説明

口腔扁平上皮癌の検出方法、及び抑制方法

【課題】口腔扁平上皮癌におけるゲノム構造の変化を指標として、口腔扁平上皮癌の悪性度を含めて検出する手段を提供すること。
【解決手段】口腔扁平上皮癌におけるゲノム構造の変化を指標として口腔扁平上皮癌の悪性度を含めた検出を可能にすることを見出した。また、本発明は、口腔扁平上皮癌において、遺伝子の不活性化を回復することにより、口腔扁平上皮癌の増殖を抑制することも見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔扁平上皮癌をその遺伝子型を観察することで初期に診断することを目的として、特定の染色体領域に存在する遺伝子の変化を検出することによって癌を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔扁平上皮癌[oral squamous−cell carcinoma(OSCC)]は、頭頚部癌に分類され、主として口腔粘膜上皮などから発生する腫瘍である。頭頚部癌の中で35%程度と発生割合が高く、全世界で毎年27万人に何らかの影響を与えている(Parkin,DM., et al.,CA Cancer J Clin.55,74−108,2002)。発生部位では舌がもっとも多く、次いで歯肉(歯茎)に発生することが多い。他に頬粘膜、口蓋、口底といったその他の口腔粘膜、さらに顎の骨や唾液腺にも発生することが知られている。
【0003】
近年、口腔扁平上皮癌のための診断と治療の手順は進歩しているにもかかわらず、その予後は改善されていない。このため、口腔扁平上皮癌における原因遺伝子を見つけ出し、その機能を解明することは、効果的な治療法、化学的予防のための新しい戦略の知見を築くためにも望まれている。
【0004】
【非特許文献1】Parkin,DM., et al.,CA Cancer J Clin.55,74−108,2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
口腔由来、主に口腔上皮由来細胞の癌化についての遺伝子レベルでのメカニズムが解明されれば、遺伝子レベルにおける口腔由来細胞の癌化の発見や、口腔扁平上皮癌の悪性度の診断、進行の抑制をおこなうことが可能となり、さらに、メカニズムに基づく薬剤の選別、開発や治療法の確立が可能となるはずである。具体的には、口腔扁平上皮癌に特徴的な挙動を示す遺伝子を同定して、遺伝子を中心とした技術的検討をおこなうことにより、この課題を解決することができると考えられる。即ち、本発明は、口腔扁平上皮癌などの癌に特徴的な挙動を示す遺伝子を同定して癌の検出方法及び細胞増殖抑制剤を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
Comparative Genomic Hybridization (CGH)はゲノム上で多数の遺伝子増幅並びに欠失、あるいは遺伝子の不活性化に伴う遺伝子異常を解析するためには、簡便で迅速であり、最良の方法である。そして、癌化並びに癌の悪性化などに関与するゲノム上の遺伝子異常を解析するためにCGHアレイに搭載する800種類、4500種類のBAC/PAC DNAを選別する(MCG CancerArray-800、MCG Whole Genome‐4500;Takada H., et al.,Cancer Sci.96,100−105,2005、Inazawa J., et al.,Cancer Sci.95,559−563,2004)ことにより、口腔由来の細胞の癌化を促進する癌関連遺伝子、すなわち、Phosphoribosyl transferase domain containing 1(PRTFDC1)遺伝子の同定に成功した。そして、PRTFDC1遺伝子の欠失、または不活性化、すなわち、PRTFDC1蛋白質の減少が口腔扁平上皮癌の増殖を顕著に促進すること、また、PRTFDC1遺伝子の転写産物または蛋白質を増加させると口腔扁平上皮癌の増殖を著しく低下することを見出すことに成功し、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明によれば、検体において、1q21、2q24.1−q24.2、3p13、7p11.2、10p12.1、11p15.4、11p15.2、11p13.3、11q22、11q23.3、12p13、12q24.31、13q33.3−q34、12q24.1、19q13、又は22q12.1の染色体領域に存在する遺伝子の変化を少なくとも1つ以上を検出することにより、検体の悪性度を含めた癌化を検出する、癌の検出方法が提供される。
【0008】
好ましくは、遺伝子はBCL9、MITF、EGFR、PTH、BCL1、FGF4、CCND1、FGF3、PGR、YAP1、CIAP1、MMP7、MMP1、CCND2、FGF6、BCL7A、DP1、GAS6、SUPT5H、PRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2の少なくとも1つ以上である。
【0009】
好ましくは、遺伝子の変化は、増幅、欠失、又は不活性化の少なくとも1つ以上である。
好ましくは、遺伝子の変化は、CpGアイランドのメチル化による不活性化である。
好ましくは、本発明の方法は、BCL9、MITF、EGFR、PTH、BCL1、FGF4、CCND1、FGF3、PGR、YAP1、CIAP1、MMP7、MMP1、CCND2、FGF6、BCL7A、DP1、GAS6、又はSUPT5H遺伝子の増幅、あるいはPRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2遺伝子の欠失を検出することにより、検体の悪性度を含めた癌化を検出する、癌の検出方法である。
【0010】
好ましくは、PRTFDC1遺伝子の欠失又は不活性化を検出することにより、検体の悪性度を含めた癌化を検出する。
好ましくは、検体は、口腔由来の組織である。
好ましくは、癌は、口腔扁平上皮癌である。
好ましくは、遺伝子の変化を、DNAチップ法、サザンブロット法、ノーザンブロット法、リアルタイムRT−PCR法、FISH法、CGH法、または、アレイCGH法、Bsulfite Sequence法、COBRA法を用いて検出する。
【0011】
本発明によればさらに、PRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2遺伝子、または、該遺伝子の発現産物である蛋白質をインビトロで細胞に導入することを含む、細胞の増殖を抑制する方法が提供される。
本発明によればさらに、PRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2遺伝子、または、該遺伝子の発現産物である蛋白質を含む、細胞増殖抑制剤が提供される。
【0012】
本発明によればさらに、PRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2遺伝子のsiRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたは機能欠失型遺伝子を、インビトロで腫瘍細胞に導入することを含む、細胞の増殖を活性化する方法が提供される。
本発明によればさらに、PRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2遺伝子のsiRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたは機能欠失型遺伝子を含む、細胞増殖活性化剤が提供される。
【0013】
本発明によればさらに、PRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2遺伝子のCpGアイランドのメチル化に起因して遺伝子の発現が抑制されている口腔扁平上皮癌に対して、被験物質を接触させて、遺伝子の発現を検出し、遺伝子発現が被験物質を接触させない系よりも増加していた場合に、被験物質を、遺伝子のCpGアイランドの脱メチル化により遺伝子を活性化させることができる抗腫瘍物質として選別する、物質のスクリーニング法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、口腔由来の細胞検体における癌化、悪性度を的確に把握することが可能となった。また、口腔扁平上皮癌において、遺伝子発現を不活性化するPRTFDC1遺伝子の転写産物を導入することにより、口腔扁平上皮癌の増殖を抑制することができる。また、PRTFDC1遺伝子の発現が不活性化することにより発生する口腔扁平上皮癌の治療剤のスクリーニングをおこなうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
(1)癌の検出方法
