説明

口腔用組成物、チューインガム及び口腔清涼菓子

【課題】研磨効果、虫歯予防や、口内微生物や食べ滓の吸着・除去を可能とし、しかも、新たな齲触発生リスクが無く、長く安全に使用することができる口腔用組成物を提供する。
【解決手段】口腔用組成物は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含み、あるいは又、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、口腔用組成物、チューインガム及び口腔清涼菓子に関し、より具体的には、抗齲触作用、抗歯周病作用あるいは抗口臭作用を有する口腔用組成物、係る口腔用組成物の構成材料を含むチューインガム及び口腔清涼菓子に関する。
【背景技術】
【0002】
虫歯菌が歯牙表面に付着し、歯垢を形成することから齲触(うしょく)が始まり、歯垢中で虫歯菌が食物を代謝することによって生成される酸がエナメル質を脱灰する結果、初期齲触状態となる。
【0003】
齲触、歯周病、口臭等の口腔内の各種疾患においては、例えば、齲触ではストレプトコッカス・ミュータンス菌を始めとしたミュータンスレンサ球菌、歯周病ではポルフィロモナス・ジンジバリス、口臭ではフゾバクテリウム・ヌクレアタム等のグラム陰性嫌気性桿菌が原因となっている。従って、これらの菌の生育やバイオフィルムを形成することを抑制することが、口腔疾患予防として有用であり、従来、その手段として殺菌剤、抗菌剤等が用いられている。
【0004】
活性炭素や木炭粉末を成分に含有した歯磨き剤が公知である(例えば、特開平05−105616号公報、特開平10−95721号公報参照)。また、例えばストレプトコッカス・サリバリウスを用いた齲触抑制方法(特開平5−004927号公報参照)、ラクトバチルス・ロイテリを用い、ミュータンス菌の増殖を抑制する齲触予防方法(特開2003−299480号公報参照)、ラクトバチルスとストレプトコッカスを併用する方法が提案されている(特開2006−262893号公報)。また、虫歯菌細胞溶解酵素が配合されたチューインガムが、特開昭49−006161号公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−105616号公報
【特許文献2】特開平10−95721号公報
【特許文献3】特開平5−004927号公報
【特許文献4】特開2003−299480号公報
【特許文献5】特開2006−262893号公報
【特許文献6】特開昭49−006161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特開平05−105616号公報や特開平10−95721号公報に開示された従来の歯磨き剤にあっては、活性炭素や木炭粉末の含有によって、歯のエナメル質に対する研磨効果、虫歯予防や、口内微生物や食べ滓の吸着・除去等が期待されている。しかしながら、その効果を明確にしたものは、本発明者が調べた限りでは知られていない。また、特開平5−004927号公報、特開2003−299480号公報あるいは特開2006−262893号公報に開示された方法は、いずれも、病原菌の排除等の効果にのみ着目しており、投与された菌が生成する酸によって生じる可能性のある新たな齲触発生リスクについては述べられていない。特開昭49−006161号公報に開示されたチューインガムにおいて、酵素は蛋白質あるいは糖蛋白質から成り、熱に対して不安定である。特に、チューインガムの製造工程にあっては、材料を加熱、溶融して混合する工程があるため、酵素が失活し易く、酵素の活性の維持が困難である。口腔清涼菓子においても同様の問題が生じ得る。また、市販の歯磨き剤は多様な成分で構成されている。そして、虫歯予防のためにフッ化物(フッ素)が使用され、殺菌消毒剤として陽イオン性活性剤が使用されている。しかしながら、使用後もこれらの化学成分が口腔内に残留し、悪影響を与える場合があり、長く安全に使用することができる歯磨き剤の開発が期待されている。
【0007】
体内の酸素、特に、スーパーオキシド・ラジカル、ヒドロキシラジカル、過酸化水素、一重項酸素といった活性酸素種が生体組織に有害な毒性を有するとされ、皮膚の老化や癌、脳卒中、リュウマチ等、様々な疾病を引き起こす重要な原因の1つとして注目されており、活性酸素種・消去能を有する口腔用組成物や食品、飲料に対する関心が高まっている。また、急激な社会環境の変化や様々な化学食品の出現等によるアレルギー症の増大も、大きな社会問題となっている。このように人体に対して傷害を与える原因となる活性酸素種だが、人体には、活性酸素種による生体内組織や器官の損傷を防ぐ機構が備えられている。例えば、スーパーオキシド・ディムスターゼ(『SOD』と略称する)やカタラーゼ等の酵素による活性酸素種自体の消去作用(抗酸化作用)がその機構に該当する。しかしながら、これらの酵素は加齢と共にその発現量が急激に低下するため、活性酸素種による損傷の増加及びそれに伴う疾病や傷害の発生が顕著になる。また、現代の生活環境における増大した紫外線暴露量や、排気ガス、煙草等の大気中における化学物質の蔓延等の状況から、若年層においても過剰な活性酸素種の発生に対する自己防御機構が十分には発揮できず、傷害や疾病の発生が上昇している。また、酸化ストレスを引き起こす活性酸素種が歯周病に関与することも報告されており、歯科医学においても抗酸化作用が注目されている。それ故、口腔用組成物、チューインガム及び口腔清涼菓子に抗酸化作用を付与することができれば、極めて望ましい。
【0008】
従って、本開示の目的は、研磨効果、虫歯予防や、口内微生物や食べ滓の吸着・除去を可能とし、しかも、新たな齲触発生リスクが無く、長く安全に使用することができる口腔用組成物、係る口腔用組成物の構成材料を含むチューインガム及び口腔清涼菓子を提供することにあり、あるいは又、抗酸化作用を有する口腔用組成物、係る口腔用組成物の構成材料を含むチューインガム及び口腔清涼菓子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本開示の第1の態様に係る口腔用組成物は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含む。尚、このような多孔質炭素材料を、便宜上、『本開示の第1の態様に係る多孔質炭素材料』と呼ぶ場合がある。
【0010】
