説明

口腔乾燥症またはドライマウスの治療用組成物

本発明は、口腔乾燥症およびそれに関連する障害を治療するための、非刺激時の唾液の分泌増加、口腔乾燥症に関連する疼痛を含む口腔乾燥症症状の緩和、ならびに罹患した人々の生活の質の改善との顕著な結果を示す、オリーブ油、トリメチルグリシン、およびキシリトールを含んでなる組成物を提供する。本発明による組成物はまた、酸性条件における脱灰から象牙質を保護することも示されている。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
技術分野
本発明は、口腔障害の治療の分野に関する。具体的には、本発明は、口腔乾燥症およびその関連問題の治療用組成物に関する。
【0002】
背景技術
唾液は自然体液であり、この機能は口腔咽頭、消化器、および全身の健康にとって極めて重要である。唾液機能は一見単純である。しかしながら、その組成の複雑さはその多数の性質を反映している。唾液の量または質が低下すると、複数の問題が起こり、口腔乾燥症または「ドライマウス」もしくは「口腔灼熱」と呼ばれる。
【0003】
WDF(国際歯科連盟(World Dental Federation))は、この疾患を罹患率の高さから「現代人の疾患」と定義づけている。この疾患の罹患率は20歳前後の人では20%、60歳の人では40%に及び、高齢層ではさらに高い。
【0004】
口腔乾燥症またはドライマウスは、性別、人種、年齢、または他の条件とは関係なく誰に対しても影響を及ぼし得る普遍的な問題である。しかしながら、口腔乾燥症またはドライマウスは男性よりも女性において、主に閉経期のエストロゲンホルモンの減少から、他の粘膜(膣および眼など)において乾燥が現れるのと同じように、高い頻度で現れる。成人の4人に1人はドライマウスに悩まされている。さらに、口腔乾燥症またはドライマウスは、複数の全身性疾患および精神疾患にも関連しており、さらに重要なことには、頻度がますます高くなっているこれらおよび他の疾患の複数の治療の二次的影響として口腔乾燥症またはドライマウスが現れ、流行特性にまで達している。これらには、例えば、糖尿病、癌、不安、鬱病、アレルギー、自己免疫疾患、ストレス、またはアルコール依存症がある。
【0005】
前者の総てに関し、口腔乾燥症または「ドライマウス症候群」は、今日ではとても関連性がある。さらに、これは、多くの場合において無症状であり、かなり進行するまで症状を示さない可能性がある症候群である。口腔乾燥症患者の50%は症状を示さず、口内の乾燥をまだ感じずにまたは口腔乾燥症が徴候もしくは症状として現れる前に、科学的に関連性がより高い、唾液の分泌の50%までが失われる可能性がある。
【0006】
口腔乾燥症またはドライマウス症候群は、歯列を有する人々(歯がある患者)に対しても、歯がない患者に対しても発症する。第1の群における前記口腔乾燥症の予後は、症候群回復の数ヶ月後に唾液の自然緩衝能力の変化も起こるため、極めて明確であり、唾液の分泌の不足から、口内の硬組織(歯)の短期構造劣化をもたらす。
【0007】
口腔乾燥症を有する歯がある患者では、正常な生理学的条件下においては防衛、障壁、および強化としての機能を果たす唾液も、日々の攻撃(齲蝕原性細菌、酸、pHの低下、歯ぎしり、または食いしばり...)によって起こるエナメル質および象牙質の脱灰を遅らせるのに、もはや効果はなくまたは十分ではない。そのため、例えば、口内pHの食後の(摂食後の)低下の結果として、急速に進行する齲蝕および非定型齲蝕(歯頸部齲蝕など)が起こり、これにより歯が数ヶ月で完全に破壊され得る。さらに、歯の有無に関係なく、一連の非常に多くの症状および徴候が起こり得、これらにより患者の生活の質が変更させられる可能性がある。
【0008】
歯がない患者においては、患者は総ての歯を既に失っているため、口腔乾燥症による歯の破壊は起こらない。しかしながら、徴候および症状の発現は第1の群の場合よりも大きくなり得る。
【0009】
前記分泌には異なる種類の腺が関与している:粘性唾液は小唾液腺(口唇、口蓋、舌)によって分泌され、一方、水性唾液は耳下腺および顎下腺によってかなり大量に分泌される。
【0010】
ドライマウス症状は、刺激時でも非刺激時でも唾液分泌が正常である患者において頻繁に見られる。これに対して、口内乾燥を訴えていない、真性唾液分泌減退を示す患者もいる。患者が認識するのは、主として、唾液成分の欠如による:すなわち、唾液の分泌(水性唾液または刺激時の唾液の分泌)の量は同じであるかもしれないが、潤滑剤となり、快適さを与える粘性成分が不足している場合(科学的には安静時または非刺激時唾液と呼ばれる)に口内乾燥を感じる。これに対して、唾液の分泌が減少している患者は、粘性唾液を保持しているならば、乾燥を認知しない可能性がある。
【0011】
これまでに、安静時または非刺激時に唾液が存在し、それが症状を予防し、かつ軟組織(舌および粘膜)および硬組織(歯)の両方を保護することが見出されている。潤滑剤となり、外部環境から眼構造を保護し、正常視力を保護する涙液分泌とは全く異なる、顔を流れ下るために眼の保護機能を果たさない動揺時の涙(泣き)と比較することができる。
【0012】
刺激時および非刺激時または安静時の両方の種類の唾液は、量、腺起源、および組成において著しく異なる。安静時唾液は、潤滑剤となり、平穏感を与えるものである。好ましい学説の一つは、これが緩衝系における高濃度のカリウムイオンによる可能性を示しており、カリウムイオンは、科学的には、脱感作練り歯磨きおよびゲルにおいて最もよく用いられているカチオンである。これに対して、刺激時唾液には大量のナトリウムが含まれる。
【0013】
唾液の分泌に関しては大きな個体差がある。50%まで異なることがある。
【0014】
口腔乾燥症は、会話、咀嚼、および飲み込みを困難にし、また、唾液の分泌によって細菌が洗い流されることがもはやないために歯垢の蓄積に有利に働くことから口腔衛生も困難にする。さらに、口腔乾燥症は、唾液の緩衝効果を減少させ、pHを酸性にし、歯を破壊する。口腔乾燥症には、多くの慢性咽頭炎、粘膜炎、そして消化器障害までも関係する。局所レベルでは、口腔乾燥症は、軟組織、および舌に灼熱感および/または疼痛感を引き起こし、短時間間隔で口に潤いを与える必要性をもたらし、歯の表面をざらざらのままにし、歯または舌と口蓋の間にほんのわずかな唾液しか生じさせず、歯群に圧迫感または緊張感を引き起こし、そして疼痛までも引き起こす。口腔乾燥症は、虫歯を急速に進行させ、歯周疾患(歯肉炎)を促進し、歯の表面間に潤滑剤を用いないより大きな摩耗および摩擦により歯を摩滅させる。口腔乾燥症は、口唇亀裂および細菌感染(カンジダ症、シアロデンチチス(sialodentitis))、口臭の原因にもなり、摂食障害、不眠症、苛立ち、または鬱病までも生じる場合がある。同様に、口腔乾燥症は、社交性の観点からその患者の生活の質にも影響を及ぼす:人前での摂食や、集団での外出または会話に関心がない。
