説明

口腔内腫瘍改善又は治療用軟膏剤

【課題】天然物由来を有効成分とし、安全性が高く、継続使用可能な白板症用・口腔癌用の軟膏を提供する。
【解決手段】緑茶エキスに、アルギン酸又はその塩とを加えて口腔腫瘍改善又は治療用軟膏剤及び該軟膏剤を含有する飲食品とする。
【効果】茶エキスを有効成分とする口腔腫瘍に対する薬剤や飲食品を製造するにあたって、候補となる各種基材のなかでもアルギン酸又はその塩、特にアルギン酸ナトリウムを用いると、茶エキスの抗口腔腫瘍作用を優れて引き出すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内腫瘍の治療又は該腫瘍の症状改善に有用な軟膏剤に関する。具体的には、緑茶エキスと、アルギン酸又はその塩とを含有する口腔腫瘍改善又は治療用軟膏剤に関する。
【背景技術】
【0002】
日本人の死因の第1位である悪性新生物の年間死亡者数は、平成10年で28万人以上であるといわれており、癌罹患患者数は約136万人とされている。口腔癌患者の占める割合は全体の3%であり、発生数は全体数と比較して少ない。
【0003】
しかし、程度の差はあるものの外科治療後には摂食や嚥下等の日常生活に関わる重要な口腔機能障害に後遺症が残る場合も少なくなく、口腔内腫瘍治療に関する問題とされてきた。口腔内腫瘍の治療は外科的切除を中心として、症状に応じて放射線療法や化学療法を組み合わせて行うのが一般的である。早期発見されて治療を受けた場合ほど治療後の生存率が高いことから、他の部位の癌と同様に早期発見・早期治療が重要であるといえる。
【0004】
ところで癌は遺伝子変異によってもたらされる疾病であり、正常細胞の癌化を始まりとして長い年月を経て組織学的に癌であると認識される。正常組織から癌が形成されるまでの間に前癌状態が存在する。この段階の口腔癌は角化症や白板症と呼ばれており、皮膚や粘膜の角化が過剰になって厚くなり白く見える。口腔白板症はその5〜15%が将来癌化するといわれており、その対処方法として厳重観察や外科的切除や薬物投与が試みられている。
【0005】
口腔白板症に適用される薬物療法として、イソトレチノイン(13−シスレチノイン酸)に代表されるレチノイド(ビタミンA)や、シクロオキシナーゼ阻害剤、EGFR阻害剤の経口投与又は塗布が一定の効果を上げている。なかでもイソトレチノインの臨床データは多く、海外では臨床応用されているが、催奇形性をはじめとするネフローゼや口内炎等の副作用があるため日本では承認されていない。前癌病変は正常化する可能性もあることから、患者に対しては日常生活に支障をきたさずできるだけ副作用の少ない対処法が望まれている。
【0006】
緑茶エキス入り軟膏剤が口腔白板症に有効であることはすでに知られている。例えば、口腔白板症患者に茶ポリフェノール添加緑茶抽出物を軟膏として6ヶ月間塗布したら口腔粘膜細胞の小核出現頻度が高まり、細胞増殖指標が有意に改善したことが知られている(非特許文献1)。また、茶成分であるエピガロカテキンガレート(EGCg)が口腔内の正常組織、前がん状態組織及び癌化した組織から得られた各々の細胞に対して増殖抑制作用を有することも知られている(非特許文献2)。さらに緑茶ではないが、インドの口腔白板症患者に一定量の紅茶を1年間投与したら、口腔粘膜の小核発現頻度と染色体異常とが低下し、臨床的に改善効果があったことも知られており(非特許文献3)、また喫煙者である36名の口腔白板症患者に混合茶を1日3g、0.1%の濃度で病変部に塗布することにより小核頻度が低下したことも知られている(非特許文献4)。
【0007】
このように茶エキス(茶抽出物やカテキン類)が口腔白板症に有効であることは周知事実であったといえるが、かかる茶抽出物又はカテキン類の優れた薬効を有効に引き出すための製剤的工夫について検討したものは殆どない。例外的には、例えば口腔白板症にエピガロカテキンガレートとクルクミンとを一緒に用いると相乗的に細胞増殖を抑制したことが記載されており、カテキン類の作用を他の物質を併用して相乗効果を得る方法が研究されている(非特許文献5)。しかし、薬剤中に配合される他の成分を選択及び/又は比率調整して、カテキン類の有する内在的特性を最大限引き出すための発明はまだなされていない。
【0008】
【非特許文献1】Proc Soc Exp Biol Med., volume 220, 218,1999.
