説明

可動式断熱扉体を備えた扉装置

【課題】防火区画を構成するような壁体に設けられる扉装置において、軽快な開閉操作を損なうことなく断熱性能の高い扉装置を構成する。
【解決手段】開口部3aを開閉する開閉用扉体5の表裏方向一方に、全閉姿勢の開閉用扉体5に積層して開閉用扉体5を覆蓋する全閉姿勢と、全閉姿勢の開閉用扉体5を外部に露出させる全開姿勢とのあいだをスライド移動自在な可動式の断熱扉体10を設け、前記断熱扉体10に、全閉姿勢に向けて付勢する付勢手段13と、付勢手段13の付勢力に抗して全開姿勢に保持する規制部材14と、開口部近傍の温度が予め設定されている高温(例えば100度)に達することに伴い、規制部材14による全開姿勢保持を解除して断熱扉体10を強制的に閉鎖せしめる強制閉鎖手段とを設ける構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば地下駐車場やトンネル内等の空間を区画する壁体に複数設けられる可動式断熱扉体を備えた扉装置の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、面積の広い地下駐車場や全長の長いトンネル内等のように閉ざされた広い空間においては、空間を壁体により仕切って区画(防火区画)を形成し、該区画を閉ざされた空間から外部へ通じる避難通路とすることがある。例えば、交通機関が走行するトンネルである場合、車等が走行する本通路が形成される空間と、該本通路の側部に形成され、火災等の異常発生時等にトンネル外部に脱出するための避難通路が形成される空間とを壁体により仕切って区画を形成し、該壁体にトンネルの長さ方向に所定間隙を存して複数の開口部を形成し、これら開口部にそれぞれ避難用の扉装置を設けて、本通路側で発生した火災発生等の非常時に、最寄りの扉装置を介して避難通路側に避難できるようにしている。
このような扉装置としては、非常時に本通路側で発生した火煙や有毒ガスが避難通路側に流入しないようにすることが必要であり、避難時に扉体が開放操作された場合に自動的に全閉姿勢となる自閉式にすることが求められる。そこで、このような自閉式の扉装置としては、通常時では常時全閉姿勢となる扉体を、開放操作された場合では予め設定される時間のあいだ開放姿勢を維持し、その後、扉体が全閉姿勢となるように構成したものが提唱されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平2−38231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような区画に設けられる自閉式の扉装置としては、扉体に断熱材(耐火断熱ボード)を内蔵して耐火性能とともに断熱性能とを付与し、扉体が全閉姿勢となっている状態で避難通路側が延焼したり高温になることを防止するようにしている。しかるに、トンネル内に設けられる扉装置のように、扉体に風圧が作用するような箇所に設けられる扉体では、扉体に骨材を内蔵して剛性を持たせるようにしており、このため、断熱材を内蔵したとしても金属製の骨材が扉体の表裏面間のヒートブリッジとなって断熱性能が損なわれるという問題がある。このように断熱性能が損なわれると、扉体自体が高温となって扉体に反り(所謂熱反り)現象が生じることがあり、このようになると扉体と開口部とのあいだに隙間ができ、該隙間を介して避難通路側に火煙や有毒ガスが侵入することが想定されて問題がある。しかも、トンネル内に設けられる扉装置は、広い空間である本通路と狭い空間である避難通路とのあいだに設けられるため、広い空間である本通路側で発生した火災の熱は、扉体を介して狭い空間である避難通路側に大きな影響を及ぼすことになり、扉体にさらなる高い断熱性能が要求される。これらの問題や要求に対応するためには、扉体に内蔵する断熱材を多くしたり、断熱性能の高い断熱材を用いる等して、扉体自体の断熱性能を高めることが考えられるが、このようにすると、扉体が重量化してしまい、自閉機構を備えることで開放操作が重くなっている扉体の開放操作がさらに重くなることになって、速やかな避難が損なわれることが想定されて問題があり、開口部における断熱性能を確保しながら速やかな避難を可能とする扉装置を提供することに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、空間を仕切る壁体に形成した開口部を開閉する開閉用扉体の表裏方向一方に、開口部を閉鎖する開閉用扉体に積層して開閉用扉体を覆蓋する全閉姿勢と、開口部を閉鎖する開閉用扉体を外部に露出させる全開姿勢とのあいだをスライド移動自在な可動式の断熱扉体を設け、前記断熱扉体に、全閉姿勢に向けて付勢する付勢手段と、付勢手段の付勢力に抗して全開姿勢に保持する全開保持手段と、開口部近傍の温度が予め設定されている高温に達することに伴い、全開保持手段による全開姿勢保持を解除して断熱扉体を強制的に閉鎖せしめる強制閉鎖手段とを設けたことを特徴とする可動式断熱扉体を備えた扉装置である。
