説明

可剥離性床用被覆組成物

【課題】形成された被覆膜の剥離作業性の低下を防止することができる可剥離性床用被覆組成物を提供する。
【解決手段】引裂力が0.3N以上であり、破断強度が10MPa以上であり、破断伸びが50%以上であるウレタン樹脂を主成分とする被覆膜を形成する原料を水に分散させた可剥離性床用被覆組成物とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可剥離性床用被覆組成物に関し、具体的には、床の美観を長期にわたって維持できる耐久性を有すると同時に、剥離剤を使用しなくても床から容易に剥離できる被覆膜を形成する水性の可剥離性床用被覆組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
床の美観を維持する場合、一般的に、床に艶出し剤を塗布して床を保護するようにしている。以前は、日本工業規格「JIS K3920」で規定されている油性フロアポリッシュ、乳化性フロアポリッシュ、ワックスタイプの水性フロアポリッシュ等のようなロウ主体の艶出し剤が主流となっていたが、このようなロウ主体の艶出し剤は、塗布後に磨き作業が必要であることや、光沢の持続性や汚れの付着具合等の耐久性面で劣ることなどから難点があった。
【0003】
このため、例えば、下記特許文献1,2及び非特許文献1等では、金属架橋型のアクリル系共重合物のエマルジョン、ポリエチレンワックスエマルジョン、アルカリ可溶性樹脂、可塑剤からなるポリマータイプの水性フロアポリッシュ(以下「樹脂ワックス」という。)等を提案している。
【0004】
このような樹脂ワックスにおいては、塗布後の磨き作業が不要であると共に、ロウ主体の上記艶出し剤に比べて、光沢の持続性や汚れの付着具合等の耐久性面を向上させることができるものの、やはり、時間の経過に伴って、光沢が低下すると共に、汚れやブラックヒールマーク(靴底が削れて付着した黒い跡)が目立ってくるようになってしまう。
【0005】
そのため、上記樹脂ワックスにおいては、その劣化具合が激しい場合には、グリコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、キレート剤、アミン、無機アルカリ、湿潤剤等からなる剥離剤を用いて、溶剤成分で膨潤させると共に、アルカリ成分でアクリル樹脂の金属架橋部分を切断して細切れにして、ポリッシャ等を用いて床面からすべて除去した後に新規に塗布することにより修復しなければならなかった。
【0006】
このような修復作業は、非常に時間を要し、特に、被覆膜が厚く堆積していると、一度で完全に除去することが難しく、複数回繰り返さなければならなかった。また、剥離剤の使用済みの廃液は、BOD、COD、n−ヘキサン抽出物質、全窒素等の値が大きいことから、そのまま廃棄することができず、環境に対する負荷を軽減するように後処理する必要があるため、非常に煩雑な作業を要してしまうと共に、コスト面で負担を生じてしまう。
【0007】
そこで、近年、細かい傷がついたり汚れたりすることをさらに抑制して耐久性をさらに向上させた下記特許文献3等に記載されているようなシリコーン系無機コーティング剤や、下記特許文献4等に記載されているような紫外線硬化型コーティング剤等が提案されているが、このようなコーティング剤においては、経時で深い傷が入り込んでしまい修復が困難になってしまうことや、剥離作業を簡単に行うことができない等の問題があり、広く普及するに至っていない。
【0008】
よって、例えば、下記特許文献5等では、フィルム状の膜を床面に形成することができるようにした可剥離性床コーティング系組成物を提案している。このような可剥離性床コーティング系組成物においては、一枚のフィルムとして床面から引き剥がすことができるので、剥離剤を使用しなくても容易に除去することができ、除去作業効率を向上させることができる。
【0009】
しかしながら、下記特許文献5等に記載されている可剥離性床コーティング系組成物は、床面に対する剥離性能を発現する剥離層を形成する液を塗布した後に、汚れ等を防止する防汚層を形成する液を塗布するという二液塗布型であるため、作業に非常に手間がかかってしまうという問題がある。
【0010】
そこで、本発明者らは、下記特許文献6において、破断強度が10MPa以上であると共に破断伸びが50〜300%となるウレタン樹脂を主成分とする被覆膜を形成する原料を水に分散させた可剥離性床用被覆組成物を提案し、十分な可剥離性および耐汚れ性を発現する被覆膜を一液塗布型で形成できるようにした。