【非特許文献2】Head & Neck volume 20, 528-534,1999.
【非特許文献3】J Environ Pathol Toxicol Oncol, 2005.
【非特許文献4】Wei Sheng Yan Jiu 1998.
【非特許文献5】Carcinogenesis volume 19, 419-424, 1998.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、茶抽出物又はカテキン類の口腔内腫瘍に対する有効性を効果的に引き出すために、薬剤中に配合される他の成分を選択及び/又は比率調整した薬剤や飲食品、特に軟膏剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、茶エキスを有効成分とする口腔腫瘍に対する薬剤や飲食品を製造するにあたって、候補となる各種基材のなかでもアルギン酸又はその塩、特にアルギン酸ナトリウムを用いると、茶エキスの抗口腔腫瘍作用を優れて引き出すことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、
1.緑茶エキスと、アルギン酸又はその塩とを含有する口腔腫瘍改善又は治療用軟膏剤、
2.アルギン酸塩がアルギン酸ナトリウムであることを特徴とする上記1に記載の口腔腫瘍改善又は治療用軟膏剤、
3.口腔扁平上皮癌細胞又は悪性黒色腫細胞を増殖抑制することを特徴とする上記1又は2に記載の口腔腫瘍改善又は治療用軟膏剤、
4.さらにパラフィン、ワセリン及びプラスチベースを含有し、パラフィンとワセリンとアルギン酸とプラスチベースとの重量比が8:3:8:6であることを特徴とする上記1〜3のいずれか記載の口腔腫瘍改善又は治療用軟膏剤。
5.上記1〜4記載のいずれか記載の口腔腫瘍改善又は治療用軟膏剤を有効成分として配合した飲食品、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、茶エキスを有効成分とする抗口腔腫瘍薬剤や飲食品を製造するにあたって、前記茶エキスが有する抗口腔腫瘍効果を最大限に引き出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において口腔腫瘍改善又は治療用軟膏剤とは、茶エキスとアルギン酸又はその塩とを含有する軟膏剤であって、口腔腫瘍を治療又は症状改善するものをいう。ここで口腔とは口から咽頭に至る部分をいい、食物の摂取、咀嚼、消化及び味覚の場であるとともに発声器の一部をなす部分をいう。本発明において腫瘍とは体細胞が過剰に増殖する病変をいい、多くは臓器や組織中に腫物や瘤として限局性の結節をつくる。一般的に腫瘍は、発生母細胞により上皮性と非上皮性とに区別することができる。また腫瘍は、増殖の性質から例えば腺腫や脂肪腫や繊維腫や骨腫などの良性腫瘍と、例えば肉腫や癌腫などの悪性腫瘍とに区分することができる。本発明は、口腔内における悪性腫瘍の治療や症状改善に主に用いられることを想定しているが、本発明が悪性腫瘍以外に対しても好ましい効果が得られる限りにおいて本発明における腫瘍は悪性腫瘍に必ずしも限定されない。
【0014】
一般に軟膏又は軟膏剤とは、脂肪、脂肪油、蝋、ワセリン、グリセリン、樹脂などの基材となる物質に、有効成分となる薬品や物質を添加した外用薬を指す。軟膏剤を製造するにあたっていずれの基材を用いるのが最も好ましいかは、有効成分物質により異なるものであって、成分物質の基材への付着性、崩壊性や徐法性等をはじめとする成分物質の各種物性や基材との相性等の緻密な研究がなければ到底発見できるものではない。本発明はかかる緻密な研究に基づくものであり、カテキン類などの茶エキスを軟膏剤の有効成分とするにあたりアルギン酸又はその塩、より詳細にはアルギン酸ナトリウムを基材として用いると、他の物質を基材とした場合と比べて、優れて好ましい茶エキス含有口腔腫瘍改善又は治療用軟膏剤を得ることができることを見出した。
【0015】
