説明

口腔用組成物及び口臭抑制剤

【課題】優れたイソ吉草酸産生阻害能を有し、口臭抑制効果に優れ、更には製剤安定性及び使用感が良好であり、口臭抑制用として好適な口腔用組成物及び口臭抑制剤を提供する。
【解決手段】(A)ボタンピ抽出物、(B)p−シメン、及び(C)ノニオン界面活性剤を配合してなることを特徴とする口腔用組成物、及び(A)ボタンピ抽出物、(B)p−シメン、及び(C)ノニオン界面活性剤からなる口臭抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物抽出物を用いたイソ吉草酸産生阻害能に基づく優れた口臭抑制効果を有する口腔用組成物及び口臭抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
口臭は、その原因の約8割が口腔内にあり、口腔内に生息する数百種類の細菌の中の一部嫌気性細菌が産生する不快なにおいである。従来から代表的な口臭産生菌として研究対象とされているフゾバクテリウム属の細菌は、含硫アミノ酸L−メチオニンを代謝して、代表的な口臭成分であるメチルメルカプタンを発生する。
【0003】
前記メチルメルカプタンは揮発性イオウ化合物(以下、VSCと略す。)の1つであり、キャベツの腐敗様臭気を呈し、臭気閾値の低い悪臭物質の1つである。口臭に含まれるVSCには、メチルメルカプタンの他にも、口臭産生菌が含硫アミノ酸L−システインを代謝して発生する硫化水素やジメチルスルフィドが知られており、これらVSCの単独もしくは組み合わせが口臭の強度に関連する主たる成分と言われている。
【0004】
しかしながら、実際の口臭を評価すると、VSCは検出されないにもかかわらず、官能評価で口臭を感知する場合や、VSC単独もしくはVSCの組み合わせとは異なる重く鼻の奥に張り付くような不快な臭気を官能で経験することが多くあることから、口臭に影響を与えているVSC以外の成分の解明とその臭気の解決が望まれている。
【0005】
従来、口臭にはVSC以外の成分として揮発性の低級脂肪酸やアミン類など他の臭気成分の存在が示唆されている(非特許文献1)。
しかし、これらVSC以外の成分は、口腔内の唾液や歯肉溝浸出液、あるいは唾液の培養液のヘッドスペースなどから検出されたにすぎず、実際の口臭中での存在と口臭への関与が十分に検証されていないことから、口臭成分として専門家や学会で認知されていないのが現状であった。
【0006】
そこで、出願人は、実際のヒトの口気を採取し、そのイソ吉草酸量を定量するとともに、実際の官能による口臭評価を実施することによって、揮発性の低級脂肪酸であるイソ吉草酸が口臭(口気)中に存在し、口臭成分として口臭に影響を及ぼしていることを検証した(非特許文献2)。イソ吉草酸は、メチルメルカプタンの臭気閾値(0.07ppb)と同様に臭気閾値が非常に低く(0.078ppb)、ごく微量で不快な臭気である(非特許文献3)。実際に口臭から検出された濃度のイソ吉草酸を官能で評価した結果、もわっとした不快臭であった。更に、メチルメルカプタンとイソ吉草酸とを組み合わせた臭気を調製して官能評価を行った結果、各臭気成分単独とは異なる重たく鼻の奥にはりつくような不快な臭気であり、実際の口臭を官能で評価したときと同様な臭気になることを確認した。そこで、従来から行われている口臭成分メチルメルカプタン由来の口臭以外の臭気成分としてのイソ吉草酸に由来する口臭を解決するために、イソ吉草酸産生阻害能を有する素材を探索した。
【0007】
口臭に対処する方法としては、メチルメルカプタン等のVSCに対する消臭効果が高い化学物質や植物抽出物を使用する方法などが知られており(特許文献1)、生薬成分であるボタンピ(牡丹皮)抽出物もその1例である(特許文献2)。しかしながら、これら技術において、ボタンピ抽出物が、口臭に影響を及ぼすイソ吉草酸の産生阻害に有効であることは何ら言及されておらず、今まで知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭57−204378号公報
【特許文献2】特表2004−520304号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.Periodontol,63(9)、p.768−775、1992.
