説明

口腔用組成物及びアルジンジパイン活性阻害剤

【課題】メシル酸ガベキサート由来のアルジンジパイン活性阻害作用が増強し、高いアルジンジパイン活性阻害効果を奏する口腔用組成物及びアルジンジパイン活性阻害剤を提供する。
【解決手段】(A)メシル酸ガベキサートと(B)アスコルビン酸リン酸エステル塩とを含有してなることを特徴とする口腔用組成物。
(A)メシル酸ガベキサートと(B)アスコルビン酸リン酸エステル塩とからなるアルジンジパイン活性阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周病原因菌であるポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)が産生する病原性プロテアーゼのアルジンジパイン活性阻害効果に優れた、歯周病予防又は治療用として好適な口腔用組成物及びアルジンジパイン活性阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病は、歯周病原因菌の感染により生じる慢性感染性疾患である。原因菌の感染により炎症が進行すると、歯肉が腫れ、血や膿が出るだけでなく、歯を支える歯槽骨が破壊されることで歯の動揺が起こり、やがては歯を喪失する。更に、歯周病は、糖尿病、心疾患、そして、妊婦の低体重児出産などの全身疾患のリスクファクターであることが知られている。そのため、歯周病の予防又は治療は、健康な口腔機能の維持及び回復だけではなく、全身疾患のリスク低減という面からも非常に重要である。
【0003】
アルジンジパインと呼ばれる、歯周病の原因菌ポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)が産生するプロテアーゼは、最も重要な歯周病の病原因子である。アルジンジパインは、トリプシン様活性を持つシステインプロテアーゼで、菌自身の栄養素獲得に重要な機能を持ち、更に、歯周組織を構成する細胞間マトリックス、例えばコラーゲンやフィブロネクチンなどを分解し、菌を排除する生体反応の重要な要素である抗体や補体を分解し、更に、好中球の機能を阻害することで感染を持続し、炎症を慢性化させる。そこで、新しい歯周病の治療又は予防薬として、アルジンジパイン阻害剤の開発が期待されている。
【0004】
アルジンジパインを阻害する物質としては、アンチパイン、ロイペプチン、TLCK(トシル−リシン−クロロメチルケトン塩酸塩)あるいはE−64等の既知のシステインプロテアーゼ阻害剤が知られているが、毒性も高いため歯周病の予防、治療には使用されていない。また、アルジンジパインがアルギニン末端を選択的に分解する基質特性に着目した拮抗的阻害剤としてペプチド誘導体が有効であることが提案されている(特許文献1、2参照)が、安全性が確認されておらず、実用化されるに至っていない。
【0005】
このような状況の中、出願人は、膵炎や汎発性血管内血液凝固症の治療薬として用いられているメシル酸ガベキサートが、アルジンジパインに対する非常に高い特異的活性阻害効果を有し、人体に対して安全であり、歯周病予防又は治療に有効であることを見出し、メシル酸ガベキサートのアルジンジパイン活性阻害作用が、水溶性フッ素化合物によって増強されることを見出し、メシル酸ガベキサートと水溶性フッ素化合物からなるアルジンジパイン活性阻害剤及び口腔用組成物を特許文献3に提案した。
【0006】
更に、メシル酸ガベキサートに植物抽出物を併用した口腔用組成物(特許文献4参照)を提案し、更にメシル酸ガベキサートに水溶性非イオン性高分子物質及び/又は非イオン性界面活性剤を併用した製剤(特許文献5参照)を提案してきたが、メシル酸ガベキサート由来のアルジンジパイン阻害作用については未だ改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−228526号公報
【特許文献2】特開2001−89436号公報
【特許文献3】特開2008−150325号公報
【特許文献4】特開2009−137895号公報
【特許文献5】特開2010−1228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、メシル酸ガベキサート由来のアルジンジパイン活性阻害効果をより増強できる技術の開発が望まれる。
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、メシル酸ガベキサート由来のアルジンジパイン活性阻害作用が増強し、高いアルジンジパイン活性阻害効果を奏する口腔用組成物及びアルジンジパイン活性阻害剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、メシル酸ガベキサートにアスコルビン酸リン酸エステル塩を併用することにより、意外にもメシル酸ガベキサート由来のアルジンジパイン活性阻害作用が著しく増強すること、即ちアルジンジパイン活性阻害効果を十分に発揮する製剤が得られることを見出した。
