説明

口腔内の乳酸桿菌数を測定する方法及びそれに用いるPCRプライマー及びプローブセット

【課題】口腔内に存在する乳酸桿菌数を短時間で測定することができるリアルタイムPCR法を提供する。
【解決手段】特定の塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むフォワードプライマーと、他の特定の塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含むリバースプライマーとの組み合わせ、及び前記とは異なる特定の塩基配列における連続する少なくとも10塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含む口腔内の乳酸桿菌数測定用核酸プローブを使用する口腔内の乳酸桿菌数を測定する方法によって解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアルタイムPCR法により口腔内に存在する口腔内の乳酸桿菌数を測定する方法及びそれに用いるPCRプライマー及びプローブセットに関する。
【背景技術】
【0002】
う蝕の発生は、ヒト口腔内のミュータンス連鎖球菌の存在と密接な関連があることが知られている。ミュータンス連鎖球菌は、自身の産生する不溶性グルカンを介して歯面に付着することができ、スクロースを代謝して乳酸を産生し、酸性環境下でも成育可能であるという特徴を有している。一方、歯面への付着能はないが、乳酸を産生し、酸性環境下でも成育可能である乳酸桿菌(ラクトバシラス)も、う蝕における原因菌であると考えられている(非特許文献1、非特許文献2、及び非特許文献3)。特に、治療した歯における2次的なう蝕に関連するとの報告もある(非特許文献3)。
【0003】
前記の非特許文献1〜3の報告では、乳酸桿菌数の測定のために、培養法を用いている。培養法によって測定された乳酸桿菌数の多い患者では、う蝕のリスクが高いと考えられており、乳酸桿菌数を測定することはう蝕のリスクを予測する上で重要である。しかしながら、従来の培養法では、測定結果を得るまでに2日以上を費やしており、またその操作も人手に頼っていた。
【0004】
一方、培養法以外の乳酸桿菌数の測定方法としては、すべての乳酸桿菌の塩基配列に共通なプライマーを設計し、リアルタイムPCR法により、唾液や歯垢から短時間に菌数を測定する方法が開発されている(非特許文献4)。しかしながら、このプライマーはすべてのラクトバシラス属の16SリボソームRNA遺伝子の共通な塩基配列部分に基づいて設計されているが、ラクトバシラス以外の菌の塩基配列と相同性の高い部分を含んでおり、特異性が低い可能性が考えられ、更に、培養法で測定される乳酸桿菌数との相関は明らかでなかった。
【0005】
従って、口腔内に存在する乳酸桿菌数を測定してう蝕リスクを検査する方法としては、培養法が正確であるが、日数を要することや効率が悪いことから、例えば臨床検査センター等で多数検体を扱う場合はかなりの人力及び労力が必要であった。
【0006】
【非特許文献1】「ジャーナル・オブ・クリニカル・ペディアトリック・デンティストリー(The Journal of Clinical Pediatric Dentistry)」(米国)2005年、第29巻、p329−33.
【非特許文献2】「コミュニティー・デンティストリー・アンド・オーラル・エピデミオロジー(Community Dentistry and Oral Epidemiology)」(デンマーク)1981年、第9巻、p.182−90.
【非特許文献3】「ジャーナル・オブ・オーラル・サイエンス(Journal of Oral Science)」(日本)2006年、第48巻、p.245−51.
【非特許文献4】「ジャーナル・オブ・クリニカル・マイクロバイオロジー(Journal of Clinical Microbiology)」(米国)2004年、第42巻、p.3128−36.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等は、前記非特許文献4に記載のプライマーを用いたリアルタイムPCR法により口腔内の乳酸桿菌数を測定したが、培養法で得られた結果と相関が見られなかった。そのため、口腔内に存在する乳酸桿菌数を短時間で正確に測定することができるリアルタイムPCR法について、鋭意研究した結果、原核生物リボソームの30Sサブユニットに含まれるRNAである16SリボソームRNAをコードする遺伝子(以下、16SリボソームRNA遺伝子と称することがある)の配列に着目し、乳酸桿菌に共通して存在するいくつかの配列から、リアルタイムPCR法に使用可能なプライマー、並びにプライマー及びプローブを設計した。そのプライマー、並びにプライマー及びプローブを用いリアルタイムPCRの検討を行い、培養法で測定した口腔内の乳酸桿菌数を正確に反映することのできる特定のプライマー及びプローブを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従って、本発明は、配列5‘−GCCGTAAACGATGARTGCTARGTGTTGGRRGGTTTC−3’(配列番号1;但しRは、A又はGである)、配列5‘−GCCGTAAACGATGAATGCTAGGTGTTGGAGGGTTTC−3’(配列番号2)、配列5‘−GCCGTAAACGATGAGTGCTAAGTGTTGGGAGGTTTC−3’(配列番号3)、又は配列5‘−GCCGTAAACGATGAGTGCTAGGTGTTGGAGGGTTTC−3’(配列番号4)で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含む少なくとも1種のフォワードプライマーと、配列5‘−TGCGGTCGTACTCCCCAGGCGGARTGCTTA−3’(配列番号5;但しRは、A又はGである)、配列5‘−TGCGGTCGTACTCCCCAGGCGGAATGCTTA−3’(配列番号6)、又は配列5‘−TGCGGTCGTACTCCCCAGGCGGAGTGCTTA−3’(配列番号7)で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含む少なくとも1種のリバースプライマーとの組み合わせからなる口腔内の乳酸桿菌数測定用プライマーセットに関する。
本発明によるプライマーセットの好ましい態様においては、前記フォワードプライマーが、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、若しくは配列番号25で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又はそれらの2種以上のオリゴヌクレオチドであり、前記リバースプライマーが、配列番号26、配列番号27、若しくは配列番号28で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又はそれらの2種以上のオリゴヌクレオチドである。
