説明

可塑化装置および可塑化方法

【課題】 加熱筒内の溶融した成形材料から発生する水分やガスを効率的に排出することができる可塑化装置および可塑化方法を提供する。
【解決手段】 スクリュ3が配設された加熱筒2内で成形材料Mを溶融状態として加熱筒2前方から排出する可塑化装置1において、加熱筒2内に向けて供給していた不活性ガスまたは乾燥空気の供給を成形サイクル中の一定期間だけは停止するか又は供給量を減少させる気体供給手段8と、加熱筒2外に開口部19を有し加熱筒2内を負圧にする負圧発生手段20とが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリュが配設された加熱筒内で成形材料を溶融状態として加熱筒前方から排出する可塑化装置および可塑化方法に関し、特には加熱筒内に不活性ガス等を供給する可塑化装置および可塑化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、加熱筒内を負圧にして溶融した成形材料から発生した水分やガスを排出または溶融樹脂の焼けを防止する目的のものとして、特許文献1に記載されたものが知られている。また加熱筒内を吸引しつつ、不活性ガスの供給を行うものとしては、特許文献2および特許文献3に記載されたものが知られている。
【0003】
しかしながら特許文献2については、ガス吸引ポンプとガス注入ポンプを同じ配管を介して行うために次のような問題があった。即ち不活性ガスの供給時にはガスの吸引ができないので、加熱筒内の真空度が低下する。また同じ位置から不活性ガスの供給と排出を行っているので、配管の開口部近傍のみでガスの給排が行われ、ガスが良好に流れないという問題があった。また特許文献3についても、常時ガスの供給を行っているので、加熱筒内の真空度が低下しがちである。また加熱筒内の温度は高温となるので、溶融樹脂から発生したガスは供給口から上昇しようとするが、そのガスの流れに逆らって窒素ガスを送っているので効率が悪い。更には加熱筒の供給口から加熱筒後部に向けて窒素ガスを送っているので、ペレットに混ざる粉体等が加熱筒後部とスクリュの間に貯まるという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開平3−184822号公報(請求項1、図1)
【特許文献2】特開2002−52584号公報(請求項1、図1)
【特許文献3】特開2007−22068号公報(請求項1、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明では上記の問題を鑑みて、次の少なくとも一つの課題を解決することができる可塑化装置および可塑化方法を提供することを目的とする。加熱筒内の溶融した成形材料から発生する水分やガスを効率的に排出することができる。溶融した成形材料の焼けによる黒変を防止することができる。ハウジングの開口部等への結露やガス成分の付着を防止することができる。ペレットに混ざる粉体等を吸引除去できる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に記載の可塑化装置は、スクリュが配設された加熱筒内で成形材料を溶融状態として加熱筒前方から排出する可塑化装置において、加熱筒内に向けて供給していた不活性ガスまたは乾燥空気の供給を成形サイクル中の一定期間だけは停止するか又は供給量を減少させる気体供給手段と、加熱筒外に開口部を有し加熱筒内を負圧にする負圧発生手段とが設けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の可塑化装置および可塑化方法は、スクリュが配設された加熱筒内で成形材料を溶融状態として加熱筒前方から排出する可塑化方法において、加熱筒外から加熱筒内を負圧に吸引しつつ、加熱筒内に向けて供給していた不活性ガスまたは乾燥空気の供給を成形サイクルにおける一定期間だけは停止するか又は供給量を減少させるようにしたので、加熱筒内で溶融した成形材料から発生する水分やガスを効率的に排出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の可塑化および可塑化方法について、図1、図2を参照して説明する。図1は、本実施形態の可塑化装置の要部の縦断面図である。図2は、本実施形態の可塑化方法の作動を示す図である。
