説明

口腔チタンインプラント材とその製造方法

【課題】生体適合性の優れた口腔チタンインプラント材とその製造方法を提供する。
【解決手段】 表面の一部または全部をリン酸化プルランにより被覆して生体適合性を高めた口腔チタンインプラント材、及びチタンの表面の一部または全部をリン酸化プルランにより被覆する工程を含む、口腔チタンインプラント材の製造方法により、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔チタンインプラント材とその製造方法に関し、より詳細には、チタンの表面をリン酸化プルランにより被覆して生体適合性を高めた、口腔チタンインプラント材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタンは、優れた耐食性、展延性、硬度を有する金属であり、また、他の金属と比べ、生体適合性がよいことから、口腔インプラント材として広く用いられている。しかしながら、従来の口腔チタンインプラント材は、これを適用した対象者によっては、チタンと骨との親和性不良のため、骨に埋入したチタンの撤去を余儀なくされるケースが見受けられる。この不具合を解消する手段として、チタン表面を酸化して、チタン表面に酸化チタン層やリン酸カルシウム系ガラス層を設けたり(特許文献1)、チタン表面にチタン粉末を焼結した連続孔を有する多孔構造物を付与したり、或いは、チタン表面をヒドロキシアパタイト加工したり、エチレン/ビニルアルコール共重合体を被覆したり(特許文献2)して、チタンの生体適合性を向上させる工夫がなされている。
【特許文献1】特開2001−80936号公報
【特許文献2】特開2000−316879号公報
【0003】
しかしながら、これらの従来法によっても、チタンの生体適合性は不充分であり、より生体適合性の高い、チタン加工品およびこれを用いて得られる口腔チタンインプラント材の確立が鶴首されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、生体適合性の優れた口腔チタンインプラント材とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記課題を解決することを目的として、チタン表面を被覆する材料として、従来より、生体適合性に優れた素材として知られている多糖類を広く検索した。さらに、本発明者等は、プルランに着目し、プルランを用いてチタンの生体適合性を高める手段について、鋭意研究した。
【0006】
その結果、プルランはそのままでは、チタンに対する接着性が不十分であり、これをそのままチタン表面に被覆したのでは、チタン表面から容易に剥離してしまい、所期の目的が達成できないことが判明した。そこで、本発明者等は、プルランのチタンへの接着性を高めることを目的として、プルランにリン酸及び/又はポリリン酸を結合させてリン酸化プルランとしたところ、チタンへの接着性が著しく高まることを見出した。この知見に基づき、当該リン酸化プルランにより、チタン表面の一部または全部を被覆して得られるチタンを用いて得られる口腔チタンインプラント材は、本発明の所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、表面の一部または全部をリン酸化プルランにより被覆してなる生体適合性を高めた、口腔チタンインプラント材、及びチタンの表面の一部または全部をリン酸化プルランにより被覆する工程を含む、口腔チタンインプラント材の製造方法、及び、生体適合性に優れた口腔チタンインプラント材とその製造方法を提供することにより、上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0008】