【0011】
【特許文献1】特公昭44−024407号公報
【特許文献2】特公昭49−001458号公報
【特許文献3】特開2001−149854号公報
【特許文献4】特開2002−336759号公報
【特許文献5】特開平11−199802号公報
【特許文献6】特開2004−231823号公報
【非特許文献1】Cosmetic Chemical Specialties,61(9),86(1985)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、上記特許文献6に記載されている可剥離性床用被覆組成物においては、床面に施工された被覆膜の端部をカッタ等でめくり上げて引き剥がしていき、床面の傷やタイル目地部分で引っ掛かり等を生じて裂けを生じてしまうと、場合によっては、当該被覆膜に生じた裂けが剥離方向へ広がっていってしまい、一枚の連続したフィルムとして引き剥がしにくくなるケースがあった。
【0013】
このような現象を生じてしまうと、床面に残ってしまっている被覆膜の端部をカッタ等で再度めくり上げて改めて引き剥がしていかなければならず、剥離作業性を低下させてしまうようになってしまう。
【0014】
このようなことから、本発明は、形成された被覆膜の剥離作業性の低下を防止することができる可剥離性床用被覆組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ある大きさの引裂力を有する被覆膜であると、床面の傷やタイル目地部分で引っ掛かり等を生じて裂けが発生したとしても、裂けを広げてしまうことなく一枚のフィルムとしてそのまま引き剥がすことを可能とし、剥離作業性の低下を防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
この本発明に係る可剥離性床用被覆組成物は、引裂力が0.3N以上であり、破断強度が10MPa以上であり、破断伸びが50%以上であるウレタン樹脂を主成分とする被覆膜を形成する原料を水に分散させたものであることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る可剥離性床用被覆組成物は、上述した可剥離性床用被覆組成物において、アクリル樹脂を含有していることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る可剥離性床用被覆組成物は、上述した可剥離性床用被覆組成物において、前記アクリル樹脂が、全固形分に対する重量割合で1〜20%含有されていることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る可剥離性床用被覆組成物は、上述した可剥離性床用被覆組成物において、アクリル−ウレタン共重合樹脂を含有していることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る可剥離性床用被覆組成物は、上述した可剥離性床用被覆組成物において、前記アクリル−ウレタン共重合樹脂が、全固形分に対する重量割合で1〜40%含有されていることを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る可剥離性床用被覆組成物は、上述した可剥離性床用被覆組成物において、剥離向上剤を含有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る可剥離性床用被覆組成物によれば、床面に施工された被覆膜の端部をカッタ等でめくり上げて引き剥がして、床面の傷やタイル目地部分で引っ掛かり等を生じて裂けを生じてしまったとしても、当該被覆膜に生じた裂けが剥離方向へ広がってしまうことを抑制することができ、一枚の連続したフィルムとしてそのまま引き剥がすことができるので、剥離作業性の低下を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に係る可剥離性床用被覆組成物の実施の形態を以下に説明するが、本発明は、以下に説明する実施の形態のみに限定されるものではない。
【0024】
本発明においては、以下の特性を発現できる可剥離性床用被覆組成物を提供できることが重要である。
(1)ローラーやモップ、刷毛、コテ刷毛等により塗布することができると共に、厚塗りをすることができる。
