説明

口腔内崩壊錠およびその製造法

【課題】口腔内崩壊速度と錠剤硬度が最適にバランスされた口腔内崩壊錠を提供する。
【解決手段】薬物またはコーティングされた薬物含有微粒子と錠剤用補助成分との混合物を45℃以上63℃未満の温度で加熱処理したデンプン水懸濁液を用いて湿式造粒し、得られた造粒物に少なくとも滑沢剤を混合して圧縮成形してなる口腔内崩壊錠。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水なしで服用した時口腔内で崩壊する錠剤、特に口腔内崩壊速度と錠剤硬度とが適度にバランスした口腔内崩壊錠に関する。本発明はまた、そのような口腔内崩壊錠の製造方法にも関する。
【0002】
本発明の口腔内崩壊錠は、適用できる薬物が特定の薬物に制限されず、また錠剤中の薬物または薬物含有微粒子の含有量が30重量%である口腔内崩壊錠を提供することもできる。
【背景技術】
【0003】
近年、患者が医療の中心に位置づけられるべき、という考え方が強調されつつあり、快適な医療環境を患者に提供するためには、患者の行動やライフスタイルにあった、服用しやすい製剤設計をすることが重要である。
【0004】
口腔内速崩壊性錠剤は、口腔内での速崩壊性、滑らかな口あたり、味など、目的に応じていろいろな工夫がなされている。この錠剤は、口腔内で速やかに溶解し、水なしでも容易に服薬できるため、高齢者や小児等、嚥下機能に問題のある患者に適した剤形としてますます注目を集めている。
【0005】
錠剤やカプセル剤においては、服用する錠数によっては服用時に過度の水を必要とするなど服用性に問題があったり、大きい製剤や服用数量が多い場合には、飲み込みにくく、咽頭や食道につかえる等の問題があった。特に、老人、小児や嚥下困難な患者では、この問題は大きく、時には喉に詰まったり、食道に付着して薬物の影響などにより炎症を起こしたりする場合もある。また、細粒や散剤ではオブラートを使用する際の口腔内粘膜に対する付着、シロップ剤では味や服用する毎の計量の煩わしさなどの問題がある。
【0006】
近年では、嚥下困難な重症患者に対して、錠剤や顆粒剤を粉砕して、あるいは散剤をそのまま用い、水に懸濁させて、注射器で経口又は経鼻でカテーテルを挿入して、薬物を投入する経管投与法が実施されているが、操作が繁雑で、時にはカテーテルの内径が細いため詰まり易いという問題がある。
【0007】
これらを背景として、老人や小児もしくは嚥下困難な患者などにも適する剤形として、口中に含んだとき、あるいは水の中に入れたとき、速やかに崩壊もしくは溶解する口腔内崩壊錠剤の製剤化研究が精力的に行われている。
【0008】
口腔内崩壊錠の製造に関わる技術推移は大きく次の3つに分類される。一つ目は、薬物等の懸濁液をPTPなどの鋳型に精密充填して、凍結乾燥、通風乾燥等により乾燥固化する鋳型錠製剤で、例えば、R.P.Scherer社(英国)の凍結乾燥を利用した「Zysis」が商品化されているが、凍結乾燥法によって製造される製剤は、急速な崩壊性を有する反面、強度が弱く、硬度の測定が不可能な程もろいという欠点がある。また、凍結乾燥の製造設備が必要で、製造に長時間を要することから、工業的生産性にも劣っている。国際公開番号W093/12769号公報には、医薬物質と乳糖及びマンニトールを寒天水溶液に懸濁させ、PTPポケット等に充填してゼリー状に固化させ、減圧乾燥して得られる口腔内崩壊製剤が記載されているが、この成型物は、錠剤強度が弱く、ボトル包装などPTP包装以外の包装形態には適用困難である。また、製造に長時間を要することから工業的生産性が劣っている。
【0009】
二つ目は、薬物、糖類などの混合物を、アルコール・水溶液等で湿潤させ低圧で成形させた後乾燥する湿性錠製剤で、例えば、特開平5−271054には、薬効成分と糖類とを含む混合物に、前記糖類の粒子表面が湿る程度の水分を含有させて打錠し、乾燥させる口腔内溶解型錠剤の製造法が公開されており、特許第2919771号には、薬剤、水溶性結合剤及び糖アルコールなどの水溶性賦形剤を含む乾燥状態の錠剤材料を低圧力で打錠後、加湿し、乾燥させる方法が記載されているが、これらの方法では、打錠後に加湿および乾燥を行う必要があり、設備や製造時の工程など問題があり、また水に不安定な薬物への適応が困難という問題もある。また、国際公開番号WO01/064190号公報には、薬剤、糖類を混合後、ポリビニルアルコールを溶解した水又は含水有機溶媒で練合後鋳型に充填しフイルムを介して圧縮して錠剤の形に成形し、これを乾燥して製する速崩壊性錠剤が公開されているが、これには特殊な錠剤機が必要という問題がある。