また本発明は、前記プライマーセットと、配列5‘−GGTTTCCGCCYYTCAGTGCYGSAGCTAACGCA−3’(配列番号8;但し、YはT又はCであり、SはG又はCである)、配列5‘−GGTTTCCGCCCTTCAGTGCCGCAGCTAACGCA−3’(配列番号9)、配列5‘−GGTTTCCGCCTCTCAGTGCTGCAGCTAACGCA−3’(配列番号10)、配列5‘−GGTTTCCGCCCTTCAGTGCCGGAGCTAACGCA−3’(配列番号11)、配列5‘−TGCGTTAGCTSCRGCACTGARRGGCGGAAACC−3’(配列番号12;但し、RはG又はAであり、SはG又はCである)、配列5‘−TGCGTTAGCTGCGGCACTGAAGGGCGGAAACC−3’(配列番号13)、配列5‘−TGCGTTAGCTGCAGCACTGAGAGGCGGAAACC−3’(配列番号14)、又は配列5‘−TGCGTTAGCTCCGGCACTGAAGGGCGGAAACC−3’(配列番号15)で表される塩基配列における連続する少なくとも10塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含む少なくとも1種のプローブとからなる口腔内の乳酸桿菌数測定用プライマー及びプローブセットにも関する。
本発明によるプライマー及びプローブセットの好ましい態様においては、前記プローブが、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、若しくは配列番号38で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又はそれらの2種以上のオリゴヌクレオチドである。
【0009】
また本発明は、前記プライマーセットを用いたリアルタイムPCR法により、口腔内の乳酸桿菌数を測定する方法、又は前記プライマー及びプローブセットを用いたリアルタイムPCR法により、口腔内の乳酸桿菌数を測定する方法にも関する。
更に、本発明は、前記プライマーセットを含む、口腔内の乳酸桿菌数測定用リアルタイムPCRキット、又は前記プライマー及びプローブセットを含む、口腔内の乳酸桿菌数測定用リアルタイムPCRキットにも関する。
なお、本明細書において、「測定」は「定量」を意味するが、定量することにより検出を行っており、本発明のプライマー及びプローブセット、並びに口腔内の乳酸桿菌数を測定する方法が、定性的な検出に使用することを排除するものではない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、口腔内に存在する乳酸桿菌数の菌数を正確に、且つ短時間に測定することが可能であり、本発明の方法により得られた乳酸桿菌数の菌数を測定することにより、口腔内の乳酸桿菌数の多い患者のう蝕のリスクを効率良く検出することが可能である。また、本発明の方法により、培養法と比較して多数の検体を処理することができ、臨床検査センター等における効率的な測定が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のプライマーセット並びにプライマー及びプローブセットは、口腔内に存在する乳酸桿菌数を測定するために使用することができる。これらのプライマーセット並びにプライマー及びプローブセットの塩基配列は、乳酸桿菌のリボソームの30Sサブユニットに含まれるRNAである16SリボソームRNAをコードする遺伝子の塩基配列に基づいたものである。
本明細書において、口腔内の乳酸桿菌とは、口腔内に存在することのできるすべての種類の乳酸桿菌を意味し、例えばラクトバシラス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバシラス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバシラス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバシラス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバシラス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバシラス・クリスパタス(Lactobacillus crispatus)、及びラクトバシラス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)を含むが、これらの種に限定されるものではない。
本発明者等は、口腔内に多く見出されているラクトバシラス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバシラス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバシラス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバシラス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバシラス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバシラス・クリスパタス(Lactobacillus crispatus)、及びラクトバシラス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)の16SリボソームRNA遺伝子の塩基配列において、相同性の高い塩基配列からなるヌクレオチドの領域を選択し、プライマーを作製した。
しかしながら、単純にすべての乳酸桿菌において相同性の高い塩基配列のプライマーを選択するのみでは、培養法と正確に相関する結果は得られなかった。そのため、本発明者等は、特定の塩基配列からなるヌクレオチドの領域を選択し、プライマー並びにプライマー及びプローブを設計することによって、培養法で測定した口腔内の乳酸桿菌数を正確に把握することのできる測定方法を確立した。
【0012】