(2)被覆膜形成後、更に上に塗布して膜厚を増やすことができる。
(3)吸い込み量の多い床材に対して使用するシーラ(アクリル樹脂ベース等)に対しても塗布することができる。
(4)床材に対して人の歩行により容易に剥がれることのない適度な密着性を有する被覆膜を形成する。
(5)耐久性に優れ、長期間の人の歩行による塗膜の摩滅が少ない被覆膜を形成する。
(6)適度な耐水性を有する被覆膜を形成する。
(7)時間の経過と共に傷や汚れが目立ってきても、密着性が高くなることなく、また、傷やタイル目地の影響があっても、連続した一枚のフィルムとして人手により剥離できる被覆膜を形成する。
【0025】
このような特性を発現できるようにした本発明に係る可剥離性床用被覆組成物は、引裂力が0.3N以上であり、破断強度が10MPa以上であり、破断伸びが50%以上であるウレタン樹脂を主成分とする被覆膜を形成する原料を水に分散させたものである。
【0026】
上記可剥離性床用被覆組成物は、主成分となる上記ウレタン樹脂等の原料が水中に分散されたものであり、水の蒸発によって、当該ウレタン樹脂同士が接近し、ウレタン樹脂が連続層をなして被覆膜を形成するようになっている。
【0027】
このような被覆膜を形成するウレタン樹脂としては、例えば、脂肪族ポリエーテル系、脂肪族ポリエステル系、脂肪族ポリカーボネート系、脂環族ポリエーテル系、脂環族ポリエステル系、脂環族ポリカーボネート系、芳香族ポリエーテル系、芳香族ポリエステル系、芳香族ポリカーボネート系などを単独又は任意の割合で複数混合されたものが挙げられる。
【0028】
上記ウレタン樹脂を主成分とした上記被覆膜は、その引裂力が0.3N以上、その破断強度が10MPa以上、その破断伸びが50%以上である必要があり、特に、引裂力が1N以上、破断強度が15MPa以上、破断伸びが100%以上であると好ましい。
【0029】
なぜなら、引裂力が0.3N未満であると、床面に施工された被覆膜の端部をカッタ等でめくり上げて引き剥がしていき、床面の傷やタイル目地部分で引っ掛かり等を生じて裂けを生じてしまうと、当該被覆膜に生じた裂けが剥離方向へ広がって、一枚の連続したフィルムとして引き剥がしにくくなってしまい、破断強度が10MPa未満であると、剥離時に破断しやすくなり、一枚の連続したフィルムとして引き剥がしにくくなってしまい、破断伸びが50%未満であると、硬脆くて破断しやすくなり、一枚の連続したフィルムとして引き剥がしにくくなってしまうからである。なお、被覆膜は、軟らかいと、人の歩行等による汚れの抱き込みが多くなってしまうことから、破断伸びが300%以下であると好ましい。
【0030】
また、本発明に係る可剥離性床用被覆組成物は、さらに、アクリル樹脂又はアクリル−ウレタン共重合樹脂のエマルジョンを含有すると、被覆膜の耐汚れ性をさらに向上させることができるので好ましい。
【0031】
上記アクリル樹脂のエマルジョンとしては、例えば、ローム・アンド・ハース・ジャパン株式会社製「DURAPLUS 2(商品名)」、「DURAPLUS 3(商品名)」、「PRIMALT 2409(商品名)」、「PRIMAL B924(商品名)」、「RHOPLEX 2133(商品名)」等や、JSR株式会社製「AE116(商品名)」や、株式会社日本触媒製「アクリセットFB252E(商品名)」、「アクリセットFB334E(商品名)」等のようなフロアポリッシュ等に用いられるもの等を挙げることができる。
【0032】
上記アクリルーウレタン共重合樹脂のエマルジョンとしては、例えば、Alberdingk Boley,Inc.製「UC90(商品名)」や、株式会社ADEKA製「アデカボンタイターHUX−401(商品名)」や、DSM社製「NeoPac E125(商品名)」等を挙げることができる。
【0033】
ここで、上記アクリル樹脂は、全固形分に対する重量割合、すなわち、当該被覆組成物の固形分100%重量部に対して、約1〜20%重量部含有されていると好ましい。また、アクリル−ウレタン共重合樹脂は、全固形分に対する重量割合、すなわち、当該被覆組成物の固形分100%重量部に対して、約1〜40%重量部(好ましくは約1〜20%重量部)含有されていると好ましい。
【0034】
なぜなら、上記アクリル樹脂や上記アクリル−ウレタン樹脂の含有量が上記値よりも少ないと、上述した効果を十分に発現しにくくなってしまい、上記アクリル樹脂や上記アクリル−ウレタン樹脂の含有量が上記値よりも多いと、被覆膜が硬脆くなり、破断強度や引裂力が低下して剥離時に切れやすくなって、本願発明の目的とする効果に悪影響を与えてしまうおそれを生じるからである。
