説明

口腔用組成物

【課題】塩化セチルピリジニウムの歯牙への吸着は促進する一方で、塩化セチルピリジニウムに基づく歯牙へのステイン吸着は抑制できる口腔用組成物を提供すること。
【解決手段】塩化セチルピリジニウムを0.1〜0.5質量%、及びグリチルリチン酸又はその塩0.2〜2質量%、含有する口腔用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔用組成物に関し、より詳細には塩化セチルピリジニウム及びグリチルリチン酸又はその塩を含有する口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン性殺菌剤である塩化セチルピリジニウム(CPC)は、口腔内細菌に対する殺菌活性が高く、口腔粘膜や歯牙表面に吸着し、歯牙表面への口腔内細菌の吸着を阻害、歯垢の形成を抑制することが知られている。
【0003】
従来より、カチオン性殺菌剤の活性を高める種々の方法が開示されている。特許文献1には、塩化セチルピリジニウムにN−長鎖アシル塩基性アミノ酸の低級アルキルエステルまたはその塩を組み合わせると塩化セチルピリジニウムの歯牙への吸着が促進されることが記載されている。また、特許文献2には、N−長鎖アシル塩基性アミノ酸の低級アルキルエステルまたはその塩によるカチオン性殺菌剤の歯牙への吸着促進作用が、pH5.5〜6.5の領域において最も高まることが記載されている。
【0004】
しかしながら、唾液中に含まれ歯牙を覆っているタンパク質の膜(ペリクル)が、塩化セチルピリジニウムのようなカチオン性殺菌剤や茶などに含まれるポリフェノールなどの吸着により不溶化して歯牙表面へ強固に付着し、さらに鉄などの金属イオンが存在すると着色することがわかっている。このため、塩化セチルピリジニウムの歯牙への吸着を促進すれば、歯牙表面への口腔内細菌の吸着を阻害し歯垢の形成を抑制するメリットが得られる一方で、歯牙へのステイン吸着が助長され、着色することで歯牙の外観が悪くなるという問題があった。(以下、このような、塩化セチルピリジニウムが存在することにより助長された歯牙へのステイン吸着を“塩化セチルピリジニウムに基づく歯牙へのステイン吸着”又は“塩化セチルピリジニウムによる歯牙へのステイン吸着”等ともいう。)
そこで、塩化セチルピリジニウムの歯牙への吸着は促進する一方で、塩化セチルピリジニウムに基づく歯牙へのステイン吸着は抑制できる(すなわち軽減できる)口腔用組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−36231号公報
【特許文献2】特開平9−286712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、塩化セチルピリジニウムの歯牙への吸着は促進する一方で、塩化セチルピリジニウムに基づく歯牙へのステイン吸着は抑制できる口腔用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、驚くべき事に、塩化セチルピリジニウム及びグリチルリチン酸又はその塩を特定量含有する口腔用組成物が、塩化セチルピリジニウムの歯牙への吸着は促進する一方で、塩化セチルピリジニウムに基づく歯牙へのステイン吸着は抑制できることを見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は例えば以下の項に記載の口腔用組成物、及び方法に係るものである。
項1.
塩化セチルピリジニウムを0.1〜0.5質量%、及びグリチルリチン酸又はその塩を0.2〜2質量%、含有する口腔用組成物。
項2.
塩化セチルピリジニウム1質量部あたり、グリチルリチン酸又はその塩を0.7〜7質量部含有する、請求項1に記載の口腔用組成物。
項3.
グリチルリチン酸又はその塩を0.3〜0.5質量%含有し、
塩化セチルピリジニウム1質量部あたり、グリチルリチン酸又はその塩を1〜4質量部含有する、項2に記載の口腔用組成物。
項4−1.
項1〜3のいずれかに記載の口腔用組成物を用いることにより、塩化セチルピリジニウムの歯牙への吸着を促進する方法。
項4−2.
項1〜3のいずれかに記載の口腔用組成物を用いることにより、塩化セチルピリジニウムに基づく歯牙へのステイン吸着を抑制する方法。
項4−3.
グリチルリチン酸又はその塩が口腔用組成物に0.2〜2.0質量%含有されるよう、グリチルリチン酸又はその塩を配合する工程を含む、塩化セチルピリジニウムを0.1〜0.5質量%含有する口腔用組成物使用時の塩化セチルピリジニウムの歯牙への吸着を促進する方法。
項4−4.
グリチルリチン酸又はその塩が口腔用組成物に0.2〜2.0質量%含有されるよう、グリチルリチン酸又はその塩を配合する工程を含む、塩化セチルピリジニウムを0.1〜0.5質量%含有する口腔用組成物使用時の塩化セチルピリジニウムによる歯牙へのステイン吸着を軽減する方法。
項5−1.
塩化セチルピリジニウムを0.1〜0.5質量%、及びグリチルリチン酸又はその塩を0.2〜2.0質量%配合することにより、塩化セチルピリジニウムの歯牙への吸着を増大した口腔用組成物を製造する方法。
項5−2.
塩化セチルピリジニウムを0.1〜0.5質量%、及びグリチルリチン酸又はその塩を0.2〜2.0質量%配合することにより、塩化セチルピリジニウムに基づく歯牙へのステイン吸着を軽減した口腔用組成物を製造する方法。
項5−3.
グリチルリチン酸又はその塩が、口腔用組成物に0.2〜2.0質量%含有されるよう、配合する工程を含む、塩化セチルピリジニウムを0.1〜0.5質量%含有し、且つ塩化セチルピリジニウムの歯牙への吸着が増大した口腔用組成物を製造する方法。
