説明

口腔内刺激物質

【課題】エグミ等の口腔内刺激の原因となる新規な化合物の提供。
【解決手段】特定の構造を有する糖誘導体。該化合物は、ホルダチンと呼ばれる抗真菌性を有する既知の生体防御物質の化学構造とその骨格を同一にしており、フェノール性ヒドロキシル基にマルトース又はグルコースがβグリコシド結合で付加されている。かかる化合物は口腔内刺激物質であり、これを添加剤等として種々の飲食品に利用することにより、口腔内刺激、特にエグミという香味が新たに付与又は増強され、その飲食品にさらに深みのある香味や食べ応え又は飲み応えを与えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な化合物(口腔内刺激物質)に関する。
【背景技術】
【0002】
食品に対する香りや味の好みといったものは消費者毎に異なり、年齢などによっても刻々と変化し得るものである。その上、近年の物流の発展に伴う多種多様な食品・食材の流通、あるいは最近ますます食品の安全性などについての関心が高まり、現代においては、消費者の食品に対する嗜好の変化もより早く、多様化が進んでいる。
【0003】
酒類・食品類業界では、そうした消費者嗜好の多様化を受けて、消費者の選択の幅を広げるために様々な特徴をもつ酒類・食品類の開発が必須となってきている。このため、多様な香味を創生するために、種々の原料を選択することや、製造条件を変更することなどによって、消費者の嗜好に合う商品の開発を行っているのが現状である。
【0004】
また、麦芽を原料とする酒類・食品類(例えば、ビールや発泡酒などの醸造酒、ウィスキー等の蒸留酒、ポン菓子等の菓子類など)の業界においてもこうした状況は例外ではない。
【0005】
尚、このような麦芽を原料とする酒類・食品類に対して消費者の感じることのできる香味の一つにエグミと呼ばれるものがある。エグミとは、例えばビール飲料においては、口に含んだときの味わい、のどごし、そして後味などに深く関係する香味(口腔内刺激)である。従来、エグミ等の口腔内刺激の原因となる物質(以下、口腔内刺激物質と称する)は、タケノコやホウレンソウなどの野菜においては、シュウ酸やホモゲンチジン酸と考えられてきた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3390770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
消費者の多様な嗜好に対応するために、上述したように原料や製造条件を変更することによって消費者の嗜好に合う商品を開発するという方法には限界が生じ得る。
【0008】
例えば、ビール飲料の製造においては、使用可能な原料が酒税法により(麦芽、ホップ、米などに)限定されているので、原料の選択は限られたものとなる。また製造条件を変更する場合においては、変更に伴って新たな製造設備等を用意しなければならないこともあり、その設備コストに関する問題も生じ得る。
【0009】
従って、原料や製造工程の変更には何らかの制限が伴うので、創生し得る香味も制限されてしまう。しかも、例えば「のどごし」を従来のビールとは少し異なるものを製造したいというような要望がある場合でも、原料の選択から製造工程の変更まで一から検討しようとすれば莫大な時間と費用そして労力とが要求されることもある。
【0010】
また、工業製品全般が抱える課題の一つに品質管理(製品の均質性)の問題が挙げられるが、こうした食品や飲料製品の主原料となるのは農産物であることから、産地や年産による内容成分の変動を受け易く、その変動はそのまま製品の香味にも関わってくるため必然的に売上げにも影響し得る。よって、食品や飲料製品においても品質管理は特に重要な問題である。
【0011】
一方、香味に影響を与える成分については、現在まで数多くの研究・報告がなされている。例えば、ある種のアミノ酸が食品に旨みを与えることは古くから知られており、旨みを増強するために食品・飲料にグルタミン酸塩を添加することは以前から行われている。
しかしながら、そのようにして飲食品の香味を調整する場合、香味成分が特定されていなければ利用することができない。従って、例えばビール飲料において重要なその味わい、のどごし、後味に影響を及ぼし得るエグミといわれる香味についても、その原因となる物質(口腔内刺激物質)を特定しなければ利用することができない。ところが、麦芽を原料とする酒類・食品類におけるそのような口腔内刺激物質については特定されていなかった。
【0012】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、エグミ等の口腔内刺激の原因となる新規な化合物を特定することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1特徴構成は、以下の構造式(I):
【化1】

(−CH=CH−に関してはcisまたはtrans)で示される化合物である点にある。
【0014】
本発明の第1特徴構成にかかる化合物の化学構造は、ホルダチンと呼ばれる抗真菌性を有する既知の生体防御物質の化学構造(米国特許第3475459号)とその骨格を同一にしている。しかし、ホルダチンとは、フェノール性ヒドロキシル基にマルトースがβグリコシド結合で付加されている点で相違している。この化学構造を報告する文献はこれまでには存在せず、従って本発明の化合物は新規の化学物質である。
【0015】
本発明の第2特徴構成は、以下の構造式(II):
【化2】

(−CH=CH−に関してはcisまたはtrans)で示される化合物である点にある。
【0016】