【非特許文献2】第58回日本口腔衛生学会・総会 講演集 59(4)、p.386、p.390、2009.
【非特許文献3】嗅覚とにおい物質 第2版(川崎通昭、堀内哲嗣郎 共著、社団法人 臭気対策研究協会発行、p.9、2000.)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、イソ吉草酸産生阻害能を有し、優れた口臭抑制効果が発揮され、更には製剤安定性及び使用感が良好な口腔用組成物及び口臭抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、(A)ボタンピ(牡丹皮)抽出物及び(B)p−シメンを併用することにより、イソ吉草酸産生阻害効果に優れた植物抽出物を用いた製剤が得られ、イソ吉草酸に由来する口臭を効果的に抑制できることを見出した。更に、(A)ボタンピ抽出物及び(B)p−シメンを組み合わせて配合し、かつ(C)ノニオン界面活性剤を配合することで、これらが相乗的に作用し、高いイソ吉草酸産生阻害効果が発現し優れた口臭抑制効果が発揮され、かつ製剤安定性及び使用感も良好な製剤が得られることを知見した。
ボタンピ抽出物がメチルメルカプタン等のVSCに対する消臭効果を有し、口臭抑制効果を奏することは知られているが、ボタンピ抽出物に香料成分のp−シメンを組み合わせ、更にはノニオン界面活性剤を併用することにより高いイソ吉草酸産生阻害能が発現し、これに基づく優れた口臭抑制効果が発揮されることは、本発明者らが新たに見出したものである。本発明では、口臭(口気)中に存在し口臭に影響を及ぼすイソ吉草酸の産生を阻害し、イソ吉草酸由来の口臭を効果的に抑制できることから、メチルメルカプタン等のVSC由来の口臭に加えて、イソ吉草酸に由来する口臭を抑制することができ、よって、高い口臭抑制効果を期待できる。
【0012】
従って、本発明は下記の口腔用組成物を提供する。
請求項1;
(A)ボタンピ抽出物、(B)p−シメン、及び(C)ノニオン界面活性剤を配合してなることを特徴とする口腔用組成物。
請求項2;
(C)ノニオン界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油である請求項1記載の口腔用組成物。
請求項3;
(A)ボタンピ抽出物が、ボタンの根皮のエタノール抽出物である請求項1又は2記載の口腔用組成物。
請求項4;
(A)成分を固形物濃度換算で0.0005〜0.1質量%、(B)成分を0.001〜0.1質量%配合してなる請求項1、2又は3記載の口腔用組成物。
請求項5;
口臭抑制用である請求項1乃至4のいずれか1項記載の口腔用組成物。
請求項6;
(A)ボタンピ抽出物、(B)p−シメン、及び(C)ノニオン界面活性剤からなる口臭抑制剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れたイソ吉草酸産生阻害能を有し、口臭抑制効果に優れ、更には製剤安定性及び使用感が良好であり、口臭抑制用として好適な口腔用組成物及び口臭抑制剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明につき更に詳述する。本発明は、(A)ボタンピ抽出物及び(B)p−シメンを併用することを特徴とする。
【0015】
(A)ボタンピ抽出物は、ボタン科ボタン(牡丹)の根皮から抽出されたエキスであり、成分としてはペオノール、ペオニフロリンなどを含む。
ボタン(牡丹)は別名、ハツカグサ、フカミグサ、ナトリグサといい、学名は、Paeonia suffruticosa Andrews(Paeonia moutan Sims)である。ボタンの根皮は「牡丹皮」として古くから漢薬とされ、痛風、頭痛を治し、悪血を散じ、血脈を巡らす要薬として用いられてきた。
【0016】
ボタンの根皮の抽出方法としては、エタノール、メタノール等の親水性溶媒やこれらの混合溶媒による抽出が好ましく、中でもエタノール抽出がより好ましい。なお、エタノール抽出に用いる溶媒は、エタノール単独でも、あるいは含水エタノールでもよい。
ボタンピ抽出物として具体的には、ボタンピ抽出液などとして市販のものを使用でき、例えば丸善製薬社製のボタンピ抽出液等が挙げられる。
【0017】
(B)p−シメンは、別名パラシメン、パラサイメン、又はイソプロピルメチルベンゼンといわれ、天然の精油に含まれる。p−シメンは、特にタイム油(p−シメン含有量約40質量%)に多く含まれ、タイム以外ではクミン、ボールドリーフ、オレガノ、アジョワン、カスカリラ、ディル、ブラックペパー、アンゼリカ等の各精油にも10質量%以上含まれることが知られている。
【0018】
p−シメンは、単品として、もしくはp−シメンを含有する上記精油、例えばタイム油などとして用いることもできる。具体的には、高砂香料工業製のp−シメン、タイム油としてヴェ・マンフィス香料株式会社製のタイムホワイト油などの市販品が使用できる。
【0019】