【0035】
また、本発明に係る可剥離性床用被覆組成物は、さらに、剥離向上剤を含有していると好ましい。
【0036】
上記剥離向上剤としては、例えば、フッ素系化合物、ワックス類、シリコーン系化合物、アルキルリン酸エステル系化合物などを単独又は任意の割合で複数混合したもの等が挙げられ、水に溶解又は分散された形態や、粉末状の形態等で使用することができる。
【0037】
ここで、フッ素系化合物としては、分子中にフルオロアルキル基を含有するものが好ましく、具体的には、例えば、パーフルオロアルキルリン酸塩(例えば、AGCセイミケミカル株式会社製「サーフロンS−111(商品名)」等)、パーフルオロアルキルリン酸エステル塩(例えば、AGCセイミケミカル株式会社製「サーフロンS−112(商品名)」等)、パーフルオロアルキルアミンオキシド(例えば、AGCセイミケミカル株式会社製「サーフロンS−141(商品名)」等)、パーフルオロEO付加物(例えば、AGCセイミケミカル株式会社製「サーフロンS−145(商品名)」等)等が挙げられ、特に、パーフルオロアルキルリン酸塩であると、より少ない量で剥離性能を向上させることができるのでさらに好ましい。
【0038】
上記ワックス類としては、例えば、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木蝋、ホホバ油等の植物系ワックスや、蜜蝋、ラノリン、鯨蝋等のような動物系ワックスや、モンタンワックス、オゾケライト、セレシン等のような鉱物系ワックスや、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等のような石油系ワックスや、フィッシャー・トロプシュワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス、ポリプロピレンワックス、アクリルーエチレン共重合ワックス等のような合成炭化水素系ワックスや、モンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体等のような変性系ワックスや、硬化ひまし油、硬化ひまし油誘導体等のような水素化系ワックスや、12−ヒドロキシステアリン酸や、ステアリン酸アミドや、無水フタル酸イミドや、ビスアマイドや、アマイドや、グリセリンエステルや、ソルビタンエステルや、C12以上(好ましくはC18以上)の高級アルコールや、C12以上(好ましくはC18以上)の高級脂肪酸等が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0039】
上記シリコーン系化合物としては、シロキサン結合を主骨格としたものが挙げられ、例えば、シリコーンオイル(例えば、信越化学株式会社製「KF50(商品名)」、「KF53(商品名)」等のメチルフェニルポリシロキサン系、「KF96(商品名)」、「KF99(商品名)」等のジメチルポリシロキサン系、「KF994(商品名)」、「KF995(商品名)」、「KF9902(商品名)」等の環状ジメチルポリシロキサン系、「FL100(商品名)」等のフロロポリシロキサン系、「KF101(商品名)」等のエポキシ変性、「KF351(商品名)」等のポリエーテル変性、「KF851(商品名)」等のアルコール変性、「KF857(商品名)」等のアミノ変性、「X22−3701(商品名)」等のカルボキシル変性等)や、シリコーンエマルジョン(例えば、信越化学株式会社製「KM70(商品名)」、「KM71(商品名)」、「KM72(商品名)」、「KM75(商品名)」、「KM85(商品名)」、「KM722(商品名)」、「KM740(商品名)」、「KM753(商品名)」、「KM764(商品名)」、「KM765(商品名)」、「KM766(商品名)」、「KM780(商品名)」、「KM883(商品名)」、「KM885(商品名)」、「KM901(商品名)」等のジメチルポリシロキサン系、「KM244F(商品名)」等のポリエーテル変性等)や、シリコーン粉末(例えば、東レダウコーニング株式会社製「F201(商品名)」、「F202(商品名)」、「F250(商品名)」等のジメチルポリシロキサン系、「F300(商品名)」等のメチルフェニルポリシロキサン系、「E601(商品名)」等のエポキシ変性等)や、シリコーン水溶性樹脂(例えば、東レダウコーニング株式会社製「SH3746(商品名)」、「SH3749(商品名)」、「SH3771(商品名)」等のポリエーテル変性等)等が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0040】