本発明による癌の検出方法は、検体において、1q21、2q24.1−q24.2、3p13、7p11.2、10p12.1、11p15.4、11p15.2、11p13.3、11q22、11q23.3、12p13、12q24.31、13q33.3−q34、12q24.1、19q13、又は22q12.1の染色体領域に存在する遺伝子の変化を少なくとも1つ以上を検出することにより、検体の悪性度を含めた癌化を検出することを特徴とする。より具体的には、検体において、BCL9、MITF、EGFR、PTH、BCL1、FGF4、CCND1、FGF3、PGR、YAP1、CIAP1、MMP7、MMP1、CCND2、FGF6、BCL7A、DP1、GAS6、又はSUPT5H遺伝子の増幅、あるいはPRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2遺伝子の欠失を検出することにより、検体の悪性度を含めた癌化を検出することができる。特に好ましくは、口腔由来の細胞におけるPRTFDC1遺伝子の欠失又は不活性化を検出することにより、口腔由来細胞の悪性度を含めた癌化を検出することができる。
【0016】
ヒトゲノムプロジェクトの成果により、PRTFDC1遺伝子の転写産物は既に知られており、10p12染色体領域に存在する遺伝子である。PRTFDC1遺伝子がコードする蛋白質は、ホスホリボシルトランスフェラーゼドメインを持つ蛋白質であることはわかっているが、詳細な機能は不明であり、このPRTFDC1遺伝子が、口腔扁平上皮癌の発症、または悪性度に関わる重要な癌関連遺伝子であることは知られていない。
【0017】
上述したように、本検出方法は、口腔由来の細胞や口腔扁平上皮癌におけるPRTFDC1遺伝子の欠失や不活性化を検出することを特徴とする方法である。
PRTFDC1遺伝子の欠失や不活性化を検出する対象となる口腔由来の細胞や口腔扁平上皮癌は、検体提供者の生検組織細胞が好適である。
この検体組織細胞は、健常人の口腔に由来する細胞か、口腔扁平上皮癌患者の癌組織であるかを問わないが、現実的には、検査等の結果、口腔粘膜や舌、歯茎などに癌化が疑われる病変部が認められた場合の病変組織、または口腔扁平上皮癌であることが確定しているが、その悪性度や進行度を判定する必要がある口腔扁平上皮癌の組織、等が主な対象となり得る。
【0018】
本検出方法により、「検査等の結果、口腔に由来する組織や細胞に癌化が疑われる病変部が認められた場合の病変組織」におけるPRTFDC1遺伝子の欠失や不活性化が認められた場合には、病変組織は癌化に向かって進行しているか、あるいは既に癌化の状態であり、かつ、悪性度が高くなりつつあることが判明し、早急な本格的治療(手術等による病変部の除去、本格的な化学療法等)をおこなう必要性が示される。また、「口腔扁平上皮癌であることが確定しているが、その悪性度や進行度を判定する必要がある口腔扁平上皮癌の組織」におけるPRTFDC1遺伝子の欠失や不活性化が認められた場合にも、癌組織の悪性度が高くなりつつあることが判明し、早急な本格的治療手術等による病変部の除去、本格的な化学療法等)をおこなう必要性が示される。検体として採取された口腔扁平上皮癌組織は、必要な処理、例えば、採取された組織からのDNA或るいはRNAの調製をおこない、本検出方法をおこなう対象とすることができる。
【0019】
(2) PRTFDC1遺伝子の欠失の検出
PRTFDC1遺伝子の欠失の検出を直接的におこなうことができる代表的な方法として、CGH(Comparative Genomic Hybridization)法とFISH(Fluorescence in situ hybridization)法を挙げることができる。この態様の本検出方法は、PRTFDC1遺伝子を有するBAC(Bacterial Artificial Chromosome)DNA、YAC(Yeast Artificial Chromosome)DNA、PAC(P1−drived Artificial Chromosome)DNA(以下、BAC DNA等ともいう)を標識し、FISHをおこなうと、PRTFDC1遺伝子の有無、すなわち欠失を検出することができる。具体的には、PRTFDC1遺伝子を有するBAC DNAとしては、RP11−165A20等を上げることができる。
【0020】
上記の態様の方法は、ゲノムDNA定着基盤を用いておこなうことが、好適であり、かつ、現実的である。
【0021】
通常に得られるBAC DNA等は、ゲノムDNA定着基盤を多数製造して実用化するには少量であるので、当該DNAを遺伝子増幅産物として得る必要がある(この遺伝子増幅行程を「無尽蔵化」ともいう)。無尽蔵化においては、まずBAC DNA等を、4塩基認識酵素、例えば、RsaI、DpnI、HaeIII等で消化した後、アダプターを加えてライゲーションをおこなう。アダプターは10〜30塩基、好適には15〜25塩基からなるオリゴヌクレオチドで、2本鎖は相補的配列を有し、アニーリング後、平滑末端を形成する側の3‘-末端のオリゴヌクレオチドをリン酸化する必要がある。次に、アダプターの一方のオリゴヌクレオチドと同一配列を有するプライマーを用いて、PCR(Polymerase Chain Reaction)法により増幅し、無尽蔵化することができる。一方、各BAC DNA等に特徴的な50〜70塩基のアミノ化オリゴヌクレオチドを検出用プローブとして用いることもできる。
【0022】
このようにして無尽蔵化したBAC DNA等を基盤上、好適には固体基盤上に定着させることにより、所望するDNA定着基盤を製造することができる。固体基盤としては、ガラス板が好ましい。ガラス等の固体基盤は、ポリ−L−リジン、アミノシラン、金・アルミニウム等の凝着により基盤をコートすることがより好ましい。
【0023】
上記の無尽蔵化したDNAを基盤上にスポットする濃度は、好ましくは10pg/μl〜5μg/μl、より好ましくは1ng/μl〜200ng/μlである。スポットする量は好ましくは1nl〜1μl、より好ましくは10nl〜100nlである。また、基盤に定着させる個々のスポットの大きさ及び形状は、特に限定されないが、例えば、大きさは直径0.01〜1mmであり得、上面から見た形状は円形〜楕円形であり得る。乾燥スポットの厚みは、特に制限はないが、1〜100μmである。さらに、スポットの個数は、特に制限はないが、使用する基盤あたり10〜50,000個、より好ましくは100〜5,000個である。それぞれのDNAはSingularからQuadruplicateの範囲でスポットするが、Duplicate或るいはTriplicateにスポットすることが好ましい。
【0024】
乾燥スポットの調整は、例えば、スポッターを用いて無尽蔵化したBAC DNA等を基盤上にたらして、複数のスポットを形成した後、スポットを乾燥することにより製造することができる。スポッターとしてインクジェット式プリンター、ピンアレイ式プリンター、バブルジェット(登録商標)式プリンターが使用できるが、インクジェット式プリンターを使用することが望ましい。例えば、GENESHOT(日本ガイシ株式会社、名古屋)等を使用できる。
このようにして無尽蔵化したBAC DNA等を基盤上、好適には固体基盤上に定着させることにより、所望するDNA定着基盤を製造することができる。
【0025】
また、このPRTFDC1遺伝子の欠失を直接的に検出する手段の一つとしてサザンブロット法を挙げることができる。サザンブロット法は、検体から得られるゲノムDNAを分離して固定し、これと、PRTFDC1遺伝子とのハイブリダイズを検出することにより、検体中の当該遺伝子の存在を検出する方法である。
【0026】
また、ノーザンブロット法、リアルタイムRT−PCR法によりPRTFDC1遺伝子の欠失を検出してもよい。ノーザンブロット法は、検体から得られるmRNAを分離して固定し、これとPRTFDC1とのハイブリダイゼーションを検出することにより、検体中の当該遺伝子のmRNAの存在を検出する方法である。リアルタイムRT−PCR法は、逆転写反応とポリメラーゼ連鎖反応による目的遺伝子の増幅を経時的(リアルタイム)に測定する方法であり、増幅率に基づいて鋳型となるmRNAの定量を行なうことができる。この定量は蛍光色素を用いて行われ、二種類の方法がある。即ち、二重鎖DNAに特異的に挿入(インターカレート)して蛍光を発する色素 (例えば、SYBR green) を用いる方法と、増幅するDNA配列に特異的なオリゴヌクレオチドに蛍光色素を結合させたプローブを用いる方法が知られている。
【0027】
(3)PRTFDC1遺伝子の不活性化の検出