本発明の第2特徴構成にかかる化合物の化学構造は、ホルダチンと呼ばれる抗真菌性を有する既知の生体防御物質の化学構造(米国特許第3475459号)とその骨格を同一にしている。しかし、ホルダチンとは、フェノール性ヒドロキシル基にグルコースがβグリコシド結合で付加されている点で相違している。この化学構造を報告する文献はこれまでには存在せず、従って本発明の化合物は新規の化学物質である。
【0017】
本発明の第3特徴構成は、以下の構造式(III):
【化3】

(−CH=CH−に関してはcisまたはtrans、Meはメチル基)で示される化合物である点にある。
【0018】
本発明の第3特徴構成にかかる化合物の化学構造は、ホルダチンと呼ばれる抗真菌性を有する既知の生体防御物質の化学構造(米国特許第3475459号)とその骨格を同一にしている。しかし、ホルダチンのベンゾフラン骨格にあたる構造の一部がメトキシ基で修飾されている点、および、フェノール性ヒドロキシル基にグルコースがβグリコシド結合で付加されている点で相違している。この化学構造を報告する文献はこれまでには存在せず、従って本発明の化合物は新規の化学物質である。
【0019】
本発明の第4特徴構成は、前記構造式(I)〜(III)で示される化合物が口腔内刺激物質である点にある。
【0020】
本発明の第4特徴構成にかかる化合物について、訓練を受けた試験官(パネル)による官能評価を行ったところ舌に残る鋭いエグミ(口腔内刺激)を有することが確認された。つまり、本発明の化合物は、口腔内刺激物質の一種である。
【0021】
従って、本発明の化合物を、エグミ等の口腔内刺激の原因となる物質(口腔内刺激物質)として入手・利用することが可能となる。つまり、化学構造が判明しているため、類似の構造をもつ既知の化合物の分析法を参考するなどして、本発明の化合物を含有し得る自然植物(例えば麦芽等)からより効率良く分離するための分離精製法が確立され得るし、あるいは直接有機合成を行って入手することも可能となる。
【0022】
その結果、本発明の化合物を添加剤等として種々の飲食品に利用することにより、口腔内刺激、特にエグミという香味が新たに付与され(又は増強され)、その飲食品にさらに深みのある香味や食べ応え(又は飲み応え)を与えることができる。さらに、その添加量を調整することにより、そうした香味や食べ応え(又は飲み応え)の程度を自在に調整することも可能となるため、多様化する消費者の嗜好に迅速に対応することができる。つまり、原料の選択から製造条件の変更といった非常に時間と費用そして労力とが要求される従来の開発工程を経ることなく、多様な香味(エグミ等の口腔内刺激)を有する多様な製品を迅速かつ簡便に開発することも可能となる。
【0023】
またさらに、本発明の化合物の定量法も確立され得るため、例えば、麦芽を原料とする酒類・食品類の製品について、本発明の化合物を定量し、製造過程においてモニターすることもできるので、エグミといった香味に関する品質管理を試飲・試食等により定性的に行うことだけでなく、定量的にも行うことが可能となり、品質管理がさらに徹底されて製品品質のさらなる向上が期待できる。
【0024】
本発明の第5特徴構成は、前記口腔内刺激物質が発芽穀物由来である点にある。
【0025】
本発明の第5特徴構成にかかる化合物(口腔内刺激物質)は、発芽穀物(例えば、発芽玄米、発芽小麦、発芽大麦、発芽大豆、発芽トウモロコシ種実など)に由来するものである。したがって、本発明の化合物(口腔内刺激物質)は、これらの発芽穀物から分離・精製することによって、入手可能となる。また、これらの発芽穀物は比較的安価で入手も容易であるため、本発明の化合物を工業的に安定供給することも可能である。
【0026】
なお、麦芽(発芽大麦)を原料とする酒類・食品類は数多く存在し(例えば、ビールや発泡酒などの醸造酒、ウィスキー等の蒸留酒、ポン菓子等の菓子類など)、こうした酒類・食品類にはエグミが含まれていることが多い。従って、本発明の化合物が麦芽に由来するものである場合、本発明の化合物を、麦芽を原料とする酒類・食品類に添加すれば、そうした酒類・食品類の本来有するエグミに加えて、さらに深みのある香味や食べ応え(飲み応え)を容易に与えることができる。つまり、麦芽由来の本発明の化合物を例えばビール飲料に添加すれば、もともと含まれている本発明の化合物を増量するだけなので、他の原料に由来する口腔内刺激物質(例えば、シュウ酸やホモゲンチジン酸など)を添加する場合と比べて、ビール飲料中に安定に存在し得、且つ他のビール成分に何らかの悪影響を及ぼしてビール本来の風味を損なうということもないので、その味わい、のどごし、または後味を消費者の嗜好に合わせて自在に調整することが可能となる。
【0027】
本発明の第6特徴構成は、第4特徴構成にかかる化合物を含有する口腔内刺激付与剤である点にある。
【0028】
本発明の第6特徴構成にかかる口腔内刺激付与剤であれば、第4特徴構成にかかる化合物(口腔内刺激物質)が、それぞれ固有の口腔内刺激(特にエグミ)を有するため、それぞれの口腔内刺激物質を単独か、または任意に組み合わせて使用することより、多種多様な口腔内刺激を付与することが可能となる。従って、本発明の口腔内刺激付与剤を飲食品に添加すれば、同じ飲食品でも多種多様な口腔内刺激を有する製品を簡便且つ迅速に製造することが可能となる。さらにその添加量によっても口腔内刺激の程度を調整し得るということも考慮すれば、口腔内刺激のバリエーションの幅は非常に広くなり、多様な嗜好を有する消費者に迅速に対応することが可能となる。また例えば、こうした口腔内刺激付与剤を調味料として一般家庭の食卓において使用すれば食生活をより一層豊かなものとすることも可能である。
【0029】
本発明の第7特徴構成は、第5特徴構成にかかる化合物を含有する口腔内刺激付与剤である点にある。
【0030】