【0010】
三つ目は、一般的な錠剤の製造法を基本として、速やかな崩壊を達成させるために様々な工夫がなされたもので、例えば、国際公開番号WO97/47287に、平均粒子径30μm以下の糖又は糖アルコールと医薬有効成分および崩壊剤を組み合わせ湿式造粒・乾燥したものを用いて、口腔内で速やかに崩壊する錠剤を製する製造方法が記載されている。これによれば、例えば、糖又は糖アルコールを微粉砕した後、崩壊剤等を加えて成型した圧縮成型物は、それなりの硬度を有し、速やかな崩壊性が得られるとされているが、糖又は糖アルコールを微粉砕することは手間を要し、また、マンニトール微粉砕物は、圧縮成型時に臼壁面との間に生じる摩擦を増大させる、錠剤製造時の流動性の低下をきたすなど、ハンドリング性の低下の問題がある。また、特開2007−197438及び特表2005−533045に示されているような直接打錠による口腔内崩壊錠についても、近年、その製法に関する研究に力が注がれているように思える。
【0011】
また、一般的な錠剤の製造法として、賦形剤をデンプンとして口腔内崩壊錠を製造する方法が検討されている。例えば、特開2000−273039には、マンニトール、崩壊剤、セルロース類、滑沢剤、並びにデンプン類及び乳糖の少なくとも1種を含有する60秒以内で崩壊する口腔内崩壊錠が示されているが、製法の範囲が広く漠然としている、口腔内崩壊時間が60秒以内でやや長いなどの欠点を有している。国際公開第00/47233には、でんぷん、水溶性賦形剤及び薬効成分を含有し、デンプン及び水溶性固形剤の合計量の製剤中含量が50%以上であり、デンプンの配合量がデンプン及び水溶性賦形剤の合計量の5〜50%であることを特徴とする錠剤の製造法が記載されているが、錠剤硬度が3〜5kg程度で低い、薬効成分含量が50%を超えるものには適用できないなどの欠点を有している。国際公開番号WO2008/032767には、α化度が30〜60%である加工したデンプン類が錠剤中に分散して存在しており、更に薬物及び糖類を含む口腔内崩壊錠、並びにその製造方法が示されているが、明細書中に明示されているとおり、加工したデンプンの配合量は、錠剤の総重量に対し、好ましくは10〜40%、糖類の配合量は錠剤の総重量に対し、好ましくは50〜90%とされており、薬効成分含量が50%を超えるものには適用し難いなどの欠点を有している。
【0012】
上述したとおり、口腔内あるいは水の中に入れたとき、速やかな崩壊性、溶解性を有するとともに、製造工程、流通過程において崩れないような強い強度を有する錠剤を開発するには多くの工夫が必要で、通常の製造方法で、容易にはそのような錠剤を製することができない。
【0013】
高齢化社会が到来し、今後、あらゆる領域のいろいろな薬剤において、服用しやすく、取り扱いやすい口腔内崩壊錠が望まれる時代に突入したと思われ、製法上の問題があるなかであっても、多くの口腔内崩壊錠の研究成果が報告されており、活性成分含量の低い薬剤の口腔内崩壊錠の製造方法に関する製剤化法は数多く公開されているものの、活性成分含量の高い薬剤の口腔内崩壊錠製剤化法については、未だ模索中というところだと考えられる。
【0014】
口腔内崩壊錠に配合される薬剤成分中の活性成分含量について特許明細書などに開示されている好ましい配合量を例示すると、WO2000/47233では、好ましくは30%以下、更に好ましくは10%以下、特開2000−273039では、好ましくは0.1〜50質量%、更に好ましくは0.1〜20質量%、特開2001−58944では、好ましくは0.01〜20重量部、特開2007−197438では、好ましくは約0.5〜約20重量%、特許第3182404号では、好ましくは約0.1〜約10重量%、特開2002−179558では、好ましくは0.01〜20重量部、WO2002/069934では、好ましくは0.05〜30重量%程度、WO01/64190では、好ましくは15重量部以下(賦形剤が85重量部以上から類推)、特開2005−112861では、より好ましくは約0.01〜30重量%程度、特開2005−306770では、好ましくは0.1〜25質量%となっており、また、活性成分配合量について特記していない特許明細書においても、実施例において30重量%を超えて活性成分を配合した実施例はほとんど見当たらない。
【0015】
したがって、通常開示されて各種製法によって、目的とする崩壊時間で崩壊する口腔内崩壊錠を製することができる口腔内崩壊錠中の活性成分含量は、これまでの汎用されている製剤化法による場合、錠剤全重量部(100重量部)に対して高々30重量部程度までといえる。
