可動部用ケーブル及びその製造方法
【課題】本発明の目的は、高い減衰特性と高い導電性を備え、かつ軟質銅材においても高い屈曲寿命を有する軟質希薄銅合金線、軟質希薄銅合金板、軟質希薄銅合金撚線を用いた可動用ケーブル及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】中心導体と、その外周に被覆された絶縁層と、前記絶縁層の外周に外部導体を有し、前記外部導体の外周に被覆されたジャケット層を有する可動部用ケーブルにおいて、前記中心導体及び前記外部導体の少なくとも一方が、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が不可避的不純物及び銅である希薄銅合金からなり、表面から50μm深さまでの平均結晶粒径が20μm以下であることを特徴とする可動部用ケーブル。
【解決手段】中心導体と、その外周に被覆された絶縁層と、前記絶縁層の外周に外部導体を有し、前記外部導体の外周に被覆されたジャケット層を有する可動部用ケーブルにおいて、前記中心導体及び前記外部導体の少なくとも一方が、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が不可避的不純物及び銅である希薄銅合金からなり、表面から50μm深さまでの平均結晶粒径が20μm以下であることを特徴とする可動部用ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な可動部用ケーブル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の科学技術においては、動力源としての電力や、電気信号など、あらゆる部分に電気が用いられており、それらを伝達するためにケーブルやリード線などの導線が用いられている。そして、その導線に用いられている素材としては、銅、銀などの導電率の高い金属が用いられ、とりわけ、コスト面などを考慮し、銅線が極めて多く用いられている。
【0003】
銅と一括りにする中にも、その分子の配列などに応じて、大きく分けて、硬質銅と軟質銅とに分けられる。そして利用目的に応じて所望の性質を有する種類の銅が用いられている。
【0004】
電子部品用リード線には、硬質銅線が多く用いられ、例えば、医療機器、産業用ロボット、ノート型パソコンなどの電子機器などに用いられるケーブルは、過酷な曲げ、ねじれ、引張りなどが組み合わさった外力が繰り返し負荷される環境下で使用されているため、硬直な硬質銅線は不的確であり、軟質銅線が用いられている。
【0005】
このような用途に使用される導線には、導電性が良好(高導電率)で、かつ、屈曲特性が良好であるという相反する特性が求められるが、今日までに、高導電性および耐屈曲性を維持する銅材料の開発が進められている。
【0006】
例えば、特許文献1に係る発明は、引張強さ、伸び及び導電率が良好な耐屈曲ケーブル用導体に関する発明であり、特に純度99.99wt%以上の無酸素銅に、純度99.99wt%以上のインジウムを0.05〜0.70mass%、純度99.9wt%以上のPを0.0001〜0.003mass%の濃度範囲で含有させてなる銅合金を線材に形成した耐屈曲ケーブル用導体について記載されている。
【0007】
また、特許文献2に係る発明には、インジウムが0.1〜1.0wt%、硼素が0.01〜0.1wt%、残部が銅である耐屈曲性銅合金線について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−363668号公報
【特許文献2】特開平9−256084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に係る発明は、あくまでも硬質銅線に関する発明であり、耐屈曲性に関する具体的な評価はされておらず、より耐屈曲性にすぐれる軟質銅線についての検討は何等なされていない。また、添加元素の量が多いため、導電性が低下してしまう。軟質銅線に関しては、まだまだ十分に検討がなされたとはいえない。
【0010】
また、特許文献2に係る発明は、軟質銅線に関する発明であるが、特許文献1に係る発明と同様に、添加元素の添加量が多いため、導電性が低下してしまう。
【0011】
一方で、原料となる銅材料として無酸素銅(OFC)などの高導電性銅材を選択することで高い導電性を確保することが考えられる。
【0012】
しかしながら、この無酸素銅(OFC)を原料とし、導電性を維持すべく他の元素を添加せずに使用した場合には、銅荒引線の加工度をあげて伸線することにより無酸素銅線内部の結晶組織を細かくすることによって耐屈曲性を向上させるとする考え方も有効かもしれないが、この場合には、伸線加工による加工硬化により硬質線材としての用途には適しているが、軟質線材への適用ができないという問題がある。
【0013】
従来、可動部に使用されるケーブルには、高い繰り返し屈曲性が求められ、それに伴いケーブルに使用される金属材料は、高強度金属を選択していた。一方、高強度金属は、引き換えに導電率が低いため導体抵抗が高く、高強度金属を適用した場合は、ケーブルで伝送する信号や電源が減衰しやすい。それを改善する手段として断面積アップの適用が考えられるが、ケーブル外径が大きくなるために限界があり、すべての可動用ケーブルへの適用はできない。
【0014】
本発明の目的は、高い減衰特性と高い導電性を備え、かつ軟質銅材においても高い屈曲寿命を有する軟質希薄銅合金線、軟質希薄銅合金板、軟質希薄銅合金撚線を用いた可動部用ケーブル及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、中心導体と、その外周に被覆された絶縁層と、前記絶縁層の外周に外部導体を有し、前記外部導体の外周に被覆されたジャケット層を有する可動部用ケーブルにおいて、前記中心導体及び前記外部導体の少なくとも一方が、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が不可避的不純物及び銅である希薄銅合金からなり、表面から50μm深さまでの平均結晶粒径が20μm以下であることを特徴とする。
【0016】
前記希薄銅合金の導電率が101.5%IACS以上であること、また、前記中心導体及び前記外部導体の少なくとも一方が、2mass ppmを越える量の酸素、Ti4〜25mass ppm、硫黄3〜12mass ppmを含み、残部が不可避的不純物及び銅である希薄銅合金からなることが好ましい。
【0017】
本発明は、2mass ppmを越える量の酸素を含有し、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti及びCrからなる群から選択された添加元素を含む希薄銅合金材料を、SCR連続鋳造圧延により、1100℃以上1320℃以下の溶銅温度で鋳造材を形成し、該鋳造材からワイヤロッドを作製し、そのワイヤロッドを最初の圧延ロールでの温度が880℃以下、最終圧延ロールでの温度が550℃以上の条件で熱間圧延して、これを伸線して導体を形成し、前記導体を複数本用意する工程と、
前記複数の導体のうちの一方を中心導体とし、その外周に絶縁体を施す工程と、
前記複数の導体のうちの他方の複数本を前記絶縁体上において編組することにより外部導体を形成する工程と、
該外部導体の外周に樹脂でジャケット層を施す工程とを備えることを特徴とする可動部用ケーブルの製造方法にある。
【0018】
本発明は、酸素が2mass ppmを越え、Ti4〜25mass ppm及び硫黄3〜12mass ppm含み、残部が不可避不純物及び銅である希薄銅合金材料を、SCR連続鋳造圧延により、1100℃以上1320℃以下の溶銅温度で鋳造材を形成し、該鋳造材からワイヤロッドを作製し、そのワイヤロッドを最初の圧延ロールでの温度が880℃以下、最終圧延ロールでの温度が550℃以上の条件で熱間圧延して、これを伸線して導体を形成し、前記導体を複数本用意する工程と、前記複数の導体のうちの一方を中心導体とし、その外周に絶縁体を施す工程と、前記複数の導体のうちの他方の複数本を前記絶縁体上において編組することにより外部導体を形成する工程と、該外部導体の外周に樹脂でジャケット層を施す工程とを備えることを特徴とする可動部用ケーブルの製造方法にあり、前記中心導体及び前記外部導体の少なくとも一方は、その導電率が101.5%IACS以上であることが好ましい。
【0019】
中心導体は、可動時に中心導体にかかるの応力を小さくするため、中心導体素線本数は出来るだけ多い方が望ましい。
【0020】
絶縁体は、高屈曲性とするため、可動時の摩擦が小さく、強度・絶縁性能に優れたふっ素樹脂が望ましい。具体的には、ETFE(テトラフルオロエチレンとエチレンとの共重合体)やFEP(テトラフルオロエチレン)、PFAが望ましい。
【0021】
外部導体は、高屈曲性とするため、横巻シールドタイプが望ましい。外部導体の材質は、表層に微細結晶層を有する前述の本発明の希薄銅合金材料が望ましい。外部導体の素線径は、可撓性が良く、ケーブル製造時の作業性がいい絶縁体の3〜30%程度が望ましい。可動用途に使用されるため、可動時の応力を低減するため、横巻ピッチはP/Pd=8〜20とすることが望ましい。
【0022】
ジャケットは、高屈曲性とするため、可動時の摩擦が小さく、強度・絶縁性能に優れたふっ素樹脂が望ましい。具体的には、ETFEやFEP、PFAが望ましい。
【0023】
以下、本発明の好適な実施の形態を詳述する。
【0024】
先ず、本発明の目的は、導電率101.5%IACS(万国標準軟銅(International Anneld Copper Standard)抵抗率1.7241×10-8Ωmを100%とした導電率)を満足する軟質型銅材としての軟質希薄銅合金材料を得ることにある。また、副次的な目的は、SCR連続鋳造設備を用い、表面傷が少なく、製造範囲が広く、安定生産が可能である。また、ワイヤロッドに対する加工度90%(例えば直径φ8mm→φ2.6mm)での軟化温度が148℃以下の材料の開発にある。
【0025】
高純度銅(6N、純度99.9999%)に関しては、加工度90%での軟化温度は130℃である。したがって安定生産が可能な130℃以上で148℃以下の軟化温度で軟質材の導電率が102%IACS以上である軟質銅を安定して製造できる軟質希薄銅合金材料としての素材とその製造条件を求めることを検討した。
【0026】
ここで、酸素濃度1〜2mass ppmの高純度銅(4N)を用い、実験室にて小型連続鋳造機(小型連鋳機)を用いて、溶湯にチタンを数mass ppm添加した溶湯から製造したφ8mmのワイヤロッドをφ2.6mm(加工度90%)にして軟化温度を測ると160〜168℃であり、これ以上低い軟化温度にはならない。また、導電率は、101.7%IACS程度である。よって、酸素濃度を低くして、Tiを添加しても、軟化温度を下げることができず、また高純度銅(6N)の導電率102.8%IACSよりも悪くなることがわかった。
【0027】
この原因は、溶湯の製造中に不可避的不純物として、硫黄を数mass ppm以上含み、この硫黄とチタンとでTiS等の硫化物が十分形成されないために、軟化温度が下がらないものと推測される。
【0028】
そこで、本発明では、軟化温度を下げることと、導電率を向上させるために、2つの方策を検討し、2つの効果を合わせることで目標を達成した。
【0029】
(a)と(b)により、銅中の硫黄が晶出と析出を行い、冷間伸線加工後に軟化温度と導電率を満足する銅ワイヤロッドができる。
[本発明に係る希薄銅合金材料及びSCR連続鋳造圧延の製造条件について]