項5−4.
グリチルリチン酸又はその塩を、口腔用組成物に0.2〜2.0質量%含有されるように配合する工程を含む、塩化セチルピリジニウムを0.1〜0.5質量%含有し、且つ塩化セチルピリジニウムによる歯牙へのステイン吸着が軽減された口腔用組成物を製造する方法。
項6−1.
グリチルリチン酸又はその塩からなる、塩化セチルピリジニウムの歯牙吸着促進剤。
項6−2.
グリチルリチン酸又はその塩からなる、塩化セチルピリジニウムに基づく歯牙へのステイン吸着抑制剤。
項6−3.
グリチルリチン酸又はその塩からなる、塩化セチルピリジニウムの歯牙吸着促進歯科口腔用薬。
項6−4.
グリチルリチン酸又はその塩からなる、塩化セチルピリジニウムに基づく歯牙へのステイン吸着抑制歯科口腔用薬。
【発明の効果】
【0009】
本発明の塩化セチルピリジニウム及びグリチルリチン酸又はその塩を含有する口腔用組成物であれば、塩化セチルピリジニウムの歯牙への吸着は促進する一方で、塩化セチルピリジニウムに基づく歯牙へのステイン吸着は抑制できる。さらに、塩化セチルピリジニウムの殺菌力は変化しない。よって、当該口腔用組成物を用いることで、塩化セチルピリジニウムの殺菌力は維持したまま、塩化セチルピリジニウムの歯牙への吸着は促進し、塩化セチルピリジニウムに基づく歯牙へのステイン吸着を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】CPCに基づく歯牙へのステイン吸着の検討結果を示す。具体的には、アクリル板を歯牙に見立て、これを各溶液サンプル及び紅茶に浸すという操作を繰り返し、その都度吸光度を測定した実験の結果を示す。
【図2a】CPCの歯牙への吸着の検討結果を示す。具体的には、ハイドロキシアパタイト粉末を歯牙に見立て、これを各溶液サンプルに浸した後、当該粉末に吸着したCPC量を測定して、これを元に算出した吸着率を示す。
【図2b】CPCの歯牙への吸着の検討結果を示す。具体的には、ハイドロキシアパタイト粉末を歯牙に見立て、これを各溶液サンプルに浸した後、当該粉末に吸着したCPC量を測定して、これを元に算出したCPC吸着促進率を示す。
【図3】CPCに基づく歯牙へのステイン吸着の検討結果を示す。具体的には、アクリル板を歯牙に見立て、これを各洗口液剤及び紅茶に浸すという操作を繰り返し、その都度吸光度を測定した実験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0012】
本発明の口腔用組成物は、塩化セチルピリジニウム及びグリチルリチン酸又はその塩を含有する。
【0013】
塩化セチルピリジニウムは、第四級アンモニウム化合物に含まれるカチオン性殺菌成分であり、口腔用組成物分野において広く使用されている。本発明の口腔用組成物における塩化セチルピリジニウムの含有量は、特に制限されないが、塩化セチルピリジニウムに基づく歯牙へのステイン吸着が問題となる量において、特に本発明の効果が好ましく発揮されることから、好ましくは0.1〜0.5質量%、より好ましくは0.1〜0.4質量%、さらに好ましくは0.1〜0.3質量%、よりさらに好ましくは0.15〜0.3質量%である。
【0014】
グリチルリチン酸は甘草の根に含まれる有効成分であり、抗炎症作用を有することが知られている。また、グリチルリチン酸の塩も、抗炎症作用を有することが知られている。本発明の口腔用組成物に含有されるグリチルリチン酸の塩としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、例えばカリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。具体的には、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸ジナトリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム等が挙げられる。中でもグリチルリチン酸ジカリウムが好ましい。
【0015】
本発明の口腔用組成物において、グリチルリチン酸又はその塩が塩化セチルピリジニウムの歯牙吸着を促進する。またさらに、本発明の口腔用組成物において、グリチルリチン酸又はその塩が塩化セチルピリジニウムに基づく歯牙へのステイン吸着を抑制する。
【0016】
本発明の口腔用組成物におけるグリチルリチン酸又はその塩の含有量は、特に制限されず、口腔用組成物に含有される塩化セチルピリジニウム量等に応じて適宜設定することができる。グリチルリチン酸又はその塩の含有量は、好ましくは0.2〜2質量%、より好ましくは0.3〜1質量%、さらに好ましくは0.3〜0.8質量%、よりさらに好ましくは0.3〜0.5質量%である。
【0017】
またさらに、グリチルリチン酸又はその塩は、塩化セチルピリジニウムの量に応じて適宜配合量を設定できる。例えば、塩化セチルピリジニウムの含有量を1質量部としたとき、グリチルリチン酸又はその塩の含有量は好ましくは0.7〜7質量部、より好ましくは0.7〜6.7質量部、さらに好ましくは1〜4質量部、よりさらに好ましくは1〜2.7質量部である。換言すれば、(グリチルリチン酸又はその塩/塩化セチルピリジニウム)の質量比は、好ましくは0.7〜7、より好ましくは0.7〜6.7、さらに好ましくは1〜4、よりさらに好ましくは1〜2.7である。
【0018】