上記の目的を達成するための本開示の第2の態様に係る口腔用組成物は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含む。尚、このような多孔質炭素材料を、便宜上、『本開示の第2の態様に係る多孔質炭素材料』と呼ぶ場合がある。
【0011】
上記の目的を達成するための本開示の第3の態様に係る口腔用組成物は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合は、全細孔の容積総計の0.2以上である多孔質炭素材料を含む。尚、このような多孔質炭素材料を、便宜上、『本開示の第3の態様に係る多孔質炭素材料』と呼ぶ場合がある。
【0012】
上記の目的を達成するための本開示の第1の態様、第2の態様及び第3の態様に係るチューインガムは、本開示の第1の態様、第2の態様及び第3の態様に係る多孔質炭素材料を含む。また、上記の目的を達成するための本開示の第1の態様、第2の態様及び第3の態様に係る口腔清涼菓子(口中清涼菓子)は、本開示の第1の態様、第2の態様及び第3の態様に係る多孔質炭素材料を含む。
【発明の効果】
【0013】
本開示の第1の態様〜第3の態様に係る口腔用組成物にあっては、これらに含まれる多孔質炭素材料(以下、本開示の第1の態様〜第3の態様に係る多孔質炭素材料を、総称して、『本開示における多孔質炭素材料』と呼ぶ場合がある)の比表面積の値、各種細孔の容積の値が規定されているので、抗齲触作用、抗歯周病作用、抗口臭作用を発揮し、研磨効果、虫歯予防、多孔質炭素材料の優れた吸着作用による口内微生物や食べ滓の吸着・除去を可能とし、しかも、新たな齲触発生リスクが無く、また、多孔質炭素材料から構成されているが故に、長く、安全に、効果的に使用することができる。
【0014】
更には、これらの効果に加え、本開示の第1の態様〜第3の態様に係る口腔用組成物にあっては、多孔質炭素材料に含まれる天然ミネラルによって、口内をアルカリ性にすることができ、虫歯の予防効果を期待することができるだけでなく、抗酸化作用を発揮することができる。即ち、例えば、後述する炭化及び賦活過程で生成した炭酸塩の少量の溶出に起因して、また、後述する賦活度合いを大きくすることによる灰分の増加によって生成したミネラル成分(多孔質炭素材料の表面及び内部に含まれる焼成・賦活過程で生成した残留灰分と考えられる)が溶出する状態となり、口内をアルカリ性にすることができる。また、多孔質炭素材料の表面に存在する官能基(ケトン基、カルボキシ基等)が対象物に対して電子を与えるといった現象に基づき抗酸化作用が生じると考えられる。
【0015】
本開示の第1の態様〜第3の態様に係るチューインガムあるいは口腔清涼菓子は、本開示の第1の態様〜第3の態様に係る多孔質炭素材料を含んでいるので、以上に説明した本開示の第1の態様〜第3の態様に係る口腔用組成物と同様の効果を奏するし、チューインガムあるいは口腔清涼菓子の製造工程において材料を加熱、溶融して混合する工程が含まれていても、多孔質炭素材料は熱的に安定しており、加熱、溶融によって変化が生じることが無い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施例1の口腔用組成物における、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本開示を説明するが、本開示は実施例に限定されるものではなく、実施例における種々の数値や材料は例示である。尚、説明は、以下の順序で行う。
1.本開示の第1の態様〜第3の態様に係る口腔用組成物、チューインガム及び口腔清涼菓子、全般に関する説明
2.実施例1(本開示の第1の態様〜第3の態様に係る口腔用組成物、チューインガム及び口腔清涼菓子)
3.実施例2(実施例1の変形)、その他
【0018】
[本開示の第1の態様〜第3の態様に係る口腔用組成物、チューインガム及び口腔清涼菓子、全般に関する説明]
本開示の第1の態様〜第3の態様に係るチューインガムあるいは口腔清涼菓子において、多孔質炭素材料の平均粒子径は、1×10-7m乃至1×10-4m、好ましくは2×10-5m乃至3×10-5mであることが望ましく、係る望ましい形態を含む本開示の第1の態様〜第3の態様に係るチューインガムあるいは口腔清涼菓子において、多孔質炭素材料が、0.01質量%乃至5質量%、好ましくは0.05質量%乃至3質量%、より好ましくは0.1質量%乃至1質量%、含まれていることが望ましい。多孔質炭素材料の平均粒子径を1×10-7m乃至1×10-4mと規定することで、チューインガムあるいは口腔清涼菓子を口に含んだとき、チューインガムあるいは口腔清涼菓子にざらつき感を感じることが無いし、食感に違和感も無い。また、多孔質炭素材料の添加割合を0.01質量%乃至5質量%と規定することで、抗齲触作用や抗酸化作用等を十分に発揮することができ、しかも、口に含んだときの感触や外観、製造等に問題が生じることが無い。尚、平均粒子径は、レーザー回析・散乱法による粒度分布測定に基づき測定することができる。
【0019】
本開示における多孔質炭素材料は、植物由来の材料を原料とすることができる。ここで、植物由来の材料として、米(稲)、大麦、小麦、ライ麦、稗(ヒエ)、粟(アワ)等の籾殻や藁、珈琲豆、茶葉(例えば、緑茶や紅茶等の葉)、サトウキビ類(より具体的には、サトウキビ類の絞り滓)、トウモロコシ類(より具体的には、トウモロコシ類の芯)、果実の皮(例えば、ミカンやバナナの皮等)、あるいは又、葦、茎ワカメを挙げることができるが、これらに限定するものではなく、その他、例えば、陸上に植生する維管束植物、シダ植物、コケ植物、藻類、海草を挙げることができる。尚、これらの材料を、原料として、単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。また、植物由来の材料の形状や形態も特に限定はなく、例えば、籾殻や藁そのものでもよいし、あるいは乾燥処理品でもよい。更には、ビールや洋酒等の飲食品加工において、発酵処理、焙煎処理、抽出処理等の種々の処理を施されたものを使用することもできる。特に、産業廃棄物の資源化を図るという観点から、脱穀等の加工後の藁や籾殻を使用することが好ましい。これらの加工後の藁や籾殻は、例えば、農業協同組合や酒類製造会社、食品会社、食品加工会社から、大量、且つ、容易に入手することができる。
【0020】