請求項2の発明において、強制閉鎖手段は、温度ヒューズを用いて構成されていることを特徴とする請求項1に記載の可動式断熱扉体を備えた扉装置である。
請求項3の発明において、開閉用扉体と断熱扉体とは、トンネル内の本通路空間と避難通路空間とのあいだを仕切る壁体の開口部に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の可動式断熱扉体を備えた扉装置である。
請求項4の発明において、開閉用扉体は、扉体の反りを防止する反り防止手段が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の可動式断熱扉体を備えた扉装置である。
請求項5の発明において、断熱扉体は、開閉用扉体の戸袋として機能するように構成されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の可動式断熱扉体を備えた扉装置である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明とすることにより、軽快な開放操作が可能になって迅速な避難ができるものでありながら、断熱扉体が開口部を閉鎖する状態では高い断熱性能を発揮することが可能となる。
請求項2の発明とすることにより、停電時であっても確実に断熱扉体を全閉姿勢にすることができるうえ、構成の簡略化、低コスト化を図れる。
請求項3の発明とすることにより、トンネル内からの避難を迅速に行なえるばかりでなく、狭い空間である避難通路側の温度上昇を低減することができる。
請求項4の発明とすることにより、断熱扉体を開閉用扉体に近接配設して断熱扉体が邪魔にならないようにできるものでありながら、断熱扉体の閉鎖作動を確実に実施できて信頼性の高い扉装置を提供できる。
請求項5の発明とすることにより、開閉用扉体用の部材の保護を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】扉装置の避難通路側からの正面図である。
【図2】断熱扉体が全閉姿勢となった状態における扉装置の避難通路側からの正面図である。
【図3】図1のX−X断面図である。
【図4】図2のX−X断面図である。
【図5】扉装置の下端部を説明する側面図である。
【図6】図6(A)は図1のY−Y断面図、図6(B)は図1のZ−Z断面図である。
【図7】図7(A)、(B)はそれぞれ規制部材の正面図、側面図、図7(C)、(D)はそれぞれワイヤ制御装置の平面図、正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図面において、1は全長の長いトンネル内の本通路であって、該本通路1を構成する空間の側部には、避難通路2を構成する空間が形成されており、これら本通路1空間と避難通路2空間とはトンネルの全長に沿って壁体3により仕切られている。前記壁体3には本通路1空間と避難通路2空間とを連通する複数の開口部3aが開設されており、これら開口部3aの避難通路2側に、本発明が実施された本通路1と避難通路2とのあいだを出入りする扉装置4がそれぞれ設けられている。
【0009】
前記扉装置4は、壁体3の避難通路側面3bに沿って配設され、開口部3aを開閉する開閉用扉体5を備えて構成されている。前記開閉用扉体5は表裏面板のあいだにコア材として断熱材が内装されるとともに骨材が配設されているが、汎用の避難扉のように耐火性能、断熱性能の優れた耐火ボードが内装されることはなく、できる限り軽量化されたものに構成されている。
前記開閉用扉体5は、上端部の左右に位置してローラ5aを備えたローラブラケット5bがそれぞれ設けられ、下端部の左右に位置して戸車5cがそれぞれ設けられている。一方、開口部3a上方を構成する壁体3の避難通路2側となる避難通路側面3bには、開口部3aから戸尻側に至るように左右方向長尺状の上部枠体6が一体的に固定されており、該上部枠体6に、開口部3aから戸尻側に延出する上側案内レール6aが避難通路2側に向けて突出配設されている。また、開口部3a下方の床部Fには、開口部3aから戸尻側に至るように左右方向長尺状の下部枠体7が設けられており、該下部枠体7に、開口部3aから戸尻側に延出する下側案内レール7aが上方に向けて配設されている。
【0010】