本発明では、上記(A)及び(B)成分を組み合わせてイソ吉草酸産生阻害剤として配合する。
この場合、(A)ボタンピ抽出物と(B)p−シメンとの配合割合は特に制限されないが、(A)ボタンピ抽出物の固形物濃度と(B)p−シメンとの配合比((B)/(A))が質量比で0.02〜40、特に0.4〜20の範囲が好ましい。配合比が0.02に満たないと、十分な口臭抑制効果が発現しない場合があり、40を超えると使用時の刺激味等、組成物の使用感に影響が生じる場合がある。
【0020】
(A)ボタンピ抽出物の配合量は、イソ吉草酸産生阻害効果や口臭抑制効果、製剤安定性の点から、ボタンピ抽出物の固形物濃度換算で口腔用組成物全体の0.0005〜0.1%(質量%、以下同様。)、特に0.001〜0.05%が好ましい。配合量が0.0005%に満たないと、イソ吉草酸産生阻害効果が十分得られず、口臭抑制効果に劣る場合があり、0.1%を超えると製剤安定性などに不具合が生じることがある。
なお、前記ボタンピ抽出物の固形物濃度は、抽出物(ボタンピ抽出成分+溶媒)から溶媒を除いたボタンピ固形物の総量の値である。
【0021】
(B)p−シメンの配合量は、イソ吉草酸産生阻害効果、口臭抑制効果や製剤安定性の点で、組成物全体の0.001〜0.1%、特に0.005〜0.02%が好ましい。配合量が0.001%に満たないと、イソ吉草酸産生阻害効果が十分発揮されず、口臭抑制効果に劣る場合があり、0.1%を超えると製剤安定性に不具合が生じることがある。
【0022】
本発明では、(A)ボタンピ抽出物及び(B)p−シメンに加えて、(C)ノニオン界面活性剤を併用して配合するもので、これによりイソ吉草酸産生阻害効果及び口臭抑制効果が高まり、製剤安定性や使用感も改善できる。
【0023】
ノニオン界面活性剤としては、特に汎用性の点で、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、デカグリセリンモノ脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アルキロールアミドなどの1種又は2種以上が好適に用いられる。
具体的には、アルキル鎖の炭素数が14〜18、エチレンオキサイド平均付加モル数が15〜30のポリオキシエチレンアルキルエーテル、エチレンオキサイド平均付加モル数が40〜100のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、脂肪酸の炭素数が12〜18のデカグリセリンモノ脂肪酸エステル、脂肪酸の炭素数が12〜18のショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸の炭素数が16〜18、エチレンオキサイド平均付加モル数が10〜40のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸の炭素数が12〜18のソルビタン脂肪酸エステル、アルキル鎖の炭素数が12〜14のアルキロールアミド等を使用できる。これらノニオン界面活性剤の中では、とりわけポリオキシエチレンアルキルエーテル(アルキル鎖の炭素数が14〜18、エチレンオキサイド平均付加モル数が15〜30)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(エチレンオキサイド平均付加モル数が40〜100)が好適に用いられる。
【0024】
例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては日光ケミカルズ社製のNIKKOL BC系、NIKKOL BS系、日本エマルジョン社製のエマレックス100系、エマレックス600系等が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油としては日光ケミカルズ社製のNIKKOL HCO系、日本エマルジョン社製のエマレックスHC系、日本油脂社製のユニオックスHC系等が、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては日光ケミカルズ社製のNIKKOL TS系、NIKKOL TO系、日本エマルジョン社製のエマレックスET系等が、デカグリセリンモノ脂肪酸エステルとしては日光ケミカルズ社製のNIKKOL Decagln系、三菱化学フーズ社製のリョートー(登録商標)ポリグリエステルDシリーズ等、リョートー(登録商標)シュガーエステル、第一工業製薬社製DKエステル等が商品化されており、これら市販品を用いることができる。
【0025】
(C)ノニオン界面活性剤の配合量は、製剤安定性、口臭抑制効果や使用感の点から、組成物全体の0.05〜3%、特に0.2〜2%が好ましい。配合量が0.05%未満では十分な製剤安定性が得られなかったり、水難溶性のボタンピ抽出物とp−シメンとの併用による口臭抑制効果が十分発揮されないことがあり、また、活性成分が析出することなどに由来する使用感低下が生じる場合がある。配合量が3%を超えるとノニオン界面活性剤に由来する使用感低下が引き起こされることがある。
