説明

口腔用コーティング剤

【課題】 水に均一に溶けることで、歯をコーティングし易く、歯垢の形成を抑制することができ、更に安価に製造することができる口腔用コーティング剤、及び細菌吸着阻害剤の提供。
【解決手段】 水酸基を有する重合単位(1)(但し重合単位(2)は除く)と、式
−(AO)n−R
[式中、Rは水素原子、フッ素原子、又は置換基を有しても良い1価の炭化水素基、AOは炭素数2〜3のオキシアルキレン基、nは数平均値で2〜200の数を示し、n個のAOは同一でも異なっていてもよい。]
で表されるポリオキシアルキレン鎖を有する重合単位(2)を含むポリマーをリン酸化剤によりリン酸化して得られる水溶性ポリマーからなる口腔用コーティング剤、その水溶性ポリマーからなる細菌吸着阻害剤及びその水溶性ポリマーを含有する口腔用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーラルケア剤に有用な、歯表面への細菌付着を抑制する水溶性ポリマーからなる口腔用コーティング剤、及び細菌吸着阻害剤、並びにそのポリマーを含有する口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯垢が歯周病や虫歯の原因であることは公知の事実であり、更に、歯垢を放置しておくと、除去が困難な歯石(結晶性カルシウム)に変化する。歯垢の形成は、唾液中の蛋白質が歯表面に吸着しペリクルと呼ばれる皮膜が形成され、このペリクルに細菌が吸着することで始まる。そのため、細菌や、微生物の吸着を阻害する剤が提案されている。
【0003】
特許文献1には、塩化ジメチルジアリルアンモニウムのホモポリマー及び塩化ジメチルジアリルアンモニウムと少なくとも1種のエチレン性不飽和炭化水素結合を有する重合可能なモノマーとのコポリマーから選ばれるポリマーとベタイン型界面活性剤とからなる組成物が、歯表面への微生物の付着抑制に効果があることが開示されている。また特許文献2には、塩化トリメチルアミノエチルメタクリレート単位とアルキルメタクリレート単位とから構成される水溶性コポリマーにより、歯垢の形成を阻止出来ることが開示されている。しかし、それらの効果はまだ十分ではない。
【0004】
特許文献3には、歯への吸着性があるリン酸基を有するポリマー鎖と、親水性ポリマー鎖を有する口腔用ポリマーが記載されており、かかるポリマーの製造法として、リン酸基を有するモノマーと末端に重合性基を有する親水性ポリマー鎖を共重合する方法が開示されている。この方法によりポリマーを製造した場合、リン酸基を有するモノマー(特にリン酸モノエステルモノマー)の通常入手可能な市販品中には、1分子内に重合性基を2つ以上含有する不純物が数十重量%混在しているため、重合後水に均一に溶解しない架橋体が生成し、その結果、得られたポリマーが歯にコーティングし難くなるといった問題があった。それ故この架橋成分を除去したモノマーを使用する方法があるが、その除去は技術的にかなり困難なため、除去できたとしても非常に高価なモノマーになる可能性が高い。
【特許文献1】特開平9−175965号公報
【特許文献2】特許第2866393号公報
【特許文献3】特開2003−105031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、水に均一に溶けることで、歯をコーティングし易く、歯垢の形成を抑制することができ、更に安価に製造することができる口腔用コーティング剤、及び細菌吸着阻害剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、水酸基を有する重合単位(1)(但し重合単位(2)は除く)と、式
−(AO)n−R
[式中、Rは水素原子、フッ素原子、又は置換基を有しても良い1価の炭化水素基、AOは炭素数2〜3のオキシアルキレン基、nは数平均値で2〜200の数を示し、n個のAOは同一でも異なっていてもよい。]
