説明

古代米濃縮糖液ならびにその製法

【課題】抗酸化作用が期待される色素アントシアンあるいはタンニンなどのポリフェノールを含み、色調も良好で成分上非常に健康的で見た目の色合いにも優れている濃縮糖液を提供する。
【解決手段】古代米を原料として、麹、麦芽、発芽米、酵素、あるいは無機酸、有機酸により糖化、濃縮して製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、古代米を原料として、その澱粉質を糖化させて製造した古代米濃縮糖液、ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、濃縮糖液、いわゆる水飴を製造する原料としては、トウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモ、タピオカ、シワエンドウ、小麦、葛粉、サゴ、ないしは米等の澱粉が使用されている。水飴はこれらの原料の澱粉質を糖化酵素などで分解・糖化してつくった粘稠な甘味物質であり、キャラメル、ドロップ、ゼリー等の各種キャンデーをはじめ、あん、羊羹等の和菓子、ジャム、シロップ、つくだ煮等の各種の食品に広く利用されている。
【0003】
最近では健康志向が高まる中、腸内のビフィズス菌を増殖させたり、甘味やカロリーを低下させたり、虫歯予防などの見地から、マルトオリゴ糖、分枝オリゴ糖、糖アルコールなどが着目され、これらの糖を有意に含有する水飴を得るために、糖化時に添加する酵素の種類、組み合わせについて種々の検討がなされている。しかしながら、これらは専ら水飴中の「糖」成分の改良のみを企図したものである。
【0004】
一方、アントシアンやタンニンなどのポリフェノールを含有する糖液も見受けられるが、これらは従来から常套的に使用されている原料澱粉の糖化物に、ヘキサン、エタノール、クエン酸などで別途抽出したポリフェノールを添加して製造したものであり、ポリフェノールを含む原料澱粉を直接糖化し得られた濃縮糖液ではない。また商品イメージも好ましくない。
【特許文献1】特開平7−250647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、これまで報告のない新規な原料澱粉を使用して、色素アントシアンあるいはタンニンなどのポリフェノールを含み、色調に優れ、健康によい水飴を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、古来に日本で栽培されていたとされる「古代米」に着目し、これを原料として糖化させて製造した古代米濃縮糖液は、抗酸化作用が期待される色素アントシアンあるいはタンニンなどのポリフェノールを含ませることができ、また色調も良好で、成分上非常に健康的で見た目の色合いにも優れていることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、古代米の澱粉質を糖化させて製造した古代米水飴、ならびにその製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、抗酸化作用など種々の機能性が期待される色素アントシアンあるいはタンニンなどのポリフェノールを含み、見た目の色調も良好で、且つ成分上非常に健康的で栄養バランスにも優れている古代米濃縮糖液ならびにその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の古代米水飴の製造方法の好ましい態様を以下に述べるが、この記載は本発明を何ら制限するものではない。
【0010】
ここで言う古代米とはアントシアンあるいはタンニンなどのポリフェノール系色素を含有する有色米を指し、赤米、黒米、紫黒米、緑米、黒褐色米、赤褐色米、紫紅色米、紫米、緑香米などの粳種あるいは糯種などが挙げられる。このような古代米を単独又は二種以上混合して原料として用いても良く、さらには古代米と白米、あるいはその他の澱粉質との混合使用も何ら妨げない。なお該当原料の形態としては、丸米状(玄米、精白米、発芽米)、糠状、破砕状、又はこれらの組み合わせの何れであってもよく、更には色成分が分解しない限り、焙煎や揚げる等の原料処理を施したものを用いても良い。また古代米を精米した際の副産物である外殻及び/又は糠を適宜用いてもよい。
【0011】