(1)合金組成について
中心導体及び外部導体の少なくとも一方が、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が不可避的不純物及び銅である希薄銅合金からなる。
【0030】
添加元素として、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti及びCrからなる群から選択されたものを選んだ理由は、これらの元素は他の元素と結合しやすい活性元素であり、Sと結合しやすいためSをトラップすることができ、銅母材(マトリクス)を高純度化することができるためである。添加元素は1種以上含まれていてもよい。また、合金の性質に悪影響を及ぼすことのないその他の元素および不純物を合金に含有させることもできる。
【0031】
また、以下に説明する好適な実施の形態においては、酸素含有量が2を超え30mass ppm以下が良好であることを説明しているが、添加元素の添加量およびSの含有量によっては、合金の性質を備える範囲において、2を超え400mass ppmを含むことができる。
【0032】
さらに、導電率が101.5%IACS以上の軟質銅材を得る場合、不可避的不純物を含む純銅に3〜12mass ppmの硫黄と、2を越え30mass ppm以下の酸素と、Tiを4〜25mass ppm含む軟質希薄銅合金材料を用いてワイヤロッドとするのがよい。2mass ppmを越え30mass ppm以下の酸素を含有していることから、この実施の形態では、いわゆる低酸素銅(LOC)を対象としている。
【0033】
通常、純銅の工業的製造において、電気銅を製造する際に、硫黄が銅中に取り込まれてしまうため、硫黄を3mass ppm以下とするのは難しい。汎用電気銅の硫黄濃度上限は12mass ppmである。
【0034】
制御する酸素は、上述したように、少ないと軟化温度が下がり難いので2mass ppmを越える量とする。また酸素が多すぎると、熱間圧延工程で、表面傷が出やすくなるので30mass ppm以下とする。
【0035】
本発明に係る可動軸ケーブルの中心導体、外部導体に用いられる軟質希薄銅合金材料においては、Ti4〜25mass ppm、硫黄3〜12mass ppm、酸素2を越え30mass ppm以下を含み、残部が不可避的不純物及び銅である希薄銅合金からなり、表面から50μm深さまでの表層における平均結晶粒径が20μm以下とするのが好ましい。
(2)分散粒子について
分散粒子のサイズは小さく沢山分布することが望ましい。その理由は、硫黄の析出サイトとして働くためサイズが小さく数が多いことが要求される。
【0036】
硫黄及びチタンは、TiO、TiO2、TiS、Ti−O−Sの形で化合物又は凝集物を形成し、残りのTiとSが固溶体の形で存在している。TiOのサイズが200nm以下、TiO2は1000nm以下、TiSは200nm以下、Ti−O−Sは300nm以下で結晶粒内に分布しているのがよい。結晶粒とは銅の結晶組織のことを意味する。
【0037】
但し、鋳造時の溶銅の保持時間や冷却状況により、形成される粒子サイズが変わるので鋳造条件の設定も必要である。
(3)連続鋳造圧延条件について
SCR連続鋳造圧延システム(South Continuous Rod System)は、SCR連続鋳造圧延装置の溶解炉内で、べ一ス素材を溶解して溶湯とし、その溶湯に所望の金属を添加して溶解し、この溶湯を用いて荒引き線(例えばφ8mm)を作製し、その荒引き線を、熱間圧延により例えばφ2.6mmに伸線加工するものである。またφ2.6mm以下のサイズ或いは板材、異形材にも同様に加工することができる。更に、丸型線材を角状に或いは異形条に圧延しても有効であるし、鋳造材をコンフォーム押出成形し、異形材を製作することもできる。
【0038】
SCR連続鋳造圧延により、鋳塊ロッドが加工度90%(30mm)〜99.8%(5mm)でワイヤロッドを造る、一例として、加工度99.3%でφ8mmワイヤロッドを造る方法を用いる。
(a)溶解炉内での溶銅造温度は、1100℃以上1320℃以下とする。溶銅の温度が高いとブローホールが多くなり、傷が発生するとともに粒子サイズが大きくなる傾向にあるので1320℃以下とする。1100℃以上としたのは、銅が固まりやすく製造が安定しないためであるが、溶銅温度は、出来るだけ低い温度が望ましい。
(b)熱間圧延温度は、最初の圧延ロールでの温度が880℃以下、最終圧延ロールで
の温度が550℃以上とするのがよい。
【0039】
通常の純銅製造条件と異なり、溶銅中での硫黄の晶出と熱間圧延中の硫黄の析出が本発明の課題であるので、その駆動力である固溶限をより小さくするためには、溶銅温度と熱間圧延温度を(a)、(b)とするのがよい。
【0040】
通常の熱間圧延温度は、最初の圧延ロールでの温度が950℃以下、最終圧延ロールでの温度が600℃以上であるが、固溶限をより小さくするためには、最初の圧延ロールでの温度が880℃以下、最終圧延ロールでの温度が550℃以上に設定する。
【0041】
550℃以上にする理由は、この温度以下ではワイヤロッドの傷が多いので製品にならないためである。熱間圧延温度は、最初の圧延ロールでの温度が880℃以下、最終圧延ロールでの温度が550℃以上で、できるだけ低い方が望ましい。こうすることで、軟化温度(直径φ8mm→φ2.6に加工後)が限りなく高純度銅(6N、軟化温度130℃)に近くなる。
(c)直径φ8mmサイズのワイヤロッドの導電率が102%IACS以上であり、冷間伸線加工後の線材(例えばφ2.6mm)の軟化温度が130℃〜148℃である軟質希薄銅合金線又は板状材料を得ることができる。
【0042】
工業的に使うためには、電気銅から製造した工業的に利用される純度の軟質銅線にて98%IACS以上必要であり、軟化温度はその工業的価値から見て148℃以下である。Tiを添加しない場合は、160〜165℃である。高純度銅(6N)の軟化温度は127〜130℃であったので、得られたデータから限界値を130℃とする。このわずかな違いは、高純度銅(6N)にない不可避的不純物にある。
【0043】
導電率は、無酸素銅のレベルで101.7%IACS程度であり、タフピッチ銅で101.5%IACS程度であり、Cu(6N)で102.8%IACSであるため、出来るだけ高純度銅(6N)に近い導電率であることが望ましい。
【0044】
銅はシャフト炉で溶解の後、還元状態の樋になるように制御した、すなわち還元ガス(CO)雰囲気の下で、希薄合金の構成元素の硫黄濃度、Ti濃度、酸素濃度を制御して鋳造し、圧延するワイヤロッドを安定して製造する方法がよい。銅酸化物の混入や粒子サイズが大きいので品質を低下させる。
【0045】
ここで、添加物としてTiを選択する理由は次の通りである。
(a)Tiは溶融銅の中で硫黄と結合し化合物を造りやすい。
(b)Zrなど他の添加金属に比べて加工でき扱いやすい。
(c)Nbなどに比べて安価である。
(d)酸化物を核として析出しやすい。
【0046】
以上により、本発明に係る軟質希薄銅合金材料は、溶融半田めっき材(線、板、箔)、軟質純銅、高導電率銅、やわらかい銅線として使用でき、生産性が高く、導電率、軟化温度、表面品質に優れた実用的な軟質希薄銅合金材料として得ることが可能となる。
【0047】
また、本発明に係る軟質希薄銅合金線はその表面にめっき層を形成してもよい。めっき層としては、例えば、錫、ニッケル、銀を主成分とするものを適用可能であり、いわゆるPbフリーめっきを用いてもよい。
【0048】
また、本発明に係る軟質希薄銅合金線を複数本撚り合わせた軟質希薄銅合金撚線として使用することも可能である。
【0049】
また、この同軸ケーブルの複数本をシールド層内に配置し、前記シールド層の外周にシースを設けた複合ケーブルとして使用することもできる。
【0050】
本発明に係る軟質希薄銅合金線は、形状は特に限定されず、断面丸形状の導体であっても、棒状のもの、平角導体であってもよい。
【0051】
また、上述の実施形態では、SCR連続鋳造圧延法によりワイヤロッドを作製し、熱間圧延にて軟質材を作製する例で説明したが、本発明は、双ロール式連続鋳造圧延法又はプロペルチ式連続鋳造圧延法により製造するようにしても良い。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、高い減衰特性と高い導電性を備え、かつ軟質銅材においても高い屈曲寿命を有する軟質希薄銅合金材料を用いた可動部用ケーブル及びその製造方法を提供できるという優れた効果が発揮されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】TiS粒子のSEM像を示す図である。
【図2】図1の分析結果を示す図である。
【図3】TiO2粒子のSEM像を示す図である。
【図4】図3の分析結果を示す図である。
【図5】本発明において、Ti−O−S粒子のSEM像を示す図である。
【図6】図5の分析結果を示す図である。
【図7】屈曲疲労試験の概略を示す図である。
【図8】400℃で1時間の焼鈍処理を施した後の、無酸素銅線を用いた比較材13と低酸素銅にTiを添加した軟質希薄銅合金線を用いた実施材7における屈曲寿命を測定したグラフである。
【図9】600℃で1時間の焼鈍処理を施した後の、無酸素銅線を用いた比較材14と低酸素銅にTiを添加した軟質希薄銅合金線を用いた実施材8における屈曲寿命を測定したグラフである。
【図10】比較材14の試料の幅方向の断面組織の写真を表した図である。
【図11】実施材8の幅方向の断面組織の写真を表した図である。
【図12】試料の表層における平均結晶粒サイズの測定方法について説明するための図面である。
【図13】本発明の可動部用ケーブルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
[実施形態1]
表1は、本実施形態における酸素濃度、S濃度及びTi濃度と、半軟化温度、導電率、分散粒子径及びこれらの総合評価との関係についての結果を示すものである。
【0055】
【表1】
先ず、実験材として、表1に示した酸素濃度、硫黄濃度、Ti濃度で、直径φ8mmの銅線(ワイヤロッド):加工度99.3%をそれぞれ作製した。φ8mmの銅線は、SCR連続鋳造圧延により、熱間圧延加工を施したものである。Tiは、シャフト炉で溶解された銅溶湯を還元ガス雰囲気で樋に流し、樋に流した銅溶湯を同じ還元ガス雰囲気の鋳造ポットに導き、この鋳造ポットにて、Tiを添加した後、これをノズルを通して鋳造輪と無端ベルトとの問に形成される鋳型にて鋳塊ロッドを作成した。この鋳塊ロッドを熱間圧延加工してφ8mmの銅線を作成したものである。その実験材を冷間伸線して、直径φ2.6mmのサイズにおける半軟化温度と導電率を測定し、またφ8mmの銅線における分散粒子サイズを評価した。
【0056】
酸素濃度は、酸素分析器(レコ(Leco;商標)酸素分析器)で測定した。硫黄、Tiの各濃度はICP発光分光分析器で分析した結果である。
【0057】
φ2.6mmのサイズにおける半軟化温度の測定は、400℃以下で各温度1時間の保持後、水中急冷し、引張試験を実施しその結果から求めた。室温での引張試験の結果と400℃で1時間のオイルバス熱処理した軟質銅線の引張試験の結果を用いて求め、この2つの引張試験の引張強さを足して2で割った値を示す強度に対応する温度を半軟化温度と定義し求めた。
【0058】