【0015】
口腔乾燥症の原因(ethiology)には多くの因子が含まれ、極めて複雑である:
1.口を乾燥させる薬物の消費:500を超える薬物群に副作用として口腔乾燥症があり、患者への投薬中止の主な理由の一つはこれが原因である。これらは口腔乾燥症の最多数の症例に関与する。長期処置後、薬物の中止にもかかわらず、唾液欠乏症は通常長く続く。
この影響を最も高い頻度でもたらす薬物は、利尿薬(ヒドロクロロチアジド、アミロライド)、鎮静薬抗鬱薬(セロトニン再取り込み阻害薬およびとりわけ三環系抗鬱薬)、抗高血圧薬抗炎症薬鬱血除去薬(フェニルプロパノールアミン、プソイドエフェドリン)、抗不安薬(ジアゼパム)、抗コリン作動性の鎮痙剤(アトロピン、オキシブチニン)、止瀉薬(ロペラミド、ジフェノキシレート)、抗ヒスタミン薬(クロルフェナミン、ロラタジン)、非ステロイド抗炎症薬(ピロキシカム、イブプロフェン)、オピオイド鎮痛薬(モルヒネ)、筋弛緩薬(バクロフェン)、気管支拡張薬(イプラトロピウム、サルブタモール)、抗パーキンソン薬(レボドパ、ビペリデン)、抗にきび薬(イソトレチノイン)並びにフェノチアジンおよびブチロフェノンなどの抗精神病薬である。
2.頭頸部放射線療法(最も広く認識されている原因の一つ)などの腫瘍学的処置。さらに、かつより頻繁には、腫瘍学的化学療法も。さらには甲状腺癌における放射性ヨード療法も。
3.自己免疫疾患:自己免疫疾患によって唾液の分泌が永久的に減少される。シェーグレン症候群、全身性紅斑性狼瘡、関節リウマチ、多発性筋炎/皮膚筋炎、および強皮症を強調することができる。
4.感染症:HIV、肝炎。
5.免疫抑制療法を受けた移植患者:唾液腺機能低下。
6.透析患者。
7.糖尿病、関節炎、アルツハイマー病、および老年性認知症などの全身性疾患。
8.不安、鬱病、および神経性食欲不振症などの精神疾患。
9.アルコール、タバコ、および薬物などの常習性薬物の消費。我々の時代における共通因子。
【0016】
いずれにしても、口腔乾燥症は、患者の生活の質の低下だけでなく、患者の健康にも深刻な影響を及ぼすため、口腔乾燥症を診断し、治療することが重要である。
【0017】
これは、口腔乾燥症が極めて複雑な症候群であることを示す。これまで、処置に関しては、欠如した自然唾液を代用する人工製品による自然唾液の模倣に集中した試みに失敗しただけである。
【0018】
よって、これまで、人工唾液を考案するという意味において試みがなされてきたが、前記製品の批判は免れない。一般的には、流動学的特徴および官能的特徴から、前記製品は通常、酸性(極めて酸性でさえある)のpHレベルのゲルであり、このことがドライマウス患者に続発リスクを及ぼすためである(Dr. Carl W. Haveman, D. D. S., M. S., Director, Advanced General Dentistry Clinic, The University of Texas Health Science Center at San Antonioによる"Dental Management and Treatment of Xerostomic Patients" - Texas Dental Journal, June 1998, pp. 43 to 56); Department of Operative Dentistry and Periodontology. University School of Dental Medicine, Freie Unversitaet, Berlin, Germanyによる"The effect of commercially available saliva substitutes on predemineralised bovine dentin in vitro" - Oral Diseases #8, pp. 192-198) 。
【0019】
よって、現在の技術水準において、口腔乾燥症を治療するための、安静時または非刺激時の唾液の分泌を増加させる代替の組成物を提供することが求められている。
【発明の概要】
【0020】
本発明者らは、オリーブ油、トリメチルグリシン、およびキシリトールの組合せが、驚くべきことに、安静時または非刺激時の唾液の分泌を約200%増加させ、ドライマウス症候群の症状(疼痛を含む)をうまく緩和し、そして患者の生活の質を改善することを達成したことから、この組合せには相乗効果があることを見出した。
【0021】
Kellyらによる研究 ("Bioadhesive, Theological, lubricant and other aspects of an oral gel formulation intended for the treatment of Xerostomia", H. M. Kelly, P. B. Deasy, M. Busquet, A. A. Torrance. School of Pharmacy, Trinity College, University of Dublin, Ireland - International Journal of Pharmaceutics 2004 #278, pp. 391-406)では、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、および塩化マグネシウムに基づく唾液分泌促進薬または刺激薬を含む人工唾液が記載されており、これらの唾液分泌促進薬または刺激薬は、刺激時の唾液の分泌を増加させるものであり、そして著者らはその唾液が粘り気も粘性もないという珍しい存在を示しているが、その生体接着および粘度を改善するためにヒマワリ油またはオリーブ油も含んでなり得るものでもある。オリーブ油の使用は、粘膜の乾燥に関連する皮膚障害の治療用組成物における脂肪性ビヒクルとしても記載されている(米国特許第200528174号公報および豪州特許第414095号公報)。