本発明の第7特徴構成にかかる口腔内刺激付与剤であれば、第5特徴構成にかかる化合物(口腔内刺激物質)が、それぞれ固有の口腔内刺激(特にエグミ)を有するため、それぞれの口腔内刺激物質を単独か、または任意に組み合わせて使用することより、多種多様な口腔内刺激を付与することが可能となる。従って、本発明の口腔内刺激付与剤を飲食品に添加すれば、同じ飲食品でも多種多様な口腔内刺激を有する製品を簡便且つ迅速に製造することが可能となる。さらにその添加量によっても口腔内刺激の程度を調整し得るということも考慮すれば、口腔内刺激のバリエーションの幅は非常に広くなり、多様な嗜好を有する消費者に迅速に対応することが可能となる。また例えば、こうした口腔内刺激付与剤を調味料として一般家庭の食卓において使用すれば食生活をより一層豊かなものとすることも可能である。尚、前記発芽穀物は比較的安価で入手も容易であるため、本発明の化合物を工業的に安定供給することも可能である。
【0031】
本発明の第8特徴構成は、第4特徴構成にかかる化合物を含有するエグミ付与剤である点にある。
【0032】
本発明の第8特徴構成にかかるエグミ付与剤であれば、第4特徴構成にかかる化合物(口腔内刺激物質)が、それぞれ固有のエグミを有するため、それぞれの口腔内刺激物質を単独か、または任意に組み合わせて使用することより、多種多様なエグミを付与することが可能となる。従って、本発明のエグミ付与剤を飲食品に添加すれば、同じ飲食品でも多種多様なエグミを有する製品を簡便且つ迅速に製造することが可能となる。さらに、その添加量によってもエグミの程度を調整し得るということも考慮すれば、エグミのバリエーションの幅は非常に広くなり、多様な嗜好を有する消費者に迅速に対応することが可能となる。また例えば、こうしたエグミ付与剤を調味料として一般家庭の食卓において使用すれば食生活をより一層豊かなものとすることも可能である。
【0033】
本発明の第9特徴構成は、第5特徴構成にかかる化合物を含有するエグミ付与剤である点にある。
【0034】
本発明の第9特徴構成にかかるエグミ付与剤であれば、第5特徴構成にかかる化合物(口腔内刺激物質)が、それぞれ固有のエグミを有するため、それぞれの口腔内刺激物質を単独か、または任意に組み合わせて使用することより、多種多様なエグミを付与することが可能となる。従って、本発明のエグミ付与剤を飲食品に添加すれば、同じ飲食品でも多種多様なエグミを有する製品を簡便且つ迅速に製造することが可能となる。さらに、その添加量によってもエグミの程度を調整し得るということも考慮すれば、エグミのバリエーションの幅は非常に広くなり、多様な嗜好を有する消費者に迅速に対応することが可能となる。また例えば、こうしたエグミ付与剤を調味料として一般家庭の食卓において使用すれば食生活をより一層豊かなものとすることも可能である。尚、前記発芽穀物は比較的安価で入手も容易であるため、本発明の化合物を工業的に安定供給することも可能である。
【0035】
本発明の第1特徴手段は、第1〜3特徴構成にかかる化合物のいずれか一つの化合物の含量、又は前記化合物の混合物の含量を指標とする、飲食品又はその原料のエグミの程度の評価方法である点にある。
【0036】
本発明の第1特徴手段に記載の評価方法であれば、第1〜3特徴構成にかかる化合物のいずれか一つの化合物の含量、又は前記化合物の混合物の含量をエグミの程度の指標とするので、例えば、所定量の前記化合物を含有する標準溶液を調製し、その標準溶液を基に飲食品又はその原料中に含まれる前記化合物の含量を測定して、その定量値の大小によりエグミの程度を評価することが可能となる。従って、信頼性の高い結果を得るために、従来のように何人ものパネラーによってエグミの官能評価を実施しなくとも、簡便且つ客観的でより信頼性の高い評価結果を得ることができる。
【0037】
本発明の飲食品の特徴構成は、第1〜3特徴構成にかかる化合物のうち少なくとも一つを添加した飲食品である点にある。
【0038】
本発明の飲食品であれば、第1〜3特徴構成にかかる化合物のうち少なくとも一つを飲食品に添加することによって、迅速かつ簡便に製造することが可能となる。且つ、香味(エグミ等の口腔内刺激)に関して様々なバリエーションをもたせることが可能となるため、多様化する消費者の嗜好に迅速に対応することができる。
【0039】
本発明の口腔内刺激を付与した飲食品を製造する方法の第1特徴構成は、第6または第7特徴構成にかかる口腔内刺激付与剤、第8または第9特徴構成にかかるエグミ付与剤のうち少なくとも一つを飲食品に添加した点にある。
本発明の方法であれば、第6または第7特徴構成にかかる口腔内刺激付与剤、第8または第9特徴構成にかかるエグミ付与剤のうち少なくとも一つを飲食品に添加することによって、迅速かつ簡便に製造することが可能となる。且つ、香味(エグミ等の口腔内刺激)に関して様々なバリエーションをもたせることが可能となるため、多様化する消費者の嗜好に迅速に対応することができる。
【0040】
第2特徴構成は、前記飲食品がアルコール飲料又は非アルコール飲料である点にある。
本発明の方法であれば、アルコール飲料または非アルコール飲料に対する消費者の様々な嗜好に迅速に対応することができる。
【0041】
第3特徴構成は、前記アルコール飲料が麦芽発酵飲料である点にある。
本発明の方法であれば、麦芽発酵飲料(例えば、ビール飲料など)に対する消費者の様々な嗜好に迅速に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】口腔内刺激物質の精製過程を示すフローチャート
【図2】エグミ成分のクロマトグラム
【図3】口腔内刺激物質1〜3のクロマトグラム
【図4】口腔内刺激物質1のUV吸収スペクトル
【図5】口腔内刺激物質2のUV吸収スペクトル
【図6】口腔内刺激物質3のUV吸収スペクトル
【図7】口腔内刺激物質1のプロトンNMRスペクトル
【図8】口腔内刺激物質2のプロトンNMRスペクトル
【図9】口腔内刺激物質3のプロトンNMRスペクトル
【図10】口腔内刺激物質1の構造式