チタン表面の一部または全部を、プルランにリン酸及び/又はポリリン酸を結合させた、リン酸化プルランにより被覆することにより、生体適合性に優れたチタンを工業的に安価に製造することができる。本明細書においては、上記したリン酸化プルランを被覆したチタンを、単に、「表面処理チタン」と言う場合がある。斯かる表面処理チタンは、生体適合性に優れていることから、口腔チタンインプラント材としての優れた用途を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のリン酸化プルランの製造に用いるプルランは、グルコース3分子がα−1,4結合したマルトトリオースが、α−1,6結合で連なった多糖類であって、従来より、食品、化粧品、医薬品、農林水産品、化学薬品等の分野に広く用いられている。プルランは、生体に適用したとき、生体内の酵素の作用を受けて、徐々に分解・吸収されることから、生体適合性に優れた、安全な材料として知られている。プルランは、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲンとは違って、生体内のアミラーゼで急速に分解されることがなく、生体内のα−グルコシダーゼなどによって緩慢に分解される特徴を有している。更に、プルランは、加熱又は適宜溶媒と混合することにより、容易にゲル状にすることができる特徴をも有している。ゲル状にしたプルランは、蛋白質や酵素などの生理活性物質を容易に取り込む物性を有し、かつ、取り込んだ生理活性物質を緩慢に放出することができる。また、プルランと生理活性物質とを適宜方法により化学的に結合させて複合体とした場合にも、取り込んだ生理活性物質を緩慢に放出させることができる利点を有する。
【0010】
本発明で用いるプルランとしては、通常、数平均分子量が10,000乃至5,000,000ダルトンのプルランが好適に用いられる。プルランの数平均分子量は、分子量標準試料として市販されているプルラン(株式会社林原商事販売)を用いる、公知の高速液体クロマトグラフィー法により求めることができる。
【0011】
本発明のリン酸化プルランの製造に用いるリン酸としては、オルトリン酸、オルトリン酸カリウム、オルトリン酸ナトリウム、及びポリリン酸ナトリウムから選ばれる1種又は2種以上を好適に用いることができる。
【0012】
本発明のリン酸化プルランを製造するに際し、プルランとリン酸とを結合させる方法は、上記リン酸とプルランとを化学的に結合させることのできる方法であれば特に制限はない。一般的には、プルランを精製水に溶解し、得られるプルラン水溶液にリン酸を加え、混合した後、減圧乾燥して、水分を、通常、30質量%以下、好適には、20質量%以下、より好適には、10質量%以下にして、通常、80℃以上、好適には、100℃乃至200℃の高温下で、通常、5分間以上、好適には、10分間乃至10時間加熱することにより、リン酸とプルランとを化学的に結合させて、本発明で用いるリン酸化プルランを得ることができる。前記プルラン水溶液におけるプルラン濃度は、通常、5質量%以上、好適には、10質量%以上、より好適には、15〜40質量%とする。プルラン水溶液に添加するリン酸の量は、プルラン質量に対し、通常、等量以上、好適には、1.5倍量以上、より好適には、2倍量以上とする。上記方法により得られるリン酸化プルランを精製する方法としては、例えば、溶媒沈殿法、透析法、電気透析法、イオン交樹脂やゲル濾過樹脂などを用いるカラムクロマトグラフィーなどを例示でき、これらの方法を適宜組み合わせて、残存する遊離のリン酸や未反応のプルランを除去して、リン酸化プルランを精製することができる。更に、必要に応じて、上記の方法により精製したリン酸化プルランを活性炭や高性能濾過によってパイロジェンを除去し、高純度リン酸化プルランとすることも随意である。
【0013】
本発明のリン酸化プルラン中のリン酸含量は、本発明の所期の目的を達成するために、リンとして、0.01質量%以上、好適には、0.01質量%乃至5.0質量%が望ましく、その含量は、下記の方法で測定することができる。
【0014】
即ち、リン酸化プルラン試料を120℃で5時間、真空乾燥し、得られた乾燥物10gを秤量してビーカーに入れ、電気加熱器上で予備灰化した後、500℃の電気炉中で灰化する。放冷後、灰に18%塩酸水溶液3mlを加え、水浴上で蒸発乾固する。さらに、18%塩酸水溶液2mlを加え、ビーカーの開口部を時計皿で覆い、200℃のホットプレート上で30分間加熱した後、ろ紙でろ過し、ろ液を回収する。さらに、精製水10mlを用いてビーカー内壁と、ろ紙を洗浄し、洗浄液を回収する。この洗浄操作をさらに2回繰り返し、洗浄水を回収する。最終的に、ろ液と洗浄水とを集め、精製水を加えて全量を200mlとする。次いで、本溶液中のリン酸含量をモリブデンブルー法を用いて定量する。
【0015】
