説明

口腔扁平上皮癌の診断方法及び治療用組成物

【課題】新たにOSCCで発現量に遺伝子を見出し、当該遺伝子を利用した口腔扁平上皮癌の検出方法を提供することを目的とする。
【解決手段】以下の工程を含む、被験対象の生体試料中の口腔扁平上皮癌の検出方法:
(1)該生体試料における、AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現レベルを検出する工程、及び
(2)該発現レベルが上昇していた場合に、口腔扁平上皮癌が存在すると判定する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔扁平上皮癌の検出方法、診断薬及び診断用キットに関する。更に、本発明は、口腔扁平上皮癌を治療又は予防するための化合物のスクリーニング方法、及び治療用又は予防用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔癌は全癌中の1-2% (頭頸部癌の35%)であり、口腔扁平上皮癌(OSCC)は口腔癌の80%を示している。OSCCの予後は他の癌と比べると比較的良いが、進行癌や悪性度の高い癌に関しては予後は悪い。つまり早期発見、早期治療が予後を判別する重要な要素である。しかし、診断に関して年々技術的進化はしているものの、未だ精度の高いものはなく、視診、触診、病理組織学的診断が主である。治療に関しても技術、手順ともに進化しているが手術によるものが多く、口腔内組織の切除は術後著しく患者のQOLを低下させる。腫瘍の範周が広い場合には放射線治療、化学療法を併用することはあるが、補助的療法で根治には至らない。
【0003】
そのため、OSCCの原因遺伝子を見出し、その機能を解明することは、新規診断・治療法のための先駆けとなり得るため望まれている。OSCCの遺伝子を利用した診断方法としては、特許文献1〜4において以下の方法が報告されている。
【0004】
特許文献1では、OSCCとOSCCの前癌症状である白板症状(LP)の間で発現量に明確な差のある33個のマーカー遺伝子の発現プロファイルが、口腔癌のより正確な診断の指標として有用であることが報告されている。
【0005】
特許文献2では、癌化並びに癌の悪性化などに関与するゲノム上の遺伝子異常を解析し、口腔由来の細胞の癌化を促進する癌関連遺伝子、すなわちPhosphoribosyl transferase domain containing 1 (PRTFDC1)遺伝子を同定したこと、PRTFDC1遺伝子の欠失、又は不活性化、すなわち、PRTFDC1タンパク質の減少が口腔扁平上皮癌の増殖を顕著に促進することが報告されている。そして、PRTFDC1遺伝子の欠失又は不活性化を検出することにより、検体の悪性度を含めた癌化を検出することが提案されている。
【0006】
特許文献3では、口腔粘膜上皮細胞の癌化を促進する癌関連microRNA遺伝子を同定したこと、これらの遺伝子の発現量の低下が口腔粘膜上皮癌の増殖を促進することが報告されている。そして、特定のmicroRNA遺伝子の発現低下を指標として検体の癌化を検出することを含む癌の検出方法が提案されている。
【0007】
特許文献4では、癌で高頻度に欠失した遺伝子をスクリーニングした後、更にCOBRA (combined bisulfite restriction analysis)法とRT-PCR法を組み合わせることで、口腔由来の細胞の癌化を促進する癌関連遺伝子、すなわちMelatonin Receptor 1A (MTNR1A)遺伝子を同定したこと、TNR1Aタンパク質の減少が口腔扁平上皮癌の増殖を顕著に促進することが報告されている。そして、MTNR1Aタンパク質の量を検出することでの癌の検出方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-259426号公報
【特許文献2】特開2008-295327号公報
【特許文献3】特開2009-171876号公報
【特許文献4】特開2010-35525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、OSCCの早期発見を可能とする診断方法のためには、更に多くの遺伝子について検討し、OSCCの原因遺伝子を見出し、その機能を解明する必要があった。
【0010】
そこで、本発明は、新たにOSCCで発現量に変化がある遺伝子を見出し、当該遺伝子を利用した口腔扁平上皮癌の検出方法、診断薬及び診断用キットを提供することを目的とする。更に、本発明は、口腔扁平上皮癌を治療又は予防するための化合物のスクリーニング方法、及び治療用又は予防用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、OSCC患者検体、細胞株を用いてSNPアレイ解析を行い、DNAコピー数異常領域を検出し、その異常領域中に位置する遺伝子で、DNAマイクロアレイ解析により発現異常を認めた遺伝子を選抜し、1q23領域中に位置するAIM2とIFI16を見出した。そして、RT-PCR法、realtime PCR法を用いた発現解析の結果から、AIM2とIFI16がOSCC原因遺伝子候補と同定した。本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の口腔扁平上皮癌の検出方法、診断薬、診断用キット、スクリーニング方法、及び治療用又は予防用組成物を提供するものである。
【0012】
(I) 口腔扁平上皮癌の検出方法
(I-1) 以下の工程を含む、被験対象の生体試料中の口腔扁平上皮癌の検出方法:
(1)該生体試料における、AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現レベルを検出する工程、及び
(2)該発現レベルが上昇していた場合に、口腔扁平上皮癌が存在すると判定する工程。
(I-2) 前記工程(1)における遺伝子の発現レベルの検出を、
AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子のmRNA、又は
AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子にコードされるタンパク質
を検出することにより行う、(I-1)に記載の方法。
(I-3) 前記工程(2)において正常試料と比較して発現レベルが100%以上上昇していた場合に口腔扁平上皮癌が存在するとの判定を行う、(I-1)又は(I-2)に記載の方法。
【0013】
(II) 診断薬及び診断用キット
(II-1) AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子に結合する核酸、又は
AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子にコードされるタンパク質に結合する抗体若しくは抗体断片
を含む口腔扁平上皮癌の診断薬。
(II-2) AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子に結合する核酸、又は
AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子にコードされるタンパク質に結合する抗体若しくは抗体断片
を含む口腔扁平上皮癌の診断用キット。
【0014】
(III) スクリーニング方法
(III-1) 以下の工程を含む、口腔扁平上皮癌を治療又は予防するための化合物のスクリーニング方法:
(1)AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を発現する細胞に候補となる化合物を接触させる工程、及び
(2)候補となる化合物が存在しない場合と比較し、上記遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を選択する工程。
(III-2) 以下の工程を含む、口腔扁平上皮癌を治療又は予防するための化合物のスクリーニング方法:
(1)AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子にコードされるタンパク質に候補となる化合物を接触させる工程、
(2)該タンパク質と該化合物の結合活性を検出する工程、及び
(3)該タンパク質に結合する化合物を選択する工程。
(III-3) 以下の工程を含む、口腔扁平上皮癌を治療又は予防するための化合物のスクリーニング方法:
(1)AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子にコードされるタンパク質に候補となる化合物を接触させる工程、
(2)工程(1)で得られたタンパク質の細胞増殖活性を検出する工程、及び
(3)候補となる化合物が存在しない場合と比較し、該タンパク質の細胞増殖活性を抑制する化合物を選択する工程。
【0015】
(IV) 治療用又は予防用組成物
(IV-1) AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子に対するsiRNA、shRNA、dsRNA又はアンチセンスポリヌクレオチドを含む口腔扁平上皮癌の治療用又は予防用組成物。
(IV-2) AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子にコードされるタンパク質に結合する抗体又は抗体断片を含む口腔扁平上皮癌の治療用又は予防用組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、新たなOSCCの原因遺伝子(AIM2及びIFI16)を見出すことができ、当該遺伝子の発現の上昇を指標にすることで口腔扁平上皮癌を検出することが可能となる。また、AIM2及びIFI16遺伝子を利用することで、口腔扁平上皮癌を治療又は予防するための化合物のスクリーニングも可能となる。更には、AIM2及びIFI16遺伝子からのタンパク質の生成を阻害する物質(shRNA等)を使用することで口腔扁平上皮癌の治療又は予防が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】A:高分子量ゲノムDNAを用いてSNPアレイを行い、得られたデータをCNAGシステムを用いて解析した結果を示す図、B:1q23の遺伝子地図を示す図である。
【図2】AIM、IFI16のmRNAの発現量をRealtime PCR法にて確認した結果を示すグラフである。A:AIM2(患者検体)、B:IFI16(患者検体)、C:AIM2(細胞株)、D:IFI16(細胞株)
【図3】A:細胞増殖アッセイの結果を示すグラフ、B:cDNAのアガロースゲル電気泳動の結果を示す図、C:細胞周期の評価結果を示すグラフ、D、E:Annexin V染色によるアポトーシスを起こしている細胞の検出結果を示すグラフである。
【図4】A:ウェスタンブロッティングによるIκβαの検出結果を示す図、B:NFκβ阻害剤を使用した細胞増殖アッセイの結果を示すグラフ、C:NFκβ阻害剤を使用した場合のウェスタンブロッティングによるIκβαの検出結果を示す図、D:SASにshAIM2又はshIFI16を入れた場合のウェスタンブロッティングによるIκβαの検出結果を示す図、E:NFκβの転写活性を調べるためのルシフェラーゼアッセイの結果を示すグラフ(左:LPS(-)、右:LPS(+))である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明において「遺伝子」とは、特に言及しない限り、2本鎖DNA、1本鎖DNA(センス鎖又はアンチセンス鎖)、及びそれらの断片が含まれる。また、本発明において「遺伝子」とは、特に言及しない限り、調節領域、コード領域、エクソン、及びイントロンを区別することなく示すものとする。
【0020】
また、本発明において、「核酸」、「ヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」は同義であって、これらはDNA及びRNAの両方を含み、2本鎖であっても1本鎖であっても良い。
【0021】
AIM2やIFI16遺伝子は、過去の報告からp200ファミリーに属し、p200ファミリーはインターフェロン誘導遺伝子群で、特にAIM2はInflammasomeを形成する細菌感染に対する防御機構として働く重要な遺伝子である。
【0022】
AIM2遺伝子の塩基配列(cDNA)としては、配列番号1に表されるものが挙げられ、当該遺伝子がコードするアミノ酸配列は配列番号2に表されている(GenBank Accession No.NM_004833)。
【0023】
IFI16遺伝子の塩基配列(cDNA)としては、配列番号3に表されるものが挙げられ、当該遺伝子がコードするアミノ酸配列は配列番号4に表されている(GenBank Accession No.NM_005531)。
【0024】
本発明においては、AIM2遺伝子、IFI16遺伝子は、それぞれコードするタンパク質が、上記配列番号2、4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の生物学的活性を有するものであれば、配列番号1、3で表される塩基配列からなる遺伝子の変異体であっても良い。
【0025】