【0009】
本実施形態における可塑化装置1は、射出成形機のインラインスクリュ式射出装置である。射出成形機は、前記可塑化装置1と図示しない型締装置とからなっている。型締装置には、固定盤と可動盤、可動盤を移動させる型締作動装置等が設けられ、前記固定盤と可動盤には型合せされた際にキャビティが形成される金型が取付けられている。射出機能を有する可塑化装置1には、スクリュを回転するスクリュ回転モータと、スクリュを前後進させる射出モータまたは射出シリンダが配設されている。また可塑化装置1にはスクリュ3が内孔4(加熱筒内)に配設され外周にヒータ5が配設された加熱筒2が設けられている。加熱筒2とスクリュ3は、周知のように、フィードゾーン、コンプレッションゾーン、メタリングゾーンの3つのゾーンから構成されている。そして加熱筒2のメタリングゾーンに接続して溶融した成形材料(溶融樹脂)を排出するノズルが設けられている。また加熱筒2の開口部2aが形成された部分は、ハウジング7に固定されている。
【0010】
可塑化装置1のハウジング7の上部には材料供給装置6が配設されている。材料供給装置6について説明すると、ハウジング7の上部には取付板13を介して水平方向にフィードスクリュ17が内蔵された搬送筒15が固定されている。そして加熱筒2の開口部2a、ハウジング7の開口部7a、取付板13の開口部13a、搬送筒15の下部開口15aは連通され、全体で成形材料である樹脂材料Mが内孔4に向けて落下する材料通路14を構成している。なおハウジング7、取付板13等にヒータや温調水による温調装置を設け、前記部材の温度を上げることにより溶融樹脂から発生する水分等の結露を防止するようにしてもよい。
【0011】
フィードスクリュ17は、搬送筒15の一端部に設けられたモータからなる回転駆動手段16により回転可能となっている。また材料通路14上方の搬送筒15の天井部分には上部開口19が設けられ、管路20aを介して負圧発生手段である真空ポンプ20に接続されている。負圧発生手段には図示しないフィルタが備えられている。本実施形態では真空ポンプ20は、ルーツ型4段のドライポンプが用いられ、排気速度910L/min、到達真空度マイナス101kPa(絶対真空度0.33kPaの能力を有している。
【0012】
搬送筒15の他端側の天井部分には開口部15bが設けられ、供給室21に接続されている。供給室21は、エアシリンダ24によって作動する開閉手段(シャッタ)22により上部の切換室23と区画されている。従って前記真空ポンプ20によって、加熱筒外の開閉手段22の下方から材料通路14までの空間と、加熱筒内の内孔4とスクリュ3の間の空間とが負圧に維持可能となっている。また切換室23の上方には図示しない別の開閉手段が設けられ、開閉手段22が開かれた際に真空度が低下することを防ぐ構造となっている。なお別の開閉手段の上方には樹脂材料Mを貯留するホッパを取付けてもよい。
【0013】
スクリュ3は、加熱筒2の開口部2aに対応する位置までフライト3aが形成され、フライト3aの後方側には樹脂材料Mが後方に入り込まないように大径部3bが形成されている。また前記大径部3bの後方には、円筒状のシール部3cが形成されている。一方加熱筒2は、開口部2aよりも後方部2bは、ハウジング7の後端部よりも一定長さ後方に突出している。そして加熱筒2の後方部2bの後端部2cには、フランジ9が図示しないボルトによりシール部材10aを介して取付けられている。またフランジ9の内周部には環状溝9aが形成されている。そして環状溝9aには耐熱性を有するOリング10bが嵌め込まれ、その内周側に低摩擦樹脂からなるリング状のシール部材10cが配設されている。そしてスクリュ3のシール部3cが、加熱筒2に取付けられたフランジ9のシール部材10cに回転自在に当接されることによってシールされ加熱筒内が負圧状態に保たれるようになっている。
【0014】