更に、(A)メシル酸ガベキサートと(B)アスコルビン酸リン酸エステル塩との配合割合が、(B)/(A)の質量比として0.05〜100であることが、上記効果の発現により有効であることを見出した。
本発明によれば、メシル酸ガベキサートとアスコルビン酸リン酸エステル塩とを併用して配合することによって、アルジンジパイン活性阻害作用が増強し、高いアルジンジパイン活性阻害効果を奏する口腔用組成物を提供できる。
【0010】
このような本発明の作用効果は、後述の実施例からも明確であり、アスコルビン酸リン酸エステル塩の代わりにアスコルビン酸塩を用いても達成できず、メシル酸ガベキサートにアスコルビン酸リン酸エステル塩を併用することで、両成分が相乗的に作用することによって達成できる格別なものである。
【0011】
従って、本発明は下記の口腔用組成物及びアルジンジパイン活性阻害剤を提供する。
請求項1:
(A)メシル酸ガベキサートと(B)アスコルビン酸リン酸エステル塩とを含有してなることを特徴とする口腔用組成物。
請求項2:
(A)成分と(B)成分との配合割合が、(B)/(A)の質量比として0.05〜100である請求項1記載の口腔用組成物。
請求項3:
(A)メシル酸ガベキサートと(B)アスコルビン酸リン酸エステル塩とからなるアルジンジパイン活性阻害剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、メシル酸ガベキサートに由来する、歯周病原因菌であるポルフィロモナス ジンジバリスが産生するシステインプロテアーゼであるアルジンジパインの活性阻害効果が増強し、高いアルジンジパイン活性阻害効果を発揮する口腔用組成物及びアルジンジパイン活性阻害剤を提供できる、よって、これら製剤は歯周病の予防、治療等に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明につき更に詳細に説明する。本発明では、(A)メシル酸ガベキサートと、(B)アスコルビン酸リン酸エステル塩とを併用することを特徴とする。
【0014】
(A)成分のメシル酸ガベキサートは、下記化学構造式で表されるものである。
【化1】

【0015】
メシル酸ガベキサートとしては、市販品を用いることができ、例えば、小野薬品工業(株)のエフオーワイ、日本医薬品工業(株)のプロビトール、沢井製薬(株)のアロデートや、和光純薬工業(株)のメシル酸ガベキサートなどを使用することができる。
【0016】
(B)成分のアスコルビン酸リン酸エステル塩としては、アスコルビン酸の2,3,5,6位のいずれかの水酸基の1つ又は2つ以上がリン酸、ポリリン酸等の化合物のエステルとなったものであり、例えば、アスコルビン酸−2−リン酸エステル、アスコルビン酸−3−リン酸エステル、アスコルビン酸−6−リン酸エステル、アスコルビン酸−2−ポリリン酸エステル等が挙げられ、その塩類としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が挙げられる。特に口腔用として用いるものであり、アルジンジパイン活性阻害増強効果の点からアスコルビン酸リン酸エステルのマグネシウム塩やナトリウム塩が好適に用いられる。
【0017】
本発明において、(A)メシル酸ガベキサートと(B)アスコルビン酸リン酸エステル塩との配合割合は特に制限されないが、(B)成分/(A)成分の質量比が0.05〜100、特に0.15〜75となる範囲が好ましい。(B)/(A)が0.05より少ないと、アルジンジパイン活性阻害増強効果が十分発揮されない場合があり、100より多く配合してもそれ以上のアルジンジパイン活性阻害増強効果が認められず、異味が生じる場合がある。
【0018】
本発明の口腔用組成物は、上述の(A)メシル酸ガベキサートと、(B)アスコルビン酸リン酸エステル塩とを有効成分として含有する。
【0019】
(A)メシル酸ガベキサートの配合量は、組成全体の0.01〜2%(質量%、以下同様。)、特に0.01〜1%が好ましい。配合量が0.01%未満では、アルジンジパイン活性阻害作用が満足に発揮されない場合があり、2%を超えると、アルジンジパイン活性阻害効果が十分に増強されないことがあり、また、製剤の安定化が困難となったり、異味が生じる場合がある。
【0020】
(B)アスコルビン酸リン酸エステル塩の配合量は、組成全体の0.01〜1.5%、特に0.05〜1%が好適である。配合量が0.01%未満では、アルジンジパイン活性阻害効果が十分増強しない場合があり、1.5%を超えるとアルジンジパイン活性阻害効果の増強効果がもはやそれ以上望めないことがあり、また、異味が生じる場合がある。