変異体としては、例えば、(a)配列番号2、4で表されるアミノ酸配列において、1又は2個以上、例えば1〜50個、1〜25個、1〜12個、1〜9個、1〜5個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、(b)配列番号1、3で表される塩基配列と70%以上、80%以上、90%以上、95%以上の同一性を有する塩基配列からなる遺伝子などが挙げられる。
【0026】
本明細書においては、AIM2遺伝子、IFI16遺伝子にコードされるタンパク質を、それぞれ「AIMタンパク質」、「IFI16タンパク質」と称している。
【0027】
口腔扁平上皮癌の検出方法
本発明の被験対象の生体試料中の口腔扁平上皮癌の検出方法は、以下の工程を含むことを特徴とする:
(1)該生体試料における、AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現レベルを検出する工程、及び
(2)該発現レベルが上昇していた場合に、口腔扁平上皮癌が存在すると判定する工程。
【0028】
本発明は以下の発見に基づくものである。
〔1〕OSCCでのAIM2、IFI16の高発現
RT-PCR法、realtime PCR法で、OSCC検体、細胞株でのAIM2、IFI16の発現を正常口腔組織と比較した結果、有意に高発現していた。
〔2〕AIM2、IFI16のノックダウンによるアポトーシスの増加
RNA干渉法でAIM2、IFI16をノックダウンし、細胞増殖をコントロールと比較した。その結果、どちらの遺伝子をノックダウンしても細胞増殖が抑制された。そこで、細胞周期の変化を検討し、subG1期の割合が増加していることを発見したため、AnnexinV染色でアポトーシスしている細胞の割合を検討した結果、どちらの遺伝子をノックダウンしても有意にアポトーシスが起こっていることを見出した。
〔3〕AIM2ノックダウンによるNFκβの活性化抑制
AIM2は本来、生体防御に関わる遭伝子としての報告があり、その際NFκβが活性化し様々なサイトカインを誘発、成熟することが明らかになっている。過去の報告において、NFκβは種々の癌で活性化亢進しており、癌細胞の抗アポトーシスに寄与していることが分かっている。OSCCでもNFκβは恒常的活牲化しており、またNFκβ阻害剤を導入するとアポトーシスを誘導した。OSCCでのAIM2のノックダウンはNFκβの活性化抑制をすることをレポーターアッセイにより明らかにし、それによるアポトーシスが誘導されたことを証明した。
【0029】
本発明における被験対象は、哺乳動物(ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、マウス、ラット等)であり、特にヒトである。生体試料は、被験対象から単離された細胞、組織、体液等であり、好ましくは口腔から単離された細胞、組織、体液等である。
【0030】
遺伝子の発現レベルを検出する方法としては、AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子のmRNA、又は当該遺伝子にコードされるタンパク質を検出することにより行う。生体試料中からのmRNA又はタンパク質の抽出は常法に従い行うことができる。
【0031】
mRNAを検出する方法としては、mRNAを定量できる方法であれば特に限定されないが、例えば、DNAチップ法、ノーザンブロット法、realtime PCR法等が挙げられる。ここでのmRNAを検出する方法は、mRNAに対応するcDNAを検出することも含む。
【0032】
タンパク質を検出する方法としては、タンパク質を定量できる方法であれば特に限定されないが、例えば、ELISA法、ウェスタンブロッティング法、プロテインチップによる解析法等が挙げられる。
【0033】
本発明において、AIM2及びIFI16遺伝子の発現レベルの上昇は、正常試料の発現レベルとの対比により行う。正常試料の発現レベルとは口腔扁平上皮癌に罹患していない個体の(好ましくは口腔から単離された細胞等の)AIM2及びIFI16遺伝子の発現レベルである。正常試料の発現レベルは過去に得られたデータから標準化されたものであっても良い。
【0034】
本発明において、AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現レベルが、正常試料の発現レベルと比較して、好ましくは100%以上、より好ましくは150%以上、特に好ましくは200%以上上昇していた場合に、口腔扁平上皮癌が存在するとの判定を行う。尚、AIM2及びIFI16遺伝子の少なくとも一方の発現レベルが上記基準を満たしていれば、口腔扁平上皮癌が存在するとの判定を行っても良いが、AIM2及びIFI16遺伝子の両方の発現レベルが上記基準を満たしていることが望ましい。
【0035】
診断薬及び診断用キット
本発明の口腔扁平上皮癌の診断薬又は診断用キットは、AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子に結合する核酸、又はAIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子にコードされるタンパク質に結合する抗体若しくは抗体断片、を含むことを特徴とする。
【0036】
AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子に結合する核酸とは、当該遺伝子にハイブリダイズできるポリヌクレオチドのことであり、DNAチップ法、ノーザンブロット法、realtime PCR法等に使用することでmRNAを検出し、当該遺伝子の発現レベルを検出することができる。
【0037】
AIM2及びIFI16タンパク質に結合する抗体又は抗体断片は、公知の方法に従って取得することが可能であり、抗体はモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体のいずれでも良く、またヒト化されたキメラ抗体であっても良い。抗体断片としてはFab、Fab'、F(ab')2、Fv、scFv等が挙げられ、抗体又は抗体断片は蛍光色素等により修飾されていても良い。当該抗体又は抗体断片は、ELISA法、ウェスタンブロッティング法、プロテインチップによる解析法等に使用することでタンパク質を検出し、当該遺伝子の発現レベルを検出することができる。
【0038】
本発明において、上記診断薬又は診断用キットを使用して、前述するのと同様な方法で、被験対照の生体試料における、AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現レベルを検出し、正常試料との発現レベルの比較を行い、発現レベルが上昇していた場合に、口腔扁平上皮癌が存在すると判定することができる。
【0039】
スクリーニング方法
本発明の口腔扁平上皮癌を治療又は予防するための化合物のスクリーニング方法の実施態様の一つは、以下の工程を含むことを特徴とする:
(1)AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を発現する細胞に候補となる化合物を接触させる工程、及び
(2)候補となる化合物が存在しない場合と比較し、上記遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を選択する工程。
【0040】
上記方法により選択される、AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現を抑制できる化合物は、口腔扁平上皮癌の治療及び予防に有効であり得る。
【0041】
上記細胞としては、AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を発現するものであれば特に限定されないが、口腔扁平上皮癌に罹患している患者から採取された細胞、口腔扁平上皮癌の細胞株、AIM2及びIFI16遺伝子が導入された細胞等が挙げられる。
【0042】
候補となる化合物も特に制限なく使用でき、例えば、低分子化合物、高分子化合物、生体高分子(タンパク質、核酸、多糖類等)等が挙げられ、このような化合物を含む種々の化合物ライブラリーを使用することができる。
【0043】
候補となる化合物を細胞に接触させた場合の遺伝子の発現レベルを、候補となる化合物が存在していない場合と比較し、10%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは75%以上低下していた場合、当該化合物を口腔扁平上皮癌の治療及び予防に有効なものとして選択できる。尚、遺伝子の発現レベルは前述する方法により検出することができる。
【0044】
本発明の口腔扁平上皮癌を治療又は予防するための化合物のスクリーニング方法のもう一つの実施態様は、以下の工程を含むことを特徴とする:
(1)AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子にコードされるタンパク質に候補となる化合物を接触させる工程、
(2)該タンパク質と該化合物の結合活性を検出する工程、及び
(3)該タンパク質に結合する化合物を選択する工程。
【0045】
上記方法により選択される、AIM2及びIFI16タンパク質に結合する化合物は、当該タンパク質の活性を阻害することができ、口腔扁平上皮癌の治療及び予防に有効であり得る。
【0046】
タンパク質と化合物の結合活性を検出する方法としては、物質間の結合活性を解析できる方法であれば特に限定されず、例えば、表面プラズモン分析(SPR)法やファージディスプレイが挙げられる。
【0047】
化合物の選択は、結合定数等を基準として結合活性が高い化合物を口腔扁平上皮癌の治療及び予防に有効なものとして選択することにより行うことができる。
【0048】
本発明の口腔扁平上皮癌を治療又は予防するための化合物のスクリーニング方法の別の実施態様は、以下の工程を含むことを特徴とする。
(1)AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子にコードされるタンパク質に候補となる化合物を接触させる工程、
(2)工程(1)で得られたタンパク質の細胞増殖活性を検出する工程、及び
(3)候補となる化合物が存在しない場合と比較し、該タンパク質の細胞増殖活性を抑制する化合物を選択する工程。
【0049】
上記方法により選択される、AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子にコードされるタンパク質の細胞増殖活性を抑制する化合物は、口腔扁平上皮癌の増殖を抑制でき、口腔扁平上皮癌の治療及び予防に有効であり得る。
【0050】
候補となる化合物と接触したタンパク質の細胞増殖活性を検出する方法としては、細胞増殖の程度を測定できる方法であれば特に限定されず、例えば、正常細胞の培養液に当該タンパク質を添加し、一定の日後に細胞数を計測することで細胞増殖の程度を決定することができる。
【0051】
候補となる化合物と上記タンパク質を細胞に接触させた場合の細胞増殖活性を、候補となる化合物が存在せず上記タンパク質のみを細胞に接触させた場合と比較し、10%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは75%以上低下していた場合に、当該化合物を口腔扁平上皮癌の治療及び予防に有効なものとして選択できる。
【0052】
口腔扁平上皮癌の治療用又は予防用組成物
本発明の口腔扁平上皮癌の治療用又は予防用組成物は、AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子に対するsiRNA、shRNA、dsRNA又はアンチセンスポリヌクレオチドを含む口腔扁平上皮癌の治療用又は予防用組成物であることを特徴とする。
【0053】
また、本発明の口腔扁平上皮癌の治療用又は予防用組成物のもう一つの実施態様は、AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子にコードされるタンパク質に結合する抗体又は抗体断片を含むことを特徴とする。
【0054】
siRNA (short interfering RNA)は、約20塩基又はそれ未満の長さの二本鎖RNAであり、細胞内に導入することにより標的となる遺伝子の発現を抑制することができる。siRNAに特異的なタンパク質が結合して、RISCが形成され、この複合体は、siRNAと同じ配列を有するmRNAを認識して結合し、siRNAの中央部でmRNAを切断する。本発明におけるsiRNAは、RNAiを引き起こしAIM2及びIFI16遺伝子からのタンパク質の生成を阻害することができるものであれば特に限定されないが、例えば、人工的に化学合成されるか又は生化学的に合成されたもの、生物体内で合成されたもの、又は約40塩基以上の二本鎖RNAが体内で分解されてできた10塩基対以上の短鎖二本鎖RNAが挙げられる。siRNA の配列と、標的として切断するmRNAの配列とは100%一致していることが好ましいが、切断活性が残存している限り100%一致していないものであっても良い。
【0055】
shRNA (short hairpin RNA)とは、一本鎖RNAで部分的に回文状の塩基配列を含むことにより、分子内で二本鎖構造をとり、ヘアピンのような構造となる約20塩基対以上の分子のことである。そのようなshRNAは、細胞内に導入された後、細胞内で約20塩基の長さに分解され、siRNA と同様にRNAiを引き起こすことができる。本発明におけるshRNAは、RNAiを引き起こしAIM2及びIFI16遺伝子からのタンパク質の生成を阻害することができるものであれば特に限定されないが、3'突出末端を有していることが好ましく、二本鎖部分の長さは約10ヌクレオチド以上が好ましく、約20ヌクレオチド以上がより好ましい。