【0016】
また、特開2010−13481、特許第3746167号、国際公開番号WO2004/066991などに示される機能性コーティングが施された薬物含有微粒子に関しても、それぞれに合致した特別な処方で口腔内崩壊錠に製造されており、これら薬物含有微粒子を30%以上で含有する口腔内崩壊錠を汎用性ある方法で製することはできない。
活性成分含量が高い事例として、特開2003−212769が開示されているが、活性成分をL−グルタミンに限定したものであり、かつ、特に結合剤を配合しない事例でもあり、汎用性があるとはいえない
【0017】
このように容易にそのような錠剤を製することはできない最大の要因は、錠剤に成形するための粒子状粉末を製造する際に、常法どおりに結合剤を配合した粒子を用いて錠剤を製造した場合、結合剤の有する粘性のため、錠剤の口腔内での崩壊が遅くなることによると考えられる。
【0018】
したがって、粒子を製造するための結合剤であって、水に入れたときの粘性の低いもので、錠剤に圧縮成型するための顆粒製造時の造粒性及び錠剤の硬度に寄与し、錠剤を口腔内に含んだ際容易に口腔内に分散する結合剤の開発が望まれるところであった。
【0019】
薬物に関して汎用性がある口腔内崩壊錠およびその製造法がWO2008/032767号公報に記載されている。ここでは、薬物、α化度が30〜60%である加工したデンプン類、及び糖類を混合し、打錠(直接打錠)して口腔内崩壊錠を製造している。前記混合物を湿式法によって造粒し、これを圧縮成形して口腔内崩壊錠を製造する場合には、デンプン糊、マルトース水溶液、水溶性高分子等の結合剤溶液を用いる。
【0020】
特開2004−315483号公報(特許文献2)に記載された方法では、薬物と糖または糖アルコールとの混合物をデンプン水懸濁液を用いて湿式造粒し、得られる造粒物を圧縮成形することにより、薬物に関して汎用性のある口腔内崩壊錠を製造している。
【0021】
【特許文献1】WO2008/032767公報
【特許文献2】特開2004−315483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
一般に口腔内崩壊錠には、速い口腔内崩壊速度、例えば30秒以内の口腔内崩壊速度と、製造工程(包装工程を含む)および流通過程(医療現場での取扱いを含む)において外力により崩壊しない硬度、例えば50N以上の硬度が求められる。また錠剤が大型化しないように錠剤中の有効薬物の高い含有量、例えば30重量%以上の含有量も求められる。
本発明の課題は、これらの要求を満たす口腔内崩壊錠と、その製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、薬物またはコーティングされた薬物含有微粒子と錠剤用補助成分との混合物を45℃以上63℃未満の温度で加熱処理したデンプン水懸濁液を用いて湿式造粒し、得られた造粒物に少なくとも滑沢剤を混合して圧縮成形してなる口腔内崩壊剤に関する。
【0024】
別の局面において、本発明は、薬物またはコーティングされた薬物含有微粒子を錠剤補助成分と混合し、45℃以上63℃未満の温度で加熱処理したデンプン水懸濁液を用いて前記混合物を湿式造粒し、得られた造粒物に少なくとも滑沢剤を混合して圧縮成形することを特徴とする口腔内崩壊錠の製造法に関する。
【0025】
本発明において湿式造粒に用いる加熱処理したデンプン水懸濁液は、デンプン(生デンプン)を水に10重量%程度の濃度に懸濁し、40℃以上63℃未満の範囲内の温度で攪拌しながら30分程度加熱し、室温に冷却することによって調製される。この加熱処理によって懸濁液中のデンプン粒子は部分的にα化される。加熱処理した懸濁液を記載した方法に従ってα化度を測定するとき、15〜30%である。処理温度を高くしてα化を進め過ぎるとデンプン糊に変化し、これを湿式造粒に用いると、錠剤の口腔内崩壊速度が許容できない程遅くなる。これまで口腔内崩壊錠に圧縮成形するための造粒物を湿式法によって製造するための結合液として、上記の加熱処理したデンプン水懸濁液を使用することは知られていなかった。
【0026】
口腔内崩壊錠は、慣用の錠剤補剤補助成分を含まなければならない。それらは糖類、糖アルコールなどの賦形剤、カルメロースカルシウム、クロスカルメロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L−HPC)、クロスポビドンなどの崩壊剤、甘味剤、香料、着色剤などを含む。これらの補助成分は製剤技術分野の当業者には良く知られており、詳しい説明は不必要であろう。