【0022】
キシリトールは、非常に多くのドライマウス用製品に成分として含められており、非発癌性甘味剤として立証された利益を有している(例えば、スペイン国特許第2186569号公報参照)。しかしながら、唾液の分泌を刺激するその能力それ自体は立証されていない(Caries Res. 1993; 27(1) :55-9; Caries Res. 1999; 33(1) :23-31)。実際、スペイン国特許第2057412号公報に記載されているチューインガムおよび菓子製品における唾液分泌刺激薬としての機能は、例えば、口内のガム、硬質、もしくは軟質合成樹脂によって有効成分を用いなくとも刺激時の唾液の分泌を促進することができることから、むしろビヒクルによるものであると思われる(J. Dent. Res. 1989; 68(5):786-90)。
【0023】
その一方で、米国特許第5,156,845号公報においては、塩酸ベタイン分子がその組成物に寄与する酸度に基づいて刺激時の唾液の分泌を刺激するための塩酸ベタインの使用が記載されている。同様に、Jutilaによる米国特許第6,156,293号公報においては、非治療用調製物は生体生理機能を増大しないことから、非治療用調製物における、体の粘膜および膜の乾燥症状を緩和するためのトリメチルグリシンの使用が定義されている。著者は、トリメチルグリシンを、粘膜表面に付着し、しばらくの間そこに留まり、水と結合することによって粘膜を湿らせることができる双極化合物として記載している。
【0024】
しかしながら、オリーブ油、キシリトール、およびトリメチルグリシンの併用は、当技術の水準において、口腔乾燥症の治療において唾液の生理機能を改善するための治療用組成物としては記載されていない。本発明の組成物は、この深刻な問題の最も重要な症状の緩和を成し遂げるだけでなく、非刺激時の唾液の分泌の驚くべき増加の結果、自然唾液によってもたらされる総ての利益も成し遂げる。
【0025】
さらに、また驚くべきことに、前記相乗的な組合せは象牙質脱灰から保護することもできるが、これらの成分はいずれも単独ではこれを成し遂げず、その結果、口腔乾燥症に関連する問題(例えば、齲蝕など)を予防または軽減しない。
【0026】
Buchallaら ("Influence of Olive Oil Emulsions on Dentin Demineralization in vitro", W. Buchalla, T. Attin, P. Roth, E. Hellwig. Freiburg University, Germany - Caries Research 2003 #37, pp. 100 to 107)によれば、5%および50%のオリーブ油を含む油性エマルジョンの象牙質脱灰に対する保護効果が記載されており、後者は前者より大きな程度に保護するが有意差はないと結論付けている。同様に、Featherstone and Rosenbergによる研究(Caries Res 18 (1984) 52-55)によれば、脂質はエナメル質の有機水和−脂肪−タンパク質基質(the organic aquo-lipo-proteic matrix)に拡散被膜を与え、齲蝕の発生を防ぐことが示されている。
【0027】
その一方で、前記研究に含まれている腐食保護研究から得られた結果からは、前記三成分の組合せがエナメル質および象牙質を脱灰から保護する条件下において、脱灰から保護するオリーブ油の能力は明らかでない。
【0028】
さらに、本発明の組成物の三成分の組合せは、象牙質の喪失の予防に関してのかかる驚くべき効果を有し、これらの三成分による効果が単独でもたらされるものよりも大きいということは示唆または記載されていない。歯肉の脱水によって象牙質の露出が生じ、この露出によって著しく脱灰の影響を受けるため、この性質は口腔乾燥症患者においてとりわけ重要である。
【0029】
よって、記載した有効成分を組み合わせた本発明の組成物は、口腔乾燥症またはそれに関連する障害の治療を可能にし、安静時の唾液の分泌の増加、口腔乾燥症に関連する症状および疼痛の緩和、ならびに罹患した人々の生活の質の改善という非常によい結果を示す。さらに、本発明による組成物は、唾液のない口内にある条件と同様の極端なpH条件を受けた象牙質を脱灰から保護することが立証されている。
【0030】
よって、本発明の目的は、オリーブ油、トリメチルグリシン、およびキシリトールの相乗的な組合せを含んでなる、口腔乾燥症の治療用組成物を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】は、通常のドライマウス用製品(対照)および本発明の組成物(試験)の局所適用の開始時および1週間後の非刺激時の唾液分泌の値を示す。
【図2】は、通常のドライマウス用製品(対照)および本発明の組成物(試験)の局所適用の1週間後の口腔乾燥症VAS質問票の結果による症状の変化を示す。
【図3】は、通常のドライマウス用製品(対照製品)および本発明の組成物(試験製品)の使用後に、口腔乾燥症に関連する生活の質において検出された変化を示す。
【図4】は、蒸留水、オリーブ油、および本発明の組成物(試験溶液)を用いた極端な腐食条件下においての象牙質喪失を示す。
【図5】は、蒸留水、オリーブ油、および本発明の組成物(試験溶液)を用いた極端な腐食条件下においてのエナメル質喪失を示す。
【図6】は、蒸留水、本発明の組成物、およびその三成分(2%オリーブ油、2%トリメチルグリシン、および1%キシリトール)のうちの一成分の各溶液を用いた極端な腐食条件下においての象牙質喪失を示す。
【発明の具体的説明】
【0032】
本発明は、オリーブ油、トリメチルグリシン、およびキシリトールを含んでなる、口腔乾燥症の治療用組成物(以下では「本発明の組成物」)を提供する。
【0033】
本発明において、用語「口腔乾燥症の治療用組成物」とは、生理機能を改善する、すなわち、非刺激時の唾液の分泌を生理的に増加させる組成物を示す。したがって、このような組成物は治療用組成物であり、単なる口腔衛生用品ではない。さらに、前記組成物は、口腔乾燥症関連疼痛を含むその症状を緩和し、罹患した人々の生活の質を改善する。前記組成物はまた、酸によって起こる脱灰の予防に効果的であることも立証される。
【0034】