【図11】口腔内刺激物質2の構造式
【図12】口腔内刺激物質3の構造式
【図13】麦汁の口腔内刺激物質1〜3の分析クロマトグラム
【図14】麦汁のエグミ成分の分析クロマトグラム
【図15】ビールの口腔内刺激物質2の高精度分析クロマトグラム
【図16】発芽玄米抽出液のエグミ成分の分析クロマトグラム
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下に本発明の実施の形態として、本発明の化合物である図10〜12に構造式を示す口腔内刺激物質1〜3の分離・精製方法を主として説明する。
【0044】
〔実施形態〕
本発明の化合物(口腔内刺激物質1〜3)を含有し得る発芽穀物としては、例えば、大麦(オオムギ)、コムギ、ライムギ、カラスムギ、オートムギ、ハトムギ、イネ、トウモロコシ、ヒエ、アワ、キビ、ソバ、ダイズ、アズキ、エンドウ、ソラマメもしくはインゲンマメなどが挙げられるがこれらに限定されない。
本実施形態における「発芽穀物」とは、完全な発芽穀物の他に、その分画物(例えば、胚乳、幼芽、穀皮など)または発芽穀物もしくはその分画物の処理物も含まれる。また前記処理物としては、発芽穀物またはその分画物に何らかの処理を加えたものであれば特に限定されないが、例えば、粉砕物、破砕物、摩砕物、乾燥物、凍結乾燥物または抽出(超臨界抽出も含む)物、その濃縮物もしくは抽出後の固形分などが挙げられる。
尚、大麦(英名:barley)とは、オオムギ属の植物のことをいい、学名は、特に限定されず、Hordeum vulgare L.、Hordeum distichon L.などが挙げられる。例えば、栽培上では、春播き(spring barley)、秋播き(winter barley)が挙げられ、また、種では、二条大麦と六条大麦が挙げられる。具体的な品種としては、日本においては、非限定的に、はるな二条、あまぎ二条、ミカモゴールデン、タカホゴールデンなどが挙げられ、海外においては、非限定的に、Alexis種、Schooner種、Harrington種、Orbit種、Corniche種、Triumph種が挙げられる。
【0045】
また発芽した大麦(麦芽)とは、大麦の穀粒が生長・発生したもののことをいう。たとえば、それは、麦芽製造においては、緑麦芽(生麦芽)と乾燥麦芽のことをいい、また、大麦の穀粒の栽培においては、若葉が出た状態のものや苗などをいうが、これらに限定されるものではない。麦芽製造における大麦の発芽の度合いは、生長中の大麦の温度、発芽中に供給される水分含量、発芽表層中の酸素と炭酸ガスの比率、発芽期間などの因子を管理することにより適宜決定できる。また、緑麦芽(生麦芽)の水分は、約40から45%、乾燥麦芽の水分は、約3〜15%のものが挙げられる。
【0046】
さらに、麦芽の分画物とは、穀皮部、でんぷん層(胚乳)、果皮および種皮、葉芽、若葉、苗、幼芽、アロイロン層画分、麦芽根、根芽などの組織画分およびそれらの混合物のことをいい、特に限定されるものではない。このような発芽した大麦の分画物は、常法によって調製でき、具体的には、破砕法、篩い法、搗精法、風選法、比重差選別法、脱芒法などを挙げることができる。
【0047】
そのなかにあっても、特に幼芽は、本発明の化合物(口腔内刺激物質1〜3)を含む原料として好ましく使用することができる。
【0048】
このような大麦、麦芽、又は麦芽の分画物から、本発明の化合物(口腔内刺激物質1〜3)を取得する方法としては、常法による各種抽出・分離操作により、当該物質を含む組成物を得ることができる。より具体的には、分配平衡による分離、例えば、固液抽出(水系抽出,有機溶媒系抽出など)、超臨界ガス抽出、吸着(活性炭など);速度差に基づく分離、例えば、濾過、透析、膜分離(限外濾過、RO、機能性膜)、液体クロマトグラフィー(逆相分配クロマトグラフィー、順相分配クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーなど);選択的沈殿の形成による分離、例えば、結晶化、有機溶媒による沈殿など;抽出・分離工程を適宜組み合わせて行うことができる。
【0049】
なお、必要であれば、濃縮、濾過、乾燥などを適宜行い、濃縮エキス、粉体、乾燥、結晶品などの各種形態として本発明の口腔内刺激物質を得ることもできる。かかる組成物の純度は、特に限定されず、適用する飲食品や添加剤(香味付与剤)の特性に応じて適宜決定でき、粗精製物でもよく、あるいは高純度の精製物でも良い。また特に精密分析機器を用いてMSスペクトル解析やNMRスペクトル解析等を行い本発明の口腔内刺激物質の分子量や化学構造等を調べる場合には、より高純度の精製物が要求されるので、必要に応じて、例えば、精製段階に応じて適宜カラムを変更し、所望の純度の精製物が得られるまで液体クロマトグラフィーを繰り返し行うといった方法を用いても良い。
【0050】
またここでいう飲食品とは、アルコール飲料、非アルコール飲料および食品を言う。アルコール飲料とは、20℃にて0.1%以上のアルコールを含む液体のことをいい、たとえばビールや発泡酒などの麦芽発酵飲料、ウィスキー類、スピリッツ類、甲乙種の焼酎類などの蒸留酒、リキュール類などの混合酒、およびその他雑酒などをいい、それらは特に限定されるものではない。中でも、麦芽発酵飲料に好適に用いることができる。非アルコール飲料とは、清涼飲料や茶飲料、炭酸飲料、乳飲料、コーヒー飲料、豆乳飲料などを示す。
【0051】
また、食品とは、菓子類、ご飯類、麺類、農産食品(豆腐およびその加工品など)、調味料(みりん、食酢、醤油、味噌、ドレッシングなど)、畜農食品(ヨーグルト、ハム、ベーコン、ソーセージ、マヨネーズなど)、水産練り製品(かまぼこやハンペン等)などの食品のことをいい、それらは特に限定されるものではない。
【0052】
