説明

口腔内崩壊性組成物

【課題】 口腔内において速やかに崩壊し、かつ製造工程及び流通過程において実用上十分な強度を有する口腔内崩壊性組成物を提供すること。
【解決手段】 マンニトール、崩壊剤、セルロース類、滑沢剤、並びにデンプン類及び乳糖の少なくとも1種を含有する口腔内で速やかに崩壊し、実用上十分な強度を有する口腔内崩壊性組成物。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、口腔内で速やかに崩壊し、かつ、製造工程、流通過程及び保存時に実用上十分な強度を有する口腔内崩壊性組成物、及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】医薬品分野等における経口用固形製剤の従来の剤形としては、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、チュアブル錠、顆粒剤、散剤などが知られているが、高齢者、小児や嚥下困難な患者に対しては、必ずしも服用のし易い剤形とは言えず、改善の検討が進められている。
【0003】例えば、凍結乾燥法を利用した口腔内溶解型製剤の他に、特開平5−271054号公報、WO93/15724号公報、特開平6−218028号公報、特開平8−19589号公報等に記載の口腔内崩壊性錠が知られている。しかしながら、凍結乾燥法を利用した口腔内溶解型製剤は急速な崩壊性を有するが、錠剤硬度の測定が不可能なほど脆いといった欠点がある。また、各公報に記載の口腔内崩壊性錠は、一種の湿製錠剤を製造しその後乾燥する方法であり、得られた製剤は適度の空隙率を有する多孔性の錠剤となり、軟らかくて崩壊性に優れているものの、湿潤粉体は流動性が悪く、充填、圧縮すると充填ばらつきが大きく、打錠機と粉体との付着を生じやすい。この問題を解決するための方法としては特殊な充填・成型機が必要となる。また、特表平6−502194号公報には、■被覆及び/または非被覆された薬物、■崩壊剤、■水と接触して高粘度を生じない膨張剤または可溶剤を圧縮成型した口腔内崩壊錠が記載されている。しかし本公報記載の方法では、味の良い可溶剤としてのマンニトールやキシリトールのような糖類を用いると圧縮成型時に打錠障害があり作業適性が悪いものや口腔内で崩壊するのに時間がかかるものがある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、口腔内で速やかに崩壊し、かつ製造工程及び流通過程において実用上十分な強度を有する口腔内崩壊性組成物を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記の問題点を解決すべく鋭意検討した結果、マンニトールをベースとし、崩壊剤、セルロース類、滑沢剤、並びにデンプン類及び乳糖の少なくとも一種を含有したものを圧縮成型することにより、口腔内で速やかに崩壊し、かつ、製造工程及び流通過程において実用上十分な強度を有する口腔内崩壊性組成物が得られることを見いだし、本発明を完成させた。
【0006】即ち、本発明は、マンニトール、崩壊剤、セルロース類、滑沢剤、並びにデンプン類及び乳糖の少なくとも1種を含有する口腔内で速やかに崩壊し、実用上十分な強度を有する口腔内崩壊性組成物である。
【0007】
【発明の実施の形態】本発明において、口腔内で速やかに崩壊するとは、水を用いないで服用した際に口腔内において60秒以内に組成物全量が細かく崩壊・分散することをいう。
【0008】本発明に用いられる崩壊剤としては、カルメロース、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを挙げることができ、好ましくはクロスポビドン、クロスカルメロースナトリウムである。これらの成分は1種又は2種以上を用いることができる。セルロース類としては、粉末セルロース、結晶セルロース等を挙げることができ、少なくとも1種を用いることができる。結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、プルラン等が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、シュガーエステル、タルク、硬化油、ポリエチレングリコール等を挙げることができ1種又は2種以上用いることができる。デンプン類としては、部分α化デンプン、トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、コメデンプン、コムギデンプン、デキストリンなどを挙げることができ1種又は2種以上用いることができる。