上記アルキルリン酸エステル系化合物としては、例えば、中京油脂株式会社製「セパール#365(商品名)」、「セパール#380(商品名)」、「セパール#440(商品名)」、「セパール#441(商品名)」、「セパール#517(商品名)」、「セパール#521(商品名)」等が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0041】
このような剥離向上剤を使用すると、形成された被覆膜の剥離性能を長期にわたって維持することができる。特に、フッ素系化合物、なかでも、パーフルオロアルキルリン酸エステル塩であると、最も優れた効果を発現することができるものの、高コストとなることから、他の種類のものと併用するとよい。
【0042】
上記剥離向上剤は、全固形分に対する重量割合、すなわち、当該被覆組成物の固形分100%重量部に対して、フッ素系化合物の場合には約0.01〜5.0%重量部(好ましくは約0.01〜3.0%重量部)、ワックス類の場合には約1〜20%重量部(好ましくは約1〜10%重量部)、シリコーン系化合物の場合には約0.1〜5%重量部(好ましくは約0.1〜3%重量部)、アルキルリン酸エステル系化合物の場合には約1〜10%重量部(好ましくは約1〜5%重量部)の量で使用すると好ましい。
【0043】
なぜなら、上記剥離向上剤の使用量が上記範囲よりも少ないと、形成された被覆膜の剥離性の向上を図ることができず、上記剥離向上剤の使用量が上記範囲よりも多いと、形成された被覆膜の剥離性が高くなり過ぎ、被覆膜が歩行によって床面から剥がれてしまう等の問題を生じるからである。
【0044】
また、本発明に係る可剥離性床用被覆組成物は、さらに、架橋剤を含有すると、形成された被覆膜の強度を更に向上させることができるので好ましく、特に、被覆膜の生成過程における水の蒸発に伴って架橋が進行する内部添加タイプ(一液タイプ)であると、作業的に取り扱いやすくなるためにより好ましい。
【0045】
具体的には、例えば、カルボジイミド基含有タイプ(例えば、日清紡株式会社製「カルボジライト水性タイプV−02(商品名)」、「カルボジライト水性タイプSV−02(商品名)」、「カルボジライト水性タイプV−02−L2(商品名)」、「カルボジライト水性タイプV−04(商品名)」、「カルボジライト水性タイプV−06(商品名)」、「カルボジライト水性タイプE−01(商品名)」、「カルボジライト水性タイプE−02(商品名)」、「カルボジライト水性タイプE−03A(商品名)」等)や、オキサゾリン基含有タイプ(例えば、株式会社日本触媒製「エポクロスK−2010E(商品名)」、「エポクロスK−2020E(商品名)」、「エポクロスK−2030E(商品名)」、「エポクロスWS−500(商品名)」等)等が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0046】
また、本発明に係る可剥離性床用被覆組成物は、必要に応じて、さらに、可塑剤(例えば、リン酸エステル類、脂肪酸エステル類等)、造膜助剤(例えば、エチレングリコール又はジエチレングリコールやプロピレングリコール又はジプロピレングリコールのアルキルエーテル類等)、顔料、染料、消泡剤(例えば、鉱物系、シリコーン系、ポリエーテル型界面活性剤系等)、湿潤剤、分散剤、増粘剤(例えば、無機系、有機系等)、防腐剤(例えば、ベンゾイソチアゾリン系、トリアジン系等)、凍結防止剤(例えば、多価アルコール類等)、乾燥促進剤(例えば、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール等)、滑り調整剤、紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等)、酸化防止剤(例えば、ヒンダートフェノール系、リン酸系、硫黄系等)等のような他の添加剤を含有することも可能である。
【0047】
なお、上記造膜助剤は、水中に分散された樹脂を乾燥時に連続被覆形成させるに必要な揮発性の水溶性溶剤のことである。
【0048】