CpGリッチプロモーター並びにエキソン領域を密にメチル化すると転写不活性化が起こることが報告されている(Bird AP., et al., Cell,99,451−454,1999).癌細胞では、CpGアイランドはそれ以外の領域と比較すると高い頻度で密にメチル化されており、プロモーター領域のHypermethylationは、癌での癌抑制遺伝子の不活性化に深く関与している(Ehrlich M., et al,Oncogene,21,6694−6702,2002)。
【0028】
後述するように、実際、PRTFDC1遺伝子のエキソンに存在するCpGアイランドはプロモーター活性を有している。また、このCpGアイランドのメチル化の度合いは、一部の口腔扁平上皮癌でのPRTFDC1遺伝子発現の抑制と強く相関していた。
【0029】
そして、口腔扁平上皮癌を、脱メチル化試薬である5−アザデオキシシチジン(5−aza−dCyd)存在下で培養することにより、CpGアイランドを脱メチル化することができ、その結果、PRTFDC1遺伝子発現を回復させることができた。これらの結果により、CpGアイランドの高頻度メチル化(Hypermethylation)が口腔扁平上皮癌における癌抑制遺伝子の発現抑制を高頻度で起こす原因の一つであることが判明した。
【0030】
上述した検出手段により、PRTFDC1遺伝子の発現量が減少していることが判明した検体細胞(癌組織に由来するプライマリー癌細胞)に対して、脱メチル化剤(5−アザデオキシシチジンなど)を作用させて、遺伝子発現量の回復を検討することができる。すなわち、検体細胞に脱メチル化剤を作用させて、PRTFDC1遺伝子の発現量が回復する場合には、検体細胞における遺伝子の抑制要因は、CpGアイランドのメチル化であり、検体提供者に、脱メチル化作用を有する薬剤を投与することにより、相応の抗腫瘍効果が期待される。
【0031】
(4)細胞増殖の抑制方法、及び細胞増殖抑制剤
本発明によればさらに、PRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2遺伝子、または、該遺伝子の発現産物である蛋白質をインビトロで細胞に導入することを含む、細胞の増殖を抑制する方法、並びに上記遺伝子又は蛋白質を含む細胞増殖抑制剤が提供される。
【0032】
PRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2遺伝子を取り扱う場合、当業者に公知の技術を用いて培養細胞などから取得したcDNAであってもよいし、PCR法などにより酵素学的に合成したものでもよい。PCR法によりDNAを取得する場合、ヒトの染色体DNA又はcDNAライブラリーを鋳型として使用し、目的とする塩基配列を増幅できるように設計したプライマーを使用してPCRを行う。PCRで増幅したDNA断片は大腸菌などの宿主で増幅可能な適切なベクター中にクローニングすることができる。
【0033】
PRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2遺伝子の検出ブローブ又はプライマーの調製、並びに目的遺伝子のクローニングなどの操作は当業者に既知であり、例えば、Molecular Cloning: A laboratory Mannual、2nd Ed.、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、NY.、1989、Current Protocols in Molecular Biology、Supplement 1〜38、John Wiley & Sons(1987−1997)などに記載された方法に準じて行うことができる。
【0034】
PRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2遺伝子は、ベクターに組み込んだ組換えベクターの形態で用いることができる。ベクターとしてはウイルスベクター又は動物細胞発現用ベクター、好ましくはウイルスベクターが用いられる。ウイルスベクターとしてはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどが挙げられる。中でも、レトロウイルスベクターは、細胞に感染後、ウイルスゲノムが宿主染色体に組み込まれ、ベクターに組み込んだ外来遺伝子を安定にかつ長期的に発現させる可能であるからレトロウイルスベクターを使用することが特に望ましい。
【0035】
動物細胞発現用ベクターとしては例えばpCXN2(Gene,108,193−200,1991)、PAGE207(特開平6−46841号公報)又はその改変体などを用いることができる。
【0036】
上記組換えベクターは適当な宿主に導入して形質転換し、得られた形質転換体を培養することによって生産することができる。組換えベクターがウイルスベクターの場合、これを導入する宿主としてはウイルス生産能を有する動物細胞が用いられ、例えば、COS−7細胞、CHO細胞、BALB/3T3細胞、HeLa細胞などが挙げられる。レトロウイルスベクターの宿主としては、ΨCRE、ΨCRIP、MLVなどが、アデノウイルスベクター及びアデノ随伴ウイルスベクターの宿主としては、ヒト胎児腎臓由来の293細胞などが用いられる。ウイルスベクターの動物細胞への導入はリン酸カルシウム法などで行うことができる。また、組換えベクターが動物細胞発現用ベクターの場合、これを導入する宿主としては大腸菌K12株、HB101株、DH5α株などを使用でき、大腸菌の形質転換は当業者に公知である。
【0037】
得られた形質転換体はそれぞれに適した培地、培養条件により培養する。例えば、大腸菌の形質転換体の培養は、生育に必要な炭素源、窒素源、無機物その他を含有するpH5〜8程度の液体培地を用いて行うことができる。培養は通常15〜43℃で約8〜24時間程度行う。この場合、目的とする組み換えベクターは、培養終了後、通常のDNA単離精製法により得ることができる。
【0038】
また、動物細胞の形質転換体の培養は、例えば約5〜20%のウシ胎児血清を含む199培地、MEM培地、DMEM培地などの培地を用いて行うことができる。培地のpHは約6〜8が好ましい。培養は通常約30〜40℃で約18〜60時間行う。この場合、目的とする組み換えベクターは、それを含有するウイルス粒子が培養上清中に放出されるので、ウイルス粒子の濃縮、精製を塩化セシウム遠心法、ポリエチレングリコール沈澱法、フィルター濃縮法などにより得ることができる。
【0039】
本発明の細胞増殖抑制剤は、有効成分である上記遺伝子を遺伝子治療剤に通常用いる基剤と共に配合することにより製造することができる。また、上記遺伝子をウイルスベクターに組み込んだ場合は、組換えベクターを含有するウイルス粒子を調製し、これを遺伝子治療剤に通常用いる基剤と共に配合する。
【0040】
有効成分である上記遺伝子又は蛋白質を配合するために使用する基剤としては、通常注射剤に用いる基剤を使用することができ、例えば、蒸留水、塩化ナトリウム又は塩化ナトリウムと無機塩との混合物などの塩溶液、マンニトール、ラクトース、デキストラン、グルコースなどの溶液、グリシン、アルギニンなどのアミノ酸溶液、有機酸溶液又は塩溶液とグルコース溶液との混合溶液などが挙げられる。あるいはまた、当業者に既知の常法に従って、これらの基剤に浸透圧調整剤、pH調整剤、植物油、界面活性剤などの助剤を用いて、溶液、懸濁液、分散液として注射剤を調製することもできる。これらの注射剤は、粉末化、凍結乾燥などの操作により用時溶解用製剤として調製することもできる。
【0041】
本発明の細胞増殖抑制剤の投与形態としては、通常の静脈内、動脈内などの全身投与でもよいし、局所注射又は経口投与などの局所投与を行ってもよい。さらに、細胞増殖抑制剤の投与にあたっては、カテーテル技術、遺伝子導入技術、又は外科的手術などと組み合わせた投与形態をとることもできる。
【0042】
本発明の細胞増殖抑制剤の投与量は、患者の年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なるが、一般に、成人では一日当たり組み換え遺伝子の重量として1μg/kg体重から1000mg/kg体重程度の範囲であり、好ましくは10μg/kg体重から100mg/kg体重程度の範囲である。投与回数は特に限定されない。
【0043】
(5)細胞増殖の活性化方法、及び細胞増殖活性化剤
本発明によれば、PRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2遺伝子のsiRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたは機能欠失型遺伝子を、インビトロで腫瘍細胞に導入することを含む細胞の増殖を活性化する方法、並びに上記のsiRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたは機能欠失型遺伝子を含む細胞増殖活性化剤が提供される。
【0044】
