説明

口腔内溶解フィルム

【課題】水難溶性成分が水溶性高分子中に良好に分散した均一性の高い口腔内溶解フィルムを提供する。
【解決手段】水難溶性成分と水溶性高分子とを含有する口腔内溶解フィルムにおいて、HLB値が5以下の非イオン界面活性剤(A)と、HLB値が前記非イオン界面活性剤(A)より5以上大きな非イオン界面活性剤(B)とをさらに含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内で溶解するフィルム状剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば口臭の予防、抑制などを目的とした口腔内溶解フィルムが種々提案されている(例えば特許文献1〜4参照。)。
これらのなかで、特許文献1には、口腔内溶解フィルムとして、植物抽出物などの水難溶性成分と、フィルム基剤として作用する水溶性高分子とを含有するものが記載されている。このような口腔内溶解フィルムにおいては、水難溶性成分を水溶性高分子中へ均一に分散させるために、さらに界面活性剤が配合されることが多い。
【特許文献1】特開2005−289918号公報
【特許文献2】特開2004−43450号公報
【特許文献3】特開2001−288074号公報
【特許文献4】特許第3460538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このように界面活性剤を配合した場合でも、水難溶性成分が水溶性高分子中に均一に分散しないことがあり、その結果、口腔内溶解フィルムに水難溶性成分の濃度のムラが生じたり、水難溶性成分が滲み出たりする場合があった。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、水難溶性成分が水溶性高分子中に良好に分散した均一性の高い口腔内溶解フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、界面活性剤として、特定の2種の非イオン界面活性剤を併用することにより、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
本発明の口腔内溶解フィルムは、水難溶性成分と水溶性高分子とを含有する口腔内溶解フィルムにおいて、HLB値が5以下の非イオン界面活性剤(A)と、HLB値が前記非イオン界面活性剤(A)より5以上大きな非イオン界面活性剤(B)とをさらに含有することを特徴とする。
前記非イオン界面活性剤(A)と前記非イオン界面活性剤(B)との質量比(A)/(B)は0.5〜2で、かつ、前記非イオン界面活性剤(A)と前記非イオン界面活性剤(B)との合計含有量は0.2〜5質量%であることが好ましい。
前記水難溶性成分は植物抽出物であることが好ましい。
前記非イオン界面活性剤(A)および前記非イオン界面活性剤(B)は、ショ糖脂肪酸エステルであることが好ましい。
前記水溶性高分子は、ヒドロキシプロピルセルロースであることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、水難溶性成分が水溶性高分子中に良好に分散した均一性の高い口腔内溶解フィルムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の口腔内溶解フィルムは、水難溶性成分と水溶性高分子とを含有する口腔内溶解フィルムにおいて、特定のHLB値の2種の非イオン界面活性剤をさらに含むものである。
【0008】
[水難溶性成分]
口腔内溶解フィルムに含まれる水難溶性成分は、水100gに対する溶解度が1g以下の有機物であれば特に制限はなく、目的に応じて選択できるが、詳しくは後述するように、この口腔内溶解フィルムを製造する際において、エタノールなどのアルコールに水難溶性成分を溶解させる場合もあるため、その観点からは、アルコールには可溶であるものが好ましい。
このようなものの具体例としては、例えば各種植物抽出物、香料、精油、精油成分、テルペン類、カロチン、ビタミンA、ビタミンA誘導体、ビタミンE、ビタミンE誘導体などの油性ビタミン類、インドメタシン、ジメンヒドリナート、アスピリン、イブプロフェン、メキタジン、メントールなどの薬物が挙げられ、これらのうち1種以上を使用できる。これらの中で、サンショウエキス、ローズマリー油などの植物抽出物、メントール、ビタミンEなどは、口腔内溶解フィルムの使用目的が口臭の予防や抑制である場合などに特に好適に使用できるが、少なくとも植物抽出物を使用することが特に好ましい。