上述したような本発明に係る可剥離性床用被覆組成物は、ローラー、モップ、刷毛、コテバケ等のような一般的に広く利用されている道具を用いて床面に塗布することができる。
【0049】
ここで、上記被覆組成物は、床面に形成される被覆膜の厚さ(乾燥膜厚)が20μm以上(好ましくは30μm以上)となる量で床面に塗布される。なぜなら、床面に形成される被覆膜の厚さ(乾燥膜厚)が、20μm未満となってしまうと、被覆膜の強度等の性能に関係なく、剥離時に被覆膜が切れてしまうからである。このため、床面に形成される被覆膜の厚さ(乾燥膜厚)が、20μm以上(好ましくは30μm以上)となるように、必要に応じて、上記被覆組成物を床面に重ね塗りすることも可能である。
【0050】
また、本発明に係る可剥離性床用被覆組成物を適用できる床としては、例えば、塩ビ系、オレフィン系、ゴム床等の化学床や、大理石、御影石、テラゾー、陶磁器タイル等の石質系床や、フローリング、リノリューム、コルク等の木質系床や、エポキシ系、ウレタン系等の塗り床等のような各種の材料からなるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
このような本発明に係る可剥離性床用被覆組成物によれば、床面に施工された被覆膜の端部をカッタ等でめくり上げて引き剥がして、床面の傷やタイル目地部分で引っ掛かり等を生じて裂けを生じてしまったとしても、当該被覆膜に生じた裂けが剥離方向へ広がってしまうことを抑制することができ、一枚の連続したフィルムとしてそのまま引き剥がすことができるので、剥離作業性の低下を防止することができる。
【実施例】
【0052】
本発明に係る可剥離性床用被覆組成物の効果を確認するため、以下のような実験を行った。
【0053】
[試験体の作製]
<試験体1>
全固形分中に対する割合で、ウレタン樹脂(株式会社ADEKA製ウレタンディスパージョン「アデカボンタイターHUX−380(商品名)」)を94.0重量%、剥離向上剤(AGCセイミケミカル株式会社製パーフルオロアルキルリン酸エステル塩「サーフロンS112(商品名)」)を1.0重量%、湿潤剤(株式会社ネオス製パーフルオロアルキルカルボン酸塩「フタージェント150CH(商品名)」)を0.02重量%、酸化ポリエチレンワックス(東邦化学工業株式会社製ワックスエマルジョン「ハイテックE4000(商品名)」)を5.0重量%、消泡剤(東レ・ダウコーニング株式会社製シリコーン系「FSアンチフォーム92(商品名)」)を0.03重量%混合し、全固形分の割合が25重量%となるように水分を調整して試験体1を作製した。
【0054】
<試験体2>
試験体1におけるウレタン樹脂の種類を変更(大日本インキ化学工業株式会社製ウレタンディスパージョン「ボンディック1940NS(商品名)」)した以外は、試験体1と同様に調整することにより、試験体2を作製した。
【0055】
<試験体3>
試験体1におけるウレタン樹脂の種類を変更(第一工業製薬株式会社製ウレタンディスパージョン「スーパーフレックス150HS(商品名)」)した以外は、試験体1と同様に調整することにより、試験体3を作製した。
【0056】
<試験体4>
試験体1におけるウレタン樹脂の種類を変更(株式会社ADEKA製ウレタンディスパージョン「アデカボンタイターHUX−386(商品名)」)した以外は、試験体1と同様に調整することにより、試験体4を作製した。
【0057】
<試験体5>
試験体1におけるウレタン樹脂の種類を変更(大日本インキ化学工業株式会社製ウレタンディスパージョン「ボンディック8510(商品名)」)した以外は、試験体1と同様に調整することにより、試験体5を作製した。
【0058】
<試験体6>
試験体1におけるウレタン樹脂の種類を変更(大日本インキ化学工業株式会社製ウレタンディスパージョン「ハイドランHW−171(商品名)」)した以外は、試験体1と同様に調整することにより、試験体6を作製した。
【0059】
<試験体7>
試験体1におけるウレタン樹脂の種類を変更(株式会社ADEKA製ウレタンディスパージョン「アデカボンタイターHUX−320(商品名)」)した以外は、試験体1と同様に調整することにより、試験体7を作製した。
【0060】
<試験体8>
試験体1におけるウレタン樹脂の種類を変更(第一工業製薬株式会社製ウレタンディスパージョン「スーパーフレックス410(商品名)」)した以外は、試験体1と同様に調整することにより、試験体8を作製した。
【0061】
<試験体9>