前述したように、本発明は、新規かつ革新的な局所治療用組成物を使用することによって「安静時唾液」の自然唾液の分泌を維持および増加させることを目的としている。これには、「自由に」、すなわち、ピロカルピンの場合のようにこれまでに分かっている刺激薬の副作用がなく、必要な場合に(患者は一日中、夜間でさえドライマウスに悩まされている)適用することができるという利点がある。
【0035】
唾液の分泌を刺激することによる本発明の組成物は、カルシウムイオン、カリウムイオン、リン酸イオン、および重炭酸イオンの量だけでなく、自然ヒト唾液に含まれる他の有益な成分(例えば、タンパク質、免疫グロブリン、ペルオキシダーゼなど)の量もうまく増加させる。
【0036】
特定の実施形態では、本発明の組成物は0.1〜4重量%のオリーブ油を含んでなる。好ましい実施形態においては、本発明の組成物は0.2〜3重量%のオリーブ油を含んでなる。さらに好ましい実施形態においては、本発明の組成物は2重量%のオリーブ油を含んでなる。
【0037】
特定の実施形態では、本発明の組成物は0.1〜6重量%のトリメチルグリシンを含んでなる。好ましい実施形態においては、本発明の組成物は4重量%のトリメチルグリシンを含んでなる。
【0038】
特定の実施形態では、本発明の組成物は1〜50重量%のキシリトールを含んでなる。好ましい実施形態においては、本発明の組成物は5〜30重量%のキシリトールを含んでなる。さらに好ましい実施形態においては、本発明の組成物は10重量%のキシリトールを含んでなる。
【0039】
好ましい実施形態においては、本発明の組成物は、2重量%のオリーブ油、4重量%のトリメチルグリシン、および10重量%のキシリトールを含んでなる。別の好ましい実施形態においては、本発明の組成物は、2重量%のオリーブ油、2重量%のトリメチルグリシン、および1重量%のキシリトールを含んでなる。
【0040】
別の特定の実施形態においては、本発明の組成物は、再石灰化剤、粘度調整剤、保湿剤、防腐剤、着色剤、緩衝化剤、甘味料、タンパク質分解酵素、乳化剤、研磨剤、精油、瘢痕形成剤、香料、酸化防止剤、動物性または植物性ゼラチン、賦形剤、およびその混合物などの一以上の成分をさらに含んでもよい。
【0041】
これらの補助成分のうち、再石灰化を可能にするイオン、具体的には、任意の適当な供給源からのフッ素、任意の適当な供給源からのカルシウム、ならびに再石灰化能力を有し、かつ歯を強くすることができるリン酸イオンまたは他のイオンを与えることから、再石灰化能力を向上させる薬剤を強調することができる。
【0042】
よって、好ましい実施形態では、本発明の組成物は、フッ化物アニオン、リン酸アニオン、ナトリウムカチオン、およびカリウムカチオンの中から選択される再石灰化剤を含んでなる。
【0043】
上記には、例として以下を挙げることができる:フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化スズ、フッ化アミン(ヘキサデシルアミンフッ化水素酸塩、ビス−(ヒドロキシエチル)アミノプロピル−N−ヒドロキシエチル−オクタデシルアミン二フッ化水素酸塩、N−N’,N’−トリ(ポリオキシエチレン)−N−ヘキサデシル−プロピレンジアミン二フッ化水素酸塩またはオクタデセニルアミンフッ化水素酸塩)、リン酸カリウム、ピロリン酸カリウム、クエン酸三カリウム、乳酸カリウム、パントテン酸カリウム、および炭酸カルシウム。
【0044】
同様に、当技術の水準において知られている任意の流動学的薬剤も粘度調整剤として用いることができる(アラビアガム、トラガカントガム、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、carbopolタイプのポリマー、ペクチン、またはムチンなど)。
【0045】
同様に、当技術水準の任意の保湿剤も本発明の組成物に用いることができる(例えば、グリセリン、プロピレングリコール、またはソルビトールなど)。
【0046】
本発明の組成物に用いることができる防腐剤には、いくつかある当技術水準の防腐剤の中で特に、安息香酸ナトリウム、安息香酸、ジアゾリニル尿素、イミダゾリニル尿素、メチルパラベンナトリウム、プロピルパラベンナトリウムを挙げることができる。
【0047】
その一方で、当技術水準の任意の着色剤も本発明の組成物に用いることができる(例えば、C.I.75810または二酸化チタンなど)。
【0048】
同様に、本発明の組成物には、当技術の水準において知られている任意の緩衝化剤またはpH調節剤も用いることができ、それらには以下を挙げることができる:乳酸および乳酸塩、クエン酸およびクエン酸塩、リンゴ酸およびその塩、水酸化ナトリウム、リン酸カリウム、並びにピロリン酸カリウム。
【0049】
本発明の組成物に用いることができる甘味料には、いくつかある公知の甘味料の中で特に、マルチトール、イソマルチトール、マニトール、ラクチトール、サッカリンナトリウム、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、シクラメート、タウマチン、またはネオヘスペリジンDCを挙げることができる
【0050】
例えば、パパインなどのタンパク質分解酵素も、本発明の組成物に組み込むことができる。
【0051】
同様に、当技術の任意の好適な乳化剤も本発明の組成物に用いることができる(例えば、PEG−40水添ヒマシ油またはレシチンなど)。
【0052】
その一方で、当技術分野において用いられている任意の研磨剤も本発明の組成物に用いることができる(含水シリカ(例えば、Syloid 244、Zeodent 163、またはZeodent 623)など)。
【0053】
同様に、本発明の組成物に精油を組み込むこともできる(数例を挙げるとパセリ種油またはシトロン(citrus medica)抽出物など)。
【0054】
本発明の組成物の別の任意選択成分は、当技術の任意の瘢痕形成剤である(例えば、アラントイン、D−パンテノール、パントテン酸カリウムなど)。
【0055】
同様に、本発明の組成物は当技術水準の好適な酸化防止剤も含んでもよい(酢酸トコフェロールまたはビタミンCなど)。
【0056】
その一方で、本発明の組成物は、動物性または植物性ゼラチンも含んでもよい(例えば、牛ゼラチン、魚ゼラチン、または藻類ゼラチンなど)。
【0057】
また、本発明の組成物に香料も含めることができる(例えば、シトロン抽出物またはハッカ抽出物など)。
【0058】