そして、開閉用扉体5は、左右一対のローラ5aを上側案内レール6aに移動自在に吊持状に支持させるとともに、戸車5cを下側案内レール7aに移動自在に外嵌支持させることにより、上、下側案内レール6a、7aに案内される状態で避難通路側面3bに沿ってスライド移動自在となり、開口部3aを閉鎖する全閉姿勢と開口部3aを開放する開放姿勢とのあいだを変姿するように構成されている。
ここで、開閉用扉体5の全閉姿勢において、開閉用扉体5の戸先側端部5dは、開口部3aの戸先側の壁体3の避難通路側面3bに突設された戸先側片3cに形成された凹溝部3dに没入状に当接して、閉鎖方向への移動規制を受けるように構成されている。また、開閉用扉体5の全開姿勢において、開閉用扉体5の下端部の戸先側に設けたストッパ片5fは、下部枠体7に設けられたストッパ受け片7bに当接して、開放方向への移動規制を受けるように構成されている。
さらに、本実施の形態の開閉用扉体5には、開閉用扉体5の全閉姿勢において、開閉用扉体5戸尻側から本通路1側に向けて突出形成された上下方向長尺状の係止片5eが、開口部3aの戸尻側に位置する避難通路側面3bに突設される第一戸尻側片3eに設けた上下方向長尺状の係止受け片3fに係止する煙抜け防止手段が設けられており、本通路1側からの煙が避難通路2側に侵入するのを防止するように構成されている。
そして、全閉姿勢の開閉用扉体5は、戸先側部位については上下方向全域において戸先側端部5dが戸先側片3cの凹溝部3dに没入する状態となっていること、戸尻側部位の本通路1側については上下方向全域において煙抜け防止手段が設けられていること、戸尻側部位の避難通路2側の下端部については下部枠体7に設けられたストッパ受け片7bが近接して設けられていることにより、開閉用扉体5の戸先側、戸尻側の両部位において表裏方向への変形が規制されるように構成されている。これによって、開閉用扉体5は高温時に湾曲状に反り返る熱反りが防止されて、下側案内レール7aから外れるような不具合がないうえ、高温になっても開閉用扉体5と開口部3aとのあいだに隙間が形成されることがなく、本通路1側の火煙や有毒ガスが避難通路2側に侵入するのを確実に防止するように構成されており、該構成が本発明の反り防止手段に相当している。
【0011】
さらに、前記上部枠体6の戸先側部位には、開閉用扉体5を自閉制御するための機構を備えた閉鎖制御ユニット8が設けられている。前記閉鎖制御ユニット8を構成するケーシング8aには、避難通路2側に向けて巻取りプーリ8bが突出配設されており、該巻取りプーリ8bに作動ワイヤ8cの一端部が巻装されている。前記作動ワイヤ8cの他端部は、巻取りプーリ8bから戸先側に向けて巻出されており、該巻出された作動ワイヤ8cは、上部枠体6の戸先側に位置し避難通路2側に向けて突設された第一プーリ6bを経由し、開閉用扉体5上方の左右一対のローラブラケット5bの避難通路2側を通って戸尻側に引出され、他端部が上部枠体6の戸尻側端部に位置し避難通路2側に向けて突設された巻装装置9に巻装されるように構成されている。
そして、巻取りプーリ8bには、ケーシング8aに内装される図示しない付勢弾機が介装されており、該付勢弾機は、作動ワイヤ8cが巻出されることに伴い作動ワイヤ8cを巻取る方向の付勢力を蓄勢するように構成されている。一方、巻装装置9には作動ワイヤ8cの他端部を巻取る方向に付勢された巻取りバネ(図示せず)が内装されており、これによって、作動ワイヤ8cは、巻取りプーリ8bと巻装装置9とのあいだにおいて緊張状態となって、上部枠体6の戸先側部位から戸尻側部位のあいだに延出するように構成されている。このとき、ケーシング8aに内装される付勢弾機の巻取り方向の付勢力は、巻装装置9に内装される巻取りバネの巻取り方向の付勢力を常時上回るように設定されている。これによって、作動ワイヤ8cは巻取りプーリ8bに巻取られる状態で緊張状態となっており、該状態において、作動ワイヤ8cを付勢弾機の付勢力に抗して巻取りプーリ8bから強制的に巻出す巻出し力が作用した場合では、該巻出し力が消失することに伴い作動ワイヤ8cが巻取りプーリ8bに強制的に巻取られるように構成されている。
また、巻取りプーリ8bには、ケーシング8aに内装される図示しない閉扉遅延手段が連動連結されており、作動ワイヤ8cが付勢弾機の付勢力に抗する巻出し力により所定の巻出し量で巻出された場合に、閉扉遅延手段が起動されるように構成されている。そして、閉扉遅延手段が起動された場合では、予め設定されるタイマ時間のあいだ巻取りプーリ8bの巻取り方向への回転(作動ワイヤ8cの巻取り力)が規制(禁止)され、これによって、作動ワイヤ8cが巻出された位置に保持され、その後、巻取りプーリ8bによる作動ワイヤ8cの強制的な巻取りを開始するように構成されている。