本発明における茶エキスとは、茶類を抽出して得られるものをいう。ここでいう茶類とは、茶生葉、紅茶やプーアル茶等の発酵茶、ウーロン茶や包種茶等の半発酵茶、緑茶や釜入り緑茶、ほうじ茶等の不発酵茶をいう。本発明における茶エキスは、前記茶類のいずれかを単独又はこれらの群から選ばれる2種以上を任意に選択して抽出により得ることができるが、前記茶類から2種以上選択したものを抽出後に混合してもよい。茶エキスの抽出には、茶葉を水、温水又は熱水、好ましくは40℃から100℃の温熱水、中でも90℃から100℃の熱水を用いることができる。また、人体に無害なエタノール水溶液や、エタノール等の有機溶媒を用いて本発明の茶エキスを抽出することができる。茶エキスの抽出方法としては、公知の方法を適宜用いることができる。茶エキスの精製は、溶媒抽出法、樹脂吸着法、限外濾過・逆浸透濾過等の精製手段によって茶エキス濃度、特に茶エキス中のポリフェノール濃度、とりわけカテキン類の濃度を高くすることもできる。また本発明における茶エキスとして市販の茶ポリフェノール製剤を用いることもでき、例えば「ポリフェノン」(三井農林社製)、「サンフェノン」(太陽化学社製)、「サンウーロン」(サントリー社製)、「テアフラン」(伊藤園社製)等を挙げることができる。
【0016】
アルギン酸は、褐藻の細胞間を充填する粘質多糖であり、β−D−マンヌロン酸とα−L−グルコン酸とから成るポリウロン酸である。両糖が4位のグリコシド結合により連なっている。アルギン酸は、デキストリン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースアルギン酸等と同様に医薬組成物の結合剤として一般的に用いられるが、本発明においてアルギン酸は他の結合剤と比較して茶エキスの有効作用を最も効果的に引き出す結合剤という性質を利用したものである。なお、本発明におけるアルギン酸塩とは、カリウム塩、ナトリウム塩などのアルカリ土類金属の塩を有するアルギン酸をいう。本発明における軟膏剤を製造するにあたっては、アルギン酸ナトリウムが最も好ましい。
【0017】
本発明における口腔腫瘍改善又は治療用軟膏剤には、茶エキスの抗腫瘍作用を阻害しない限りにおいて各種製剤添加成分を加えることができる。具体的には、糖類(例:ブドウ糖、キシリトール、果糖)、有機酸またはその塩(例:乳酸、乳酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム)、無機酸またはその塩、塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、エタノール、エチレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。該製剤添加物成分の使用量は、通常、茶エキスの0.5〜50倍(重量比)程度である。
【0018】
本発明における口腔腫瘍改善又は治療用軟膏剤には、上記製剤添加成分以外にパラフィン、ワセリン及びプラスチベースからなる群のいずれか1種又は2種以上を添加することができる。アルギン酸及び/又はその塩とプラスチベースとの重量比は、茶エキスが本来有する抗腫瘍性を阻害しない限りにおいて適宜調整することができるが、それぞれが8:3:8:6であるのが最も好ましい。
【0019】
本発明における軟膏剤は、飲食品に配合することができる。軟膏剤の配合量は、添加する飲食品の性質や総量に応じて適宜調整することができる。本発明における軟膏剤を添加する飲食品は、乳幼児用食品、高齢者用食品、栄養補給食品、携帯食、スポーツドリンク、ビタミン剤、愛玩動物用飲食品、家畜飼料、ミネラルウォーター、調味料、乳製品、フリカケ、ダシ、清涼飲料、粉末飲料、アルコール飲料であってよい。本発明における軟膏剤を飲食品として摂取する場合、患部と薬剤との接触時間が限られるため患部に直接塗布する場合と比較して薬効が劣るという欠点があるものの、軟膏剤含有飲食物を継続摂取していれば、定期的に軟膏剤を塗布する必要がなくなる点で優れている。
【実施例】
【0020】
以下に本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0021】
実施例1:緑茶エキスの製造
200kgの緑茶を3000Lの熱水(60℃)に投入し、攪拌して15分間放置した。ネットで抽出液と残渣を分離し、700Lの温水(40℃)で残渣を洗浄して、洗液と抽出液とを混合した。遠心濾過した後、濾液を40℃で水分55重量%まで減圧濃縮した。得られた濃縮液を120℃で3分間加熱殺菌した後噴霧乾燥して、乾燥緑茶エキス58.5kgを得た。得られた乾燥緑茶エキス中のカテキン、カフェイン及びテアニン含有量を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
実施例2:増粘性重合体基材の選択