【0056】
dsRNA (double-stranded RNA)は、細胞内で変換されてsiRNAを生成する分子のことを意味する。従って、本発明においては上記siRNAを生成するdsRNAを使用しても良い。本発明におけるdsRNAは、RNAiを引き起こしAIM2及びIFI16遺伝子からのタンパク質の生成を阻害することができるものであれば特に限定されないが、dsRNAの配列と、標的として切断するmRNAの配列とは100%一致することが好ましい。しかし、RNAiによる切断活性が残存する限り、必ずしも100%一致していないものであっても良い。
【0057】
本発明で使用するアンチセンスポリヌクレオチドは、AIM2及びIFI16遺伝子からのタンパク質の生成を阻害することができものであれば良く、例えばAIM2及びIFI16遺伝子のDNA配列中の連続する5〜100の塩基配列に対しハイブリダイズできるものである。また、本発明で使用するアンチセンスポリヌクレオチドは、DNA又はRNAのいずれであっても良く、修飾されたものであっても良い。アンチセンスポリヌクレオチドの塩基数は、好ましくは5〜50、より好ましくは9〜25である。
【0058】
また、上記抗体又は抗体断片を使用することによってAIM2及びIFI16遺伝子にコードされるタンパク質を中和することにより、口腔扁平上皮癌の増殖を抑制できると考えられる。抗体又は抗体断片は前述するものと同様である。
【0059】
本発明の口腔扁平上皮癌の治療用又は予防用組成物は、人を含む哺乳動物に投与されるものであって、上記siRNA、shRNA、dsRNAアンチセンスポリヌクレオチド、又は抗体若しくは抗体断片を有効成分として含む。本発明の口腔扁平上皮癌の治療用又は予防用組成物は、その使用形態に応じて、生物学的に許容される担体、賦形剤等を任意に含有できる。本発明の口腔扁平上皮癌の治療用又は予防用組成物は、常套手段に従って製造することができる。例えば、必要に応じて糖衣や腸溶性被膜を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤等として経口的に、軟膏、硬膏等の外用剤、噴霧剤、吸入剤等として経皮的、経鼻的又は経気管的に、水又はそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、懸濁液剤等の注射剤の形で非経口的に使用できる。
【0060】
また、本発明の口腔扁平上皮癌の治療用又は予防用組成物は、上記siRNA、shRNA、dsRNA又はアンチセンスポリヌクレオチド自体を含むもの以外に、細胞又は組織内でこれらを発現させることができる非ウイルスベクター又はウイルスベクターを含むものであっても良い。非ウイルスベクターによる投与方法としては、リポソームを用いて核酸分子を導入する方法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃でキャリアとともに核酸分子を細胞に移入する方法等が挙げられる。ウイルスベクターを用いて投与する方法としては、組換えアデノウイルス、レトロウイルスなどのウイルスベクターを利用する方法が挙げられ、siRNA、shRNA、dsRNA又はアンチセンスポリヌクレオチドを発現するベクターを無毒化したアデノウイルス、レトロウイルス等に導入し、細胞又は組織にこのウィルスを感染させることにより細胞又は組織内に遺伝子を導入することができる。
【0061】
治療効果は、典型的にはマウス動物モデルにより確認することができる。具体的には、口腔扁平上皮癌細胞株にshAIM2、shIFI16、shAIM2/shIFI16を導入した細胞株を免疫不全NOGマウスに移植し、腫瘍形成能、平均寿命、臓器浸潤能等を検討することで治療効果を確認することが可能である。
【0062】
本発明の口腔扁平上皮癌の治療用又は予防用組成物の投与量は、患者の年齢、性別その他の条件、患者の症状の程度等に応じて異なるが一般的に成人においては、有効成分の量として一日につき0.1 ng〜100 mg/kg/日程度、好ましくは1 ng〜100 mg/kg/日程度、より好ましくは約1 ng〜10 mg/kg/日程度である。この投与量は他の動物の場合も同様である。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例、実験例等になんら限定されるものではない。
【0064】
実験例1.口腔扁平上皮癌(OSCC)癌関連遺伝子候補の同定
(方法)
・ゲノムDNA調製
OSCC細胞株は106個回収し、患者検体は腫瘍部のみを約1 cm3量にし、lysis buffer (1M Tris-HCl (pH7.5)、0.5M EDTA (pH8.0)、5M NaCl、10% SDS)を2 ml加え、さらに最終濃度が150 mg/mlになるようproteinase Kを加え、16時間55℃でゆっくり撹拝した。その後、Tris-HCl飽和フェノールを2 ml加え、rotatorで30分攪拌した後、10,000rpmで3分遠心した。上清のみを新しいチューブに移し、Tris-HCl飽和フェノール/クロロホルム、クロロホルムの順で同様の作業を行った。最終的な上清にイソプロパノールを2 ml加えゆっくり混和した後、4℃で沈殿させた。沈殿したら12,000rpmで5分遠心後、上清を棄て、70%エタノールで洗った。エタノールを完全に除去乾燥させ、50 ng/μlの濃度になるようにTEで溶解しゲノムDNAを抽出した。また、抽出したゲノムDNAが切断していないかをアガロースゲルによる電気泳動にて確認し、サンプルを調製した。
【0065】
・マイクロアレイ解析
マイクロアレイデータはNCBIのGEO(gene expresslon omnibus)に掲載されているReference Series:GSE3524(正常口腔組織4例、OSCC16例を対象としたマイクロアレイデータ)を使用した。正常組織4例、OSCC16例の遺伝子発現量の平均を計算し、正常組織の平均値に比べOSCCの平均値が2倍以上発現している遺伝子を高発現遺伝子、1/2倍以下の発現の遺伝子を低発現遺伝子とし、且つその中で、t検定においてp<0.01の遺伝子を選抜した。
【0066】
・細胞培養法
Ca9-22、HSC2、HSC3、HSQ89、Sa-3は10%ウシ胎児血(FBS)(ニチレイ株式会社製)の添加されたDMEM(和光純薬工業社製)にて培養を行った。Ho1-u-1、HSC4、SASは10%ウシ胎児血清(FBS)(ニチレイ株式会社製)の添加されたRPMI-1640にて培養を行った。なお、細胞株は全て独立行政法人理化学研究所の細胞バンクより購入した。