【0009】
口腔内溶解フィルム中の水難溶性成分の含有量は、0.01〜30質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜25質量%、より好ましくは0.5〜20質量%である。このような範囲であると、水難溶性成分が口腔内溶解フィルム中により良好に分散し、より均一性の高い口腔内溶解フィルムが得られやすいとともに、水難溶性成分の効果も十分に発現する。
【0010】
[水溶性高分子]
水溶性高分子は、フィルム基材として作用するものであって、フィルム形成能があり、可食性を備えたものであれば制限なく使用できるが、具体的には、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドリキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、カルボキシメチルセルロース−Na(CMC−Na)、ポリビニールアルコール(PVA)、アルギン酸−Naなどが挙げられ、これらのうち1種以上を使用できる。これらの中では、フィルム形成能に優れていることから、HPCやアルギン酸−Naが好適に用いられるが、後述する2種の非イオン界面活性剤とともに使用することにより、より均一性の高い口腔内溶解フィルムが得られやすいことから、少なくともHPCを使用することが特に好ましい。
【0011】
口腔内溶解フィルム中の水溶性高分子の含有量は、30〜95質量%が好ましく、より好ましくは40〜85質量%、より好ましくは50〜75質量%である。このような範囲であると、口腔内溶解フィルムを良好なフィルム状に形成できるとともに、水難溶性成分が口腔内溶解フィルム中により良好に分散し、口腔内溶解フィルムの均一性がより高まる。
【0012】
[非イオン界面活性剤]
本発明の口腔内溶解フィルムにおいては、非イオン界面活性剤として、HLB値が5以下、好ましくは1〜5の非イオン界面活性剤(以下、低HLB活性剤という場合もある。)(A)、と、HLB値が非イオン界面活性剤(A)より5以上大きな非イオン界面活性剤(以下、高HLB活性剤という場合もある。)(B)とを併用する。高HLB値活性剤(B)としては、特にHLB値が7〜18のものを使用することが好ましく、より好ましくは9〜17のものを使用する。
なお、ここでいうHLB値とは、Griffinの方法により求められた値を採用する(吉田、新藤、大垣、山中共編、「新版界面活性剤ハンドブック」、工業図書株式会社、1991年、第234頁参照。)。
【0013】
低HLB活性剤(A)および高HLB活性剤(B)としては、それぞれのHLB値が上述のようなものであれば、化合物の種類には特に制限はなく、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤を使用できるが、水難溶性成分の分散がより均一になる傾向があるため、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルが好ましく、より好ましくはショ糖脂肪酸エステルである。なお、脂肪酸としては、ベヘニン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸など、炭素数が14〜22のものが好適である。また、低HLB活性剤(A)と高HLB活性剤(B)として、互いに異なる種類の化合物を使用してもよい。
【0014】
このように、非イオン界面活性剤として低HLB活性剤(A)と高HLB活性剤(B)とを併用することによって、水難溶性成分が水溶性高分子中に良好に分散した均一性の高い口腔内溶解フィルムを提供することができる。その詳細な理由は明らかではないが、このように併用することによって、水難溶性成分をより取り込みやすいミセルが形成されるものと推測できる。
【0015】
口腔内溶解フィルム中のこれら非イオン界面活性剤の合計含有量は、0.2〜5質量%であることが好ましく、より好ましくは0.3〜4質量%、さらに好ましくは0.5〜3質量%である。0.2質量%未満では、水難溶性成分の分散性が不十分になる場合があり、5質量%を超えると、口腔内溶解フィルムの強度や香味に影響を及ぼす場合がある。
また、低HLB活性剤(A)と高HLB活性剤(B)との質量比は、(A)/(B)が0.5〜2であることが好ましく、より好ましくは、0.8〜1.25である。このような範囲であると、水難溶性成分の分散性がより安定に発現し、均一性の優れた口腔内溶解フィルムが安定に得られやすくなる傾向がある。