【0021】
本発明の口腔用組成物は、練歯磨、潤製歯磨、液体歯磨等の歯磨剤、洗口剤、ゲル剤、軟膏剤、口中清涼剤、うがい用錠剤、口腔用パスタ、ガム等の各種剤型に調製することができるが、特に洗口剤、ゲル剤、軟膏剤、口腔用パスタなど、使用後に口をすすがない剤型が好ましく、とりわけゲル剤として好適に調製される。これら製剤は、上記必須成分に加えて、必要によりその剤型に応じたその他の公知成分を本発明の効果を損ねない範囲で配合することができ、通常の方法で調製することができる。
【0022】
例えば歯磨剤の場合には、各種研磨剤、湿潤剤、粘結剤、界面活性剤、甘味料、香料、着色剤、防腐剤、pH調整剤、(A)及び(B)成分以外の有効成分などを配合できる。ゲル剤の場合には、湿潤剤及び粘結剤が必須であり、更に界面活性剤、甘味料、香料、着色剤、防腐剤、pH調整剤、アルコール、油性成分、(A)及び(B)成分以外の有効成分などを本発明の効果を妨げない範囲で配合できる。
【0023】
研磨剤としては、沈降性シリカ、シリカゲル、アルミノシリケート、ゼオライト、ジルコノシリケート、第2リン酸カルシウム・2水和物及び無水物、ピロリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、炭酸マグネシウム、第3リン酸マグネシウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、不溶性メタリン酸カリウム、酸化チタン、ハイドロキシアパタイト、合成樹脂系研磨剤等が挙げられる(配合量;通常、5〜50%)。
【0024】
湿潤剤としては、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール4000等のポリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、エリスリトール、パラチノース、トレハロース等の糖アルコール、多価アルコールが挙げられる(配合量;通常、10〜50%)。
【0025】
粘結剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸誘導体、グアガム、キサンタンガム、アラビアガム等のガム類、カラギーナン、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドンなどの合成粘結剤等が挙げられる(配合量;通常、0.1〜5%)。
【0026】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤を配合し得る。
アニオン性界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸ナトリウム、N−ラウロイルサルコシンナトリウム、N−ミリストイルサルコシンナトリウム等のN−アシルサルコシンナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、水素添加ココナッツ脂肪モノグリセリドモノ硫酸ナトリウム、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム、N−パルミトイルグルタミン酸ナトリウム等のN−アシルグルタミン酸塩、N−メチル−N−アシルタウリンナトリウム、N−メチル−N−アシルアラニンナトリウム、α−オレフィンスルフォン酸ナトリウムなどが挙げられる。
非イオン性界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどの糖アルコール脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等の多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などのエーテル型の界面活性剤、ラウリン酸ジエタノールアミド等の脂肪酸アルカノールアミド類が挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、アルキルアンモニウム、アルキルベンジルアンモニウム塩等が挙げられる。両性界面活性剤としては、酢酸ベタイン、イミダゾリニウムベタイン、レシチンなどが挙げられる。
界面活性剤の配合量は、通常、0.5〜5%である。
【0027】
アルコールとしては、エタノール等の炭素数3以下の低級アルコールが挙げられる。アルコールを配合する場合、その配合量は通常1〜20%である。
【0028】
