開口部から内容物を充填した後、該充填用開口部を熱シールする工程。
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、口栓を予め密封包装した上で放射線照射によって殺菌するので、どのような複雑な構造を持った口栓であっても細部まで完全に殺菌することができる。
【0015】
さらに口栓を密封包装した袋を開梱する前に袋の外側面も殺菌液に浸漬して滅菌するので、パーツフィーダーに投入される段階における口栓の無菌性が確保される。
【0016】
無菌環境にし難いパーツフィーダー部において、口栓を整列後に殺菌液を噴霧し、熱風乾燥する工程を設けたので、製袋した容器本体に口栓を取付ける段階における口栓の無菌性が確保される。
【0017】
また口栓付容器の本体を構成するフィルムを、製袋工程直前に滅菌処理するため、無菌環境において行われる以後の工程すなわち、製袋工程、口栓取付工程、充填工程における無菌性が確保される。
【0018】
以上の結果、内容物に対する負荷を最小限に留めた状態で、口栓付容器に対する無菌充填が達成されるのである。
【0019】
また、請求項2に記載の発明は、前記殺菌液がいずれも過酸化水素水であることを特徴とする請求項1に記載の口栓付容器の無菌充填方法である。
【0020】
また、請求項3に記載の発明は、前記口栓は、注出経路に閉塞部を有することを特徴とする請求項1または2に記載の口栓付容器の無菌充填方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る口栓付容器の無菌充填方法によれば、いかなる複雑な構造を持った口栓を備えた容器に対しても適用することができる。
【0022】
内容物の充填を口栓を経由せず、充填用開口部から行うため、例えば高粘度の内容物や、小さい固形物を含む液体等であっても充填可能であり、内容物に対する制約が少ない。
【0023】
また、内容物に対する負荷が小さいので、内容物の変質、風味の劣化等を招くことがない。
【0024】
請求項2に記載の発明において、殺菌剤として過酸化水素水を用いた場合には、不揮発性の固形分が存在しないため、滅菌後の殺菌剤の除去が容易である。また殺菌効果も高い。
【0025】
請求項3に記載の発明によれば、口栓として注出経路に閉塞部を有する口栓を用いた口栓付容器に対しても、無菌充填が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明に係る口栓付容器の無菌充填方法に用いた口栓付容器の一例を示した平面模式図である。
【図2】図2は、図1に示した口栓付容器に用いた口栓の拡大模式図である。
【図3】図3は、本発明に係る口栓付容器の無菌充填方法において、袋に密封包装した口栓に放射線を照射して、口栓を滅菌する工程を示した概念図である。
【図4】図4は、本発明に係る口栓付容器の無菌充填方法において、口栓を収納した前記袋を殺菌液に浸漬して、袋の外表面を滅菌する工程を示した概念図である。
【図5】図5は、本発明に係る口栓付容器の無菌充填方法において、前記袋を開梱し、口栓をパーツフィーダーで整列後に殺菌液を噴霧し、熱風乾燥する工程を示した概念図である。
【図6】図6は、本発明に係る口栓付容器の無菌充填方法において、口栓付容器の本体を構成するフィルムを巻き出し、連続的に殺菌液に浸漬して滅菌した後、熱風乾燥する工程を示した概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下図面を参照しながら、本発明に係る口栓付容器の無菌充填方法について詳細に説明する。図1は、本発明に係る口栓付容器の無菌充填方法に用いた口栓付容器の一例を示した平面模式図である。また図2は、図1に示した口栓付容器に用いた口栓の拡大模式図である。
【0028】
本発明に係る口栓付容器の無菌充填方法の対象となる口栓付容器の形状、大きさ、構造等については、特に限定されるものではないが、図2に示したような比較的複雑な形状を持った口栓を備えた口栓付容器が、本発明の方法の特徴を最も良く体現する。