最後に、目的とする処方物に従い、本発明の組成物に好適な賦形剤を加えてもよい。従って、蜜蝋、ガム基礎剤、カルナウバ蝋、またはセラックなどを用いることができる。
【0059】
液体調製物および柔らかい調製物(doughy preparations)の場合には、水を溶媒として用いる。
【0060】
オリーブ油、トリメチルグリシン、およびキシリトールを含んでなる本発明の組成物は、ドライマウス患者のエナメル質および象牙質の保護を保証するために中性pHを有する。さらに、本発明は、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルサルコシン酸ナトリウム、コカミドプロピルベタイン(ベタインと間違ってはいけない)、および口腔衛生用品において一般的に用いられる、周期的に起こる疼痛および潰瘍形成の発生に関連する洗浄剤(Herlofson B)の使用を意図していない。同様に、本発明は、アルコールと口腔癌との関連づけを防止し、本質的には、その公知の脱水効果を防ぐためにアルコールも含まない。
【0061】
記述したように、所望の型に従って、本発明は各時点において本発明が必要な官能的および流動学的形態を有するのに必要な総てのものを含んでもよい。
【0062】
特定の実施形態においては、本発明の組成物は、練り歯磨き、口内洗浄剤、代用唾液、スプレー、ゲル、チューインガム、サッカブルカプセル(suckable capsules)、サッカブルトローチ(suckable lozenges)、口蓋シート(palate sheets)、錠剤、菓子、含浸口腔スワブ、含浸口腔ガーゼ、サッカブル単回投与型凍結溶液(suckable single-dose presentations of frozen solution)として処方される。
【0063】
一般には、口内での局所適用のために、スワブおよびガーゼだけでなく、本発明の溶液を含浸した任意の好適な支持材も用いることができる。同様に、使用前に凍結した本発明の溶液の単回投与型(例えば、好適な小袋またはブリスター)も用いることができる。このように、口腔乾燥症に関連する疼痛からのより早くかつより効果的な緩和を成し遂げるために、本発明の新規組成物の効果に冷たさの効果が加えられる。
【0064】
いずれにしても、当業者ならば、本発明の組成物を、口腔乾燥症患者が疼痛を鎮静し、唾液の分泌を刺激するためにそれを簡単に使用できる任意の好適な型に処方するであろう。
【0065】
本発明の組成物は、安静時の唾液の分泌を3倍にし、それを約200%増加させることが立証されている。また、前記組合せが、ドライマウス症候群に関連する症状、疼痛、および生活の質を改善することも立証されている。
【0066】
さらに、そして驚くべきことに、前記の関係によって象牙質脱灰から保護することができる。
【0067】
前記組成物は、成分の新規組合せがドライマウスにとって極めて有益な効果を有することが立証されている。しかしながら、それらの成分単独では前記組成物に関して立証されている有効性が存在しない成分群を含んでなる。
【0068】
次の実施例によって本発明を例示するが、それらの実施例を本発明の範囲を限定するものと考えてはならない。
【実施例】
【0069】
例1
練り歯磨き処方物
【表1】

【0070】
例2
口内洗浄剤処方物
【表2】

【0071】
例3
口内洗浄剤処方物
【表3】

【0072】
例4
代用唾液処方物
【表4】

【0073】
例5
スプレー処方物
【表5】

【0074】
例6
唾液分泌減退および口腔乾燥症の症状に苦しんでいる成人集団における本発明の組成物の効力
材料および方法
被験者
50歳〜67歳の一般集団から合計40名の参加者を募集し、登録した。
被験者の全員が薬物乱用によるドライマウス症状の経歴を報告した。被験者は全員が次の基準に適合した:
【0075】
【表6】

【0076】
被験者を無作為に2群に分けた。20個体で構成された各群では、結果が患者の特異体質に影響されていないことを確認するために、両方の製品(対照製品および試験製品)を用いた(クロスオーバー研究)。
【0077】
標準口腔組織検査を実施すると同時に、従前に記載されているプロトコール(Navazesh M. "Methods for collecting saliva", Annals of the New York Academy of Sciences, 1993;694:72-7)に従って非刺激時の全唾液を採取した。本研究を担当するコーディネーターが、それぞれ100mmの8評価項目を含む口腔乾燥症VAS質問票を、口腔乾燥症に関連する生活の質の評価を目的としている質問票と一緒に、円滑に進めた。
【0078】
本研究の製品
中性pHに処方した三つの有効成分(オリーブ油、トリメチルグリシン、およびキシリトール)を含む局所用ドライマウス製品を用いた。
具体的には、試験製品を四つの異なる型:練り歯磨き、口内洗浄剤、スプレー、およびゲルにより処方した。
【0079】
試験する製品についての標準計画は、:(1)練り歯磨き/口内洗浄剤を1日3回主な食事の後に使用すること、そして(2)スプレーおよびゲルを1日最低8回食間に使用することとした。
【0080】
参照または対照として、通常のドライマウス治療計画に従うように被験者に依頼した。
【0081】
研究計画
総ての患者には、標準口腔組織検査を実施すると同時に、従前に記載されているプロトコール(Navazesh, 前掲)に従って非刺激時の唾液の分泌を測定することにある一連の基準測定を行った。
【0082】
本研究を担当するコーディネーターが、それぞれ100mmの8評価項目を含む口腔乾燥症VAS質問票を、口腔乾燥症に関連する生活の質の評価を目的としている質問票と一緒に、円滑に進めた。
【0083】
被験者を無作為に分け、プロトコール1またはプロトコール2に割り当てた。
【0084】
プロトコール1. 患者は、任意の薬理学的唾液分泌刺激薬を使用することを除いて、通常のドライマウス治療計画を続けた。8日目に、総ての被験者は研究センターに戻り、この研究センターにおいて基準測定を繰り返し、可能性のある有害作用を記録した。
【0085】
次いで、乗換えが実施され、その結果、患者は試験すべき製品を使用した。本研究開始から15日後、総ての被験者は研究センターに戻った。基準検査を繰り返し、可能性のある副作用を記録した。こうして、この群の被験者は本研究を終了した。
【0086】