で表されるポリオキシアルキレン鎖を有する重合単位(2)を含むポリマーをリン酸化剤によりリン酸化して得られる水溶性ポリマーからなる口腔用コーティング剤、及びその水溶性ポリマーからなる細菌吸着阻害剤、並びにその水溶性ポリマーを含有する口腔用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の口腔用コーティング剤は、安価に製造することができ、また高い細菌吸着阻害効果を有し、細菌吸着阻害剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[口腔用コーティング剤]
本発明において、水酸基を有する重合単位(1)としては、一般式(I)で表される重合単位が挙げられる。
【0009】
【化3】

【0010】
[式中、R1は水素原子、フッ素原子、又は置換基を有していてもよい1価の炭化水素基を示す。R2は置換基を有していてもよい2価の炭化水素基を示す。Xは−O−又は−NH−を示す。]
一般式(I)において、R1は、水素原子又はメチル基が好ましく、メチル基が更に好ましい。R2は、炭素数1〜22の直鎖もしくは分岐鎖のアルキレン基が好ましく、アルキレン基中にフェニレン基等のアリーレン基を有していてもよい。更に好ましくは炭素数2〜12の直鎖アルキレン基である。Xは、−O−が好ましい。
【0011】
水酸基を有する重合単位(1)としては、特にヒドロキシエチルメタクリレート及びヒドロキシエチルアクリレートから選ばれる少なくとも1種のモノマー由来の重合単位が好ましい。
【0012】
本発明において、ポリオキシアルキレン鎖を有する重合単位(2)としては、一般式(II)又は(III)で表される重合単位が挙げられる。
【0013】
【化4】

【0014】
[式中、R3は水素原子、フッ素原子、又は置換基を有していてもよい1価の炭化水素基を示す。R、AO及びnは前記の意味を示す。]
一般式(II)中、R3は水素原子又はメチル基が好ましく、メチル基が更に好ましい。Rは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜22の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基が更に好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、i−プロピル基、n−プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられ、メチル基が特に好ましい。
【0015】
尚、R,R1,R2,R3において、炭化水素基の置換基としては、例えばカルボキシ基、アシル基(炭素数1〜8)等が挙げられる。
【0016】
(AO)nは、ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖、又はオキシエチレン基とオキシプロピレン基の混合鎖であってもよく、その結合は、ランダム、ブロック、交互のいずれでもよい。好ましくは、ポリオキシエチレン鎖である。nは数平均で2〜200であり、10〜200が好ましく、20〜150が更に好ましい。
【0017】
水酸基を有する重合単位(1)とポリオキシアルキレン鎖を有する重合単位(2)を含むポリマー(以下前駆体ポリマーという)において、重合単位(1)と(2)との割合は、(1)/(2)(重量比)=10/90〜90/10が好ましく、10/90〜60/40が更に好ましい。
【0018】
前駆体ポリマーは、水酸基を有する重合単位(1)を誘導するモノマーと、ポリオキシアルキレン鎖を有する重合単位(2)を誘導するモノマーとを共重合することにより得られるが、これらのモノマー以外のモノマーを共重合させても良い。その他モノマーとしては、例えば(i)(メタ)アクリルアミド、(ii)N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド等のアルキル(炭素数1〜3)(メタ)アクリルアミド、(iii)N, N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N, N−ジエチル(メタ)アクリルアミド等のジアルキル(総炭素数2〜8)(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