一般に水飴の原料澱粉質は、糖化に先立ちα化されることが望ましい。これには蒸す、炊飯する、煮る、あるいは液化処理、さらには塩酸などの無機酸、シュウ酸などの有機酸等を併用して加熱するなどの方法があるが、澱粉質が糊化状あるいは液化状等のα化状態になれば何れの方法でも良く、また糖化において、生澱粉分解酵素あるいは無機酸、有機酸などのように、β状態にある澱粉質をも糖化出来るのであればこのα化処理は省略することも可能である。このα化処理に際しては、原料の精米処理、あるいは粉砕処理など併用することも何ら妨げない。
【0012】
原料となる古代米を上述の通りα化し、あるいは生澱粉状態のまま1〜3倍量の水を加えて混合し、酵素、無機酸、有機酸など用いる糖化剤の最適温度、例えば麹で糖化の際は品温を望ましくは55〜60Cに調製し適宜加温を続け糖化反応を行う。
【0013】
ここで用いる糖化剤としては、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸、あるいは酢酸、シュウ酸、クエン酸、乳酸などの有機酸などの他に、いわゆる生澱粉分解酵素、麹、麦芽、もやし、発芽玄米など伝統的糖化剤、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α−グルコシダーゼ、トランスグルコシダーゼ等の酵素製剤が使用される。一般的な米澱粉の糖化においては麦芽由来の糖化剤が好適に使用されるが、糖組成の点においては、とりわけビフィズス菌増加因子であるオリゴ糖、特にイソマルトース、パノースに代表される分枝オリゴ糖を追加生成するにはトランスグルコシダーゼを併用すればよい。具体的にはβ−アミラーゼとしてビオザイムL(アマノ)〔天野エンザイム(株)製〕、トランスグルコシダーゼとしてトランスグルコシダーゼL(アマノ)〔天野エンザイム(株)製〕の併用が例示される。
【0014】
糖化終了後、遠心分離、濾過など行い不溶性画分を除き、古代米糖化液を得る。この不溶性画分は、従来のトウモロコシ澱粉あるいは米澱粉などを使用した場合の該画分が専ら家畜の飼料用に用いられていたにすぎないのに対し、非常に消化に優れており、栄養価値の高い蛋白質、各種アミノ酸、ビタミン及びミネラル、ポリフェノール、繊維質などを多く含むので餡、パン、ケーキ等の生地に添加して食品増量剤として用いることもできる。
なお目的に応じては不溶性画分を除く必要はない。
【0015】
得られた糖化液をロータリーエバポレーター、フィルムエバポレーター、フラッシュエバポレーター、二重効用缶、その他の濃縮機で所定の糖度まで、望ましくはBx75程度まで濃縮し古代米濃縮糖液を得る。この際、スプレードライ、凍結乾燥機などを用いることも何ら妨げない。
また目的に応じては濃縮を省略することも可能である。
【0016】
この糖化終了後から濃縮までの工程に前後して、酵素の失活、殺菌などの処理を行うことも望ましい。
【0017】
上記で得られた本発明よる古代米濃縮糖液は、非常に粘稠で伸びがよく、従来の酵素糖化水飴〔通称:ハイマル(高マルトース)水飴〕と比較して砂糖のような強い甘味ではなく、あっさりとした甘味と芳香性のある香りを有し、ミルク系、フルーツ系、ナッツ系、コーヒー系、紅茶系等のような濃縮物(コンデンス、エキス等)との併用によって一層旨味を助長する効果を持つ。
【0018】
得られた古代米濃縮糖液には、グルコース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオースに代表される各種オリゴ糖、特に糖化をβ−アミラーゼとトランスグルコシダーゼにより行うとイソマルトース、パノース、イソマルトトリオースに代表される各種分枝オリゴ糖が含まれるほか、抗酸化作用が期待される色素アントシアンあるいはタンニンなどのポリフェノールなども含まれており、色調も良好で、成分上非常に健康的で見た目の色合いにも優れている。
【0019】
本発明による水飴は、例えばドロップ、キャラメル、ヌガー、タッフィー、マシュマロ、ブリットル、ゼリー等のキャンデーをはじめ、チューインガム、チョコレート、ビスケット、クッキー、羊羹、餡等の菓子類、アイスクリーム、シャーベット等の冷菓、かまぼこ、ちくわなどの魚肉製品、ソーセージ、ハム等の畜肉製品、ジャム、マーマーレード、果汁ソース、果実のシロップ漬け、氷蜜等のシロップ類、フラワーペースト、フルーツペースト等のペースト類、福神漬け、千枚漬け、らっきょう漬けなどの漬物類、佃煮等の各種食品に好適に使用される。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を何等限定するものではない。
【0021】
〔実施例1〕古代米濃縮糖液の製造(1)