本発明で用いるチタンは、歯科学的許容性のものであれば全て使用することができる。例えば、歯科用材料として製造され、販売されているチタン製品をそのまま、或いは、切除、整形又は成形等の加工処理を施した後、これらの表面の一部又は全体を研磨、洗浄したものであってもよい。
【0016】
次に、本発明のリン酸化プルランをチタンに被覆する方法について述べる。その方法としては、予め、濃度0.1乃至10モルの塩酸水溶液に1分間乃至1時間浸漬したチタンを、1質量%乃至30質量%のリン酸化プルラン水溶液に浸漬、又は、その水溶液を塗布又は噴霧して、チタン表面にリン酸化プルランを付着させ、20℃以上、好適には、20乃至80℃で乾燥することにより、リン酸化プルランをチタン表面に被覆することができる。チタン表面に被覆されるプルランの膜厚は、リン酸化プルラン水溶液の濃度、これをチタンに適用する量によって変化するが、通常、1μm以上、好適には、1〜800μm、より好適には、50〜500μm、更に好適には、70〜400μmとする。チタン表面に被覆したリン酸化プルラン膜は、室温下で長期間放置しても剥離することなく、チタン表面に安定に接着している。
【0017】
また、リン酸化プルラン水溶液を調製するに際し、該水溶液中に適量の各種生理活性物質を加えて生理活性物質含有リン酸化プルラン水溶液とし、この水溶液を用いて上記の如くチタン表面を被覆し、生理活性物質含有リン酸化プルランをチタン表面に被覆することも随意である。前記生理活性物質含有リン酸化プルランを被覆したチタンを用いた場合、生体内において、生理活性物質を徐放させることができる。この際、生理活性物質として、骨芽細胞の形成と機能の制御に作用すると言われている活性型ビタミンD(1α,25(OH))、副甲状腺ホルモン(PTH)、エストロゲン(E)、プロスタグランジンE(PGE)などのホルモンを用い、斯かる生理活性物質を含有するリン酸化プルランをチタン表面に被覆し、これを生体に適用する場合には、チタンと骨芽細胞などとの初期接着性と、生体適合性とが顕著に向上する。
【0018】
本発明に係るリン酸化プルランに生理活性物質を保持させるに際し、リン酸化プルランをそのまま用いてもよいが、リン酸化プルランに、より強固に生理活性物質を保持させる目的で、塩化シアヌル、ブロムシアン、過ヨウ素酸などの活性化試薬を用いて、予め、リン酸化プルランを活性化させることも適宜である。生理活性物質を結合させたリン酸化プルランを被覆したチタンは、生体内において、当該プルランが緩慢に分解され、この分解に伴い、生理活性物質が緩慢に徐放される。
【0019】
以下、実験例と実施例とにより、本発明をより具体的に説明する。
【実験例1】
【0020】
<リン酸化プルランの調製>
プルラン(商品名『プルラン』、数平均分子量70,000ダルトン、株式会社林原商事販売)45gに精製水205gを加え、攪拌しながら溶解した。このプルラン水溶液に、予め、オルトリン酸(和光純薬工業株式会社販売)を濃度1モル水溶液(pH5.5)となるように調製したリン酸水溶液1,000gを加え、混合した後、全量を真空乾燥して水分9.7質量%とした。得られた乾燥物を170℃で5時間加熱してリン酸化プルランを得た後、これをミキサーで粉砕してリン酸化プルラン粉砕物を約160g得た。この粉砕物を水3,840gに溶解した後、エタノール(純度99%)3,000gを加え、リン酸化プルランを沈殿させた。この沈殿物を遠心分離(5,000rpm、15分間)して回収し、50質量%エタノール水溶液2,000gを用いて2回洗浄し、得られた沈殿物に精製水150gを加え、固形物を約60g含む、粗リン酸化プルラン水溶液263gを得た。この粗リン酸化プルラン含有水溶液にエタノール(純度99%)230gを加え、リン酸化プルランを沈殿させた後、沈殿物を回収し、精製水300gを加えて、再溶解し、再度、エタノール(純度99%)200gを加えてリン酸化プルランを沈殿させ、得られた沈殿物を60℃で3時間減圧乾燥し、粉砕して、水分含量が5.6質量%である、精製リン酸化プルラン粉末を約41g得た。
【0021】
