説明

口腔内気体の測定方法およびこれに用いる挿入気体保持具

【課題】 簡便かつ安全に、口腔内気体を正確に測定できる口腔内気体の測定方法およびこれに用いる挿入気体保持具を提供する。
【解決手段】 挿入気体保持具1の先端導入部2aは柱状であるので、口腔内を傷つけることなく挿入気体保持具1を口腔内に挿入して、口腔内気体を表面積50cm2以上の吸着・脱着材料からなる吸着・脱着部2に吸着保持させた後搬送し、前記吸着・脱着部2を加熱して口腔内気体を脱着し、ガスクロマトグラフィで口腔内気体成分を測定できるので、簡便かつ安全に口腔内気体を精度よく測定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周病の診断および口腔内より生成する有臭気体の分析を行うために、口腔内気体を簡便に測定する、口腔内気体の測定方法およびこれに用いる挿入気体保持具に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病の主たる原因は、P.ジンジバリス菌、A.アクチノマイセテムコミタンス菌のほかに、数種類の病因性嫌気性菌による歯周ポケット深部の感染によって歯周組織が破壊されることによる。歯周組織や血液成分などのたんぱく質分解によって、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイド、硫化水素などの有臭硫黄化合物気体が生成される。これらの嫌気性菌は血流により全身に運ばれ、他の臓器へも感染しうるので、歯周病の早期治療が求められるが、自覚症状が出にくいため放置されることが多い。この場合、定期的に行われる健康診断時などで、血液の抗体検査や唾液の細菌検査によって歯周病菌感染の検査ができるが、検査費用が高額になるため一般には行われていない。
【0003】
従来から、呼気の化学成分分析によって、各種の疾病や身体の状況が検査、診断できること、例えば、呼気中のアンモニア、アセトンによって、各々、肝臓疾患、糖尿病が疑われることが知られている。この例として、呼気中の炭素数4から20のn−アルカン、メチルアルカンの含有量分布によって各種疾患の検査ができることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、同位元素でラベルした尿素等を飲用し、呼気中の同位元素を含む炭酸ガスを分析することにより、胃潰瘍の原因となるピロリ菌の感染検査を行えることが知られており、これら呼気分析のため種々の呼気採取用の容器も提案されている(例えば、特許文献2〜4参照)。また呼気中に含まれる化学成分のにおいを口臭として認識し、呼気採取容器を口臭検査の目的に使用することも知られている(例えば、特許文献5参照)。
【0005】
しかし、口臭には全身の状況により肺から呼気として排出される化学成分のほかに、上述のような口腔内常在菌が産生する有臭化学成分が関与する。このうち上記した硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイドなどの硫黄化合物気体では、最低知覚濃度はそれぞれ1ppm、0.003ppb、0.4ppmとされ、最も閾値の低いメチルメルカプタンの場合、口腔内ガス濃度が0.2から0.5ppmのとき実生活上で口臭を感じるとされる。このような低濃度のガスを簡便に直接測定することは困難であるので、細菌の酵素反応により着色物質を生成するアミノ酸誘導体を用いて硫黄ガス濃度を推定する方法(例えば、特許文献6参照)、一定の薬物で口をすすいだ後、細菌数に応じて産生されるガスを測定する方法(例えば、特許文献7参照)が提案されている。これらの方法はやや煩雑であり、直接的な測定ではないので、広く採用されるに到っていない。
【0006】
このため、従来から口腔内気体を採取する種々の口臭測定装置や歯周病診断装置が知られており(例えば、特許文献8、9参照)、口腔内気体を注射器(注射針なし)で吸引採取した後に注射器から直接センサつき装置内へ注入して測定する装置、センサを口腔内に挿入して測定する装置が市販されている。しかし、これらの装置は、装置自体を口腔内気体採取現場に持ち込んで判定を行うものであり、やはり健康診断時などで広く実用されるに到っていない。また、ガスクロマトグラフィを測定原理とする簡易型装置も市販されているが、歯科医院での測定には便利であるが、注射器で採取した口腔内気体を直接装置に注入する方式であり、健康診断時に使用するには多数の装置を現場に持ち込む必要があり、実用上の困難がある。口腔内ガス測定のため検査紙や検知管を利用する方法もあるが、測定感度、精度上の問題で、口腔内気体の直接測定では実用できる方法は見出されていない。