本発明のプライマーセットにおけるプライマーは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7の塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分(以下、それぞれ、プライマーオリゴヌクレオチド部分1、プライマーオリゴヌクレオチド部分2、プライマーオリゴヌクレオチド部分3、プライマーオリゴヌクレオチド部分4、プライマーオリゴヌクレオチド部分5、プライマーオリゴヌクレオチド部分6、及びプライマーオリゴヌクレオチド部分7と称する)を含むプライマーである。また、プライマーオリゴヌクレオチド部分1、プライマーオリゴヌクレオチド部分2、プライマーオリゴヌクレオチド部分3、又はプライマーオリゴヌクレオチド部分4を含むプライマーを、領域1プライマー、プライマーオリゴヌクレオチド部分5、プライマーオリゴヌクレオチド部分6、又はプライマーオリゴヌクレオチド部分7を含むプライマーを、領域2プライマーと称することがある。それぞれのプライマーオリゴヌクレオチド部分の長さは、好ましくは15mer以上、より好ましくは16mer以上、最も好ましくは18mer以上である。また、本発明のプライマー及びプローブセットにおけるプローブは、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、又は配列番号15の塩基配列における連続する少なくとも10塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分(以下、それぞれ、プローブオリゴヌクレオチド部分8、プローブオリゴヌクレオチド部分9、プローブオリゴヌクレオチド部分10、プローブオリゴヌクレオチド部分11、プローブオリゴヌクレオチド部分12、プローブオリゴヌクレオチド部分13、プローブオリゴヌクレオチド部分14、及びプローブオリゴヌクレオチド部分15と称する)を含むプローブである。また、プローブオリゴヌクレオチド部分8、プローブオリゴヌクレオチド部分9、プローブオリゴヌクレオチド部分10、又はプローブオリゴヌクレオチド部分11を含むプローブを、領域3プローブ、プローブオリゴヌクレオチド部分12、プローブオリゴヌクレオチド部分13、プローブオリゴヌクレオチド部分14、又はプローブオリゴヌクレオチド部分15を含むプローブを領域4プローブと称することがある。それぞれのプローブオリゴヌクレオチド部分の長さは、好ましくは10mer以上、より好ましくは12mer以上、最も好ましくは14mer以上である。また、本発明のプライマーセットにおけるプライマーとして、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、又は配列番号15の塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分(以下、それぞれ、プライマーオリゴヌクレオチド部分8、プライマーオリゴヌクレオチド部分9、プライマーオリゴヌクレオチド部分10、プライマーオリゴヌクレオチド部分11、プライマーオリゴヌクレオチド部分12、プライマーオリゴヌクレオチド部分13、プライマーオリゴヌクレオチド部分14、及びプライマーオリゴヌクレオチド部分15と称する)を含むプライマーを使用することも可能である。また、プライマーオリゴヌクレオチド部分8、プライマーオリゴヌクレオチド部分9、プライマーオリゴヌクレオチド部分10、又はプライマーオリゴヌクレオチド部分11を含むプライマーを領域3プライマー、プライマーオリゴヌクレオチド部分12、プライマーオリゴヌクレオチド部分13、プライマーオリゴヌクレオチド部分14、又はプライマーオリゴヌクレオチド部分15を含むプライマーを領域4プライマーと称することがある。)以下に、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、及び配列番号15の塩基配列を示す。
配列番号1(領域1):5‘−GCCGTAAACGATGARTGCTARGTGTTGGRRGGTTTC−3’(但しRは、A又はGである)
配列番号2(領域1):5‘−GCCGTAAACGATGAATGCTAGGTGTTGGAGGGTTTC−3’
配列番号3(領域1):5‘−GCCGTAAACGATGAGTGCTAAGTGTTGGGAGGTTTC−3’
配列番号4(領域1):5‘−GCCGTAAACGATGAGTGCTAGGTGTTGGAGGGTTTC−3’
配列番号5(領域2):5‘−TGCGGTCGTACTCCCCAGGCGGARTGCTTA−3’(但しRは、A又はGである)
配列番号6(領域2):5‘−TGCGGTCGTACTCCCCAGGCGGAATGCTTA−3’
配列番号7(領域2):5‘−TGCGGTCGTACTCCCCAGGCGGAGTGCTTA−3’
配列番号8(領域3):5‘−GGTTTCCGCCYYTCAGTGCYGSAGCTAACGCA−3’(配列番号8;但し、YはT又はCであり、SはG又はCである)
配列番号9(領域3):5‘−GGTTTCCGCCCTTCAGTGCCGCAGCTAACGCA−3’、
配列番号10(領域3):5‘−GGTTTCCGCCTCTCAGTGCTGCAGCTAACGCA−3’、
配列番号11(領域3):5‘−GGTTTCCGCCCTTCAGTGCCGGAGCTAACGCA−3’
配列番号12(領域4):5‘−TGCGTTAGCTSCRGCACTGARRGGCGGAAACC−3’(配列番号12;但し、RはG又はAであり、SはG又はCである)、
配列番号13(領域4):5‘−TGCGTTAGCTGCGGCACTGAAGGGCGGAAACC−3’
配列番号14(領域4):5‘−TGCGTTAGCTGCAGCACTGAGAGGCGGAAACC−3’
配列番号15(領域4):5‘−TGCGTTAGCTCCGGCACTGAAGGGCGGAAACC−3’
【0013】
配列番号47は、口腔内に存在する乳酸桿菌の1つであるラクトバシラス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)の16SリボソームRNA遺伝子の二本鎖DNAのうちの一本鎖のDNAの塩基配列(GeneBank Accession No.AY675254)を示している。
配列番号2で表される塩基配列は、配列番号47で表される塩基配列の827〜862番の領域に相当し、ラクトバシラス・カゼイ及びラクトバシラス・サリバリウスも同じ塩基配列を有する。また、配列番号3で表される塩基配列は、相当するラクトバシラス・ガセリ、ラクトバシラス・アシドフィルス、ラクトバシラス・クリスパタスの塩基配列であり、配列番号4で表される塩基配列は、相当するラクトバシラス・ファーメンタムの塩基配列であり、配列番号1で表される塩基配列は、それらのコンセンサス配列である。