プロトコール2. 患者は、標準使用計画に従って試験製品を使用した。8日目に、総ての被験者は研究センターに戻り、この研究センターで基準測定を繰り返し、可能性のある副作用を記録した。
【0087】
次いで、乗換えが実施され、その結果、患者はウォッシュアウト期間に移り、その期間中、患者はドライマウス治療用製品を全く使用できなかった。
【0088】
本研究開始から15日後、被験者は研究センターに戻った。基準検査を繰り返し、可能性のある有害作用を記録した。その後、被験者は再度通常のドライマウス治療計画を使用し続けた。本研究開始から22日後、この群は研究センターに戻った。基準検査を繰り返し、可能性のある副作用を記録した。この後、本研究を終了した。
【0089】
非刺激時の唾液の分泌の測定
標準口腔組織検査を実施すると同時に、従前に記載されているプロトコール(Navazesh, 前掲)に従って非刺激時の全唾液を採取した。
【0090】
口腔乾燥症VAS質問票
ドライマウスの八つの側面に焦点を合わせた有効な口腔乾燥症VAS(視覚的アナログスケール(Visual Analogue Scale))質問票を使用した(Pai S, et al. "Development of a Visual Analogue Scale questionnaire for subjective assessment of salivary dysfunction", Oral Surgery, Oral Medicine, Oral Pathology, Oral Radiology, & Endodontics, 2001;91(3):311-6)。100mmの水平線上にマークをつけて、被験者が受けた乾燥レベルを示すように被験者に依頼した。質問票に含まれる側面のうちの二つの側面(No.2およびNo.3)は唾液腺機能低下と関連している(Fox et al. "Subjective reports of xerostomia and objective measures of salivary gland performance", Journal of the American Dental Association, 1987;115(4):581-4)。前記側面のうちの三つの側面(No.6、No.7、およびNo.8)は、ドライマウス研究に既に用いられており(Foxら前掲; Narhi T O. "Prevalence of subjective feelings of dry mouth in the elderly", Journal of Dental Research, 1994;73(1):20-5)、口唇の乾燥(No.6)によって唾液腺機能低下の予測に成功した(Navazesh M, et al., "Clinical criteria for the diagnosis of salivary gland hypofunction", Journal of Dental Research, 1992;71(7):1363-9)。前記側面は以下に記載される:
【0091】
【表7】

【0092】
口腔乾燥症に関連する生活の質についての質問票
本研究に用いた口腔乾燥症に関連する生活の質についての質問票は、有効な形式(Henson B S et al., "Preserved salivary output and xerostomia-related quality of life in head and neck cancer patients receiving parotid-sparing radiotherapy", Oral Oncology, 2001;37(1):84-93)から抽出した12項目の質問を含む。この質問票は、ドライマウスが人の生活の質にどのように影響を及ぼすのかを解析することを目的としている。これらの質問は3群に分類される:身体機能、個人機能、および疼痛。含めた質問は以下に記載される:
【0093】
【表8】

【0094】
最初の11項目の質問に対して考えられる答えは、(1)全くない、(2)ほとんどない、(3)少しある、(4)かなりある、そして(5)非常にある:であった。質問12について、考えられる答えは、(1)うれしい、(2)満足、(3)満足でも不満足でもない、(4)明らかに不満足、そして(5)つらい:であった。
【0095】
結果
本研究の構成に40名の被験者を選抜し、そのうちの39名が訪問の総てを終了した。
【0096】
分散分析においては、プロトコール1を構成する患者(0.046ml/分)と、プロトコール2を構成する患者(0.047ml/分)との初期非刺激時の唾液の分泌間には有意差がないことが分かった。これにより、本研究終了時に見られた差異は治療の違いによるものであり、群間の初期差異によるものではないことが確認される。
【0097】
非刺激時の唾液の分泌の測定
図1は、通常のドライマウス用製品(対照)および本発明の組成物(試験)の局所適用の開始時および1週間後の非刺激時の唾液の分泌値を示す。群間の差異、約180%は、p=0.03であり、統計的に有意である。
【0098】
これらの結果は、オリーブ油、トリメチルグリシン、およびキシリトールを含んでなる試験製品を1週間使用することで標準的ドライマウス治療ルーチンを使用した群に関しては非刺激時の唾液の分泌増加がもたらされた(p=0.033)ことを示す。試験製品(オリーブ油、トリメチルグリシン、およびキシリトール)を使用した群の平均の唾液の分泌は、0.05ml/分±0.05ml/分(平均±標準偏差)〜0.140ml/分±0.26ml/分(平均±標準偏差)となり、一方、日常生活どおりの被験者の唾液の分泌は7日後一定に保たれた(0.047ml/分±0.05と0.05ml/分±ml/分、平均±標準偏差)。
【0099】
口腔乾燥症VAS質問票
図2は、通常のドライマウス用製品(対照)および本発明の組成物(試験)の局所適用の1週間後の口腔乾燥症VAS質問票の結果による症状の変化を示す。正の変化は症状の減少を意味し、負の変化は症状の増加を意味し、はっきりしない変化は変化がないことを意味する。8項目の質問群に関して、群間の差は統計的に有意である(p=0.011)。
【0100】
口腔乾燥症VAS質問票の結果からは、試験製品を使用することで症状の改善ももたらされ、その改善は同じ期間通常のドライマウス治療計画の製品(対照)によってもたらされるものよりも一般に大きい(p=0.011)ということが証明された。