上述のようにして分離・精製された本発明の化合物(口腔内刺激物質1〜3)は、その濃度によって、さまざまな口腔内刺激を飲食物に付与することができる。例えば、エグミ、苦味、甘味、痺れ感、服用感、飲み応えなどであり、喉や舌に作用する。中でも、エグミは広範囲な濃度で確認されている。
【0053】
本発明の化合物を口腔内刺激付与剤(エグミ付与剤)として飲食品に添加することにより、エグミなどの口腔内刺激という香味が新たに付与され(又は増強され)、その飲食品に、さらに深みのある香味や食べ応え(飲み応え)を与えることができる。なお、エグミ付与剤は、本発明の化合物(口腔内刺激物質1〜3)を単独か、または、それぞれの配合量を適宜調節し任意に組み合わせて製造することも可能である。また、エグミ付与剤の形態としては、乾燥品、液状品、粉末品等であり、特に限定されるものでないが、例えば、原料より分離・精製した口腔内刺激物質1〜3の凍結乾燥品や、その凍結乾燥品に適当な賦形剤を添加したものを好適に用いることが可能である。またあるいは口腔内刺激物質を多く含む麦芽の幼芽画分を粉末化して、その粉末単独か、又はその粉末に適当な賦形剤を添加したものをエグミ付与剤としても良い。
【0054】
エグミ付与剤を飲食品に添加する際、添加量は、適宜設定することができる。添加方法は特に限定されない。例えば、麦芽発酵飲料の一つであるビールの場合、発酵後に添加しても良いし、ビール製造工程のどの段階で添加しても良い。たとえば麦汁仕込工程、あるいは酵母による発酵工程のいずれの段階でもよく、製品に近い酵母ろ過直前に添加しても良い。
【0055】
〔その他の実施形態〕
本実施形態における口腔内刺激物質は、発芽穀物より分離・精製される構成としてあるが、これに限定されず、たとえば、他の自然植物から分離されたものであっても良いし、あるいは人為的に有機合成されたものであっても良い。
【実施例1】
【0056】
〔発泡酒の製造例〕
本発明の化合物(口腔内刺激物質1〜3)の多く含まれる画分を特定する試験を行った。麦芽を分画し、目視によって幼芽だけを手で分け取ったものを原料とした。
粉砕した麦芽22.0kg、幼芽3.0kgを水100Lと混合し、常法に従って麦汁を製造した。麦芽粕を濾過により除去した後、得られた麦汁に加水して、原麦汁エキス14%に調整した。その調整した麦汁22Lに糖化スターチ16.5kgを混合し、全体量が120Lになるように加水した。これにホップペレット約100gを添加して約1時間煮沸した。13℃に冷却後、この煮沸後の麦汁の原麦汁エキス濃度を加水により14%に調整した後、酵母を約300g添加して7日間発酵を行い、発泡酒を得た(試作品1)。対照として幼芽を添加しない通常の発泡酒を製造した(対照品1)。両発泡酒について官能評価を行った。
【0057】
官能評価は、10名のパネリストがエグミの度合いを3点満点で評価する方法を採用し、試作品1と対照品1それぞれについて平均点を算出した。試料の温度は5℃とした。結果を表1に示す。表1に示したとおり、試作品1は対照品1に比較して、エグミが強かった。これより、エグミ成分が幼芽に多く含まれていることが確認された。
【0058】
【表1】

【実施例2】
【0059】
〔エグミ成分の単離および構造解析〕
以下の操作を行って、麦芽を分画し本発明の化合物(口腔内刺激物質1〜3)の含有量の多い幼芽画分を得た。
前記麦芽のうち、目視によって幼芽だけを手で分け取ったものを出発物質として使用した。次いで、図1に示すように、得られた幼芽40gを水160mLに溶かし、65℃で30分間保持した。抽出液を遠心分離し、上清をセップパックC18樹脂(ウォーターズ社製 Sep−Pak Vac 20cc C18カートリッジ)に供し、水20mL、20%エタノール20mL、50%エタノール20mL、100%エタノール20mLにてそれぞれ溶出した。得られた各溶出画分をエバポレータを使用して濃縮し、凍結乾燥することにより、粗分画粉末を得た。香味評価により、エグミをもつ成分は、20%エタノール溶出画分に存在することが分かった。
【0060】
この20%エタノール溶出画分(乾燥重量90.4mg)を粗分画エグミ成分として、ギルソン社製HPLCシステムを用いて再度分画を行った。カラムはDeverosil−C30−UG5(野村化学社製10×250mm)を用い、分析条件は、A液を0.05%TFA(トリフルオロ酢酸)水溶液、B液を0.05%TFA、90%アセトニトリル溶液とし、流速3mL/minにて、B液0%から50%までの150分間の直線グラジエントとした。また検出は波長300nmのUV吸収にて行った。各ピークを分取し、それぞれのピークに対して香味評価を行い、強くて鋭いエグミを持つ成分を特定し、エグミ成分粉末(乾燥重量61.2mg)を得た。
【0061】
このエグミ成分粉末を、精製を目的として、再度HPLC分析した。分析は、HPLCシステムCLASS−VPシリーズ(島津製作所社製)にて行い、カラムはDeverosil−C30−UG5(野村化学社製4.6×150mm)を用い、分析条件は、A液を0.05%TFA(トリフルオロ酢酸)水溶液、B液を0.05%TFA、90%アセトニトリル溶液とし、流速1mL/minにて、B液0%から20%までの100分間の直線グラジエントとした。また検出は波長300nmのUV吸収にて行った。このクロマトグラムを図2に示す。ピークはほぼ1本であり、香味評価でエグミ成分の濃度とエグミの強度が比例することも確認した。
【0062】
当該ピークを分取して、予備的に機器分析を行ったところ、エグミ成分は複数の物質の混合物であることがわかった。そこで、さらに当該ピークを以下の方法で分取した。
HPLCシステムCLASS−VPシリーズ(島津製作所社製)にて、Capcellpak−MF−C1(資生堂社製4.6×150mm)カラムを用いて分離した。分析条件は、流速1mL/minで0.05%TFA水溶液でのアイソクラティックにて行い、また検出は波長300nmのUV吸収にて行った。結果を図3に示す。