加熱筒2のフィードゾーンにおける上部には、ガス供給通路2dが加熱筒2を放射方向に貫通して設けられている。そしてガス供給通路2dは、管路12を介して気体供給手段である窒素ガス供給装置8に接続されている。窒素ガス供給装置8は、不活性ガスの一種である窒素ガスを発生させ加熱筒内へ供給する装置であり、窒素ガス発生装置、窒素ガスタンクおよびコンプレッサ等からなる空圧源26と、開閉弁25等から構成されており、制御装置27によって制御される。また管路12には、オリフィス11が設けられ、加熱筒内に送られる窒素ガスは、窒素ガスの圧力と、オリフィス11の流路断面積によって供給量が制御されている。
【0015】
窒素ガス供給装置8から加熱筒内へのガス供給通路2dが、フィードゾーンの開口部2a寄りの上方に設けられているのは、このゾーンでは樹脂材料Mの溶融が開始されたばかりでガス供給通路2dの開口部の目詰まりの心配がないためである。特に樹脂材料Mの供給量が常に開口部2aの下端位置2a1以下となるように制限される飢餓成形では、樹脂材料Mは内孔4の下側に比較的多く貯留されて前方へ送られるので、ガス供給通路2dの開口部は、加熱筒2の水平中心よりも上方に設けることが望ましい。また加熱筒2の軸方向における前記ガス供給通路2dの開口部の位置は、コンプレッションゾーンにおける後側1/3よりも後方から開口部2aの間、ハウジング7、加熱筒2の後方部2bに設けてもよい。加熱筒2の後方部2bに設ける場合は、フランジ9にガス供給通路を設けるか、シール部を介して不活性ガス等を供給するようにしてもよい。更には材料通路14内にガス供給用パイプを下方に向けて取付け、パイプの開口部が内孔4に臨むようにしてもよく、スクリュ3内にガス供給通路を設け、コンプレッションゾーンにおける後側1/3よりも後方の位置に開口部を設けてもよい。そして前記開口部は複数でもよく2箇所以上の別の部材にあってもよい。
【0016】
次に本実施形態の可塑化方法について説明する。まず樹脂材料Mの供給について説明すると、制御装置27からの信号により開閉手段22が開放されて樹脂材料Mが搬送筒15の内孔18に供給された後、開閉手段22は閉鎖される。開閉手段22よりも下方の搬送筒15の内孔18、材料通路14、加熱筒2の内孔4は、常時、減圧手段である真空ポンプ20がフル作動されており減圧されている。前記内孔18の樹脂材料Mは、回転駆動手段16が回転制御され、フィードスクリュ17により加熱筒2の内孔4に供給される。この際に、フィードスクリュ17による樹脂材料Mの供給は、制御装置27からの制御信号により内孔4に樹脂材料Mが満たされないように飢餓状態を保って供給される。
【0017】
可塑化工程において、加熱筒2の内孔4に供給された樹脂材料Mは、スクリュ回転モータの回転によってスクリュ3が回転して前方へ送られる。前方へ送られた樹脂材料Mは、ヒータ5から加熱筒2を介して伝えらえる熱と、加熱筒2の内孔4と樹脂材料Mとの間に発生するせん断発熱により、フィードゾーンから溶融が開始され、メタリングゾーンにおいて完全に溶融樹脂となる。この際に樹脂材料Mからは水分とガスが発生する。
【0018】
負圧発生手段である真空ポンプ20の常時フル作動しているのは、少しでも真空度を高くした方(より一層減圧した方)が樹脂材料Mから発生する水分とガスの吸引が良好に行われるからである。本実施形態では最高到達真空度は、マイナス10kPa〜マイナス60kPa(ゲージ圧):91.33kPa〜41.33kPa(絶対圧)程度となっている。一方図2に示されるように、気体供給手段である窒素ガス供給装置8からの窒素ガスの供給は、射出成形機の成形サイクルとの関係においては、射出工程、保圧工程、および可塑化工程では行われない。これは樹脂材料Mの溶融が最も進行して同時に水分とガスが大量に発生する可塑化工程では、発生したガスにより真空度が低下するので、急速にその水分とガスの吸引を行うことが望ましいからである。
【0019】
一方、射出成形機の型閉工程、型締工程、冷却工程の一部、圧抜工程、型開工程、取出工程においては、気体供給手段である窒素ガス供給装置8の開閉弁25が開放され、窒素ガスが管路12のオリフィス11、ガス供給通路2d等を介して加熱筒2の内孔4に向けて供給される。供給された窒素ガスは、加熱筒内から開口部2aを介して加熱筒外へのガスの流れを作り、溶融樹脂から発生し加熱筒内に滞留しているガスの一部が窒素ガスとともに真空ポンプ20により吸引・排出される。また加熱筒内に滞留している水分やガスを希釈化するので、加熱筒2の内孔4、スクリュ3、材料通路14の内壁(開口部2a、開口部7a、開口部13a等)へのガスに含まれる成分の付着を防止することができる。