【0016】
[その他の成分]
口腔内溶解フィルムには、上述した成分の他、糖類、甘味料、可塑剤、色素、水溶性の薬物や植物抽出物(例えばブドウ種子抽出物)なども必要に応じて含まれてよい。
糖類としては、マルトース、還元麦芽糖水飴、マルチトール、エリスリトール、キシリトール、ショ糖、ソルビトールなどが挙げられる。甘味料としては、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロースなどが挙げられ、特にアスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロースが好適に用いられる。可塑剤としては、ポリエチレングリコール(PEG)、グリセリン、ソルビトールなどが挙げられる。
【0017】
[口腔内溶解フィルムの製造方法]
口腔内溶解フィルムの製造方法には特に制限はないが、まず、上述した各成分を含有するフィルム形成用スラリー液を調製し、このフィルム形成用スラリー液を離型フィルムの上に塗工、乾燥して薄膜状の口腔内溶解フィルムを離型フィルム上に形成させる。その後、離型フィルムを剥離することにより、口腔内溶解フィルムを得ることができる。このようにして形成された口腔内溶解フィルムの厚みには特に制限はないが、25〜600μm程度が好ましい。
【0018】
フィルム形成用スラリー液の調製方法には特に制限はないが、まず、低HLB活性剤(A)と水難溶性成分と好ましくは水とを混合した70℃程度の混合液を調製する。ついで、この混合液を、70℃程度に加熱され、高HLB活性剤(B)が0.2〜20質量%溶解した水溶液に添加する。その後、さらに、水溶性高分子や、必要に応じて添加される他の成分を加えていく方法が好ましい。このような方法によれば、特に均一なフィルム形成用スラリー液が得られやすく、口腔内溶解フィルムとしても優れた均一性を有するものが得られやすい。なお、水難溶性成分としてメントールや香料を使用する場合、これらは高温では揮散の懸念があるため、常温程度まで冷却されたフィルム形成用スラリー液に最後に添加するなどしてもよい。また、その場合、メントールや香料をエタノールなどの親水性の溶媒に溶解して添加してもよい。
【0019】
離型フィルムとしては、例えば、表面にマット処理を施したポリプロピレンなどの樹脂フィルムが使用できる。フィルム形成用スラリー液の塗工には、ハンドコーターなどの公知のコーターを使用できる。乾燥温度は適宜設定できるが、65〜120℃が好ましい。
【0020】
このような口腔内溶解フィルムは、非イオン界面活性剤として、特定のHLB値のものを2種含有しているため、水難溶性成分が水溶性高分子中に良好に分散し、水難溶性成分の濃度のムラや、水難溶性成分の滲みのない均一性に優れたものとなる。
なお、口腔内溶解フィルムには、上述のように、特定のHLB値の非イオン界面活性剤が2種含まれる限りは、他の界面活性剤がさらに含まれていてもよい。
【実施例】
【0021】
[実施例1]
(フィルム形成用スラリー液の調製)
表1に示す組成のフィルム形成用スラリー液を以下のようにして調製した。
なお、表1には、溶媒として使用した水については記載せず、水以外の成分の合計が100質量%となるように記載している。また、HPC3についての「バランス」との記載は、表1に記載のHPC3以外の成分とHPC3との合計含有量が100質量%になるように、HPC3の量を調節しているとの意味である。
まず、70℃の温水が投入された配合槽(I)に、固形分が20質量%となるように高HLB活性剤(B)を加え、溶解させた。一方、別の配合槽(II)に、l−メントール以外の水難溶性成分と、低HLB活性剤(A)とを加えて、70℃まで加熱、溶解させて混合液を得て、この混合液を配合槽(I)に徐々に加えた。
ついで、配合槽(I)に、水溶性高分子を攪拌しながら徐々に加え、十分に分散させた後、自然放冷して常温まで冷却した。
その後、配合槽(I)中の液にダマが無いことを確認し、表1に記載の残りの成分を全て加えて、フィルム形成用スラリー液を得た。
【0022】
(口腔内溶解フィルムの製造)
表面にマット処理を施したポリプロピレンフィルム上に、フィルム形成用スラリー液をハンドコーターで塗工し、70℃の恒温槽内で乾燥させ、スラリーから薄膜を形成させた。
その後、ポリプロピレンフィルム上に薄膜が形成された積層体を所定の大きさに裁断してから、ポリプロピレンフィルムから薄膜を剥離して、厚みが35μmの口腔内溶解フィルムを得た。