【0009】本発明においては、デンプン類、乳糖は圧縮成型時における障害を低減する効果があることからこれらの成分とマンニトールとの配合比は重要である。デンプン類を用いる場合には、マンニトールとデンプン類の質量比は10:1〜1:1の範囲が適当であるが、好ましくは4:1〜7:5である。乳糖を用いる場合には、マンニトールと乳糖の質量比は10:1〜1:10の範囲が適当であるが、好ましくは4:1〜1:1である。また、組成物全量に対する各成分の配合比に関しては、結合剤では組成物全量に対し0〜10質量%の範囲で用いることができる。滑沢剤では、通常、組成物全量に対して、微量〜2質量%の範囲が用いられるが、本発明においては、効果を損なわない範囲で圧縮成型障害を緩和するために、2質量%を越えて添加することも可能である。
【0010】本発明に適用される有効成分は、医薬品又は食品分野で用いられるものであればいずれであってもよい。例えば、胃粘膜修復剤、H2受容体拮抗薬、胃酸分泌抑制薬、解熱鎮痛剤、抗生剤、ビタミン剤、抗ヒスタミン剤、催眠鎮静剤・抗不安剤、高脂血症用剤、糖尿病用剤、利尿剤、不整脈用剤、アレルギー用剤、前立腺用剤等を挙げることができ、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0011】また、有効成分の性状は、粉末状、結晶状、油状、溶液状などいずれでもよく、また水溶性はもちろんのこと、難水溶性の有効成分(水に対する溶解度0.1mg/ml未満)にも適用できる。更に、微粉化した有効成分(平均粒子径20μm未満)への適用も可能である。
【0012】有効成分の配合量は、配合目的及びその物理化学的性質によるが組成物全量に対して、通常0.001〜70質量%、好ましくは0.1〜50質量%、更に好ましくは0.1〜20質量%程度である。
【0013】また、本発明の効果を損なわない範囲で、徐放性基剤、香料、甘味料、着色剤等を添加することができる。
【0014】本発明の口腔内崩壊性組成物は、錠剤剤等の固形剤を製造する通常の製造設備が使用可能で、乾燥状態で圧縮成型して製造する。例えば■全ての配合成分を混合し、圧縮成型する直打法、■全て若しくは一部の配合成分を乾式造粒して得た造粒物に、残りの成分を加えて混合後、圧縮成型する方法、■配合成分の一部を湿式造粒し乾燥して得た造粒物に、残りの成分を加えて混合後、圧縮成型する方法、■滑沢剤を除く配合成分を湿式造粒し乾燥して得た造粒物に、滑沢剤を加えて混合後、圧縮成型する方法等を挙げることができる。造粒法は、湿式造粒法が好ましく、具体的には流動層造粒機、転動攪拌造粒機等を用いることができる。また、造粒時に使用できる溶媒としては、水、アルコール、含水アルコール等を挙げることができ、そのまま、あるいはこれらに結合剤を含有させて用いることができる。
【0015】本発明で得られる口腔内崩壊性組成物の形状は、通常円形であるが、三角形等の異形でもよく、表面にフィルムコーティングや糖衣を施すこともできる。
【0016】また、本発明は、実用上十分な強度を有することを特徴としている。ここで云う実用上十分な強度とは、PTP包装に適用可能な強度であり、配送や携帯にも充分耐えうるものをいい、強度の目安としては、例えば錠剤の場合には硬度を指標として用いることができる。その硬度は、錠剤の大きさ、形状により異なるが、例えば直径約8.0mm以下の場合には、10N以上、直径12.0mmを越える場合は20N以上が好ましい。
【0017】
【発明の効果】口腔内において速やかに崩壊し、かつ製造工程及び流通過程において実用上十分な強度を有する口腔内崩壊性組成物、及びその製造方法を提供することが可能となった。
【0018】
【実施例】以下に実施例及び試験例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
【0019】実施例1マンニトール277g、乳糖81g、結晶セルロース200g、クロスポビドン50gを秤り、これにステアリン酸マグネシウムを組成物全量に対して1質量%になるように加え、ロータリー式打錠機(菊水製作所製)を用い、圧縮成型し、1錠質量280mg、直径9mmの錠剤を得た。