【0029】
図1に示した口栓付容器(1)は、口栓付のスタンディングパウチであり、少なくとも片面にシーラント層を有する軟包装フィルムからなる表裏面のフィルムのシーラント層面を対向させ、間にシーラント層を外側にして二つ折りにした底テープを挿入して周囲を熱シールし、パウチの頂部に口栓(3)の溶着部(5)を溶着した構造を持っている。
【0030】
口栓付容器(1)の一側面には、充填用開口部(4)が設けられており、ここから内容物を充填する。なお、一連の製袋工程及び充填工程は、すべて無菌環境において行われなければならない。
【0031】
この例では、口栓(3)には、閉塞部(6)が存在しており、口栓(3)の先端を切除することによって開封する構造となっている。口栓(3)に閉塞部(6)が存在すると、従来の口栓を殺菌液に浸漬するような通常の殺菌方法では、未殺菌の部分が残ったり、殺菌液が完全に除去できないで残ったりすることがあった。
【0032】
本発明に係る口栓付容器の無菌充填方法は、以下の工程をこの順序で有することを特徴とする。
(a)袋に密封包装した口栓に放射線を照射して、口栓を滅菌する工程。
(b)口栓を収納した前記袋を殺菌液に浸漬して、袋の外表面を滅菌する工程。
(c)前記袋を開梱し、口栓をパーツフィーダーで整列後に殺菌液を噴霧し、熱風乾燥する工程。
(d)口栓付容器の本体を構成するフィルムを巻き出し、連続的に殺菌液に浸漬して滅菌した後、熱風乾燥する工程。
(e)無菌環境において前記フィルムを製袋し、前記口栓を溶着して口栓付容器を成形する工程。
(f)無菌環境において前記口栓付容器の充填用開口部から内容物を充填した後、該充填用開口部を熱シールする工程。
【0033】
図3は、本発明に係る口栓付容器の無菌充填方法において、袋(7)に密封包装した口栓(3)に放射線(13)を照射して、口栓(3)を滅菌する前記(a)工程を示した概念図である。複数の口栓を袋に密封した状態で、全体に高電圧に加速した電子線やγ線を照射して袋の内部を滅菌することができるため、一度に大量の口栓を能率良く滅菌することができる。
【0034】
また放射線による殺菌方法によれば、隅々まで完全に滅菌することができるので、前記の例のように、閉塞部のある口栓であっても、完全に滅菌することができる。また口栓は袋の中に密封されているので、滅菌処理後は、袋を開封しない限り無菌状態が保たれる。
【0035】
放射線としては、電子線やγ線が用いられる。電子線の照射条件としては、1500kV〜5000kV程度の高電圧に加速した電子線を照射できる高エネルギータイプの電子線照射装置を用いる。照射線量として1.5×10Gy(グレイ)程度の線量の電子線を照射する。
【0036】
このような電子線照射装置や、γ線照射装置は、大がかりな特殊な設備となるため、一般的に充填設備に隣接して設置することは困難であるが、口栓(3)は、袋(7)の中に密封されているため、放射線照射処理後の口栓(3)を充填設備のある場所まで運搬することは、容易に可能となる。
【0037】
図4は、本発明に係る口栓付容器の無菌充填方法において、口栓(3)を収納した前記袋(7)を殺菌液(14a)に浸漬して、袋の外表面を滅菌する工程を示した概念図である。殺菌液(14a)は、殺菌液槽(15)に納められており、この中に口栓を収納した袋を浸漬して、輸送途中で袋の外側に付着した菌を滅菌する。
【0038】
ここで用いる殺菌液(14a)としては、過酸化水素水、オゾン水、アルコール類、次亜塩素酸ナトリウム溶液等、公知の殺菌液が使用可能であるが、35%過酸化水素水を6
0℃程度に加温したものは、好適に用いられる。
【0039】
図5は、本発明に係る口栓付容器の無菌充填方法において、前記袋(7)を開梱し、口栓(3)をパーツフィーダー(11)で整列後に殺菌液を噴霧し、熱風乾燥する工程を示した概念図である。
