説明

口腔用組成物

【課題】メシル酸ガベキサート特有の苦味が抑制され製剤の味が良好であり、メシル酸ガベキサートの製剤中での保存安定性が改善され、かつ、歯周ポケット内でメシル酸ガベキサート由来のアルジンジパイン活性阻害効果が十分に発揮される口腔用組成物を提供する。
【解決手段】(A)メシル酸ガベキサート、(B)両性界面活性剤、及び(C)糖アルコールを含有し、かつ(B)成分/(A)成分の質量比が0.05〜100であることを特徴とする口腔用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周病の原因菌であるポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)が産生するアルジンジパインの活性阻害効果に優れるメシル酸ガベキサートに由来する特有の苦味が抑制され、メシル酸ガベキサートの保存安定性も改善され、かつ、歯周ポケット内でアルジンジパイン活性阻害効果が十分に発揮され、歯周病予防又は治療用として好適な口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病は、歯周病原因菌の感染により生じる慢性感染性疾患である。原因菌の感染により炎症が進行すると、歯肉が腫れ、血や膿が出るだけでなく、歯を支える歯槽骨が破壊されることで歯の動揺が起こり、やがては歯を喪失する。更に、歯周病は、糖尿病、心疾患、そして、妊婦の低体重児出産などの全身疾患のリスクファクターであることが知られている。そのため、歯周病の予防又は治療は、健康な口腔機能の維持及び回復だけではなく、全身疾患のリスク低減という面からも非常に重要である。
【0003】
アルジンジパインと呼ばれる、歯周病の原因菌ポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)が産生するプロテアーゼは、最も重要な歯周病の病原因子である。アルジンジパインは、トリプシン様活性を持つシステインプロテアーゼで、菌自身の栄養素獲得に重要な機能を持ち、更に、歯周組織を構成する細胞間マトリックス、例えばコラーゲンやフィブロネクチンなどを分解し、菌を排除する生体反応の重要な要素である抗体や補体を分解し、更に、好中球の機能を阻害することで感染を持続し、炎症を慢性化させる。そこで、新しい歯周病の治療又は予防薬として、アルジンジパイン阻害剤の開発が期待されている。
【0004】
アルジンジパインを阻害する物質としては、アンチパイン、ロイペプチン、TLCK(トシル−リシン−クロロメチルケトン塩酸塩)あるいはE−64等の既知のシステインプロテアーゼ阻害剤が知られているが、これら物質は毒性も高いため歯周病の予防、治療には使用されていない。また、アルジンジパインがアルギニン末端を選択的に分解する基質特性に着目した拮抗的阻害剤としてペプチド誘導体が有効であることが提案されている(特許文献1;特開平11−228526号公報、特許文献2;特開2001−89436号公報参照)が、これは安全性が確認されておらず、実用化されるに至っていない。
また、ラジカルスカベンジャーを含有する液状の口内炎用スプレー剤が提案され、ラジカルスカベンジャーとして蛋白分解酵素阻害剤であるメシル酸ガベキサートが記載されている(特許文献3;特開2002−255852号公報)。
【0005】
このような状況の中、出願人は、膵炎や汎発性血管内血液凝固症の治療薬として用いられているメシル酸ガベキサートが、アルジンジパインに対する非常に高い特異的活性阻害効果を有し、人体に対して安全であり、歯周病予防又は治療に有効であることを見出し、メシル酸ガベキサートと水溶性フッ素化合物からなるアルジンジパイン阻害剤及び口腔用組成物を提案し(特許文献4;特開2008−150325号公報)、また、メシル酸ガベキサートに植物抽出物を併用した口腔用組成物を提案した(特許文献5;特開2009−137895号公報)。更に、メシル酸ガベキサートと水溶性非イオン性高分子物質及び/又は非イオン性界面活性剤とからなる歯周病予防又は治療に有用な製剤を提案した(特許文献6;特開2010−1228号公報)。
【0006】
しかしながら、メシル酸ガベキサートは特有の苦味を有しているため、口腔用組成物として好適に使用するには製剤の味の改善が問題となるが、これまで味の改善施策は満足になされていなかった。また、メシル酸ガベキサートを口腔用組成物に配合するには製剤中でのメシル酸ガベキサートの保存安定性に問題があり、上記のようにこれまで植物エキスを用いたメシル酸ガベキサートの保存安定性の改善が取り組まれてきたが、その効果は満足できるとは言い難く、製剤中での保存安定性については未だ改善の余地があった。