分散粒子のサイズは小さく沢山分布することが望ましい。その理由は、硫黄の析出サイトとして働くためサイズが小さく数が多いことが要求される。すなわち直径500nm以下の分散粒子が90%以上である場合を合格とした。ここに「サイズ」とは化合物のサイズであり、化合物の形状の長径と短径のうちの長径のサイズを意味する。また、「粒子」とは前記TiO、TiO2、TiS、Ti−O−Sのことを示す。また、「90%」とは、全体の粒子数に対しての該当粒子数の割合を示すものである。
【0059】
表1において、比較材1は、実験室でAr雰囲気において直径φ8mmの銅線を試作した結果であり、Tiを、0〜18mass ppm添加したものである。
【0060】
このTi添加で、Ti添加量ゼロの半軟化温度215℃に対して、13mass ppmは160℃まで低下して最小となり、15、18mass ppmの添加で高くなっており、要望の軟化温度148℃以下にはならなかった。しかし工業的に要望がある導電率は98%IACS以上であり満足していたが、総合評価は×であった。
【0061】
そこで、次にSCR連続鋳造圧延法にて、酸素濃度を7〜8mass ppmに調整してφ8mm銅線(ワイヤロッド)の試作を行った。
【0062】
比較材2は、SCR連続鋳造圧延法で試作した中でTi濃度の少ないもの(0、2mass ppm)であり、導電率は101.5%IACS以上であるが、半軟化温度が各164℃、157℃であり、要求の148℃以下を満足しないので、総合評価で、×となった。
【0063】
実施材1については、酸素濃度7〜8mass ppm、硫黄濃度5mass ppmとほぼ一定であり、Ti濃度の異なる(4〜25mass ppm)試作材の結果である。
【0064】
このTi濃度4〜25mass ppmの範囲では、軟化温度148℃以下であり、導電率も101.5%IACS以上であり、分散粒子サイズも500nm以下の粒子が90%以上であり良好である。そしてワイヤロッドの表面もきれいであり、いずれも製品性能として満足しているもので、総合評価で○である。
【0065】
ここで、導電率101.5%IACS以上を満たすものは、Ti濃度が4〜25mass ppmのときである。Ti濃度が13mass ppmのとき導電率が最大値である102.4%IACSを示し、この濃度の周辺では、導電率は、僅かに低い値であった。これは、Tiが13mass ppmのときに、銅中の硫黄分を化合物として捕捉することで、高純度銅(6N)に近い導電率を示したためである。
【0066】
よって、酸素濃度を高くし、Tiを添加することで、半軟化温度と導電率の双方を満足させることができる。比較材3は、Ti濃度25mass ppmを越える試作材である。この比較材3は、半軟化温度が要望を満足しているが、導電率が101.5%IACSを下回っているため、総合評価は×であった。
【0067】
比較材4は、Ti濃度を60mass ppmと高くした試作材である。この比較材4は、導電率は要望を満足しているが、半軟化温度は148℃以上であり、製品性能を満足していない。さらにワイヤロッドの表面傷も多い結果であり、製品にすることは難しかった。よって、Tiの添加量は60mass ppm未満がよい。
【0068】
次に、実施材2については、硫黄濃度を5mass ppmとし、Ti濃度を13〜10mass ppmとし、酸素濃度を変えて、酸素濃度の影響を検討した試作材である。
【0069】
酸素濃度に関しては、2mass ppmを越えから30mass ppm以下まで、大きく濃度が異なる試作材とした。但し、酸素が2mass ppm未満は、生産が難しく安定した製造できないため、総合評価は△である。また、酸素濃度を30mass ppmと高くしても半軟化温度と導電率の双方を満足することがわかった。2mass ppmを超え30mass ppm以下の酸素を含有していることから、この実施の形態では、いわゆる低酸素銅(LOC)を対象としている。
【0070】
また、比較材5に示すように、酸素が40mass ppmの場合には、ワイヤロッド表面の傷が多く、製品にならない状況であった。
【0071】
よって、酸素濃度が2mass ppmを越え30mass ppm以下の範囲とすることで、半軟化温度、導電率101.5%IACS以上、分散粒子サイズいずれの特性も満足させることができ、またワイヤロッドの表面もきれいであり、いずれも製品性能を満足させることができる。
【0072】
次に、実施材3は、それぞれ酸素濃度とTi濃度とを比較的同じ近い濃度とし、硫黄濃度を4〜20mass ppmと変えた試作材の例である。この実施材3においては、硫黄が2mass ppmより少ない試作材は、その原料面から実現できなかったが、Tiと硫黄の濃度を制御することで、半軟化温度と導電率の双方を満足させることができる。
【0073】
比較材6の硫黄濃度が18mass ppmで、Ti濃度が13mass ppmの場合には、半軟化温度が162℃で高く、必要特性を満足できなかった。また、特にワイヤロッドの表面品質が悪いので、製品化は難しかった。
【0074】
以上より、硫黄濃度が2〜12mass ppmの場合には、半軟化温度、導電率101.5%IACS以上、分散粒子サイズいずれの特性も満足しており、ワイヤロッドの表面もきれいですべての製品性能を満足することがわかった。
【0075】
また比較材7としてCu(6N)を用いた検討結果を示したが、半軟化温度127〜130℃であり、導電率も102.8%IACSであり、分散粒子サイズも、500nm以下の粒子はまったく認められなかった。
【0076】
【表2】
表2は、製造条件としての、溶融銅の温度、圧延温度、酸素濃度、S濃度及びTi濃度と、半軟化温度、導電率、分散粒子径及びこれらの総合評価との関係についての結果を示すものである。
【0077】
比較材8は、溶銅温度が高めの1330〜1350℃で且つ圧延温度が950〜600℃でφ8mmのワイヤロッドを試作した結果を示したものである。
【0078】
この比較材8は、半軟化温度と導電率は満足するものの、分散粒子のサイズに関しては、1000nm程度のものもあり500nm以上の粒子も10%を超えていた。よってこれは不適であるので、総合評価は×とした。
【0079】
実施材4は、溶銅温度が1200〜1320℃で且つ圧延温度が低めの880〜550℃でφ8mmのワイヤロッドを試作した結果を示したものである。この実施材4については、ワイヤ表面品質、分散粒子サイズも良好で、総合評価は○であった。
【0080】
比較材8は、溶銅温度が1100℃で且つ圧延温度が低めの880〜550℃でφ8mmのワイヤロッドを試作した結果を示したものである。この比較材8は、溶銅温度が低いため、ワイヤロッドの表面傷が多く製品には適さなかった。これは、溶銅温度が低いため、圧延時に傷が発生しやすいため、総合評価は×とした。
【0081】
比較材9は、溶銅温度が1300℃で且つ圧延温度が高めの950〜600℃でφ8mmのワイヤロッドを試作した結果を示したものである。この比較材9は、熱間圧延温度が高いため、ワイヤロッドの表面品質が良いが、分散粒子サイズも大きなものがあり、総合評価は×となった。
【0082】
比較材10は、溶銅温度が1350℃で且つ圧延温度が低めの880〜550℃でφ8mmのワイヤロッドを試作した結果を示したものである。この比較材10は、溶銅温度が高いため、分散粒子サイズが大きなものがあり、総合評価は×となった。
[分散粒子について]
(a)素材の酸素濃度を2mass ppmを越える量に増やしてチタンを添加する。これに
より、先ず溶銅中ではTiSとチタン酸化物(TiO2)やTi−O−S粒子が形成されると考えられる(図1、図3のSEM像と図2、図4の分析結果参照)。なお、図2、図4、図6において、PtおよびPdは観察のための蒸着元素である。
(b)次に熱間圧延温度を、通常の銅の製造条件(950〜600℃)よりも低く設定
(880〜550℃)することで、銅中に転位を導入し、Sが析出し易いようにする。これによって転位上へのSの析出又はチタンの酸化物(TiO2)を核としてSを析出させ、その一例として溶銅と同様Ti−O−S粒子等を形成させる(図5のSEM像と、図6の分析結果参照)。図1〜6は、表1の実施例1の上から三段目に示す酸素濃度、硫黄濃度、Ti濃度をもつφ8血mの銅線(ワイヤロッド)の横断面をSEM観察及びEDX分析にて評価したである。観察条件は、加速電圧15keV、エミッション電流100μAとした。
[軟質希薄銅合金線の軟質特性について]
表3は、無酸素銅線を用いた比較材12と低酸素銅に13mass ppmのTiを含有した軟質希薄銅合金線を用いた実施材5とを試料とし、異なる焼鈍温度で1時間の焼鈍を施したもののビッカース硬さ(Hv)を検証した表である。
【0083】
実施材5は、表1の実施例1に記載した13mass ppmのTiを含む合金組成と同じものを使用した。なお、試料としては、φ2.6mmの試料を用いた。この表によると、焼鈍温度が400℃のときに比較材12と実施材5とのビッカース硬さ(Hv)は同等レベルとなり、焼鈍温度が600℃でも同等のビッカース硬さ(Hv)を示している。このことから、本実施材5の軟質希薄銅合金線は十分な軟質特性を有するとともに、無酸素銅線と比較しても、特に焼鈍温度が400℃を超える領域においては優れた軟質特性を備えていることがわかる。
【0084】
【表3】
[軟質希薄銅合金線の耐力及び屈曲寿命について]
表4は、無酸素銅線を用いた比較材13と低酸素銅に13mass ppmのTiを含有した軟質希薄銅合金線を用いた実施材6を試料とし、異なる焼鈍温度で1時間の焼鈍を施したものの0.2%耐力値の推移を検証した表である。なお、試料としては、2.6mm径の試料を用いた。
【0085】
この表によると、焼鈍温度が400℃のときに比較材13と実施材6の0.2%耐力値が同等レベルであり、焼鈍温度600℃では実施材6も比較材13もほぼ同等の0.2%耐力値となっていることがわかる。
【0086】
【表4】
図7は、屈曲疲労試験機の正面図であり、屈曲寿命の測定方法は、屈曲疲労試験機を用いて行った。屈曲疲労試験装置は、屈曲ヘッド10、対向して配置されたリング11、試料12を屈曲ヘッド10に固定するクランプ13、試料12に荷重を加える錘14を有、試料表面に引張と圧縮の繰返し曲げひずみを与える試験である。
【0087】
屈曲疲労試験は、荷重を負荷し、試料表面に引張と圧縮の繰返し曲げひずみを与える試験である。試料は、(A)のように曲げ治具(図中リングと記載)の間にセットし荷重を負荷したまま、(B)のように治具が90度回転し曲げを与える。この操作で、曲げ治具に接している線材表面には、圧縮ひずみが、これに対応して反対側の表面には、引張ひずみが負荷される。その後、再び(A)の状態に戻る。次に(B)に示した向きと反対方向に90度回転し曲げを与える。この場合も、曲げ治具に接している線材表面には、圧縮ひずみが、これに対応して反対側の表面には、引張ひずみが負荷され(C)の状態になる。そして(C)から最初の状態(A)に戻る。この屈曲疲労1サイクル(A)(B)(A)(C)(A)に要する時間は4秒である。表面曲げ歪は以下の式により求めることができる。
【0088】
表面曲げ歪(%)=r/(R+r)×100
[R:素線曲げ半径(30mm)、r=素線半径]
図8は、無酸素銅線を用いた比較材14と実施材1のTi13mass ppmを添加した軟質希薄銅合金線を用いた実施材7における屈曲寿命を測定した結果を表すグラフである。ここでは試料としては、0.26mm径の線材に対して焼鈍温度400℃で1時間の焼鈍を施したものを用い、比較材14、比較材12と同様の成分組成であり、実施材7も実施材5と同様の成分組成のものを使用した。尚、本発明に係る軟質希薄銅合金線は、屈曲寿命の高さが要求される。図8の実験データによると、本発明に係る実施材7は比較材14に比して高い屈曲寿命を示した。