本発明の口腔用組成物は、例えば医薬品、医薬部外品として用いることができる。特に医薬品が好ましい。また、本発明の口腔用組成物の形態は、特に限定するものではないが、常法に従って例えば軟膏剤、ペースト剤、パスタ剤、ジェル剤、液剤、スプレー剤、洗口液剤、液体歯磨剤、練歯磨剤、ガム剤等の形態(剤形)にすることができる。なかでも、洗口液剤、液体歯磨剤、練歯磨剤、軟膏剤、ペースト剤、液剤、スプレー剤、ジェル剤であることが好ましい。
【0019】
本発明の口腔用組成物は、上述のように、塩化セチルピリジニウムの殺菌力は維持したまま、塩化セチルピリジニウムの歯牙への吸着は促進し、塩化セチルピリジニウムに基づく歯牙へのステイン吸着を抑制することが可能である。さらに、グリチルリチン酸又はその塩は抗炎症作用を有している。よって、本発明の口腔用組成物は口腔用の抗炎症剤や殺菌剤等として、口腔ケアに好適に用いることができる。特に、歯槽膿漏薬等の歯科口腔用薬として、歯周病、歯周炎、及び/又は歯肉炎に伴う諸症状の緩和に好ましく用いることができる。当該諸症状としては、例えば歯肉の出血、発赤、はれ、うみ、痛み、むずかゆさ、あるいは口のねばり、口臭等が挙げられる。また、口内炎の治療及び/又は緩和にも好ましく用いることができる。
【0020】
本発明の口腔用組成物は、塩化セチルピリジニウム及びグリチルリチン酸又はその塩の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、口腔用組成物に配合し得る任意成分をさらに含有してもよい。
【0021】
例えば、界面活性剤として、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤または両性界面活性剤を配合することができる。具体的には、ノニオン界面活性剤としてはショ糖脂肪酸エステル、マルトース脂肪酸エステル、ラクトース脂肪酸エステル等の糖脂肪酸エステル;脂肪酸アルカノールアミド類;ソルビタン脂肪酸エステル;脂肪酸モノグリセライド;ポリオキシエチレン付加係数が8〜10、アルキル基の炭素数が13〜15であるポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレン付加係数が10〜18、アルキル基の炭素数が9であるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;セバシン酸ジエチル;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン等が挙げられる。アニオン界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩;ラウリルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸塩;ココイルサルコシンナトリウム、ラウロイルメチルアラニンナトリウム等のアシルアミノ酸塩;ココイルメチルタウリンナトリウム等が挙げられる。両性イオン界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の酢酸ベタイン型活性剤;N−ココイル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム等のイミダゾリン型活性剤;N−ラウリルジアミノエチルグリシン等のアミノ酸型活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。その配合量は、通常、組成物全量に対して0.1〜5質量%である。
【0022】
香味剤として、メントール、カルボン酸、アネトール、オイゲノール、サリチル酸メチル、リモネン、オシメン、n−デシルアルコール、シトロネール、α−テルピネオール、メチルアセタート、シトロネニルアセタート、メチルオイゲノール、シネオール、リナロール、エチルリナロール、チモール、スペアミント油、ペパーミント油、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、珪皮油、シソ油、冬緑油、丁子油、ユーカリ油、ピメント油、d−カンフル、d−ボルネオール、ウイキョウ油、ケイヒ油、シンナムアルデヒド、ハッカ油、バニリン等の香料を、単独または2種以上を組み合わせて組成物全量に対して0.01〜1.5質量%配合することができる。
【0023】
また、サッカリンナトリウム、アセスルファムカリウム、ステビオサイド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ペリラルチン、タウマチン、アスパラチルフェニルアラニルメチルエステル、p−メトキシシンナミックアルデヒド等の甘味剤を、組成物全量に対して0.001〜1質量%配合することができる。
【0024】
さらに、湿潤剤として、ソルビット、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,3―ブチレングリコール、ポリプロピレングリコール、キシリット、マルチット、ラクチット、ポリオキシエチレングリコール等を単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0025】
防腐剤として、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン等のパラベン類、安息香酸ナトリウム、フェノキシエタノール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン等を配合することができる。