【0020】実施例2マンニトール277g、乳糖81g、トウモロコシデンプン59g、部分α化デンプン59g、結晶セルロース90g、クロスカルメロースナトリウム30gを混合して、バーチカルグラニュレーター(パウレック社製)で水を用いて造粒した後、流動層造粒機(大川原社製)で乾燥し、ステアリン酸マグネシウムを組成物全量に対して1質量%になるように加え、ロータリー式打錠機(菊水製作所製)を用い圧縮成型し、1錠質量280mg、直径9mmの錠剤を得た。
【0021】実施例3マンニトール385g、乳糖170g、結晶セルロース108g、クロスポビドン36gを混合して、流動層造粒機(大川原社製)で7%ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L)アルコール溶液を用いてHPC−Lが、仕込み全量に対して1質量%になるまで造粒した後乾燥し、ステアリン酸マグネシウムと硬化油の混合物(質量比1:2)を組成物全量に対して2質量%になるように加え、ロータリー式打錠機(菊水製作所製)を用い、圧縮成型し、1錠質量280mg、直径9mmの錠剤を得た。
【0022】実施例4マンニトール385g、乳糖170g、結晶セルロース108g、クロスポビドン36gを混合して、流動層造粒機(大川原社製)で7%HPC−Lの水/アルコール(質量比1:1)溶液を用いてHPC−Lが仕込み全量に対して3質量%になるまで造粒した後乾燥し、ステアリン酸マグネシウムを組成物全量に対して0.5質量%になるように加え、ロータリー式打錠機(菊水製作所製)を用い、圧縮成型し、1錠質量280mg、直径9mmの錠剤を得た。
【0023】実施例5微粉化したソファルコン(平均粒子径10μm)60g、マンニトール325g、乳糖170g、結晶セルロース108g、クロスポビドン36gを混合して、流動層造粒機(大川原社製)で7%HPC−Lのアルコール溶液を用いてHPC−Lが仕込み全量に対して、2質量%になるまで造粒した後乾燥し、ステアリン酸マグネシウムを組成物全量に対して2質量%になるように加え、ロータリー式打錠機(菊水製作所製)を用い、圧縮成型し、1錠質量280mg、直径9mmの錠剤を得た。
【0024】実施例6マンニトール277g、乳糖81g、トウモロコシデンプン59g、部分α化デンプン59g、結晶セルロース72g、クロスカルメロースナトリウム30gを混合して、転動流動造粒機(不二パウダル社製)で7%HPC−Lの水/アルコール(質量比1:1)溶液を用いてHPC−Lが仕込み全量に対して3質量%になるまで造粒した後乾燥し、ステアリン酸マグネシウムとステアリン酸カルシウムの混合物(質量比1:1)を組成物全量に対して1質量%になるように加え、ロータリー式打錠機(菊水製作所製)を用い、圧縮成型し、1錠質量280mg、直径9mmの錠剤を得た。
【0025】実施例7イブプロフェン40g、マンニトール247g、乳糖71g、トウモロコシデンプン59g、部分α化デンプン59g、結晶セルロース72g、クロスカルメロースナトリウム30gを混合して、転動流動造粒機(不二パウダル社製)で7%HPC−Lの水/アルコール(質量比1:1)溶液を用いてHPC−Lが仕込み全量に対して3質量%になるまで造粒した後乾燥し、ステアリン酸マグネシウムとステアリン酸カルシウムの混合物(質量比1:1)を組成物全量に対して0.75質量%、メントールを0.1質量%になるように加え、ロータリー式打錠機(菊水製作所製)を用い、圧縮成型し、1錠質量280mg、直径9mmの錠剤を得た。
【0026】実施例8微粉化したソファルコン(平均粒子径10μm)60g、マンニトール325gを混合して、流動層造粒機(大川原社製)で7%HPC−Lのアルコール溶液を用いてHPC−Lが仕込み全量に対して2質量%になるまで造粒したのち乾燥し、直打用乳糖170g、結晶セルロース108g、クロスポビドン36gを混合し、ステアリン酸マグネシウムを組成物全量に対して2質量%を加え、ロータリー式打錠機(菊水製作所)を用い、圧縮成型し、1錠質量280mg、直径9mmの錠剤を得た。
