説明

口腔内崩壊性錠剤用インクジェットインク組成物

【課題】口腔内崩壊性錠剤に印刷しても、印刷した部分が他に移る色移りが生じず、口腔内崩壊性が損なわれず、また、印刷した口腔内崩壊性錠剤を高湿保存しても、印刷した部分がにじまず、耐光性評価を行っても、印刷した色が退色しにくい可食性インクジェットインク組成物を提供することである。
【解決手段】口腔内崩壊性を有する錠剤に直接印刷可能な可食性インクジェットインク組成物であって、食用色素、食品結着剤、水溶性溶剤、水からなり、食用色素が、合成色素のアルミニウムレーキであり、食品結着剤が、水溶性で食品に添加することが可能な多糖類、二糖類、および、単糖類から選ばれ、インク中に16〜40重量%含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬効成分を有する口腔内崩壊性錠剤にピエゾ式インクジェットプリンタにて印刷するための可食性を有するインクジェットインク組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタによる印刷は、印刷対象物に接触させずに印刷でき、少量多品種の可変印刷に優れている。薬やサプリメントを含む食品または飼料などの印刷対象物に対して、名称、略号、製造日、消費期限、メッセージ、絵柄などを印刷するために、インクジェットプリンタにて使用される可食性インクジェットインクが開発されている。
【0003】
その中でも薬効成分を有する錠剤(医薬品などの錠剤)への印刷は、薬効成分の異なる錠剤と取り違えると重大な問題を引き起こすことがあるため、強く求められている。さらに、口に入れると迅速に崩壊する口腔内崩壊性錠剤においては、接触印刷を行うと錠剤が崩れてしまうこともあり、非接触印刷が求められており、例えば、特表2000−512303号公報や国際公開WO09/025371号パンフレットのように開発されている。
【0004】
このような口腔内崩壊性錠剤への非接触印刷を行うと、その特徴である口腔内崩壊性を損なうことがある。また、口腔内崩壊性という特徴から、印刷した部分が他に移ったりしやすいことがある。
【0005】
我々は、印刷した部分が他に移る色移りが生じず、口腔内崩壊性が損なわれることのない、ピエゾ式インクジェットプリンタにて印刷する可食性インクジェットインク(特願2010−106858号公報)を開発している。この特願2010−106858号公報の可食性インクジェットインクを用いて、口腔内崩壊性錠剤に印刷して高湿保存すると、文字がにじむという問題が生じた。
【0006】
にじむ問題は、すべてが水溶性の高いものであることに原因がある。口腔内崩壊性を有する錠剤自体が極めて水溶性が高く、高湿保存では容易に吸水してしまう。特願2010−106858号公報の可食性インクジェットインクは、水溶性の合成色素である食用色素が食品結着剤とともに溶解しているインクである。これを用いて印刷すると、水と溶剤がほとんど蒸発して、食品結着剤中に合成色素が存在したまま、食品結着剤が錠剤基材に結着する状態になる。これが、高湿保存での吸水により、合成色素が水に溶解してきてにじむのであろう。
【0007】
そこで我々は、乳化分散した天然色素を用いた可食性インクジェットインク(特願2010−193302号公報)を開発している。これは、吸水性の良くない疎水性の天然色素を乳化分散することによって、にじみの問題を解決している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2000−512303号公報
【特許文献2】国際公開WO09/025371号パンフレット
【特許文献3】特願2010−106858号公報
【特許文献4】特願2010−193302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、この特願2010−193302号公報の可食性インクジェットインクを用いて、口腔内崩壊性錠剤に印刷して耐光性評価を行うと、退色してしまうという問題が生じた。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、口腔内崩壊性錠剤に印刷しても、印刷した部分が他に移る色移りが生じず、口腔内崩壊性が損なわれず、また、印刷した口腔内崩壊性錠剤を高湿保存しても、印刷した部分がにじまず、耐光性評価を行っても、印刷した色が退色しにくい可食性インクジェットインク組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、合成色素のアルミニウムレーキからなる食用色素を用いたインクを検討したところ、にじまず、退色しにくいものになっていることを見出したものである。