従って、メシル酸ガベキサート特有の苦味を抑制し、メシル酸ガベキサートの製剤中での保存安定性を改善し、かつ、口腔内に適用時に歯周ポケット内でアルジンジパイン活性阻害効果を十分に発揮することができる新たな技術の開発が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−228526号公報
【特許文献2】特開2001−89436号公報
【特許文献3】特開2002−255852号公報
【特許文献4】特開2008−150325号公報
【特許文献5】特開2009−137895号公報
【特許文献6】特開2010−1228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、メシル酸ガベキサートを配合した口腔用組成物の製剤化における課題を解決し、メシル酸ガベキサート特有の苦味が抑制され製剤の味が良好であり、メシル酸ガベキサートの製剤中での保存安定性が改善され、かつ、歯周ポケット内でアルジンジパイン活性阻害効果が十分に発揮される口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、(A)メシル酸ガベキサート、(B)両性界面活性剤、及び(C)糖アルコールを併用し、かつ(B)成分/(A)成分の質量比を0.05〜100の範囲とすることにより、メシル酸ガベキサート特有の苦味を抑制し、メシル酸ガベキサートの保存安定性を改善し、かつ、歯周ポケット内でアルジンジパイン活性阻害効果を十分に発揮させることができることを見出した。
【0010】
本発明によれば、(A)メシル酸ガベキサートを配合した口腔用組成物に、(B)両性界面活性剤、特に酢酸ベタイン型及びイミダゾリン型の両性界面活性剤から選ばれる1種以上の界面活性剤を適切な割合で配合し、かつ(C)糖アルコールを併用して配合することによって、メシル酸ガベキサート特有の苦味が抑制され、製剤の味が改善されて良好な使用感となり、かつメシル酸ガベキサートの製剤中での保存安定性も改善される上、歯周ポケット内でのメシル酸ガベキサート由来のアルジンジパイン活性阻害効果が十分かつ有効に発揮される。
このような本発明の作用効果は、後述の実施例の結果からも明確であり、本発明の構成要件のいずれかを欠く場合にはなし得ず、両性界面活性剤の代わりに他の界面活性剤、例えばアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤を用いても、また、糖アルコールの代わりにグリセリンを用いても、あるいは(A)〜(C)成分を含有していても(B)成分/(A)成分の質量比が0.05〜100の範囲外である場合には達成できないものであり、本発明の構成とすることによって達成できる格別なものである。
【0011】
従って、本発明は下記の口腔用組成物を提供する。
請求項1;
(A)メシル酸ガベキサート、(B)両性界面活性剤、及び(C)糖アルコールを含有し、かつ(B)成分/(A)成分の質量比が0.05〜100であることを特徴とする口腔用組成物。
請求項2;
(B)成分の両性界面活性剤が、酢酸ベタイン型両性界面活性剤、イミダゾリン型両性界面活性剤、アミノ酸型両性界面活性剤、及びアルキルジメチルアミンオキシドから選ばれる1種以上である請求項1記載の口腔用組成物。
請求項3;
(B)成分の両性界面活性剤が、酢酸ベタイン型両性界面活性剤及び/又はイミダゾリン型両性界面活性剤である請求項2記載の口腔用組成物。
請求項4;
(A)成分の配合量が0.005〜2質量%である請求項1乃至3のいずれか1項記載の口腔用組成物。
請求項5;
(B)成分の配合量が0.01〜3質量%である請求項1乃至4のいずれか1項記載の口腔用組成物。
請求項6;
(A)成分を0.01〜1質量%、(B)成分を0.05〜1質量%、(C)成分を10〜30質量%含有し、(B)成分/(A)成分の質量比が0.1〜40である請求項1乃至3のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の口腔用組成物によれば、メシル酸ガベキサート特有の苦味を抑制し、かつメシル酸ガベキサートの製剤中での保存安定性を改善できる上、歯周ポケット内でメシル酸ガベキサート由来のアルジンジパイン活性阻害効果を有効に発揮させ、歯周病原因菌であるポルフィロモナス ジンジバリスが産生するシステインプロテアーゼであるアルジンジパインを特異的にかつ高活性で阻害できるものであり、かかる口腔用組成物は歯周病の予防又は治療に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明につき更に詳細に説明すると、本発明の口腔用組成物は、(A)メシル酸ガベキサート、(B)両性界面活性剤、(C)糖アルコールを含有し、かつ(B)成分/(A)成分の質量比が0.05〜100である。