重合は、ラジカル重合開始剤の存在下、公知の重合法、即ちバルク重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等により、重合させて製造できるが、溶液重合法が好ましい。
【0019】
本発明の口腔用コーティング剤は、前駆体ポリマーをリン酸化剤でリン酸化することにより得られる水溶性ポリマーからなる。リン酸化剤としては、オキシ塩化リン、ポリリン酸、オルトリン酸、五酸化リンからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。リン酸化の方法としては、以下の(i)〜(iv)に示す方法が例示される。
【0020】
(i)オキシ塩化リンで前駆体ポリマーをリン酸化する方法
オキシ塩化リンで前駆体ポリマーをリン酸化する場合は、所定量のオキシ塩化リンを、前駆体ポリマーを溶解する溶媒(好ましくはジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、エチルエーテル、1,4−ジオキサン等)に溶解し、これらを反応容器に入れる。温度は5℃以下の状態にすることが好ましい。その中に、別途調製した所定量の前駆体ポリマーと、前駆体ポリマー中の水酸基と等モルか少し過剰の第3級アミン(例えばトリエチルアミン、ピリジン等)と溶媒からなる混合溶液を撹拌下に滴下する。滴下終了後、0〜100℃の温度範囲で1〜24時間反応させ、反応後3級アミン塩酸塩を濾別する。次いでポリマーのP−Cl結合を過剰の水又は温水で加水分解し、濾過、乾燥することで、前駆体ポリマー中の水酸基がリン酸化されたポリマーを得ることができる。
【0021】
オキシ塩化リンの仕込量及び反応温度は、前駆体ポリマー中の水酸基の量及び要求するリン酸化率により適宜選択する必要がある。なお、本反応は高分子反応であるため、通常の低分子化合物のリン酸化とは異なり反応性が低い。従って、高いリン酸化率を望む場合は、オキシ塩化リンを、前駆体ポリマー中の水酸基に対し1.5〜5倍モル程過剰に仕込むのが好ましい。
【0022】
(ii)ポリリン酸で前駆体ポリマーをリン酸化する方法
ポリリン酸を用いた場合、反応後ピロ体が水酸基に結合している場合があり、該ピロ体の存在は保存安定性に悪い結果を示すため、以下のように行うのが好ましい。
【0023】
(ii-1) 無溶媒系での反応
前駆体ポリマーに、所定量のポリリン酸を加えて、室温〜150℃で1〜24時間反応させる。これにより、前駆体ポリマー中の水酸基がリン酸化されたポリマーが得られる。また、ポリリン酸(ピロ体)の状態で水酸基に結合している場合もあるため、ポリマーを熱水中で1〜12時間撹拌し、ピロ体の加水分解、及び生成したオルトリン酸の除去を行うことが好ましい。このピロ体の存在はP−NMRで容易に確認することができる。本反応においても、高いリン酸化率を望む場合は、高濃度(110%以上)のポリリン酸を、前駆体ポリマー中の水酸基に対して2〜20倍モルほど過剰に仕込むのが好ましい。
【0024】
(ii-2) 溶媒系での反応
前駆体ポリマー、溶媒(ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、トルエン等)及びポリリン酸のそれぞれの所定量を均一溶液とし、又は膨張させた後、室温〜溶媒の還流温度で1時間から12時間反応させる。これにより、前駆体ポリマー中の水酸基がリン酸化されたポリマーが得られる。本反応においては、上述の無溶媒系に比べ反応温度が低いため、リン酸エステルの熱分解が起こり難く好ましい方法である。また本方法においてもピロ体の状態でポリマーに結合している場合があるため、ポリマーを熱水中で撹拌し、水酸基と結合しているピロ体の加水分解、及び生成したオルトリン酸の除去を行うことが好ましい。本反応においても、高いリン酸化率を望む場合は、高濃度(110%以上)のポリリン酸を、前駆体ポリマー中の水酸基に対して2〜20倍モルほど過剰に仕込み、また系内をできるだけ無水状態にするのが好ましい。
【0025】