【0012】
このように構成された閉鎖制御ユニット8において、作動ワイヤ8cには開閉用扉体5に連繋するための作動体8dが設けられており、該作動体8dが、全閉姿勢の開閉用扉体5に設けられる戸先側のローラブラケット5bに設けられた係合アーム5gに対して戸尻側(閉鎖方向)から係止するように構成されている。そして、火災等の非常時に、トンネル内から避難するべく開閉用扉体5が開放操作された場合では、作動体8dがローラブラケット5bにより押しやられて巻装装置9側に移動することにより、作動ワイヤ8cが巻取りプーリ8bから巻出されるように構成されている。そして、開放操作がなくなると(巻出し力の消失)、前記閉扉遅延手段により予め設定されるタイマ時間のあいだ作動ワイヤ8cの巻取りが規制されて開閉用扉体5を開放状態に保持し、その後、付勢弾機の付勢力に基づいて作動ワイヤ8cが巻取りプーリ8bに巻取られることにより、該作動ワイヤ8cに設けられた作動体8dが第一プーリ6b側(閉鎖方向)に移動して、戸先側のローラブラケット5bを閉鎖側に押しやる状態で開閉用扉体5を全閉姿勢に閉鎖するように構成されている。
尚、8eは閉鎖制御ユニット8の避難通路2側を覆うユニットカバーである。
【0013】
10は、開閉用扉体5の避難通路2側に近接する状態で設けられる可動式の断熱扉体であって、該断熱扉体10は、全閉姿勢の開閉用扉体5を避難通路2側から覆蓋して開口部3aを断熱する閉鎖姿勢と、開閉用扉体5の戸尻側に並列し、全閉姿勢の開閉用扉体5を避難通路2側に露出させて開口部3aの出入りを容易にする開放姿勢とのあいだをスライド移動するように構成されており、これによって、開口部3aに配される扉装置4は、開閉用扉体5と断熱扉体10との両者を備えたものに構成されている。
前記断熱扉体10は優れた耐火性能、断熱性能を備えた耐火断熱ボードを用いて形成されており、後述するように通常時は全開姿勢となって壁体3に沿って配設されていることから、風圧に対応するべく骨材が内蔵されることはなく、高温になっても高い耐火性能、断熱性能を保持できるように構成されている。また、断熱扉体10は、床面Fから上部枠体6に至る部位を覆う上下高さと、開閉用扉体5全域を覆う左右幅とを備えた本体部10aと、該本体部10a上端縁から本通路1側に向けて延出し、上部枠体6の上方に近接対向して配される上側片10bと、本体部10aの戸尻側端縁から本通路1側に向けて延出し、開閉用扉体5の戸尻側に対向して配される戸尻側片10cとを備えて構成されている。そして、断熱扉体10の全開姿勢では、開口部3aの戸尻側部位を構成する壁体3とともに開閉用扉体5の戸袋となり、開閉用扉体5用の上、下側案内レール6a、7aの戸尻側部位を覆蓋して各部材の保護を図れるように構成されている。
尚、断熱扉体10の上側片10bは、本体部10aの戸先側半部が切欠かれて戸尻側部位にのみ形成されており、全閉姿勢に変姿するときに閉鎖制御ユニット8に干渉することがないように構成されている。また、断熱扉体10の戸尻側片10cは、上部枠体6に対向する部位が切欠かれており、全閉姿勢に変姿するときに巻装装置9、開閉用扉体5のローラ5a、ローラブラケット5bに干渉することがないように構成されている。
【0014】
前記断熱扉体10の本体部10aは、上端部(上部枠体6に対向する部位)に開閉用扉体5側の板厚を切欠くことにより薄板部10dが形成されており、該薄板部10dの開閉用扉体5側面には、左右両端部に位置してガイドローラ11がそれぞれ転動自在に設けられている。これらガイドローラ11は、薄板部10dの開閉用扉体5側面と所定間隙を存して支持された上下方向を向く支軸11aに軸承されていて、水平方向において回転するように構成されている。また、本体部10の下端部には、左右両端部に位置して上下方向において回転する戸車12がそれぞれ設けられている。
尚、3gは断熱扉体10の全閉姿勢において、断熱扉体10の戸尻側片10cに対向して設けられ、断熱扉体10の開放方向への移動規制をする第二戸尻側片である。
【0015】
ところで、前記上部枠体6は壁体3の避難通路側面3bに固定される部材であって、避難通路側面3bに固定され避難通路2側に突出する上、下側フレーム6c、6dを備えて構成されており、これら上、下側フレーム6c、6dの対向間に、前記上側案内レール6aが設けられるレール用フレーム6eが設けられているが、前記レール用フレーム6eは、避難通路側面3bとのあいだに空隙部Sを存して形成されている。また、上側フレーム6cの避難通路2側の端縁には下方に向けて折曲する折曲片6fが形成されており、該折曲片6fに、上側案内レール6aに吊持されたローラ5a及びローラブラケット5b、さらには、開閉用扉体5の上端部を覆うための枠カバー6gが開閉自在に設けられている。