siRNAは、約20塩基(例えば、約21〜23塩基)またはそれ未満の長さの二本鎖RNAであり、このようなsiRNA は、細胞に発現させることにより、そのsiRNA の標的となる遺伝子(本発明においては、PRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2遺伝子)の発現を抑制することができる。
【0045】
本発明において用いられるsiRNA は、RNAiを引き起こすことができる限り、どのような形態のものでもよい。ここで、「siRNA 」とは、short interfering RNAの略称であり、人工的に化学合成されるかまたは生化学的に合成されたものか、あるいは生物体内で合成されたものか、あるいは約40塩基以上の二本鎖RNAが体内で分解されてできた10塩基対以上の短鎖二本鎖RNAをいい、通常、5'−リン酸、3'−OHの構造を有しており、3'末端は約2塩基突出している。このsiRNA に特異的なタンパク質が結合して、RISC(RNA−induced−silencing−complex)が形成される。この複合体は、siRNA と同じ配列を有するmRNAを認識して結合し、RNaseIII様の酵素活性によってsiRNA の中央部でmRNAを切断する。
【0046】
siRNA の配列と、標的として切断するmRNAの配列とは100%一致することが好ましい。しかし、siRNA の中央から外れた位置の塩基が一致していない場合については、RNAiによる切断活性は部分的には残存することが多いので、必ずしも100%一致していなくてもよい。
【0047】
siRNAの塩基配列と、発現を抑制すべきPRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2遺伝子の塩基配列との間で相同性のある領域は、当該遺伝子の翻訳開始領域を含まないことが好ましい。翻訳開始領域には種々の転写因子や翻訳因子が結合することが予想されるため、siRNA が効果的にmRNAに結合することができず、効果が低減することが予測されるからである。従って、相同性を有する配列は、当該遺伝子の翻訳開始領域から20塩基離れていることが好ましく、より好ましくは当該遺伝子の翻訳開始領域から70塩基離れている。相同性を有する配列としては、例えば、当該遺伝子の3'末端付近の配列でもよい。
【0048】
本発明の別の態様によれば、RNAiにより標的遺伝子の発現を抑制することができる因子として、3'末端に突出部を有する短いヘアピン構造から成るshRNA(short hairpin RNA)を使用することができる。shRNAとは、一本鎖RNAで部分的に回文状の塩基配列を含むことにより、分子内で二本鎖構造をとり、ヘアピンのような構造となる約20塩基対以上の分子のことを言う。そのようなshRNAは、細胞内に導入された後、細胞内で約20塩基(代表的には例えば、21塩基、22塩基、23塩基)の長さに分解され、siRNA と同様にRNAiを引き起こすことができる。上記の通りshRNAは、siRNA と同様にRNAiを引き起こすことから、本発明において有効に用いることができる。
【0049】
shRNAは好ましくは、3'突出末端を有している。二本鎖部分の長さは特に限定されないが、好ましくは約10ヌクレオチド以上であり、より好ましくは約20ヌクレオチド以上である。ここで、3'突出末端は、好ましくはDNAであり、より好ましくは少なくとも2ヌクレオチド以上のDNAであり、さらに好ましくは2〜4ヌクレオチドのDNAである。
【0050】
上記の通り、本発明では、RNAiによりPRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2遺伝子の発現を抑制することができる因子として、siRNA またはshRNAを使用することができる。siRNAの長所としては、(1)細胞内に導入してもRNA自体は正常細胞の染色体内に組み込まれないので、子孫に伝わる変異を起こすような治療ではなく、安全性が高いこと、及び(2)短鎖二本鎖RNAは化学合成が比較的容易であり二本鎖にするとより安定であること、などが挙げられる。また、shRNAの長所としては、遺伝子発現を長期間抑制することによって治療を行う場合、細胞内でshRNAを転写するようなベクターを作製して細胞内に導入することができることなどが挙げられる。
【0051】
本発明で用いるRNAiによりPRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2遺伝子の発現を抑制することができるsiRNA又はshRNAは、人工的に化学合成してもよいし、センス鎖およびアンチセンス鎖のDNA配列を逆向きに連結したヘアピン構造のDNAをT7 RNAポリメラーゼによってインビトロでRNAを合成することによって作製することもできる。インビトロで合成する場合は、T7 RNAポリメラーゼおよびT7プロモーターを用いて、鋳型DNAからアンチセンスおよびセンスのRNAを合成することができる。これらをインビトロでアニーリングした後、細胞に導入すると、RNAiが引き起こされ、標的遺伝子の発現が抑制される。ここでは、例えば、リン酸カルシウム法、又は各種のトランスフェクション試薬(例えば、oligofectamine、Lipofectamineおよびlipofectionなど)を用いてそのようなRNAを細胞内に導入することができる。
【0052】
上記したsiRNA又はshRNAは、細胞増殖活性化剤として有用である。本発明の細胞増殖活性化剤の投与方法は、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、粘膜投与、直腸内投与、膣内投与、患部への局所投与、皮膚投与など)、患部への直接投与などが挙げられる。本発明の薬剤は、医薬組成物として使用する場合、必要に応じて薬学的に許容可能な添加剤を配合することができる。 薬学的に許容可能な添加剤の具体例としては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、キャリア、賦形剤および/または薬学的アジュバントなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
本発明の薬剤の製剤形態は特に限定されないが、例えば、液剤、注射剤、徐放剤などが挙げられる。本発明の薬剤を上記製剤として処方するために使用される溶媒としては、水性または非水性のいずれでもよい。
【0054】
さらに、本発明の細胞増殖活性化剤の有効成分であるsiRNA又はshRNAは、非ウイルスベクターまたはウイルスベクターの形態で投与することができる。非ウイルスベクター形態の場合、リポソームを用いて核酸分子を導入する方法(リポソーム法、HVJ−リポソーム法、カチオニックリポソーム法、リポフェクション法、リポフェクトアミン法など)、マイクロインジェクション法、遺伝子銃(Gene Gun)でキャリア(金属粒子)とともに核酸分子を細胞に移入する方法などを利用することができる。siRNA又はshRNAをウイルスベクターを用いて生体に投与する場合は、組換えアデノウイルス、レトロウイルスなどのウイルスベクターを利用することができる。無毒化したレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、SV40などのDNAウイルスまたはRNAウイルスに、siRNA又はshRNAを発現するDNAを導入し、細胞または組織にこの組換えウイルスを感染させることにより、細胞または組織内に遺伝子を導入することができる。
【0055】
本発明の細胞増殖活性化剤の投与量は、使用目的、疾患の重篤度、患者の年齢、体重、性別、既往歴、又は有効成分であるsiRNA又はshRNAの種類などを考慮して、当業者が決定することができる。siRNA又はshRNAの投与量は特に限定されないが、例えば、約0.1ng〜約100mg/kg/日、好ましくは約1ng〜約10mg/kg/日である。RNAiは、一般に投与後1〜3日間効果が見られる。したがって、毎日〜3日に1回の頻度で投与することが好ましい。発現ベクターを用いる場合、1週間に1回程度投与することも可能である。
【0056】
本発明では、アンチセンスオリゴヌクレオチドを細胞増殖活性化剤として使用することもできる。本発明で用いるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、PRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2遺伝子のDNA配列中の連続する5から100の塩基配列に対して相補的な、またはハイブリダイズするヌクレオチドであって、DNA又はRNAのいずれであっても良く、また機能に支障がない限りにおいて修飾されたものであってもよい。本明細書で言う「アンチセンスオリゴヌクレオチド」とは、DNA又はmRNAの所定の領域を構成するヌクレオチドに対応するヌクレオチドがすべて相補的であるもののみならず、DNA又はmRNAとオリゴヌクレオチドとが安定にハイブリダイズできる限り、多少のミスマッチが存在してもよい。