本開示における多孔質炭素材料の原料を、ケイ素(Si)を含有する植物由来の材料とする場合、具体的には、限定するものではないが、多孔質炭素材料は、ケイ素(Si)の含有率が5質量%以上である植物由来の材料を原料とし、ケイ素(Si)の含有率が、5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下であることが望ましい。
【0021】
本開示における多孔質炭素材料は、例えば、植物由来の材料を400゜C乃至1400゜Cにて炭素化した後、酸又はアルカリで処理することによって得ることができる。このような本開示における多孔質炭素材料の製造方法(以下、単に、『多孔質炭素材料の製造方法』と呼ぶ場合がある)において、植物由来の材料を400゜C乃至1400゜Cにて炭素化することにより得られた材料であって、酸又はアルカリでの処理を行う前の材料を、『多孔質炭素材料前駆体』あるいは『炭素質物質』と呼ぶ。
【0022】
多孔質炭素材料の製造方法において、酸又はアルカリでの処理の後、賦活処理を施す工程を含めることができるし、賦活処理を施した後、酸又はアルカリでの処理を行ってもよい。また、このような好ましい形態を含む多孔質炭素材料の製造方法にあっては、使用する植物由来の材料にも依るが、植物由来の材料を炭素化する前に、炭素化のための温度よりも低い温度(例えば、400゜C〜700゜C)にて、酸素を遮断した状態で植物由来の材料に加熱処理(予備炭素化処理)を施してもよい。これによって、炭素化の過程において生成するであろうタール成分を抽出することが出来る結果、炭素化の過程において生成するであろうタール成分を減少あるいは除去することができる。尚、酸素を遮断した状態は、例えば、窒素ガスやアルゴンガスといった不活性ガス雰囲気とすることで、あるいは又、真空雰囲気とすることで、あるいは又、植物由来の材料を一種の蒸し焼き状態とすることで達成することができる。また、多孔質炭素材料の製造方法にあっては、使用する植物由来の材料にも依るが、植物由来の材料中に含まれるミネラル成分や水分を減少させるために、また、炭素化の過程での異臭の発生を防止するために、植物由来の材料をアルコール(例えば、メチルアルコールやエチルアルコール、イソプロピルアルコール)に浸漬してもよい。尚、多孔質炭素材料の製造方法にあっては、その後、予備炭素化処理を実行してもよい。不活性ガス中で加熱処理を施すことが好ましい材料として、例えば、木酢液(タールや軽質油分)を多く発生する植物を挙げることができる。また、アルコールによる前処理を施すことが好ましい材料として、例えば、ヨウ素や各種ミネラルを多く含む海藻類を挙げることができる。
【0023】
多孔質炭素材料の製造方法にあっては、植物由来の材料を400゜C乃至1400゜Cにて炭素化するが、ここで、炭素化とは、一般に、有機物質(本開示における多孔質炭素材料にあっては、植物由来の材料)を熱処理して炭素質物質に変換することを意味する(例えば、JIS M0104−1984参照)。尚、炭素化のための雰囲気として、酸素を遮断した雰囲気を挙げることができ、具体的には、真空雰囲気、窒素ガスやアルゴンガスといった不活性ガス雰囲気、植物由来の材料を一種の蒸し焼き状態とする雰囲気を挙げることができる。炭素化温度に至るまでの昇温速度として、限定するものではないが、係る雰囲気下、1゜C/分以上、好ましくは3゜C/分以上、より好ましくは5゜C/分以上を挙げることができる。また、炭素化時間の上限として、10時間、好ましくは7時間、より好ましくは5時間を挙げることができるが、これに限定するものではない。炭素化時間の下限は、植物由来の材料が確実に炭素化される時間とすればよい。また、植物由来の材料を、所望に応じて粉砕して所望の粒度としてもよいし、分級してもよい。植物由来の材料を予め洗浄してもよい。あるいは又、得られた多孔質炭素材料前駆体や多孔質炭素材料を、所望に応じて粉砕して所望の粒度としてもよいし、分級してもよい。あるいは又、賦活処理後の多孔質炭素材料を、所望に応じて粉砕して所望の粒度としてもよいし、分級してもよい。更には、最終的に得られた多孔質炭素材料に殺菌処理を施してもよい。炭素化のために使用する炉の形式、構成、構造に制限はなく、連続炉とすることもできるし、回分炉(バッチ炉)とすることもできる。
【0024】
多孔質炭素材料の製造方法において、上述したとおり、賦活処理を施せば、孔径が2nmよりも小さいマイクロ細孔(後述する)を増加させることができる。賦活処理の方法として、ガス賦活法、薬品賦活法を挙げることができる。ここで、ガス賦活法とは、賦活剤として酸素や水蒸気、炭酸ガス、空気等を用い、係るガス雰囲気下、700゜C乃至1400゜Cにて、好ましくは700゜C乃至1000゜Cにて、より好ましくは800゜C乃至950゜Cにて、数十分から数時間、多孔質炭素材料を加熱することにより、多孔質炭素材料中の揮発成分や炭素分子により微細構造を発達させる方法である。尚、より具体的には、加熱温度は、植物由来の材料の種類、ガスの種類や濃度等に基づき、適宜、選択すればよい。薬品賦活法とは、ガス賦活法で用いられる酸素や水蒸気の替わりに、塩化亜鉛、塩化鉄、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、硫酸等を用いて賦活させ、塩酸で洗浄、アルカリ性水溶液でpHを調整し、乾燥させる方法である。
【0025】
本開示における多孔質炭素材料の表面に対して、化学処理又は分子修飾を行ってもよい。化学処理として、例えば、硝酸処理により表面にカルボキシ基を生成させる処理を挙げることができる。また、水蒸気、酸素、アルカリ等による賦活処理と同様の処理を行うことにより、多孔質炭素材料の表面に水酸基、カルボキシ基、ケトン基、エステル基等、種々の官能基を生成させることもできる。更には、多孔質炭素材料と反応可能な水酸基、カルボキシ基、アミノ基等を有する化学種又は蛋白質とを化学反応させることでも、分子修飾が可能である。
【0026】
多孔質炭素材料の製造方法にあっては、酸又はアルカリでの処理によって、炭素化後の植物由来の材料中のケイ素成分を除去する。ここで、ケイ素成分として、二酸化ケイ素や酸化ケイ素、酸化ケイ素塩といったケイ素酸化物を挙げることができる。このように、炭素化後の植物由来の材料中のケイ素成分を除去することで、高い比表面積を有する多孔質炭素材料を得ることができる。場合によっては、ドライエッチング法に基づき、炭素化後の植物由来の材料中のケイ素成分を除去してもよい。
【0027】