【0101】
口腔乾燥症に関連する生活の質についての質問票
図3は、通常のドライマウス用製品(対照製品)および本発明の組成物(試験製品)の使用後に口腔乾燥症に関連する生活の質において検出された変化を示す。被験者の生活の質は、その変化値が小さいほど高いことになる。群間に有意差が認められた:身体機能(p=0.03)、個人機能(p=0.03)、および疼痛(p=0.01)。
【0102】
試験製品の使用後に通常のドライマウス治療ルーチン(対照製品)と比べて有意な改善が検出された:身体機能(p=0.03)、疼痛(p=0.03)、および個人機能(p=0.01)。
【0103】
例7
本発明の組成物の歯脱灰に対する保護能力についての、オリーブ油のその能力との比較
極端な腐食条件にさらしたエナメル質および象牙質において、オリーブ油、トリメチルグリシン、およびキシリトールを用いて処方した口内洗浄剤の保護能力を、オリーブ油のものと比較して、分析した。効果の評価のため、蒸留水からなる対照を含めた。
【0104】
材料および方法
サンプル調製
ウシ顎から抜き取った切歯を使用し、それらの切歯を室温で0.5%チモール溶液中に浸漬した。それらの歯をセメント質−エナメル質接合部で水冷式ダイヤモンドメス(Exakt, Norderstedt, Germany)を用いて切断し、歯冠と歯根をアクリル樹脂製シリンダー(Paladur, Heraeus Kulzer, Wehrheim, Germany)内に埋め込んだ。歯根セメント質を完全に除去した。次いで、エナメル質および象牙質の表面を研磨して、エナメル質および象牙質の最外層の厚さをおよそ200μmまで減少させ、マイクロメーター(Digimatic(登録商標), Micrometer, Mitutoyo, Tokyo, Japan)を用いてこれを制御した。
【0105】
エナメル質および象牙質の各サンプルの両端を粘着テープ(Tesa, Beiersdorf, Hamburg, Germany)で覆い、3mm幅の露出した領域を残した。最初の表面を粘着テープでこのようにして保護し、この表面を形状測定(the profilometric measurement)における参照とした。サンプルは試験時間まで水中で保存した。
【0106】
研究計画
エナメル質および象牙質の試験片を10サイクルの前処理、再石灰化、脱灰、および再石灰化に供した。前処理は、各試験片を次の調製物のうちの1調製物中に5分間浸漬することにあった:(A)蒸留水、(B)オリーブ油、トリメチルグリシン、およびキシリトールを含む口内洗浄剤、および(C)オリーブ油。
【0107】
前処理後、サンプルを水ですすぎ、人工唾液(Klimekら, 1982)に30分間移した。続いて、試験片を1%クエン酸溶液(pH:2.3)中に3分間浸漬することによって脱灰を行った。脱灰後、サンプルを水ですすぎ、再度人工唾液に移した(今回は60分間)。この完全サイクル(5分の前処理、人工唾液中で30分、腐食条件で3分、そして人工唾液中で60分)を10回繰り返した。
【0108】
形状測定
プロファイルまたは形状測定を行い(Mahr Perthometer, Gottingen, Germany)、エナメル質および象牙質の喪失を定量した。試験前に、基準測定を行った(この基準測定値は、試験後にエナメル質および象牙質の喪失を算出するための参照として用いる表面の評価に役立てた)。この目的を達成するために、各試験片の中央に1000μm間隔で六つのマークをつけた。プロファイル測定の長さは250μmの間で実行し、0.69μmごとにデータ収集を行う。試験後、粘着テープを外し、サンプルをもう一度分析した。このようにして、腐食表面の平均深度を特定のソフトウェア(Mahr Perthometer Concept 7.0, Mahr, Gottingen, Germany)を用いて基準表面プロファイルに対して算出した。
【0109】
統計解析
エナメル質および象牙質の喪失を各群について算出し(平均±標準偏差)、スチューデントt検定、続いて多重比較のボンフェロ−ニt検定によって統計的に解析した(Statistica 6.0, Statsoft, Tulsa, USA)。
【0110】
結果
3群における象牙質喪失の平均値を図4に示す。
対照群(A)における象牙質喪失は9.6μm±1.0であった。オリーブ油(B)を用いて得られた結果からは、蒸留水に対する差は示されていない(9.21μm±1.5)。試験溶液(C)は、水およびオリーブ油に対して改善を示す(7.41μm±0.9)が、その改善は水に対してのみ有意である。
3群におけるエナメル質喪失の平均値を図5に示す。
対照群(A)における象牙質喪失(Dentin loss)は26.7μm±1.3であった。オリーブ油(B)を用いて得られた結果からは、蒸留水に対する差は示されていない(28.7μm±1.8)。試験溶液(C)は、水およびオリーブ油に対して有意な改善を示す(21.2μm±1.1)。
【0111】
よって、100%オリーブ油は、pH2.3の酸性溶液の脱灰条件からの保護を与えない。しかしながら、本発明の組成物は、エナメル質および象牙質に対して、脱灰条件からの著しい保護効果を有する。
【0112】
例8
本発明の組成物の歯脱灰に対する保護能力についての、本発明の組成物の三成分単独でのその能力との比較
極端な腐食条件にさらした象牙質において、オリーブ油、トリメチルグリシン、およびキシリトールを用いて処方した口内洗浄剤の保護能力を、試験する口内洗浄剤に用いた同じ濃度の三成分単独での水溶液のものと比較し、分析した。効果の評価のため、蒸留水からなる対照を含めた。
【0113】
材料および方法
サンプル調製
ウシ顎から抜き取った切歯を使用し、それらの切歯を室温で0.5%チモール溶液中に浸漬した。それらの歯をセメント質−エナメル質接合部で水冷式ダイヤモンドメス(Exakt, Norderstedt, Germany)を用いて切断し、歯冠と歯根をアクリル樹脂製シリンダー(Paladur, Heraeus Kulzer, Wehrheim, Germany)内に埋め込んだ。歯根セメント質を完全に除去した。次いで、象牙質の表面を研磨して、象牙質の最外層の厚さをおよそ200μmまで減少させ、マイクロメーター(Digimatic(登録商標), Micrometer, Mitutoyo, Tokyo, Japan)を用いてこれを制御した。
【0114】