【0067】
(結果)
OSCC癌関連遺伝子候補を同定するために、OSCC患者腫瘍部20症例、OSCC細胞株8例(Ca9-22、Ho1-u-1、HSC2、HSC3、HSC4、HSQB9、SAS、Sa-3)から調製した高分子量ゲノムDNAを用いてSNPアレイ(GeneChip Mapping 250K Array、Affymetrix社)を行い、得られたアレイデータについてCNAGシステムを用い解析した(図1A)。解析によりOSCCにおける高頻度のDNAコピー数異常領域を選定した。14/28症例以上で異常を認めた領域を増幅領域で78領域、欠失領域で4領域それぞれ同定した(表1)。
【0068】
更に、この異常領域の中に含まれる遺伝子群から、OSCC癌関連遺伝子候補を同定するためにマイクロアレイ解析(Gene Expresion Omnibus、Affymetrix)を行った。正常口腔組織4症例を対象とし、口腔扁平上皮癌16症例の発現量の平均が2倍以上あるいは1/2以下、且つp<0.01 (t検定は片側検定非等分散)の遺伝子のみを選抜し、その中からSNPアレイ解析により同定した異常領域中に含まれる遺伝子のみをさらに選抜した。その結果、26の癌関連遺伝子候補(PPT1、PSMB2、IFI16、AIM2、ABHD1O、LPP、HLA-C、LY6E、ASS1、P4HA1、RARRES3、CCNB2、KIAA0101、CTSH、LITAF、KRT19、TOP2A、IFI35、CBX1、SLC16A3、BST2、C3、FTL、SUMO3、LGALS1)を同定した(表1)。
【0069】
【表1−1】

【0070】
【表1−2】

【0071】
実験例2.OSCCにおけるAMI2 mRNA、IFI16 mRNAの高発現
(方法)
・RNA調製
上記細胞株を安定に培養したものを、遠心分離によりそれぞれ回収し、培地を除去した後、TRIZOL (登録商標)(インビトロジェン社製) 0.8mLを添加した。患者検体に関しては腫瘍部のみを約1 cm3量にし、TRIZOL (登録商標)(インビトロジェン社製) 0.8mLを添加しホモジナイザ一にてホモジナズした。次いで、クロロホルム200μLを添加し、14,000rpmにて15分間遠心分離した後、上層を別のチューブに移した。2-プロパノール500μLを添加して、15,000rpmにて10分間遠心分離し、80%エタノールを用いて洗浄した。得られたRNAをRNaseフリーの水に溶解させ、分光光度計にて波長260nmでRNA量を測定した。
【0072】
・Realtime PCR
上で得られたRNA 1μgを逆転写酵素(TaKaRa RNA PCRTMkit(AMV) Ver.3.0 (タカラバイオ株式会社製))を用いてcDNAに変換した。得られたそれぞれのcDNAをテンプレートとして、計測器にはABI PRISM 7000 Sequence Detection System (Applied Biosystems社)を使用し、SYBR Green PCR Master Mix (Applied Biosystems社)試薬で、プロトコールに従い行った。発現量の定量化はABI PRISM 7000 SDS softwareを使用した。なお、各cDNAをβ-アクチンで補正し、データを比較した。使用したプライマーを以下に示す。
β-actin:(フォワード)GACAGGATGCAGAAGGAGATTACT<配列番号5>、(リバース)TGATCCACATCTGCTGGAAGGT<配列番号6>
IFI16:(フォワード)AGACTCAGCCTCCCTCTCCT<配列番号7>、(リバース)GCCACTGTTTTCGGGTTCT<配列番号8>
AIM2:(フォワード)GGCCACCATCTGTTTCTGTT<配列番号9>、(リバース)GCCACTAAGTCAAGCTGAAATG<配列番号10>
(結果)
同定したOSCC癌関連遺伝子候補の26遺伝子のうち5遺伝子がインターフェロン誘発性遺伝子であった。これらの遺伝子群は様々な癌で異常が報告されている。そのうち2遺伝子(AIM2、IFI16)が1q23.2→1q23.3の1.3Mbの増幅領域に位置していたため、この2遺伝子に焦点をあて、調べることとした(図1B)。
【0073】
まず、上記の8つの細胞株、11症例の患者検体を用いてAIM2、IFI16のmRNAの発現量をrealtime PCR法にて確認し、細胞株、患者検体どちらもそれぞれの遺伝子で一部を除いて高発現していた(図2A、B、C、D)。コントロールには正常口腔組織2例を使用した。
【0074】
実験例3.OSCCにおけるAIM2、IFI16のノックダウンによる細胞増殖抑制、アポトーシス誘発機能の検討
(方法)
・shRNA発現ベクターの構築と細胞導入法
RNAi Ready pSIREN-RetroQ-ZsGreen (クローンテック社製)のpSIREN-RetroQ-ZsGreenベクターのBamH1-EcoR1サイトに、shAIM2 (センス鎖:GATCCGGCAAACTACATACTGCAAACATTCAAGAGATGTTTGCAGTATGTAGTTTGCCTTTTTTACGCGTG<配列番号11> アンチセンス鎖:AATTCACGCGTAAAAAAGGCAAACTACATACTGCAAACATCTCTTGAATGTTTGCAGTATGTAGTTTGCCG<配列番号12>)、shIFI16(センス鎖:GATCCGGCTCCACCCAACAGTTCTTCATTCAAGAGATGAAGAACTGTTGGGTGGAGCCTTTTTTACGCGTG<配列番号13> アンチセンス鎖:AATTCACGCGTAAAAAAGGCTCCACCCAACAGTTCTTCATCTCTTGAATGAAGAACTGTTGGGTGGAGCCG<配列番号14>)を挿入し、shAIM2ベクター、shIFI16ベクターをそれぞれ作製した。このベクターをOSCC細胞株であるSAS細胞に対し、遺伝子導入システムnucleofector (アマクサバイオシステム社製)を用いてそれぞれを導入した。48時間培養後、JSANデスクトップ・セルソーター(ベイバイオサイエンス杜)を用いて、GFPの導入された細胞(shベクターの導入された細胞)のみを回収後、培養しSAS/shAIM2、SAS/shIFI16を作製した。コントロールとして、RNAi Ready pSIREN-RetroQ-ZsGreen (クローンテック社製)に付属のコントロールベクター(sh Luc)を同様の手法により遺伝子導入したものを作製した(以下SAS/shLucと称す)。
【0075】
・RT-PCR
