説明

口蹄疫ウイルスと反応する抗体、当該抗体を用いて口蹄疫ウイルスを検出する方法、および当該抗体を含んでいるストリップ

【課題】他の血清型の口蹄疫ウイルスと交差反応性を示さない抗体を提供すること。
【解決手段】本発明の抗体は、特定の血清型(CまたはAsia1)の口蹄疫ウイルスとのみ結合し、当該特定の血清型の口蹄疫ウイルスとは反応しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の血清型の口蹄疫ウイルスのみと特異的に反応する抗体およびそれらの利用に関する。
【背景技術】
【0002】
口蹄疫ウイルス(foot and mouth disease virus:FMDV)は、家畜の伝染病の1つである。口蹄疫ウイルスは、鯨偶蹄目(例えばウシ、ブタ、シカ、ヒツジ、ヤギなど)に属する動物を主な宿主としており、日本ではその感染疾患が家畜伝染病予防法において法定伝染病に指定されている。口蹄疫ウイルスは、周囲環境において容易に不活性化しないため伝播性が高く、感染した家畜の生産性を著しく低下させ、感染した幼獣において高い致死率を示す。特に高い伝播性に起因して、口蹄疫ウイルスに感染した家畜は、感染が確認され次第、殺処分に処される。また、口蹄疫ウイルスに感染した家畜が発見された地域、国家には家畜の移動制限が加えられるため、口蹄疫ウイルスは、畜産業に非常な経済的打撃を与え得る病原体として、世界的に認識されている。
【0003】
口蹄疫ウイルスは、7つの血清型(O、A、C、Asia1、SAT1、SAT2およびSAT3)に分類される。これらのうち血清型SAT1、SAT2およびSAT3は、アフリカのみで存在が確認されている。よって、他の地域では、血清型O、A、CおよびAsia1しか存在が確認されていない。
【0004】
日本では口蹄疫ウイルスに感染した個体は、2000年までおよそ1世紀にわたって確認されていなかった。しかし、2000年および2010年に、口蹄疫ウイルスに感染した個体が確認された。このため、口蹄疫の流行に対する対処法を確立することの重要性が明らかに高まっている。上記対処法として最も重要なのは、感染の疑いのある家畜が、口蹄疫ウイルスに感染しているか否か、感染している場合にはその血清型が上記4つのうちのいずれであるかを決定することである。
【0005】
一般的な決定方法としては、RT−PCRによって口蹄疫ウイルスの遺伝子を検出する方法である。この方法では、遺伝子の増幅が認められれば、陽性(口蹄疫ウイルスに感染している)と決定されるが、血清型を決定するには他の方法によってさらに試験する必要がある。よって、迅速に血清型を決定するという点では、単独にRT−PCRを利用する方法は好ましくない。そこで、ELISAを利用する口蹄疫ウイルスの血清型を決定する方法が検討されている(例えば、本発明者らによる非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】JOUNAL OF CLINICAL Microbiology, NOV. 2009, p.3663-3668
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、現状では特定の血清型の口蹄疫ウイルスのいずれかと特異的に結合し、他の血清型の口蹄疫ウイルスと結合しない抗体は、2種(血清型OまたはAに特異的な抗体)しか見出されていない。よって、現状では、血清型OおよびA以外の血清型の口蹄疫ウイルスを検出できない。このため、1ステップにおいて、口蹄疫ウイルスに対する感染の有無および血清型を決定できない。
【0008】
つまり、血清型CまたはAsia1の口蹄疫ウイルスのみを特異的に認識する抗体が求められている。ただし、非特許文献1に記載されている血清型Asia1を特異的に認識する抗体を例にすると、当該抗体は他の血清型に対する交差反応性を示している。このように、交差反応性を示さずに、単一の血清型の口蹄疫ウイルスのみを認識する抗体を得ることは容易ではない。
【0009】