【0014】
(A)成分のメシル酸ガベキサートは、下記化学構造式で表されるものである。
【化1】

【0015】
メシル酸ガベキサートとしては、市販品を用いることができ、例えば、小野薬品工業(株)のエフオーワイ、日本医薬品工業(株)のプロビトール、沢井製薬(株)のアロデートや、和光純薬工業(株)のメシル酸ガベキサートなどを使用することができる。
【0016】
メシル酸ガベキサートの配合量は、アルジンジパイン活性阻害効果、苦味抑制効果、メシル酸ガベキサートの保存安定性改善効果の点から、組成物全体の0.005〜2%(質量%、以下同様。)、特に0.01〜1%が好ましい。配合量が0.005%未満では、アルジンジパイン活性阻害効果が発揮されない場合があり、2%を超えると、メシル酸ガベキサートの保存安定性改善効果が満足に発揮されず、また、苦味抑制効果が十分に発揮されない場合がある。
【0017】
(B)成分の両性界面活性剤としては、酢酸ベタイン型、イミダゾリン型、及びアミノ酸型の両性界面活性剤、アルキルジメチルアミンオキシド等から選ばれる1種以上を用いることができる。
【0018】
酢酸ベタイン型両性界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン等が挙げられる。
【0019】
酢酸ベタイン型両性界面活性剤は市販品を使用でき、例えば日光ケミカルズ社製のラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン(商品名 NIKKOL AM−301)、花王社製のステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン(商品名 アンヒトール86B)、三洋化成工業社製のヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン液(商品名 レボン 2000)、三洋化成工業社製のラウリン酸アミドプロピルベタイン(商品名 レボン 2000L)等が挙げられる。
【0020】
イミダゾリン型両性界面活性剤としては、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、N−ヤシ油脂肪酸アシル−N−カルボキシメトキシエチル−N−カルボキシメチルエチレンジアミン二ナトリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシル−N−カルボキシメトキシエチル−N−カルボキシメチルエチレンジアミン二ナトリウムラウリル硫酸等が挙げられる。
【0021】
イミダゾリン型両性界面活性剤は市販品を使用でき、例えば三洋化成工業社製の2−アルキル−N−カルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン(商品名 レボン105)、Rhodia社製のN−ヤシ油脂肪酸アシル−N−カルボキシメトキシエチル−N−カルボキシメチルエチレンジアミン二ナトリウム(商品名 MIRANOL C2M−NP HV)、Rhodia社製のN−ヤシ油脂肪酸アシル−N−カルボキシメトキシエチル−N−カルボキシメチルエチレンジアミン二ナトリウムラウリル硫酸(商品名 MIRACARE 2MCA/P)等が挙げられる。
【0022】
アミノ酸型両性界面活性剤としては、β−ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ラウリルアミノジプロピオン酸ナトリウム液、N−ラウロイル−N’−カルボキシメチル−N’−ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム、ヤシ油アルキルアミノプロピオン酸ナトリウム、N−ラウリルβ−アラニン、N−ステアリルβ−アラニン等が挙げられる。
【0023】
アミノ酸型両性界面活性剤は市販品を使用でき、例えば三洋化成工業社製のβ−ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム(商品名 レボン APL)、Cognis社製のラウリルアミノジプロピオン酸ナトリウム液(商品名 DERIPHAT 160C)、三洋化成工業社製のN−ラウロイル−N’−カルボキシメチル−N’−ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム(商品名 レボン101−H)等が挙げられる。
【0024】