それぞれのcDNAを前述と同様の手法にて作製し、これをテンプレートとしPCR法により増幅し、アガロースゲル電気泳動により遺伝子の発現量を確認した。具体的には、ポリメラーゼとしてTaKaRaExTaq (タカラバイオ株式会社製)を用い、PCR装置としてはPCR Thermal Cycler DICE (タカラバイオ株式会社製)を用いた。また、PCRによる増幅前に、β-アクチンにより、各cDNAを補正した。PCRの際に用いたプライマーの塩基配列はRealtime PCRと同様のプライマーを使用した。
【0076】
・細胞増殖実験
ce11 counting kit8 (同仁堂社製)を使用することにより行った。増殖期にあるSAS/shAIM2、SAS/shIFI16、SAS/shLucを1×103個ずつ、96穴マイクロプレートの各ウエルに100μlずつ播種し(1日各4ウエルずつ、各4日分)、24時間培養した。その後Cell Counting Kit-8溶液を各ウエルに10μlずつ添加し、インキュベーター内で2時間呈色反応を行った後マイクロプレートリーダーを用い、450nm吸光度を測定した。これを24時間毎4回(4days)行った。
【0077】
・細胞周期の分析
SAS/shAIM2、SAS/shIFI16、SAS/shLuc細胞を作製後、5日間培養(細胞増殖に差が出始めるまで培養)し、1×106個の細胞を回収し、プロトコールに従い、細胞を洗浄し、氷冷70%エタノールを5 ml加えて撹拌した。その後-30℃で30分インキュベートした。細胞を洗浄し、200μlのRNase(2.5μg/ml)/PBSを加え、37℃で20分インキュベート後、細胞を回収しPI(10μg/ml)PBS溶液を500μl加え4℃で遮光で10分インキュベートし、FACScan (Becton Dickinson社)で解析を行った。
【0078】
・アポトーシス検出法
Apoptosis Detection kit (MBL社製)を用いて行った。SAS/shAIM2、SAS/shIFI16、SAS/shLuc細胞を作製後、5日間培養(細胞増殖に差が出始めるまで培養)し、1×106個の細胞を回収し、プロトコールに従い、細胞を洗浄し、付属のbinding bufferを0.5mL、AnnexinV-PIを5μ1加え、5分間暗室でインキュベー卜した。FACScan (Becton Dickinson社)にてshベクターが導入されているFL-1 (GFP)陽性、且つアポトーシスを起こしているAnnexinV陽性細胞数をカウントした
(結果)
前述するように、OSCCでのAIM2、IFI16の高発現が証明された。次に、これらの遺伝子がOSCCの増殖、不死化に与える影響について検討するため、AIM2、IFI16高発現であるOSCC細胞株SAS細胞にAIM2遺伝子、IFI16遺伝子のmRNAを切断する活性を有するショートヘアピンRNA (shRNA)、shAIM2、shIFI16を導入しAIM2発現抑制SAS細胞株(以下「SAS/shAIM2」と称す)、IFI16発現抑制SAS細胞株(以下「SAS/shIFI16」と称す)を作製した。SAS/shAIM2がAIM2を発現抑制、SAS/shIFI16がIFI16を発現抑制している評価として、RT-PCRを行い、発現抑制していることをそれぞれ確認した(図3B)。これらの細胞で細胞増殖アッセイを行いその増殖能を評価した。コントロール細胞と比較して、SAS/AIM2、SAS/IFI16細胞ではその増殖が有意に抑制されていることがわかった(図3A)。そこで細胞増殖の抑制を起こす原因を探索するため、細胞周期の変化を疑い、評価した。その結果、どちらもsubGl期の増加が顕著に認められた(図3C)。subGl期の増加から、アポトーシス細胞の増加が考えられた。そこで、次にAnnexinV染色によるアポトーシスの検討を行った。コントロール細胞と比敬して、SAS/AIM2、SAS/IFI16細胞では有意にアポトーシスしていることが認められた(図3D、E)。
【0079】
以上からOSCCにおいて、AIM2、IFI16遭伝子は細胞増殖能や抗アポトーシスに関与していることが示唆された。
【0080】
実験例4.AIM2、IFI16の発現に依存したOSCCにおけるNFκβの活性化
(方法)
・ウェスタンブロッティング
SDS sample buffer (0.05M Tris-HCl、pH6.8、10% グリセロール、2% SDS、0.01% ブロモフェノールブルー、0.6% 2-メルカプトエタノール)に細胞株107個溶解し、テンプレートとし、ポリアクリルアミドゲルで電気泳動した。それをPVDFメンブレンに転写後、メンブレンを1%BSAでブロッキングし、anti-Iκβα抗体(サンタクルーズバイオテクノロジー社製)、コントロールとしてanti-β-actin抗体(シグマアルドリッチ社製)で4℃16時間1次抗体反応させた。その後洗浄し、anti-Rabbit抗体、anti-mouse抗体で2時間、2次抗体反応をした。メンブレン上の抗原を化学発光検出するためにLumi-Light Plus (ロシュダイアグノティックス社製)を使用し、バンドの検出にはLAS-3000 (富士フイルム社)を使用した。なおIκβαタンパク量検出前にant-β-actinのタンパク質量より各テンプレートを補正した。
【0081】
・NFκβ阻害剤BAY11−7082 (Calbiochem社)を使用した細胞増殖実験
NFκβ阻書剤BAY11-7082 (Calbiochem社)を使用した細胞増殖実験は、それぞれの濃度にした培養液で48時間培養後、先述のcell counting kit8を使用し、各細胞、各濃度4ウエルずつ吸光度を計測した。BAY11-7082を入れていない状態の細胞を100%としたときの各濃度の細胞数を%で表すようにグラフを作成した。また、HSC4を用いて、BAY11-7082を加えた際の各濃度でのIκβαのタンパク質量を上記のウェスタンプロットと同様の手法を用いて行った。
【0082】
更に、SAS/shAIM2、SAS/shIFI16でのIκβαのタンパク質量を上記のウェスタンプロットと同様の手法を用いておこなった。LPS刺激は、培養液中に10μg/mlの濃度で刺激し10分後に細胞を回収し、上記手法にてIκβαのタンパク質量をウェスタンプロットにより検出した。
【0083】
・ルシフェラーゼアッセイ