以上の課題を鑑みて、本発明の目的は、血清型CまたはAsia1の口蹄疫ウイルスのみを特異的に認識する抗体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の抗体は、口蹄疫ウイルスの血清型Cと特異的に結合し、口蹄疫ウイルスの血清型O、AおよびAsia1と特異的に結合しない。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の抗体は、口蹄疫ウイルスの血清型Asia1と特異的に結合し、口蹄疫ウイルスの血清型O、AおよびCと特異的に結合しない。
【0012】
上記抗体はいずれもモノクローナル抗体であることが好ましい。
【0013】
上記抗体はいずれもポリクローナル抗体であることが好ましい。
【0014】
上記抗体はハイブリドーマの抗口蹄疫ウイルス血清型Asia1 hybridoma 12C7(自己寄託株)によって産生される抗体であることが好ましい。
【0015】
上記抗体はハイブリドーマの抗口蹄疫ウイルス血清型C hybridoma 13F1(自己寄託株)によって産生される抗体であることが好ましい。
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の検出用ストリップは、上記抗体のいずれか一方が塗布されているメンブレンを備えている。
【0017】
上記ストリップには、上記抗体の両方、口蹄疫ウイルスの血清型Oと特異的に結合し、口蹄疫ウイルスの血清型A、CおよびAsia1と特異的に結合しない抗体、ならびに口蹄疫ウイルスの血清型Aと特異的に結合し、口蹄疫ウイルスの血清型O、CおよびAsia1と特異的に結合しない抗体が塗布されていることが好ましい。
【0018】
上記課題を解決するために、本発明の方法は、上記抗体のいずれかを用いて口蹄疫ウイルスを血清型について特異的に検出する。
【0019】
上記課題を解決するために、本発明の方法は、上記検出用ストリップを使用して口蹄疫ウイルスを血清型について特異的に検出する。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、血清型Cおよび血清型Asia1の口蹄疫ウイルスを、他の血清型のウイルスと区別して検出可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のモノクローナル抗体および従来のモノクローナル抗体の抗原特異性の違いを示す図である。
【図2】本発明に係るラテラルフローアッセイを模式的に説明する図である。
【図3】本発明に係るラテラルフローアッセイを用いて口蹄疫ウイルスを検出した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の詳細について以下に説明する。
【0023】
本発明の抗体は、口蹄疫ウイルスの血清型Cと特異的に結合し、口蹄疫ウイルスの血清型O、AおよびAsia1と特異的に結合しない抗体、または口蹄疫ウイルスの血清型Asia1と特異的に結合し、口蹄疫ウイルスの血清型O、AおよびCと特異的に結合しない抗体である。したがって、本発明に係るこれらの抗体を用いれば、他の血清型と交差反応することなく、血清型Asia1またはCの口蹄疫ウイルスを検出可能である。
【0024】
本発明の抗体はいずれも、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であり得る。しかし、より特異的な反応性および交差反応性を示すおそれの少なさという観点から、本発明の抗体はいずれもモノクローナル抗体であることが好ましい。
【0025】
本発明の抗体は、ハイブリドーマの抗口蹄疫ウイルス血清型Asia1 hybridoma 12C7(自己寄託株)によって産生されることが好ましい。また、本発明の抗体は、ハイブリドーマの抗口蹄疫ウイルス血清型C hybridoma 13F1(自己寄託株)によって産生されることが好ましい。
【0026】
ここで、これらのハイブリドーマはいずれも、BSL3以上の病原体が付着している可能性が否定できないものとして、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターが行う特許出願に係る微生物の寄託等に関する規定第4条第1項第一号の規定に該当するため、同センターより受託証を交付できない旨が通知されている(寄託受託証不交付通知書の通知年月日:平成23年8月15日)。そこで、出願人は、これらのハイブリドーマを自己寄託株として自ら保存している。
