説明

口腔内速崩壊性錠剤及びその製造方法

【課題】経時的な硬度低下が抑制され、かつ口当たりのよい口腔内速崩壊性錠剤の提供。
【解決手段】医薬成分をアミノアルキルメタアクリレートコポリマーで被覆した顆粒中に含有し、崩壊剤を該顆粒外に含有する口腔内速崩壊性錠剤で、前記崩壊剤がポリビニルピロリドンである。また、医薬成分含有顆粒をアミノアルキルメタアクリレートコポリマーで被覆した後、崩壊剤を含む組成物と混合し、圧縮成型する口腔内速崩壊性錠剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内速崩壊性錠剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、疾病の治療において、患者のQOL(Quality of Life)の改善を目的に、製剤学的工夫を凝らした製剤開発が盛んであり、口腔内速崩壊性錠剤は最も多く開発されている製剤である。口腔内速崩壊性錠剤は、口腔内の少量の唾液でも瞬時に崩壊することから、服用が容易であり、通常の錠剤では嚥下が困難な高齢者や小児に最適な製剤である。また水なしで服用できるため服用の場所や時間が制限されない利点も有する。
【0003】
口腔内速崩壊性錠剤は、通常PTP包装として出荷され、直前にこれを破って服用される。ところが近年PTP包装ではなく、自動錠剤分包機を用い錠剤を一包化して患者に渡すことが多くなっている。自動分包機にかけられる錠剤は、PTP包装から取り出して分包後はグラシン紙などで包装され、保存される。したがって、製剤は大気雰囲気へ露出した状態においても必要な硬度を保持することが重要である。
【0004】
大気雰囲気下状態であっても製剤の硬度を保持する方法として、水不溶性親水性医薬品添加物の水性分散液を用いて薬剤含有顆粒を造粒し、得られた顆粒に滑沢剤を混合して圧縮成形する方法の報告がある(特許文献1)。
【特許文献1】特開2006−199632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、経時的な硬度の低下が抑制され、かつ口当たりのよい口腔内速崩壊性錠剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のコーティング剤で被覆した薬剤含有顆粒を調製し、さらに崩壊剤を添加し圧縮成型することで目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)医薬成分をアミノアルキルメタアクリレートコポリマーで被覆した顆粒中に含有し、崩壊剤を該顆粒外に含有する口腔内速崩壊性錠剤、
(2)医薬成分含有顆粒をアミノアルキルメタアクリレートコポリマーで被覆した後、崩壊剤を含む組成物と混合し、圧縮成型することを特徴とする口腔内速崩壊性錠剤の製造方法
に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、経時的な硬度の低下が抑制され、かつ口当たりのよい口腔内速崩壊性錠剤の提供が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本願発明について詳細に説明するが、本願明細書において口腔内速崩壊性錠剤とは、口腔内で唾液の存在下、咀嚼無しに約90秒、好ましくは約60秒、更に好ましくは40秒より短い時間で崩壊する固形医薬製剤をいう。
【0010】
本発明において医薬成分とは、経口的に投与される医薬成分であれば特に限定はない。例えば、解熱鎮痛薬、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、交感神経興奮剤、副交感神経遮断剤、中枢興奮薬、H2ブロッカー、制酸剤、消炎酵素剤、抗炎症剤、気管支拡張剤、抗菌剤、鎮咳剤、去痰剤、抗コリン剤、止しゃ剤、催眠鎮静薬、利胆薬、血圧降下剤、骨格筋弛緩薬、乗り物酔い予防・治療薬等、ビタミン類、生薬類などが挙げられる。医薬成分含有顆粒の造粒法は、乾式造粒法,攪拌造粒法、押出造粒法、流動層造粒法、転動流動層造粒法、噴霧造粒法などであり、好ましくは流動層造粒法又は転動流動層造粒法である。顆粒中の医薬成分の濃度は、特に限定しないが、顆粒中0.02〜100質量%が好ましい。また、顆粒の平均粒径0.1〜350μmであることが好ましく、さらに好ましくは50〜200μmである。
【0011】
医薬成分含有顆粒は、本発明の効果を損なわない限り、医薬品成分以外の成分を配合することができ、例えば、賦形剤、結合剤が挙げられる。
【0012】