上記方法により得られた精製リン酸化プルランを40g秤量し、精製水360gに溶解し、これに活性炭を20g加え、60℃で1時間攪拌した後、濾過し、得られた濾液をデプスフィルター(商品名『ゼータプラス、S30』、キュノ株式会社販売)で濾過した。得られた濾液(約380g)にエタノール(純度99%)を380g加え、攪拌し、生成した沈殿物を遠心分離(7,000rpm、20分間)して回収し、40℃で18時間真空乾燥し、粉砕して、水分含量が3.5質量%である、精製リン酸化プルラン標品(標品1)を37g得た。本標品1をエンドトキシン測定試薬(商品名『リムルスJテストワコー』、和光純薬工業株式会社販売)で測定したところ、本標品1は、エンドトキシンを0.25EU/ml未満含有し、パイロジェンは検出限界以下であり、安全性の極めて高い標品であった。本標品1の赤外吸収スペクトルを図1に、対照としてのプルラン(商品名『プルラン』、数平均分子量70,000ダルトン、株式会社林原商事販売)の赤外吸収スペクトルを図2に示す。
【実験例2】
【0022】
<リン酸含量の測定>
実験例1の方法で得られた精製リン酸化プルラン標品(標品1)約12gを120℃で5時間、真空乾燥し、得られた乾燥物10gを秤量してビーカーに入れ、電気加熱器上で予備灰化した後、500℃の電気炉中で灰化した。放冷後、灰化物に18%塩酸水溶液3mlを加え、水浴上で蒸発乾固した。さらに、18%塩酸水溶液2mlを加え、時計皿で覆い、200℃のホットプレート上で30分間加温した後、ろ紙でろ過し、ろ液を回収した。さらに、精製水10mlでビーカー内壁と、ろ紙とを洗浄し、その洗浄液を回収した。この洗浄操作をさらに2回繰り返し、洗浄水を回収した。ろ液と洗浄水とを集め、精製水を加えて全量を200mlとし、試験溶液とした。試験溶液1mlを100ml容メスフラスコに分取し、1%フェノールフタレインエタノール溶液を3滴加え、0.5%アンモニア水を微紅色を呈するまで加えた後、0.6%硝酸水溶液で中和した。水で全量を約70mlとした後、予め、調製しておいた0.12質量%メタバナジン酸アンモニウム1.5質量%硝酸2.7質量%モリブデン酸アンモニウム混液20mlを加え、全量を100mlとした。30分間放置した後、410nmにおける本溶液の吸光度を測定した。なお、別途、リン酸一カリウム標準液を用いて、前記同様にその吸光度を測定し、その測定結果に基づいて作成した検量線に基づいて、リン含量を計算した。その結果、精製リン酸化プルラン標品(標品1)は、1g当り、リンを約24mg含んでいた。
【実験例3】
【0023】
<リン酸化プルランの調製>
プルラン(商品名『プルランPI20』、株式会社林原商事販売、数平均分子量110,000ダルトン)45gに精製水を205g加え、充分攪拌しながら溶解させた。このプルラン水溶液に、予め、ポリリン酸(和光純薬工業株式会社販売)を濃度1モル(pH5.5)となるように調製したポリリン酸水溶液を1,000g加え、混合した後、全量を真空乾燥して、水分含量が10.2質量%となるまで乾燥した。得られた乾燥物を170℃で5時間加熱してリン酸化プルランを得た。得られたリン酸化プルランをミキサーで粉砕して、リン酸化プルラン粉砕物を約130g得た。この粉砕物を精製水3,000gに溶解した後、エタノール(純度99%)を2,500g加え、リン酸化プルランを沈殿させた。得られた沈殿物を遠心分離(5,000rpm、15分間)して回収し、更に、50質量%エタノール水溶液2,000gを用いて2回洗浄し、得られた沈殿物に精製水を100g加え、固形物を約25g含有する粗リン酸化プルラン含有水溶液を約130g得た。この粗リン酸化プルラン含有水溶液にエタノール(純度99%)を130g加え、リン酸化プルランを沈殿させた後、沈殿物を回収し、精製水を120g加えて溶解し、再度、エタノール(純度99%)を80g加えてリン酸化プルランを沈殿させ、得られた沈殿物を60℃で3時間減圧乾燥し、粉砕して、水分含量が5.2質量%である精製リン酸化プルラン粉末を約20g得た。
【0024】
上記の方法で得られた精製リン酸化プルランを精製水180g中に溶解し、実験例1に示す方法により、エンドトキシンを除去し、真空乾燥し、粉砕して、水分含量が3.7質量%である精製リン酸化プルラン標品(標品2)を18g得た。本標品2をエンドトキシン測定試薬(商品名『リムルスJテストワコー』、和光純薬工業株式会社販売)で測定したところ、本標品2は、エンドトキシンを0.25EU/ml未満含有し、パイロジェンは検出限界以下であった。なお、実験例2で用いた方法により、本標品2におけるリン含量を測定したところ、精製リン酸化プルラン標品(標品2)1g当り、リンを約9.4mg含んでいた。本標品2の赤外吸収スペクトルを図3に示す。