【0089】
図9は、無酸素銅線を用いた比較材15と低酸素銅にTiを添加した軟質希薄銅合金線を用いた実施材8における屈曲寿命を測定した結果を示すグラフである。ここでは試料としては、0.26mm径の線材に対して焼鈍温度600℃で1時間の焼鈍を施したものを用い、比較材15は比較材12と同様の成分組成であり、実施材8も実施材5と同様の成分組成のものを使用した。屈曲寿命の測定方法は、図8の測定方法と同様の条件により行った。この場合も、本発明に係る実施材8は比較材15に比して高い屈曲寿命を示した。この結果は、いずれの焼鈍条件下においても実施材7、8の方が比較材14、15に比して0.2%耐力値が大きい値を示していたことに起因するものであると理解される。
[軟質希薄銅合金線の結晶構造について]
図10は、実施材8の試料の幅方向の断面組織の写真を表したものであり、図11は、比較材15の幅方向の断面組織の写真を表したものである。図10は、比較材15の結晶構造を示し、図11は実施材8の結晶構造を示す。これをみると、比較材15の結晶構造は、表面部から中央部にかけて全体的に大きさの等しい結晶粒が均一に並んでいることがわかる。これに対し、実施材8の結晶構造は、全体的に結晶粒の大きさがまばらであり、特筆すべきは、試料の断面方向の表面付近に薄く形成されている層における結晶粒サイズが内部の結晶粒サイズに比べて極めて小さくなっていることである。
【0090】
発明者らは、比較材15には形成されていない、表層に現れた微細結晶粒層が実施材8の屈曲特性の向上に寄与しているものと考えている。
【0091】
このことは、通常であれば、焼鈍温度600℃で1時間の焼鈍処理を行えば、比較材15のように再結晶により均一に粗大化した結晶粒が形成されるものであると理解されるが、本発明の場合には、焼鈍温度600℃で1時間の焼鈍処理を行ってもなお、その表層には微細結晶粒層が残存していることから、軟質銅材でありながら、屈曲特性の良好な軟質希薄銅合金材料が得られたものであると考えられる。
【0092】
図12は、表層における平均結晶粒サイズの測定方法を説明するもので、図10及び図11に示す結晶構造の断面写真をもとに、実施材8及び比較材15の試料の表層における平均結晶粒サイズを測定した。ここに、表層における平均結晶粒サイズの測定は、0.26mm径の幅方向断面の表面から深さ方向に10μm間隔で50μmの深さまでのところの長さ1mmの線上の範囲での結晶粒サイズを測定し、夫々の実測値を平均した値を表層における平均結晶粒サイズとした。
【0093】
測定の結果、比較材15の表層における平均結晶粒サイズは、50μmであったのに対し、実施材8の表層における平均結晶粒サイズは、10μmである点で大きく異なっていた。表層の平均結晶粒サイズが細かいことによって、屈曲疲労試験による亀裂の進展が抑制され、屈曲疲労寿命が延びたと考えられる(結晶粒サイズが大きいと結晶粒界に沿って亀裂が進展してしまうが、結晶粒サイズが小さいと亀裂の進展の方向が変わるため、進展が抑制される)。このことが、上述のとおり、比較材と実施材との屈曲特性の面で大きな相違を生じたものと考えられる。
【0094】
また、2.6mm径である実施例6、比較例13の表層における平均結晶粒サイズは、2.6mm径の幅方向断面の表面から深さ方向に50μmの深さのところの長さ10mmの範囲での結晶粒サイズを測定した。
【0095】
測定の結果、比較材12の表層における平均結晶粒サイズは、100μmであったのに対し、実施材6の表層における平均結晶粒サイズは、20μmであった。
【0096】
本発明の効果を奏するものとして、表層の平均結晶粒サイズの上限値としては、20μm以下のものが好ましく、製造上の限界値から5μm以上のものが想定される。
[実施形態2]
【実施例1】
【0097】
図13は、本実施例の可動部用ケーブルの断面図である。本実施例の可動部用ケーブルは、中心導体1に直径64μmの実施形態1の表1に記載の実施材1のTiを13mass ppm含む希薄銅合金材料からなる素線を7本撚った撚り線を使用し、その外周に絶縁体2として厚さ130μmの発泡PFAを被覆し、外部導体3に直径32μmの実施材1のTiを13mass ppmを含む希薄銅合金材料からなる素線を46本右方向に巻付け、さらにその外周に厚さ50μmでPFAの絶縁体4を被覆し、作製したものである。
【0098】
本実施例における中心導体及び外部導体の内部の平均結晶粒サイズは、50μm程度であったのに対し、その表層における平均結晶粒サイズは、10μmである点で表層の平均結晶粒サイズが細かいものである。
[比較例1]
中心導体に直径64μmのTPC(タフピッチ銅)素線を7本撚った撚り線を使用し、その外周に絶縁体として厚さ130μmの発泡PFAを被覆し、外部導体に直径32μmのTPC素線を46本右方向に巻付け、さらにその外周に厚さ50μmでPFAを被覆し、可動部用ケーブルを作製した。
[比較例2]
中心導体に直径64μmのCu−0.19%Sn−0.19%In合金素線を7本撚った撚り線を使用し、その外周に絶縁体として厚さ130μmの発泡PFAを被覆し、外部導体に直径32μmの同じ銅合金素線を46本右方向に巻付け、さらにその外周に厚さ50μmでPFAを被覆し、可動部用ケーブルを作製した。
[比較例3]
比較例3は、中心導体及び外部導体の素材としてOFC(無酸素銅)を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法により可動部用ケーブルを作製した。
【0099】
【表5】
表5は、本実施形態の可動部用ケーブルの屈曲特性、減衰量及び導体抵抗を示すものである。屈曲試験の評価において、比較例3を△記号として、○記号は、比較例3を基準に寿命がそれを超えるものとした。
【0100】
表5に示すように、比較材14、15は屈曲特性の面では比較例3よりも優れているが、導体抵抗・減衰量の面では比較材14、15が比較材16よりも劣っている。比較材16の構造では導体抵抗が小さいものの、屈曲特性に劣っている。
【0101】
しかし、本発明の実施例1は、屈曲特性の面では比較例3よりも優れており、導体抵抗・減衰量の面においては比較例14、15よりも優れているものである。
【0102】
以上のように、本発明の可動部用ケーブルは、屈曲特性、減衰量及び導体抵抗のいずれにおいても優れた特性を有するものである。
【0103】
又、本発明の可動用ケーブルに使用する導体はTiを少量ドープするのみで、製造上はタフピッチ銅と大差ないため、適用による価格アップを抑えられる。
【実施例2】
【0104】
本実施例における同軸線、多芯同軸ケーブルは、実施例1と同様に、中心導体1に直径64μmの実施形態1の表1に記載の実施材1のTiを13mass ppm含む希薄銅合金材料からなる素線を7本撚った撚り線を使用し、その外周に絶縁体2として厚さ130μmの発泡PFAを被覆し、外部導体3に直径32μmの実施材1のTiを13mass ppmを含む希薄銅合金材料からなる素線を46本右方向に巻付け、さらにその外周に厚さ50μmでPFAの絶縁体4を被覆し、同軸線、多芯同軸ケーブルを作製したものである。
【0105】
又、本実施例における中心導体及び外部導体の内部の平均結晶粒サイズは、50μm程度であったのに対し、その表層における平均結晶粒サイズは、10μmである点で表層の平均結晶粒サイズが細かいものである。
【0106】
本実施例の同軸線、多芯同軸ケーブルのいずれにおいても、実施例1と同様に、屈曲特性、減衰量及び導体抵抗のいずれにおいても優れた特性を有するものである。
【実施例3】
【0107】
本実施例における複合多芯同軸ケーブルは、実施例1と同様に、中心導体1に直径64μmの実施形態1の表1に記載の実施材1のTiを13mass ppm含む希薄銅合金材料からなる素線を7本撚った撚り線を使用し、その外周に絶縁体2として厚さ130μmの発泡PFAを被覆し、外部導体3に直径32μmの実施材1のTiを13mass ppmを含む希薄銅合金材料からなる素線を46本右方向に巻付け、さらにその外周に厚さ50μmでPFAの絶縁体4を被覆し、これを複数本より合せ、テープ等を巻付けケーブリングし、その外周に一括シールド層を設け、そのシールド層の外周に外被を被覆して複合多芯同軸ケーブルを作製したものである。
【0108】
又、本実施例における中心導体及び外部導体の内部の平均結晶粒サイズは、50μm程度であったのに対し、その表層における平均結晶粒サイズは、10μmである点で表層の平均結晶粒サイズが細かいものである。
【0109】
本実施例の複合多芯同軸ケーブルは、実施例1と同様に、屈曲特性、減衰量及び導体抵抗のいずれにおいても優れた特性を有するものである。
【符号の説明】
【0110】
1・・・中心導体、2、4・・・絶縁層、3・・・外部導体。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な可動部用ケーブル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の科学技術においては、動力源としての電力や、電気信号など、あらゆる部分に電気が用いられており、それらを伝達するためにケーブルやリード線などの導線が用いられている。そして、その導線に用いられている素材としては、銅、銀などの導電率の高い金属が用いられ、とりわけ、コスト面などを考慮し、銅線が極めて多く用いられている。
【0003】
銅と一括りにする中にも、その分子の配列などに応じて、大きく分けて、硬質銅と軟質銅とに分けられる。そして利用目的に応じて所望の性質を有する種類の銅が用いられている。
【0004】
電子部品用リード線には、硬質銅線が多く用いられ、例えば、医療機器、産業用ロボット、ノート型パソコンなどの電子機器などに用いられるケーブルは、過酷な曲げ、ねじれ、引張りなどが組み合わさった外力が繰り返し負荷される環境下で使用されているため、硬直な硬質銅線は不的確であり、軟質銅線が用いられている。
【0005】
このような用途に使用される導線には、導電性が良好(高導電率)で、かつ、屈曲特性が良好であるという相反する特性が求められるが、今日までに、高導電性および耐屈曲性を維持する銅材料の開発が進められている。
【0006】
例えば、特許文献1に係る発明は、引張強さ、伸び及び導電率が良好な耐屈曲ケーブル用導体に関する発明であり、特に純度99.99wt%以上の無酸素銅に、純度99.99wt%以上のインジウムを0.05〜0.70mass%、純度99.9wt%以上のPを0.0001〜0.003mass%の濃度範囲で含有させてなる銅合金を線材に形成した耐屈曲ケーブル用導体について記載されている。
【0007】
また、特許文献2に係る発明には、インジウムが0.1〜1.0wt%、硼素が0.01〜0.1wt%、残部が銅である耐屈曲性銅合金線について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−363668号公報
【特許文献2】特開平9−256084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に係る発明は、あくまでも硬質銅線に関する発明であり、耐屈曲性に関する具体的な評価はされておらず、より耐屈曲性にすぐれる軟質銅線についての検討は何等なされていない。また、添加元素の量が多いため、導電性が低下してしまう。軟質銅線に関しては、まだまだ十分に検討がなされたとはいえない。
【0010】