医薬成分含有顆粒は、硬度低下抑制のためアミノアルキルメタアクリレートコポリマーで被覆する。アミノアルキルメタアクリレートコポリマーとしては、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(商品名:オイドラギットE100及びEPO)、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS(商品名:オイドラギットRS及びRL)が挙げられる。アミノアルキルメタアクリレートコポリマーの添加量は、医薬成分含有顆粒1質量部に対して好ましくは約0.001〜10質量部、さらに好ましくは約0.01〜1質量部、特に好ましくは約0.05〜0.5質量部である。
【0013】
本発明で使用される崩壊剤は、医薬品製剤の製造に使用可能なものであれば特に限定はなく、例えば、医薬品添加物事典[日本医薬品添加剤協会、薬事日報社(2007年)]に記載されているものを使用できる。例えば、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム,メチルセルロースなどのセルロース類、クロスポビドンなどで、飲用のし易さ(口当たりのよさ)の点からクロスポピドンが好ましい。崩壊剤の配合量は、口腔内速崩壊性錠剤中0.5〜50質量%であることが好ましく、さらに好ましくは1〜10質量%,特に好ましくは2〜6質量%である。
【0014】
口腔内速崩壊性錠剤は、必要により医薬品製剤の製造に使用可能な添加物を配合することができる。具体的には、医薬品添加物事典[日本医薬品添加剤協会、薬事日報社(2007年)]に記載されているものを使用でき、例えば、賦形剤として乳糖、ブドウ糖などの糖類、D−ソルビトール、マンニトールなどの糖アルコール類、結晶セルロースなどのセルロース類、部分アルファ化デンプン、トウモロコシデンプンなどの澱粉類など、滑沢剤としてステアリン酸及びその金属塩類、並びにタルク、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、ショ糖脂肪酸エステル等、甘味剤として糖類、糖アルコール類、アスパルテーム、サッカリン及びその塩類、グリチルリチン酸及びその塩類、ステビア、並びにアセスルファムカリウム等、嬌味剤としてクエン酸、クエン酸ナトリウム、コハク酸、酒石酸及びフマル酸等、着色剤として三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、カラメル、リボフラビン及びアルミニウムレーキ等、香料としてメントール及びオレンジ油等が挙げられる。
【0015】
本発明において、成形される錠剤の形状は、本発明の効果を損なうものでなければ特に限定はされない。例えば、中抜き、多角形及び凹型などの特殊な形状にすることができる。また、錠剤の舌の上での接触面積を増やし、口腔内水分を迅速に錠剤内部へ浸透させ、口腔内速崩壊性を高めるために、錠厚を薄く、錠径を大きくした扁平状の錠剤に成形することもできる。
【0016】
添加成分の混合は、通常の混合法を用いることができ、例えば、V字型混合機などを用いることができる。圧縮成形
については、通常の打錠法を用いることができ、例えば、ロータリー打錠機などを用いることができる。
【0017】
以下に、本発明の実施例、比較例、試験例を挙げて、さらに具体的に本発明を説明する。
イミダフェナシン含有造粒物及びコーティング顆粒の評価方法は、以下の通りである。
[粒度分布測定]篩式粒度分布測定器(ATM、ソニックシフター)にて、目開き75、106、150、180、212、355μmの篩を用いて測定した。
また、粒度分布測定より平均粒子径(50%径)を算出した。
口腔内速崩壊錠の評価方法
[硬度試験]錠剤硬度計(岡田精工社製)を用いて測定した。試験は5錠で行い、その平均値を示す。
[崩壊試験]崩壊試験機(富山産業社製)を用いて測定した。試験は6錠で行い、その平均値を示す。試験液は水を用い、錠剤が完全に崩壊し溶解するまでの時間を測定した。
【0018】
実施例1
イミダフェナシン25.0g、コリドン90F(BASF)12.5gを精製水738.75g、エタノール1723.75gの混液に溶解した。スターチ1500G(日本カラコン)4962.5gを流動層造粒機(フロイント産業製、FL-5)に仕込み、トップスプレー法にてこの溶液をコーティングし(噴霧液量100g/min、噴霧空気圧0.3MPa、給気温度70℃)、イミダフェナシン含有造粒物得た(平均粒子径:128μm)。別に、オイドラギットEPO(Rohm GmbH & Co. KG)750g、ステアリン酸マグネシウム植物性(太平化学産業)375gを精製水3412.5g、エタノール7962.5gの混液に溶解した。イミダフェナシン含有造粒物3750gを流動層造粒機(フロイント産業製、FL-5)に仕込み、トップスプレー法にてこの溶液をコーティングし(噴霧液量100g/min、噴霧空気圧0.3MPa、給気温度80℃)、コーティング顆粒を得た(平均粒子径:117μm)。