本発明では、(B)成分の両性界面活性剤としてアルキルジメチルアミンオキシドを用いることもできる。アルキルジメチルアミンオキシドとしては、長鎖アルキルジメチルアミンオキシド、具体的にはラウリルジメチルアミンオキサイド、ヤシ油アルキルジメチルアミンオキシド、ミリスチルジメチルアミンオキシド、オクチルジメチルアミンオキシド、ステアリルジメチルアミンオキシド等が好適に使用し得る。
【0025】
アルキルジメチルアミンオキシドとしては、メシル酸ガベキサートの保存安定性改善効果、アルジンジパイン活性阻害効果の点から、特に長鎖アルキル基の炭素数が10〜14の長鎖アルキルジメチルアミンオキシドがより好ましい。炭素数が10未満では、メシル酸ガベキサートの安定性改善効果が低下し、14を超えるとアルジンジパイン活性阻害効果が低下する場合がある。
【0026】
アルキルジメチルアミンオキシドは市販品を使用でき、具体的にはライオン・アクゾ社製のラウリルジメチルアミンオキサイド(商品名 アロモックスDM12D−W(C))、ライオン・アクゾ社製のヤシ油アルキルジメチルアミンオキシド(商品名 アロモックスDMC−W)、ライオン・アクゾ社製のミリスチルジメチルアミンオキシド(商品名 アロモックスDM14D−N)などが挙げられる。
【0027】
(B)成分としては、上記の両性界面活性剤から選ばれる1種又は2種以上を配合できるが、苦味抑制効果、メシル酸ガベキサートの保存安定性改善効果の点から、中でも酢酸ベタイン型両性界面活性剤、イミダゾリン型両性界面活性剤がより好ましい。
【0028】
(B)成分の配合量は特に限定されないが、苦味抑制効果、メシル酸ガベキサートの保存安定性改善効果、アルジンジパイン活性阻害効果の点から、組成物全体の0.01〜3%、特に0.05〜1%が好ましい。配合量が0.01%未満では、メシル酸ガベキサートの保存安定性改善効果や、苦味抑制効果が十分に発揮されない場合があり、3%を超えると、アルジンジパイン活性阻害効果が減少したり、苦味抑制効果が十分に発揮されない場合がある。
【0029】
また、本発明では、苦味抑制効果、メシル酸ガベキサートの保存安定性改善効果、アルジンジパイン活性阻害効果の点から、(B)成分/(A)成分の質量比が0.05〜100であり、好ましくは0.1〜40である。質量比が0.05未満では、メシル酸ガベキサートの保存安定性改善効果が十分に発揮されず、また苦味抑制効果が低下し、100を超えると、アルジンジパイン活性阻害効果が低下し、また苦味抑制効果が発揮されない。
【0030】
(C)成分の糖アルコールとしては、口腔用組成物に通常配合されるものであれば特に制限なく使用できるが、例えばソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール等の1種又は2種以上が好適に使用できる。なお、本発明では、糖アルコールの代わりに、多価アルコールであるグリセリンを用いても本発明の効果を達成できない。
【0031】
このような糖アルコールとしては市販品を使用でき、例えばMERCK社製のソルビトール(商品名 Parteck SI 150)、ROQUETTE社製のマンニトール(商品名 PEARITOL(登録商標) 50C)、三菱商事フーズテック社製のキシリトール(商品名 キシリット)、三菱化学フーズ社製のエリスリトール(商品名 エリスリトール)などが挙げられる。
【0032】
糖アルコールの配合量は特に限定されないが、苦味抑制効果、メシル酸ガベキサートの保存安定性改善効果、アルジンジパイン活性阻害効果の点から、組成物全体の5〜40%、特に10〜30%が好ましい。5%未満では、苦味抑制効果を満足に発揮できず、また、メシル酸ガベキサートの保存安定性改善効果が低下する場合がある。40%を超えると、アルジンジパイン活性阻害効果が低下し、またメシル酸ガベキサートの保存安定性改善効果も低下する場合がある。
【0033】
本発明の口腔用組成物は、練歯磨、潤製歯磨、液体歯磨等の歯磨剤、洗口剤、ゲル剤、軟膏剤、口中清涼剤、うがい用錠剤、口腔用パスタ、ガム等の各種剤型に調製することができ、特に歯磨剤及びゲル剤、とりわけゲル剤として好適に調製できる。本発明組成物は、上記必須成分に加えて、必要によりその剤型に応じたその他の成分を本発明の効果を損ねない範囲で配合することができ、通常の方法で調製することができる。
【0034】
その他の成分としては、例えば歯磨剤の場合には、各種研磨剤、(C)成分の糖アルコール以外の湿潤剤、粘結剤、(B)成分以外の界面活性剤、甘味料、香料、着色剤、防腐剤、pH調整剤、(A)成分以外の有効成分などを配合できる。ゲル剤の場合には、(C)成分の糖アルコール以外の湿潤剤、粘結剤、(B)成分以外の界面活性剤、甘味料、香料、着色剤、防腐剤、pH調整剤、アルコール、油性成分、(A)成分以外の有効成分などを本発明の効果を妨げない範囲で配合できる。
【0035】