【0027】
薬物はそのまま賦形剤等の補助成分と混合して湿式造粒しても良いが、薬物の種類によっては直接湿式造粒に適さない場合がある。そのような場合、薬物単独または薬物と担体の混合物を適切な高分子材料でコーティングした薬物含有微粒子が用いられる。そのような高分子材料の例は、医薬品製剤の技術分野で良く知られた腸溶性高分子および胃溶性高分子を含む。また徐放性薬物含有微粒子を得るために、エチルセルロースなどの水不溶性高分子でコーティングすることもある。以後そのようなコーティングを「機能性コーティング」と称することがある。
【0028】
デンプンはその起源を問わないが、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コムギデンプンまたは米デンプンが入手し易い。
【0029】
造粒物の圧縮成形に用いられる滑沢剤も当業者には良く知られており、ステアリン酸マグネシウムおよびフマル酸ステアリルナトリウムが好ましい。
【0030】
錠剤を大型化させないため、薬物または薬物含有微粒の含有量は、目標とする口腔内崩壊速度および錠剤硬度が得られる限りできるだけ高いことが望ましく、30重量%以上であることが望ましい。
【0031】
また、口腔内崩壊速度と錠剤硬度とが最適にバランスするためには、口腔内崩壊速度が30秒以内、錠剤硬度は50N以上であることが望ましい。
【0032】
ここでいうα化度については、公衆衛生年報,Vol.2,18(1954)に準じ、以下の方法に従って測定した。
(1)試料について、5個(A,A’,B,B’,C)の100mlビーカーを用意する。
(2)A,A’,B,B’のビーカーに試料1.01±0.001gを精秤する。
(3)A,A’,B,B’,Cの各ビーカーに水50mlずつ加え、時々撹拌棒で撹拌して均一にする。
(4)A,A’のビーカーを煮沸したウオーターバス中で30分加熱後、冷却槽でA,A’,B,B’,Cを約25℃(室温)の等温にする。
(5)手早く、A,B,Cに5%ジアスターゼ溶液を5mlずつ加えて撹拌する。
(6)すべてのビーカーを37℃で2時間放置する。
(7)1N塩酸溶液2mlを各ビーカーに手早く加えた後、100mlに定容し、これをろ過し、ろ液をa,a’,b,b’,cとする。(ろ過しにくいときは遠心分離する)
(8)100mlの三角フラスコ(2個)にろ液10mlを入れる。
(9)0.1Nヨウ素液10ml、0.1N水酸化ナトリウム溶液18mlを加えて、密栓して暗所で20分間放置する。
(10)10%硫酸溶液2mlを加えて酸性とし、0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定する。(1%でんぷん溶液1mlを終点近くに加える)
(11)それぞれの対応する試料の滴定値をp,p’,q,q’,r(ml)とする。
(12)ブランクとして、水10mlを100mlの三角フラスコに入れ、以下同様に操作する。このときの値をS(ml)とする。
(13)以下の式によってα化度を求める。
α化度=((S-q)-(S-q’)-(S-r))/((S-p)-(S-p’)-(S-r))×100
【発明の効果】
【0033】
本発明により、特殊な製剤技術を必要とせず、一般的な設備を用い、口腔内あるいは水の中に入れたとき、速やかな崩壊性、溶解性を有するとともに、製造工程、流通過程において崩れないような強い強度を有する、薬物または機能性コーティングが施された薬物含有粒子の含有量が30重量%以上程度である幅広い活性成分含有量の口腔内崩壊錠を容易に製造することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明において称する口腔内速崩壊錠は、水を用いないで服用するとき、口腔内において60秒以内で錠剤組成物が細かく崩壊・分散するものをいう。
【0035】
本発明は、薬物または機能性コーティングが施された薬物粒子に、必要に応じて賦形剤、崩壊剤などの添加剤を混合した混合物に、デンプンを水に縣濁し、約45℃以上63℃未満に加温し、部分α化した溶液を添加して造粒し、乾燥することによって加工した粒子状物質を用い、錠剤に製造することを特徴とする口腔内速崩壊錠の製造方法であり、薬物または機能性コーティングが施された薬物含有粒子の含有量が30重量%以上程度である口腔内崩壊錠の製造法を開示するものである。
【0036】