また、特許文献2に係る発明は、軟質銅線に関する発明であるが、特許文献1に係る発明と同様に、添加元素の添加量が多いため、導電性が低下してしまう。
【0011】
一方で、原料となる銅材料として無酸素銅(OFC)などの高導電性銅材を選択することで高い導電性を確保することが考えられる。
【0012】
しかしながら、この無酸素銅(OFC)を原料とし、導電性を維持すべく他の元素を添加せずに使用した場合には、銅荒引線の加工度をあげて伸線することにより無酸素銅線内部の結晶組織を細かくすることによって耐屈曲性を向上させるとする考え方も有効かもしれないが、この場合には、伸線加工による加工硬化により硬質線材としての用途には適しているが、軟質線材への適用ができないという問題がある。
【0013】
従来、可動部に使用されるケーブルには、高い繰り返し屈曲性が求められ、それに伴いケーブルに使用される金属材料は、高強度金属を選択していた。一方、高強度金属は、引き換えに導電率が低いため導体抵抗が高く、高強度金属を適用した場合は、ケーブルで伝送する信号や電源が減衰しやすい。それを改善する手段として断面積アップの適用が考えられるが、ケーブル外径が大きくなるために限界があり、すべての可動用ケーブルへの適用はできない。
【0014】
本発明の目的は、高い減衰特性と高い導電性を備え、かつ軟質銅材においても高い屈曲寿命を有する軟質希薄銅合金線、軟質希薄銅合金板、軟質希薄銅合金撚線を用いた可動部用ケーブル及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、中心導体と、その外周に被覆された絶縁層と、前記絶縁層の外周に外部導体を有し、前記外部導体の外周に被覆されたジャケット層を有する可動部用ケーブルにおいて、前記中心導体及び前記外部導体の少なくとも一方が、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が不可避的不純物及び銅である希薄銅合金からなり、表面から50μm深さまでの平均結晶粒径が20μm以下であることを特徴とする。
【0016】
前記希薄銅合金の導電率が101.5%IACS以上であること、また、前記中心導体及び前記外部導体の少なくとも一方が、2mass ppmを越える量の酸素、Ti4〜25mass ppm、硫黄3〜12mass ppmを含み、残部が不可避的不純物及び銅である希薄銅合金からなることが好ましい。
【0017】
本発明は、2mass ppmを越える量の酸素を含有し、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti及びCrからなる群から選択された添加元素を含む希薄銅合金材料を、SCR連続鋳造圧延により、1100℃以上1320℃以下の溶銅温度で鋳造材を形成し、該鋳造材からワイヤロッドを作製し、そのワイヤロッドを最初の圧延ロールでの温度が880℃以下、最終圧延ロールでの温度が550℃以上の条件で熱間圧延して、これを伸線して導体を形成し、前記導体を複数本用意する工程と、
前記複数の導体のうちの一方を中心導体とし、その外周に絶縁体を施す工程と、
前記複数の導体のうちの他方の複数本を前記絶縁体上において編組することにより外部導体を形成する工程と、
該外部導体の外周に樹脂でジャケット層を施す工程とを備えることを特徴とする可動部用ケーブルの製造方法にある。
【0018】
本発明は、酸素が2mass ppmを越え、Ti4〜25mass ppm及び硫黄3〜12mass ppm含み、残部が不可避不純物及び銅である希薄銅合金材料を、SCR連続鋳造圧延により、1100℃以上1320℃以下の溶銅温度で鋳造材を形成し、該鋳造材からワイヤロッドを作製し、そのワイヤロッドを最初の圧延ロールでの温度が880℃以下、最終圧延ロールでの温度が550℃以上の条件で熱間圧延して、これを伸線して導体を形成し、前記導体を複数本用意する工程と、前記複数の導体のうちの一方を中心導体とし、その外周に絶縁体を施す工程と、前記複数の導体のうちの他方の複数本を前記絶縁体上において編組することにより外部導体を形成する工程と、該外部導体の外周に樹脂でジャケット層を施す工程とを備えることを特徴とする可動部用ケーブルの製造方法にあり、前記中心導体及び前記外部導体の少なくとも一方は、その導電率が101.5%IACS以上であることが好ましい。
【0019】
中心導体は、可動時に中心導体にかかるの応力を小さくするため、中心導体素線本数は出来るだけ多い方が望ましい。
【0020】
絶縁体は、高屈曲性とするため、可動時の摩擦が小さく、強度・絶縁性能に優れたふっ素樹脂が望ましい。具体的には、ETFE(テトラフルオロエチレンとエチレンとの共重合体)やFEP(テトラフルオロエチレン)、PFAが望ましい。
【0021】
外部導体は、高屈曲性とするため、横巻シールドタイプが望ましい。外部導体の材質は、表層に微細結晶層を有する前述の本発明の希薄銅合金材料が望ましい。外部導体の素線径は、可撓性が良く、ケーブル製造時の作業性がいい絶縁体の3〜30%程度が望ましい。可動用途に使用されるため、可動時の応力を低減するため、横巻ピッチはP/Pd=8〜20とすることが望ましい。
【0022】
ジャケットは、高屈曲性とするため、可動時の摩擦が小さく、強度・絶縁性能に優れたふっ素樹脂が望ましい。具体的には、ETFEやFEP、PFAが望ましい。
【0023】
以下、本発明の好適な実施の形態を詳述する。
【0024】
先ず、本発明の目的は、導電率101.5%IACS(万国標準軟銅(International Anneld Copper Standard)抵抗率1.7241×10-8Ωmを100%とした導電率)を満足する軟質型銅材としての軟質希薄銅合金材料を得ることにある。また、副次的な目的は、SCR連続鋳造設備を用い、表面傷が少なく、製造範囲が広く、安定生産が可能である。また、ワイヤロッドに対する加工度90%(例えば直径φ8mm→φ2.6mm)での軟化温度が148℃以下の材料の開発にある。
【0025】
高純度銅(6N、純度99.9999%)に関しては、加工度90%での軟化温度は130℃である。したがって安定生産が可能な130℃以上で148℃以下の軟化温度で軟質材の導電率が102%IACS以上である軟質銅を安定して製造できる軟質希薄銅合金材料としての素材とその製造条件を求めることを検討した。
【0026】
ここで、酸素濃度1〜2mass ppmの高純度銅(4N)を用い、実験室にて小型連続鋳造機(小型連鋳機)を用いて、溶湯にチタンを数mass ppm添加した溶湯から製造したφ8mmのワイヤロッドをφ2.6mm(加工度90%)にして軟化温度を測ると160〜168℃であり、これ以上低い軟化温度にはならない。また、導電率は、101.7%IACS程度である。よって、酸素濃度を低くして、Tiを添加しても、軟化温度を下げることができず、また高純度銅(6N)の導電率102.8%IACSよりも悪くなることがわかった。
【0027】
この原因は、溶湯の製造中に不可避的不純物として、硫黄を数mass ppm以上含み、この硫黄とチタンとでTiS等の硫化物が十分形成されないために、軟化温度が下がらないものと推測される。
【0028】
そこで、本発明では、軟化温度を下げることと、導電率を向上させるために、2つの方策を検討し、2つの効果を合わせることで目標を達成した。
【0029】
(a)と(b)により、銅中の硫黄が晶出と析出を行い、冷間伸線加工後に軟化温度と導電率を満足する銅ワイヤロッドができる。
[本発明に係る希薄銅合金材料及びSCR連続鋳造圧延の製造条件について]
(1)合金組成について
中心導体及び外部導体の少なくとも一方が、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が不可避的不純物及び銅である希薄銅合金からなる。
【0030】
添加元素として、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti及びCrからなる群から選択されたものを選んだ理由は、これらの元素は他の元素と結合しやすい活性元素であり、Sと結合しやすいためSをトラップすることができ、銅母材(マトリクス)を高純度化することができるためである。添加元素は1種以上含まれていてもよい。また、合金の性質に悪影響を及ぼすことのないその他の元素および不純物を合金に含有させることもできる。
【0031】
また、以下に説明する好適な実施の形態においては、酸素含有量が2を超え30mass ppm以下が良好であることを説明しているが、添加元素の添加量およびSの含有量によっては、合金の性質を備える範囲において、2を超え400mass ppmを含むことができる。
【0032】
さらに、導電率が101.5%IACS以上の軟質銅材を得る場合、不可避的不純物を含む純銅に3〜12mass ppmの硫黄と、2を越え30mass ppm以下の酸素と、Tiを4〜25mass ppm含む軟質希薄銅合金材料を用いてワイヤロッドとするのがよい。2mass ppmを越え30mass ppm以下の酸素を含有していることから、この実施の形態では、いわゆる低酸素銅(LOC)を対象としている。
【0033】
通常、純銅の工業的製造において、電気銅を製造する際に、硫黄が銅中に取り込まれてしまうため、硫黄を3mass ppm以下とするのは難しい。汎用電気銅の硫黄濃度上限は12mass ppmである。
【0034】
制御する酸素は、上述したように、少ないと軟化温度が下がり難いので2mass ppmを越える量とする。また酸素が多すぎると、熱間圧延工程で、表面傷が出やすくなるので30mass ppm以下とする。
【0035】
本発明に係る可動軸ケーブルの中心導体、外部導体に用いられる軟質希薄銅合金材料においては、Ti4〜25mass ppm、硫黄3〜12mass ppm、酸素2を越え30mass ppm以下を含み、残部が不可避的不純物及び銅である希薄銅合金からなり、表面から50μm深さまでの表層における平均結晶粒径が20μm以下とするのが好ましい。
(2)分散粒子について
分散粒子のサイズは小さく沢山分布することが望ましい。その理由は、硫黄の析出サイトとして働くためサイズが小さく数が多いことが要求される。
【0036】
硫黄及びチタンは、TiO、TiO2、TiS、Ti−O−Sの形で化合物又は凝集物を形成し、残りのTiとSが固溶体の形で存在している。TiOのサイズが200nm以下、TiO2は1000nm以下、TiSは200nm以下、Ti−O−Sは300nm以下で結晶粒内に分布しているのがよい。結晶粒とは銅の結晶組織のことを意味する。
【0037】
但し、鋳造時の溶銅の保持時間や冷却状況により、形成される粒子サイズが変わるので鋳造条件の設定も必要である。
(3)連続鋳造圧延条件について
SCR連続鋳造圧延システム(South Continuous Rod System)は、SCR連続鋳造圧延装置の溶解炉内で、べ一ス素材を溶解して溶湯とし、その溶湯に所望の金属を添加して溶解し、この溶湯を用いて荒引き線(例えばφ8mm)を作製し、その荒引き線を、熱間圧延により例えばφ2.6mmに伸線加工するものである。またφ2.6mm以下のサイズ或いは板材、異形材にも同様に加工することができる。更に、丸型線材を角状に或いは異形条に圧延しても有効であるし、鋳造材をコンフォーム押出成形し、異形材を製作することもできる。
【0038】
SCR連続鋳造圧延により、鋳塊ロッドが加工度90%(30mm)〜99.8%(5mm)でワイヤロッドを造る、一例として、加工度99.3%でφ8mmワイヤロッドを造る方法を用いる。