NFκβの転写活性を調べるためにルシフェラーゼアッセイを行った。SAS/shAIM2、SAS/shIFI16、SAS/shLucを24ウエルプレートで培養し、NFκβのluciferaseベクター(以下NFκβ-1ucと称する)(琉球大学から供与)0.5μgとinternal controlとしてpRL-tk 50 ngをHi1y MAXリポソーム試薬(同仁科学研究所製)を用いて導入した。導入後24時間細胞を培養し、Dual-Luciferase(登録商標) Reporter Assay System (プロメガ社製)を用いてプロトコールに従い、蛍光強度を検出した。検出には20/20n Luminometerを使用した。LPSによる刺激は、NFκβ-luc、pRL-tkを上記と同様に導入してから、12時間後に培養液中に10μg/mlの濃度で刺激し、24時間後に細胞を回収しluciferase assayを行った。
【0084】
(結果)
AIM2/IFI16の活性化は感染に伴う防御機構として働くので、NFκβの活性化、アポトーシス経路の活性化が考えられ得る。そこでNFκβの活性化を調べてみた。
【0085】
初めにウェスタンプロットでIκβαのタンパク質量をOSCC細胞株と口腔正常組織とで比較した。概してIκβαタンパク量がOSCC細胞殊において減少しており(図4A)、NFκβの活性化が考えられる。そこで次に、NFκβの活性化がOSCCに及ぼす影響について検討した。NFκβ阻害剤BAY11-7082による細胞の反応を見ると、HSC4、SASでは量依存的に細胞増殖が抑制される。しかし、AIM2、IFI16の発現を認めないHSQ89では、変化を認めなかった(図4B)。HSC4を用いて、BAY11-7082を加えた際のIκβαのタンパク質量を各濃度で調べ、NFκβ活性が抑制されているかを検討した結果、量依存的にIκβαが増えていた(図4C)。
【0086】
以上より、OSCCにおいて、NFκβの活性化は抗アポトーシスに機能していることが示唆された。さらにSASにshAIM2、shIFI16をそれぞれ入れると、shLucと比較しIκβαタンパク質量が増えた(図4D)。これを確認する為に、転写活性化を検討すると、NFκβの活性化はAIM2、IFI16に依存していた(図4E)。また、LPS刺激を加えNFκβの活性を促すとタンパク質量、転写活性、共により顕著にその差が認められた。よって、OSCCではNFκβの活性化がAIM2、IFI16に依存していることが示唆された。
【0087】
まとめ
・OSCCにおいてAIM2、IFI16は高頻度に高発現していており、新規診断法としての可能性を示した。その発現を抑制すると、NFκβの活性が抑制され、NFκβの活性はAIM2、IFI16に依存していた。
・また、OSCCにおいてNFκβ活性阻害薬の投与により細胞増殖抑制が起こったことから、OSCCにおいてNFκβの活性は抗アポトーシスに寄与していることが示唆された。つまりOSCCに おいてAIM2、IFI16の発現を抑制しNFκβの括性を抑制することは、OSCCの治療につながる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、被験対象の生体試料中の口腔扁平上皮癌の検出方法:
(1)該生体試料における、AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現レベルを検出する工程、及び
(2)該発現レベルが上昇していた場合に、口腔扁平上皮癌が存在すると判定する工程。
【請求項2】
前記工程(1)における遺伝子の発現レベルの検出を、
AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子のmRNA、又は
AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子にコードされるタンパク質
を検出することにより行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子に結合する核酸、又は
AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子にコードされるタンパク質に結合する抗体若しくは抗体断片
を含む口腔扁平上皮癌の診断薬。
【請求項4】
AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子に結合する核酸、又は
AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子にコードされるタンパク質に結合する抗体若しくは抗体断片
を含む口腔扁平上皮癌の診断用キット。
【請求項5】
以下の工程を含む、口腔扁平上皮癌を治療又は予防するための化合物のスクリーニング方法:
(1)AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を発現する細胞に候補となる化合物を接触させる工程、及び
(2)候補となる化合物が存在しない場合と比較し、上記遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を選択する工程。
【請求項6】
以下の工程を含む、口腔扁平上皮癌を治療又は予防するための化合物のスクリーニング方法:
(1)AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子にコードされるタンパク質に候補となる化合物を接触させる工程、
(2)該タンパク質と該化合物の結合活性を検出する工程、及び
(3)該タンパク質に結合する化合物を選択する工程。
【請求項7】
以下の工程を含む、口腔扁平上皮癌を治療又は予防するための化合物のスクリーニング方法:
(1)AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子にコードされるタンパク質に候補となる化合物を接触させる工程、
(2)工程(1)で得られたタンパク質の細胞増殖活性を検出する工程、及び
(3)候補となる化合物が存在しない場合と比較し、該タンパク質の細胞増殖活性を抑制する化合物を選択する工程。
【請求項8】
AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子に対するsiRNA、shRNA、dsRNA又はアンチセンスポリヌクレオチドを含む口腔扁平上皮癌の治療用又は予防用組成物。
【請求項9】
AIM2及びIFI16からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子にコードされるタンパク質に結合する抗体又は抗体断片を含む口腔扁平上皮癌の治療用又は予防用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−170335(P2012−170335A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32183(P2011−32183)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】