本発明者らは、特殊な製剤技術を必要とせず、一般的な設備を用い、簡便かつ容易に調製できる薬物含量の高い口腔内崩壊錠の製造方法について検討を実施した。
【0037】
その結果、デンプンを約45℃以上63℃未満程度の温水中で加温し、デンプンのα化度を約15〜30%とした10w/w%程度以上の濃度の懸濁液を、被造粒物に対して添加して湿式造粒または噴霧造粒を行い、乾燥した粒子を用いて錠剤化することによって、速やかな崩壊性、溶解性を有するとともに、製造工程、流通過程において崩れないような強い強度を有する、医薬有効成分の含有量が高い口腔内崩壊錠を製造できることを見いだし、本発明を完成させた。
【0038】
口腔内崩壊錠を調製する場合、その溶解速度に寄与する因子として、原薬の特性、配合する糖類、糖アルコール類、崩壊剤、結合剤などの種類、製剤化法などを列挙することができるが、中でも、配合する崩壊剤と結合剤の選択と組み合わせが大きな要因になる場合が多い。粉末を湿式造粒する結合剤となり、崩壊剤としての作用を有し、かつ錠剤に成型するときの障害とならない結合力を有する単一成分を配合して口腔内崩壊錠を製することができれば理想であり、そのような作用を持つ成分の配合に関して検討した結果、デンプンを有効活用することによって、理想を具現化できることを見いだした。すなわち、デンプンを45℃以上63℃未満程度の温水中に懸濁して加温し、部分α化した懸濁液を用いることによって、デンプンの崩壊度を低下させず、デンプンの結合力を適度に増大させ、かつデンプンの成型性を向上させることを見出して本発明を完成させるに至った。用いるデンプン懸濁液中のデンプン濃度は、その結合力が必ずしも強力ではないため、約10重量%以上の濃度で用いるのが好ましいことがわかった。なお、63℃を超える温度ではデンプンの明らかな部分溶解が始まり、クリーム状の水溶液となるため、取り扱いが難しくなることもわかった。
【0039】
すなわち、本発明は、デンプンを水に分散させ、40℃以上63℃未満程度の温水中で加温し、部分α化した懸濁液を用いて、糖又は糖アルコールと医薬有効成分などを混合したものを普遍的な湿式造粒法で製した粒子を用いて錠剤に成型することによって、薬物または機能性コーティングが施された薬物含有粒子の含有量が30重量%以上程度である、製造工程、流通過程において崩れない強い強度を有し、口腔内で約30秒以内で崩壊する、口腔内崩壊錠を製造する方法に関するものである。
【0040】
また、この方法の更なる特徴は、デンプンが湿式造粒用の結合剤、加圧圧縮用の結合剤及び錠剤を崩壊させるための崩壊剤の3つの作用を発現させるため、有効成分あるいは有効成分を平均粒子径約300μm以下に製した機能性微粒子などを、その他の成分をほとんど配合することなく製剤化できることにより、高含量の口腔内崩壊錠に製することができることである。
【0041】
本発明に適用される医薬有効成分は、抗ヒスタミン薬、アレルギー用剤、胃粘膜修復剤、催眠鎮静剤、H2受容体拮抗薬、不整脈用剤など医薬品に用いられるものであれば何であってもよいが、本発明の特徴は、これらの有効成分を約30〜90重量%配合した口腔内崩壊錠を提供できることにある。
【0042】
本発明は、有効成分含量の高い製剤への応用が特徴であり、本発明による錠剤には必ずしも糖類又は糖アルコール類を配合する必要はないが、必要に応じてそれらを配合することは自由である。
【0043】
本発明の速崩壊錠は、速崩壊性および錠剤強度に支障がない範囲で、一般製剤に用いられる賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、界面活性剤、酸味剤、発泡剤、香料、溶解補助剤などを配合することができる。
【0044】
崩壊剤については、崩壊を促進させることを目的として一般的に用いられる崩壊剤を補助的に配合することは自由であるが、カルメロース、クロスポビドンなどである。
【0045】
本発明の製剤は、慣用の製剤製造技術で製造することができる。すなわち、医薬有効成分、糖又は糖アルコール類、崩壊剤などを混合し、デンプンを水に懸濁させ40℃以上63℃未満に加温し室温に冷却した溶液を用い、湿式造粒・乾燥・篩過したものに滑沢剤などを混合したものを、圧縮成型して製造することが可能である。
【0046】
上記製剤化法に関わる造粒操作は、撹拌造粒機、流動層造粒機、ニーダー、転動造粒機、真空造粒機などが使用可能であり、造粒機種を選ばないこともメリットである。
【0047】