【0007】
ガスクロマトグラフィによって混合気体の化学成分、濃度を測定する方法は一般的に確立しており、ガスクロマトグラフィによる口腔内気体成分の測定は、硫黄ガス類を分離し、各成分を定量できる特徴をもっているので、ガスの種類と量の測定により、歯周病による組織破壊を原因とする口臭と舌苔に付着する微生物の発生する口臭とを区別し、歯周病診断を行うことが可能である。
【0008】
一方、溶液中の化学成分濃度の測定をこの溶液と平衡にある気体中の化学成分濃度の測定によって行う方法も知られている。従来、廃水中の微量有臭有機硫黄化合物の測定には、廃水を水と混合しない易揮発性有機溶媒と接触させ、硫黄化合物を有機溶剤に抽出後、有機溶剤を蒸発、硫黄化合物を濃縮する方法を用いて、ガスクロマトグラフィで測定するのが一般的であったが、近年ヘッドスペース固相抽出法が採用され始めている(例えば、特許文献10)。
【0009】
前記ヘッドスペース固相抽出法は、廃水を瓶に取った密閉空気部分(ヘッドスペース)の有臭有機硫黄化合物濃度は廃水中の各硫黄化合物濃度と一定の平衡にあること、固相抽出法で使用する直径0.1mm程度の一本のファイバーがヘッドスペースの各硫黄化合物濃度に比例した平衡吸着量の硫黄化合物を吸着できること、ファイバーを注射針の中に引き込みそのままガスクロマトグラフィ気化室に導入することにより、各硫黄化合物の測定値は廃水中の各硫黄化合物濃度と比例関係が成立することを測定原理としている。吸着材の化学的活性が高い場合、ガスクロマトグラフィ内で脱着する物質は一定の化学変化を受けている場合もあるが、ヘッドスペース内ガス濃度、または排水中有臭化合物濃度と脱着する物質濃度の間に一定の相関があり、検量線を引ける場合は、本法は有効に活用できる。ただし、本法の注射針に収納されている一本の特殊ファイバーは各種測定対象に繰り返し使用することを意図したもので高価であり、吸着(固相抽出)とガスクロマトグラフィ測定は同一場所で行うことを想定しており、多数の注射針、ファイバーのセットを用いたり、吸着後搬送したりすることには適していない。
【特許文献1】特表2002−534697号公報
【特許文献2】特開平8−304394号公報
【特許文献3】特開平9−105721号公報
【特許文献4】特開2002−257695号公報
【特許文献5】特開2001−108582号公報
【特許文献6】特開平4−299998号公報
【特許文献7】特開平8−224239号公報
【特許文献8】特開2002−286670号公報
【特許文献9】特開2002−253584号公報
【特許文献10】米国特許5691206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
口腔内気体の採取、測定に当たって、その微量、低濃度などの特殊性から前記した固相抽出法を活用することが考えられるが、従来では、口腔内気体を口腔内でガスクロマトグラフィにより測定可能なように直接吸着させて採取することは全く行われていなかった。もし従来の吸着タイプであるファイバーを引き込む注射針状のものを口腔内に入れて採取しようとすると、極細のファイバーが頬や舌に触れて折れる可能性があり、かつ挿入の際に注射針状のものが口腔内部に突き刺さって損傷を与える可能性もあり、歯科医などの専門家以外の一般人では使用することが困難である。
【0011】
歯周病や口腔内で発生する有臭ガスの存在は、上述のとおり健康や社会生活に影響が大きいにもかかわらず、本人は病状の進行に気づかず、羞恥心に関連するため歯科医を含め周囲の人の指摘も難しい。その一方、従来から口腔内気体による歯周病などの検査を簡便に低コストで行うことができないため、健康診断時の実施などのような検査の一般化が阻害されていた。したがって、簡便に口腔内気体を保持できれば、別途、口腔内気体の採取場所と離れた場所に設置されたガスクロマトグラフィなどのガス分離測定装置で口腔内気体を測定した客観的データにより早期診断につながる定量分析を行うことができるから、かかる口腔内気体を保持して別途測定できる口腔内気体の測定方法およびこれに用いる挿入気体保持具の実現が要望されていた。本発明者は、気体バリヤ性のバッグに口腔内気体を採取・搬送することを考えたが、表面積400cm程度のバッグに硫化水素5ppm、メチルメルカプタン5ppm、ジメチルサルファイド1ppmを含むモデル気体約150mlを採取、保存しようとした場合、採取直後から硫黄化合物はバッグ内面に吸着し、濃度は急速かつ大幅に低下する問題があることを認めた。