研磨剤としては、沈降性シリカ、シリカゲル、アルミノシリケート、ゼオライト、ジルコノシリケート、第2リン酸カルシウム・2水和物及び無水物、ピロリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、炭酸マグネシウム、第3リン酸マグネシウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、不溶性メタリン酸カリウム、酸化チタン、ハイドロキシアパタイト、合成樹脂系研磨剤等が挙げられる(配合量;通常、5〜50%)。
【0036】
湿潤剤としては、(C)成分の糖アルコールに加えて、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール等の多価アルコールが挙げられる(配合量;通常、組成物全体に対して10〜50%)。
【0037】
粘結剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸誘導体、グアガム、キサンタンガム、アラビアガム等のガム類、カラギーナン、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドンなどの合成粘結剤等が挙げられる(配合量;通常、0.1〜5%)。
【0038】
界面活性剤としては、(B)成分の両性界面活性剤に加えて、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤を配合し得る。
非イオン性界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどの糖アルコール脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等の多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などのエーテル型又はエステル型の界面活性剤、ラウリン酸ジエタノールアミド等の脂肪酸アルカノールアミド類などが挙げられる。
【0039】
アニオン性界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩、N−ラウロイルサルコシンナトリウム、N−ミリストイルサルコシンナトリウム等のN−アシルサルコシンナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、水素添加ココナッツ脂肪酸モノグリセリドモノ硫酸ナトリウム、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム、N−パルミトイルグルタミン酸ナトリウム等のN−アシルグルタミン酸塩、N−メチル−N−アシルタウリンナトリウム、N−メチル−N−アシルアラニンナトリウム、α−オレフィンスルフォン酸ナトリウムなどが挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、アルキルアンモニウム、アルキルベンジルアンモニウム塩等が挙げられる。
任意成分としてこれら界面活性剤を配合する場合、その配合量は、上記(B)成分を含めた界面活性剤の総量が組成物全体の0.01〜3%となる範囲が望ましい。
【0040】
アルコールとしては、一価アルコール、特にエタノール等の炭素数3以下の低級アルコールが挙げられる。アルコールを配合する場合、その配合量は通常1〜20%である。
【0041】
油性成分としては、流動パラフィン、軽質流動パラフィン、パラフィンワックス、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、スクワラン、スクワレン等の炭化水素油、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウロレイン酸、オレイン酸、アラキドン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸等の脂肪酸、アマニ油、ゴマ油、サフラワー油、大豆油、トウモロコシ油、ナタネ油、綿実油、オリーブ油、椿油、ひまし油、カカオ脂、パーム油、ヤシ油等の植物油、牛脂、豚脂、馬脂、羊脂等の動物油などが挙げられる。この中でも、滞留性の点から炭化水素油が好ましく、より好ましくは流動パラフィン、軽質流動パラフィンである。油性成分を配合する場合、その配合量は通常0.1〜10%である。
【0042】