本発明により、特殊な製剤技術を必要とせず、一般的な設備を用い、口腔内あるいは水の中に入れたとき、速やかな崩壊性、溶解性を有するとともに、製造工程、流通過程において崩れないような強い強度を有する、薬物または機能性コーティングが施された薬物含有粒子の含有量が30重量%以上程度である幅広い活性成分含有量の口腔内崩壊錠を容易に製造することが可能となった。
【実施例】
【0048】
以下に限定を意図しない実施例などによって、本発明を例証する。
【0049】
〔実験例1〕α化度測定に限定
水100gをビーカーに入れ、ウオーターバス中でデンプンを処理するための指定温度に加温する。その中にデンプンを約11g投入し水懸濁液として指定温度のまま一定時間撹拌する。次いで懸濁液を25℃に冷却したものを用いて、前述した方法によりα化度を測定した。供したデンプン、処理温度、撹拌時間及びα化度を表1に示した。なお、未処理のデンプンのα化度も同時に測定した。
【0050】
【表1】

【0051】
〔実験例2〕
コーンスターチ150gを流動造粒コーティング装置(FLOW−COATER:FL−MINI:フロイント産業株式会社)中で流動させ、これにコーンスターチ水懸濁液を噴霧、造粒、乾燥した後、18メッシュの篩いで篩過した(これを造粒物Aと呼称する)。造粒物A300gに対しステアリン酸マグネシウムを0.9g混合したものを用い、6.5mmφの平面杵で1錠重量100mgに圧縮成型を行った。噴霧造粒に供したコーンスターチ水懸濁液は、次に示すa)〜d)の4種であった。
a)25℃の水350gにコーンスターチ150gを懸濁させたコーンスターチ水懸濁液。
b)58℃の水350gにコーンスターチ150gを懸濁させ15分撹拌した後、室温に冷却したコーンスターチ水懸濁液。
c)60℃の水350gにコーンスターチ150gを懸濁させ15分撹拌した後、室温に冷却したコーンスターチ水懸濁液。
d)63℃の水350gにコーンスターチ150gを懸濁させ撹拌した後、室温に冷却したコーンスターチ水懸濁液。
【0052】
実験結果は表2に示すとおりで、コーンスターチ水懸濁液を50℃〜60℃に加温処理して湿式造粒した場合、造粒物の流動性が向上し、その造粒物を用いて加圧成型した錠剤は、錠剤強度が増し、崩壊時間は変化せず、有意に良好な結果であった。なお、63℃では、コーンスターチ水懸濁液がクリーム化し、スプレー不能であった。
【0053】
【表2】

【0054】
〔実験例3〕マンニット造粒(デンプン噴霧)
D−マンニトールを240g、コーンスターチを320gとり、MALTIPLEX:型式FD−MP−01D(株式会社パウレック)中で流動させ、これにコーンスターチ水懸濁液を噴霧、造粒、乾燥した後、18メッシュの篩いで篩過した(これを造粒物Bと呼称する)。造粒物B800gに対しステアリン酸マグネシウムを2.4g混合したものを用い、6.5mmφの平面杵で1錠重量100mgに圧縮成型を行った。噴霧造粒に供したコーンスターチ水懸濁液は、次に示すe)〜h)の4種であった。
e)25℃の水2160gにコーンスターチ240gを懸濁させたコーンスターチ水懸濁液。
f)50℃の水2160gにコーンスターチ240gを懸濁させ15分撹拌した後、室温に冷却したコーンスターチ水懸濁液。
g)58℃の水2160gにコーンスターチ240gを懸濁させ15分撹拌した後、室温に冷却したコーンスターチ水懸濁液。
h)60℃の水2160gにコーンスターチ240gを懸濁させ15分撹拌した後、室温に冷却したコーンスターチ水懸濁液。
【0055】
実験結果は表3に示すとおりで、コーンスターチ水懸濁液を50℃〜60℃に加温処理して湿式造粒した場合、造粒物の流動性が向上し、その造粒物を用いて加圧成型した錠剤は、錠剤強度が増し、崩壊時間に問題となるような遅延はなく、有意に良好な結果であった。
【0056】
【表3】

【0057】
〔実験例4〕
D−マンニトールを135g、コメデンプンを15gとり、FLOW−COATER:FL−MINI(フロイント産業株式会社)中で流動させ、これにコメデンプン水懸濁液を噴霧、造粒、乾燥した後、18メッシュの篩いで篩過した(これを造粒物Cと呼称する)。造粒物C165gに対しステアリン酸マグネシウムを0.5g混合したものを用い、6.5mmφの平面杵で1錠重量100mgに圧縮成型を行った。噴霧造粒に供したコーンスターチ水懸濁液は、次に示すi)〜k)の4種であった。
i)25℃の水135gにコメデンプン15gを懸濁させたコメデンプン水懸濁液。
j)50℃の水135gにコメデンプン15gを懸濁させ15分撹拌した後、室温に冷却したコメデンプン水懸濁液。
k)52℃の水135gにコメデンプン15gを懸濁させ15分撹拌した後、室温に冷却したコメデンプン水懸濁液。