そして、前記上側フレーム6cの折曲片6fの避難通路2側の面に、断熱扉体10のガイドローラ11を移動案内するローラガイド6hが避難通路2側に向けて突出形成されている。
また、前記下部枠体7は、下側案内レール7aの避難通路2側に、断熱扉体10の戸車12が走行するための走行レール7cが設けられている。
これによって、断熱扉体10は、戸車12が下部枠体7の走行レール7cを走行し、ガイドローラ11が上部枠体6のローラガイド6hに移動案内を受ける状態で左右方向にスライド移動自在となって、開口部3aを開閉作動する可動式となるように構成されている。このとき、断熱扉体10は、上下端部が上、下部枠体6、7に移動案内を受けることにより、本体部10aが開閉用扉体5にできる限り近接して配設されており、全開姿勢の断熱扉体10が邪魔になるようなことがなく、しかも、開閉作動が円滑になされるように構成されている。そして、開閉用扉体5と断熱扉体10との両者が全閉姿勢となって開口部3aを閉鎖した状態では、開閉用扉体5と断熱扉体10とが近接する所定の空間、即ち、断熱空間を存して並設された二重扉(二重サッシ)のように機能して、高い断熱性能を発揮できるように構成されている。
【0016】
前記断熱扉体10の戸先側端部には、ワイヤ13aを介してウエイト13が連結されている。前記ウエイト13は、ワイヤ13aがプーリ13bを懸回することで開口部3aの戸先側において下方に垂下する状態で設けられ、断熱扉体10を全閉姿勢に向けて付勢するように構成されており、前記ウエイト13が本発明の付勢手段に相当している。尚、付勢手段としてはウエイト13に限定されることは勿論なく、弾機を用いる機構等、断熱扉体10を全閉姿勢となるように付勢する構成であれば何れの構成であってもよい。
【0017】
そして、開閉用扉体5に近接状に配された断熱扉体10は、本発明の全開保持手段により平常時では開閉用扉体5の戸袋として機能する全開姿勢に保持されるように構成されている。
つまり、断熱扉体10の上側片10bには、上部枠体6の前記空隙部Sに対向する部位に位置して係止受け体10eが一体的に設けられている。一方、上部枠体6の上側フレーム6cの空隙部Sに対向する部位には、全閉姿勢の断熱扉体10の係止受け体10eの戸先側端部に対向して貫通孔(図示せず)が開設されている。そして、貫通孔の下方に対向する壁体3の避難通路側面3bには、取付けブラケット3hが一体的に固定されており、前記取付けブラケット3hに、本発明の全開保持手段に相当する規制部材14が支持されている。前記規制部材14は、図7(A)、(B)に示すように、取付けブラケット3hに固定される支持体14aと、該支持体14aに体し上下方向に進退するロック片14bと、該ロック片14bを上方に向けて付勢する付勢弾機(図示せず)とを備えて構成されている。
そして、ロック片14bは、付勢弾機に付勢される自然状態において、上側フレーム6cの貫通孔を貫通して上方に突出(進出)する係止姿勢となるように構成されており、この状態において、ロック片14bには、ウエイト13により閉鎖方向に向けて付勢される断熱扉体10の係止受け体10eが当接するように構成されており、これによって、断熱扉体10は全開姿勢に保持されるように構成されている。また、ロック片14bは、付勢弾機の付勢力に抗して下方に退避する解除姿勢に変姿した場合では、断熱扉体10との係止が解除されて断熱扉体10の全開姿勢保持を解除するように構成されている。
【0018】
前記規制部材14のロック片14bは下端部にリング状のワイヤ連結片14cが形成されており、該ワイヤ連結部14cに、ロック片14bの進退制御をするべく本発明の強制閉鎖手段の構成部材となる作動ワイヤ15の一端部が連結されている。
ここで、作動ワイヤ15はアウターワイヤ15aとインナーワイヤ15bとにより構成されており、作動ワイヤ15の一端部はインナーワイヤ15bがアウターワイヤ15aから露出してロック片14bのワイヤ連結部14cに連結されており、作動ワイヤ15の他端部は戸先側に向けて延出されている。そして、前記規制部材14との連結部において外部に露出するインナーワイヤ15bは、下側フレーム片6dに固定される補助フレーム6iに固定されたプーリ15cを懸回することにより、下側フレーム6dに沿って延出され、プーリ15cの戸先側部位においてアウターワイヤ15aに内装されるように構成されており、アウターワイヤ15aの一端部は下側フレーム6dに固定されている。