本開示における多孔質炭素材料には、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)や、リン(P)、硫黄(S)等の非金属元素や、遷移元素等の金属元素が含まれていてもよい。マグネシウム(Mg)の含有率として0.01質量%以上3質量%以下、カリウム(K)の含有率として0.01質量%以上3質量%以下、カルシウム(Ca)の含有率として0.05質量%以上3質量%以下、リン(P)の含有率として0.01質量%以上3質量%以下、硫黄(S)の含有率として0.01質量%以上3質量%以下を挙げることができる。尚、これらの元素の含有率は、比表面積の値の増加といった観点からは、少ない方が好ましい。多孔質炭素材料には、上記した元素以外の元素を含んでいてもよく、上記した各種元素の含有率の範囲も、変更し得ることは云うまでもない。
【0028】
本開示における多孔質炭素材料にあっては、各種元素の分析を、例えば、エネルギー分散型X線分析装置(例えば、日本電子株式会社製のJED−2200F)を用い、エネルギー分散法(EDS)により行うことができる。ここで、測定条件を、例えば、走査電圧15kV、照射電流10μAとすればよい。
【0029】
本開示における多孔質炭素材料は、細孔(ポア)を多く有している。細孔として、孔径が2nm乃至50nmの『メソ細孔』、及び、孔径が2nmよりも小さい『マイクロ細孔』が含まれる。本開示における多孔質炭素材料にあっては、BJH法による細孔の容積は0.1cm3/グラム以上であるが、0.3cm3/グラム以上であることが一層好ましい。
【0030】
本開示における多孔質炭素材料において、窒素BET法による比表面積の値(以下、単に、『比表面積の値』と呼ぶ場合がある)は、より一層優れた機能性を得るために、好ましくは50m2/グラム以上、より好ましくは100m2/グラム以上、更に一層好ましくは400m2/グラム以上であることが望ましい。
【0031】
窒素BET法とは、吸着剤(ここでは、多孔質炭素材料)に吸着分子として窒素を吸脱着させることにより吸着等温線を測定し、測定したデータを式(1)で表されるBET式に基づき解析する方法であり、この方法に基づき比表面積や細孔容積等を算出することができる。具体的には、窒素BET法により比表面積の値を算出する場合、先ず、多孔質炭素材料に吸着分子として窒素を吸脱着させることにより、吸着等温線を求める。そして、得られた吸着等温線から、式(1)あるいは式(1)を変形した式(1’)に基づき[p/{Va(p0−p)}]を算出し、平衡相対圧(p/p0)に対してプロットする。そして、このプロットを直線と見なし、最小二乗法に基づき、傾きs(=[(C−1)/(C・Vm)])及び切片i(=[1/(C・Vm)])を算出する。そして、求められた傾きs及び切片iから式(2−1)、式(2−2)に基づき、Vm及びCを算出する。更には、Vmから、式(3)に基づき比表面積asBETを算出する(日本ベル株式会社製BELSORP−mini及びBELSORP解析ソフトウェアのマニュアル、第62頁〜第66頁参照)。尚、この窒素BET法は、JIS R 1626−1996「ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法」に準じた測定方法である。
【0032】
a=(Vm・C・p)/[(p0−p){1+(C−1)(p/p0)}] (1)
[p/{Va(p0−p)}]
=[(C−1)/(C・Vm)](p/p0)+[1/(C・Vm)] (1’)
m=1/(s+i) (2−1)
C =(s/i)+1 (2−2)
sBET=(Vm・L・σ)/22414 (3)
【0033】
但し、
a:吸着量
m:単分子層の吸着量
p :窒素の平衡時の圧力
0:窒素の飽和蒸気圧
L :アボガドロ数
σ :窒素の吸着断面積
である。
【0034】
窒素BET法により細孔容積Vpを算出する場合、例えば、求められた吸着等温線の吸着データを直線補間し、細孔容積算出相対圧で設定した相対圧での吸着量Vを求める。この吸着量Vから式(4)に基づき細孔容積Vpを算出することができる(日本ベル株式会社製BELSORP−mini及びBELSORP解析ソフトウェアのマニュアル、第62頁〜第65頁参照)。尚、窒素BET法に基づく細孔容積を、以下、単に『細孔容積』と呼ぶ場合がある。
【0035】
p=(V/22414)×(Mg/ρg) (4)
【0036】
但し、
V :相対圧での吸着量
g:窒素の分子量
ρg:窒素の密度
である。
【0037】
メソ細孔の孔径は、例えば、BJH法に基づき、その孔径に対する細孔容積変化率から細孔の分布として算出することができる。BJH法は、細孔分布解析法として広く用いられている方法である。BJH法に基づき細孔分布解析をする場合、先ず、多孔質炭素材料に吸着分子として窒素を吸脱着させることにより、脱着等温線を求める。そして、求められた脱着等温線に基づき、細孔が吸着分子(例えば窒素)によって満たされた状態から吸着分子が段階的に着脱する際の吸着層の厚さ、及び、その際に生じた孔の内径(コア半径の2倍)を求め、式(5)に基づき細孔半径rpを算出し、式(6)に基づき細孔容積を算出する。そして、細孔半径及び細孔容積から細孔径(2rp)に対する細孔容積変化率(dVp/drp)をプロットすることにより細孔分布曲線が得られる(日本ベル株式会社製BELSORP−mini及びBELSORP解析ソフトウェアのマニュアル、第85頁〜第88頁参照)。
【0038】
p=t+rk (5)
pn=Rn・dVn−Rn・dtn・c・ΣApj (6)
但し、
n=rpn2/(rkn−1+dtn2 (7)
【0039】
ここで、
p:細孔半径
k:細孔半径rpの細孔の内壁にその圧力において厚さtの吸着層が吸着した場合のコア半径(内径/2)
pn:窒素の第n回目の着脱が生じたときの細孔容積
dVn:そのときの変化量
dtn:窒素の第n回目の着脱が生じたときの吸着層の厚さtnの変化量
kn:その時のコア半径
c:固定値
pn:窒素の第n回目の着脱が生じたときの細孔半径
である。また、ΣApjは、j=1からj=n−1までの細孔の壁面の面積の積算値を表す。
【0040】