【0057】
なお、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、修飾されていてもよい。適当な修飾を施すことにより、当該アンチセンスオリゴヌクレオチドは生体内で分解されにくくなり、より安定してITIIαを阻害できるようになる。このような修飾されたオリゴヌクレオチドとしては、S−オリゴ型(ホスフォロチオエート型)、C−5チアゾール型、D−オリゴ型(フォスフォジエステル型)、M−オリゴ型(メチルフォスフォネイト型)、ペプチド核酸型、リン酸ジエステル結合型、C−5プロピニルピリミジン型、2−O−プロピルリボース、2'−メトキシエトキシリボース型等の修飾型のアンチセンスオリゴヌクレオチドが挙げられる。さらに、アンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、リン酸基を構成する酸素原子の少なくとも一部がイオウ原子に置換、修飾されているものでもよい。このようなアンチセンスオリゴヌクレオチドは、ヌクレアーゼ耐性、水溶性、RNAへの親和性に特に優れている。リン酸基を構成する酸素原子の少なくとも一部がイオウ原子に置換、修飾されたアンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、例えば、S−オリゴ型等のオリゴヌクレオチドが挙げられる。
【0058】
アンチセンスオリゴヌクレオチドの塩基数は、50以下であることが好ましく、25以下であることがより好ましい。塩基数があまりに多くなると、オリゴヌクレオチドの合成の手間とコストが増大し、また、収率も低下する。さらに、アンチセンスオリゴヌクレオチドの塩基数は5以上であり、9以上であることが好ましい。塩基数が4以下の場合には、標的遺伝子に対する特異性が低下して好ましくないためである。
【0059】
アンチセンスオリゴヌクレオチド(又はその誘導体)は常法によって合成することができ、例えば、市販のDNA合成装置(例えばAppliedBiosystems社製など)によって容易に合成することができる。合成法はホスホロアミダイトを用いた固相合成法、ハイドロジェンホスホネートを用いた固相合成法などで得ることができる。
【0060】
本発明においてアンチセンスオリゴヌクレオチドを細胞増殖活性化剤として使用する場合には、一般的には、アンチセンスオリゴヌクレオチドと製剤用添加物(担体、賦形剤など)とを含む医薬組成物の形態で提供される。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、ヒトを含む哺乳動物に医薬として投与することができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドの投与経路は特に限定されず、経口投与または非経口投与(例えば、筋肉内投与、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、鼻腔などへの粘膜投与、または吸入投与など)の何れでもよい。
【0061】
アンチセンスオリゴヌクレオチドの製剤形態は特に限定されず、経口投与のための製剤としては例えば、錠剤、カプセル剤、細粒剤、粉末剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤などが挙げられ、非経口投与のための製剤としては例えば、注射剤、点滴剤、座剤、吸入剤、経粘膜吸収剤、経皮吸収剤、点鼻剤、点耳剤などが挙げられる。アンチセンスオリゴヌクレオチドを含む薬剤の形態、使用すべき製剤用添加物、製剤の製造方法などは、いずれも当業者が適宜選択可能である。
【0062】
アンチセンスオリゴヌクレオチドの投与量は、患者の性別、年齢または体重、症状の重症度、予防または治療といった投与目的、あるいは他の合併症状の有無などを総合的に考慮して適宜選択することができる。投与量は、一般的には、0.1μg/kg体重/日〜100mg/kg体重/日、好ましくは0.1μg/kg体重/日〜10mg/kg体重/日である。
【0063】
さらに本発明では、PRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2遺伝子の機能欠失型遺伝子を細胞増殖活性化剤として使用することもできる。機能欠失型遺伝子とは、該当する遺伝子においてその機能を欠失するように変異が導入されている遺伝子のことを言う。具体的には当該遺伝子から作製されるアミノ酸配列の少なくとも1個の構成アミノ酸を欠くもの、少なくとも1個の構成アミノ酸が別のアミノ酸で置換されているもの、少なくとも1個のアミノ酸が付加されたもの等の本来の機能を欠失した一般にムテインと呼ばれるタンパク質を翻訳する当該遺伝子がこれに相当する。
【0064】
機能欠失型遺伝子を細胞増殖活性化剤として使用する場合は、有効成分である上記遺伝子を遺伝子治療剤に通常用いる基剤と共に配合することにより製造することができる。また、上記遺伝子をウイルスベクターに組み込んだ場合は、組換えベクターを含有するウイルス粒子を調製し、これを遺伝子治療剤に通常用いる基剤と共に配合する。
【0065】
上記基剤としては、通常注射剤に用いる基剤を使用することができ、例えば、蒸留水、塩化ナトリウム又は塩化ナトリウムと無機塩との混合物などの塩溶液、マンニトール、ラクトース、デキストラン、グルコースなどの溶液、グリシン、アルギニンなどのアミノ酸溶液、有機酸溶液又は塩溶液とグルコース溶液との混合溶液などが挙げられる。あるいはまた、当業者に既知の常法に従って、これらの基剤に浸透圧調整剤、pH調整剤、植物油、界面活性剤などの助剤を用いて、溶液、懸濁液、分散液として注射剤を調製することもできる。これらの注射剤は、粉末化、凍結乾燥などの操作により用時溶解用製剤として調製することもできる。
【0066】
機能欠失型遺伝子の投与形態としては、通常の静脈内、動脈内などの全身投与でもよいし、局所注射又は経口投与などの局所投与を行ってもよい。さらに、投与にあたっては、カテーテル技術、遺伝子導入技術、又は外科的手術などと組み合わせた投与形態をとることもできる。
【0067】
機能欠失型遺伝子の投与量は、患者の年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なるが、一般に、成人では一日当たり組み換え遺伝子の重量として1μg/kg体重から1000mg/kg体重程度の範囲であり、好ましくは10μg/kg体重から100mg/kg体重程度の範囲である。投与回数は特に限定されない。
【0068】
また、上記した本発明の各種の遺伝子治療剤は、常法により調製されたリポソームの懸濁液に遺伝子を添加し凍結した後融解することにより製造することもできる。リポソームを調製する方法は、薄膜振とう法、超音波法、逆相蒸発法、界面活性剤除去法などがある。リポソームの懸濁液は超音波処理した後、遺伝子を添加するのが遺伝子の封入効率を向上させる上で好ましい。遺伝子を封入したリポソームはそのまま、又は水、生理食塩水などに懸濁して静脈投与することができる。
【0069】
(6)抗腫瘍物質のスクリーニング方法
上述したように、口腔扁平上皮癌に関しては、PRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2遺伝子の不活性化が大きな要因となっており、遺伝子の働きを正常化する薬剤は、口腔扁平上皮癌に対する抗腫瘍剤として用いることが可能であると考えられる。特に、この不活性化の要因が、PRTFDC1遺伝子のCpGアイランドによるメチル化である場合には、これらの要因を解消・緩和することができる薬剤は、抗腫瘍剤として有用である。
【0070】
これらの本スクリーニング方法をおこなう前提として、検体細胞においてPRTFDC1遺伝子の発現量が抑制されている口腔扁平上皮癌を確保する必要がある。すなわち、本スクリーニング方法においては、「PRTFDC1遺伝子のCpGアイランドのメチル化に起因してPRTFDC1遺伝子の発現が抑制されている口腔扁平上皮癌」が必要となる。これらの細胞株の確立法は、上述した知見に基づいた上で、常法に従いおこなうことができる。例えば、少なくとも、PRTFDC1遺伝子の不活性化が確認された細胞の中から、既存の脱メチル化試薬(例えば5−アザデオキシシチジン)を作用させることにより、PRTFDC1遺伝子のレベルが回復する細胞を選択して、これを継代して、所望する「PRTFDC1遺伝子のCpGアイランドのメチル化に起因してPRTFDC1遺伝子の発現が抑制されている口腔扁平上皮癌」(以下、メチル化癌細胞株ともいう)として確立することができる。
【0071】