油性成分としては、流動パラフィン、軽質流動パラフィン、パラフィンワックス、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、スクワラン、スクワレン等の炭化水素油、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウロレイン酸、オレイン酸、アラキドン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸等の脂肪酸、アマニ油、ゴマ油、サフラワー油、大豆油、トウモロコシ油、ナタネ油、綿実油、オリーブ油、椿油、ひまし油、カカオ脂、パーム油、ヤシ油等の植物油、牛脂、豚脂、馬脂、羊脂の動物油等が挙げられる。この中でも、滞留性の点から炭化水素油が好ましく、より好ましくは流動パラフィン、軽質流動パラフィンである。油性成分を配合する場合、その配合量は、通常0.1〜10%である。
【0029】
有効成分としては、上記(A)メシル酸ガベキサートと(B)アスコルビン酸リン酸エステル塩に加えて、その他の有効成分を本発明の効果を妨げない範囲で添加してもよい。例えば、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸二カリウム、塩化リゾチーム、アズレンスルホン酸ナトリウム、トラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸、インドメタシン、ピロキシカム、イブプロフェン、フェルビナク、ケトプロフェン、ジクロフェナック、フェニルブタゾン、副腎皮質ホルモン及びその前駆体、誘導体(ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、プロピオン酸ベタメタゾン、吉草酸プレドニゾロン、エピジヒドロコレステリン、トリアムシノロンアセトニド等)等の抗炎症成分、アラントイン、銅クロロフィリンナトリウム等の組織修復成分、アスコルビン酸塩、酢酸トコフェロール、フィトナジオン、塩酸ピリドキシン、リボフラビン、ニコチン酸、ニコチン酸アミド等のビタミン類、デキストラナーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム等の酵素、カミツレチンキ、サンシシチンキ、ミルラチンキ、ラタニアチンキ、オウバクエキス、オウゴンエキス、チョウジエキス等の生薬成分、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化デカリニウム、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、トリクロサン、ポピドンヨード、イソプロピルメチルフェノール、ヒノキチオール等の殺菌成分、テトラサイクリン、ミノサイクリン、カナマイシン、アンピシリン、クロラムフェニコール、エリスロマイシン、エノキサシン、セファレキシン、フラジオマイシン、ペニシリン、バシトラシン等の抗生物質、塩化ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、オルソリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、乳酸アルミニウム、キトサン等の無機塩類や有機塩類などが挙げられる。なお、これら有効成分の配合量は、本発明の効果を妨げない範囲で有効量とすることができる。
【0030】
甘味剤としては、サッカリンナトリウム、ステビオサイド、ステビアエキス、パラメトキシシンナミックアルデヒド、ネオヘスペリジルヒドロカルコン、ペリラルチン等が挙げられる。着色剤としては、青色1号、黄色4号、二酸化チタン等が挙げられる。防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
【0031】
香料としては、口腔用組成物に一般的に配合されるものを使用でき、例えばl−メントール、カルボン、アネトール、リモネン等のテルペン類又はその誘導体やペパーミント油等が挙げられる。pH調整剤としては、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸等が挙げられる。
【実施例】
【0032】
以下、実験例、実施例及び比較例、配合例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、以下の例において配合量はいずれも質量%である。
【0033】
〔実施例、比較例〕
表1〜3に示す組成の口腔用組成物(ゲル剤)を常法により調製し、下記方法によりアルジンジパイン活性阻害増強効果の評価を行った。結果を表1〜3に示す。なお、配合成分の詳細を表4に示す。
【0034】
アルジンジパイン活性阻害増強効果の評価