有効成分としては、例えばトラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸等の抗プラスミン剤、グリチルリチン、グリチルリチン酸塩、アラントイン類等の抗炎症剤、アスコルビン酸塩、トコフェロールエステル等のビタミン類、デキストラナーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム等の酵素、オウバクエキス、オウゴンエキス、チョウジエキス等の生薬成分、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化デカリニウム、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、ヒノキチオール等の殺菌剤、塩化ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、オルソリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、乳酸アルミニウム、キトサン等の無機塩類や有機塩類などが挙げられる。なお、これら有効成分の配合量は、本発明の効果を妨げない範囲で有効量とすることができる。
【0043】
甘味剤としては、サッカリンナトリウム、ステビオサイド、ステビアエキス、パラメトキシシンナミックアルデヒド、ネオヘスペリジルヒドロカルコン、ペリラルチン等が挙げられる。着色剤としては、青色1号、黄色4号、二酸化チタン等が挙げられる。防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
【0044】
香料としては、l−メントール、カルボン、アネトール、リモネン等のテルペン類又はその誘導体やペパーミント油等が挙げられる。pH調整剤としては、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸等が挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、以下の例において配合量はいずれも質量%である。また、形態が水溶液の成分については、表中も含めいずれも純分換算の配合量を示した。
【0046】
〔実施例1〜29、比較例1〜8〕
表1〜4に示す組成の口腔用組成物(ゲル剤)を常法により調製し、容量40gのアルミニウムチューブに充填した。下記方法により苦味抑制効果、メシル酸ガベキサートの保存安定性改善効果、アルジンジパイン活性阻害効果の評価を行った。結果を表1〜4に示す。なお、配合成分の詳細を表5に示す。
【0047】
1.苦味抑制効果の評価
苦味抑制効果の評価は、専門家10名により、ゲル剤約0.5gを指で下顎歯肉へ塗布した後、1分後の苦味抑制効果を下記評価基準により評価し、その平均値により下記判定基準により判定をした。
【0048】
<苦味抑制効果の評価基準>
4点:全く苦味を感じない。
3点:苦みを殆ど感じない。
2点:苦みをわずかに感じるが問題ないレベル。
1点:使用に耐えがたい苦みを感じる。
0点:使用に耐えがたい苦みを強く感じる。
<苦味抑制効果の判定基準>
◎ :苦味抑制効果の平均値が3点以上
○ :苦味抑制効果の平均値が2点以上3点未満
△ :苦味抑制効果の平均値が1点以上2点未満
× :苦味抑制効果の平均値が0点以上1点未満
【0049】
2.メシル酸ガベキサートの保存安定性改善効果の評価
メシル酸ガベキサートの保存安定性改善効果の評価は、ゲル剤を60℃の恒温槽で2週間保存する加速保存試験により実施した。コントロールとして各比較例・実施例から(B)成分及び(C)成分を含有しないゲル剤を各々調製し、上記と同様に60℃の恒温槽で2週間保存する加速保存試験を実施した。ゲル剤は3本ずつ保存し、メシル酸ガベキサート残存量を下記方法で測定し、下記式にてメシル酸ガベキサート分解抑制率を算出し、その平均値により下記判定基準により判定をした。
【0050】
<測定方法>
メシル酸ガベキサート残存量の測定は、日本薬局方の定量法に従い液体クロマトグラフィー法により行った。保存したゲル剤を1g量り取り、内標として0.02%パラオキシ安息香酸ブチルを配合した50%エタノール溶液を加えて正確に15mLにあわせ撹拌したものを、試験溶液とした。試験溶液100μLを、内径5mm、長さ15cmのステンレス管に粒経5μmの液体クロマトグラフ用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填したカラム(商品名、TSK−GEL ODS−80Ts、東ソー株式会社製)に、カラム温度25℃、移動相*1流速1.0mL/minの条件で注入した。検出は、波長245nmの吸光度で行った。メシル酸ガベキサートの分解抑制率は下記の式に従って算出した。
【0051】
【数1】

【0052】
<メシル酸ガベキサートの保存安定性改善効果の評価基準>
◎ :メシル酸ガベキサート分解抑制率の平均値が60%以上