【0058】
実験結果は表4に示すとおりで、コメデンプン水懸濁液を50℃〜52℃に加温処理して湿式造粒した場合、造粒物の流動性が向上し、連続加圧成型打錠に適したものが得られた。なお、その造粒物を用いて加圧成型した錠剤は、錠剤強度がわずかに増し、崩壊時間に問題となるような遅延はなかった。
【0059】
【表4】

【0060】
〔参考例1〕
結晶セルロース(粒)(商品名:セルフィアCP102、旭化成ケミカルズ製)500gを転動流動型コーティング造粒機(パウレック社製:MP-01)に仕込み、アンブロキソール塩酸塩531.8g、ヒドロキシプロピルセルロース(商品名:HPC-L、日本曹達社製)59.1g及びポビドン(商品名:コリドン30、BASF社製)59.1gを80%メタノール溶液5259.1gに溶解させた溶液を用いてコーティングし、レイヤリング顆粒を得た。次いで、エチルセルロース水分散液(商品名:Aquacoat ECD、FMC)を433.3g、D-マンニトール(商品名:ペアリトール50C、ロケットジャパン)を40.0g、クエン酸トリエチル(商品名:シトロフレックス2、森村商事)を30.0gとり、精製水496.7gを加え撹拌分散した溶液を用い、レイヤリング顆粒500gに転動流動型コーティング造粒機を用いてコーティングし、徐放性微粒子を得た。
【0061】
〔参考例2〕
塩酸ピオグリタゾンを結晶セルロース(セルフィアCP102)の核にヒドロキシプロピルセルロースを結合剤としてレイヤリングし、塩酸ピオグリタゾン含有微粒子の核を調製した。得られた微粒子核にオイドラギットE100のエタノール含有水溶液を、転動流動層造粒乾燥機(フロイント社:SFC−MINI)を用いてスプレーコーティングし、次いでエチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC−5R)を7:3の割合で含水エタノールに溶解した溶液を、MP−01によってスプレーコーティングし、塩酸ピオグリタゾン含有微粒子(薬物含有量:約20%、平均粒子径:約220μm)を製した。
【0062】
〔実施例1〕
1錠の処方を表5に示した。58℃に加温した144gの水にコーンスターチを16g投入し、58℃で30分保持させた後、30℃以下の室温まで冷却してコーンスターチ懸濁液を結合剤液として調製した。参考例1に記載の方法で製した微粒子を56g、D−マンニトール(商品名:ペアリトール50C:ロケットジャパン株式会社)を66g、結晶セルロース(商品名:セオラスKG−802:旭化成ケミカルズ株式会社)を16g、カルメロース(商品名:NS−300:五徳薬品株式会社)を3.2g、クロスポビドン(コリドンCL−SF:BASFジャパン株式会社)を2.4gとり、FLOWCOATER MINI(フロイント三号株式会社)で流動させ、コーンスターチ懸濁液を噴霧して造粒、乾燥した後、18メッシュで篩過したものにフマル酸ステアリルナトリウムを0.4g混合し、直径9mmの平面杵を用いて1錠重量400mgに圧縮成型した。錠剤の厚みは約4.02mm、錠剤の硬度は約53N、錠剤の口腔内崩壊時間は約25秒であった。
【0063】
【表5】

【0064】
〔実施例2〕
参考例1に記載の方法で製した微粒子の代わりに、参考例2に記載の方法で製した微粒子を用いた他は、すべて実施例1と同じ処方・製法によって、直径9mmの平面杵を用いて1錠重量40mgに圧縮成型した。錠剤の厚みは約4mm、錠剤の硬度は約55N、錠剤の口腔内崩壊時間は約25秒であった。
【0065】
〔比較例1〕
実施例1においてコーンスターチを16gとり水を144g用いて調製したコーンスターチ懸濁液の代わりに、2gのHPC−Lを38gの水に溶解した液を結合剤液として用いること、及びペアリトールの量を66gから80gへ変更した以外は、すべて実施例1と同じ処方・製法によって、直径9mmの平面杵を用いて1錠重量40mgに圧縮成型した。錠剤の厚みは約4mm、錠剤の硬度は約55N、錠剤の口腔内崩壊時間は約60秒であった。
【0066】
〔比較例2〕
実施例1においてコーンスターチを16gとり水を144g用いて調製したコーンスターチ懸濁液の代わりに、2gのTC−5Rを38gの水に溶解した液を結合剤液として用いること、及びペアリトールの量を66gから80gへ変更した以外は、すべて実施例1と同じ処方・製法によって、直径9mmの平面杵を用いて1錠重量40mgに圧縮成型した。錠剤の厚みは約4mm、錠剤の硬度は約55N、錠剤の口腔内崩壊時間は約70秒であった。