配列番号6で表される塩基配列は、配列番号47で表される塩基配列の890〜919番の領域の相補鎖の塩基配列に相当し、ラクトバシラス・カゼイ及びラクトバシラス・サリバリウスも同じ塩基配列を有する。また、配列番号7で表される塩基配列は、相当するラクトバシラス・ガセリ、ラクトバシラス・アシドフィルス、ラクトバシラス・クリスパタス、ラクトバシラス・ファーメンタムの塩基配列であり、配列番号5で表される塩基配列は、それらのコンセンサス配列である。
配列番号9で表される塩基配列は、配列番号47で表される塩基配列の857〜888番の領域に相当し、ラクトバシラス・カゼイ及びラクトバシラス・サリバリウスも同じ塩基配列を有する。また、配列番号10で表される塩基配列は、相当するラクトバシラス・ガセリ、ラクトバシラス・アシドフィルス、ラクトバシラス・クリスパタスの塩基配列であり、配列番号11で表される塩基配列は、相当するラクトバシラス・ファーメンタムの塩基配列であり、配列番号8で表される塩基配列は、それらのコンセンサス配列である。
配列番号13で表される塩基配列は、配列番号47で表される塩基配列857〜888番領域の相補鎖の塩基配列に相当し、ラクトバシラス・カゼイ及びラクトバシラス・サリバリウスも同じ塩基配列を有する。また、配列番号14で表される塩基配列は、相当するラクトバシラス・ガセリ、ラクトバシラス・アシドフィルス、ラクトバシラス・クリスパタスの塩基配列であり、配列番号15で表される塩基配列は、相当するラクトバシラス・ファーメンタムの塩基配列であり、配列番号12で表される塩基配列は、それらのコンセンサス配列である。
16SリボソームRNA遺伝子のヌクレオチドから、領域1プライマー、領域2プライマー、領域3プライマー及び領域4プライマーを選択すること、及び領域3プローブ又は領域4プローブを選択することにより、口腔内の乳酸桿菌数を正確に把握することのできる測定方法を確立することが可能である。
【0014】
プライマーは、配列番号1〜15のいずれかで表された塩基配列における連続する少なくとも15塩基、又はそれ以上の塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドでもよく、好ましくは、配列番号2及び配列番号6で表された塩基配列における連続する少なくとも15塩基、及びそれ以上の塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであり、最も好ましくは、配列番号2に示される塩基配列の8〜36番、又は配列番号6に示される塩基配列の9〜28番の塩基配列における連続する少なくとも15塩基、又はそれ以上の塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである。具体的には、配列番号16〜25のいずれかで表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド又は配列番号26〜28のいずれかで表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである。表1及び表2に配列番号16〜28のプライマーを示す。
【0015】
【表1】

【0016】
【表2】

【0017】
しかしながら、口腔内の乳酸桿菌数を正確に測定することが可能である限り、プライマーは前記のオリゴヌクレオチドに限定されるものではなく、配列番号1〜15のいずれかで表された塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むプライマーでもよい。それらのオリゴヌクレオチドを含むプライマーの場合、前記配列番号1〜15で表された塩基配列以外の乳酸桿菌の16SリボソームRNA遺伝子の塩基配列からなるヌクレオチドを含んでもよく、その他の人工的な塩基配列からなるヌクレオチドを含んでもよい。例えば、オリゴヌクレオチドの5‘末端に1〜10のヌクレオチド(例えば、制限酵素サイトの配列やタグ配列)を付加することができる。また、1〜数個の塩基の置換を有するオリゴヌクレオチド、又は10%以下程度のミスマッチがあるオリゴヌクレオチドをプライマーとして使用することもできる。
【0018】
プライマーの長さは、特に限定されないが、好ましくは、15mer〜36merである。また、領域1プライマーの長さも、特に限定されないが、好ましくは、15mer〜36merであり、より好ましくは、20mer〜29merであり、最も好ましくは、21mer〜23merである。領域2のプライマーの長さも、特に限定されるものではないが、好ましくは、15mer〜30merであり、より好ましくは、16mer〜25merであり、最も好ましくは、16mer〜20merである。
【0019】
本発明によるプライマーセットは、フォワードプライマー及びリバースプライマーの組み合わせからなる。プライマーセットにおけるフォワードプライマーは1種でも使用することが可能であるが、2種以上の組み合わせの混合物としても使用することができる。また、リバースプライマーも、1種でも使用することが可能であるが、2種以上の組み合わせの混合物としても使用することができる。
【0020】
本発明のプライマー及びプローブセットは、前記プライマーセット及びプローブからなり、特にはフォワードプライマーである領域1プライマー及びリバースプライマーである領域2プライマー並びにプローブからなる。プライマー及びプローブセットにおけるプローブは、1種でも使用することが可能であるが、2種以上の組み合わせの混合物としても使用することができる。また、プライマー及びプローブセットにおけるフォワードプライマーも1種でも、2種以上の組み合わせでも使用することができ、リバースプライマーも1種でも、2種以上の組み合わせでも使用することができる。プローブは、ゲノムDNAやcDNA等をハイブリダイズの原理を用いた方法で検出するためのオリゴヌクレオチドであるが、好ましくは、リアルタイムPCR法であるTaqMan法において用いるプローブである。従って、プローブは、配列番号47で表された塩基配列において、領域1プライマー及び領域2プライマーに挟まれた塩基配列の領域に設定することが可能であり、配列番号47の塩基配列からなるヌクレオチドにハイブリダイズするものでも、その相補鎖のヌクレオチドにハイブリダイズするものでもよく、それらの混合物でもよい。配列番号47の塩基配列からなるヌクレオチドにハイブリダイズするプローブとしては、好ましくは領域3及び/又は領域4プローブを挙げることができる。
【0021】
プローブは、配列番号8〜15のいずれかで表された塩基配列における連続する少なくとも10塩基、及びそれ以上の塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドからなるプローブが好ましく、より好ましくは、配列番号29〜38で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである。