【0023】
(評価)
フィルム形成用スラリー液と口腔内溶解フィルムについて、目視で均一性を評価した。評価基準は以下のとおりである。結果を表1に示す。
(1) フィルム形成用スラリー液の均一性評価
○:全体的に均一な液になっている。
△:ごく一部、乳化物が生成し分離している。
×:表面に油相が形成されている。
(2)口腔内溶解フィルムの均一性評価
○:均一な薄膜になっている。
△:水難溶性成分の濃度(色)にややムラがある。
×:濃度(色)の帯状のムラ、水難溶性成分の滲みがある。
【0024】
[実施例2、3、8、9、比較例1〜3]
表1または2に示す組成のフィルム形成用スラリー液を実施例1と同様にして調製し、得られたフィルム形成用スラリー液から、実施例1と同様にして口腔内溶解フィルムを得て、これらについて評価した。結果を表1または2に示す。
【0025】
[実施例4〜7、比較例4]
表1または2に示す組成のフィルム形成用スラリー液を実施例1と同様に調製した。ただし、配合槽(II)に、l−メントール以外の水難溶性成分と低HLB活性剤(A)とを加えるのではなく、すべての水難溶性成分と香料と低HLB活性剤(A)とを加えた。
得られたフィルム形成用スラリー液から、実施例1と同様にして口腔内溶解フィルムを得て、これらについて評価した。結果を表1または2に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
なお、表中の成分の詳細は以下の通りである。
HPC1:ヒドロキシプロピルセルロース、日本曹達株式会社製セルニーHPC−M
HPC2:ヒドロキシプロピルセルロース、日本曹達株式会社製セルニーHPC−L
HPC3:ヒドロキシプロピルセルロース、日本曹達株式会社製セルニーHPC−SSL
界面活性剤1:ショ糖ベヘニン酸エステル(HLB値3)、三菱化学フーズ株式会社製B−370F
界面活性剤2:ショ糖ステアリン酸エステル(HLB値9)、三菱化学フーズ株式会社製S−970
界面活性剤3:ショ糖ステアリン酸エステル(HLB値11)、三菱化学フーズ株式会社製S−1170
界面活性剤4:ショ糖ステアリン酸エステル(HLB値16)、三菱化学フーズ株式会社製S−1670
界面活性剤5:モノオレイン酸ソルビタン(HLB値4.3)、日光ケミカルズ株式会社製NIKKOL SO−10V
界面活性剤6:モノステアリン酸グリセリル(HLB値10)、日光ケミカルズ株式会社製NIKKOL MGS−150V
【0029】
表に示すように、特定の2種の非イオン界面活性剤を併用した各実施例によれば、比較例よりも均一性の優れた口腔内溶解フィルムが得られた。また、特に2種の非イオン界面活性剤の質量比(A)/(B)が0.8〜1.25である実施例1〜7では、特に口腔内溶解フィルムの均一性が優れる傾向であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水難溶性成分と水溶性高分子とを含有する口腔内溶解フィルムにおいて、
HLB値が5以下の非イオン界面活性剤(A)と、HLB値が前記非イオン界面活性剤(A)より5以上大きな非イオン界面活性剤(B)とをさらに含有することを特徴とする口腔内溶解フィルム。
【請求項2】
前記非イオン界面活性剤(A)と前記非イオン界面活性剤(B)との質量比(A)/(B)が0.5〜2で、かつ、前記非イオン界面活性剤(A)と前記非イオン界面活性剤(B)との合計含有量が0.2〜5質量%であることを特徴とする請求項1に記載の口腔内溶解フィルム。
【請求項3】
前記水難溶性成分が植物抽出物であることを特徴とする請求項1または2に記載の口腔内溶解フィルム。
【請求項4】
前記非イオン界面活性剤(A)および前記非イオン界面活性剤(B)が、ショ糖脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の口腔内溶解フィルム。
【請求項5】
前記水溶性高分子がヒドロキシプロピルセルロースであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の口腔内溶解フィルム。

【公開番号】特開2008−63269(P2008−63269A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241794(P2006−241794)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】