【0027】
また、口蹄疫ウイルスは、上述のように、家畜伝染病予防法において法定伝染病に指定されている疾患を直接的に引き起こす病原体である。さらに、これらのハイブリドーマおよびこれらから産生された抗体は、口蹄疫ウイルスが付着している可能性を完全に否定することができない。したがって、現時点では、農林水産省によって取扱いの許可を受けている独立行政法人農業・食品産業技術研究機構(出願人)の施設外に、これらのハイブリドーマおよび抗体を持ち出すことはできない。
【0028】
以上のように、本発明に係る抗体およびハイブリドーマは、公衆の安全および法的規制に基づいて、適切と判断される第三者のみにしか分譲されず、また上記施設外への持ち出すことはできない。
【0029】
本発明の抗体は、適切な基材(例えば、メンブレン)などに塗布されるか、または付着させられることによって、抗原である血清型Asia1またはCの口蹄疫ウイルスを検出するための方法などに使用され得る。当該方法は、抗原抗体反応を利用する種々の公知の方法(例えばイムノクロマトグラフィーなど)である。
【0030】
したがって、本発明の抗体は、メンブレン上に塗布されることによって使用され得る。つまり、本発明は、口蹄疫ウイルスを血清型特異的に検出するために、上記メンブレンを備えている検出用ストリップであり得る。このような検出用ストリップは、標識化合物(例えば金コロイド)と結合されている口蹄疫ウイルスを血清型特異的に検出するラテラルフローアッセイに使用される。その詳細については、後述の実施例を参照すればよい。
【0031】
本発明の抗体がメンブレン上に適用される場合、本発明の2種の抗体、ならびに血清型Oの口蹄疫ウイルスのみと特異的に結合する抗体、および血清型Aの口蹄疫ウイルスのみと特異的に結合する抗体のすべてが、上記メンブレン上に適用されていることが特に好ましい。1ステップのアッセイによって、アッセイの対象に含まれている病原体が、口蹄疫ウイルスであるか、4つの血清型のいずれであるかを同時に決定することができる。
【実施例】
【0032】
〔モノクローナル抗体(13F1および12C7)の作製〕
(ハイブリドーマの作製)
口蹄疫ウイルスのAsia1 Shamir株およびC/PHI/7/U株をIB−SR−2細胞に接種し、一晩にわたって回転培養した。回収した培養液を4000Gにおいて30分間にわたって遠心した後に、上清を回収した。上清を飽和硫化アンモニウム溶液と等量混和し、一晩にわたって4℃において撹拌することによってウイルスを析出させた。析出させたウイルスを、4000Gにおいて30分間にわたって遠心して沈殿させ、上清を捨ててから適量のPBSを用いて懸濁した。再び170000G(32000rpm)において2時間にわたって遠心し、上清を除去し、1mlのPBSを用いてウイルスを懸濁した。シュークロース密度勾配(15〜45%)にウイルスの懸濁液を乗せ、280000G(41000rpm)において1.5時間にわたって遠心を行い、所定の位置にあらわれた目的のバンドを回収することによって、146Sの完全粒子を精製した。
【0033】
8〜12週齢のメスのBALB/cマウスの腹腔内に、上述のように精製した口蹄疫ウイルスのAsia1 Shamir株およびC/PHI/7/84株の完全粒子をそれぞれ接種した。初回免疫ではフロイントコンプリートアジュバント(ヤトロン社製)および精製したウイルス液の等量混合物、追加免疫ではフロイントインコンプリートアジュバント(ヤトロン社製)および精製したウイルス液の等量混合物を、連結針を用いてミセル化させてエマルションを生成した。最終免疫後にマウスの脾臓細胞とマウスミエローマ細胞P3U1とをポリエチレングリコール4000(メルク社製)を用いて融合させ、HAT培地(0.1mMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジンを含んでいる20%FCSのRPMI−1640培地(ニッスイ))を用いて96ウェルプレートにおいて培養した。2週間後からはHT選択培地(0.1mMのヒポキサンチン16μMのチミジンを含んでいる20%FCSのRPMI−1640倍地(ニッスイ))を用いて培養した。
【0034】