(a)溶解炉内での溶銅造温度は、1100℃以上1320℃以下とする。溶銅の温度が高いとブローホールが多くなり、傷が発生するとともに粒子サイズが大きくなる傾向にあるので1320℃以下とする。1100℃以上としたのは、銅が固まりやすく製造が安定しないためであるが、溶銅温度は、出来るだけ低い温度が望ましい。
(b)熱間圧延温度は、最初の圧延ロールでの温度が880℃以下、最終圧延ロールで
の温度が550℃以上とするのがよい。
【0039】
通常の純銅製造条件と異なり、溶銅中での硫黄の晶出と熱間圧延中の硫黄の析出が本発明の課題であるので、その駆動力である固溶限をより小さくするためには、溶銅温度と熱間圧延温度を(a)、(b)とするのがよい。
【0040】
通常の熱間圧延温度は、最初の圧延ロールでの温度が950℃以下、最終圧延ロールでの温度が600℃以上であるが、固溶限をより小さくするためには、最初の圧延ロールでの温度が880℃以下、最終圧延ロールでの温度が550℃以上に設定する。
【0041】
550℃以上にする理由は、この温度以下ではワイヤロッドの傷が多いので製品にならないためである。熱間圧延温度は、最初の圧延ロールでの温度が880℃以下、最終圧延ロールでの温度が550℃以上で、できるだけ低い方が望ましい。こうすることで、軟化温度(直径φ8mm→φ2.6に加工後)が限りなく高純度銅(6N、軟化温度130℃)に近くなる。
(c)直径φ8mmサイズのワイヤロッドの導電率が102%IACS以上であり、冷間伸線加工後の線材(例えばφ2.6mm)の軟化温度が130℃〜148℃である軟質希薄銅合金線又は板状材料を得ることができる。
【0042】
工業的に使うためには、電気銅から製造した工業的に利用される純度の軟質銅線にて98%IACS以上必要であり、軟化温度はその工業的価値から見て148℃以下である。Tiを添加しない場合は、160〜165℃である。高純度銅(6N)の軟化温度は127〜130℃であったので、得られたデータから限界値を130℃とする。このわずかな違いは、高純度銅(6N)にない不可避的不純物にある。
【0043】
導電率は、無酸素銅のレベルで101.7%IACS程度であり、タフピッチ銅で101.5%IACS程度であり、Cu(6N)で102.8%IACSであるため、出来るだけ高純度銅(6N)に近い導電率であることが望ましい。
【0044】
銅はシャフト炉で溶解の後、還元状態の樋になるように制御した、すなわち還元ガス(CO)雰囲気の下で、希薄合金の構成元素の硫黄濃度、Ti濃度、酸素濃度を制御して鋳造し、圧延するワイヤロッドを安定して製造する方法がよい。銅酸化物の混入や粒子サイズが大きいので品質を低下させる。
【0045】
ここで、添加物としてTiを選択する理由は次の通りである。
(a)Tiは溶融銅の中で硫黄と結合し化合物を造りやすい。
(b)Zrなど他の添加金属に比べて加工でき扱いやすい。
(c)Nbなどに比べて安価である。
(d)酸化物を核として析出しやすい。
【0046】
以上により、本発明に係る軟質希薄銅合金材料は、溶融半田めっき材(線、板、箔)、軟質純銅、高導電率銅、やわらかい銅線として使用でき、生産性が高く、導電率、軟化温度、表面品質に優れた実用的な軟質希薄銅合金材料として得ることが可能となる。
【0047】
また、本発明に係る軟質希薄銅合金線はその表面にめっき層を形成してもよい。めっき層としては、例えば、錫、ニッケル、銀を主成分とするものを適用可能であり、いわゆるPbフリーめっきを用いてもよい。
【0048】
また、本発明に係る軟質希薄銅合金線を複数本撚り合わせた軟質希薄銅合金撚線として使用することも可能である。
【0049】
また、この同軸ケーブルの複数本をシールド層内に配置し、前記シールド層の外周にシースを設けた複合ケーブルとして使用することもできる。
【0050】
本発明に係る軟質希薄銅合金線は、形状は特に限定されず、断面丸形状の導体であっても、棒状のもの、平角導体であってもよい。
【0051】
また、上述の実施形態では、SCR連続鋳造圧延法によりワイヤロッドを作製し、熱間圧延にて軟質材を作製する例で説明したが、本発明は、双ロール式連続鋳造圧延法又はプロペルチ式連続鋳造圧延法により製造するようにしても良い。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、高い減衰特性と高い導電性を備え、かつ軟質銅材においても高い屈曲寿命を有する軟質希薄銅合金材料を用いた可動部用ケーブル及びその製造方法を提供できるという優れた効果が発揮されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】TiS粒子のSEM像を示す図である。
【図2】図1の分析結果を示す図である。
【図3】TiO2粒子のSEM像を示す図である。
【図4】図3の分析結果を示す図である。
【図5】本発明において、Ti−O−S粒子のSEM像を示す図である。
【図6】図5の分析結果を示す図である。
【図7】屈曲疲労試験の概略を示す図である。
【図8】400℃で1時間の焼鈍処理を施した後の、無酸素銅線を用いた比較材13と低酸素銅にTiを添加した軟質希薄銅合金線を用いた実施材7における屈曲寿命を測定したグラフである。
【図9】600℃で1時間の焼鈍処理を施した後の、無酸素銅線を用いた比較材14と低酸素銅にTiを添加した軟質希薄銅合金線を用いた実施材8における屈曲寿命を測定したグラフである。
【図10】比較材14の試料の幅方向の断面組織の写真を表した図である。
【図11】実施材8の幅方向の断面組織の写真を表した図である。
【図12】試料の表層における平均結晶粒サイズの測定方法について説明するための図面である。
【図13】本発明の可動部用ケーブルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
[実施形態1]
表1は、本実施形態における酸素濃度、S濃度及びTi濃度と、半軟化温度、導電率、分散粒子径及びこれらの総合評価との関係についての結果を示すものである。
【0055】
【表1】
先ず、実験材として、表1に示した酸素濃度、硫黄濃度、Ti濃度で、直径φ8mmの銅線(ワイヤロッド):加工度99.3%をそれぞれ作製した。φ8mmの銅線は、SCR連続鋳造圧延により、熱間圧延加工を施したものである。Tiは、シャフト炉で溶解された銅溶湯を還元ガス雰囲気で樋に流し、樋に流した銅溶湯を同じ還元ガス雰囲気の鋳造ポットに導き、この鋳造ポットにて、Tiを添加した後、これをノズルを通して鋳造輪と無端ベルトとの問に形成される鋳型にて鋳塊ロッドを作成した。この鋳塊ロッドを熱間圧延加工してφ8mmの銅線を作成したものである。その実験材を冷間伸線して、直径φ2.6mmのサイズにおける半軟化温度と導電率を測定し、またφ8mmの銅線における分散粒子サイズを評価した。
【0056】
酸素濃度は、酸素分析器(レコ(Leco;商標)酸素分析器)で測定した。硫黄、Tiの各濃度はICP発光分光分析器で分析した結果である。
【0057】
φ2.6mmのサイズにおける半軟化温度の測定は、400℃以下で各温度1時間の保持後、水中急冷し、引張試験を実施しその結果から求めた。室温での引張試験の結果と400℃で1時間のオイルバス熱処理した軟質銅線の引張試験の結果を用いて求め、この2つの引張試験の引張強さを足して2で割った値を示す強度に対応する温度を半軟化温度と定義し求めた。
【0058】
分散粒子のサイズは小さく沢山分布することが望ましい。その理由は、硫黄の析出サイトとして働くためサイズが小さく数が多いことが要求される。すなわち直径500nm以下の分散粒子が90%以上である場合を合格とした。ここに「サイズ」とは化合物のサイズであり、化合物の形状の長径と短径のうちの長径のサイズを意味する。また、「粒子」とは前記TiO、TiO2、TiS、Ti−O−Sのことを示す。また、「90%」とは、全体の粒子数に対しての該当粒子数の割合を示すものである。
【0059】
表1において、比較材1は、実験室でAr雰囲気において直径φ8mmの銅線を試作した結果であり、Tiを、0〜18mass ppm添加したものである。
【0060】
このTi添加で、Ti添加量ゼロの半軟化温度215℃に対して、13mass ppmは160℃まで低下して最小となり、15、18mass ppmの添加で高くなっており、要望の軟化温度148℃以下にはならなかった。しかし工業的に要望がある導電率は98%IACS以上であり満足していたが、総合評価は×であった。
【0061】
そこで、次にSCR連続鋳造圧延法にて、酸素濃度を7〜8mass ppmに調整してφ8mm銅線(ワイヤロッド)の試作を行った。
【0062】
比較材2は、SCR連続鋳造圧延法で試作した中でTi濃度の少ないもの(0、2mass ppm)であり、導電率は101.5%IACS以上であるが、半軟化温度が各164℃、157℃であり、要求の148℃以下を満足しないので、総合評価で、×となった。
【0063】
実施材1については、酸素濃度7〜8mass ppm、硫黄濃度5mass ppmとほぼ一定であり、Ti濃度の異なる(4〜25mass ppm)試作材の結果である。
【0064】
このTi濃度4〜25mass ppmの範囲では、軟化温度148℃以下であり、導電率も101.5%IACS以上であり、分散粒子サイズも500nm以下の粒子が90%以上であり良好である。そしてワイヤロッドの表面もきれいであり、いずれも製品性能として満足しているもので、総合評価で○である。
【0065】
ここで、導電率101.5%IACS以上を満たすものは、Ti濃度が4〜25mass ppmのときである。Ti濃度が13mass ppmのとき導電率が最大値である102.4%IACSを示し、この濃度の周辺では、導電率は、僅かに低い値であった。これは、Tiが13mass ppmのときに、銅中の硫黄分を化合物として捕捉することで、高純度銅(6N)に近い導電率を示したためである。
【0066】
よって、酸素濃度を高くし、Tiを添加することで、半軟化温度と導電率の双方を満足させることができる。比較材3は、Ti濃度25mass ppmを越える試作材である。この比較材3は、半軟化温度が要望を満足しているが、導電率が101.5%IACSを下回っているため、総合評価は×であった。
【0067】
比較材4は、Ti濃度を60mass ppmと高くした試作材である。この比較材4は、導電率は要望を満足しているが、半軟化温度は148℃以上であり、製品性能を満足していない。さらにワイヤロッドの表面傷も多い結果であり、製品にすることは難しかった。よって、Tiの添加量は60mass ppm未満がよい。
【0068】
次に、実施材2については、硫黄濃度を5mass ppmとし、Ti濃度を13〜10mass ppmとし、酸素濃度を変えて、酸素濃度の影響を検討した試作材である。
【0069】
酸素濃度に関しては、2mass ppmを越えから30mass ppm以下まで、大きく濃度が異なる試作材とした。但し、酸素が2mass ppm未満は、生産が難しく安定した製造できないため、総合評価は△である。また、酸素濃度を30mass ppmと高くしても半軟化温度と導電率の双方を満足することがわかった。2mass ppmを超え30mass ppm以下の酸素を含有していることから、この実施の形態では、いわゆる低酸素銅(LOC)を対象としている。
【0070】
また、比較材5に示すように、酸素が40mass ppmの場合には、ワイヤロッド表面の傷が多く、製品にならない状況であった。
【0071】
よって、酸素濃度が2mass ppmを越え30mass ppm以下の範囲とすることで、半軟化温度、導電率101.5%IACS以上、分散粒子サイズいずれの特性も満足させることができ、またワイヤロッドの表面もきれいであり、いずれも製品性能を満足させることができる。