さらに、このコーティング顆粒2600g、ペアリトール(ROQUETTE JAPAN)14640g、コリドンCL-F(BASF)540g及びカープレックス#67(DSLジャパン)40gを混合後、ステアリン酸マグネシウム植物性(太平化学産業)180gを加え混合後、ロータリー打錠機を用いて打錠圧9kNにて1錠あたりイミダフェナシン0.1mgを含む180mgの錠剤を製した。得られた錠剤は硬度5.6kg(n=5)、崩壊時間12秒(n=6)を示した。
【0019】
実施例2
イミダフェナシン20.0g、コリドン90F(BASF)10.0gを精製水591g、エタノール1379gの混液に溶解した。スターチ1500G(日本カラコン)4970gを流動層造粒機(フロイント産業製、FL-5)に仕込み、トップスプレー法にてこの溶液をコーティングし(噴霧液量100g/min、噴霧空気圧0.3MPa、給気温度70℃)、イミダフェナシン含有造粒物を得た(平均粒子径:124μm)。別に、オイドラギットEPO(Rohm GmbH & Co. KG)750g、ステアリン酸マグネシウム植物性(太平化学産業)375gを精製水3412.5g、エタノール7962.5gの混液に溶解した。イミダフェナシン含有造粒物3750gを流動層造粒機(フロイント産業製、FL-5)に仕込み、トップスプレー法にてこの溶液をコーティングし(噴霧液量100g/min、噴霧空気圧0.3MPa、給気温度80℃)、コーティング顆粒を得た(平均粒子径:120μm)。
さらに、このコーティング顆粒3250g、ペアリトール(ROQUETTE JAPAN)13990g、コリドンCL-F(BASF)540g及びカープレックス#67(DSLジャパン)40gを混合後、ステアリン酸マグネシウム植物性(太平化学産業)180gを加え混合後、ロータリー打錠機を用いて打錠圧9kNにて1錠あたりイミダフェナシン0.1mgを含む180mgの錠剤を製した。得られた錠剤は硬度4.9kg(n=5)、崩壊時間10秒(n=6)を示した。
【0020】
実施例3
イミダフェナシン25.0g、コリドン90F(BASF)12.5gを精製水738.75g、エタノール1723.75gの混液に溶解した。スターチ1500G(日本カラコン)2500g及びセオラス PH-301(旭化成ケミカルズ)2462.5gを流動層造粒機(フロイント産業製、FL-5)に仕込み、トップスプレー法にてこの溶液をコーティングし(噴霧液量100g/min、噴霧空気圧0.3MPa、給気温度70℃)、イミダフェナシン含有造粒物を得た(平均粒子径:85μm)。別に、オイドラギットEPO(Rohm GmbH & Co. KG)750g、ステアリン酸マグネシウム植物性(太平化学産業)375gを精製水3412.5g、エタノール7962.5gの混液に溶解した。イミダフェナシン含有造粒物3750gを流動層造粒機(フロイント産業製、FL-5)に仕込み、トップスプレー法にてこの溶液をコーティングし(噴霧液量100g/min、噴霧空気圧0.3MPa、給気温度80℃)、コーティング顆粒を得た(平均粒子径:118μm)。
さらに、このコーティング顆粒2600g、ペアリトール(ROQUETTE JAPAN)14640g、コリドンCL-F(BASF)540g及びカープレックス#67(DSLジャパン)40gを混合後、ステアリン酸マグネシウム植物性(太平化学産業)180gを加え混合後、ロータリー打錠機を用いて打錠圧7.7kNにて1錠あたりイミダフェナシン0.1mgを含む180mgの錠剤を製した。得られた錠剤は硬度5.2kg(n=5)、崩壊時間12秒(n=6)を示した。
【0021】
実施例4
イミダフェナシン25.0g、オイドラギットEPO(Rohm GmbH & Co. KG)125g及びステアリン酸マグネシウム植物性(太平化学産業)62.5gを精製水915g、エタノール1372.5gの混液に溶解した。スターチ1500G(日本カラコン)4787.5gを流動層造粒機(フロイント産業製、FL-5)に仕込み、トップスプレー法にてこの溶液をコーティングし(噴霧液量100g/min、噴霧空気圧0.3MPa、給気温度70℃)、イミダフェナシン含有造粒物を得た(平均粒子径:115μm)。別に、オイドラギットEPO(Rohm GmbH & Co. KG)940g、ステアリン酸マグネシウム植物性(太平化学産業)470gを精製水5702.8g、エタノール8554.2gの混液に溶解した。イミダフェナシン含有造粒物4700gを流動層造粒機(フロイント産業製、FL-5)に仕込み、トップスプレー法にてこの溶液をコーティングし(噴霧液量100g/min、噴霧空気圧0.3MPa、給気温度80℃)、コーティング顆粒を得た(平均粒子径:123μm)。