上述のように培養することによって、ハイブリドーマにコロニーを形成させ、ELISAおよび口蹄疫ウイルス感染細胞を用いた免疫染色によって目的のモノクローナル抗体を産生しているハイブリドーマをスクリーニングした。スクリーニングの詳細は以下の通りである。
【0035】
ELISAにおいて、ウサギ抗口蹄疫ウイルス抗体を、固相に吸着させ、血清型の口蹄疫ウイルスの完全粒子(C/PHI/7/84株またはAsia1 Shamir株のいずれか)と反応させた。次いで、ウイルスを取り除いてからハイブリドーマの培養上清を加えて反応させた。そして、培養上清を取り除いてからHRP標識したマウス抗IgG抗体を加えて反応させた。標識抗体を捨ててから発色基質と反応させて、吸光度を測定した。
【0036】
口蹄疫ウイルス感染細胞を用いた免疫染色において、複数のウェルを有しているプレートにIB−SR−2細胞を播種した後に口蹄疫ウイルスを血清型に分けて接種した。感染後の適当な時間(感染細胞がはがれない程度)に培養液を捨て、冷却したアセトンを用いて感染細胞を固定した。スクリーニングの各タイムポイントにおいて使用するまで、各プレートを−80℃に保存しておいた。つまり、スクリーニング対象のハイブリドーマの1つに対して4種類の血清型に必要な分だけ感染細胞を準備した。保存しておいたプレートにスクリーニングするハイブリドーマの培養上清を加えてインキュベートした。上清を捨ててからHRP標識した抗マウスIgG抗体を加えて反応させた。標識抗体を捨ててから発色基質と反応させ、顕微鏡下において抗体の有無を判定した。
【0037】
培養上清に抗体が存在しているハイブリドーマをELISAによって特定し、さらにELISAによるスクリーニングの結果が非特異的な反応ではないことを確認するために、口蹄疫ウイルス感染細胞を用いた免疫染色によって再度スクリーニングした。
【0038】
スクリーニングによって選択したハイブリドーマを、標準的な方法にしたがってクローニングすることによって、目的のモノクローナル抗体を安定して産生している2種類のハイブリドーマを確立した。ハイブリドーマのそれぞれを抗口蹄疫ウイルス血清型Asia1 hybridoma 12C7(自己寄託株)、および抗口蹄疫ウイルス血清型C hybridoma 13F1(自己寄託株)と名づけた。また、これらのハイブリドーマによって産生されているモノクローナル抗体のそれぞれを、12C7(血清型Asia1の口蹄疫ウイルスを特異的に認識するモノクローナル抗体)および13F1(血清型Cの口蹄疫ウイルスを特異的に認識するモノクローナル抗体)と名づけた。
【0039】
(12C7および13F1の性質決定)
(1)ELISA法、(2)ウイルス中和試験および(3)口蹄疫感染細胞の免疫染色によって、得られたモノクローナル抗体の抗原特性および中和活性について調べた。(1)〜(3)は、以下の材料および手順を用いて行った。
【0040】
(1)ELISA法
スクリーニングにおけるELISAと同様の手順で行った。比較対象のモノクローナル抗体として、血清型Oおよび血清型Asia1の口蹄疫ウイルスと交差反応性を示す抗体(7C2)を使用した。以下の(2)および(3)についても同様に、7C2を比較対象として使用した。7C2については、JOUNAL OF CLINICAL Microbiology, NOV. 2009, p.3663-3668を参照すればよい。
【0041】
(2)ウイルス中和試験
感染用の細胞としてIB−SR−2細胞を使用した。定法にしたがって、ハイブリドーマの培養上清もしくは増殖用の培地のみ、およびウイルス液の混合液をインキュベートした後に、細胞に接種した。感染後5日目に染色して、培養上清とのウイルス液の混合およびインキュベーションによって、ウイルスの増殖を抑制したか否かを評価した。
【0042】
(3)口蹄疫感染細胞の免疫染色
スクリーニングにおける免疫染色と同様の手順で行った。
【0043】
(1)〜(3)の結果を図1に示す。図1に示すように、上述のようにして得られたモノクローナル抗体は、いずれも口蹄疫ウイルスの血清型Cまたは血清型Asia1のみを特異的に認識する。また、12C7は口蹄疫ウイルスの血清型Asia1に対して中和活性を示した。
【0044】
〔ラテラルフローアッセイ〕
(使用する抗体)
本アッセイには、以下の6種の抗体を使用する。以降の記載において、抗体の種類は下記の番号と対応している。