【0019】
前記作動ワイヤ15の他端部は、下側フレーム6dの戸先側に設けられるワイヤ制御装置16に連結されており、該ワイヤ制御装置16は作動ワイヤ15とともに本発明の強制閉鎖手段を構成している。
つまり、前記ワイヤ制御装置16は下側フレーム6dに固定される固定プレート16aと、該固定プレート16aの戸尻側に開設された左右方向に長い長孔16bに沿ってスライド移動自在に変位する可動体16cとを備えて構成されている。さらに、ワイヤ制御装置16は、固定プレート16aの戸先側端部と可動体16cとのあいだには可動体16cを戸先側に向けて付勢する付勢弾機16dが設けられるとともに、固定プレート16aの戸尻側端部と可動体16cとのあいだは、予め設定される高温(例えば100度であって、人が近寄ることができないような温度)に達することで切断する温度ヒューズ16eにより一体的に連結されており、温度ヒューズ16eが切断しない通常温度の状態では、可動体16cを付勢弾機16dの付勢力に抗して長孔16bの戸尻側に強制的に位置させるように構成されている。
そして、前記可動体16cに、作動ワイヤ15を構成するインナーワイヤ15bの他端部を連結することにより、規制部材14とワイヤ制御装置16とが連動連結されており、アウターワイヤ15aの他端部は、固定プレート16aに固定されるように構成されている。前記作動ワイヤ15のインナーワイヤ15bの長さは、開口部3a近傍が通常温度で温度ヒューズ16eが非切断状態であって、可動体16cが長孔16bの戸尻側に位置する状態において、付勢弾機の付勢力を受けて係止姿勢となっているロック片14b(規制部材14)とのあいだに緊張状に張設される長さに設定されている。
【0020】
このように構成された強制閉鎖手段において、火災等の異常がなく、開口部3a近傍が通常温度の状態では、前述したように、可動体16cは長孔16bの戸尻側に位置していて、規制部材14のロック片14bを係止姿勢に保持しており、この状態では、進出姿勢のロック片14bに対して断熱扉体10の係止受け片10dが戸尻側から係止することにより、断熱扉体10が全開姿勢に保持されるように構成されている。
これに対し、火災等が発生して開口部3aの近傍温度が上昇し、前記設定される高温に達して温度ヒューズ16eが切断された場合では、可動体16cは付勢弾機16dの付勢力に基づいて長孔16bにガイドされる状態で戸先側に変位して、可動体16cに連結されたインナーワイヤ15bの他端部を戸先側に向けて引っ張り、これによって、インナーワイヤ15bの一端部がプーリ15cを介して下方に向けて引っ張られるように構成されている。このとき、付勢弾機16dの付勢力は、ロック片14bを係止姿勢に付勢する付勢弾機の付勢力と、ロック片14bに作用する断熱扉体10から作用する荷重との和よりも大きくなるように設定されている。これによって、インナーワイヤ15bの一端部に連結された規制部材14のロック片14bが下方に向けて引っ張られて、係止姿勢から解除姿勢に強制変姿せしめられるように構成されている。この状態では、ロック片14bと断熱扉体10の係止受け片10dとの係止が解除され、断熱扉体10は、ウエイト13による付勢力に基づいて閉鎖作動を開始して、全閉姿勢に変姿するように構成されている。
尚、強制閉鎖手段を構成するワイヤ制御手段は、上記構成に限定されないことは勿論であるが、温度ヒューズを用いる構成とすることにより、電気配線が不要になるうえ、停電時であっても高温になることにより断熱扉体10を確実に全閉姿勢とすることができるという利点がある。また、温度ヒューズは切断温度を選択することが可能であり、設置環境や使用状態に応じて適宜選択して設けることができる。
【0021】
前記構成の扉装置4は、全長の長いトンネル内の壁体3に、トンネル長方向複数箇所に設けられており、この場合に、任意の箇所において火災が発生し、該発生地点の近傍が高温になって人が近寄ることができないほどの高温雰囲気下となると、該部位の扉装置4については断熱扉体10が自動的に閉鎖して、本通路1と避難通路2とを仕切る壁体3に形成される開口部3aを、開閉用扉体5と断熱扉体10との両者により閉鎖して、軽量化されて開閉用扉体5による耐火性能、断熱性能を期待できない状態であっても、断熱扉体10による高い耐火性能、断熱性能が発揮されて、開口部3aにおける耐火性能、断熱性能を確保できるように構成されている。そのうえ、開閉用扉体5と断熱扉体10との両者が全閉姿勢となっている状態では、断熱空間を存して並設された二重扉のように機能することからも、優れた断熱性能を発揮できるように構成されている。