試験体1におけるウレタン樹脂の種類を変更(株式会社ADEKA製ウレタンディスパージョン「アデカボンタイターHUX−232(商品名)」)した以外は、試験体1と同様に調整することにより、試験体9を作製した。
【0062】
<試験体10>
試験体1におけるウレタン樹脂の種類を変更(エアープロダクツジャパン株式会社製ウレタンディスパージョン「HY870(商品名)」)した以外は、試験体1と同様に調整することにより、試験体10を作製した。
【0063】
<試験体11>
試験体1におけるウレタン樹脂の種類を変更(株式会社ADEKA製ウレタンディスパージョン「アデカボンタイターHUX−350(商品名)」)した以外は、試験体1と同様に調整することにより、試験体11を作製した。
【0064】
<試験体12>
試験体1におけるウレタン樹脂を74.0重量%にして、アクリル樹脂(ローム・アンド・ハース・ジャパン株式会社製アクリル樹脂エマルジョン「DURAPLUS 3(商品名)」)を20.0重量%加えた以外は、試験体1と同様に調整することにより、試験体12を作製した。
【0065】
<試験体13>
試験体1におけるウレタン樹脂を69.0重量%にして、試験体12と同一のアクリル樹脂を25.0重量%加えた以外は、試験体1と同様に調整することにより、試験体13を作製した。
【0066】
<試験体14>
試験体1におけるウレタン樹脂を74.0重量%にして、アクリル−ウレタン共重合樹脂(Alberdingk Boley.Inc.製アクリル−ウレタン共重合ディスパージョン「UC90(商品名)」)を20.0重量%加えた以外は、試験体1と同様に調整することにより、試験体14を作製した。
【0067】
<試験体15>
試験体1におけるウレタン樹脂を54.0重量%にして、試験体14と同一のアクリル−ウレタン共重合樹脂を40.0重量%加えた以外は、試験体1と同様に調整することにより、試験体15を作製した。
【0068】
<試験体16>
試験体1におけるウレタン樹脂を34.0重量%にして、試験体14と同一のアクリル−ウレタン共重合樹脂を60.0重量%加えた以外は、試験体1と同様に調整することにより、試験体16を作製した。
【0069】
[実験方法]
<破断強度、破断伸び>
平滑なガラス板上に所定の乾燥膜厚(60〜70μm)となるように上記試験体1〜16を塗布して乾燥させた後(25℃×48時間)、生成した被覆膜をガラス板から取り外して所定のサイズ(40mm×5mm)に切り出し、得られた試験片に対して引張試験機(インストロン社製「5565(型式)」)で引張試験(破断強度及び破断伸び)を行った(試験温度:25℃)。
【0070】
<引裂力>
平滑なガラス板上に所定の乾燥膜厚(60〜70μm)となるように上記試験体1〜16を塗布して乾燥させた後(25℃×48時間)、生成した被覆膜をガラス板から取り外して所定のサイズ(10mm×2mm)に切り出し、得られた試験片に対して引張試験機(インストロン社製「5565(型式)」)で引裂試験(引裂力測定)を行った(試験温度:25℃)。なお、引裂力測定は、JIS K7128−1「プラスチック−フィルム及びシートの引裂強さ試験方法−第1部:トラウザー引裂法」に準じて行った。
【0071】
<汚れ付着防止性>
床材(株式会社東リ製ホモジニアスビニル床タイル(白色)「MSプレーン5601(商品名)」)上に所定の乾燥膜厚(60〜70μm)となるように上記試験体1〜16を塗布して乾燥させた後(25℃×48時間)、歩行者通路に当該床材を敷設し、所定期間経過後(1ヶ月)の汚れ付着具合を目視評価した。
【0072】
<可剥離性>
床材(株式会社東リ製ホモジニアスビニル床タイル「MSプレーン5608(商品名)」)上に所定の乾燥膜厚(60〜70μm)となるように上記試験体1〜16を塗布して乾燥させた後(25℃×48時間)、生成した被覆膜を床材から引き剥がして可剥離性を評価した。
【0073】
<裂け広がり性>
床材(株式会社東リ製ホモジニアスビニル床タイル「MSプレーン5608(商品名)」)上に所定の乾燥膜厚(60〜70μm)となるように上記試験体1〜16を塗布して乾燥させた後(25℃×48時間)、生成した被覆膜を床材から引き剥がす際に被覆膜の一部にカッタで切り込み傷を入れ、その部分からの裂けの広がり具合を評価した。
【0074】
[実験結果]
上述した実験の結果を下記の表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