軟膏基材に必要な特性は、(1)高付着性、(2)低崩壊性、(3)徐放性である。口腔内への塗布の場合、歯や下との接触、唾液による濡れ、常時高温高湿などの環境であり、かつこれらの環境から製剤を保護できないことから、含水状態では(1)及び(2)の特性を有していなければならない。しかし、軟膏剤が上記2点の特性を有しているだけでは、軟膏剤中の有効成分が(3)徐放性を有していなければ、有効成分が患部に有効に接触できないことから期待された薬効が得られなくなる。また、軟膏剤を口腔内に塗布した際に味が不快なものであれば、患者が当該軟膏剤を継続使用する障害となることから、口腔内に使用する場合には軟膏剤のもたらす味覚も重要な要素である。
【0024】
(1)及び(2)の特性を高めるためには、白色ワセリン、流動パラフィン、プラスチベースといった疎水性の軟膏基材に、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)などの粘着性のある重合体基材を加えて使用するのが常法である。しかし、緑茶エキス中の有効成分であるカテキンは、粘着性重合体基材に吸着してその生物学的利用能が低下してしまうことから、カテキンの利用能を効果的に引き出すことができる適切な粘着性重合体基材の選択は重要である。
【0025】
そこで、種々の粘着性重合体基材とカテキンとの吸着性の有無を検討した。緑茶エキスを0.1%水溶液に調製し(1)、重合体を3%水溶液に調製した(2)。ただし、ポリアクリルアミ酸は増粘性が非常に高くゼリー状になってしまうことから、1%水溶液とした。また、イヌリン、ポリビニルピロリドンK15、ポリビニルピロリドンK30、ポリビニルアルコール#500による試験も検討したが、3%水溶液調製時の粘度が低すぎて軟膏剤としての使用ができないことから、検討対象外とした。なお、予備試験段階では、プルランを用いた試験も行いカテキン類の重合体への非吸着率は好ましい結果が得られたが、プルランは顆粒状で提供され、硬度が高く微粒子化が困難であるため、軟膏への配合は不適であるため本試験での検討対象から除外した。
【0026】
(1)と(2)を1:1で混合し充分に混和してから、限外濾過した(Amicon centiplus、分画分子量50,000)。得られた濾液をHPLCで分析し、結合能を評価した。コントロールとしては、重合体溶液に代えて水を使用した。
コントロールにおけるカテキン類の重合体への非吸着率を100%として、各重合体の非吸着率を求めた。結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
カテキンの非吸着率を指標とするとプルラン、ペクチン、アルギン酸ナトリウムが候補となった。しかしながら、プルランは顆粒状で提供され、硬度が高く微粒子化が困難であるため、軟膏への配合は不向きであった。またペクチンは特異臭を有するために、口腔内への塗布で不快感を与える可能性が考えられた。
【0029】
次に、上記8種類の重合体水溶液を入れたビーカーを傾け、粘着性の強弱を目視によって評価した。その結果、粘着性の強さは、ポリアクリル酸>CMC−Na≒カラギナン>ペクチン>ポリビニルアルコール(#2000)>ゼラチン≒プルランの順であった。
以上の結果を総合的に判断し、緑茶エキス含有軟膏剤の増粘剤としては、アルギン酸ナトリウムが最も適すると結論された。
【0030】
実施例3:緑茶エキス含有軟膏剤の試作
下記の第11改定調剤指針(薬業時報社)記載の口腔用軟膏剤処方例を参考に、基材処方を以下のように設定した。
流動パラフィン 32w/w%
白色ワセリン 12w/w%
アルギン酸ナトリウム 32w/w%
プラスチベース 24w/w%
上記基材割合を基に、表に示すように混合割合を修正し、緑茶エキスを配合比で、10%、20%、25%含有する軟膏剤を試作した。
すなわち、流動パラフィン、白色ワセリン、アルギン酸ナトリウム、プラスチベースの比率を8:3:8:6で一定にし、所定の含有量となるように緑茶エキスと混和した。各基材の配合表を表3に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
緑茶エキスを流動パラフィン中で研和し、白色ワセリンは加熱融解(50℃)して添加/練合した。次いでアルギン酸ナトリウムを少量ずつ添加しながら練号し、最後にプラスチベースを加えて充分に練合し、緑茶エキス入り軟膏剤を製造した。
【0033】