【0067】
〔実施例3〕
L−アスパラギン酸ナトリウムを0.6g、DL−アラニンを0.6g、ソーマチンを0.03gとり、34gの水に溶かした溶液に、6gのコーンスターチを懸濁させ、水浴中で撹拌しながら58℃に加温し15分保持した後、室温まで放冷したものに水溶性アズレンを溶解してコーンスターチ懸濁液を調製する。L−グルタミンを198g、アマルティーMR100を6g、カルメロース(NS−300)を3g、ポリビニルピロリドン(コリドンCLM)を3g、アスパルテームを0.39g、軽質無水ケイ酸(アドソリダー101)を0.6gとり、キッチンエイドKSM150型ミキサーで混合した粉末に、コーンスターチ懸濁液を添加し湿式練合した後、解砕して50℃にてオーブン中で乾燥し18メッシュで篩過したものにアドソリダー101を0.3gを混合し、ステアリン酸マグネシウムを外部滑沢剤として用い、直径12mmの円形平面杵を用いて重量を620mgとして加圧成型を行った。この錠剤は、1錠重量620mg中に、有効成分として、L−グルタミン及び水溶性アズレンをそれぞれを559.5mg及び1.7mg(合計561.2mg)含み、錠剤中の薬物含量は90.5%であるが、本錠剤の硬度は60N、口腔内崩壊時間は23秒であり、十分な強度を有し、かつ口腔内で迅速に崩壊する錠剤であった。
【0068】
〔実施例4〕
コーンスターチを10gとり35gの水に懸濁させ、水浴中で撹拌しながら58℃で15分保った後、室温まで放冷してコーンスターチ懸濁液を調製する。エカベトナトリウムを250g、D−マンニトール(ペアリトール100)を11.7g、NS−300を10g、コリドンCLMを5g、スクラロースを0.7gアドソリダー101を1gとり、キッチンエイドKSM150型ミキサーで混合した粉末に、コーンスターチ懸濁液を添加し湿式練合した後、解砕して50℃にてオーブン中で乾燥し18メッシュで篩過したものにNS−300を5gを混合し、沈降炭酸カルシウムを10g、アドソリダー101を1.6g混合し、ステアリン酸マグネシウムを外部滑沢剤として用い、直径12mmの円形平面杵を用いて重量を610mgとして加圧成型を行った。この錠剤は、1錠重量610mg中に、有効成分として、エカベトナトリウムを500mg含み、錠剤中の薬物含量は82%であるが、本錠剤の硬度は90N、口腔内崩壊時間は28秒であり、十分な強度を有し、かつ口腔内で迅速に崩壊する錠剤であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物またはコーティングされた薬物含有微粒子と錠剤用補助成分との混合物を45℃以上63℃未満の温度で加熱処理したデンプン水懸濁液を用いて湿式造粒し、得られた造粒物に少なくとも滑沢剤を混合して圧縮成形してなる口腔内崩壊錠。
【請求項2】
前記デンプン水懸濁液は、公衆衛生年報Vol.2,18(1954)に記載の方法に従って測定する時、α化度が15〜30%の部分α化デンプン懸濁液である請求項1に記載の口腔内崩壊錠。
【請求項3】
前記錠剤用補助成分は、少なくとも賦形剤および崩壊剤を含んでいる請求項1に記載の口腔内崩壊錠。
【請求項4】
錠剤中の薬物または薬物含有微粒子の含有量が30%以上である請求項1に記載の口腔内崩壊錠。
【請求項5】
薬物またはコーティングされた薬物含有微粒子を錠剤補助成分と混合し、45℃以上63℃未満の温度で加熱処理したデンプン水懸濁液を用いて前記混合物を湿式造粒し、得られた造粒物に少なくとも滑沢剤を混合して圧縮成形することを特徴とする口腔内崩壊錠の製造法。
【請求項6】
前記デンプン水懸濁液は、公衆衛生年報Vol.2,18(1954)に記載の方法に従って測定する時、α化度が15〜30%の部分α化デンプン懸濁液である請求項5に記載の口腔内崩壊錠の製造法。
【請求項7】
前記錠剤用補助成分は、少なくとも賦形剤および崩壊剤を含んでいる請求項5に記載の口腔内崩壊錠の製造法。
【請求項8】
錠剤中の薬物または薬物含有微粒子の含有量が30重量%以上である請求項5に記載の口腔内崩壊錠の製造法。

【公開番号】特開2012−51810(P2012−51810A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193203(P2010−193203)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(596166690)全星薬品工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】