【0026】
着色剤として、青色1号、黄色4号、赤色202号、緑3号等の法定色素、群青、強化群青、紺青等の鉱物系色素、酸化チタン等を配合してもよい。
【0027】
pH調整剤として、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、ピロリン酸、乳酸、酒石酸、グリセロリン酸、酢酸、硝酸、またはこれらの化学的に可能な塩や水酸化ナトリウム等を配合してもよい。これらは、組成物のpHが4〜8、好ましくは5〜7の範囲となるよう、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。pH調整剤の通常配合量は0.01〜2重量%である。
【0028】
なお、本発明の口腔用組成物には、さらに、薬効成分として、酢酸dl−α−トコフェロール、コハク酸トコフェロール、またはニコチン酸トコフェロール等のビタミンE類、ドデシルジアミノエチルグリシン等の両性殺菌剤、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール等の非イオン性殺菌剤、デキストラナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、溶菌酵素(リテックエンザイム)等の酵素、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム等のアルカリ金属モノフルオロフォスフェート、フッ化ナトリウム、フッ化第一錫等のフッ化物、トラネキサム酸やイプシロンアミノカプロン酸、アルミニウムクロルヒドロキシルアラントイン、ジヒドロコレステロール、グリチルレチン酸、グリセロフォスフェート、クロロフィル、塩化ナトリウム、カロペプタイド、アラントイン、カルバゾクロム、ヒノキチオール、硝酸カリウム、パラチニット等を、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0029】
また、基剤として、アルコール類、シリコン、アパタイト、白色ワセリン、パラフィン、流動パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、スクワラン等を添加することも可能である。
【0030】
上述のとおり、グリチルリチン酸又はその塩は、塩化セチルピリジニウムの歯牙吸着を促進し、またさらに、塩化セチルピリジニウムに基づく歯牙へのステイン吸着を抑制する。よって、本願発明は、グリチルリチン酸又はその塩からなる塩化セチルピリジニウムの歯牙吸着促進剤をも包含する。またさらに、本願発明は、グリチルリチン酸又はその塩からなる塩化セチルピリジニウムに基づく歯牙へのステイン吸着抑制剤をも包含する。なお、これら剤として用いるグリチルリチン酸の塩としては、具体的には例えば上述したものと同様のものが挙げられる。
【0031】
これらの剤は、特に塩化セチルピリジニウムを含有する口腔用組成物を製造又は口腔内に適用する際に好ましく用いることができる。すなわち、塩化セチルピリジニウムを含有する口腔用組成物を製造するにあたり、塩化セチルピリジニウム及びグリチルリチン酸又はその塩を共に配合することで、当該口腔用組成物を使用する際の塩化セチルピリジニウムの歯牙吸着を促進させ、及び/又は当該口腔用組成物を使用する際の塩化セチルピリジニウムに基づく歯牙へのステイン吸着を抑制することができる。なお、ここでの口腔用組成物の形態としては、具体的には例えば上述したものと同様のものが挙げられる。また、ここでの口腔用組成物の製造も例えば上述と同様に常法に従って行い得る。
【0032】
また、これらの剤として用いるグリチルリチン酸又はその塩の使用量は、特に制限されず、塩化セチルピリジニウムの量に応じて適宜設定することができる。例えば、塩化セチルピリジニウムの使用量を1質量部としたとき、グリチルリチン酸又はその塩の使用量の好適範囲は(換言すれば、(グリチルリチン酸又はその塩/塩化セチルピリジニウム)の質量比の好適範囲は)、上述の口腔用組成物に配合する場合と同様である。
【0033】
またさらに、本発明は、(i)上記口腔用組成物を用いることにより塩化セチルピリジニウムの歯牙への吸着を促進する方法も包含する。また、本発明は、(ii)上記口腔用組成物を用いることにより塩化セチルピリジニウムに基づく歯牙へのステイン吸着を抑制する方法も包含する。
【0034】
また、本発明は、(iii)グリチルリチン酸又はその塩が口腔用組成物に(好ましくは0.2〜2.0質量%、)含有されるよう、グリチルリチン酸又はその塩を配合する工程を含む、塩化セチルピリジニウムを(好ましくは0.1〜0.5質量%)含有する口腔用組成物使用時の塩化セチルピリジニウムの歯牙への吸着を促進する方法も包含する。さらに本発明は、(iv)グリチルリチン酸又はその塩が口腔用組成物に(好ましくは0.2〜2.0質量%、)含有されるよう、グリチルリチン酸又はその塩を配合する工程を含む、塩化セチルピリジニウムを(好ましくは0.1〜0.5質量%)含有する口腔用組成物使用時の塩化セチルピリジニウムによる歯牙へのステイン吸着を軽減する方法も包含する。なお、これら(iii)(iv)の方法において、グリチルリチン酸又はその塩、及び塩化セチルピリジニウムを加える順序は特に限定されない。すなわち、これらの方法においては、グリチルリチン酸又はその塩を配合する時点で、塩化セチルピリジニウムは配合済みでも未配合でもよい。
【0035】