マイクロ細孔の孔径は、例えば、MP法に基づき、その孔径に対する細孔容積変化率から細孔の分布として算出することができる。MP法により細孔分布解析を行う場合、先ず、多孔質炭素材料に窒素を吸着させることにより、吸着等温線を求める。そして、この吸着等温線を吸着層の厚さtに対する細孔容積に変換する(tプロットする)。そして、このプロットの曲率(吸着層の厚さtの変化量に対する細孔容積の変化量)に基づき細孔分布曲線を得ることができる(日本ベル株式会社製BELSORP−mini及びBELSORP解析ソフトウェアのマニュアル、第72頁〜第73頁、第82頁参照)。
【0041】
あるいは又、多孔質炭素材料は、水銀圧入法による細孔分布において1×10-7m乃至5×10-6mの範囲にピークを有し、且つ、BJH法による細孔分布において2nm乃至20nmの範囲にピークを有する構成とすることができる。そして、この場合、更には、水銀圧入法による細孔分布において2×10-7m乃至2×10-6mの範囲にピークを有し、且つ、BJH法による細孔分布において2nm乃至10nmの範囲にピークを有する構成とすることが好ましい。水銀圧入法による細孔の測定は、JIS R1655:2003「ファインセラミックスの水銀圧入法による成形体気孔径分布試験方法」に準拠する。
【0042】
JIS Z8831−2:2010 「粉体(固体)の細孔径分布及び細孔特性−第2部:ガス吸着によるメソ細孔及びマクロ細孔の測定方法」、及び、JIS Z8831−3:2010 「粉体(固体)の細孔径分布及び細孔特性−第3部:ガス吸着によるミクロ細孔の測定方法」に規定された非局在化密度汎関数法(NLDFT法)にあっては、解析ソフトウェアとして、日本ベル株式会社製自動比表面積/細孔分布測定装置「BELSORP−MAX」に付属するソフトウェアを用いる。前提条件としてモデルをシリンダ形状としてカーボンブラック(CB)を仮定し、細孔分布パラメータの分布関数を「no−assumption」とし、得られた分布データにはスムージングを施す。
【0043】
多孔質炭素材料前駆体を酸又はアルカリで処理するが、具体的な処理方法として、例えば、酸あるいはアルカリの水溶液に多孔質炭素材料前駆体を浸漬する方法や、多孔質炭素材料前駆体と酸又はアルカリとを気相で反応させる方法を挙げることができる。より具体的には、酸によって処理する場合、酸として、例えば、フッ化水素、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化カルシウム、フッ化ナトリウム等の酸性を示すフッ素化合物を挙げることができる。フッ素化合物を用いる場合、多孔質炭素材料前駆体に含まれるケイ素成分におけるケイ素元素に対してフッ素元素が4倍量となればよく、フッ素化合物水溶液の濃度は10質量%以上であることが好ましい。フッ化水素酸によって、多孔質炭素材料前駆体に含まれるケイ素成分(例えば、二酸化ケイ素)を除去する場合、二酸化ケイ素は、化学式(A)又は化学式(B)に示すようにフッ化水素酸と反応し、ヘキサフルオロケイ酸(H2SiF6)あるいは四フッ化ケイ素(SiF4)として除去され、多孔質炭素材料を得ることができる。そして、その後、洗浄、乾燥を行えばよい。
【0044】
SiO2+6HF → H2SiF6+2H2O (A)
SiO2+4HF → SiF4+2H2O (B)
【0045】
また、アルカリ(塩基)によって処理する場合、アルカリとして、例えば、水酸化ナトリウムを挙げることができる。アルカリの水溶液を用いる場合、水溶液のpHは11以上であればよい。水酸化ナトリウム水溶液によって、多孔質炭素材料前駆体に含まれるケイ素成分(例えば、二酸化ケイ素)を除去する場合、水酸化ナトリウム水溶液を熱することにより、二酸化ケイ素は、化学式(C)に示すように反応し、ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)として除去され、多孔質炭素材料を得ることができる。また、水酸化ナトリウムを気相で反応させて処理する場合、水酸化ナトリウムの固体を熱することにより、化学式(C)に示すように反応し、ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)として除去され、多孔質炭素材料を得ることができる。そして、その後、洗浄、乾燥を行えばよい。
【0046】
SiO2+2NaOH → Na2SiO3+H2O (C)
【0047】
あるいは又、本開示における多孔質炭素材料として、例えば、特開2010−106007に開示された空孔が3次元的規則性を有する多孔質炭素材料(所謂、逆オパール構造を有する多孔質炭素材料)、具体的には、1×10-9m乃至1×10-5mの平均直径を有する3次元的に配列された球状の空孔を備え、表面積が3×1022/グラム以上の多孔質炭素材料、好ましくは、巨視的に、結晶構造に相当する配置状態にて空孔が配列されており、あるいは又、巨視的に、面心立方構造における(111)面配向に相当する配置状態にて、その表面に空孔が配列されている多孔質炭素材料を用いることもできる。
【0048】
本開示の第1の態様〜第3の態様に係る口腔用組成物(あるいは、本開示における多孔質炭素材料)は、広く食品一般、飲料一般、加工健康食品一般に添加して用いることができ、例えば、菓子類(チューインガム、口腔清涼菓子、タブレット、飴、キャンディー、グミキャンディー、チョコレート、タブレット、粉末ジュース等)に好適に用いることができる。あるいは又、本開示の第1の態様〜第3の態様に係る口腔用組成物の口腔内への適用可能な剤形、剤型(形態)として、歯磨き(練り歯磨き、粉歯磨き、液状歯磨き)、洗口剤、口中清涼剤、義歯洗浄剤、うがい用錠剤、歯肉マッサージクリーム、トローチ、ガム、ヨーグルト、ドリンク、発酵品を例示することができる。あるいは又、本開示の第1の態様〜第3の態様に係る口腔用組成物(あるいは、本開示における多孔質炭素材料)は、医薬品や薬品、抗酸化剤、香粧品として用いることができる。医薬品や薬品、抗酸化剤、香粧品の剤形(形態)は特に限定されず、剤形(形態)に応じて、当分野において通常用いられる賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、アルコール類、水溶性高分子、甘味料、矯味剤、酸味料、薬剤用担持体、水等を添加して、周知の方法に基づき製造することができる。
【0049】