(iii)オルトリン酸で前駆体ポリマーをリン酸化する方法
(iii-1) 無溶媒系での反応
前駆体ポリマーに50%濃度以上のオルトリン酸の所定量を加えて、150℃以下で1〜24時間反応させる。これにより、前駆体ポリマー中の水酸基がリン酸化されたポリマーが得られる。また、高いリン酸化率を得たい場合は、高濃度(100%)のオルトリン酸を用い、これを前駆体ポリマー中の水酸基に対し2〜20倍モル程過剰に加え反応させるのが好ましい。
【0026】
(iii-2) 溶媒系での反応
前駆体ポリマー、50%濃度以上のオルトリン酸及び溶媒(ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、トルエン、キシレン等)のそれぞれの所定量を均一溶液とし、又は膨潤させた後、溶媒の還流温度で1〜24時間反応させる。これにより、前駆体ポリマー中の水酸基がリン酸化されたポリマーが得られる。本反応においても、高いリン酸化率を得たい場合は、高濃度(100%)のオルトリン酸を前駆体ポリマー中の水酸基に対し2〜50倍モル過剰に仕込み、また系内をできるだけ無水状態にするのが好ましい。
【0027】
(iv)五酸化リンで前駆体ポリマーをリン酸化する方法
前駆体ポリマーと水(イオン交換水又はオルトリン酸水溶液)の混合物中に、所定量の五酸化リンを強撹拌下20〜80℃の温度範囲で徐々に加え、30分程度同温度で反応させる。その後100℃以下の温度で1〜24時間反応させることにより、前駆体ポリマー中の水酸基がリン酸化されたポリマーが得られる。本反応においては、高いリン酸化率を得たい場合、前駆体ポリマー中の水酸基に対し五酸化リンを1倍モル以上加えるのが好ましい。
【0028】
以上のようにして得られるリン酸基含有ポリマーは、水溶性である必要がある。なお、本発明において、「水溶性」とは、30℃のイオン交換水100gに24時間浸漬した場合の溶解度が5g以上であることをいう。
【0029】
本発明に係わる水溶性ポリマーの分子量は、後述する測定法による重量平均分子量で、5000〜100万が好ましく、1万〜25万が更に好ましい。この範囲内では、水溶液中の粘度が適度で扱い易く、また細菌吸着の阻害効果が高い。
【0030】
[細菌吸着阻害剤]
本発明に係わる水溶性ポリマーからなる細菌吸着阻害剤は、効果的に歯表面への細菌の吸着を阻害するものである。本発明の細菌吸着阻害剤の細菌吸着阻害性は下記式(IV)で定義される細菌吸着阻害値で示し、本発明に係わる水溶性ポリマー1重量%以下の濃度で、この細菌吸着阻害値が80以上であることが好ましく、85以上であることが更に好ましい。細菌は、口腔内細菌が好ましく、S.Mutans 菌が特に好ましい。
【0031】
細菌吸着阻害値=[(A−X)/(A−B)]×100 …(IV)
〔式中、Aは唾液処理を行ったヒドロキシアパタイト板へ付着した細菌数(×107cells/cm2)を示し、Bは唾液処理を行っていないヒドロキシアパタイト板へ付着した細菌数(×107cells/cm2)を示し、Xは1重量%濃度の水溶性ポリマー水溶液で処理した後に、唾液処理を行ったヒドロキシアパタイト板へ付着した細菌数(×107cells/cm2)を示す。〕
即ち、唾液処理を行ったヒドロキシアパタイト板へ付着した細菌数(A)と、唾液処理を行っていないヒドロキシアパタイト板へ付着した細菌数(B)との差を基準値(100)として、(A)と、1重量%濃度の水溶性ポリマー水溶液で処理した後に、唾液処理を行ったヒドロキシアパタイト板へ付着した細菌数(X)の差を、式(IV)に示すように数値化したものを、細菌吸着阻害値とした。
【0032】
[口腔用組成物]
本発明に係わる水溶性ポリマーを含有する本発明の口腔用組成物は、更に水及び/又は炭素数1〜5の低級アルコールを担体として含有することが好ましい。ここで、低級アルコールとしては、炭素数1〜5の直鎖又は分岐鎖の飽和アルコールが好ましく、なかでもエタノール、イソプロピルアルコールが好ましく、エタノールが特に好ましい。水及び低級アルコールから選ばれる2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0033】