【0063】
図3に示した各ピークをそれぞれ分取し、それぞれに対して香味の評価を行ったところ下線に示した3つのピークにエグミを感じたことから、それぞれを口腔内刺激物質1、口腔内刺激物質2、口腔内刺激物質3(乾燥重量はそれぞれ、6.1mg、21.3mg、10.2mg)と命名した。評価は、10名のパネリストにより、精製前のエグミ成分と比較してエグミの度合いを3点満点で評価し、その平均点の比較にて行った。このときエグミ成分のエグミ度合いを1として基準とした(表2参照)。
【0064】
【表2】

【0065】
これら口腔内刺激物質1、口腔内刺激物質2、口腔内刺激物質3の化学構造をUV吸収スペクトル、質量分析、NMR解析などによって決定した。UV吸収スペクトルをそれぞれ図4、図5、図6に、質量分析の結果を以下の表3に、重メタノール中でのプロトンNMRスペクトルを図7、図8、図9に示した。
【0066】
【表3】

【0067】
これらの分析情報から、口腔内刺激物質1、口腔内刺激物質2、口腔内刺激物質3の構造を決定した。それぞれの構造式を、図10〜12に示す。
【0068】
口腔内刺激物質1について、図10中、−CH=CH−に関してはcis、又はtransであり、今回の精製プロセスでは、そのミクスチャーであった。
口腔内刺激物質2について、図11中、−CH=CH−に関してはtransであった。cis体についても同様の口腔内刺激の作用が期待される。
口腔内刺激物質3について、図12中、−CH=CH−に関してはcis、又はtransであり、今回の精製プロセスでは、そのミクスチャーであった。
【実施例3】
【0069】
本発明の化合物(口腔内刺激物質1〜3)をビール製品に添加した例をしめす。実施例2にて得られた口腔内刺激物質1、口腔内刺激物質2、口腔内刺激物質3を、それぞれ麦芽100%ビールに添加し、官能評価を行った。
通常の欧州産2条麦芽を100%使用したビール100mL(口腔内刺激物質1の含量:1.4ppm、口腔内刺激物質2の含量:5.7ppm、口腔内刺激物質3の含量:2.7ppm)に、実施例1にて得た口腔内刺激物質1を1mg添加したビールを試作品2、口腔内刺激物質2を1mg添加したビールを試作品3、口腔内刺激物質3を1mg添加したビールを試作品4として実施例1と同様の方法で官能評価を行った。また、後述する実施例7の方法により口腔内刺激物質1〜3の濃度を測定した。
表4に添加したビールの官能評価結果を示す。
【0070】
【表4】

【0071】
表4より、口腔内刺激物質1、口腔内刺激物質2、口腔内刺激物質3それぞれの添加ビールは、対照品である通常ビールに比べエグミの度合いが上昇しており、本発明の化合物(口腔内刺激物質1〜3)によってエグミを付与できていることを確認できた。
【実施例4】
【0072】
〔エグミ付与剤の製造例〕
麦芽からエグミ成分を精製し、エグミ付与剤を得た。実施例2に記載した方法をもとに、エグミ成分粉末を製造した。幼芽1kgを4Lの温水にて65℃、30分間抽出した。抽出液を遠心した後、上清にコスモシール75C18−OPN樹脂(ナカライテスク社製)1kgを添加し、30分間攪拌した。その後上清を廃棄し、樹脂吸着画分を20%エタノール1Lにて溶出した。溶出液をエバポレータを用いて濃縮後、ギルソン社製HPLCシステムを用いて分画を行った。カラムはDeverosil−C30−UG5(野村化学社製20×250mm)を用い、分析条件は、A液を0.05%TFA(トリフルオロ酢酸)水溶液、B液を0.05%TFA、90%アセトニトリル溶液とし、流速5mL/minにて、B液0%から40%までの150分間の直線グラジエントとした。また検出は波長300nmのUV吸収にて行った。実施例1にて特定したエグミ成分のピークを分取した。これを繰り返し、エバポレータにて濃縮後、凍結乾燥を行い、エグミ成分粉末1.5gを得た(エグミ付与剤1)。また、同様の方法で得られたエグミ付与剤1を1.2gとり、コーンスターチ1.2kgに添加し混合した。得られた混合付与剤は強いエグミを呈していた(エグミ付与剤2)。
【実施例5】
【0073】
(エグミ付与剤1を添加した発泡酒の製造例)
実施例4にて得られたエグミ付与剤1を常法によって得られる発泡酒に添加し、エグミの強化した発泡酒を調製した。また、通常の発泡酒500mLにエグミ成分粉末を2mg、4mg、8mg、16mg添加して、それぞれ発泡酒試作品5、試作品6、試作品7、試作品8を作成し、実施例1の方法で官能評価を行った結果を表5に示す。対照として、エグミ成分を添加しない発泡酒も評価した(対照品3)。
【0074】
【表5】

【0075】
表5より、エグミ成分の濃度と、試作した発泡酒のエグミの官能評価の結果は相関性が認められた。従って、本発明のエグミ付与剤を用いることで、各種エグミの程度の発泡酒を調製できることが判った。
【実施例6】
【0076】
〔エグミ付与剤2を添加した発泡酒の製造例〕
実施例4にて得られたエグミ付与剤2を使用して発泡酒を製造した。粉砕した麦芽6.0kg、実施例3にて得られたエグミ付与剤2を1.2kg、および水30Lを混合し、常法に従って麦汁を製造した。麦芽粕を濾過により除去した後、得られた麦汁に、麦芽使用比率が24%となるように糖化スターチを加え、原麦汁エキス濃度が14%になるように加水した。これにホップペレット約100gを添加して約1時間煮沸した。13℃に冷却後、この麦汁に酵母を約300g添加して7日間発酵を行い、発泡酒(試作品8)を得た。対照として通常の発泡酒と比較し官能評価を行った結果を表6に示す。本発明のエグミ付与剤を用いることで、各種エグミの程度の発泡酒を調製できることが判った。
【0077】
【表6】

【実施例7】
【0078】
〔口腔内刺激物質1〜3の分析方法〕