【0026】
本発明の口腔用組成物の形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、溶液、乳液、懸濁液等の液体や液状、ゲル、クリーム、軟膏、ペースト等の半固体など、いずれの形態でもよい。また使用形態としては、塗布剤、マッサージ剤、ブラッシング剤、貼付剤、スプレー剤などとすることができる。
口腔用組成物は、練歯磨、液体歯磨、液状歯磨、潤製歯磨等の歯磨剤、洗口剤、マウスウォッシュ、歯肉マッサージクリームなどの各種製剤に調製することができる。
【0027】
口腔用組成物の製造方法としては、特に制限はなく、目的及び剤型に応じて常法を適宜選択することができる。
また、本発明組成物は、目的及び組成物の剤型などに応じて、上記成分に加えて、更にその他の任意成分を含有していてもよい。具体的には、歯磨剤の場合は、(C)成分のノニオン界面活性剤以外の界面活性剤、研磨剤、粘稠剤、粘結剤、甘味剤、防腐剤、有機酸、(A)成分以外の有効成分、(B)成分以外の香料、着色剤などを、本発明の効果を害しない範囲で、通常量使用することができる。
【0028】
界面活性剤としては、通常口腔用組成物に配合されるものであれば、特に制限なく使用でき、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。
アニオン界面活性剤としては、特に汎用性の点で、N−アシルアミノ酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩などが好適に用いられる。具体的には、ラウロイルサルコシンナトリウム、アルキル鎖の炭素鎖長が炭素数10〜16であるα−オレフィンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムなどを使用できる。両性界面活性剤としては、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタインなどの酢酸ベタイン型両性界面活性剤、N−脂肪酸アシル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルエチレンジアミン塩などのイミダゾリン型両性界面活性剤、N−脂肪酸アシル−L−アルギネート塩等のアミノ酸型界面活性剤、やアルキルジメチルアミンオキシドなどを使用できる。
【0029】
カチオン界面活性剤としては、長鎖アルキル短鎖トリアルキルアンモニウム塩、長鎖ジアルキル短鎖ジアルキルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、ベンジル長鎖アルキル短鎖ジアルキルアンモニウム塩及びその誘導体などが挙げられる。具体的には、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド、ミリスチルトリメチルアンモニウムクロリド、パルミチルトリメチルアンモニウムクロリド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、塩化ミリスチルピリジニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ステアリルピリジニウムなどが挙げられる。ベンジル長鎖アルキル短鎖ジアルキルアンモニウム塩及びその誘導体としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムなどが挙げられる。
界面活性剤の配合量は、(C)成分のノニオン界面活性剤を含めた総量が組成物全体の0.05〜5%となる範囲が望ましい。
【0030】
研磨剤としては、例えば、沈降性シリカ、シリカゲル、アルミノシリケート、ジルコノシリケート等のシリカ系研磨剤、第2リン酸カルシウム2水和物及び無水和物、ピロリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、炭酸マグネシウム、第3リン酸マグネシウム、ゼオライト、ケイ酸ジルコニウム、合成樹脂系研磨剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
研磨剤の含有量は特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができるが、組成物全体の2〜40%、特に10〜30%が好ましい。
【0031】
粘稠剤としては、例えばグリセリン、ソルビット、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール200〜20000、キシリトールなどの多価アルコール、糖アルコールが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