そしてまた、本発明は、(v)塩化セチルピリジニウムを(好ましくは0.1〜0.5質量%)、及びグリチルリチン酸又はその塩を(好ましくは0.2〜2.0質量%)配合することにより、塩化セチルピリジニウムの歯牙への吸着を増大した口腔用組成物を製造する方法を包含する。また、本発明は、(vi)塩化セチルピリジニウムを(好ましくは0.1〜0.5質量%)、及びグリチルリチン酸又はその塩を(好ましくは0.2〜2.0質量%)配合することにより、塩化セチルピリジニウムに基づく歯牙へのステイン吸着を軽減した口腔用組成物を製造する方法も包含する。
【0036】
さらに、本発明は、(vii)グリチルリチン酸又はその塩が、口腔用組成物に(好ましくは0.2〜2.0質量%)含有されるよう配合する工程を含む、塩化セチルピリジニウムを(好ましくは0.1〜0.5質量%)含有し、且つ塩化セチルピリジニウムの歯牙への吸着が増大した口腔用組成物を製造する方法を包含する。また、本発明は、(viii)グリチルリチン酸又はその塩を、口腔用組成物に(好ましくは0.2〜2.0質量%)含有されるように配合する工程を含む、塩化セチルピリジニウムを(好ましくは0.1〜0.5質量%)含有し、且つ塩化セチルピリジニウムによる歯牙へのステイン吸着が軽減された口腔用組成物を製造する方法も包含する。なお、これら(v)〜(viii)の方法において、グリチルリチン酸又はその塩、及び塩化セチルピリジニウムを加える順序は特に限定されない。すなわち、これらの方法においては、製造される口腔用組成物中にグリチルリチン酸又はその塩が(好ましくは0.2〜2.0質量%)含まれていれば、グリチルリチン酸又はその塩を配合する時点で、塩化セチルピリジニウムは配合済みでも未配合でもよい。
【0037】
なお、これら(iii)〜(viii)の方法においては、これらの方法により得られる口腔用組成物が、上述した各種成分含有量及び質量比等の各種条件を満たすことが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。また、「CPC」は塩化セチルピリジニウムを、「GK2」はグリチルリチン酸ジカリウムを、それぞれ示す。なお、特に断りのない限り「%」は「質量%」を示す。
【0039】
<CPCに基づく歯牙へのステイン吸着の検討>
表1に記載の組成に従って、CPC及びGK2を精製水に溶解させ11種類のサンプル溶液(実施例1−1〜1−5及び比較例1−A〜1−F)を調製した。なお、比較例1−Aは精製水である。
【0040】
これらのサンプル溶液を、以下の試験方法に従って試験を行い、CPCに基づくステイン吸着をGK2が抑制できるか調べた。なお、ステインの吸着は吸光度の強弱によって測定した(吸光度が大きいほどステイン吸着が起こっていることを示す。)。
【0041】
〔試験方法〕
アクリル板(10mm×30mm×5mm)を0.3%牛血清アルブミンに2分間漬した。当該アクリル板を蒸留水に30秒間浸漬することにより洗浄した後、各サンプル溶液に2分間漬した。当該アクリル板を蒸留水に30秒間浸漬することにより洗浄した後、紅茶([10g乾燥茶葉/1000mL沸騰水]で2分間抽出したもの)に60分間漬した。当該アクリル板を蒸留水に30秒間浸漬すことにより洗浄した後、自然乾燥させ、アクリル板表面の吸光度を測定した(測定波長395nm)。
【0042】
そして、これらの操作を10回繰り返した。
【0043】
結果を表1に併せて示す(表1の「吸光度」は、10回目の測定で得られた値を示す)。また、結果をグラフ化したものを図1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1及び図1から、CPC量に対するGK2量が多いほど、CPCに基づくステイン吸着が抑制されたことがわかった。
【0046】
<CPCの歯牙への吸着の検討>
表2に記載の組成に従って、CPC及びGK2を精製水に溶解させ11種類のサンプル溶液(実施例2−1〜2−7及び比較例2−A〜2−D)を調製した。なお、比較例2−Aは比較例1−Dと、実施例2−3は実施例1−5と同じである。
【0047】
これらのサンプル溶液を用い、以下の試験方法に従って試験を行い、GK2がCPCの歯牙への吸着を促進できるか調べた。
【0048】
〔試験方法〕
紫外線滅菌したヒト唾液2mLにヒドロキシアパタイト(DNA GradeBio−Gel HTP;BIO−RAD製)300mgを37℃にて15時間浸漬して、ペリクルをヒドロキシアパタイト表面に形成させた。その後遠心(3000rpm、10分間)し、ヒドロキシアパタイトを沈殿させ、上清を除去した。次に各溶液サンプル2mLに当該ヒドロキシアパタイトを37℃にて15分間浸漬した。遠心(3000rpm、10分間)後、上清を捨て、蒸留水2mLを添加し攪拌後、遠心(3000rpm、10分間)した。さらに上清を捨て、蒸留水2mLを添加し攪拌後遠心(3000rpm、10分間)し、上清を捨てた。
【0049】
次に下記の抽出液5mLを添加し、攪拌後遠心し、上清を50mLメスフラスコに移した。同じ作業を2度繰り返してCPCを抽出し、さらに抽出液でメスアップしたものをサンプルとしてHPLCで定量してヒドロキシアパタイト300mgに吸着したCPC量(吸着量)を求めた。
【0050】
[抽出液]
pH3の0.02Mクエン酸緩衝液1Lあたり2.88gのラウリル硫酸ナトリウムを溶解させた溶液:アセトニトリル=1:3
【0051】
そして、当該吸着量を理論値と比較し、下記式から吸着率及びCPC吸着促進率を算出した。なお、理論値は、理論的に溶液サンプル2mL中に含まれるCPC全量のことである。
吸着率=(吸着量/理論値)×100[%]