さらに、このコーティング顆粒2600g、ペアリトール(ROQUETTE JAPAN)14640g、コリドンCL-F(BASF)540g及びカープレックス#67(DSLジャパン)40gを混合後、ステアリン酸マグネシウム植物性(太平化学産業)180gを加え混合後、ロータリー打錠機を用いて打錠圧8.6kNにて1錠あたりイミダフェナシン0.1mgを含む180mgの錠剤を製した。得られた錠剤は硬度5.6kg(n=5)、崩壊時間12秒(n=6)を示した。
【0022】
比較例1
イミダフェナシン4.0g、コリドン90F(BASF)4gを精製水196g、エタノール196gの混液に溶解した。スターチ1500G(日本カラコン)392gを転動流動層造粒機(ダルトン製、NQ−160)に仕込み、トップスプレー法にてこの溶液をコーティングし(噴霧液量15g/min、噴霧空気圧0.1MPa、給気温度50℃)、イミダフェナシン含有造粒物を得た。
さらに、このイミダフェナシン含有造粒物25g、ペアリトール(ROQUETTE JAPAN)172g、コリドンCL-F(BASF)45g及びカープレックス#67(DSLジャパン)1gを混合後、ステアリン酸マグネシウム植物性(太平化学産業)4.5gを加え混合後、ロータリー打錠機を用いて打錠圧1000kgにて1錠あたりイミダフェナシン0.1mgを含む180mgの錠剤を製した。得られた錠剤は硬度5.7kg(n=5)を示した。
【0023】
なお、実施例及び比較例に用いたものは、下記の通りである。
1.商品名スターチ1500G(日本カラコン):部分α化デンプン
2.商品名セオラス PH-301及びPH-102(旭化成ケミカルズ):結晶セルロース
3.商品名コリドン90F(BASF):ポピドン
4.商品名オイドラギットEPO及びE100(Rohm GmbH & Co. KG):アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE
5.商品名ステアリン酸マグネシウム植物性(太平化学産業)
6.商品名ペアリトール(ROQUETTE JAPAN):D−マンニトール
7.商品名コリドンCL-F(BASF):クロスポピドン
8. 商品名カープレックス#67(DSLジャパン):含水二酸化ケイ素
【0024】
試験例
実施例1及び比較例1で得られた錠剤は恒温恒湿機(楠本化成製 DH18型)を用いて25℃60%RH(相対湿度)にガラス瓶開放状態で保存し、経時的に測定した。硬度は錠剤硬度計(岡田精工社製)を用いて測定した。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
表1に示すように比較例1の造粒物をオイドラギットEで被覆しない製剤は、初期に対する4週間後の硬度の変化率は約28%であり硬度低下の大きいことがわかる。一方、実施例1のオイドラギットEで被覆した製剤は、初期に対する3箇月後の硬度の変化率は約8.9%であり硬度低下の小さいことがわかる。また、表2に示すように実施例1の製剤は、崩壊時間についても経時的にほとんど変化しないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明により、経時的な硬度低下の抑制され、かつ口当たりのよい口腔内速崩壊性錠剤の提供が可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬成分をアミノアルキルメタアクリレートコポリマーで被覆した顆粒中に含有し、崩壊剤を該顆粒外に含有する口腔内速崩壊性錠剤。
【請求項2】
前記崩壊剤が、クロスポピドンである請求項1に記載の口腔内速崩壊性錠剤。
【請求項3】
医薬成分含有顆粒をアミノアルキルメタアクリレートコポリマーで被覆した後、崩壊剤を含む組成物と混合し、圧縮成型することを特徴とする口腔内速崩壊性錠剤の製造方法。


【公開番号】特開2009−179603(P2009−179603A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20182(P2008−20182)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000001395)杏林製薬株式会社 (120)
【Fターム(参考)】