本スクリーニング方法においては、上記のメチル化癌細胞株に対して被験物質を接触させることが必要である。この接触の態様は、特に限定されないが、メチル化細胞株の培養物に対して、被験物質を好適には適切な希釈倍率で希釈して添加して、引き続き培養をおこなうことによりおこなわれる。そして、被験物質を添加する前のメチル化癌細胞株におけるPRTFDC1遺伝子の発現量と、添加後の遺伝子の発現量を、好適には経時的に定量し、定量前後の遺伝子の発現量の差を、被験物質を添加せずに同条件で培養された対照培養物と比較して、対照培養物よりも、被験物質を添加した培養物における遺伝子の発現量が増加している場合には、被験物質はメチル化癌細胞株を用いた試薬においては「PRTFDC1遺伝子のCpGアイランドの脱メチル化によりPRTFDC1遺伝子を活性化させることができる抗腫瘍物質」として選別される。
【0072】
さらに、本スクリーニング方法をおこなって、所望の口腔扁平上皮癌に対する抗腫瘍成分としてスクリーニングされた物質を、さらに、in vivoのスクリーニング、例えば、上記のメチル化癌細胞株を植えつけたヌードマウスでの口腔扁平上皮癌の増殖抑制効果とヌードマウスの生存率の向上を指標とするスクリーニング方法にかけて、最終的な絞込みをおこなうことが好適である。
【0073】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により特に限定されるものではない。
【実施例】
【0074】
実施例1:口腔扁平上皮癌における遺伝子の変化
口腔扁平上皮癌での新規な遺伝子変化を検出するために、18種類の口腔扁平上皮癌細胞株(OM−1、OM−2、TSU、ZA、NA、Ca9−22、HOC−313、HOC−815、HSC−2、HSC−3、HSC−4、HSC−5、HSC−6、HSC−7、KON、SKN−3、HO−1−N−1、KOSC−2)から調製したゲノムDNAを用いてMGC Cancer Array−800とMGC Whole Genome Array−4500を使用したCGHアレイ解析をおこなった(図1a)。なお、対象として正常な口腔上皮由来の細胞株(RT7)から抽出したゲノムを使用しCy5で標識した。被検DNAとして口腔扁平上皮癌細胞株から調整したゲノムDNAを使用しCy3で標識した。具体的には、DpnII消化したゲノムDNA(0.5μg)を、各々0.6mM dATP、0.6mM dTTP、0.6mM dGTP、0.3mM dCTP及び0.3mMCy3−dCTP(口腔扁平上皮癌細胞)或るいは0.3mMCy5−dCTP(正常細胞)存在下で、BioPrime Array CGH Genomic Labeling System(Invitrogen社)により標識した。Cy3及びCy5標識dCTPはGE ヘルスケア社より入手した。両標識ゲノムDNAをCot−1 DNA(Invitrogen社)存在下でエタノールを加えて沈殿させ、120μlのハイブリダイゼーション混合液(50%ホルムアミド、10%Dextran sulfate、2xSSC(1xSSC:150mM NaCl/15mM Sodium Citrate)、4% sodium dodecyl sulfate、pH7.0)に溶解した。37℃で30分間インキュベーション後、ハイブリダイゼーションマシーン(GeneTAC;ハーバードバイオサイエンス社)にCGHアレイをセットし、48−72時間イハイブリダイゼーションをおこなった。その後、CGHアレイを50%ホルムアミド/2xSSC(pH7.0)溶液中で50℃にて15分間洗浄し、次に2xSSC/0.1%SDS中で50℃にて15分間洗浄した。風乾した後、CGHアレイをGenePix 4000Bスキャナー(Axon Instruments、CA、USA)を用いてCy3及びCy5に由来する蛍光をモニタリングした。得られた結果をGenePix Pro6.0イメージングソフトウエア(Axon Instruments、CA、USA)を用いて解析した。Cy3に由来する蛍光強度の平均とCy5に由来する蛍光強度の平均を同じ値に調整し、Cy3/Cy5のRatioを求めた。ゲノムに異常がない場合にはRatio値は1(log2Ratio=0)である。Ratio値が1.32以上(log2Ratioで0.4以上)の時にゲノムの増幅があり、4以上(log2Ratioで2以上)の時に顕著な増幅が認められると判定した。Ratio値が0.75以下(log2Ratioで−0.4以下)の時にゲノムのヘテロ接合体欠失の可能性、0.25以下(log2Ratioで−2以下)の時にホモ接合体欠失の可能性が極めて大きいと判定した。その結果を表1及び2に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
高レベルの遺伝子増幅は、18種類の口腔扁平上皮癌中10種類(55.6%)、15遺伝子座を確認することができた。また、遺伝子欠失は、18種類の口腔扁平上皮癌中2種類、2遺伝子座を確認することができた。
【0078】
実施例2:口腔扁平上皮癌における10p12染色体欠失領域に含まれる遺伝子の単離
口腔扁平上皮癌細胞(HSC−6)における10p12染色体のホモ欠失領域に含まれる遺伝子を決定するため、まず、HSC−6細胞からのゲノミックPCRを用いてホモ欠失領域の範囲を決定することにした。ゲノミックPCRに用いたプライマー配列は、表3に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
欠失領域は、CGHアレイの結果とヒトゲノムデータベース(http://genome.ucsc.edu/)から、最大約2.95Mbの欠失であることを確認することができた(図1b、図2a)。そして、この領域には7つの遺伝子の存在が確認できた。
そのうち、PRTFDC1遺伝子、c10orf6遺伝子、THNSL1遺伝子、GPR158遺伝子、MYO3A遺伝子、GAD2遺伝子のホモ欠失は、HSC−6細胞のみ(1/18、5.6%;図2b)で確認することができた。しかしながら、ARHGAP21遺伝子については欠失していないことがわかった。
【0081】
実施例3:口腔扁平上皮癌細胞株におけるPRTFDC1 mRNA発現の消失について
上記6つの遺伝子(PRTFDC1遺伝子、c10orf6遺伝子、THNSL1遺伝子、GPR158遺伝子、MYO3A遺伝子、GAD2遺伝子)の発現レベルを調べるため、18種類の口腔扁平上皮癌細胞株、正常口腔上皮細胞について、Reverse transcriptase(RT)−PCRをおこなった。具体的には、培養した細胞株からの抽出RNAから、SuperScript First−Strand Synthesis System(Invitrogen社)を用いて、一本鎖cDNAを合成し、補足資料表1に示すプライマー配列を用いて、PCRをおこなった。また、コントロールとして、Glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenase(GAPDH)遺伝子を用いた。その結果、10p12染色体領域がホモ欠失ではないはずの8細胞株においてもHSC−6細胞と同様に、PRTFDC1 mRNAの発現は完全に消失していることが確認できた(図2c)。また、HOC−313細胞は、RT7細胞、正常な口腔粘膜からのプライマリー細胞の場合と比較して、発現の減少を示した(1/18、5.6%)。このような口腔扁平上皮癌細胞株におけるPRTFDC1 mRNA発現の消失は、エピジェネテック現象のようなゲノム欠失以外のメカニズムによる結果と考えられる。一方で、c10orf63、THNSL1、GPR158遺伝子の発現の消失・低下は、低頻度であった。
【0082】
MYO3A遺伝子、GAD2遺伝子は、RT7細胞と正常な口腔粘膜からのプライマリー細胞の両方で発現が確認することができなかった。これは、それらの遺伝子が、発現データベース(ncbi.nlm.nih.gov and http://www.lsbm.org/database/index.html)の結果から、組織特異的発現パターンを示すために口腔由来の細胞では発現していないためと考えられた。
【0083】
実施例4:PRTFDC1遺伝子発現における脱メチル化の影響
PRTFDC1遺伝子の発現の抑制が、DNAのメチル化による原因かどうかを調べるため、PRTFDC1遺伝子が発現していない口腔扁平上皮癌細胞株を用い、脱メチル化試薬5‐aza‐dCydを1μM、5μMで5日間、およびあるいはまたは、脱アセチル化阻害剤TSAを100ng/mlで24時間処理をおこなった。それらの細胞由来からRNAを抽出し、PRTFDC1遺伝子の発現をRT−PCRで調べた(図2d)。その結果、PRTFDC1遺伝子は、5‐aza‐dCydの処理により、遺伝子発現を回復することがわかった。この結果は、明らかに、PRTFDC1遺伝子の発現抑制には、DNAのメチル化が関与していることが推定される。また、TSA処理では、PRTFDC1遺伝子の発現に差が見られないことから、PRTFDC1遺伝子の発現調節にヒストンの脱アセチル化の影響は少ないことが明らかとなった。