本発明に係わる水溶性ポリマーの口腔用組成物中の含有量は、0.001〜20重量%が好ましく、0.1〜10重量%が更に好ましく、0.1〜5重量%が特に好ましい。水及び/又は低級アルコールの含有量は、0.1〜99.9重量%が好ましく、5〜80重量%が更に好ましい。
【0034】
本発明の口腔用組成物には、更に口腔用組成物に通常用いられる成分、例えば界面活性剤、研摩剤、殺菌剤、甘味料、香料、保存剤、美白剤、湿潤剤、粘結剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合できる。その他、酵素阻害剤、血行促進剤、抗炎症剤、止血剤、鎮痛剤、抗ヒスタミン剤、更にこれらの作用を有する植物エキス等の薬効剤を含有することも好ましい。
【0035】
本発明の口腔用組成物は、練り歯磨き、粉歯磨き、水歯磨き、液状歯磨、液体歯磨、潤製歯磨、洗口剤、マウスウォッシュ、マウススプレー、歯牙コーティング剤、義歯コーティング剤、義歯洗浄剤、チューインガム等の剤形に使用できる。特に練り歯磨とするのが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下に、合成例、実施例を示す。%は特に記載しなければ、重量%である。尚、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量の測定条件は以下の通りである。
【0037】
<GPCの測定条件>
カラム;G4000PWXL+G2500PWXL(東ソー株式会社製)
溶離液;0.2規定リン酸緩衝液:アセトニトリル=9:1(容量比)
(リン酸緩衝液は、KH2PO4,Na2HPO4を溶かし0.2規定としpH=7に調整したものを用いた。)
流速;1ml/min
カラム温度;40℃
サンプル;5mg/ml
検出;RI
換算分子量;ポリエチレングリコール
合成例1
冷却管、攪拌装置、滴下ロートを付けた300mlセパラブルフラスコにポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(ポリエチレングリコールのEO平均付加モル数90)20g(4.9mmol)、ヒドロキシエチルメタクリレート20.0g(154mmol)、2−メルカプトエタノール0.62g(7.9mmol)、水110gを仕込んだ。攪拌しながら、窒素置換を行った後78℃に昇温した。約10分後13.8%過硫酸アンモニウム水溶液11.6gを一気に加え6時間重合を行った。放冷後、減圧下で水を除去した。
【0038】
得られた固体を別の300mlセパラブルフラスコに移し、ジメトキシエタン100mlを加え均一にした後、ポリリン酸103.38gを加え室温で12時間撹拌した。水100mlを加え、更に1時間撹拌した。水500mlを加え、セルロースチューブ(分画分子量12000〜14000)に詰め、外液を約5Lとし約12時間おきに交換しながら透析を3日間行った。その後、内容物を取り出し凍結乾燥を行い43.0gの無色の固体を得た(以下リン酸化ポリマー1という)。
リン酸化ポリマー1の重量平均分子量はGPC(ポリエチレングリコール換算)より23.0万であった。
【0039】
合成例2
冷却管、攪拌装置、滴下ロートを付けた300mlセパラブルフラスコにポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(ポリエチレングリコールのEO平均付加モル数90)15g(3.7mmol)、ヒドロキシエチルメタクリレート5.0g(38.4mmol)、ジメトキシエタン55gを仕込んだ。攪拌しながら、窒素置換を行った後68℃に昇温した。約10分後2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)13.8%ジメトキシエタン溶液5.8gを一気に加え6時間重合を行った。放冷後、ポリリン酸15.58gを加え室温で12時間撹拌を行った。水100mlを加え50℃で3時間加熱撹拌を行った。放冷後、水500mlを加え、セルロースチューブ(分画分子量12000〜14000)に詰め、外液を約5Lとし約12時間おきに交換しながら透析を3日間行った。その後、内容物を取り出し凍結乾燥を行い無色の粉末22.5gを得た(以下リン酸化ポリマー2という)。