本開示の第1の態様〜第3の態様に係るチューインガムにおいては、通常配合される各種チューインガム成分を含ませることができ、具体的には、本開示の第1の態様〜第3の態様に係る多孔質炭素材料、及び、ガムベース(例えば、天然樹脂、酢酸ビニル樹脂、合成ゴム、エステルガム、ワックス類、乳化剤、充填剤等)の他に、パラチノース、還元パラチノース(パラチニット)、マルチトール、ブドウ糖、砂糖、還元麦芽糖水飴、キシリトール、アスパルテーム、光沢剤、軟化剤、香料(ペパーミント、スペアミント、メントール等のミント系香料、シトラス、ミックスフルーツ、ストロベリー、グレープ等のフルーツ系香料、シナモン、クローブ、アネトール、リコリス等のスパイス系香料)、着色料等を、適宜、組み合わせることで、チューインガムを構成することができる。また、歯磨き効果を有する粉末や顆粒を含有させて歯磨き効果を発揮させることもできる。本開示の第1の態様〜第3の態様に係るチューインガムの形態として、チャンク型、粒型、板型等を挙げることができ、本開示の第1の態様〜第3の態様に係る多孔質炭素材料を添加する点を除き、従来のチューインガムと同じ製造方法で製造することができる。
【0050】
また、本開示の第1の態様〜第3の態様に係る口腔清涼菓子(口中清涼菓子)にあっては、本開示の第1の態様〜第3の態様に係る多孔質炭素材料の他に、糖分に乳製品、油脂、果実、種実、デンプン、小麦粉、酸味料、着香料等を配合したものを原料として、飴状に煮詰めたキャンディー生地、ブドウ糖、果糖、乳糖等の糖類、還元麦芽糖水飴(マルチトール)、キシリトール、ソルビトール、ラクチトール、パラチニット、マンニトール等の糖アルコール類、アラビアガム等の乳化剤、デキストリンやデンプン、滑沢剤としてのショ糖脂肪酸エステル等を、適宜、組み合わせることで、口腔清涼菓子を構成することができる。また、歯磨き効果を有する粉末や顆粒を含有させて歯磨き効果を発揮させることもできる。本開示の第1の態様〜第3の態様に係る口腔清涼菓子の形態として、飴、キャンディー(生地アメ、ドロップ、引きアメ等のハードキャンディー、キャラメル、ヌガー等のソフトキャンディーが含まれ、糖分に所望により乳製品、油脂、果実、種実、デンプン、小麦粉、酸味料、着香料を配合したものを原料として、飴状に煮詰めたもの)、タブレットや錠菓(糖類や還元麦芽糖水飴、糖アルコール類をアラビアガム等の乳化剤と共にデキストリンやデンプン等の賦形剤を加えて粉末あるいは顆粒にし、更に、滑沢剤を加えて錠剤としたもの)等を挙げることができ、本開示の第1の態様〜第3の態様に係る多孔質炭素材料を添加する点を除き、従来の口腔清涼菓子と同じ製造方法で製造することができる。
【実施例1】
【0051】
実施例1は、本開示の第1の態様〜第3の態様に係る口腔用組成物、チューインガム、口腔清涼菓子(口中清涼菓子)に関する。実施例1の口腔用組成物、チューインガム、口腔清涼菓子は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含む。尚、多孔質炭素材料は、ケイ素を含有する植物由来の材料を原料としている。そして、BJH法による細孔(メソ細孔)は、少なくとも、ケイ素を含有する植物由来の材料からのケイ素の除去によって得られる。
【0052】
あるいは又、実施例1の口腔用組成物、チューインガム、口腔清涼菓子は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上(好ましくは0.2cm3/グラム以上)である多孔質炭素材料を含む。あるいは又、実施例1の口腔用組成物、チューインガム、口腔清涼菓子は、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合は、全細孔の容積総計の0.2以上(具体的には、0.479であり、全細孔の容積総計は1.33cm3/グラム)である多孔質炭素材料を含む。
【0053】
実施例1にあっては、多孔質炭素材料の原料である植物由来の材料を米(稲)の籾殻とした。そして、実施例1における多孔質炭素材料は、原料としての籾殻を炭素化して炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換し、次いで、酸処理を施すことで得られる。以下、実施例1における多孔質炭素材料の製造方法を説明する。
【0054】
実施例1における多孔質炭素材料の製造においては、植物由来の材料を400゜C乃至1400゜Cにて炭素化した後、酸又はアルカリで処理することによって、多孔質炭素材料を得た。即ち、先ず、粉砕した籾殻(鹿児島県産、イセヒカリの籾殻。ケイ素(Si)の含有率は10質量%)に対して、不活性ガス中で加熱処理(予備炭素化処理)を施す。具体的には、籾殻を、窒素気流中において500゜C、5時間、加熱することにより炭化させ、炭化物を得た。尚、このような処理を行うことで、次の炭素化の際に生成されるであろうタール成分を減少あるいは除去することができる。その後、この炭化物の10グラムをアルミナ製の坩堝に入れ、窒素気流中(10リットル/分)において5゜C/分の昇温速度で800゜Cまで昇温させた。そして、800゜Cで1時間、炭素化して、炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換した後、室温まで冷却した。尚、炭素化及び冷却中、窒素ガスを流し続けた。次に、この多孔質炭素材料前駆体を46容積%のフッ化水素酸水溶液に一晩浸漬することで酸処理を行った後、水及びエチルアルコールを用いてpH7になるまで洗浄した。次いで、120°Cにて乾燥させた後、900゜Cで水蒸気気流中にて3時間加熱するといった賦活処理を行うことで、実施例1における多孔質炭素材料を得ることができた。
【0055】
比表面積及び細孔容積を求めるための測定機器として、BELSORP−mini(日本ベル株式会社製)を用い、窒素吸脱着試験を行った。測定条件として、測定平衡相対圧(p/p0)を0.01〜0.99とした。そして、BELSORP解析ソフトウェアに基づき、比表面積及び細孔容積を算出した。また、メソ細孔及びマイクロ細孔の細孔径分布は、上述した測定機器を用いた窒素吸脱着試験を行い、BELSORP解析ソフトウェアによりBJH法及びMP法に基づき算出した。また、多孔質炭素材料の細孔を水銀圧入法にて測定した。具体的には、水銀ポロシメーター(PASCAL440:Thermo Electron社製)を用いて、水銀圧入法測定を行った。細孔測定領域を10μm〜2nmとした。更には、非局在化密度汎関数法(NLDFT法)に基づく測定にあっては、日本ベル株式会社製自動比表面積/細孔分布測定装置「BELSORP−MAX」を使用し、
解析前提条件 :なし