粘稠剤の含有量は特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、組成物全体の5〜50%、特に20〜45%が好ましい。
【0032】
粘結剤としては、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、ポリアクリル酸ナトリウム、カーボポール、グアガム、モンモリロナイト、ゼラチンなどが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
粘結剤の含有量は特に制限はなく、剤型に応じて適宜選択することができる。例えば練歯磨の場合は組成物全体の0.1〜5%が好ましく、液体歯磨、洗口剤等の液体剤型では0.01〜5%が好ましい。
【0033】
甘味剤としては、例えば、サッカリンナトリウム、エリスリトール、キシリトール、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、パラチノース、還元パラチノース(パラチニット)、ラフィノース、メリビオース、ソーマチン、アスパルテーム、アセスルファムK、シクラメートナトリウム、ステビオサイド、ステビアエキス、パラメトキシシンナミックアルデヒド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ペリラルチン、p−メトキシシンナミックアルデヒド、トレハロース、パラチノース、パラチニット、大豆オリゴ糖、乳果オリゴ糖、キシロオリゴ糖、L−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステル、スクラロース、グリチルリチンなどが挙げられる。防腐剤としては、例えばパラオキシ安息香酸エステル、安息香酸、安息香酸塩などが挙げられる。これら成分は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量配合できる。
【0034】
有機酸としては、通常、口腔用組成物に使用できる種々の有機酸が使用できる。例えば、クエン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、酢酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタール酸、マレイン酸、フマル酸、アコニット酸、乳酸、酒石酸、ピルビン酸、アスコルビン酸、グリコール酸又はこれらの塩などの1種又は2種以上が用いられる。有機酸の中でも、特にクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸又はこれらの塩が好ましい。
【0035】
有効成分としては、例えば、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化スズ、アズレンスルホン酸ナトリウム、ε−アミノカプロン酸、アラントイン、アラントインクロルヒドロキシアルミニウム、アラントインジヒドロキシアルミニウム、エピジヒドロコレステリン、ジヒドロコレステロール、塩化ナトリウム、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸二アンモニウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、グリチルリチン酸三ナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム、β−グリチルレチン酸、イソプロピルメチルフェノール、塩化セチルピリジニウム、塩化デカリニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、塩酸クロルヘキシジン、トリクロサン、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、塩酸ピリドキシン、酢酸dl−α−トコフェロール、ニコチン酸dl−α−トコフェロール、ゼオライト、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、無水ピロリン酸ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、グリセロリン酸カルシウム、塩化リゾチーム、銅クロロフィリンナトリウム、グルコン酸銅、グルコン酸亜鉛、塩化亜鉛、ヒノキチオール、トラネキサム酸、デキストラナーゼ、乳酸アルミニウム、硝酸カリウム、プロテアーゼなどが挙げられる。
前記有効成分の含有量は、本発明の効果を妨げない範囲で有効量とすることができるが、通常、組成物全体の0.001〜5%である。
【0036】
香料としては、(C)成分のp−シメン以外に、例えば天然香料、単品香料、調合香料など、口腔用組成物に用いられる公知の香料素材を、1種単独で又は2種以上併用することができる。香料の含有量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実験例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、以下の例において%はいずれも質量%である。