【実験例4】
【0025】
<チタンへの接着性評価試験>
実験例1で得たリン酸化プルラン標品(標品1)、実験例3で得たリン酸化プルラン標品(標品2)、及び、対照としてのプルラン(商品名『プルラン』、数平均分子量70、000ダルトン、株式会社林林原商事販売)を用いて、チタンへの接着性を調べた。上記リン酸化プルラン標品1、2及び対照のプルランを用いて、それぞれ10質量%の水溶液を調製した。一方、チタン円板(直径13mm、厚み2mm、株式会社ジーシー製)をそのまま、又は、濃度1モル塩酸中に30分間浸漬(以下、「塩酸処理」と言う。)した後、精製水で洗浄し、次いで、前記標品1、2及び対照のプルラン水溶液に浸漬した後、直ちに取り出し、60℃で1時間乾燥させ、チタン円板表面に皮膜(膜厚約200μm)を形成させた。次に、各チタン円板に被覆されたリン酸化プルラン皮膜及びプルラン皮膜のチタンへの接着性を評価するため、これらチタン円板表面にセロハンテープ(商品名『セロテープC252』、工業積水化学工業株式会社製)(7cm)を張り付け、1分間経過後、そのテープを剥し、テープ上にリン酸化プルラン皮膜又はプルラン皮膜が付着してチタン円板から剥離するかどうかを調べた。それらの結果を表1にまとめた。
【0026】
【表1】

表中、○、△、×はそれぞれ、「セロハンテープ上へのプルラン皮膜の剥離が全く認められなかった」、「セロハンテープ上へのプルラン皮膜の剥離が一部認められた」、「セロハンテープ上に剥離したプルラン皮膜が一様に認められた」ことを意味する。
【0027】
表1の結果から明らかなとおり、リン酸化プルラン標品1及びリン酸化プルラン標品2は、塩酸処理したチタンに対し良好な接着性を示すことが判明した。また、塩酸処理しなかったチタンに対しては、両標品とも低い接着性を示すことが判明した。一方、対照のプルランは、チタンの塩酸処理の有無に関わらず、チタンへの接着性は劣ることも判明した。
【0028】
以上の結果から、リン酸化プルランは、塩酸処理したチタンに対し良好な接着性を示すことが判明した。
【実験例5】
【0029】
<細胞接着性>
マウス骨芽細胞様細胞MC3T3−E1株(ATCC CRL−2593)を10%(v/v)牛胎児血清及び7.5質量%NaHCOを含むα−MEM培地(ICN Biomedical販売)中に1.5×10個/mlとなるように懸濁し、37℃、5%(v/v)COインキュベータ中で72時間培養した。培養後、細胞を回収し、前記と同様の新鮮な培地中に5×10個/mlとなるように懸濁して、細胞懸濁液を調製した。一方、実験例1の方法で調製し、精密濾過して無菌としたリン酸化プルランを、無菌的に塩酸処理したチタン円板(直径13mm、厚み2mm、株式会社ジーシー製)表面に実験例4の方法にしたがって被覆し、無菌精製水50ml中に前記チタン円板を浸漬し、直ちに取り出して、上記細胞懸濁液(1ml)中に浸漬し、37℃、5%(v/v)COインキュベータ中で10分間培養した。培養後、チタン円板を培地中から取り出し、リン酸緩衝液(PBS)で洗浄してチタン円板に非吸着の細胞を除去し、チタン円板に吸着した細胞をMTSアッセイ試薬(商品名『CellTiter 96R』、プロメガ株式会社販売)を用いて測定した。一方、対照として、塩酸処理していないチタン円板(以下、「塩酸無処理チタン」と言う。)を用いた以外は前記同様にしてリン酸化プルランを被覆したチタン円板(対照1)と、塩酸処理のみを施し、リン酸化プルランを被覆していないチタン円板(対照2)を用いて、前記同様にして、細胞を培養し、チタン円板に接着した細胞数を測定したところ、塩酸処理チタン表面にリン酸化プルランを被覆したチタン円板には、2.7×10個の細胞が接着していたのに対し、対照1の塩酸無処理チタン表面にリン酸化プルランを被覆したチタン円板には、1.8×10個の細胞が接着し、対照2の塩酸処理チタン表面にリン酸化プルランを被覆していないチタン円板には、1.0×10個の細胞が接着していた。
【0030】
以上の結果から、塩酸処理チタン表面にリン酸化プルランを被覆したチタンは、対照1、2と比べ、細胞の接着性が有意に高いことが判明した。この事実は、塩酸処理チタン表面にリン酸化プルランを被覆したチタンは、これを口腔インプラント材として用いたとき、適用部位の生体組織との適合性が優れていることを示すものである。