【0072】
次に、実施材3は、それぞれ酸素濃度とTi濃度とを比較的同じ近い濃度とし、硫黄濃度を4〜20mass ppmと変えた試作材の例である。この実施材3においては、硫黄が2mass ppmより少ない試作材は、その原料面から実現できなかったが、Tiと硫黄の濃度を制御することで、半軟化温度と導電率の双方を満足させることができる。
【0073】
比較材6の硫黄濃度が18mass ppmで、Ti濃度が13mass ppmの場合には、半軟化温度が162℃で高く、必要特性を満足できなかった。また、特にワイヤロッドの表面品質が悪いので、製品化は難しかった。
【0074】
以上より、硫黄濃度が2〜12mass ppmの場合には、半軟化温度、導電率101.5%IACS以上、分散粒子サイズいずれの特性も満足しており、ワイヤロッドの表面もきれいですべての製品性能を満足することがわかった。
【0075】
また比較材7としてCu(6N)を用いた検討結果を示したが、半軟化温度127〜130℃であり、導電率も102.8%IACSであり、分散粒子サイズも、500nm以下の粒子はまったく認められなかった。
【0076】
【表2】
表2は、製造条件としての、溶融銅の温度、圧延温度、酸素濃度、S濃度及びTi濃度と、半軟化温度、導電率、分散粒子径及びこれらの総合評価との関係についての結果を示すものである。
【0077】
比較材8は、溶銅温度が高めの1330〜1350℃で且つ圧延温度が950〜600℃でφ8mmのワイヤロッドを試作した結果を示したものである。
【0078】
この比較材8は、半軟化温度と導電率は満足するものの、分散粒子のサイズに関しては、1000nm程度のものもあり500nm以上の粒子も10%を超えていた。よってこれは不適であるので、総合評価は×とした。
【0079】
実施材4は、溶銅温度が1200〜1320℃で且つ圧延温度が低めの880〜550℃でφ8mmのワイヤロッドを試作した結果を示したものである。この実施材4については、ワイヤ表面品質、分散粒子サイズも良好で、総合評価は○であった。
【0080】
比較材8は、溶銅温度が1100℃で且つ圧延温度が低めの880〜550℃でφ8mmのワイヤロッドを試作した結果を示したものである。この比較材8は、溶銅温度が低いため、ワイヤロッドの表面傷が多く製品には適さなかった。これは、溶銅温度が低いため、圧延時に傷が発生しやすいため、総合評価は×とした。
【0081】
比較材9は、溶銅温度が1300℃で且つ圧延温度が高めの950〜600℃でφ8mmのワイヤロッドを試作した結果を示したものである。この比較材9は、熱間圧延温度が高いため、ワイヤロッドの表面品質が良いが、分散粒子サイズも大きなものがあり、総合評価は×となった。
【0082】
比較材10は、溶銅温度が1350℃で且つ圧延温度が低めの880〜550℃でφ8mmのワイヤロッドを試作した結果を示したものである。この比較材10は、溶銅温度が高いため、分散粒子サイズが大きなものがあり、総合評価は×となった。
[分散粒子について]
(a)素材の酸素濃度を2mass ppmを越える量に増やしてチタンを添加する。これに
より、先ず溶銅中ではTiSとチタン酸化物(TiO2)やTi−O−S粒子が形成されると考えられる(図1、図3のSEM像と図2、図4の分析結果参照)。なお、図2、図4、図6において、PtおよびPdは観察のための蒸着元素である。
(b)次に熱間圧延温度を、通常の銅の製造条件(950〜600℃)よりも低く設定
(880〜550℃)することで、銅中に転位を導入し、Sが析出し易いようにする。これによって転位上へのSの析出又はチタンの酸化物(TiO2)を核としてSを析出させ、その一例として溶銅と同様Ti−O−S粒子等を形成させる(図5のSEM像と、図6の分析結果参照)。図1〜6は、表1の実施例1の上から三段目に示す酸素濃度、硫黄濃度、Ti濃度をもつφ8血mの銅線(ワイヤロッド)の横断面をSEM観察及びEDX分析にて評価したである。観察条件は、加速電圧15keV、エミッション電流100μAとした。
[軟質希薄銅合金線の軟質特性について]
表3は、無酸素銅線を用いた比較材12と低酸素銅に13mass ppmのTiを含有した軟質希薄銅合金線を用いた実施材5とを試料とし、異なる焼鈍温度で1時間の焼鈍を施したもののビッカース硬さ(Hv)を検証した表である。
【0083】
実施材5は、表1の実施例1に記載した13mass ppmのTiを含む合金組成と同じものを使用した。なお、試料としては、φ2.6mmの試料を用いた。この表によると、焼鈍温度が400℃のときに比較材12と実施材5とのビッカース硬さ(Hv)は同等レベルとなり、焼鈍温度が600℃でも同等のビッカース硬さ(Hv)を示している。このことから、本実施材5の軟質希薄銅合金線は十分な軟質特性を有するとともに、無酸素銅線と比較しても、特に焼鈍温度が400℃を超える領域においては優れた軟質特性を備えていることがわかる。
【0084】
【表3】
[軟質希薄銅合金線の耐力及び屈曲寿命について]
表4は、無酸素銅線を用いた比較材13と低酸素銅に13mass ppmのTiを含有した軟質希薄銅合金線を用いた実施材6を試料とし、異なる焼鈍温度で1時間の焼鈍を施したものの0.2%耐力値の推移を検証した表である。なお、試料としては、2.6mm径の試料を用いた。
【0085】
この表によると、焼鈍温度が400℃のときに比較材13と実施材6の0.2%耐力値が同等レベルであり、焼鈍温度600℃では実施材6も比較材13もほぼ同等の0.2%耐力値となっていることがわかる。
【0086】
【表4】
図7は、屈曲疲労試験機の正面図であり、屈曲寿命の測定方法は、屈曲疲労試験機を用いて行った。屈曲疲労試験装置は、屈曲ヘッド10、対向して配置されたリング11、試料12を屈曲ヘッド10に固定するクランプ13、試料12に荷重を加える錘14を有、試料表面に引張と圧縮の繰返し曲げひずみを与える試験である。
【0087】
屈曲疲労試験は、荷重を負荷し、試料表面に引張と圧縮の繰返し曲げひずみを与える試験である。試料は、(A)のように曲げ治具(図中リングと記載)の間にセットし荷重を負荷したまま、(B)のように治具が90度回転し曲げを与える。この操作で、曲げ治具に接している線材表面には、圧縮ひずみが、これに対応して反対側の表面には、引張ひずみが負荷される。その後、再び(A)の状態に戻る。次に(B)に示した向きと反対方向に90度回転し曲げを与える。この場合も、曲げ治具に接している線材表面には、圧縮ひずみが、これに対応して反対側の表面には、引張ひずみが負荷され(C)の状態になる。そして(C)から最初の状態(A)に戻る。この屈曲疲労1サイクル(A)(B)(A)(C)(A)に要する時間は4秒である。表面曲げ歪は以下の式により求めることができる。
【0088】
表面曲げ歪(%)=r/(R+r)×100
[R:素線曲げ半径(30mm)、r=素線半径]
図8は、無酸素銅線を用いた比較材14と実施材1のTi13mass ppmを添加した軟質希薄銅合金線を用いた実施材7における屈曲寿命を測定した結果を表すグラフである。ここでは試料としては、0.26mm径の線材に対して焼鈍温度400℃で1時間の焼鈍を施したものを用い、比較材14、比較材12と同様の成分組成であり、実施材7も実施材5と同様の成分組成のものを使用した。尚、本発明に係る軟質希薄銅合金線は、屈曲寿命の高さが要求される。図8の実験データによると、本発明に係る実施材7は比較材14に比して高い屈曲寿命を示した。
【0089】
図9は、無酸素銅線を用いた比較材15と低酸素銅にTiを添加した軟質希薄銅合金線を用いた実施材8における屈曲寿命を測定した結果を示すグラフである。ここでは試料としては、0.26mm径の線材に対して焼鈍温度600℃で1時間の焼鈍を施したものを用い、比較材15は比較材12と同様の成分組成であり、実施材8も実施材5と同様の成分組成のものを使用した。屈曲寿命の測定方法は、図8の測定方法と同様の条件により行った。この場合も、本発明に係る実施材8は比較材15に比して高い屈曲寿命を示した。この結果は、いずれの焼鈍条件下においても実施材7、8の方が比較材14、15に比して0.2%耐力値が大きい値を示していたことに起因するものであると理解される。
[軟質希薄銅合金線の結晶構造について]
図10は、実施材8の試料の幅方向の断面組織の写真を表したものであり、図11は、比較材15の幅方向の断面組織の写真を表したものである。図10は、比較材15の結晶構造を示し、図11は実施材8の結晶構造を示す。これをみると、比較材15の結晶構造は、表面部から中央部にかけて全体的に大きさの等しい結晶粒が均一に並んでいることがわかる。これに対し、実施材8の結晶構造は、全体的に結晶粒の大きさがまばらであり、特筆すべきは、試料の断面方向の表面付近に薄く形成されている層における結晶粒サイズが内部の結晶粒サイズに比べて極めて小さくなっていることである。
【0090】
発明者らは、比較材15には形成されていない、表層に現れた微細結晶粒層が実施材8の屈曲特性の向上に寄与しているものと考えている。
【0091】
このことは、通常であれば、焼鈍温度600℃で1時間の焼鈍処理を行えば、比較材15のように再結晶により均一に粗大化した結晶粒が形成されるものであると理解されるが、本発明の場合には、焼鈍温度600℃で1時間の焼鈍処理を行ってもなお、その表層には微細結晶粒層が残存していることから、軟質銅材でありながら、屈曲特性の良好な軟質希薄銅合金材料が得られたものであると考えられる。
【0092】
図12は、表層における平均結晶粒サイズの測定方法を説明するもので、図10及び図11に示す結晶構造の断面写真をもとに、実施材8及び比較材15の試料の表層における平均結晶粒サイズを測定した。ここに、表層における平均結晶粒サイズの測定は、0.26mm径の幅方向断面の表面から深さ方向に10μm間隔で50μmの深さまでのところの長さ1mmの線上の範囲での結晶粒サイズを測定し、夫々の実測値を平均した値を表層における平均結晶粒サイズとした。
【0093】
測定の結果、比較材15の表層における平均結晶粒サイズは、50μmであったのに対し、実施材8の表層における平均結晶粒サイズは、10μmである点で大きく異なっていた。表層の平均結晶粒サイズが細かいことによって、屈曲疲労試験による亀裂の進展が抑制され、屈曲疲労寿命が延びたと考えられる(結晶粒サイズが大きいと結晶粒界に沿って亀裂が進展してしまうが、結晶粒サイズが小さいと亀裂の進展の方向が変わるため、進展が抑制される)。このことが、上述のとおり、比較材と実施材との屈曲特性の面で大きな相違を生じたものと考えられる。
【0094】
また、2.6mm径である実施例6、比較例13の表層における平均結晶粒サイズは、2.6mm径の幅方向断面の表面から深さ方向に50μmの深さのところの長さ10mmの範囲での結晶粒サイズを測定した。
【0095】
測定の結果、比較材12の表層における平均結晶粒サイズは、100μmであったのに対し、実施材6の表層における平均結晶粒サイズは、20μmであった。
【0096】
本発明の効果を奏するものとして、表層の平均結晶粒サイズの上限値としては、20μm以下のものが好ましく、製造上の限界値から5μm以上のものが想定される。
[実施形態2]
【実施例1】
【0097】