○ :メシル酸ガベキサート分解抑制率の平均値が30%以上60%未満
△ :メシル酸ガベキサート分解抑制率の平均値が10%以上30%未満
× :メシル酸ガベキサート分解抑制率の平均値が10%未満
【0053】
*1:移動相の組成
メタノール 540mL
0.1% ラウリル硫酸ナトリウム水溶液 200mL
0.5% 1−ヘプタンスルホン酸ナトリウム水溶液 20mL
氷酢酸 1mL
【0054】
3.アルジンジパイン活性阻害効果の評価
アルジンジパイン活性阻害効果は、ビーグル犬を用い、歯周病変部位の歯肉溝浸出液(gingival crevicular fluid:以下、「GCF」で示す。)中のアルジンジパイン活性の阻害作用により評価した。この活性は、主に歯周病原因菌であるポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)が産生する組織破壊酵素に起因し、歯周病との関連性が高いことが知られている。
【0055】
具体的評価法としては、固形飼料(商品名、DS−1A、オリエンタル酵母社製)を水で、飼料:水が質量比で7:5の割合で練状にした飼料で飼育することで歯周病を誘発したビーグル犬(6歳齢、雌、1群3匹)を用いた。各ビーグル犬の下顎3歯(P3、P4、M1)を被験部位とし、表1〜4に示す組成のゲル剤を処置した。処置は、3時間毎に3回、各被験部位にゲル剤約0.5mLをシリンジで塗布することで行った。処置前及び全処置終了3時間後のGCF中のアルジンジパイン活性を測定し*2、活性阻害効果を各被験部位毎に下記式により求め(n=9:下顎3歯/匹 × 3匹/1群)、その平均値から下記の判定基準により判定した。
なお、GCF採取量は、GCF採取前後のGCFコレクション ストリップス(ペリオペーパー(登録商標)、ヨシダ社製)の質量差から求めた。
【0056】
アルジンジパイン活性阻害効果(%)={(A−B)/A}×100
A=(薬剤処置前のアルジンジパイン活性)/(薬剤処置前の採取GCF質量)
B=(薬剤処置後のアルジンジパイン活性)/(薬剤処置後の採取GCF質量)
【0057】
<アルジンジパイン活性阻害効果の判定基準>
◎ :アルジンジパイン活性阻害効果の平均値が90%以上
○ :アルジンジパイン活性阻害効果の平均値が50%以上90%未満
△ :アルジンジパイン活性阻害効果の平均値が10%以上50%未満
× :アルジンジパイン活性阻害効果の平均値が10%未満
【0058】
*2:アルジンジパイン活性測定法
5mmol/Lシステインを含む20mmol/Lのリン酸ナトリウムバッファー(pH7.5)を反応バッファー*3とし、GCF抽出液*410μLと、反応バッファーにより10μmol/Lに調製した基質(Bz−Arg−MCA:カルボベンゾキシ−L−フェニルアラニル−L−アルギニン−4−メチルクマリル−7−アミド、ペプチド研究所製)140μLを混合し、37℃で60分間反応させた。反応により生成したAMC(7−アミノ−4−メチルクマリン)の蛍光強度を励起波長390nm、測定波長460nmで測定し(フルオロスキャン アセント、大日本製薬社製)、GCF中のアルジンジパイン活性とした。蛍光強度が強いほどアルジンジパイン活性が高く、評価したゲル剤のアルジンジパイン活性阻害効果が低いことになる。
【0059】
*3:反応バッファー:100mL中の質量
L−システイン(シグマ アルドリッチ社製): 0.0788g
リン酸二水素ナトリウム二水和物(和光純薬工業社製): 0.312g
1N 水酸化ナトリウム(和光純薬工業社製): 適量(pH7.5に調整)
蒸留水: 残
(全量を100mLにメスアップ。)
【0060】
*4:GCF抽出液
GCFコレクション ストリップスを各被験部位の歯周ポケットに30秒間挿入することで、GCFを採取し、10mmol/Lリン酸ナトリウムバッファー(pH6.0)100μLに浸漬し、十分に撹拌することで、GCFを抽出した。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
【表5】

【0066】
表1〜4の結果から、メシル酸ガベキサートに、両性界面活性剤と糖アルコールとを併用し、かつ両性界面活性剤とメシル酸ガベキサートとの配合比が特定範囲となるように配合することにより、メシル酸ガベキサート特有の苦味を抑制し、メシル酸ガベキサートの保存安定性を改善し、かつ、歯周ポケット内でアルジンジパイン活性阻害効果を十分に発揮させることができることがわかった。
以上の結果から、本発明の製剤は、アルジンジパインが病原因子となる歯周病の予防又は治療に用いる口腔用組成物として有効であることがわかった。
【0067】