【0012】
本発明の可食性インクジェットインク組成物は、口腔内崩壊性を有する錠剤に直接印刷可能な可食性インクジェットインク組成物であって、食用色素、食品結着剤、水溶性溶剤、水からなり、食用色素が、合成色素のアルミニウムレーキであり、食品結着剤が、水溶性で食品に添加することが可能な多糖類、二糖類、および、単糖類から選ばれ、インク中に16〜40重量%含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、口腔内崩壊性錠剤に印刷しても、印刷した部分が他に移る色移りが生じず、口腔内崩壊性が損なわれず、また、印刷した口腔内崩壊性錠剤を高湿保存しても、印刷した部分がにじまず、耐光性評価しても、印刷した色が退色しにくい可食性インクジェットインク組成物を提供することができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
口腔内崩壊性錠剤は、その錠剤基材が圧縮され固められ結着して、多孔質形状になっていることにより、口腔内崩壊性を有している。口腔内崩壊性は、口に含み、唾液によってすぐに崩壊して、飲食できる性質である。舌の上において唾液のみによって2分以内に崩壊してしまうもの、または、日本薬局方の崩壊試験法において2分以内の崩壊時間のものである。
【0015】
インクジェットプリンタの印刷方式には、ピエゾ式やサーマル式や荷電制御式などがある。本発明では、印刷方式によってインクが影響を受けにくいピエゾ式インクジェットプリンタに適したものである。インクの粘度と表面張力などを調整して、ピエゾ式に適したものを作製することができる。サーマル式は、熱をかけるので、本発明のようなインクは変性してしまうことがある。荷電制御式は、荷電制御物質(または導電物質)などをインクに含有させて電場をかけるので、これによってもインクが変性してしまう可能性がある。また、プリンタ装置による想定外の電場の影響を受けないためにも、本発明では荷電制御物質(または導電物質)などをインクに含んでいない。
【0016】
インクジェット印刷では、印刷する媒体にインク適性を持たせるために受容層をコートする場合が多い。口腔内崩壊性を有する錠剤に受容層をコートすると、口腔内崩壊性を損なうことになるので、本発明は、受容層をコートすることなく、口腔内崩壊性を有する錠剤に直接印刷可能な可食性インクジェットインク組成物である。
【0017】
インクは、食用色素、食品結着剤、水溶性溶剤、水からなるものであり、他の調整剤などを含んでもよい。食用色素は、合成色素のアルミニウムレーキであり、このアルミニウムレーキ分散液に食品結着剤、水溶性溶剤、水、および、調整剤などを混合して、本発明の可食性インクジェットインクを作製している。
【0018】
合成色素のアルミニウムレーキとしては、青色1号アルミニウムレーキ、青色2号アルミニウムレーキ、赤色2号アルミニウムレーキ、赤色3号アルミニウムレーキ、赤色40号アルミニウムレーキ、黄色4号アルミニウムレーキ、黄色5号アルミニウムレーキなどが挙げられる。
【0019】
これら合成色素のアルミニウムレーキがインク中に分散されている状態にするために、まず色素を水分散させることで、色素分散液を作製する工程と、その後にこの色素分散液とその他を混合する工程を経るものである。
【0020】
色素分散液を作製する工程は、分散機などにて色素を水に分散させて作製する。色素の割合としては、5〜30質量%の範囲が好ましい。分散性を高めるために分散剤を添加してもよい。色素の平均粒子径としては、300nm以下であることが好ましい。この色素分散液とその他成分を混合する工程は、攪拌機を使用して充分に攪拌して混合する。その後、1μmのメンブランフィルターを用いてろ過処理することにより、可食性インクジェットインク組成物とするものである。このように、本発明の可食性インクジェットインク組成物は、水による顔料分散とその他成分の混合という製造工程を経るものである。
【0021】
食品結着剤は、水溶性で、食品に添加することが可能な多糖類、二糖類、および、単糖類から選ばれるものである。インクにするためには水溶性である必要があり、可食インクであるので、食品あるいは食品添加物である必要がある。それらを満たす多糖類、二糖類、および、単糖類から選ばれるものである。