各象牙質サンプルの両端を粘着テープ(Tesa, Beiersdorf, Hamburg, Germany)で覆い、3mm幅の露出した領域を残した。最初の表面を粘着テープでこのようにして保護し、この表面を形状測定における参照とした。サンプルは試験時間まで水中で保存した。
【0115】
研究計画
象牙質の試験片を10サイクルの前処理、再石灰化、脱灰、および再石灰化に供した。前処理は、各試験片を次の調製物のうちの1調製物中に5分間浸漬することにあった:(A)蒸留水、(B)オリーブ油、トリメチルグリシン、およびキシリトールを含む口内洗浄剤、(C)2%オリーブ油水中エマルジョン、(D)2%トリメチルグリシン水溶液、および(E)1%キシリトール水溶液。溶液C、D、およびEは、試験する口内洗浄剤Bの成分構成と同じ割合で調製する。2%オリーブ油水中エマルジョンは各処置の前に高速ミキサーを用いて調製し、微細分散したエマルジョンを得た。
【0116】
前処理後、サンプルを水ですすぎ、人工唾液(Klimekら, 1982)に30分間移した。続いて、試験片を1%クエン酸溶液(pH:2.3)中に3分間浸漬することによって脱灰を行った。脱灰後、サンプルを水ですすぎ、再度人工唾液に移した(今回は60分間)。この完全サイクル(5分の前処理、人工唾液中で30分、腐食条件で3分、そして人工唾液中で60分)を10回繰り返した。
【0117】
形状測定
プロファイルまたは形状測定を行って(Mahr Perthometer, Gottingen, Germany)、象牙質喪失を定量した。試験前に、基準測定を行った(この基準測定値は、試験後に象牙質の喪失を算出するための参照として用いる表面の評価に役立てた)。この目的を達成するために、各試験片の中央に1000μm間隔で六つのマークをつけた。プロファイル測定の長さは250μmの間で実行し、0.69μmごとにデータ収集を行う。試験後、粘着テープを外し、サンプルをもう一度分析した。このようにして、腐食表面の平均深さを特定のソフトウェア(Mahr Perthometer Concept 7.0, Mahr, Gottingen, Germany)を用いて基準表面プロファイルに対して算出した。
【0118】
統計解析
象牙質の喪失を各群について算出し(平均±標準偏差)、スチューデントt検定、続いて多重比較のボンフェロ−ニt検定によって統計的に分析した(Statistica 6.0, Statsoft, Tulsa, USA)。
【0119】
結果
群A〜Eにおける平均象牙質喪失を図6に示す。
対照群(A)における象牙質喪失は9.6μm±1.0であった。試験溶液(B)は、唯一、腐食に対する保護効果を示したものである(7.4μm±0.9)。一方、2%オリーブ油エマルジョン(C)、2%トリメチルグリシン溶液(D)、および1%キシリトール溶液(E)の適用では象牙質に対する保護効果を示さなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリーブ油、トリメチルグリシン、およびキシリトールを含んでなる、口腔乾燥症治療用組成物。
【請求項2】
0.1〜4重量%のオリーブ油を含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
0.2〜3重量%のオリーブ油を含んでなる、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
2重量%のオリーブ油を含んでなる、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
0.1〜6重量%のトリメチルグリシンを含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
4重量%のトリメチルグリシンを含んでなる、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
1〜50重量%のキシリトールを含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
5〜30重量%のキシリトールを含んでなる、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
10重量%のキシリトールを含んでなる、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
2重量%のオリーブ油、4重量%のトリメチルグリシン、および10重量%のキシリトールを含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
2重量%のオリーブ油、2重量%のトリメチルグリシン、および1重量%のキシリトールを含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
再石灰化剤、粘度調整剤、保湿剤、防腐剤、着色剤、緩衝化剤、甘味料、タンパク質分解酵素、乳化剤、研磨剤、精油、瘢痕形成剤、香料、酸化防止剤、植物性および動物性ゼラチン、賦形剤、ならびにその混合物からなる群から選択される一以上の成分を含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
練り歯磨き、口内洗浄剤、代用唾液、スプレー、ゲル、チューインガム、サッカブルカプセル、サッカブルトローチ、口蓋シート、錠剤、菓子、含浸口腔スワブ、含浸口腔ガーゼ、サッカブル単回投与型凍結溶液として処方される、先行する請求項のいずれか一項に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−519279(P2010−519279A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550731(P2009−550731)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【国際出願番号】PCT/ES2008/000100
【国際公開番号】WO2008/102041
【国際公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(509238465)ビオコスメティクス、ソシエダッド、リミターダ (1)
【氏名又は名称原語表記】BIOCOSMETICS,S.L.
【Fターム(参考)】