【0084】
実施例5:PRTFDC1 CpGアイランドのプロモーター活性について
CpGアイランドのメチル化は遺伝子発現を抑制するメカニズムの1つである。PRTFDC1遺伝子のCpGアイランドをCpGPLOTプログラム(http://www.ebi.ac.uk/emboss/cpgplot/)を用いて解析した結果、PRTFDC1遺伝子のエキソン1周辺にCpGアイランドが存在することを確認した(図3a)。CpGアイランドのプロモーター活性を調べるために、このCpGアイランドの周辺を含めて3つの断片(Fragment 1、Fragment 2、Fragment 3)に分割し、それらの断片をルシフェラーゼレポータープラスミド(pGL3‐Basic vector:Promega社)に挿入し、口腔扁平上皮癌細胞株(NA、HSC−2)へトランスフェクションした(図3a)。Dual-Luciferaseレポーターアッセイシステム(Promega社)を用いて、マニュアルに従ってルシフェラーゼ活性を測定し、各Fragmentを有するpGL3ベクターに由来するルシフェラーゼ活性を測定した(図3b)。その結果、Fragment1と3のルシフェラーゼ活性が高いことがわかった(図3b)。
【0085】
実施例6:口腔扁平上皮癌細胞株と口腔扁平上皮癌臨床検体におけるPRTFDC1 CpGアイランドのメチル化状態
実際に、口腔扁平上皮癌細胞株において、PRTFDC1遺伝子のエキソン1のCpGアイランドのメチル化状態を確認するため、上述した2つ領域(Fragment 1、Fragment 2)をCombined bisulfite restriction analysis(COBRA)法を用いて解析した(図3a)。
【0086】
具体的には、EZ DNAメチレーションキット(Zymo RESEARCH,CA,USA)を使用し、口腔扁平上皮癌細胞株に由来するゲノムDNA(2μg)をSodium bisulfite中50℃で1晩処理をおこない、目的とする領域を増幅するようにデザインしたプライマー(補足資料表1)を用いてPCRをおこなった。得られたPCR産物をMluI制限酵素(New England BioLabs)、またはTaqI制限酵素(New England BioLabs)で消化した。MluIまたはTaqIはメチル化されないSodium bisulfiteで修飾された配列は消化しないが、メチル化されたSodium bisulfiteで修飾されない配列を消化する性質を利用して、メチル化の度合いをモニタリングした。PCR断片を電気泳動後、メチル化された断片のバンドとメチル化されない断片のバンドの濃度比をMultiGauge2.0(富士フイルム株式会社)を用いたデンシトメトリーにより測定し、メチル化された領域のメチル化度を%で表示した。また、これらの配列をTOPO TAクローニングベクター(Invitrogen社)にサブクローニングし、塩基配列を決定した。
【0087】
その結果、PRTFDC1遺伝子を発現している細胞株(TSU、HOC−815、HSC−4、HSC−5、HSC−7、SKN−3、HO−1−N1、KOSC−2)とRT7細胞は両方の領域で優勢に低メチル化な傾向があることがわかった(図3c)。しかし、PRTFDC1遺伝子の発現がない、または低い細胞株では、2つの領域に渡って優勢に高頻度にメチル化されていることが確認された(図3c)。特に、Region 2が高頻度にメチル化されていることから、上記のプロモーターアッセイの結果から、Region 2のメチル化はPRTFDC1遺伝子発現の抑制に重要な役割をしていると考えられる。
【0088】
更なる解析として、bisulfiteシーケンス法(Toyota M.,et al., Cancer Res.59,2307,1999)により、PRTFDC1遺伝子のCpGアイランドのメチル化の度合いを確認した(図3d)。その結果、ZA、HSC−2といったPRTFDC1遺伝子がホモ欠失ではないが発現の消失していた細胞株(表4)において、PRTFDC1遺伝子のCpG部位が非常に高いメチル化傾向であることがわかった。また、RT7、KOSC−2といったPRTFDC1遺伝子を発現している細胞株では、メチル化されていないことがわかった。
【0089】
【表4】

【0090】
次に、口腔扁平上皮癌の臨床検体でのPRTFDC1 CpGアイランドのメチル化状態を確認するため、47症例の口腔扁平上皮癌を用いてCOBRA法で解析をおこなった(図4a)。その結果、PRTFDC1 CpGアイランドでのメチル化アレルは、47症例中8症例(17.0%)であった。また、全てのサンプルで非メチル化アレルが確認されるのは、正常な細胞のコンタミネーションに起因するものと考えられる。COBRA解析において、陽性と判断した口腔扁平上皮癌(1、68、69、75、図4b)は、bisulfiteシーケンスで、メチル化状態を確認することにした。その結果、COBRA陽性口腔扁平上皮癌において、メチル化アレルを確認することができた。
【0091】
また、口腔扁平上皮癌47症例についての、PRTFDC1 CpGアイランドのメチル化と臨床病理診断との関連性を調べた結果を表5に示す。
【0092】
【表5】

【0093】
実施例7:PRTFDC1遺伝子の活性化による口腔扁平上皮癌の増殖抑制
これまでの結果から、PRTFDC1遺伝子発現を活性化することで、口腔扁平上皮癌の増殖が抑制されるかどうかを検討した。まず、PRTFDC1遺伝子のMycタグを発現するプラスミド(pCMV−3Tag4A−PRTFDC1)を構築した。これは全長を有するPRTFDC1遺伝子の役割をモニタリングするために使用できる。本プラスミドは、RT−PCRにより増幅したPRTFDC1 cDNAをpCMV−3Tag4Aベクター(Stratagene社)にMycタグと翻訳フレームがあうように挿入して作製した。対照として、PRTFDC1遺伝子を挿入しない空ベクター(pCMV−3Tag4A−mock)を使用した。これらの発現プラスミドを、トランスフェクション試薬であるFuGENE6(Roch Diagnostics)と混合し、NA、OM−2細胞へトランスフェクションした。48時間後細胞を回収し、抗Myc抗体(Cell Signaling Technology社)を用いたウエスタンブロットによりPRTFDC1蛋白質の発現を確認した(図5a)。
【0094】
また、トランスフェクション3週間後に、ネオマイシン系薬剤であるG418存在下で増殖した細胞を70%エタノールで固定し、クリスタルバイオレッドで染色することによりカウントした。その結果、空ベクターでトランスフェクションした細胞と比べてpCMV−3Tag4A−PRTFDC1でトランスフェクションした細胞は顕著にコロニー数が減少した(図5b)。この結果は明らかにPRTFDC1遺伝子の発現を活性化することで、口腔扁平上皮癌の増殖を抑制でき癌抑制剤として機能することを示している。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】(a)18種の口腔扁平上皮癌細胞株におけるMCG Cancer Array−800により決定したコピー数の増幅と欠失のゲノム全体の頻度。クローンは、UCSCマッピング位置(http://genome.ucsc.edu/[version May,2004]に基づいて1−22、X、Y染色体の順番で整列した。アスタリスクは、高レベルの増幅(log2ratio> −2)、またはホモ欠失(log2ratio< −2)の認められた領域を示す。(b)HSC−6細胞株のCGHアレイにおける代表的な結果。また、10p12染色体におけるRP11−165A20、80K21、66P13(矢印)の著明なコピー数の低下(log2ratio< −2)を示す。(c)HSC−6細胞株における10番染色体のコピー数プロファイルの結果。矢印は10p12染色体領域の候補クローンを示す。