【実施例1】
【0031】
<口腔チタンインプラント材>
実験例1で得たリン酸化プルラン標品(標品1)又は実験例3で得たリン酸化プルラン標品(標品2)を用いて、15質量%の水溶液を調製した。一方、チタン円柱(直径5mm、長さ20mm)2本を濃度1モル塩酸中に60分間浸漬した後、精製水で洗浄し、次いで、前記プルラン水溶液のそれぞれに浸漬した後、直ちに取り出し、60℃で1時間乾燥させ、チタン円柱表面に皮膜(膜厚約250μm)を形成させ、本発明の口腔チタンインプラント材を二種類得た。本品は、細胞の接着性が高く、口腔インプラント材として用いたとき、適用部位の生体組織との適合性にも優れている。
【実施例2】
【0032】
<口腔チタンインプラント材>
実験例1の方法で得たリン酸化プルラン標品600mgを精製水30mlに溶解し、温度5℃に調整した。一方、予め、5mgの塩化シアヌル(和光純薬工業株式会社販売)をアセトン1mlに溶解して得られた塩化シアヌル溶液を、上記リン酸化プルラン含有水溶液に加え、温度5℃に保ちながら攪拌しつつ、濃度30質量%の炭酸ナトリウム水溶液を用いてpHを7.0に調整しながら1時間反応させ、活性化リン酸化プルラン溶液を得、精密濾過して、無菌化した。この活性化リン酸化プルラン溶液20mlに、予め、塩基性線維芽細胞生長因子(和光純薬工業株式会社販売)5mgをリン酸緩衝液(pH7.0)10mlに溶解しておいた塩基性線維芽細胞生長因子溶液を加え、37℃で5時間攪拌し、結合反応を行い、更に、余分な活性基を保護するためグリシンを6g加え、5℃で8時間攪拌し、線維芽細胞生長因子を結合させたリン酸化プルラン含有液を得た。当該溶液を、ゲル濾過樹脂(商品名『セファデックスG100』、アマシャムバイオサイエンス株式会社販売)600mlを用いたゲル濾過カラムクロマトグラフィーで分離し、カラムから溶出した溶出液中のリン酸化プルラン量をアンスロン法で、塩基性線維芽細胞生長因子量をイムノアッセイキット(商品名『線維芽細胞成長因子、塩基性、ヒトアナライザ イムノアッセイキット』、和光純薬工業株式会社販売)で測定し、リン酸化プルラン塩基性線維芽細胞成長因子複合体画分を回収した。得られた画分を回収し、これを常法に従って凍結乾燥して、リン酸化プルラン塩基性線維芽細胞成長因子複合体粉末を約350mg得た。本粉末をイムノアッセイに供したところ、本粉末は、粉末1g当り約3.1mgの塩基性線維芽細胞成長因子を含有していることが判明した。本粉末を精製水に溶解して、20質量%の水溶液を調製した。この水溶液に、チタン円柱(直径7mm、長さ12mm)を濃度2モル塩酸中に20分間浸漬した後、精製水で洗浄し、次いで、前記プルラン水溶液のそれぞれに浸漬した後、直ちに取り出し、55℃で1時間乾燥させ、チタン円柱表面に皮膜(膜厚約300μm)を形成させ、本発明の口腔チタンインプラント材を得た。本品は、細胞の接着性が高く、口腔インプラント材として用いたとき、適用部位の生体組織との適合性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実験例1で調製した精製リン酸化プルラン標品1の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図2】実験例1で用いた対照のプルランの赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図3】実験例3で調製した精製リン酸化プルラン標品2の赤外吸収スペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の一部または全部をリン酸化プルランにより被覆してなる生体適合性を高めた、口腔チタンインプラント材。
【請求項2】
チタンの表面の一部または全部をリン酸化プルランにより被覆する工程を含む、口腔チタンインプラント材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−6978(P2007−6978A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−188707(P2005−188707)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】