【0027】実施例9イブプロフェン40g、結晶セルロース72gを混合して、転動造粒機(不二パルダル社製)で7%7%HPC−Lの水/アルコール(質量比1:1)溶液を用いてHPC−Lが仕込み全量の3質量%になるまで造粒したのち乾燥し、直打用乳糖71g、トウモロコシデンプン59g、クロスポビドン59g、マンニトール270gを加え、ステアリン酸マグネシウムとステアリン酸カルシウムの混合物(質量比1:1)を組成物全量に対して0.75質量%、メントールを0.1質量%になるように加え、ロータリー式打錠機(菊水製作所製)を用い、圧縮成型し、1錠質量280mg、直径9mmの錠剤を得た。
【0028】比較例1微粉化したソファルコン(平均粒子径10μm)30g、マンニトール337g、乳糖81g、トウモロコシデンプン118g、カルメロース30gを混合して、流動層造粒機(大川原社製)で水/アルコール(質量比1:1)溶液を用いて造粒した後乾燥し、ステアリン酸マグネシウムを組成物全量に対して2質量%になるように加え、ロータリー式打錠機(菊水製作所製)を用い、圧縮成型し、1錠質量280mg、直径9mmの錠剤を得た。
【0029】比較例2砂糖277g、乳糖81g、結晶セルロース70g、カルメロースカルシウム30gを混合して、転動流動造粒機(不二パウダル社製)で水/アルコール(質量比1:1)溶液を用いて造粒した後乾燥し、ステアリン酸マグネシウムを組成物全量に対して1質量%になるように加え、ロータリー式打錠機(菊水製作所製)を用い、圧縮成型し、1錠質量280mg、直径9mmの錠剤を得た。
【0030】比較例3キシリトール355g、トウモロコシデンプン81g、結晶セルロース70g、クロスポビドン26g、軽質無水ケイ酸24gを混合して、流動層造粒機(大川原社製)で水/アルコール(質量比1:1)溶液を用いて造粒した後乾燥し、ステアリン酸カルシウムを組成物全量に対して1質量%になるように加え、ロータリー式打錠機(菊水製作所製)を用い、圧縮成型し、1錠質量280mg、直径9mmの錠剤を得た。
【0031】試験例実施例及び比較例で得られた口腔内崩壊性組成物について下記の試験を行った。
1.硬度試験錠剤硬度計(シュロイニゲル社製)を用いて測定した。測定は3〜5回行い、その平均値を算出した。
2.口腔内崩壊試験健康な成人男子の口腔内に組成物を水なし(水分を口に含まず)で含ませ、組成物が口腔内の唾液のみで完全に崩壊、分散するまでの時間を測定した。
【0032】試験結果結果を表1に示した。表1から実施例1〜9の組成物は、いずれも圧縮成型時の障害(杵、臼への付着や、きしみ)がなく良好に圧縮成型できた。また、口腔内崩壊試験での崩壊時間はいずれも、60秒以内であった。また、硬度は30N以上であった。一方、比較例においては、比較例1は、圧縮成型時に充分な機械的な強度が得られなかった。比較例2は、圧縮成型時の障害は認められなかったが、口腔内崩壊試験において60秒を越えても崩壊しなかった。比較例3は、圧縮成型できなかった。
【0033】
【表1】試験結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】マンニトール、崩壊剤、セルロース類、滑沢剤、並びにデンプン類及び乳糖の少なくとも1種を含有する口腔内で速やかに崩壊し、実用上十分な強度を有する口腔内崩壊性組成物。
【請求項2】更に、結合剤を含有する請求項1記載の口腔内崩壊性組成物。
【請求項3】崩壊剤がクロスポビドン又はクロスカルメロースナトリウムである請求項1又は2記載の口腔内崩壊性組成物。
【請求項4】マンニトールとデンプン類の質量比が10:1〜1:1である請求項1〜3のいずれか記載の口腔内崩壊性組成物。
【請求項5】マンニトールと乳糖の質量比が10:1〜1:10である請求項1〜3のいずれか記載の口腔内崩壊性組成物。
【請求項6】有効成分を含有する請求項1〜5のいずれか記載の口腔内崩壊性組成物。
【請求項7】圧縮成型してなる請求項1〜6のいずれか記載の口腔内崩壊性組成物の製造方法。

【公開番号】特開2000−273039(P2000−273039A)
【公開日】平成12年10月3日(2000.10.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−10452(P2000−10452)
【出願日】平成12年1月19日(2000.1.19)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)