CPC吸着促進率=(各溶液サンプルの吸着率)−(比較例2−Aの吸着率) [%]

*比較例2−AにはGK2が含まれていない
【0052】
結果を表2に併せて示す。また、結果をグラフ化したものを図2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2及び図2から、CPC量に対するGK2量によって、CPCの歯牙への吸着は促進されたり抑制されたりすることがわかった。さらに、表2から算出することで、CPC量を1質量部とした場合、GK2量が0.7〜6.7質量部であるとき、CPCの歯牙への吸着が促進されることがわかった。また、CPC量を1質量部とした場合、GK2量が1〜3.3質量部であるとき、CPCの歯牙への吸着は特に促進されることもわかった。
【0055】
なお、CPCは殺菌作用を有しており、歯牙表面に吸着して歯牙表面への口腔内細菌の吸着を阻害、歯垢の形成を抑制する。よって、CPCの歯牙への吸着を促進するということは、すなわち口腔内細菌の吸着阻害作用を増強し、また歯垢の形成抑制作用を増強するともいえる。
【0056】
<処方の検討>
表3に記載の組成に従って、CPC、GK2及びその他の成分を精製水に溶解させ6種類の溶液サンプル(実施例3−1〜3−5及び比較例3−A)を調製した。また、市販の洗口液剤Pを比較例3−Bとして用いた。洗口液剤Pには0.07質量%のCPCが配合されている。なお、表3に記載の数値は質量%を示す。
【0057】
【表3】