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、簡便かつ安全に、口腔内気体を正確に測定できる口腔内気体の測定方法およびこれに用いる挿入気体保持具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は口腔内気体中の有臭硫黄化合物のガスクロマトグラフィによる分離、測定、定量方法を種々検討した結果、測定対象が微量で低濃度であるため、口腔内気体を採取容器内に採取するのは、口腔内気体が容器に吸着する影響を受けること、口腔内が高湿度であるため容器に水分が凝集しその影響を受けやすいこと、ガスクロマトグラフィへの試料注入の際に用いる注射器への吸着の問題もあることなどの点から困難であるが、微量成分の分析を困難にするこの吸着現象を逆に積極的に利用することにより、微量成分の測定を確実に行う方法を案出した。
【0014】
この方法は、測定対象の口腔内気体の状況、特殊性を利用することにより、吸着材を用いて気体濃度の測定を行うものである。すなわち、口腔内に挿入する吸着用具はまず安全性を確保し、次に吸着性能を確保するため表面積の大きいものを用いる。また口腔内気体測定の場合においては、吸着材は口腔内気体と必ずしも吸着平衡状態になる必要はなく、吸着条件が温度は37℃と一定であり、湿度も100%と一定であり、吸着材を口腔内に保持する時間も例えば5分間と一定に定めることができる。このためと考えられるが、一般的使用では吸着平衡に達するまでの時間が長く実用できなかった一定の柱状吸着材を用いても、口腔内気体の濃度と比例した吸着量を安全、容易に確保でき、吸着材をガスクロマトグラフィの試料導入部に導入し、昇温により吸着物質を脱着させ、または、吸着材を一定の大きさの密閉容器に入れ、昇温により吸着物質を脱着させ、容器中の気体の一定部分をガスクロマトグラフィに導入し、各脱着物質の量を測定すれば簡単な検量線により口腔内気体の濃度を算出できることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
口腔内気体中の測定目標物質の吸着・脱着材料への吸着量、従ってまた脱着量は吸着・脱着材料の表面積が大きい程大きく、これが大きい程測定精度が上がる。一方、近年ガスクロマトグラフィの測定感度・精度が著しく向上しているので、小さな表面積の吸着・脱着材料であっても測定が可能となった。本発明の目的である口腔内気体の微量成分の測定においても、吸着・脱着材料の表面積が50cm以上であれば、必要な分析精度が得られた。すなわち、本発明にかかる口腔内気体の測定方法は、安全性のため尖っていない柱状の先端導入部をもち、表面積が50cm以上の吸着・脱着材料からなる吸着・脱着部を有する柱状の挿入気体保持具を、前記先端導入部から口腔内に挿入し、一定時間(例えば5分間)口腔内気体を吸着・脱着部に吸着保持させ、好ましくは吸着・脱着部を密閉して、ガスクロマトグラフィの設置場所に搬送し、前記吸着・脱着部を加熱して、吸着した口腔内気体の少なくとも一定割合部分を脱着させ、ガスクロマトグラフィで口腔内気体成分を測定するものである。
【0016】
この構成によれば、挿入気体保持具の先端導入部は柱状であるので、口腔内を傷つけることなく挿入気体保持具を口腔内に挿入して、口腔内気体を吸着・脱着部に吸着保持することができる。測定にあたっては、ガスクロマトグラフィの試料注入部に挿入気体保持具の先端導入部を介して吸着・脱着部を装着して、吸着・脱着部から測定対象物質を脱着させて測定することもできるので、簡便かつ安全に口腔内気体を精度よく測定できる。なお、脱着を行う場所に余分な容積がないようにすることが脱着気体の濃度を高くできるので、より好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら、詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態に係る口腔内気体の測定方法に用いる挿入気体保持具を示す構成図である。挿入気体保持具1は、例えば棒状のような柱状の先端導入部2aをもつ吸着・脱着材料からなる吸着・脱着部2と、操作者が把持する把持部3とを有する。吸着・脱着部2は後述するガスクロマトグラフィによる分析の定量性を確保するために、所定の気体吸着面積を有する。挿入気体保持具1は、細長い有底容器5とその蓋6からなる可搬用ケース7により密閉収納されて搬送される。この可搬用ケース7は、その内面が気体の吸着性の低い材料により形成される。