細孔形状前提条件:シリンダー型
スムージング回数:10回
とした。尚、測定に際しては、試料の前処理として、200゜Cで3時間の乾燥を行った。
【0056】
実施例1における多孔質炭素材料について、比表面積及び細孔容積を測定したところ、表1に示す結果が得られた。尚、表1中、「比表面積」及び「全細孔容積」は、窒素BET法による比表面積及び全細孔容積の値を指し、単位はm2/グラム及びcm3/グラムである。また、「MP法」、「BJH法」、「水銀圧入法」は、MP法による細孔(マイクロ細孔)の容積測定結果、BJH法による細孔(メソ細孔)の容積測定結果、水銀圧入法による総細孔の容積測定結果を示し、単位はcm3/グラムである。また、図1に、実施例1における多孔質炭素材料の非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布の測定結果のグラフを示す。
【0057】
[表1]
比表面積 全細孔容積 MP法 BJH法 水銀圧入法
実施例1 1290 0.87 0.44 0.70 2.7
【0058】
虫歯菌消長試験にあっては、ストレプトコッカス・ミュータンス菌(IFO 13955)株を標準寒天培地(栄研化学株式会社)で35゜C±1゜Cで2日間培養した。こうして得られた試験菌株を35゜C±1゜Cで18時間乃至24時間、培養した後、生理食塩水に浮遊させ、菌数が104〜105となるように調製し、試験菌液とした。
【0059】
そして、180゜C、1時間で乾熱滅菌した実施例1における多孔質炭素材料を適宜秤量したものに、試験菌液を添加した。尚、これらを、以下、『試験液』と呼ぶ。そして、試験液を、室温で水平振盪(90rmp)した後、室温で60分、放置した。その後、試験液を遠心分離(600g、5分間)後、上清液を生理食塩水で直ちに10倍に希釈し、上清液中の生菌数を菌数測定用培地を用いて測定した。実施例1における多孔質炭素材料を添加していない試験菌液に対して、実施例1の試験液と同様の操作を行い、生菌数を菌数測定用培地を用いて測定した結果を対照群として示した。測定結果を以下の表1に示す。尚、添加量は、試験菌液1ミリリットル当たり添加した実施例1における多孔質炭素材料の質量[単位:ミリグラム]である。
【0060】
[表1]
生菌数(/ミリリットル)
初期値 7.9×104
対照群 3.2×104
添加量: 1mg/ml 90
添加量:10mg/ml 60
添加量:50mg/ml 40
【0061】
試験の結果、対照群と比較して、添加量が1ミリグラム/ミリリットル以上の群で、優位にストレプトコッカス・ミュータンス菌の生菌数が減少した。よって、本開示における多孔質炭素材料は虫歯予防に有効であることが示された。
【0062】
実施例1の口腔用組成物の成分を以下に例示する。
【0063】
成分 質量%
多孔質炭素材料 5.0
界面活性剤 1.0
湿潤剤 20.0
粘結剤 1.5
研磨剤 30.0
甘味剤 0.2
香料 1.0
基剤 41.3
【0064】
また、実施例1のチューインガムの成分を以下に例示する。
【0065】
成分 質量%
多孔質炭素材料 3
ガムベース 30
糖質 63
香料 2
軟化剤 2
【0066】
更には、実施例1の口腔清涼菓子(口中清涼菓子)の成分を以下に例示する。
【0067】
成分 質量%
多孔質炭素材料 0.1
砂糖 75
グルコース 20
ショ糖脂肪酸エステル 0.2
香料 0.2
水 4.5
【実施例2】
【0068】
実施例2は実施例1の変形である。実施例2にあっては、実施例1において説明した多孔質炭素材料を用いて、抗酸化作用に関するSOD様活性を測定した。SOD様活性試験は、SOD活性測定キット(和光純薬工業社製)を用いて測定した。このSOD様活性試験では、キサンチンとキサンチンオキシダーゼにより、活性酸素種の1種であるスーパーオキシド・ラジカルが発生する。発生したスーパーオキシド・ラジカルは、発色試薬であるニトロブルーテトラゾリウム(NO2−TB)と反応し、ジホルマザンが生成され、青色に発色する。反応溶液中に、SOD様の物質が存在すると、スーパーオキシド・ラジカルの一部はH22とO2に不均一化され、ジホルマザンの生成が抑制される。以上の現象に基づき、ジホルマザンに起因する吸光度を測定することでSOD様活性を評価することができる。
【0069】
具体的には、先ず、実施例1において説明した多孔質炭素材料の添加量を1.0ミリグラム、2.0ミリグラム、10.0ミリグラムとして、それぞれを、1ミリリットルの精製水に分散させて、試料溶液を調製した。そして、この試料溶液0.1ミリリットルに発色試薬(キサンチン及びニトロブルーテトラゾリウム)1ミリリットル、酵素溶液(キサンチンオキシダーゼ)1ミリリットルを添加し、37゜Cで20分間振盪した。その後、反応停止液を2ミリリットル添加し、反応停止後に得られた試料溶液を0.2μmのフィルターで濾過し、波長560nmで濾液の吸光度を測定した。試料溶液の代わりに精製水を用いた場合をブランクとし、酵素溶液を加えないものを対照とし、多孔質炭素材料も酵素溶液も加えないものを対照ブランクとした。そして、以下の式よりSOD様活性値を求めた。また、比較例2Aとして薬用炭(日医工株式会社製)、比較例2Bとして食用炭パウダー(株式会社日本漢方研究所製)を、それぞれ、実施例2と同様の試料溶液として調製し、上記と同様のSOD様活性試験を行った。その結果を表2に示すが、実施例2における多孔質炭素材料は、十分なるSOD様活性を示すことが判った。このように実施例2における多孔質炭素材料は、高いSOD様活性を有しているので、口腔用組成物、チューインガムあるいは口腔清涼菓子だけでなく、各種の健康加工食品、食品、飲料、医薬品等に、抗酸化剤として広く適用することができる。尚、実施例2における多孔質炭素材料に加えて他の活性酸素種・消去剤を併用してもよい。
【0070】
SOD様活性値(%)={1−(A−B)/(C−D)}×100
【0071】
ここで、
値A:試料溶液の波長560nmにおける吸光度
値B:ブランクの波長560nmにおける吸光度
値C:対照の波長560nmにおける吸光度
値D:対照ブランクの波長560nmにおける吸光度
【0072】
[表2]
添加量(mg/ml) SOD様活性値(%)
1.0 実施例2 34
比較例2A 12
比較例2B 9
2.0 実施例2 48
比較例2A 17
比較例2B 15
10.0 実施例2 98
比較例2A 48
比較例2B 51