しかも、温度があまり高温でなく、人が避難可能な温度条件下の開口部3aでは、軽量化された開閉用扉体5のみが開口部3aを閉鎖しており、避難者は前記軽量化された開閉用扉体5を開放することにより避難通路2側に避難することができて、速やかな避難ができるように構成されている。これによって、避難通路2への円滑な避難を損なうことがなく、しかも、開口部3aを介して本通路1側の熱が狭い空間である避難通路2側に及ぼす影響を確実に低減することができるように構成されている。
【0022】
尚、開閉用扉体5の全閉姿勢において、前述したように、戸先側部位については上下方向全域において戸先側端部5dが戸先側片3cの凹溝部3dに没入する状態となっていること、戸尻側部位の本通路1側については上下方向全域において煙抜け防止手段が設けられていること、戸尻側部位の避難通路2側の下端部についてはストッパ受け片7bが設けられていることにより、開閉用扉体5の戸先側、戸尻側の両部位において表裏方向への変形が規制される反り防止手段が設けられていて、高温時に開閉用扉体5が熱反りするのが防止されているので、高温時に開口部3aに隙間が形成されるような不具合がないが、さらにこのものでは、熱反り防止がなされることにより、高温時に断熱扉体10が全閉姿勢に閉鎖作動する場合に、近接状に配される開閉用扉体5の熱反りで断熱扉体10の閉鎖を損なうようなことがなく、これによって、断熱扉体10の全閉姿勢への変姿が円滑、かつ、速やかになされるように構成されている。
また、断熱扉体10と開閉用扉体5とのあいだには、図示されてはいないが、開閉用扉体5の開放操作に連動して断熱扉体10を開放する連動手段が設けられており、例えば、高温雰囲気にならないにもかかわらず断熱扉体10が閉鎖したような不測の事態が生じた場合であっても、開口部3aを開放することができるように構成されている。
【0023】
叙述の如く構成された本形態において、全長の長いトンネルのように、本通路1と該本通路1の側部に設けられる避難通路2とのあいだを仕切る壁体3に設けられる扉装置4は、開閉用扉体5の避難通路2側に、開閉用扉体5に積層して開閉用扉体5を覆蓋する全閉姿勢と、開閉用扉体5を外部に露出させる全開姿勢とのあいだをスライド移動する可動式の断熱扉体10が設けられている。そして、断熱扉体10はウエイト13により全閉姿勢に付勢されるとともに、ウエイト13の付勢力に抗して全開姿勢に保持する規制部材14と、開口部3aの近傍の温度が予め設定されている高温(例えば100度)に達することに伴い、規制部材14による断熱扉体10の全開姿勢の保持を解除する作動ワイヤ15とワイヤ制御装置16とが設けられている。この結果、トンネル内に設けられる複数の扉装置4のうち、高温に達した箇所に設けられた扉装置4については開閉用扉体5と高い耐火性能、断熱性能を備えた断熱扉体10との両者が開口部3aを閉鎖することになって、本通路1側で発生した熱が避難通路2側に影響するのを低減することができる。この場合に、断熱扉体10と開閉用扉体5とは近接状に並設してこれらの間に断熱空間が形成されるので、あたかも二重扉のように開口部3aを閉鎖して、一層高い断熱効果を発揮することができる。
そのうえ、人が近寄ることができない高温となる箇所の扉装置4を、高い耐火性能、断熱性能を備えた断熱扉体10とにより開口部3aを塞ぐ構成としたので、高温に至らず避難時に人が操作することになる開閉用扉体5側の耐火性能、断熱性能についてはその性能を低減させて軽量化することが可能となって開閉用扉体5の軽量化が実現して、開閉用扉体5の開放操作を円滑、かつ、迅速に行なうことができて、速やかな避難を実現することができる。
そのうえ、避難通路2側においては断熱扉体10が閉鎖していることから、その断熱扉体10配設部近傍部位が高温になっている、または、高温であったことが判断できて、避難方向の選択や、火災現場の特定の判断材料とすることができるという利点もある。
【0024】
このように、本発明が実施されたものにあっては、開口部3aに開閉用扉体5と、高い耐火性能、断熱性能を備え、高温になることに伴い開閉用扉体5に積層して開口部3aを閉鎖する断熱扉体10とを備えた扉装置4を設けることにより、本通路1側が高温状態になった場合に避難通路2側に波及する熱の影響を低減するようにしたものであるが、このものでは、高温になった場合に断熱扉体10を強制的に閉鎖するための強制閉鎖手段の構成部材に温度ヒューズ16eを用いる構成としたので、停電時であっても確実に断熱扉体10を全閉姿勢にすることができる。そのうえ、電子部品による温度センサを用いて断熱扉体10を強制閉鎖させるための機構を設けるような複雑、かつ、高価な構成とする必要がなく、構成の簡略化、低コスト化に寄与できる。