【0040】
パーツフィーダー(11)は、構造上無菌環境とするのが困難であるため、開梱された口栓(3)は、パーツフィーダー(11)で整列された後に、コンベアー(12)で殺菌液ミスト噴霧装置(16)に運ばれ、改めて滅菌される。
【0041】
滅菌された口栓(3)は、熱風乾燥装置(17)において、表面に付着した殺菌液を乾燥除去された後、無菌環境(21)に供給される。無菌環境(21)としては、無菌エアーで陽圧にしたクリーンブースを基本として、局所的に窒素ガスやエチレンオキサイドガスで置換したり、紫外線ランプを設置したりして、無菌環境を維持する。
【0042】
図6は、本発明に係る口栓付容器の無菌充填方法において、口栓付容器(1)の本体(2)を構成するフィルム(9)を巻き出し、連続的に殺菌液(14b)に浸漬して滅菌した後、熱風乾燥する工程を示した概念図である。
【0043】
フィルム(9)は、フィルムの巻取(8)から巻き出された後、殺菌液槽(18)に導かれ、殺菌液(14b)に浸漬されることにより、表裏面が滅菌される。フィルム(9)は、熱風乾燥装置(20)によって表裏面に残留した殺菌液を乾燥、除去された後、無菌環境内の製袋装置に導かれ、口栓付容器の容器本体に成形され、滅菌処理された口栓(3)が取付けられて、図1に示したような口栓付容器(1)が完成する。
【0044】
最後に、図示しないが、同様に無菌環境において口栓付容器(1)の充填用開口部(4)から内容物を充填し、充填用開口部を熱シールすることによって、無菌充填された包装体が完成する。
【0045】
本発明に係る口栓付容器の無菌充填方法によれば、複雑な形状を伴った口栓や、特に閉塞部の存在するような通常の方法では完全な滅菌が困難な口栓を用いた口栓付容器であっても、ほぼ完全な滅菌処理が可能である。内容物の充填にあたっては、口栓を経由しない充填が可能であり、また内容物に掛る負荷が小さいため、内容物の変質等の問題がない。
【符号の説明】
【0046】
1・・・口栓付容器
2・・・容器本体
3・・・口栓
4・・・充填用開口部
5・・・溶着部
6・・・閉塞部
7・・・袋
8・・・フィルムの巻取
9・・・フィルム
10・・・
11・・・パーツフィーダー
12・・・コンベアー
13・・・放射線
14a、14b・・・殺菌液
15、18・・・殺菌液槽
16・・・殺菌液ミスト噴霧装置
17、20・・・熱風乾燥装置
19・・・絞りロール
21・・・無菌環境

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程をこの順序で有することを特徴とする口栓付容器の無菌充填方法。
(a)袋に密封包装した口栓に放射線を照射して、口栓を滅菌する工程。
(b)口栓を収納した前記袋を殺菌液に浸漬して、袋の外表面を滅菌する工程。
(c)前記袋を開梱し、口栓をパーツフィーダーで整列後に殺菌液を噴霧し、熱風乾燥する工程。
(d)口栓付容器の本体を構成するフィルムを巻き出し、連続的に殺菌液に浸漬して滅菌した後、熱風乾燥する工程。
(e)無菌環境において前記フィルムを製袋し、前記口栓を溶着して口栓付容器を成形する工程。
(f)無菌環境において前記口栓付容器の充填用開口部から内容物を充填した後、該充填用開口部を熱シールする工程。
【請求項2】
前記殺菌液がいずれも過酸化水素水であることを特徴とする請求項1に記載の口栓付容器の無菌充填方法。
【請求項3】
前記口栓は、注出経路に閉塞部を有することを特徴とする請求項1または2に記載の口栓付容器の無菌充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−86848(P2013−86848A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229449(P2011−229449)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】