上記配合量で試作した緑茶エキス入り軟膏剤は、いずれも口腔内での付着性は非常に強く、皮膚に塗布した場合より強く付着性を示した。一方、皮膚塗布用軟膏に用いられるワセリン単独では(参考処方)、皮膚への付着は強いが、口腔内では体温と唾液によりすぐに流れてしまい、口腔用には適さなかった。
味は塗布用に少し苦味を感じるが、塗布したまま放置してもあまり感じなくなり、持続的に使用するのに問題はないと判断された。
【0034】
実施例4:癌細胞増殖抑制作用
実施例3で試作した軟膏剤が、癌細胞に対して増殖抑制効果を示すか否かを確認するためのin vitro実験を実施した。
癌細胞としては、ヒト肺扁平上皮癌(PC−10)、腺癌(PC−3)及び小細胞癌(PC−6)細胞及びヒト口腔扁平上皮癌(HSC−2、HSC−4、Ca9−22、HO−1−N−1、HO−1−U−1、KOSC−3、KOSC−2)細胞、ヒト腺癌細胞HSG、ヒト悪性黒色腫細胞G−361、正常細胞としてヒトケラチノサイトHaCaTを用いた。細胞は、10%ウシ胎児血清添加RPMI-1640倍溶液を用い、37℃、5%CO下で培養した。培養液は3日に一度の割合で交換した。細胞を2.2×104/mlに調製し、96穴のプレートの外周を除く60穴に90μlづつ注入し、細胞が底面に付着するように48時間培養した。緑茶エキス又は緑茶エキス入り軟膏剤は、Dulbecco社製のリン酸緩衝液(PBS)に溶解して段階希釈し、緑茶エキスとして1ng/mlから100μg/mlまでの17段階の濃度を10μlづつ添加した。緑茶エキスの対照としてはPBSのみを、緑茶エキスを含まない軟膏剤をPBSで希釈し、各々10μlづつ添加した。
被検薬を添加後、さらに5日間培養し、途中48時間目に培養液100μlを追加した。培養終了後、0.1Mのコハク酸を含む4mg/mlのMMT溶液10μlを添加し、さらに4時間培養し、培養液を吸引除去後、100μlのDMSOを添加し、得られたホルマザンを可溶化した。ホルマザン量(生細胞数)は、マイクロプレートリーダーを用い450nmの吸光度を測定した。各生細胞の割合は、以下の式で算出した。
生細胞の割合=(各薬剤添加濃度における吸光度・バックグラウンドの吸光度)/(対照の吸光度・バックグラウンドの吸光度)
各薬剤濃度における生細胞の割合を反対数グラフ上にプロットし、対数関数の近似式を算出し、IC50の値を計算した。実験はすべてtriplicateでおこない、ほぼ全ての細胞で同様な結果でない限り3回繰り返した。結果を表4に示す。緑茶エキスの活性成分が、軟膏基材と結合して効果が弱まることが考えられたが、予想に反して試験した5種類の細胞のうち、3種類で活性の上昇が見られた。
【0035】
【表4】

【0036】
実施例5:口腔白板症患者に対する効果
口腔白板症と診断された被験者9名に、実施例3で試作した10%緑茶エキス含有口腔用軟膏剤を1回0.5g、1日3回、12週間、病変部に塗布してもらい、病変部の変化を調べた。結果を表5に示す。
【0037】
【表5】

【0038】
被験者9名のうち6名に効果が認められ、そのうち1名では病変が完全に消失し、正常細胞と変わらない状態まで治癒した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶エキスと、アルギン酸又はその塩とを含有する口腔腫瘍改善又は治療用軟膏剤。
【請求項2】
アルギン酸塩がアルギン酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1記載の口腔腫瘍改善又は治療用軟膏剤。
【請求項3】
口腔扁平上皮癌細胞又は悪性黒色腫細胞を増殖抑制することを特徴とする請求項1又は2記載の口腔腫瘍改善又は治療用軟膏剤。
【請求項4】
さらにパラフィン、ワセリン及びプラスチベースを含有し、パラフィンとワセリンとアルギン酸とプラスチベースとの重量比が8:3:8:6であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の口腔腫瘍改善又は治療用軟膏剤。
【請求項5】
請求項1〜4記載のいずれか記載の口腔腫瘍改善又は治療用軟膏剤を有効成分として配合した飲食品。

【公開番号】特開2007−308426(P2007−308426A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−139860(P2006−139860)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【Fターム(参考)】