秋田県農林水産技術センター農業試験場より提供された紫黒米「小紫」300gを精米し白米238.8gおよび糠60.6gを得た。
【0022】
この白米を一夜(約16時間)水道水に浸漬したのち、蒸籠で50分蒸すことで、蒸し米330gとなった。
【0023】
一方、糠60.6gに水道水600g加え、平山製作所製オートクレーブ(商品名ハイクレーブ300MII)を用いて105Cで5分間加熱処理した。
【0024】
この加熱処理された糠懸濁液に蒸し米330gを加え、充分に放冷し、品温が約60Cないし55Cになった時点で、秋田県農林水産技術センター総合食品研究所醸造試験場にて製造の一般酒用米麹60gを加え、55Cで約16時間加温し糖化した。
【0025】
糖化反応後、反応液を105Cで5分間オートクレーブ処理し、麹由来の酵素を失活させた。
【0026】
ブフナーロートに晒しを二枚重ねて敷き、吸引濾過器で上記糖化反応液を濾過して不溶性画分を除き、赤ワイン様の赤色糖化液(Bx27)を約730ml回収した。
【0027】
これをロータリーエバポレーターでBx75まで濃縮し、古代米濃縮糖液236.5gを得た。(図1)
【0028】
〔実施例2〕古代米濃縮糖液の製造(2)
秋田県産紫黒米「朝紫」を平均粒径150ミクロン程度に粉砕し、この60kgに水道水106kg及び醸造用液化酵素コクゲンSD−A〔大和化成(株)製〕30g加え、撹拌しながら40Cで1時間、ついで70Cで1時間加温し、液化法にて古代米の澱粉質をα化せしめた。この後、品温を90Cとしたまま15分間保つことで醸造用液化酵素を失活させた。
【0029】
この液化液を52Cまで冷却し、醸造用四段酵素TG−B〔天野エンザイム(株)製〕60gを加え、52Cで約16時間加温し、糖化反応を行った。
【0030】
糖化反応後反応液を90Cで15分間加温し糖化酵素を失活させた。これにより糖化反応液161.0kg得た。
【0031】
この糖化反応液をフィルタープレスで圧搾処理し不溶性画分を除いた。得られた圧搾濾過液は110.0kg、Bx33.0で赤ワイン様の赤色糖化液であった。他方、圧搾粕の重量は45.6kgであり、圧搾濾過による損失は5.45kgであった。
【0032】
圧搾濾過液110.0kgをBx65にまで濃縮し、古代米濃縮糖液48.8kgを回収した。この濃縮による損失はBx65の糖液として7.0kgであった。(図2)
【0033】
図3は得られた濃縮糖液の可視部スペクトルを示すグラフである。(小林らの方法、非特許文献1)520nm付近に最大吸収波長を示し、アントシアン系色素が効率よく濃縮糖液として回収さていることがわかる。
【非特許文献1】北陸作物学会報30;55〜57(1995)
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、我々日本人が長い食経験を持つ米を原料とし、種々機能性が期待されるポリフェノールを含んだ、色調もよく健康的で栄養バランスに優れた古代米濃縮糖液ならびにその製造方法が提供される。この古代米濃縮糖液は食品原材料として現在広く使用されているハチミツ、メイプルシロップ、異性化糖などと代替が可能であり、産業上大きく貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1により得られた古代米濃縮糖液の糖組成を高速液体クロマトグラフィー分析したチャート図。
【図2】実施例2により得られた古代米濃縮糖液の糖組成を高速液体クロマトグラフィー分析したチャート図。
【図3】実施例2の濃縮糖液に含まれる赤色色素の可視部スペクトル。縦軸は吸光度、横軸は波長を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
古代米を原料として製造した濃縮糖液。
【請求項2】
糖化が麹、麦芽、発芽米、酵素、あるいは無機酸、有機酸より行われる請求項1記載の濃縮糖液。
【請求項3】
請求項1あるいは請求項2に記載する濃縮糖液の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−124716(P2010−124716A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300561(P2008−300561)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591108178)秋田県 (126)
【Fターム(参考)】