【0018】
挿入気体保持具1は先端導入部2aから吸着・脱着部2を口腔内に挿入し、唇により口腔内と外部とを気密に遮断した状態で、一定時間(例えば5分間)口腔内に保持して、口腔内気体を吸着・脱着部2に吸着保持させる。口腔内気体を吸着させた後この挿入気体保持具1は前記可搬用ケース7に密閉収納されて一時的に保管される。その後、挿入気体保持具1は可搬用ケース7に収納された状態で、通常、実施場所と離れた場所に設置されたガスクロマトグラフィまで運搬される。
【0019】
ガスクロマトグラフィ設置場所で、挿入気体保持具1が可搬用ケース7から取り出され、その吸着・脱着部2がガスクロマトグラフィの試料注入部に入れられ、昇温により測定対象の成分を吸着材から脱着させて、常法のガスクロマトグラフィ測定法により測定する。測定対象気体を吸着した挿入気体保持具1をガスクロマトグラフィ試料注入部へ入れるには、ゴム栓などを通じて気密に吸着・脱着部2を先端導入部2aを介して試料注入部に直接挿入する方法が便利であるが、試料注入部に連結した開閉式の試料受け入れ室に吸着・脱着部2、または挿入気体保持具1を収納し、加熱により測定対象気体を離脱させ、キャリヤガスを用いて試料注入部に送り込む方法も可能である。また、吸着・脱着部2内の吸着・脱着材料のみを直接試料受け入れ室に入れるか、またはバイアル瓶に入れて密封し、既存のオートサンプラーによりガスクロマトグラフィ測定に際してバイアル瓶を加熱して、口腔内気体関連成分を脱着させ、バイアル瓶から脱着成分を含む気体部分を常法により採取、測定を行うこともできる。
【0020】
挿入気体保持具1の吸着・脱着部2は唇で密閉した口腔内に挿入しやすく、かつガスクロマトグラフィの試料注入部に挿入しやすいように、吸着・脱着部2が例えば爪楊枝状のような柱状(棒状)、つまり先端導入部2aが細い棒状でそれに続く部分がこれより若干太い棒状の形状であることが便利である。吸着・脱着部2の断面形状は特に問わないが、円形または楕円形であることが好ましい。円形の場合、直径が8mmから0.5mm(断面積50mmから0.2mm)、好ましくは直径8mmから1mm程度(断面積50mmから0.8mm)であることが操作性、安全性、唇による封鎖性、試料注入部への挿入性のうえで適当である。
【0021】
挿入気体保持具1の吸着・脱着部2と把持部3の材料は化学的に同じであっても、異なっていてもよく、また両者の断面形状を相違させてもよく、大小を設けてもよい。また、両者を結合するための方法はどのようなものであってもよい。
【0022】
口腔内への挿入の容易性の点から挿入気体保持具1は、口腔内に挿入する吸着・脱着部2の長さが1cmから10cm、好ましくは1cmから5cmが適当であるが、挿入気体保持具1の全長は特に制限はない。一方、ガスクロマトグラフィでの定量性を確保するため、口腔内に挿入され、ガスクロマトグラフィ試料注入部に直接挿入され、または試料受け入れ室に収納される吸着・脱着材料は1cmから3cm程度の一定長であることが望ましい。このため、挿入気体保持具1に一定長を示す目印をつけるか、ガスクロマトグラフィ試料注入部への挿入を制限するため挿入気体保持具1に張出し部分を設けるか、太さを変えることなどが好ましい。
【0023】
比表面積の大きい吸着・脱着材料としては、無機物質、有機物質のいずれであってもよい。典型的な比表面積の大きい材料には多孔性材料、微粉末、極細繊維、極薄フィルムがある。比表面積の大きい挿入気体保持具は、多数の孔の空いた多孔性材料のほか、微粉末を圧縮、接着成型したもの、ミクロ繊維、ナノ繊維を圧縮、接着成型したものでもよい。材料は測定対象のガスと強固な反応生成物を形成しないものであれば特に選ばない。代表的な材料としては、炭素材料、シリカ、アルミナ、ゼオライト、珪酸ガラス、ヒドロキシアパタイトなどの燐酸カルシウム系材料、金属材料、テフロン(登録商標)、ポリスルホン、ポリアリレート、スチレンジビニルベンゼンコポリマーなどをあげることができる。またポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリビニルアルコールなどの一般的ポリマー材料も用いることができる。また、多孔質の疎水性樹脂フィルムで吸着・脱着部2を覆うことにより唾液による濡れ、吸着条件の変動を防止することができる。適切な多孔性の疎水性樹脂の例としては、エクスパンデッドフッ素樹脂フィルム、エクスパンデッドポリオレフィンフィルムが挙げられる。疎水性の多孔性中空繊維膜、または、多孔性チューブ膜を吸着・脱着部2に被せることは好ましい実施の形態である。
【0024】
本発明の吸着・脱着部2の吸着・脱着材料は表面積が50cm以上であれば測定に供することができる。表面積が100cm以上、さらに1000cm以上であれば測定精度が向上してより好ましい。一定サイズで表面積を大きくするために吸着・脱着材料は比表面積が大きいものが好ましい。このため、好ましい吸着・脱着材料は比表面積が1m/g以上であり、比表面積が10m/g以上であれば測定対象ガスの吸着量が大きく、好適に用いられる。比表面積が数100m/gのシリカゲルや、比表面積1000m/g以上の活性炭を用いてもよい。また、分離膜として使用される湿式凝固中空繊維などの比表面積100m/g程度の有機ポリマーを用いてもよい。比表面積の大きい材料として繊維や不織布など、またはその加工品は好ましい材料であり、マイクロファイバー、ナノファイバーなど細い繊維ほど比表面積は大きく、異型断面繊維も比表面積が大きいので、これら繊維や活性炭繊維の不織布や加工品は最も好ましい材料である。繊維製品は吸着、脱着の速度が大きい特徴がある。ここで、表面積は窒素吸着BET法により得られた比表面積から計算値として得られるものを意味している。
【0025】
比表面積の大きい材料の表面をポリマーで薄くコートし、材料による抽出、ガスクロ試料注入部内での脱着の量、速度を増すことができる。本発明の目的においてポリジメチルシロキサン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリル酸エステルなどによるコートを行うことができる。
【0026】
本発明においては多孔質など比表面積の大きい挿入気体保持具は一回使用のみのディスポーザブルであることが衛生上好ましい。
【0027】
表面積の大きい吸着・脱着部2を口腔内に挿入する場合、唾液により吸着・脱着部2が濡れると、口腔内気体の吸着条件が変動し、定量性の確保が困難となる。このため、図2(A)の変形例に示すように、多数の孔が設けられた多孔カバー14により吸着・脱着部2を覆うことがより好ましい実施の態様である。この多孔カバー14は疎水性樹脂からなることが好ましい。
【0028】
表面の多孔カバー14により吸着・脱着部2の吸着速度が遅くなるが、吸着材料を細くすることによって吸着、脱着速度を速くでき、ガスクロマトグラフィによる定量性を向上することができる。また、多孔カバー14内の吸着・脱着部2の材料を、より比表面積の大きい吸着・脱着材料とすることが有効である。
【0029】
図2(A)の把持部15は細い15cの部分で多孔カバー14に嵌入固定し、また段15d付き形状を有して、可搬用ケースの一部をなしており、図2(B)の細長い有底容器(可搬用ケース)16で多孔カバー14ごと吸着・脱着部2を収納したとき、その先端部16aが前記段15dに突き当たるとともに、多孔カバー14の開孔のない部分14bの外面と有底容器16の内面が密接して内部を密閉するようになっている。多孔カバー14には表面積の大きい吸着・脱着材料よりなる吸着・脱着部2を入れるが、吸着・脱着部2は把持部15に固定しても、遊離していてもよい。一例は図2(C)のように、吸着・脱着部2の吸着・脱着材料としてフィルム、紙、布(不織布)12、または繊維を入れる。繊維は綿状であっても、一定長さに切断した繊維であってもよい。図2(D)のように、繊維22を枠24に巻いたものは気体の吸着、脱着速度を制御できるので好適である。また、繊維を保持材にブラシ状に固定して円柱状に形成したものは便利であり、特に図2(E)のように、繊維32を歯間ブラシ状に針金36に固定し、図2(A)の把持部15の先端側に挿入、固定しておくことは多量の繊維を吸着効率高く固定でき、またガスクロマトグラフィへの挿入作業にも便利である。ポリマー材料を湿式凝固した中空繊維、またはフィルムよりなる多孔質の棒状、またはシート状物も製作、取り扱い性、吸着、脱着特性のバランス上好適に用いることができる。