1.血清型Oの口蹄疫ウイルスを特異的に認識するモノクローナル抗体(70C4)
2.血清型Aの口蹄疫ウイルスを特異的に認識するモノクローナル抗体(16C6)
3.血清型Cの口蹄疫ウイルスを特異的に認識するモノクローナル抗体(13F1)
4.血清型Asia1の口蹄疫ウイルスを特異的に認識するモノクローナル抗体(12C7)
5.すべての血清型の口蹄疫ウイルスを特異的に認識するモノクローナル抗体(1H5)
6.抗マウスIgGのモノクローナル抗体(anti−mouse IgG)
抗体1、2および5については、JOUNAL OF CLINICAL Microbiology, NOV. 2009, p.3663-3668を参照すればよい。
【0045】
(モノクローナル抗体の精製)
使用するモノクローナル抗体をプロテインGアフィニティーカラム(MAb Trap Kit; GH Healthcare 17-1128-01)にかけて、アッセイに使用するためのIgG画分のみを精製した。
【0046】
(抗体懸濁液における緩衝液の置換)
抗体の精製によって得られたIgG画分を含んでいる抗体懸濁液における緩衝液を、Amicon ultra Centrifugal filter units(Millipore社、商品コード:UFC805024)を用いて置換した。5mMのリン酸バッファー(PB)(pH7.5)に置換したものを、抗体1〜6のそれぞれについて準備し、5mMのPB(pH8.0)に置換したものを抗体5について準備した。
【0047】
(抗体が塗布されているメンブレンの作製)
3%のエタノールを含んでいる5mMのPB(pH7.5)を用いて、抗体1〜6のそれぞれの濃度を約1500μg/mlに調整した。濃度を調整した抗体1〜6を、約1mm幅の線状として5mmの間隔をあけて、イムノライナー200(システムバイオティクス社)を用いてニトロセルロースメンブレン(Millipore社、HF180XSS)上に塗布した。図2に示すように、上流から順に(図2における下から上に向かって)抗体1〜6が並ぶように塗布した。また、換算抗体濃度は0.8μl/cmであった。
【0048】
(検出用ストリップの組み立て)
上記のメンブレンを50℃において30分間にわたって乾燥させた後、ブロッキングバッファー(0.5%のカゼインを含んでいる50mMのホウ酸バッファー(pH8.5))に室温において30分間にわたって浸した。それから、洗浄バッファー(0.5%のスクロースを含んでいる50mMのTris−HCl(pH7.4)に室温で室温において30分間にわたって浸した後、室温において風乾させた。
【0049】
バッキングシート(ARcare 7815 : Adhesives Research社)を用いて、乾燥させたメンブレンの上流側にサンプルパッド(スタンダード14(グラスファイバー)、Whatman社)を貼り付け、下流側に吸収パッド(CF6(グラスファイバーとコットンとの混合物)、Whatman社)を貼り付けた。このようにして、図2のような構成の検出用ストリップを組み立てた。40%以下の湿度の条件下において、シリカゲルが収められている密封容器内に検出用ストリップを保存した。
【0050】
(金コロイドによるモノクローナル抗体の標識化)
5mMのPB(pH8.0)を用いて抗体5の濃度を20μg/100μlに調整した。金コロイド(直径40〜50nm)(ワインレッドケミカル社、WRGH2(OD525=12))を十分にソニケーションした後、1mMのKCOを用いてpH8.0に調整した。次にシリコンコーティングチューブ内において、1:8の割合において抗体液および金コロイド液を混合した。1%のウシ血清アルブミン(BSA)および0.05%のPEGを加えて混和した後、10000rpm、室温において30分間にわたって遠心した。遠心上清を除去し、ソニケーションした後、PBSに0.5%のBSAおよび0.05%PEGを加えた溶液(溶液A)を用いて懸濁した。再び10000rpm、室温において30分間にわたって遠心した後、遠心上清を除去し、ソニケーションによって懸濁させ、溶液Aを用いてOD525=2.0に調整した。20%のスクロースを含んでいる15mMのTris−HCl(pH8.2)の等量を加えた後、金コロイド標識した抗体を含んでいる懸濁液を100μlずつ2mlのチューブに分注した。各チューブの口をパラフィルムによって覆ってからパラフィルムに数カ所の穴を空け、−80℃において1時間にわたって凍結させた。真空乾燥機を用いて一晩にわたって真空乾燥させた後、パラフィルムを剥がし、チューブのキャップを閉めて4℃において保存した。