ビール製造過程での1番麦汁における口腔内刺激物質1〜3の分析例を示す。
欧州産二条大麦麦芽30kgを水120Lと混合して65℃60分間糖化し、ロイターろ過して原麦汁エキス14%に調整した1番麦汁を得た。
前記一番麦汁20gをセップパックC18樹脂(ウォーターズ社製 Sep−Pak Vac 20cc C18カートリッジ)に供し、水20mL、7%エタノールにて順に洗浄後、15%エタノール20mLにて溶出した画分をエバポレータを使用して濃縮し、HPLC分析に供した。分析はHPLCシステムCLASS−VPシリーズ(島津製作所社製)にて、Capcellpak−MF−C1(資生堂社製4.6×150mm)カラムを用いて行い、分析条件は、流速1mL/minで0.05%TFA水溶液でのアイソクラティック、検出は300nmのUV吸収にて行った。クロマトグラムを図13に示す。
実施例2で得られた口腔内刺激物質1〜3を標準物質として使用して検量線を作成し、それぞれを定量することができた。この方法により、麦汁などの酒類・飲食物およびその半製品に含まれる口腔内刺激物質1〜3をそれぞれ定量的に分析することができた。
【実施例8】
【0079】
〔エグミ成分の分析方法〕
ビール製造過程での1番麦汁におけるエグミ成分の分析例を示す。欧州産2条麦芽30kgを水120Lと混合して65℃60分間糖化し、ロイターろ過して原麦汁エキス14%に調整した1番麦汁を得た。当該一番麦汁1mLをミリポア社製のポアサイズ0.45μmのフィルターを通し、10μLをHPLC分析に供した。分析はHPLCシステムCLASS−VPシリーズ(島津製作所社製)にて、Deverosil−C30−UG5(野村化学社製4.6×150mm)カラムを用いて行い、分析条件はA液を0.05%TFA(トリフルオロ酢酸)水溶液、B液を0.05%TFA、90%アセトニトリル溶液とし、流速1.0mL/minにて、B液0%から20%までの100分間の直線グラジエントとした。また検出は波長300nmのUV吸収にて行った。図14にクロマトグラムを示す。
標準物質として実施例4で得られたエグミ付与剤1を使用して検量線を作成して定量を行った。この方法により、麦汁などの酒類・飲食物およびその半製品に含まれるエグミ成分を容易に分析することができ、麦汁などの酒類・飲食物およびその半製品のエグミの程度を迅速に測定することができた。
【実施例9】
【0080】
〔口腔内刺激物質の高精度簡易分析方法〕
口腔内刺激物質2のみの濃度を簡便に精度よく分析する方法を示す。
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、1次元目のカラムにより目的成分をおおよそ分離し、目的成分を含む画分をカラムスイッチングによってハートカットして2次元目のカラムに供し、2次元目で精度よく分析する方法である。この方法を用いて、ビールのエグミ成分を測定した例を示す。
ビール5mLをミリポア社製のポアサイズ0.45μmのフィルターを通し、HPLCシステムCLASS−VPシリーズ(島津製作所社製)を用いて分析した。1次元目および2次元目とも、分離カラムの前に前濃縮カラム[PVA(4mm×30mm)、SCR−RP3、#228−33713−91、島津社製]を接続した。1次元目の注入量は100μLとして、分離はDeverosil−C30−UG5(野村化学社製4.6×150mm)カラムを用いて行った。分離条件は、A液:0.05%TFA水溶液、B液:0.05%TFA、50%MeOHを用い、流速0.6mL/minにてB液%を0%(0分)〜20%(25分)〜80%(40分)〜0%(50分)のグラジエントであった。検出は波長320nmのUV吸収にて行った。一次元目の34分から35分に溶出される画分をハートカットし、2次元目の分析に供した。2次元目の分離は、symmetry−C18ODS(4.6×150mm、3.5μm、ウォーターズ社製)カラムを3本直列に接続して行った。分析条件は、C液:0.05%TFA、2%MeCN、D液:0.05%TFA、80%MeCNを用い、流速0.6mL/MinにてD液%を20%(0分)〜20%(37分)〜60%(70分)のグラジエントであった。検出は波長320nmのUV吸収にて行った。図15にクロマトグラムを示す。なお、別途、試料溶液中に適量の口腔内刺激物質2を溶解して注入する方法で、図15のピークが口腔内刺激物質2であることを確認した。
実施例2で得られた口腔内刺激物質2を標準物質として使用して検量線を作成し、ビール中の口腔内刺激物質2の濃度を測定することができた。この方法により、ビールのエグミ成分を簡便により精度よく行うことができた。
【実施例10】
【0081】
〔発芽穀物のエグミ成分分析〕
発芽穀物の一つとして発芽玄米を用いて、エグミ成分を分析した。
長野県産発芽玄米を市販の小型ミルにて粉砕し、その粉砕物25gに水100gを加え、65℃にて30分処理した。その処理液を遠心分離機(7000rpm、10分間、4℃)に供した。実施例8に記載の方法に従って、遠心分離後の上澄みに含まれるエグミ成分を分析した。図16にクロマトグラムを示す。検量線を作成して定量を行った結果、発芽玄米のエグミ成分の含量は2.4μg/gであることが判った。
【実施例11】
【0082】
〔エグミ成分を含有する各種飲食物の製造例〕
以下に示す組成にて、エグミ成分粉末入りの、各種飲食品を製造した。
飴:
(組成) (重量部)
粉末ソルビトール 99.7
香料 0.2
エグミ成分粉末 0.05
ソルビトールシード 0.05
全量 100.00
【0083】
キャンデー:
(組成) (重量部)
砂糖 47.0
水飴 49.76
香料 1.0
水 2.0
エグミ成分粉末 0.24
全量 100.00
【0084】
トローチ:
(組成) (重量部)
アラビアゴム 6.0
ブドウ糖 73.0
エグミ成分粉末 0.05