アルジンジパイン活性阻害増強効果は、ビーグル犬を用い、歯周病変部位の歯肉溝浸出液(gingival crevicular fluid:以下「GCF」で示す)中のアルジンジパイン活性の阻害作用により評価した。この活性は、主に歯周病原因菌であるポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)が産生する組織破壊酵素に起因し、歯周病との関連性が高いことが知られている。
【0035】
具体的評価法としては、固形飼料(商品名、DS−1A、オリエンタル酵母社製)を水で、飼料:水が質量比で7:5の割合で練状にした飼料で飼育することで歯周病を誘発したビーグル犬(6歳齢、雌、1群3匹)を用いた。各ビーグル犬の下顎3歯(P3、P4、M1)を被検部位とし、表1〜3に示す組成のゲル剤を処置した。処置は、3時間毎に3回、各被験部位にゲル剤約0.5mLをシリンジで塗布することで行った。コントロールとして各比較例・実施例から(B)成分を含有しないゲル剤を各々調製し、上記と同様に処置した。処置前及び全処置終了3時間後のGCF中のアルジンジパイン活性を測定し*1)、活性阻害率を各被験部位(下顎3歯/匹×3匹/1群、n=9)ごとに下記式により求め、その平均値から下記の判定基準により判定した。
なお、GCF採取量は、GCF採取前後のGCFコレクション ストリップス(ペリオペーパー(登録商標)、ヨシダ社製)の質量差から求めた。
【0036】
アルジンジパイン活性阻害作用;
アルジンジパイン活性阻害率(%)={(M−N)/M}×100
M=(薬剤処置前のアルジンジパイン活性)/(薬剤処置前の採取GCF質量)
N=(薬剤処置後のアルジンジパイン活性)/(薬剤処置後の採取GCF質量)
【0037】
アルジンジパイン活性阻害増強効果;
アルジンジパイン活性阻害増強率(%)={P/Q}×100
P=比較例、実施例のゲル剤を処置したときのアルジンジパイン活性阻害率
Q=コントロールを処置したときのアルジンジパイン活性阻害率
【0038】
*1)アルジンジパイン活性測定法
5mmol/Lシステインを含む20mmol/Lのリン酸ナトリウムバッファー(pH7.5)を反応バッファー*2)とし、GCF抽出液*3)10μLと、反応バッファーにより10μmol/Lに調製した基質(Bz−Arg−MCA:カルボベンゾキシ−L−フェニルアラニル−L−アルギニン−4−メチルクマリル−7−アミド、ペプチド研究所製)140μLを混合し、37℃で60分間反応させた。反応により生成したAMC(7−アミノ−4−メチルクマリン)の蛍光強度を励起波長390nm、測定波長460nmで測定し(フルオロスキャン アセント、大日本製薬社製)、GCF中のアルジンジパイン活性とした。蛍光強度が強いほどアルジンジパイン活性が高く、評価したゲル剤のアルジンジパイン活性阻害作用が低いことになる。
【0039】
*2)反応バッファー:100mL中の質量
L−システイン(シグマ アルドリッチ社製): 0.0788g
リン酸二水素ナトリウム二水和物(和光純薬工業社製): 0.312g
1N 水酸化ナトリウム(和光純薬工業社製): 適量(pH7.5に調整)
蒸留水: 残
(全量を100mLにメスアップ)
【0040】
*3)GCF抽出液
GCFコレクション ストリップスを各被験部位の歯周ポケットに30秒間挿入することで、GCFを採取し、10mmol/Lリン酸ナトリウムバッファ−(pH6.0)100μLに浸漬し、十分に撹拌することで、GCFを抽出した。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【0045】
表1〜3の結果から、メシル酸ガベキサートにアスコルビン酸リン酸エステル塩を併用することにより、メシル酸ガベキサート由来のアルジンジパイン活性阻害効果が増強し、高い効果を発揮することができることがわかった。
以上の結果から、本発明の製剤は、アルジンジパインが病原因子となる歯周病の予防又は治療に有効であることがわかった。
【0046】
次に、下記組成の口腔用組成物を調製した。いずれの口腔用組成物もメシル酸ガベキサート由来のアルジンジパイン活性阻害効果が十分に増強され、高いアルジンジパイン活性阻害効果を奏するものであった。
【0047】
〔実施例13〕軟膏剤
(A)メシル酸ガベキサート 0.1
(B)アスコルビン酸−2−リン酸エステルマグネシウム 0.2
塩化セチルピリジニウム 0.05
モノミリスチン酸グリセリル 5.0
クエン酸 0.1
流動パラフィン 15.0
白色ワセリン バランス
合計 100.0 %
(B)/(A) 2.0
【0048】
〔実施例14〕軟膏剤
(A)メシル酸ガベキサート 0.2
(B)アスコルビン酸−2−リン酸エステルマグネシウム 0.3
カルボキシビニルポリマー 1.5