リン酸化ポリマー2の重量平均分子量はGPC(ポリエチレングリコール換算)より5.1万であった。
【0040】
合成例3
冷却管、攪拌装置、滴下ロートを付けた300mlセパラブルフラスコにポリエチレングリコールモノメチルエーテルアリレート(ポリエチレングリコールのEO平均付加モル数30)120g(85.8mmol)を仕込み、窒素置換を行った。110℃に昇温した後、攪拌を開始し、約10分後35%過酸化水素水溶液10.4gとヒドロキシエチルメタクリレート23.2g(20.0mmol)の滴下を開始し3時間かけて滴下した。1時間加熱後、35%過酸化水素水溶液10.4gを1時間かけて滴下した。1時間加熱後、放冷しポリリン酸65.75gを加え室温で12時間撹拌を行った。水20mlを加え80℃で2時間加熱撹拌を行った。放冷後、水500mlを加え、セルロースチューブ(分画分子量12000〜14000)に詰め、外液を約10Lとし約12時間おきに交換しながら透析を3日間行った。その後、内容物を取り出し凍結乾燥を行い無色の粉末116.3gを得た(以下リン酸化ポリマー3という)。
リン酸化ポリマー3の重量平均分子量はGPC(ポリエチレングリコール換算)より1.8万であった。
【0041】
比較合成例1
冷却管、攪拌装置、滴下ロートを付けた300mlセパラブルフラスコにポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(ポリエチレングリコールのEO平均付加モル数90)15g(3.7mmol)、2−ホスホエチルメタクリレート(ユニケミカル製ホスマーM)5.0g(23.8mmol)、ジメトキシエタン55gを仕込んだ。攪拌しながら、窒素置換を行った後68℃に昇温した。約10分後2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)13.8%ジメトキシエタン溶液5.8gを一気に加えた。約20分後に、内容物全体が流動性を失った。得られた固体は水に不溶であった。
【0042】
比較合成例2
冷却管、攪拌装置、滴下ロートを付けた300mlセパラブルフラスコにポリエチレングリコールモノメチルエーテルアリレート(ポリエチレングリコールのEO平均付加モル数30)120g(85.8mmol)を仕込み、窒素置換を行った。110℃に昇温した後、攪拌を開始し、約10分後35%過酸化水素水溶液10.4gと2−ホスホエチルメタクリレート(ユニケミカル製ホスマーM)5.0g(23.8mmol)の混合物を5.13g/hの速度で滴下した。約30分後に、内容物全体が流動性を失った。得られた固体は水に不溶であった。
【0043】
実施例1:細菌吸着阻害剤
合成例1〜3で得られたリン酸化ポリマー1〜3及び表1に示す比較のポリマーを細菌吸着阻害剤として用い、下記方法で細菌吸着阻害性を測定した。
【0044】
<細菌吸着阻害性測定法>
ヒト口腔内より単離したS.mutans保存菌体を10μCi/ml メチル化[3H]−チミジン0.2重量%グルコース含有ブレインハートインフュージョン培地(DIFCO社)10mlに接種し、37℃で24時間嫌気培養した。緩衝KCl溶液(50mM塩化カリウム、1mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化マグネシウム含有1mMリン酸緩衝液)で3回洗浄後、5mg/mlウシ血清アルブミン含有緩衝塩化カリウム溶液に1×109CFU/mlの濃度で分散させ、3H標識S.mutans液とした。
【0045】