【図2】(a)HSC−6細胞株での10p12染色体のホモ欠失領域をカバーするマップ。アレイにスポットしたBACは水平線で示す:白線、log2ratio< −2のBAC、黒線、log2ratio> −2のBAC。HSC−6細胞株におけるホモ欠失の最小範囲は、ゲノミックPCRにより決定し、白い両端矢印で示す。HSC−6細胞株でゲノミックPCRにより決定したホモ欠失領域周辺に位置する8遺伝子、ホモ欠失(6遺伝子)または残っている遺伝子(2遺伝子)、を白または黒線で示す。(b)18種類の口腔扁平上皮癌細胞株を用いた10p12染色体のホモ欠失領域周辺に位置する8遺伝子とGAPDH遺伝子(コントロール)のゲノミックPCRの結果。(c)口腔扁平上皮癌細胞株と正常な口腔上皮細胞株RT7と正常な口腔上皮プライマリー細胞におけるPRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、GAD2遺伝子の発現をRT−PCRにより決定した。DWは蒸留水を表す。アローヘッドは図2bに示したホモ欠失細胞株(HSC−6)を示す。18種類の細胞株中、PRTFDC1遺伝子のホモ欠失ではない8種類(OM−1、OM−2、NA、ZA、Ca9−22、HSC−2、HSC−3、KON)は完全な遺伝子のサイレンシングを示すか、1種の細胞株(HOC−313)では正常なコントロールと比較して発現の減少を示す。(d)5−aza−dCyd(5または10μM)5日間と/またはTSA(100mg)24時間の処理あり(+)なし(−)をおこなった口腔扁平上皮癌細胞(NA、HSC−2、ZA)におけるPRTFDC1遺伝子のRT−PCR解析の結果を示す。
【図3】(a)PRTFDC1遺伝子のエキソン1周辺の801−bp CpGアイランド(−373から+418)のマップ。CpG部位は垂直線で示す。エキソン1はオープンボックスで示し、転写開始点は+1で記す。プロモーターアッセイに用いた断片(Fragment 1、2、3)は、太い黒線で示す。COBRAとbisulfiteシーケンス(Region 1とRegion 2)で確認した領域はオープンバーで示す。COBRA法のための制限酵素部位MluIとTaqIは黒または灰色のアローヘッドで表す。(b)PRTFDC1 CpGアイランドのプロモーター活性。pGL3空ベクター(mock)とCpGアイランドRegion1−3の異なった配列を含むレポーターを構築した。それらを内部コントロールベクター(pRL−hTK)と共にNAとHSC−2細胞へトランスフェクションした。ルシフェラーゼ活性はコントロールに対してノーマライズした。データは3つの独立した実験の平均±SDを示す。(c)口腔扁平上皮癌細胞株でのPRTFDC1 Region 1とRegion 2をMluIとTaqIそれぞれで消化したCOBRAの代表結果。矢印はメチル化したCpG認識部位で切断された断片を示す。アローヘッドは切断されない(非メチル化)の断片を示す。切断DNA断片が陽性な8細胞株をアスタリスクで示す。(d)PRTFDC1を発現している細胞と発現していない細胞株で確認した、PRTFDC1 Region 1(62CpG部位)とRegion 2(33CpG部位)のbisulfiteシーケンスの結果。各白と黒の四角は非メチル化とメチル化CpG部位を示し、各列は1種類のクローン由来である。NTはテストしていないことを表す。
【図4】(a)47例の口腔扁平上皮癌臨床検体組織中の12例、陽性(HSC−2)コントロール、陰性(HO1−N1)コントロール細胞株でのPRTFDC1 Region 1とRegion 2のCOBRAの代表結果。切断DNA断片(矢印)を確認したプライマリー口腔扁平上皮癌はアスタリスクで示す。(b)bisulfiteシーケンスにより決定した口腔扁平上皮癌の4種のプライマリーにおけるPRTFDC1 Region 1とRegion 2のメチル化状態。
【図5】口腔扁平上皮癌の増殖におけるPRTFDC1の発現の効果。pCMV−3Tag4A−PRTFDC1またはpCMV−3Tag4A−mockをPRTFDC1遺伝子が欠失している細胞株(NAとOM−2)にトランスフェクションした。(a)トランスフェクション後48時間の細胞から抽出した蛋白質5μgを用いて抗Myc抗体でウエスタンブロット解析をおこなった。(b)PRTFDC1遺伝子が発現していない細胞株(NAとOM−2)を用いたコロニーフォーメーションアッセイ。これらの細胞へPRTFDC1を含むMycタグベクター(pCMV−3Tag4A−PRTFDC1)または、空ベクター(pCMV−3Tag4A−mock)を一過性でトランスフェクションし、G418存在下で3週間薬剤選択をおこなった。左、トランスフェクション後3週間で薬剤耐性コロニーを形成した結果、PRTFDC1遺伝子をトランスフェクションした細胞のコロニー形成は、空ベクターをトランスフェクションした細胞よりも少ないことがわかった。右、コロニー形成の定量解析。>2mmコロニーをカウントした、そしてその結果は3回の別々の実験の平均値±SDとして表した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体において、1q21、2q24.1−q24.2、3p13、7p11.2、10p12.1、11p15.4、11p15.2、11p13.3、11q22、11q23.3、12p13、12q24.31、13q33.3−q34、12q24.1、19q13、又は22q12.1の染色体領域に存在する遺伝子の変化を少なくとも1つ以上を検出することにより、検体の悪性度を含めた癌化を検出する、癌の検出方法。
【請求項2】
遺伝子がBCL9、MITF、EGFR、PTH、BCL1、FGF4、CCND1、FGF3、PGR、YAP1、CIAP1、MMP7、MMP1、CCND2、FGF6、BCL7A、DP1、GAS6、SUPT5H、PRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2の少なくとも1つ以上である、請求項1に記載の癌の検出方法。
【請求項3】
遺伝子の変化が、増幅、欠失、又は不活性化の少なくとも1つ以上である、請求項1又は2に記載の癌の検出方法。
【請求項4】
遺伝子の変化が、CpGアイランドのメチル化による不活性化である、請求項1から3の何れかに記載の癌の検出方法。
【請求項5】
BCL9、MITF、EGFR、PTH、BCL1、FGF4、CCND1、FGF3、PGR、YAP1、CIAP1、MMP7、MMP1、CCND2、FGF6、BCL7A、DP1、GAS6、又はSUPT5H遺伝子の増幅、あるいはPRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2遺伝子の欠失を検出することにより、検体の悪性度を含めた癌化を検出する、癌の検出方法。
【請求項6】
PRTFDC1遺伝子の欠失又は不活性化を検出することにより、検体の悪性度を含めた癌化を検出する、癌の検出方法。
【請求項7】
検体が、口腔由来の組織である、請求項1から6の何れかに記載の癌の検出方法。
【請求項8】
癌が、口腔扁平上皮癌である、請求項1から7の何れかに記載の癌の検出方法。
【請求項9】
遺伝子の変化を、DNAチップ法、サザンブロット法、ノーザンブロット法、リアルタイムRT−PCR法、FISH法、CGH法、または、アレイCGH法、Bsulfite Sequence法、COBRA法を用いて検出する、請求項1から8の何れかに記載の癌の検出方法。
【請求項10】
PRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2遺伝子、または、該遺伝子の発現産物である蛋白質をインビトロで細胞に導入することを含む、細胞の増殖を抑制する方法。
【請求項11】
PRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2遺伝子、または、該遺伝子の発現産物である蛋白質を含む、細胞増殖抑制剤。
【請求項12】
PRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2遺伝子のsiRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたは機能欠失型遺伝子を、インビトロで腫瘍細胞に導入することを含む、細胞の増殖を活性化する方法。
【請求項13】
PRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2遺伝子のsiRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたは機能欠失型遺伝子を含む、細胞増殖活性化剤。
【請求項14】
PRTFDC1、c10orf63、THNSL1、GPR158、MYO3A、又はGAF2遺伝子のCpGアイランドのメチル化に起因して遺伝子の発現が抑制されている口腔扁平上皮癌に対して、被験物質を接触させて、遺伝子の発現を検出し、遺伝子発現が被験物質を接触させない系よりも増加していた場合に、被験物質を、遺伝子のCpGアイランドの脱メチル化により遺伝子を活性化させることができる抗腫瘍物質として選別する、物質のスクリーニング法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−295327(P2008−295327A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−143110(P2007−143110)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】