【0038】
下記例において、ボタンピ抽出物は、丸善製薬社製のボタンピ抽出液を用いた。なお、使用した製品組成は、ボタン科植物ボタンの根皮(ボタンピ)を抽出した固形物2.00%、エタノール49.00%、水49.00%からなるものである。
また、ザクロ果皮抽出物(固形物80%)はキッコーマン社製、ルテインはKemin Health社製の食添マリーゴールド色素製剤、クロセチンは理研ビタミン社製の食添クチナシ黄色素、タイム油は豊玉香料社製のタイムオイル(p−シメン30%含有)、p−シメン、1,2−ペンタンジオール、p−メトキシフェノールは和光純薬工業社製、ファルネソールは関東化学社製、ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油(エチレンオキサイド(EO)平均付加モル数60)は日光ケミカルズ社製のHCO−60、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(EO平均付加モル数25)は日本エマルジョン社製のEMALEX 725、ミリスチン酸ジエタノールアミドは東邦化学社製のトーホール N−230X、モノラウリン酸デカグリセリルは日光ケミカルズ社製のNIKKOL Decaglyn 1−L、ショ糖脂肪酸エステルは三菱化学フーズ社製のリョートーシュガーエステルL−1695を、それぞれ用いた。
【0039】
〔実験例〕
表1〜4に示す組成のサンプル製剤について、下記のようにイソ吉草酸産生阻害試験を実施した。結果を表1〜4に示す。
【0040】
イソ吉草酸産生阻害試験:
(1)使用菌株
アメリカンタイプカルチャーコレクションより購入したポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis ATCC33277株)は、ヘミン、メナジオンを添加した培地(Todd Hewitt Broth(BD))で24時間培養したものを8,000rpmで10分間遠心集菌し、PBS(リン酸緩衝生理食塩水:和光純薬工業社製)で2回洗浄した後、下記に示す滅菌培地に再懸濁したものを実験に用いた。
【0041】
(2)反応条件
イソ吉草酸産生系:
滅菌培地には、Tryptic Soy Broth;TSB(BD) 終濃度1.5%、yeast extract(BD) 終濃度0.25%、ヘミン(和光純薬工業社製) 終濃度2.5μg/mL、メナジオン(和光純薬工業社製) 終濃度0.5μg/mLになるように調製したものを用いた。イソ吉草酸の基質となる分岐アミノ酸(L−ロイシン;和光純薬工業社製)及びα−ケトグルタル酸(和光純薬工業社製)はPBSに溶解、調製(pH7.0)し、終濃度が各2.5mMになるように上述の滅菌培地に添加した。なお、滅菌培地の滅菌はオートクレーブにより、基質溶液の滅菌は0.22μmのフィルター(ミリポア社製)により滅菌した。このものに、洗浄後のP.gingivalis菌液を550nmにおける濁度が反応液の終濃度で1.0になるように添加した。
反応液は嫌気条件下で18時間培養し、12,000rpm、5分間遠心後の上清を0.45μmのフィルター(関東化学社製)でろ過した。このもの1mLを硫酸酸性下、酢酸エチル1mLで抽出し、硫酸ナトリウムで脱水処理した後、酢酸エチル相5μLをガスクロマトグラフィー分析に供し、イソ吉草酸を定量した。なお、ガスクロマトグラフィー条件は下記に示した。
【0042】
(3)被験サンプルのイソ吉草酸産生抑制効果の評価
上記イソ吉草酸産生系に表1〜4に記載したサンプル(水溶液もしくはエタノール溶液)を添加して、同様に嫌気的条件下で18時間反応させた。サンプルは、各成分を終濃度が表中の濃度となるように加えた。
ガスクロマトグラフィーで下記条件によりイソ吉草酸量を測定した結果の平均から、下記式を用いてイソ吉草酸産生阻害率を計算し、下記の判定基準で評価した。
なお、コントロールには、基質及び菌液のみ培養した条件の結果を用いた。
イソ吉草酸産生阻害率(%)=[(C−S)/C]×100
C:コントロールのイソ吉草酸量
S:被検液(サンプル)添加時のイソ吉草酸量
【0043】
イソ吉草酸産生阻害効果の判定基準;
◎:イソ吉草酸産生阻害率70%以上
○:イソ吉草酸産生阻害率50%以上70%未満
△:イソ吉草酸産生阻害率30%以上50%未満
×:イソ吉草酸産生阻害率30%未満
【0044】
ガスクロマトグラフィー測定条件;
装置:GC14BPF(島津製作所社製)
カラム:FFAP+H3PO4(0.3+0.3%) Graphite Carbon 60/80 1.6mm×3.2mmガラスパックドカラム
カラム温度 130℃ 昇温16℃/min. 210℃、10min.保持
注入口温度 230℃
キャリアガス:N2 50mL/min.