ヒドロキシアパタイト平板(旭光学(株)社)1cm×1cm×2mmを表1記載の細菌吸着阻害剤の1%濃度の水溶液1mlで37℃1時間処理をした。緩衝塩化カリウム溶液2mlで洗浄後、健常男性被験者より採取した耳下腺唾液0.5ml中、4℃で一晩処理した。緩衝塩化カリウム溶液2mlで2回洗浄後、5mg/mlウシ血清アルブミン含有緩衝塩化カリウム溶液0.5mlと、上記3H標識S.mutans液0.5mlを加え、37℃で1時間処理した。緩衝塩化カリウム溶液で3回洗浄後、ヒドロキシアパタイト平板を2M/L水酸化ナトリウム1ml中、70℃で1時間処理した。2N塩酸1mlで中和後、液体シンチレーションカウンターにて、3H放射活性を測定し、細菌吸着数(X)を出した。
【0046】
上記操作で、1%濃度の細菌吸着阻害剤水溶液の代わりに蒸留水1mlを用いて同様の処理を行ったときの、細菌吸着数をAとする。A=2.5(×107cells/cm2)であった。
【0047】
また1%濃度の細菌吸着阻害剤水溶液の代わりに蒸留水1ml、耳下腺唾液の代わりに緩衝塩化カリウム溶液0.5mlを用いて同様の処理を行ったときの、細菌吸着数をBとする。B=0.52(×107cells/cm2)であった。
【0048】
上記A,B及びXの値から、前述の式(IV)で定義される細菌吸着阻害値を求めた。結果を表1に示すが、本発明の細菌吸着阻害剤であるリン酸化ポリマー1〜3は、いずれも高い細菌吸着阻害効果を示した。
【0049】
【表1】

【0050】
処方例1:歯磨き剤
次の処方により、常法に従い練り歯磨きを製造した。
リン酸化ポリマー1 5.0%
シリカ 30.0%
ソルビトール 30.0%
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0%
カルボキシメチルセルロース*1 1.0%
サッカリン 0.1%
香料 0.3%
水 残量
計 100%
*1:カルボキシルメチルセルロース(商品名サンローズF20−HC、日本製紙(株)製)。
【0051】
処方例2:洗口剤
次の処方により、常法に従い洗口剤を製造した。
リン酸化ポリマー1 5.0%
エタノール 20.0%
ピロリン酸ナトリウム 2.0%
サッカリン 0.1%
香料 0.3%
水 残量
計 100.0%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基を有する重合単位(1)(但し重合単位(2)は除く)と、式 −(AO)n−R
[式中、Rは水素原子、フッ素原子、又は置換基を有しても良い1価の炭化水素基、AOは炭素数2〜3のオキシアルキレン基、nは数平均値で2〜200の数を示し、n個のAOは同一でも異なっていてもよい。]
で表されるポリオキシアルキレン鎖を有する重合単位(2)を含むポリマーをリン酸化剤によりリン酸化して得られる水溶性ポリマーからなる口腔用コーティング剤。
【請求項2】
水酸基を有する重合単位(1)が、一般式(I)で表される重合単位である請求項1記載の口腔用コーティング剤。
【化1】

[式中、R1は水素原子、フッ素原子、又は置換基を有していてもよい1価の炭化水素基を示す。R2は置換基を有していてもよい2価の炭化水素基を示す。Xは−O−又は−NH−を示す。]
【請求項3】
ポリオキシアルキレン鎖を有する重合単位(2)が、一般式(II)又は(III)で表される重合単位である請求項1又は2記載の口腔用コーティング剤。
【化2】

[式中、R3は水素原子、フッ素原子、又は置換基を有していてもよい1価の炭化水素基を示す。R、AO及びnは請求項1記載の意味を示す。]
【請求項4】
水酸基を有する重合単位(1)が、ヒドロキシエチルメタクリレート及びヒドロキシエチルアクリレートから選ばれる少なくとも1種のモノマー由来の重合単位である請求項1〜3いずれかに記載の口腔用コーティング剤。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の水溶性ポリマーからなる細菌吸着阻害剤。
【請求項6】
請求項1〜4いずれかに記載の水溶性ポリマーを含有する口腔用組成物。

【公開番号】特開2006−137685(P2006−137685A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−327471(P2004−327471)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】