リン酸第二カリウム 0.2
リン酸第一カリウム 0.1
乳糖 17.0
香料 0.1
ステアリン酸マグネシウム 3.55
全量 100.00
【0085】
ガム:
(組成) (重量部)
ガムベース 20.0
炭酸カルシウム 2.0
ステビオサイド 0.1
エグミ成分粉末 0.05
乳糖 76.85
香料 1.0
全量 100.00
【0086】
キャラメル:
(組成) (重量部)
グラニュー糖 32.0
水飴 20.0
粉乳 40.0
硬化油 4.0
食塩 0.6
香料 0.02
水 3.22
エグミ成分粉末 0.16
全量 100.00
【0087】
ゼリー(コーヒーゼリー):
(組成) (重量部)
グラニュー糖 15.0
ゼラチン 1.0
コーヒーエキス 5.0
水 78.93
エグミ成分粉末 0.07
全量 100.00
【0088】
アイスクリーム:
(組成) (重量部)
生クリーム(45%脂肪) 33.8
脱脂粉乳 11.0
グラニュー糖 14.8
加糖卵黄 0.3
バニラエッセンス 0.1
水 39.93
エグミ成分粉末 0.07
全量 100.00
【0089】
カスタードプリン:
(組成) (重量部)
牛乳 47.51
全卵 31.9
上白糖 17.1
水 3.4
エグミ成分粉末 0.09
全量 100.00
【0090】
水ようかん:
(組成) (重量部)
赤生あん 24.8
粉末寒天 0.3
食塩 0.1
上白糖 24.9
エグミ成分粉末 0.1
水 49.8
全量 100.0
【0091】
ジュース:
(組成) (重量部)
冷凍濃縮温州みかん果汁 5.0
果糖ブドウ糖液糖 11.0
クエン酸 0.2
L−アスコルビン酸 0.02
エグミ成分粉末 0.05
香料 0.2
色素 0.1
水 83.43
全量 100.00
【0092】
炭酸飲料:
(組成) (重量部)
グラニュー糖 8.0
濃縮レモン果汁 1.0
L−アスコルビン酸 0.10
クエン酸 0.09
クエン酸ナトリウム 0.05
着色料 0.05
香料 0.15
炭酸水 90.55
エグミ成分粉末 0.01
全量 100.00
【0093】
乳酸菌飲料:
(組成) (重量部)
乳固形分21%発酵乳 14.76
果糖ブドウ糖液糖 13.31
ペクチン 0.5
クエン酸 0.08
香料 0.15
水 71.14
エグミ成分粉末 0.06
全量 100.00
【0094】
コーヒー飲料:
(組成) (重量部)
グラニュー糖 8.0
脱脂粉乳 5.0
カラメル 0.2
コーヒー抽出物 2.0
香料 0.1
ポリグリセリン脂肪酸エステル 0.05
食塩 0.05
水 84.56
エグミ成分粉末 0.04
全量 100.00
【0095】
果汁含有アルコール飲料:
(組成) (重量部)
50容量%エタノール 32.0
砂糖 8.4
果汁 2.4
エグミ成分粉末 0.2
精製水 57.0
全量 100.0
【0096】
茶飲料:
(組成) (重量部)
緑茶抽出物 2.0
水 97.4
エグミ成分粉末 0.05
ビタミンC 0.01
全量 100.0
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、発芽穀物(麦芽等)を原料とする酒類・食品類の製造業において特に有用であり、このような産業のさらなる発展に寄与し得るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造式(I):
【化1】

(-CH=CH-に関してはcisまたはtrans)で示される化合物。
【請求項2】
以下の構造式(II):
【化2】

(-CH=CH-に関してはcisまたはtrans)で示される化合物。
【請求項3】
以下の構造式(III):
【化3】

(-CH=CH-に関してはcisまたはtrans、Meはメチル基)で示される化合物。
【請求項4】
前記化合物が口腔内刺激物質である請求項1〜3の何れか1項に記載の化合物。
【請求項5】
前記口腔内刺激物質が発芽穀物由来である請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
請求項4に記載の化合物を含有する口腔内刺激付与剤。
【請求項7】
請求項5に記載の化合物を含有する口腔内刺激付与剤。
【請求項8】
請求項4に記載の化合物を含有するエグミ付与剤。
【請求項9】
請求項5に記載の化合物を含有するエグミ付与剤。
【請求項10】
請求項1〜3の何れか1項に記載の化合物のいずれか一つの化合物の含量、又は前記化合物の混合物の含量を指標とする、飲食品又はその原料のエグミの程度の評価方法。
【請求項11】
請求項1〜3の何れか1項に記載の化合物のうち少なくとも一つを添加した飲食品。
【請求項12】
請求項6また7に記載の口腔内刺激付与剤、請求項8または9に記載のエグミ付与剤のうち少なくとも一つを飲食品に添加して、口腔内刺激を付与した飲食品を製造する方法。
【請求項13】
前記飲食品がアルコール飲料又は非アルコール飲料である請求項12に記載の口腔内刺激を付与した飲食品を製造する方法。
【請求項14】
前記アルコール飲料が麦芽発酵飲料である請求項13に記載の口腔内刺激を付与した飲食品を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−87120(P2012−87120A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216551(P2011−216551)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【分割の表示】特願2006−547941(P2006−547941)の分割
【原出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】