【0030】
図2の変形例において、口腔内気体の測定にあたっては、口腔内に、多孔カバー14に表面が覆われた吸着・脱着部2を一定時間、例えば5分間保持して、口腔内気体を吸着・脱着材料に吸着させた後、可搬用ケース16を多孔カバー14の上から被せ、密封、収納する。なお、吸着・脱着材料が把持部15に固定されている場合は、多孔カバー14を外して、直接吸着・脱着部2を可搬用ケース16内に収納するようにしてもよい。この状態でガスクロマトグラフィ測定を行う分析センターに搬送し、分析に供する。分析に当たっては、可搬用ケース16を取り外し、多孔カバー14に覆われた吸着・脱着部2をガスクロマトグラフィの試料導入部に入れ、加熱、脱着したガスをループに導入したキャリヤガスによりカラムに導くか、吸着・脱着材料を試料注入部に多孔カバー14の先端導入部2aを介して直接挿入するか、吸着・脱着材料をバイアル瓶に密封、昇温により吸着していた気体を脱着、ヘッドスペースガスを常法に従いオートサンプラーによりカラムに導入するかして、口腔内気体を化学成分ごとに分離、定量することができる。フレーム光度型検出器や化学発光硫黄検出器を用いることにより含硫黄化合物を精度よく分析できる。
【0031】
多孔カバー14、把持部15および可搬用ケース16は、口腔内気体の吸着の少ない平滑な材料で作ることが好ましい。吸着性、成形性から好適な材料として、ベクトランなどの液晶系ポリマー、ポリプロピレンを挙げることができる。吸着・脱着材料として表面積が大きい場合、100cm以上の材料、特に1000cm以上の紙、布、繊維を用いる場合は平滑な材料の表面への競合的吸着は大きな問題にならない。ただし、多孔カバー14、把持部15および可搬用ケース16内部への測定対象物質の溶解、拡散を防ぎ、また最小限にするため、口腔内気体の吸着後、ガスクロマトグラフィ測定までの日数を短くすることが好ましい。測定対象物質の溶解、拡散を防ぐ目的には成形性には難があるが無機材料、特にガラスが好適である。
【0032】
比表面積が1m2/g以上、特に好ましくは100m2/g以上の紙、布(不織布)、綿、繊維は、活性炭繊維、多孔質シリカ繊維、ポリエステル、ナイロン、またはポリプロピレンなどのナノファイバーにより製造することができる。酸化ケイ素、窒化珪素などのナノファイバーも含まれる。
【0033】
多孔カバー14は、吸着・脱着部2について前述したように長さが1cmから10cm、好ましくは1cmから5cmで、唇による密封性、ガスクロマトグラフィへの導入の容易性から外表面からの断面が50mmから1mmであることが好ましい。この吸着・脱着材料を入れた多孔カバー14と把持部3とを合わせて適切な全長、例えば15cmとなる。多孔カバー14は射出成型により製造するのが便利であり、この場合先端部分が細く、把持部3に接合する部分が太い構造となるのが一般的である。図1、図2において吸着・脱着部2と把持部3は直線的な棒状であるが、口腔内に挿入に不便でない程度に湾曲していても、把持部3が屈折していてもよい。
【0034】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれによって何ら限定を受けるものではない。
実施例1
直径1mm、長さ20mm、表面積470cm2の多孔質ヒドロキシアパタイト円柱を内径1mm、外径2mm、長さ10cmのポリプロピレンチューブ先端にわずかに挿入固定し、口腔内気体の吸着保持用の挿入気体保持具を作成した。有臭硫黄化合物を含む口腔内気体のモデルとして、パーミエーター(校正用ガス調整装置)により硫化水素4.9ppm、メチルメルカプタン4.8ppm、ジメチルサルファイド0.9ppmを含む標準ガスを発生させ、容量1リットルのにおい袋に標準ガスのままと、2分の1希釈ガス、5分の1希釈ガス、10分の1希釈ガスを作成した。これらのにおい袋に口腔内気体の吸着保持用の挿入気体保持具の吸着・脱着部2を挿入し、室温で5分間保持した。におい袋から挿入気体保持具を取り出し、多孔質ヒドロキシアパタイト円柱部分を取り外して容量50mlのガラス瓶に入れ、ブチルゴム栓で密封して1日間保管した。その後、ガスクロマトグラフィ(GC−17A、島津製作所社製)を用い、昇温試料注入ユニットにアパタイト円柱を入れて200℃に昇温し、脱着試料ガスをGC−Q、0.53mm、30mカラムに導入して、昇温10℃/min、60〜250℃、フレーム光型検出器で分析した。口腔内気体のモデルガスの各成分が分離、希釈に応じたピーク高さが測定できた。標準ガスのまま、5分の1希釈ガス、10分の1希釈ガスのピーク高さによって検量線を作成し、2分の1希釈ガスのガス濃度を計算したところ、硫化水素2.4ppm、メチルメルカプタン2.3ppm、ジメチルサルファイド0.4ppmとなり、この多孔性ヒドロキシアパタイト円柱をもつ挿入気体保持具は有臭硫黄化合物ガスの濃度測定に用いうることを示した。