ショ糖脂肪酸エステル 0.5
水酸化ナトリウム 適量
グリセリン 20.0
合計 100.0 %
(B)/(A) 1.5
【0049】
〔実施例15〕ゲル剤
(A)メシル酸ガベキサート 0.01
(B)アスコルビン酸−2−リン酸エステルマグネシウム 0.5
ヒロドキシエチルセルロース 1.5
ポリエチレングリコール4000 15.0
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.1
パラオキシ安息香酸エチル 0.03
水 バランス
合計 100.0 %
(B)/(A) 50.0
【0050】
〔実施例16〕ゲル剤
(A)メシル酸ガベキサート 0.01
(B)アスコルビン酸−2−リン酸エステルマグネシウム 0.5
ヒロドキシエチルセルロース 1.5
ポリエチレングリコール4000 15.0
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.1
パラオキシ安息香酸エチル 0.03
水 バランス
合計 100.0 %
(B)/(A) 50.0
【0051】
〔実施例17〕歯磨剤
リン酸カルシウム 25.0
無水ケイ酸 5.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.2
カルボキシメチルセルロース 0.8
カラゲナン 0.5
(A)メシル酸ガベキサート 0.05
(B)アスコルビン酸−2−リン酸エステルナトリウム 0.01
イソプロピルメチルフェノール 0.1
ソルビトール 15.0
香料 1.0
水 バランス
合計 100.0 %
(B)/(A) 0.2
【0052】
〔実施例18〕歯磨剤
無水ケイ酸 15.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0
キサンタンガム 0.5
アルギン酸ナトリウム 0.5
サッカリンナトリウム 0.1
(A)メシル酸ガベキサート 0.02
(B)アスコルビン酸−2−リン酸エステルマグネシウム 0.3
イプシロンアミノカプロン酸 0.05
ソルビトール 10.0
キシリトール 5.0
香料 1.0
水 バランス
合計 100.0 %
(B)/(A) 15.0
【0053】
〔実施例19〕口腔用パスタ
セタノール 5.0
スクワラン 20.0
沈降性シリカ 5.0
ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油 0.1
ソルビタンモノオレイン酸エステル 1.0
ラウリル硫酸ナトリウム 0.2
サッカリンナトリウム 0.6
(A)メシル酸ガベキサート 0.3
(B)アスコルビン酸−2−リン酸エステルマグネシウム 0.6
グリチルリチン酸二カリウム 0.4
ソルビトール 10.0
香料 0.6
水 バランス
合計 100.0 %
(B)/(A) 2.0
【0054】
〔実施例20〕洗口剤
エタノール 10.0
(A)メシル酸ガベキサート 0.02
(B)アスコルビン酸−2−リン酸エステルマグネシウム 0.5
トラネキサム酸 0.05
フッ化ナトリウム 0.1
ソルビトール 5.0
キシリトール 5.0
ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油 0.5
サッカリンナトリウム 0.2
香料 0.8
水 バランス
合計 100.0 %
(B)/(A) 25.0
【0055】
〔実施例21〕ガム
ガムベース 20.0
香料 1.0
水飴 20.0
粉糖 10.0
クエン酸3ナトリウム 1.5
(A)メシル酸ガベキサート 0.1
(B)アスコルビン酸−2−リン酸エステルマグネシウム 0.5
ソルビトール 15.0
キシリトール 10.0
水 バランス
合計 100.0 %
(B)/(A) 5.0

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)メシル酸ガベキサートと(B)アスコルビン酸リン酸エステル塩とを含有してなることを特徴とする口腔用組成物。
【請求項2】
(A)成分と(B)成分との配合割合が、(B)/(A)の質量比として0.05〜100である請求項1記載の口腔用組成物。
【請求項3】
(A)メシル酸ガベキサートと(B)アスコルビン酸リン酸エステル塩とからなるアルジンジパイン活性阻害剤。

【公開番号】特開2012−131726(P2012−131726A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284365(P2010−284365)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】