検出器:FID(230℃)
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
表1〜3の結果から、ボタンピ抽出物又はp−シメンを単独配合した場合は、満足なイソ吉草酸産生阻害効果を示さなかったが、両者を併用することでP.gingivalisが産生するイソ吉草酸を相乗的に阻害することが明らかとなった。
【0049】
【表4】

【0050】
表4の結果から、ザクロ果皮抽出物、ルテイン、クロセチン、1,2−ペンタンジオール、p−メトキシフェノール、ファルネソールは、それぞれ単独でのイソ吉草酸産生阻害効果は、ボタンピ抽出物又はp−シメンと同等程度であるが、これら各成分とボタンピ抽出物又はp−シメンとを併用しても、いずれの場合も高いイソ吉草酸産生阻害効果は発現せず両成分の相乗的な効果は認められず、本発明で得られたイソ吉草酸産生阻害剤効果はボタンピ抽出物とp−シメンとの併用においてのみ発現する効果であることが明らかとなった。
【0051】
〔実施例1〜13、比較例1〜6〕
以下、本発明の口腔用組成物にかかわる処方例を示す。なお、ボタンピ抽出物の配合量は固形物濃度換算量も示した。
【0052】
また、表5,6に示した組成の洗口剤組成物は以下の方法により調製し、ポリエチレンテレフタレート(PET)製の容器に注入した。調製は、表中の組成に応じ、精製水中に水溶性原料(ノニオン界面活性剤、溶剤を除く)を溶解した後、エタノール又は多価アルコールに油溶性原料とノニオン界面活性剤を溶解した液を、撹拌しながら加え均一溶解させた。なお、撹拌にはスリーワンモーター(BL1200、HEIDON社製)を用いた。
【0053】
組成物のイソ吉草酸産生阻害効果は前述と同様の方法及び判定基準により評価し、製剤安定性、使用感、口臭抑制効果は、以下に示した方法及び判定基準により評価した。
(1)製剤安定性の評価方法
製剤安定性は、製剤調製後50℃で1ヶ月保存後の外観を目視判定し、以下の基準で評価した。
製剤安定性の評価基準
◎:おり、濁りがなし
○:おり、濁りがほとんどなし
△:おり、濁りがややあり
×:おり、濁りがあり
【0054】
(2)使用感の評価方法
製剤20mLを30秒間洗口した後の刺激性を使用感の指標として、担当者5名による官能評価を行った。なお、製剤評価は30分以上の間隔をあけて実施した。
使用感の評価基準(評価者の評点)
4点:刺激が感じられず使用感が良い
3点:刺激が殆ど感じられず使用感はかなり良い
2点:刺激がやや感じられ使用感がやや悪い
1点:刺激が感じられ使用感が悪い
使用感の判定基準(評価者5名の平均値)
◎:3.5点以上
○:3.0点以上3.5点未満
△:2.0点以上3.0点未満
×:2.0点未満
【0055】
(3)口臭抑制効果の評価方法:
3分間口閉じをした後の口気を200mLのテドラバッグ(近江オドエアーサービス社製)に採取したのちに、専門パネル2名により官能評価(6段階臭気強度表示法に準拠)を行い、平均値を算出した。判定は下記に示す口臭判定基準に従い実施した。
6段階臭気強度表示法(準拠)
0点:無臭
1点:やっと感知できるにおい(不快ではないにおい)
2点:何のにおいか判る程度の弱いにおい(やや不快なにおい)
3点:楽に感知できるにおい
4点:強いにおい
5点:強烈なにおい
口臭判定基準
平均臭気強度
◎:1点以下
○:1点を超えて2未満
△:2点以上3未満
×:3以上
【0056】
【表5】

【0057】
【表6】

【0058】
下記の口腔用組成物を調製し、上記と同様に評価したところ、いずれもイソ吉草酸酸性阻害効果、口臭阻害効果に優れており、製剤の外観安定性及び使用感も良好であった。なお、下記例で配合した香料には、p−シメンは含まれない。
【0059】
〔実施例14〕 練歯磨
ボタンピ抽出物(固形物濃度2%) 1.0%
(固形物濃度0.02%)
p−シメン 0.02
沈降性シリカ(研磨剤) 25.0