【0035】
実施例2
ポリプロピレン射出成型により注射針カバー状の外径6mmから5mm、内径約5mmから約4mm、長さ3.5cmの細長い多孔カバーと、同様にポリプロピレンにより、外径5mmおよび6mmの段付きで、長さ4cmの細長い把持部を作成した。また、可搬用ケースもポリプロピレンで同様に作成した。この多孔カバーに吸着材として比表面積約500m2/gの活性炭繊維不織布片10mgを入れて吸着・脱着部とし、把持部を差し込み、棒状の挿入気体保持具を作成した。実施例1に記載の口腔内気体のモデルガスを入れたにおい袋に、この挿入気体保持具の吸着材を入れた吸着・脱着部を挿入し、10分間保持した。吸着材を入れた吸着・脱着部を可搬用ケースで密封し、1週間保管した。1週間後吸着材をガラス製サンプル瓶に移し、密閉、ターンテーブル上で150℃に昇温、常法に従いヘッドスペースガスをガスクロマトグラフィに注入し、含硫黄化合物を分析することができた。
【0036】
実施例3
比表面積50m2/gの微細ポリエステル糸集合10デニール糸を用い、口腔内気体の吸着・脱着材料としての全長3cm、ブラシ部1.5cm、毛の長さ1mmのワイヤーブラシ(繊維重量2mg、表面積1000cm2)を作成した。毛のついていない1.5cmの部分を実施例2の把持部にあけた孔に0.5cm程度差込み、実施例2の長さ3.5cmの多孔カバー、可搬用ケースと組み合わせ、口腔内気体の吸着、運搬、脱着に用いる挿入気体保持具を作成した。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態に係る口腔内気体の測定方法に用いられる挿入気体保持具を示す構成図である。
【図2】同実施形態の挿入気体保持具の変形例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0038】
1:挿入気体保持具
2a:先端導入部
2:吸着・脱着部
7:可搬用ケース
14:多孔カバー
16:可搬用ケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状の先端導入部をもち、表面積50cm以上の吸着・脱着材料からなる吸着・脱着部を有する柱状の挿入気体保持具を、前記先端導入部を介して口腔内に挿入し、口腔内気体を前記吸着・脱着部に吸着保持させた後搬送し、前記吸着・脱着部を加熱して口腔内気体を脱着し、ガスクロマトグラフィで口腔内気体成分を測定することを特徴とする、口腔内気体の測定方法。
【請求項2】
前記吸着・脱着部の断面積が50mm〜0.2mmで、長さが1cm〜10cmである、請求項1に記載の口腔内気体の測定方法。
【請求項3】
前記挿入気体保持具は、口腔内気体を吸着保持させた後、ガスクロマトグラフィ測定時に口腔内気体を脱着するまで、少なくとも前記吸着・脱着部を密閉収納する可搬用ケースにより保管される請求項1または2に記載の口腔内気体の測定方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の口腔内気体の測定方法に用いられる、柱状の先端導入部をもち、かつ胴体部に多数の孔をもつ多孔カバーにより、表面積50cm以上の吸着・脱着材料からなる前記吸着・脱着部が覆われているディスポーザブル(一回使用の)挿入気体保持具。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−10317(P2006−10317A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183197(P2004−183197)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(504090329)
【Fターム(参考)】