【0022】
【表3】

【0023】
しかしながら、口腔内の乳酸桿菌数を正確に測定することが可能である限り、プローブはそれらに限定されるものではなく、1〜数個の塩基の置換を有するオリゴヌクレオチド、又は10%以下程度のミスマッチがあるオリゴヌクレオチドを使用することもできる。本明細書において「ハイブリダイズ」とは、通常のリアルタイムPCR条件下で用いる「ハイブリダイズする」と同じ意味である。
【0024】
TaqMan法に用いられるプローブは、レポーター色素及びクエンチャー色素で標識されており、オリゴヌクレオチドの一端、例えば5’−末端にレポーター色素を結合させ、他端、例えば3’−末端にクエンチャー色素を結合させて標識したプローブを使用する。色素としては、PCR法において従来より使用されている色素を特に限定せずに用いることができ、レポーター色素としては、例えば、6−カルボキシ−フルオレッセイン(FAM)、テトラクロロ−6−カルボキシフルオレッセイン(TET)、2,7−ジメトキシ−4,5−ジクロロ−6−カルボキシフルオレッセイン(JOE)、ヘキソクロロ−6−カルボキシフルオレッセイン(HEX)等を挙げることができる。また、クエンチャー色素の例としては、例えば、6−カルボキシ−テトラメチル−ローダミン(TAMRA)、蛍光を発しないブラックホールクエンチャー(BHQ)等を挙げることができる。
【0025】
プローブの長さは、特に限定されないが、好ましくは、18mer〜35merであり、より好ましくは、18mer〜30merであり、最も好ましくは、21mer〜25merである。
【0026】
本発明の口腔内の乳酸桿菌を測定する方法には、ポリメレース重合反応(PCR)を用いるが、特には、リアルタイムPCR法である。リアルタイムPCR法には、前記のプライマーセットを用い、二本鎖DNAに結合することで蛍光を発する化合物であるインターカレーター、例えば、SYBR Green IをPCRの反応系に加えるインターカレーター法、並びにプライマーセットと5‘末端をレポーター色素で、3’末端をクエンチャー色素で修飾したプローブ(TaqManプローブ)とをPCRの反応系に加えるTaqMan法等がある。このようなリアルタイムPCR法自体は周知であり、そのためのキット及び装置も市販されているので、前記プライマーセット、又は前記領域1プライマー、前記領域2プライマー及び前記プローブを合成すれば、市販のキット及び装置を用いて容易に実施することができる。
【0027】
本発明の口腔内の乳酸桿菌数を測定する方法をインターカレーター法で行う場合には、領域1プライマー及び領域2プライマー、領域1プライマー及び領域4プライマー、又は領域3プライマー及び領域2プライマーの組み合わせのプライマーセットを用いることができるが、領域1プライマー及び領域2プライマーの組み合わせのプライマーセットを用いることが好ましい。また、TaqMan法で行う場合には、フォワードプライマーである領域1プライマー及びリバースプライマーである領域2プライマーからなるプライマーセット並びに領域3プローブ及び/又は領域4プローブを用いることができる。いずれのリアルタイムPCR法も口腔内の乳酸桿菌数を正確に測定することが可能であるが、TaqMan法が好ましい。TaqMan法は、少なくとも2本のプライマーに加えて、プローブを用いるため、乳酸桿菌の16SリボソームRNA遺伝子に対する特異性を上昇させることができ、口腔内の乳酸桿菌数をより正確に測定することが可能となるからである。
【0028】
PCR法は従来から広く行われている方法が使用可能であり、詳細には下記の3段階から成るDNA合成反応を繰り返して行う。
(1)まず、鋳型となるDNA二本鎖を加熱して変性し、一本鎖にする。
(2)次に、増幅したい特定部位のDNA鎖の両端に相補的な2種類のプライマーを反応系に過剰に加えた状態で温度を下げ、プライマーがDNA鎖の相補的な部位と2本鎖を形成する。
(3)この状態でDNA合成基質のデオキシヌクレオシド三リン酸とDNAポリメラーゼを作用させると、ポリメラーゼはプライマー部位からDNA相補鎖を合成していく。
インターカレーター法は、この反応系にSYBR Green I等のインターカレーターを添加し、1サイクル毎に合成された二本鎖DNAに結合したインターカレーターの蛍光を測定する。TaqMan法は、反応系にTaqManプローブを添加し、分解されたプローブから分離したレポーター色素が蛍光を発するため、その蛍光を1サイクル毎に測定する。
【0029】
TaqMan法は、前記のようにオリゴヌクレオチドの一端、例えば5’−末端にレポーター色素を結合させ、他端、例えば3’−末端にクエンチャー色素を結合させて標識したプローブを使用するが、レポーター色素は、例えば励起光の照射によって蛍光を発する化合物である。同一のオリゴヌクレオチドにレポーターとクエンチャーとが一緒に結合している場合、その距離が近いために、レポーターの吸収したエネルギーはエネルギー転移によりクエンチャーに吸収されてしまい、レポーターは励起されない。この結果、本来ならば生じるはずの蛍光が発生しないことになる(このことを蛍光の消光、クエンチングと言う)。クエンチングを起こしているプローブをPCR反応系に添加すると、アニーリングのステップで一本鎖の鋳型DNAの内部に結合する、Taqポリメラーゼは、プライマーの3’末端から新生鎖を合成していくが、その途中でプローブを分解する。こうしてニックトランスレーションが起こり、隣接していたレポーターとクエンチャーとが分解し、クエンチングの抑制を受けていたレポーターが蛍光を発するようになる。この反応はPCRの1サイクルにおいて1分子当たり1回起こるので、レポーターの蛍光強度の増加はPCR反応、すなわちPCR生成物量に概ね比例することになる。このようなレポーター及びクエンチャーを利用した測定法では、PCR後に反応成生物を分離することなく測定が行えるため、リアルタイムに測定が可能である。
【0030】
本発明の方法で使用される被検試料としては、口腔内から採取した唾液や歯垢等が用いられ、測定に適した粘度に適宜調整して使用する。唾液は、被験者にパラフィン等を噛ませた後に採取することも可能である。歯垢は、例えば、探針又は爪楊枝を用いて採取することができる。
【0031】
具体的には、本発明の口腔内の乳酸桿菌数を測定する方法は、下記の工程を含む。
(1)被検試料からDNAを抽出する工程、
(2)抽出されたDNAを鋳型としてプライマーセット又はプライマー及びプローブセットを用いてDNAを増幅する工程、
(3)増幅されたDNAを検出する工程、
を含む。