次に、上記と同様の配合成分を用いて、下記組成の口腔用組成物を調製し、同様に評価した。下記の口腔用組成物は、いずれもメシル酸ガベキサート特有の苦味を抑制し、メシル酸ガベキサートの保存安定性を改善し、かつ、歯周ポケット内でアルジンジパイン活性阻害効果を十分に発揮するものであった。
【0068】
〔実施例30〕軟膏剤
(A)メシル酸ガベキサート 0.1
(B)2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン 0.2
(C)ソルビトール 10.0
流動パラフィン 15.0
白色ワセリン バランス
合計 100.0%
(B)/(A) 2.0
【0069】
〔実施例31〕ゲル剤
(A)メシル酸ガベキサート 0.05
(B)ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン液 0.2
(C)マンニトール 20.0
パラオキシ安息香酸エチル 0.03
水 バランス
合計 100.0%
(B)/(A) 4.0
【0070】
〔実施例32〕口腔用パスタ
セタノール 5.0
スクワラン 20.0
沈降性シリカ 5.0
(A)メシル酸ガベキサート 0.5
(B)β−ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム 0.5
(C)キシリトール 5.0
(C)ソルビトール 10.0
ラウリル硫酸ナトリウム 0.2
サッカリンナトリウム 0.6
香料 0.6
水 バランス
合計 100.0%
(B)/(A) 1.0
【0071】
〔実施例33〕洗口剤
エタノール 10.0
(A)メシル酸ガベキサート 0.05
フッ化ナトリウム 0.1
(C)ソルビトール 5.0
(C)エリスリトール 5.0
(B)2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン 0.5
サッカリンナトリウム 0.2
香料 0.8
水 バランス
合計 100.0%
(B)/(A) 10.0
【0072】
〔実施例34〕歯磨剤
リン酸カルシウム 25.0
無水ケイ酸 5.0
ラウリル硫酸ナトリウム 0.8
(B)ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン液 1.0
カラゲナン 0.5
フッ化ナトリウム 0.2
(A)メシル酸ガベキサート 0.2
(C)エリスリトール 5.0
(C)ソルビトール 10.0
(C)キシリトール 5.0
香料 1.0
水 バランス
合計 100.0%
(B)/(A) 5.0
【0073】
〔実施例35〕ガム
ガムベース 20.0
香料 1.0
水飴 20.0
粉糖 10.0
クエン酸3ナトリウム 1.5
(A)メシル酸ガベキサート 0.1
(B)ヤシ油アルキルジメチルアミンオキシド 0.1
(アロモックスDMC−W、ライオン・アクゾ社製)
(C)マンニトール 15.0
(C)キシリトール 10.0
水 バランス
合計 100.0%
(B)/(A) 1.0

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)メシル酸ガベキサート、(B)両性界面活性剤、及び(C)糖アルコールを含有し、かつ(B)成分/(A)成分の質量比が0.05〜100であることを特徴とする口腔用組成物。
【請求項2】
(B)成分の両性界面活性剤が、酢酸ベタイン型両性界面活性剤、イミダゾリン型両性界面活性剤、アミノ酸型両性界面活性剤、及びアルキルジメチルアミンオキシドから選ばれる1種以上である請求項1記載の口腔用組成物。
【請求項3】
(B)成分の両性界面活性剤が、酢酸ベタイン型両性界面活性剤及び/又はイミダゾリン型両性界面活性剤である請求項2記載の口腔用組成物。
【請求項4】
(A)成分の配合量が0.005〜2質量%である請求項1乃至3のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【請求項5】
(B)成分の配合量が0.01〜3質量%である請求項1乃至4のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【請求項6】
(A)成分を0.01〜1質量%、(B)成分を0.05〜1質量%、(C)成分を10〜30質量%含有し、(B)成分/(A)成分の質量比が0.1〜40である請求項1乃至3のいずれか1項記載の口腔用組成物。

【公開番号】特開2011−201815(P2011−201815A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71399(P2010−71399)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】