【0058】
上記“CPCに基づく歯牙へのステイン吸着の検討”で行った試験方法と同様にして、各溶液サンプル(洗口液剤)のステインの吸着を吸光度の強弱によって測定した。結果を表4及び図3に示す。
【0059】
【表4】

【0060】
GK2を配合した洗口液剤(実施例3−1〜3−5)は、いずれもステイン吸着が抑制されていた。一方、GK2を配合しない洗口液剤(比較例3−A)では、CPCに基づくステインの吸着(CPCによるステインの吸着)が見られた。また、市販の洗口液剤P(比較例3−B)も、CPCに基づくステインの吸着が見られた。
【0061】
以下に、処方例を記載する。処方例における各成分の数値は、質量%を示す。また、以下の処方例では、pH調整剤により、pHを5.5〜7.0に調整した。
【0062】
【表5】

【0063】
【表6】

【0064】
【表7】

【0065】
【表8】

【0066】
【表9】

【0067】
【表10】

【0068】
【表11】

【0069】
【表12】

【0070】
【表13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化セチルピリジニウムを0.1〜0.5質量%、及びグリチルリチン酸又はその塩を0.2〜2質量%、含有する口腔用組成物。
【請求項2】
塩化セチルピリジニウム1質量部あたり、グリチルリチン酸又はその塩を0.7〜7質量部含有する、請求項1に記載の口腔用組成物。
【請求項3】
グリチルリチン酸又はその塩を0.3〜0.5質量%含有し、
塩化セチルピリジニウム1質量部あたり、グリチルリチン酸又はその塩を1〜4質量部含有する、請求項2に記載の口腔用組成物。
【請求項4】
グリチルリチン酸又はその塩が、口腔用組成物に0.2〜2.0質量%含有されるよう、配合する工程を含む、塩化セチルピリジニウムを0.1〜0.5質量%含有し、且つ塩化セチルピリジニウムの歯牙への吸着が増大した口腔用組成物を製造する方法。
【請求項5】
グリチルリチン酸又はその塩を、口腔用組成物に0.2〜2.0質量%含有されるように配合する工程を含む、塩化セチルピリジニウムを0.1〜0.5質量%含有し、且つ塩化セチルピリジニウムによる歯牙へのステイン吸着が軽減された口腔用組成物を製造する方法。
【請求項6】
グリチルリチン酸又はその塩が口腔用組成物に0.2〜2.0質量%含有されるよう、グリチルリチン酸又はその塩を配合する工程を含む、塩化セチルピリジニウムを0.1〜0.5質量%含有する口腔用組成物使用時の塩化セチルピリジニウムの歯牙への吸着を促進する方法。
【請求項7】
グリチルリチン酸又はその塩が口腔用組成物に0.2〜2.0質量%含有されるよう、グリチルリチン酸又はその塩を配合する工程を含む、塩化セチルピリジニウムを0.1〜0.5質量%含有する口腔用組成物使用時の塩化セチルピリジニウムによる歯牙へのステイン吸着を軽減する方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−153138(P2011−153138A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293427(P2010−293427)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000106324)サンスター株式会社 (200)
【Fターム(参考)】