【0022】
多糖類は、デンプン、セルロース、デキストリン、ペクチン、カラギーナンなどが挙げられ、二糖類は、マルトース、スクロース、トレハロースなどが挙げられ、単糖類は、マンニトール、グルコース、フルクトース、ガラクトースなどが挙げられる。これらから選ばれるもの、または、これらのうちどれか1種だけからなるものである。好ましくは、デキストリン、マルトース、マンニトールの3種から選ばれるもの、または、これら3種のうちどれか1種だけからなるものである。
【0023】
この食品結着剤には、水溶性でない、食品に添加することが可能な物質、例えば、アルコール系溶剤に可溶なシェラック(セラック)は含まず、多糖類、二糖類、および、単糖類ではない天然樹脂や合成樹脂も含まない。
【0024】
食品結着剤はインク中に固形分比で16〜40重量%含むものである。好ましくは、20〜30重量%含むものである。この配合量より少ないと、口腔内崩壊性を有する食品に対して結着剤としての効果を充分に発揮せず、印刷した部分が他へ移る色移りが生じることがある。この配合量より多いと、インクの粘度が増加してしまい、ピエゾ式インクジェットプリンタからうまく吐出することができない。プリンタのピエゾ式ヘッドの種類によっては、この配合量より多くても、うまく吐出することができるものがあるかもしれないが、錠剤の口腔内崩壊性を損なうことになる。
【0025】
水溶性溶剤は、エタノール、プロピレングリコール、グリセリンなどの食品に添加することが可能な水溶性溶剤を使用することができる。水溶性溶剤はインク中に1.0〜70重量%が好ましい。
【0026】
調整剤としては、界面活性効果、消泡効果、退色防止効果、防腐効果などを有する食品に添加することが可能な物質を使用することができる。
【0027】
界面活性効果を有する物質として、脂肪酸エステルを添加するのが好ましい。脂肪酸エステルは、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルなどから選ぶことができる。脂肪酸エステルは、インク中に固形分比で0.1〜5.0重量%が好ましい。実施例と比較例においては、調整剤としてグリセリン脂肪酸エステルを使用している。インク中に固形分比で0.1重量%含んだものである。
【0028】
水として精製水を用いている。水、水溶性溶剤、界面活性効果を有する物質などの量によって、粘度と表面張力などを調整して、ピエゾ式に適したインクにしている。
【実施例】
【0029】
青色1号アルミニウムレーキを分散させた青色1号アルミニウムレーキ分散液、赤色3号アルミニウムレーキを分散させた赤色3号アルミニウムレーキ分散液、黄色4号アルミニウムレーキを分散させた黄色4号アルミニウムレーキ分散液を、シアン、マゼンタ、イエロー用にそれぞれ使用した。これら分散液のアルミニウムレーキの固形分比は、20重量%である。
【0030】
これらのアルミニウムレーキ分散液を用いて、表1〜9に記載した重量%で混合して、実施例と比較例のインクジェットインク組成物を作製した。表において、食品結着剤であるデキストリン、マルトース、マンニトールと調整剤の数値は固形分比である。実際の作製には水溶液のものを使用しており、その水分比を表の水の数値に加算している。また、水溶性溶剤にはプロピレングリコールを用いた。
【0031】
実施例と比較例の色は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックである。シアンは、実施例1から4、実施例17から20、実施例33から36、比較例1と2、比較例9と10、比較例17と18である。マゼンタは、実施例5から8、実施例21から24、実施例37から40、比較例3と4、比較例11と12、比較例19と20である。イエローは、実施例9から12、実施例25から28、実施例41から44、比較例5と6、比較例13と14、比較例21と22である。ブラックは、実施例13から16、実施例29から32、実施例45から48、比較例7と8、比較例15と16、比較例23と24である。
【0032】
これらの実施例と比較例を用いて、次のような印刷評価、連続印刷評価、色移り評価、口腔内崩壊性評価、高湿保存評価(にじみ評価)、耐光性評価を行った。評価が×となったものは、それ以降の評価は行っておらず、表では−とした。なお、評価において使用した口腔内崩壊性を有する錠剤は、市販されているライオン株式会社製眠気止め薬「トメルミン」である。これ以降、口腔内崩壊性錠剤と表す。この錠剤は、舌の上において唾液のみによって2分以内に崩壊してしまうものであり、実際には1分で崩壊する。