【0073】
以上、好ましい実施例に基づき本開示を説明したが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0074】
実施例にあっては、多孔質炭素材料の原料として、籾殻を用いる場合について説明したが、他の植物を原料として用いてもよい。ここで、他の植物として、例えば、藁、葦あるいは茎ワカメ、陸上に植生する維管束植物、シダ植物、コケ植物、藻類及び海草等を挙げることができ、これらを、単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。具体的には、例えば、多孔質炭素材料の原料である植物由来の材料を稲の藁(例えば、鹿児島産:イセヒカリ)とし、多孔質炭素材料を、原料としての藁を炭素化して炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換し、次いで、酸処理を施すことで得ることができる。あるいは又、多孔質炭素材料の原料である植物由来の材料を稲科の葦とし、多孔質炭素材料を、原料としての稲科の葦を炭素化して炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換し、次いで、酸処理を施すことで得ることができる。また、フッ化水素酸水溶液の代わりに、水酸化ナトリウム水溶液といったアルカリ(塩基)にて処理して得られた多孔質炭素材料においても、同様の結果が得られた。
【0075】
あるいは又、多孔質炭素材料の原料である植物由来の材料を茎ワカメ(岩手県三陸産)とし、多孔質炭素材料を、原料としての茎ワカメを炭素化して炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換し、次いで、酸処理を施すことで得ることができる。具体的には、先ず、例えば、茎ワカメを500゜C程度の温度で加熱し、炭化する。尚、加熱前に、例えば、原料となる茎ワカメをアルコールで処理してもよい。具体的な処理方法として、エチルアルコール等に浸漬する方法が挙げられ、これによって、原料に含まれる水分を減少させると共に、最終的に得られる多孔質炭素材料に含まれる炭素以外の他の元素や、ミネラル成分を溶出させることができる。また、このアルコールでの処理により、炭素化時のガスの発生を抑制することができる。より具体的には、茎ワカメをエチルアルコールに48時間浸漬する。尚、エチルアルコール中では超音波処理を施すことが好ましい。次いで、この茎ワカメを、窒素気流中において500゜C、5時間、加熱することにより炭化させ、炭化物を得る。尚、このような処理(予備炭素化処理)を行うことで、次の炭素化の際に生成されるであろうタール成分を減少あるいは除去することができる。その後、この炭化物の10グラムをアルミナ製の坩堝に入れ、窒素気流中(10リットル/分)において5゜C/分の昇温速度で1000゜Cまで昇温する。そして、1000゜Cで5時間、炭素化して、炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換した後、室温まで冷却する。尚、炭素化及び冷却中、窒素ガスを流し続ける。こうして、多孔質炭素材料を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含む口腔用組成物。
【請求項2】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含む口腔用組成物。
【請求項3】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合は、全細孔の容積総計の0.2以上である多孔質炭素材料を含む口腔用組成物。
【請求項4】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含むチューインガム。
【請求項5】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含むチューインガム。
【請求項6】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合は、全細孔の容積総計の0.2以上である多孔質炭素材料を含むチューインガム。
【請求項7】
多孔質炭素材料の平均粒子径が1×10-7m乃至1×10-4mである請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載のチューインガム。
【請求項8】
多孔質炭素材料が0.01質量%乃至5質量%、含まれている請求項4乃至請求項7のいずれか1項に記載のチューインガム。
【請求項9】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、BJH法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含む口腔清涼菓子。
【請求項10】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた直径1×10-9m乃至5×10-7mの細孔の容積の合計が0.1cm3/グラム以上である多孔質炭素材料を含む口腔清涼菓子。
【請求項11】
窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、非局在化密度汎関数法によって求められた細孔径分布において、3nm乃至20nmの範囲内に少なくとも1つのピークを有し、3nm乃至20nmの範囲内に細孔径を有する細孔の容積の合計の占める割合は、全細孔の容積総計の0.2以上である多孔質炭素材料を含む口腔清涼菓子。
【請求項12】
多孔質炭素材料の平均粒子径が1×10-7m乃至1×10-4mである請求項9乃至請求項11のいずれか1項に記載の口腔清涼菓子。
【請求項13】
多孔質炭素材料が0.01質量%乃至5質量%、含まれている請求項9乃至請求項12のいずれか1項に記載の口腔清涼菓子。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−188402(P2012−188402A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54444(P2011−54444)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】