【0051】
(ラテラルフローアッセイの評価)
口蹄疫ウイルスの血清型O(O/JPN/2000株)、血清型A(A15/TAI/1/60株)、血清型C(C/PHI/7/84株)、血清型Asia1(Asia1 Shamir株)の量をそれぞれ10TCID50に調整した。100μlの5mMPB(pH7.5)を用いて、凍結乾燥させた金コロイド標識抗体を溶解させた後、ウイルス希釈液を各チューブに100μlずつ加えた。
【0052】
図2に示すように、各チューブのウイルス−金コロイド標識抗体の溶液を、4つの検出用ストリップのサンプルパッドに滴下して、当該溶液が吸収パッドに浸透するまで待った。すべての検出用ストリップにおいて、メンブレン上の抗体1〜6を塗布した位置に、滴下したウイルスの血清型にあわせて赤色のラインが現れた。その結果を図3に示す。
【0053】
図3に示されているように、血清型Oの口蹄疫ウイルスを滴下した検出用ストリップにおいて、抗体1、5および6を塗布した位置に赤いラインが現れた。また、血清型Aの口蹄疫ウイルスを滴下した検出用ストリップにおいて、抗体2、5および6を塗布した位置に赤いラインが現れた。血清型Cの口蹄疫ウイルスを滴下した検出用ストリップにおいて、抗体3、5および6を塗布した位置に赤いラインが現れた。血清型Asia1の口蹄疫ウイルスを滴下した検出用ストリップにおいて、抗体4、5および6を塗布した位置に赤いラインが現れた。以上のように、本発明に係る検出用ストリップを用いれば、検出対象である口蹄疫ウイルスの血清型を迅速かつ正確に決定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、家畜に感染する口蹄疫ウイルスを血清型に分けて検出可能な技術に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
口蹄疫ウイルスの血清型Cと特異的に結合し、口蹄疫ウイルスの血清型O、AおよびAsia1と特異的に結合しない、抗体。
【請求項2】
口蹄疫ウイルスの血清型Asia1と特異的に結合し、口蹄疫ウイルスの血清型O、AおよびCと特異的に結合しない、抗体。
【請求項3】
モノクローナル抗体である、請求項1または2に記載の抗体。
【請求項4】
ポリクローナル抗体である、請求項1または2に記載の抗体。
【請求項5】
ハイブリドーマの抗口蹄疫ウイルス血清型C hybridoma 13F1(自己寄託株)によって産生される、請求項1に記載の抗体。
【請求項6】
ハイブリドーマの抗口蹄疫ウイルス血清型Asia1 hybridoma 12C7(自己寄託株)によって産生される、請求項2に記載の抗体。
【請求項7】
請求項1に記載の抗体または請求項2に記載の抗体が塗布されているメンブレンを備えている、検出用ストリップ。
【請求項8】
請求項1に記載の抗体、請求項2に記載の抗体、口蹄疫ウイルスの血清型Oと特異的に結合し、口蹄疫ウイルスの血清型A、CおよびAsia1と特異的に結合しない抗体、ならびに口蹄疫ウイルスの血清型Aと特異的に結合し、口蹄疫ウイルスの血清型O、CおよびAsia1と特異的に結合しない抗体が塗布されている、請求項7に記載の検出用ストリップ。
【請求項9】
請求項1に記載の抗体または請求項2に記載の抗体を用いて口蹄疫ウイルスを血清型について特異的に検出する、方法。
【請求項10】
請求項7または8に記載の検出用ストリップを使用して口蹄疫ウイルスを血清型について特異的に検出する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−49645(P2013−49645A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187821(P2011−187821)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】