【0032】
前記工程(1)の口腔内から採取した唾液や歯垢に含まれるDNAの抽出は、具体的には、市販のDNA抽出試薬キットを用い、添付のプロトコールに従って行うことができる。また、唾液や歯垢等を緩衝液又は界面活性剤等を含む溶菌液に混和し、80℃〜100℃で、1〜30分保持し、乳酸桿菌を溶菌させ、そのまま又は遠心分離した上清を、DNA試料として用いることも可能である。
工程(2)におけるDNA増幅工程においては、TaqMan法の場合は、具体的には以下の反応が起こる。
(a)検体中に、乳酸桿菌が存在すると、乳酸桿菌のDNAを鋳型として指数関数的に増幅が起きる。
(b)増幅が起きる過程で、TaqManプローブが鋳型DNAにハイブリダイズする。プライマーがハイブリダイズした鎖が鋳型となってその相補鎖がDNAポリメラーゼにより形成される際、TaqManプローブは、DNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性により分解される。
(c)このためTaqManプローブに結合しているレポーター色素とクエンチャー色素が離れ離れになり、レポーター色素が検出されるようになる。すなわち、検体中に乳酸桿菌が存在すればレポーター色素が検出され蛍光を発するようになる。
(d)蛍光強度は、サイクル数に依存して指数関数的に増大する。
(e)既知の菌濃度の標準試料を種々用意しておいて、各々の菌濃度について発光強度が急激に大きくなるサイクル数であるthreshold cycle値(以下、Ct値と称する)を調べて、菌濃度の対数を横軸、Ct値を縦軸に取ると、ほぼ直線状の検量線が描かれる。
(f)未知の菌濃度の試料についてもCt値を調べ、(e)で作成した検量線に当てはめれば、未知の菌濃度の試料について菌濃度を知ることができる。
工程(3)の増幅されたDNAを検出する工程では、蛍光強度をPCRのサイクル毎に測定する。これによってPCR産物の増加をリアルタイムに測定することが可能である。
【0033】
本発明のキットは、本発明の口腔内の乳酸桿菌数を測定する方法に用いることのできるキットであり、少なくとも前記フォワードプライマー及びリバースプライマーを含むことを特徴とする。より好ましくは、領域1プライマー及び領域2プライマーからなるプライマーセット、並びに領域3プローブ及び/又は領域4プローブを含む。
【0034】
本発明のキットにおいてフォワードプライマー、リバースプライマー、及びプローブは、混合物として含まれてもよく、個別の試薬として含まれてもよい。また、本発明のキットは、プライマー及びプローブの他に、リアルタイムPCRを行うのに必要な試薬及び/又は酵素を更に含むこともできる。
【0035】
《作用》
本発明のプライマー及びプローブセット、並びに後述の比較例1〜3で用いたプライマー及びプローブセットは、いずれも口腔内に存在する乳酸桿菌であるラクトバシラス・ラムノサス、ラクトバシラス・カゼイ、ラクトバシラス・サリバリウス、ラクトバシラス・ガセリ、ラクトバシラス・アシドフィルス、ラクトバシラス・クリスパタス及びラクトバシラス・ファーメンタムの16SリボソームRNA遺伝子に存在する相同性の高い塩基配列を有する領域から選択したプライマー及びプローブセットである。これらのプライマー及びプローブセットのうち、本発明のプライマー及びプローブセットを用いたリアルタイムPCR法によれば、培養法と相関する口腔内に存在する乳酸桿菌数の測定が可能である。しかしながら、比較例1〜3で用いたプライマー及びプローブセットによるリアルタイムPCR法では、測定値が培養法で得られた乳酸桿菌数と相関しなかった。これらの理由は、完全に解明されているわけではないが、以下のように推論することができる。しかしながら、本発明は以下の説明によって限定されるものではない。
【0036】
本発明のプライマー及びプローブセットは、1種類の乳酸桿菌に特異的な塩基配列の領域にプライマー及びプローブを設計するのではなく、乳酸桿菌に共通な塩基配列の領域にプライマー及びプローブを設計する必要がある。しかしながら、このような領域は、乳酸桿菌以外の口腔内の常在菌の塩基配列とも一致することもあり、選択されるプライマー又はプローブの領域によっては乳酸桿菌以外の口腔内の常在菌の16SリボソームRNA遺伝子を検出することも考えられる。
また、プライマーの善し悪しは、そのプライマーの領域、配列、長さ、組み合わせなどによって、決定されると考えられる。本発明のプライマーセットに要求される条件としては、特に、リアルタイムPCRで得られた乳酸桿菌数と培養法で得られる乳酸桿菌数との相関が良好なことである。この条件を満たすために重要なことは、特にプライマーの領域並びにフォワードプライマー及びリバースプライマーの組み合わせであり、例えば、領域1プライマー及び領域2プライマーの組み合わせのプライマーセットにより、前記の目的を達成できると考えられる。実際に、比較例1〜3のプライマー及びプローブセットでは、培養法で得られる乳酸桿菌数との相関が得られておらず、プライマーの領域が重要であることがわかる。また、比較例2のR5プライマーは、領域2プライマーであるが、領域1プライマー以外のフォワードプライマーと組み合わせのために、充分な効果が得られておらず、フォワードプライマーとリバースプライマーの組み合わせも重要であることがわかる。
これらの原因としては、例えば、プライマーの領域の標的DNAが、denatureされて一本鎖DNAとなったときに、ヘアピン構造等の2次構造を取りやすく、プライマーやプローブの結合が阻害されることが考えられる。またプライマー同士が結合してプライマーダイマーを形成したり、プライマーやプローブ自体が2次構造を取るようなことも考えられる。従って、正確な口腔内の乳酸桿菌数の測定を行うためにリアルタイムPCRに適したプライマーやプローブを設計する領域は、単純にすべての乳酸桿菌に共通する塩基配列の領域を選択すればよいわけでなく、リアルタイムPCRに適しており、正確に口腔内の乳酸桿菌数を測定することのできる領域である必要がある。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例に基づき、より具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0038】
《DNAの抽出例》
5人の被験者の口腔内から唾液0.2mLを採取し、粘度を調整するため滅菌水1.6mLに懸濁後に遠心して沈殿物を回収し、DNA抽出試薬キット(商品名 QuickGene DNA tissue kit S;FUJIFILM社)を用い、キットマニュアルに従いDNAを抽出し、0.2mLのDNAサンプルとした。
【0039】
《実施例1》