上記表1からわかるように、試験体1〜11において、破断伸びが10%となった試験体6は、可剥離性が著しく低く、破断強度が9.7MPaとなった試験体5は、可剥離性が低いだけでなく、汚れ防止性が著しく低くなってしまった。そして、破断強度が10MPa以上となり、破断伸びが50%以上となるものの、引裂力が0.2Nとなった試験体7〜11は、汚れ防止性及び可剥離性で満足できる結果が得られたものの、裂け広がり性が低くなってしまった。
【0077】
これに対し、破断強度が10MPa以上となり、破断伸びが50%以上となるだけでなく、引裂力が0.3以上となった試験体1〜4は、汚れ防止性、可剥離性、裂け広がり性のすべてにおいて満足できる結果が得られた。
【0078】
また、アクリル樹脂やアクリル−ウレタン共重合樹脂を加えた試験体12〜16においては、アクリル樹脂やアクリル−ウレタン共重合樹脂を加えていない試験体1と比べて、汚れ防止性を改善できた。
【0079】
しかしながら、アクリル樹脂を25.0重量%加えた試験体13は、形成された被覆膜が非常に脆くなってしまい、ガラス板から取り外すことが難しく、上記物理特性を測定することができなかった。そして、破断強度が10MPa以上となり、破断伸びが50%以上となるものの、引裂力が0.2Nとなった試験体16は、汚れ防止性及び可剥離性で満足できる結果が得られたものの、裂け広がり性が低くなってしまった。
【0080】
これに対し、破断強度が10MPa以上となり、破断伸びが50%以上となるだけでなく、引裂力が0.3以上となった試験体12,14,15は、汚れ防止性、可剥離性、裂け広がり性のすべてにおいて満足できる結果が得られた。
【0081】
特に、引裂力が1N以上となった試験体1,2,12,14においては、非常に優れた裂け広がり性を発現した。
【0082】
したがって、引裂力が0.3N以上であり、破断強度が10MPa以上であり、破断伸びが50%以上であるウレタン樹脂を主成分とする被覆膜を形成する原料を水に分散させた可剥離性床用被覆組成物においては、汚れ防止性及び可剥離性を十分に維持しながらも、満足できる裂け広がり性を得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明に係る可剥離性床用被覆組成物は、形成された被覆膜の剥離作業性の低下を防止することができるので、産業上、極めて有益に利用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
引裂力が0.3N以上であり、破断強度が10MPa以上であり、破断伸びが50%以上であるウレタン樹脂を主成分とする被覆膜を形成する原料を水に分散させたものである
ことを特徴とする可剥離性床用被覆組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の可剥離性床用被覆組成物において、
アクリル樹脂を含有している
ことを特徴とする可剥離性床用被覆組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の可剥離性床用被覆組成物において、
前記アクリル樹脂が、全固形分に対する重量割合で1〜20%含有されている
ことを特徴とする可剥離性床用被覆組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の可剥離性床用被覆組成物において、
アクリル−ウレタン共重合樹脂を含有している
ことを特徴とする可剥離性床用被覆組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の可剥離性床用被覆組成物において、
前記アクリル−ウレタン共重合樹脂が、全固形分に対する重量割合で1〜40%含有されている
ことを特徴とする可剥離性床用被覆組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の可剥離性床用被覆組成物において、
剥離向上剤を含有している
ことを特徴とする可剥離性床用被覆組成物。

【公開番号】特開2009−167237(P2009−167237A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3982(P2008−3982)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(390039712)株式会社リンレイ (18)
【Fターム(参考)】