図13は、本実施例の可動部用ケーブルの断面図である。本実施例の可動部用ケーブルは、中心導体1に直径64μmの実施形態1の表1に記載の実施材1のTiを13mass ppm含む希薄銅合金材料からなる素線を7本撚った撚り線を使用し、その外周に絶縁体2として厚さ130μmの発泡PFAを被覆し、外部導体3に直径32μmの実施材1のTiを13mass ppmを含む希薄銅合金材料からなる素線を46本右方向に巻付け、さらにその外周に厚さ50μmでPFAの絶縁体4を被覆し、作製したものである。
【0098】
本実施例における中心導体及び外部導体の内部の平均結晶粒サイズは、50μm程度であったのに対し、その表層における平均結晶粒サイズは、10μmである点で表層の平均結晶粒サイズが細かいものである。
[比較例1]
中心導体に直径64μmのTPC(タフピッチ銅)素線を7本撚った撚り線を使用し、その外周に絶縁体として厚さ130μmの発泡PFAを被覆し、外部導体に直径32μmのTPC素線を46本右方向に巻付け、さらにその外周に厚さ50μmでPFAを被覆し、可動部用ケーブルを作製した。
[比較例2]
中心導体に直径64μmのCu−0.19%Sn−0.19%In合金素線を7本撚った撚り線を使用し、その外周に絶縁体として厚さ130μmの発泡PFAを被覆し、外部導体に直径32μmの同じ銅合金素線を46本右方向に巻付け、さらにその外周に厚さ50μmでPFAを被覆し、可動部用ケーブルを作製した。
[比較例3]
比較例3は、中心導体及び外部導体の素材としてOFC(無酸素銅)を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法により可動部用ケーブルを作製した。
【0099】
【表5】
表5は、本実施形態の可動部用ケーブルの屈曲特性、減衰量及び導体抵抗を示すものである。屈曲試験の評価において、比較例3を△記号として、○記号は、比較例3を基準に寿命がそれを超えるものとした。
【0100】
表5に示すように、比較材14、15は屈曲特性の面では比較例3よりも優れているが、導体抵抗・減衰量の面では比較材14、15が比較材16よりも劣っている。比較材16の構造では導体抵抗が小さいものの、屈曲特性に劣っている。
【0101】
しかし、本発明の実施例1は、屈曲特性の面では比較例3よりも優れており、導体抵抗・減衰量の面においては比較例14、15よりも優れているものである。
【0102】
以上のように、本発明の可動部用ケーブルは、屈曲特性、減衰量及び導体抵抗のいずれにおいても優れた特性を有するものである。
【0103】
又、本発明の可動用ケーブルに使用する導体はTiを少量ドープするのみで、製造上はタフピッチ銅と大差ないため、適用による価格アップを抑えられる。
【実施例2】
【0104】
本実施例における同軸線、多芯同軸ケーブルは、実施例1と同様に、中心導体1に直径64μmの実施形態1の表1に記載の実施材1のTiを13mass ppm含む希薄銅合金材料からなる素線を7本撚った撚り線を使用し、その外周に絶縁体2として厚さ130μmの発泡PFAを被覆し、外部導体3に直径32μmの実施材1のTiを13mass ppmを含む希薄銅合金材料からなる素線を46本右方向に巻付け、さらにその外周に厚さ50μmでPFAの絶縁体4を被覆し、同軸線、多芯同軸ケーブルを作製したものである。
【0105】
又、本実施例における中心導体及び外部導体の内部の平均結晶粒サイズは、50μm程度であったのに対し、その表層における平均結晶粒サイズは、10μmである点で表層の平均結晶粒サイズが細かいものである。
【0106】
本実施例の同軸線、多芯同軸ケーブルのいずれにおいても、実施例1と同様に、屈曲特性、減衰量及び導体抵抗のいずれにおいても優れた特性を有するものである。
【実施例3】
【0107】
本実施例における複合多芯同軸ケーブルは、実施例1と同様に、中心導体1に直径64μmの実施形態1の表1に記載の実施材1のTiを13mass ppm含む希薄銅合金材料からなる素線を7本撚った撚り線を使用し、その外周に絶縁体2として厚さ130μmの発泡PFAを被覆し、外部導体3に直径32μmの実施材1のTiを13mass ppmを含む希薄銅合金材料からなる素線を46本右方向に巻付け、さらにその外周に厚さ50μmでPFAの絶縁体4を被覆し、これを複数本より合せ、テープ等を巻付けケーブリングし、その外周に一括シールド層を設け、そのシールド層の外周に外被を被覆して複合多芯同軸ケーブルを作製したものである。
【0108】
又、本実施例における中心導体及び外部導体の内部の平均結晶粒サイズは、50μm程度であったのに対し、その表層における平均結晶粒サイズは、10μmである点で表層の平均結晶粒サイズが細かいものである。
【0109】
本実施例の複合多芯同軸ケーブルは、実施例1と同様に、屈曲特性、減衰量及び導体抵抗のいずれにおいても優れた特性を有するものである。
【符号の説明】
【0110】
1・・・中心導体、2、4・・・絶縁層、3・・・外部導体。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心導体と、その外周に被覆された絶縁層と、前記絶縁層の外周に外部導体を有し、前記外部導体の外周に被覆されたジャケット層を有する可動部用ケーブルにおいて、
前記中心導体及び前記外部導体の少なくとも一方が、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が不可避的不純物及び銅である希薄銅合金からなり、表面から50μm深さまでの平均結晶粒径が20μm以下であることを特徴とする可動部用ケーブル。
【請求項2】
請求項1において、前記希薄銅合金の導電率が101.5%IACS以上であることを特徴とする可動部用ケーブル。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記中心導体及び前記外部導体の少なくとも一方が、2mass ppmを越える量の酸素、Ti4〜25mass ppm、硫黄3〜12mass ppmを含み、残部が不可避的不純物及び銅である希薄銅合金からなることを特徴とする可動部用ケーブル。
【請求項4】
2mass ppmを越える量の酸素を含有し、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti及びCrからなる群から選択された添加元素を含む希薄銅合金材料を、SCR連続鋳造圧延により、1100℃以上1320℃以下の溶銅温度で鋳造材を形成し、該鋳造材からワイヤロッドを作製し、そのワイヤロッドを最初の圧延ロールでの温度が880℃以下、最終圧延ロールでの温度が550℃以上の条件で熱間圧延して、これを伸線して導体を形成し、前記導体を複数本用意する工程と、
前記複数の導体のうちの一方を中心導体とし、その外周に絶縁体を施す工程と、
前記複数の導体のうちの他方の複数本を前記絶縁体上において編組することにより外部導体を形成する工程と、
該外部導体の外周に樹脂でジャケット層を施す工程とを備えることを特徴とする可動部用ケーブルの製造方法。
【請求項5】
酸素が2mass ppmを越え、Ti4〜25mass ppm及び硫黄3〜12mass ppm含み、残部が不可避不純物及び銅である希薄銅合金材料を、SCR連続鋳造圧延により、1100℃以上1320℃以下の溶銅温度で鋳造材を形成し、該鋳造材からワイヤロッドを作製し、そのワイヤロッドを最初の圧延ロールでの温度が880℃以下、最終圧延ロールでの温度が550℃以上の条件で熱間圧延して、これを伸線して導体を形成し、前記導体を複数本用意する工程と、
前記複数の導体のうちの一方を中心導体とし、その外周に絶縁体を施す工程と、
前記複数の導体のうちの他方の複数本を前記絶縁体上において編組することにより外部導体を形成する工程と、
該外部導体の外周に樹脂でジャケット層を施す工程とを備えることを特徴とする可動部用ケーブルの製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5において、前記中心導体及び前記外部導体の少なくとも一方は、その導電率が101.5%IACS以上であることを特徴とする可動部用ケーブルの製造方法。
【請求項1】
中心導体と、その外周に被覆された絶縁層と、前記絶縁層の外周に外部導体を有し、前記外部導体の外周に被覆されたジャケット層を有する可動部用ケーブルにおいて、
前記中心導体及び前記外部導体の少なくとも一方が、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti及びCrからなる群から選択された添加元素を含み、残部が不可避的不純物及び銅である希薄銅合金からなり、表面から50μm深さまでの平均結晶粒径が20μm以下であることを特徴とする可動部用ケーブル。
【請求項2】
請求項1において、前記希薄銅合金の導電率が101.5%IACS以上であることを特徴とする可動部用ケーブル。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記中心導体及び前記外部導体の少なくとも一方が、2mass ppmを越える量の酸素、Ti4〜25mass ppm、硫黄3〜12mass ppmを含み、残部が不可避的不純物及び銅である希薄銅合金からなることを特徴とする可動部用ケーブル。
【請求項4】
2mass ppmを越える量の酸素を含有し、Mg、Zr、Nb、Ca、V、Ni、Mn、Ti及びCrからなる群から選択された添加元素を含む希薄銅合金材料を、SCR連続鋳造圧延により、1100℃以上1320℃以下の溶銅温度で鋳造材を形成し、該鋳造材からワイヤロッドを作製し、そのワイヤロッドを最初の圧延ロールでの温度が880℃以下、最終圧延ロールでの温度が550℃以上の条件で熱間圧延して、これを伸線して導体を形成し、前記導体を複数本用意する工程と、
前記複数の導体のうちの一方を中心導体とし、その外周に絶縁体を施す工程と、
前記複数の導体のうちの他方の複数本を前記絶縁体上において編組することにより外部導体を形成する工程と、
該外部導体の外周に樹脂でジャケット層を施す工程とを備えることを特徴とする可動部用ケーブルの製造方法。
【請求項5】
酸素が2mass ppmを越え、Ti4〜25mass ppm及び硫黄3〜12mass ppm含み、残部が不可避不純物及び銅である希薄銅合金材料を、SCR連続鋳造圧延により、1100℃以上1320℃以下の溶銅温度で鋳造材を形成し、該鋳造材からワイヤロッドを作製し、そのワイヤロッドを最初の圧延ロールでの温度が880℃以下、最終圧延ロールでの温度が550℃以上の条件で熱間圧延して、これを伸線して導体を形成し、前記導体を複数本用意する工程と、
前記複数の導体のうちの一方を中心導体とし、その外周に絶縁体を施す工程と、
前記複数の導体のうちの他方の複数本を前記絶縁体上において編組することにより外部導体を形成する工程と、
該外部導体の外周に樹脂でジャケット層を施す工程とを備えることを特徴とする可動部用ケーブルの製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5において、前記中心導体及び前記外部導体の少なくとも一方は、その導電率が101.5%IACS以上であることを特徴とする可動部用ケーブルの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−89369(P2012−89369A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235445(P2010−235445)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】
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