領域1プライマー、領域2プライマー及び領域3プローブを用い、TaqMan法により、乳酸桿菌数を測定した。
TaqMan Fast Universal PCR Mater Mix(アプライド・バイオシステムズ株式会社)を用いて、1チューブあたり、DNAサンプル及び以下の量の試薬を混合して、全体の液量が20μLの反応液を調整した。

TaqMan Fast Universal PCR Mater Mix :10μL
10μMのF9フォワードプライマー :0.4μL(終濃度200nM)
10μMのR3リバースプライマー :0.4μL(終濃度200nM)
5μMのP4プローブ :0.4μL(終濃度100nM)
DNAサンプル :1.0μL
滅菌水 :7.8μL

反応液20μLの入ったチューブを、Applied Biosystems 7500FastリアルタイムPCRシステムにセットしPCR反応を行った。前処理として95℃、20秒でインキュベートを行った後、95℃、3秒、60℃、30秒を45サイクル繰り返し、増幅サイクル毎に蛍光強度を測定した。なお、プライマーはオリゴDNAを化学合成により作製した。プローブはオリゴDNAを化学合成し、5‘末端にFAMを、3’末端にTAMRAを結合させたものを用いた。
標準曲線を作成するために、ラクトバシラス・ラムノサス JCM 1136株を培養して種々の菌濃度の標準試料を用意し、各々の菌濃度について発光強度が急激に大きくなる閾値(Ct値)を予め調べて、菌濃度の対数を横軸にCt値を縦軸に取って検量線を作成した。同時に検体についてもCt値を調べ、検量線に当てはめることにより検体中の菌濃度を測定した。結果を表4に示す。
【0040】
《実施例2》
実施例1とは異なる領域1プライマー、領域2プライマー及び領域3プローブを用い、TaqMan法により、乳酸桿菌数を測定した。
すなわち、フォワードプライマーとしてF6フォワードプライマーを、リバースプライマーとしてR1リバースプライマーを、プローブとしてP3プローブを用いたことを除いては、実施例1に記載の測定方法を繰り返した。結果を表4に示す。
【0041】
《比較例1》
領域1プライマー、領域2プライマー及び領域3プローブの組み合わせ以外のプライマー及びプローブを用いて、TaqMan法により、乳酸桿菌数を測定した。
フォワードプライマーとしてF11フォワードプライマー(配列番号39)を、リバースプライマーとしてR4リバースプライマー(配列番号40)を、プローブとしてP11プローブ(配列番号41)を用いたことを除いては、実施例1に記載の測定方法を繰り返した。各プライマー及びプローブは、ラクトバシラス・ラムノサス、ラクトバシラス・カゼイ、ラクトバシラス・サリバリウス、ラクトバシラス・ガセリ、ラクトバシラス・アシドフィルス、ラクトバシラス・クリスパタス及びラクトバシラス・ファーメンタムの16SリボソームRNA遺伝子において、相同性の高い配列を有する領域に設定した。特に、F11フォワードプライマー及びP11プローブは、前記のすべての乳酸桿菌で塩基配列が一致している領域に設定した。F11フォワードプライマー、R4リバースプライマー、及びP11プローブの塩基配列を以下に示す。括弧内は配列番号47に示したラクトバシラス・ラムノサスの塩基配列における相当するヌクレオチド番号を示す。
F11:5‘−GCAGCAGTAGGGAATCTTCCA−3’(369−389)R4:5‘−TTAAGCCGAGGGCTTTCACA−3’(621−640)
P11:5‘−CGTGCCAGCAGCCGCGGTAATAC−3’(532−554)
結果を表4に示す。
【0042】
《比較例2》
領域1プライマー、領域2プライマー及び領域3プローブの組み合わせ以外のプライマー及びプローブを用いて、TaqMan法により、乳酸桿菌数を測定した。
フォワードプライマーとしてF12フォワードプライマー(配列番号42)を、リバースプライマーとしてR5リバースプライマー(配列番号43)を、プローブとしてP12プローブ(配列番号44)を用いたことを除いては、実施例1に記載の測定方法を繰り返した。各プライマー及びプローブは、ラクトバシラス・ラムノサス、ラクトバシラス・カゼイ、ラクトバシラス・サリバリウス、ラクトバシラス・ガセリ、及びラクトバシラス・アシドフィルス、ラクトバシラス・クリスパタス及びラクトバシラス・ファーメンタムのs16RNA遺伝子において、相同性の高い配列を有する領域に設定した。特にF12フォワードプライマーとR5リバースプライマーは前記のすべての乳酸桿菌で塩基配列が一致している領域に設定した。また、R5リバースプライマーは領域2プライマーに相当する。F12フォワードプライマー、R5リバースプライマー、及びP12プローブの塩基配列を以下に示す。括弧内は配列番号47に示したラクトバシラス・ラムノサスの塩基配列における相当するヌクレオチド番号を示す。
F12:5‘−ATGGAAGAACACCAGTGGCG−3’(726−745)
R5:5‘−GCGGTCGTACTCCCCAGG−3’(901−918)
P12:5‘−CCGTAAACGATGAATGCTAGGTGTTGGAGG−3’(828−857)
結果を表4に示す。
【0043】
《比較例3》
非特許文献4に記載のプライマーを使用し、サイバーグリーン法により、乳酸桿菌数を測定した。
SYBR Green PCR Mater Mix(アプライド・バイオシステムズ株式会社)を用いて、1チューブあたり、DNAサンプル及び以下の量の試薬を混合して、全体の液量が20μLの反応液を調整した。

SYBR Green PCR Mater Mix :10μL
10μMのLactoFフォワードプライマー :0.2μL(終濃度100nM)
10μMのLactoRリバースプライマー :0.2μL(終濃度100nM)
DNAサンプル :1.0μL
滅菌水 :8.6μL

LactoFプライマー(配列番号45)、LactoRプライマー(配列番号46)の塩基配列を以下に示す。
LactoF:5‘−TGGAAACAGRTGCTAATACCG−3’
LactoR:5‘−GTCCATTGTGGAAGATTCCC−3’
反応液20μLの入ったチューブを、Applied Biosystems 7500FastリアルタイムPCRシステムにセットしPCR反応を行った。反応は50℃2分間、95℃10分間の後に、95℃15秒間、62℃1分間を45サイクル繰り返し、増幅サイクル毎に蛍光強度を測定した。なお、プライマーはオリゴDNAを化学合成により作製した。
標準曲線を作成するために、ラクトバシラス・ラムノサスJCM 1136株を培養して種々の菌濃度の標準試料を用意し、各々の菌濃度について発光強度が急激に大きくなる閾値(Ct値)を予め調べて、菌濃度の対数を横軸にCt値を縦軸に取って検量線を作成した。同時に検体についてもCt値を調べ、検量線に当てはめることにより検体中の菌濃度を測定した。結果を表4に示す。