グリセリン(粘稠剤) 25.0
ソルビット(粘稠剤) 15.0
キシリトール(粘稠剤、甘味剤) 10.0
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(EO平均付加モル数25) 1.0
ミリスチン酸ジエタノールアミド 2.0
香料 1.0
サッカリンナトリウム(甘味剤) 0.2
精製水 残部
計 100.0%
p−シメン/ボタンピ抽出物固形物濃度比=1
【0060】
〔実施例15〕 液状歯磨
ボタンピ抽出物(固形物濃度2%) 0.5%
(固形物濃度換算量0.01%)
p−シメン 0.01%
水酸化アルミニウム(研磨剤) 25.0
グリセリン(粘稠剤) 40.0
ソルビット(粘稠剤) 15.0
カルボキシメチルセルロース(重合度=500)(粘結剤) 0.2
プロピレングリコール(粘稠剤) 2.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.5
モノラウリン酸デカグリセリル 1.0
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(EO平均付加モル数60) 1.0
香料 1.0
サッカリンナトリウム(甘味剤) 0.1
納豆菌ガム 0.1
精製水 残部
計 100.0%
p−シメン/ボタンピ抽出物固形物濃度比=1
【0061】
〔実施例16〕 洗口液
ボタンピ抽出物(固形物濃度2%) 0.5%
(固形物濃度換算量0.01%)
タイム油(p−シメン含有量30%) 0.02
(p−シメン換算濃度0.006%)
エタノール 20.0
香料 1.0
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(EO平均付加モル数60) 0.3
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.1
サッカリンナトリウム 0.05
イソプロピルメチルフェノール 0.05
精製水 残部
計 100.0%
p−シメン/ボタンピ抽出物固形物濃度比=0.6
【0062】
〔実施例17〕 口中清涼剤
ボタンピ抽出物(固形物濃度2%) 0.5
(固形物濃度換算量0.01%)
p−シメン 0.01
エタノール 30.0
グリセリン 15.0
サッカリンナトリウム 0.3
ショ糖脂肪酸エステル 3.0
香料 1.0
精製水 残部
計 100.0%
p−シメン/ボタンピ抽出物固形物濃度比=1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ボタンピ抽出物、(B)p−シメン、及び(C)ノニオン界面活性剤を配合してなることを特徴とする口腔用組成物。
【請求項2】
(C)ノニオン界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油である請求項1記載の口腔用組成物。
【請求項3】
(A)ボタンピ抽出物が、ボタンの根皮のエタノール抽出物である請求項1又は2記載の口腔用組成物。
【請求項4】
(A)成分を固形物濃度換算で0.0005〜0.1質量%、(B)成分を0.001〜0.1質量%配合してなる請求項1、2又は3記載の口腔用組成物。
【請求項5】
口臭抑制用である請求項1乃至4のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【請求項6】
(A)ボタンピ抽出物、(B)p−シメン、及び(C)ノニオン界面活性剤からなる口臭抑制剤。

【公開番号】特開2011−236144(P2011−236144A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108043(P2010−108043)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】