【0025】
さらに、扉装置4は、全長の長いトンネル内に複数設けられる構成であり、高温となって人が近寄れず、避難通路2にアクセスできない箇所の扉装置4は断熱扉体10が閉鎖されて防火、断熱効果を高め、温度が低い避難通路2にアクセスできる箇所の扉装置4は、軽量化された開閉用扉体5により開口部3aを閉鎖する状態となるので、避難する際の開閉用扉体5の開放操作が軽快で、速やかな避難を損なうことがなく、しかも、避難通路2側の温度上昇を低減することができる。
【0026】
また、このものにおいて、扉装置4には、開閉用扉体5の全閉姿勢において、戸先側部位については上下方向全域において戸先側端部5dが戸先側片3cの凹溝部3dに没入する状態となっていること、戸尻側部位の本通路1側については上下方向全域において煙抜け防止手段が設けられていること、戸尻側部位の避難通路2側の下端部についてはストッパ受け片7bが設けられていることにより、開閉用扉体5の戸先側、戸尻側の両部位において表裏方向への変形が規制される反り防止手段が設けられているので、高温時に開閉用扉体5が湾曲状に熱反りすることが防止されて、開口部3aに隙間が形成されることがないばかりでなく、開閉用扉体5に近接状に配設された断熱扉体10が熱反りした開閉用扉体5により閉鎖作動し難くなるような不具合を確実に防止できて、信頼性の高い可動式の断熱扉体10を備えた扉装置4を提供できる。
【0027】
さらに、断熱扉体10は全開姿勢において、壁体3に近接状に配されているので、風圧に対応する構成とする必要がなく骨材を不要にできて断熱性能の向上を図れるうえ、壁体3とともに開閉用扉体5の戸袋として機能するので、開閉用扉体5用の上、下側案内レール6a、7aの戸尻側部位を保護することができるという利点もある。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、広い空間を壁体等により仕切り複数の区画を構成する際に、区画同士を行き来するための出入り口部に設けられる扉装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 本通路
2 避難通路
3 壁体
3a 開口部
4 扉装置
5 開閉用扉体
6 上部枠体
6a 上側案内レール
6c 上側フレーム
6h ローラガイド
7 下部枠体
7a 下側案内レール
7c 走行レール
8 閉鎖制御ユニット
10 断熱扉体
11 ガイドローラ
12 戸車
13 ウエイト
14 規制部材
14b ロック片
15 作動ワイヤ
16 ワイヤ制御装置
16c 可動体
16d 付勢弾機
16e 温度ヒューズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間を仕切る壁体に形成した開口部を開閉する開閉用扉体の表裏方向一方に、開口部を閉鎖する開閉用扉体に積層して開閉用扉体を覆蓋する全閉姿勢と、開口部を閉鎖する開閉用扉体を外部に露出させる全開姿勢とのあいだをスライド移動自在な可動式の断熱扉体を設け、前記断熱扉体に、全閉姿勢に向けて付勢する付勢手段と、付勢手段の付勢力に抗して全開姿勢に保持する全開保持手段と、開口部近傍の温度が予め設定されている高温に達することに伴い、全開保持手段による全開姿勢保持を解除して断熱扉体を強制的に閉鎖せしめる強制閉鎖手段とを設けたことを特徴とする可動式断熱扉体を備えた扉装置。
【請求項2】
強制閉鎖手段は、温度ヒューズを用いて構成されていることを特徴とする請求項1に記載の可動式断熱扉体を備えた扉装置。
【請求項3】
開閉用扉体と断熱扉体とは、トンネル内の本通路空間と避難通路空間とのあいだを仕切る壁体の開口部に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の可動式断熱扉体を備えた扉装置。
【請求項4】
開閉用扉体は、扉体の反りを防止する反り防止手段が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の可動式断熱扉体を備えた扉装置。
【請求項5】
断熱扉体は、開閉用扉体の戸袋として機能するように構成されていることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の可動式断熱扉体を備えた扉装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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