実施例1及び2、並びに比較例1〜3のリアルタイムPCRによる測定値は、検量線から算出したが、単位はcell/mLとして示す。
【0044】
また、被験者の口腔内から採取した唾液を適宜希釈し、ROGOSA寒天培地にて培養した後、コロニー数をカウントすることにより乳酸桿菌数を測定した結果も表4に纏めて示す。
【0045】
【表4】

【0046】
表4に示す結果より、本発明によるプライマー及びプローブセットを用いることによって、口腔内に存在する乳酸桿菌数を短時間で測定することができ、培養法と相関する結果を得ることができた。従って、本発明の方法及びキットを用いれば、口腔内に存在する乳酸桿菌数を効率良く測定することができる。一方、比較例1、2のプライマー及びプローブを用いた場合には、培養法とは異なる結果となり口腔内に存在する乳酸桿菌数の測定を行うことができなかった。また、比較例3のプライマーを用いた場合も、培養法で得られた乳酸桿菌数との相関は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のプライマー及びプローブセットを用いてリアルタイムPCRを行うことにより、口腔内の乳酸桿菌数を測定することが可能である。乳酸桿菌数を測定することによって、う蝕のリスクを検出することが可能であり、う蝕の予防及び治療に役立てることができる。また、本発明の方法は、培養法と比較して多数の検体を処理することができるため、臨床検査センター等における多数検体の処理が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列5‘−GCCGTAAACGATGARTGCTARGTGTTGGRRGGTTTC−3’(配列番号1;但しRは、A又はGである)、配列5‘−GCCGTAAACGATGAATGCTAGGTGTTGGAGGGTTTC−3’(配列番号2)、配列5‘−GCCGTAAACGATGAGTGCTAAGTGTTGGGAGGTTTC−3’(配列番号3)、又は配列5‘−GCCGTAAACGATGAGTGCTAGGTGTTGGAGGGTTTC−3’(配列番号4)で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含む少なくとも1種のフォワードプライマーと、配列5‘−TGCGGTCGTACTCCCCAGGCGGARTGCTTA−3’(配列番号5;但しRは、A又はGである)、配列5‘−TGCGGTCGTACTCCCCAGGCGGAATGCTTA−3’(配列番号6)、又は配列5‘−TGCGGTCGTACTCCCCAGGCGGAGTGCTTA−3’(配列番号7)で表される塩基配列における連続する少なくとも15塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含む少なくとも1種のリバースプライマーとの組み合わせからなる口腔内の乳酸桿菌数測定用プライマーセット。
【請求項2】
前記フォワードプライマーが、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、若しくは配列番号25で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又はそれらの2種以上のオリゴヌクレオチドであり、前記リバースプライマーが、配列番号26、配列番号27、若しくは配列番号28で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又はそれらの2種以上のオリゴヌクレオチドである請求項1に記載のプライマーセット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のプライマーセットと、配列5‘−GGTTTCCGCCYYTCAGTGCYGSAGCTAACGCA−3’(配列番号8;但し、YはT又はCであり、SはG又はCである)、配列5‘−GGTTTCCGCCCTTCAGTGCCGCAGCTAACGCA−3’(配列番号9)、配列5‘−GGTTTCCGCCTCTCAGTGCTGCAGCTAACGCA−3’(配列番号10)、配列5‘−GGTTTCCGCCCTTCAGTGCCGGAGCTAACGCA−3’(配列番号11)、配列5‘−TGCGTTAGCTSCRGCACTGARRGGCGGAAACC−3’(配列番号12;但し、RはG又はAであり、SはG又はCである)、配列5‘−TGCGTTAGCTGCGGCACTGAAGGGCGGAAACC−3’(配列番号13)、配列5‘−TGCGTTAGCTGCAGCACTGAGAGGCGGAAACC−3’(配列番号14)、又は配列5‘−TGCGTTAGCTCCGGCACTGAAGGGCGGAAACC−3’(配列番号15)で表される塩基配列における連続する少なくとも10塩基の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド部分を含む少なくとも1種のプローブとからなる口腔内の乳酸桿菌数測定用プライマー及びプローブセット。
【請求項4】
前記プローブが、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、若しくは配列番号38で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド、又はそれらの2種以上のオリゴヌクレオチドである請求項3に記載のプライマー及びプローブセット。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のプライマーセットを用いたリアルタイムPCR法により、口腔内の乳酸桿菌数を測定する方法。
【請求項6】
請求項3又は4に記載のプライマー及びプローブセットを用いたリアルタイムPCR法により、口腔内の乳酸桿菌数を測定する方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のプライマーセットを含む、口腔内の乳酸桿菌数測定用リアルタイムPCRキット。
【請求項8】
請求項3又は4に記載のプライマー及びプローブセットを含む、口腔内の乳酸桿菌数測定用リアルタイムPCRキット。

【公開番号】特開2008−271955(P2008−271955A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85108(P2008−85108)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】