【0033】
<印刷>
実施例と比較例の各色のインクを用いて、ピエゾ式インクジェットプリンタにて口腔内崩壊性錠剤に「くすり」という文字画像を印刷した。評価として、吐出がうまくでき、良好な印刷が得られたものは○として、飛行曲がりやドット欠けが発生して良好な印刷が得られなかったものは×とした。
【0034】
<連続印刷>
上記評価で良好となったインクで、ピエゾ式インクジェットプリンタにてA4普通紙に、A5ベタ画像を100枚印刷した後、口腔内崩壊性錠剤に「くすり」という文字画像を印刷した。評価として、吐出がうまくでき、良好な印刷が得られたものは○として、飛行曲がりやドット欠けが発生して良好な印刷が得られなかったものは×とした。なお、普通紙への印刷画像は評価していない。インクを吐出させるのが目的である。
【0035】
<色移り>
上記までの評価で良好となったもので、それぞれのインクを用いて、ピエゾ式インクジェットプリンタにて口腔内崩壊性錠剤に1辺4mmの正方形ベタ画像を単色で印刷した。その印刷面に未印刷の口腔内崩壊性錠剤を重ね合わせて、未印刷の口腔内崩壊性錠剤の上から0.14MPaの圧力を30秒間加えた。評価として、印刷面と合わせた未印刷の口腔内崩壊性錠剤面に、インクの色移りが、全くなく非常に良好であるものは◎、わずかな色移りかもしれないと思われる程度であるが良好なものは○として、色移りがあるものは×とした。
【0036】
<口腔内崩壊性>
上記までの評価で良好となったもので、口に含んで口腔内崩壊性を確認した。評価として、印刷のないものとあるものとを比較して、食感の違いが全くなければ◎、わずかな違いが感じられるが同じように口腔内崩壊するものは○として、口腔内崩壊せず異物が残るような食感の違いがあれば×とした。
【0037】
<高湿保存(にじみ)>
上記までの評価で良好となったもので、それぞれのインクを用いて、ピエゾ式インクジェットプリンタにて口腔内崩壊性錠剤に1辺4mmの正方形ベタ画像を単色で印刷した。それらを、40℃75%の高湿環境で、1ヶ月間保存した。評価として、にじみが全く見られなければ◎、にじんでいる感じもするが明確ににじみとは見えなければ○、にじみがあれば×とした。
【0038】
<耐光性>
上記までの評価で良好となったもので、それぞれのインクを用いて、ピエゾ式インクジェットプリンタにて口腔内崩壊性錠剤に1辺4mmの正方形ベタ画像を単色で印刷した。それらを、スガ試験機株式会社製紫外線フェードメーターを用いて2時間照射した。評価として、照射前とほとんど差がなければ◎、明らかに色が薄くなっているなどの退色があれば×とした。
【0039】
これら評価も、表に記載している。これらより、口腔内崩壊性錠剤に印刷しても、印刷した部分が他に移る色移りが生じず、口腔内崩壊性が損なわれず、また、印刷した口腔内崩壊性錠剤を高湿保存しても、印刷した部分がにじまず、耐光性評価を行っても、印刷した色が退色しにくい可食性インクジェットインク組成物を提供することができるようになった。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
【表4】

【0044】
【表5】

【0045】
【表6】

【0046】
【表7】

【0047】
【表8】

【0048】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内崩壊性を有する錠剤に直接印刷可能な可食性インクジェットインク組成物であって、食用色素、食品結着剤、水溶性溶剤、水からなり、食用色素が、合成色素のアルミニウムレーキであり、食品結着剤が、水溶性で食品に添加することが可能な多糖類、二糖類、および、単糖類から選ばれ、インク中に16〜40重量%含むことを特徴とする口腔内崩壊性錠剤用インクジェットインク組成物。

【公開番号】特開2012−111824(P2012−111824A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261089(P2010−261089)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000115119)ユニオンケミカー株式会社 (67)
【Fターム(参考)】