【0020】
加熱筒内へ向けて供給される窒素ガスは40〜100℃に加熱されていることが望ましい。窒素ガスを加熱しておくことにより比較的温度が低い前記材料通路14の内壁等の結露を防止し、溶融樹脂から発生したガスの成分の付着をより一層防止することができる。また窒素ガスを加熱しておくと、加熱筒2の温度制御への影響を小さくすることができる。そして更には加熱筒内から加熱筒外に向けて不活性ガス等を供給すると、ペレットに混ざる粉体等が負圧発生手段のフィルタにより捕集できる。
【0021】
そして可塑化工程においてガスおよび水分が除去された溶融樹脂は、スクリュ3の前方へ送られ、射出工程において、ノズルから金型のキャビティ内に射出(排出)される。よってキャビティ内で成形された成形品は、水分によるシルバーストリーク等の不良の発生が防止できる。また金型のキャビティ内やパーティング面等にガスの成分が付着するといった現象が大幅に改善できる。
【0022】
本発明については、一々列挙はしないが、上記した本実施形態のものに限定されず、当業者が本発明の趣旨を踏まえて変更を加えたものについても、適用されることは言うまでもないことである。可塑化装置1の加熱筒内に向けて供給される気体は、窒素ガスの他、アルゴンガス等の不活性ガスや炭酸ガス等でもよく、乾燥空気(絶乾空気)でもよい。また気体供給手段による不活性ガス等の供給が停止される期間(一定期間)は、少なくとも可塑化工程の80%以上であればよく、射出工程や保圧工程、可塑化工程の一部にも不活性ガス等を供給するものでもよい。また成形サイクルにおけるそれ以外の型閉工程、型締工程、可塑化工程完了後の冷却工程、圧抜工程、型開工程、および取出工程においても断続的に不活性ガスを供給または停止してもよい。更には一定期間である可塑化工程の少なくとも80%以上の期間には、不活性ガス等の供給量をそれ以外の期間と比較して、30パーセント以下、更に望ましくは10パーセント以下の供給量にまで減少させてもよい。
【0023】
また本発明に用いられる成形材料が樹脂材料Mの場合、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の区別や種類を問わず、再生材料でもよく、乾燥樹脂、未乾燥樹脂の区別もされない。また成形材料としては、樹脂材料M以外に、金属材料、木粉や穀物等の生分解材料、セラミック材料等の無機材料、またはそれらの混合材料であっても、ガスや水分が発生するものであれば特に限定されない。そして樹脂からのガスや水分の発生量、または樹脂に含まれる成形に有用な配合成分の含有量により、最適な不活性ガス等の注入量または注入時間となるように変更がなされ、加熱筒内の真空度もそれに応じて変更される。または加熱筒内の真空度が最適となるように不活性ガス等の注入量または注入時間が変更される。
【0024】
可塑化装置については、射出成形機のインラインスクリュ式射出装置の他、可塑化装置とプランジャ装置が分離したプリプラ式射出成形機についても適用することができる。また更にはスタンピング成形等の射出機能を有する可塑化装置や、成形サイクルを有する押出機(スクリュの回転と停止、回転数の強弱変更、正逆回転等を行う場合)も本発明の可塑化装置を採用することができる。また可塑化装置のスクリュは1本に限定されず、フライトではなく突起等が設けられたものでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態の可塑化装置の要部の縦断面図である。
【図2】本実施形態の可塑化方法の作動を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 可塑化装置
2 加熱筒
3 スクリュ
4 内孔
6 材料供給装置
8 窒素ガス供給装置(気体供給手段)
20 真空ポンプ(負圧発生手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリュが配設された加熱筒内で成形材料を溶融状態として加熱筒前方から排出する可塑化装置において、
加熱筒内に向けて供給していた不活性ガスまたは乾燥空気の供給を成形サイクル中の一定期間だけは停止するか又は供給量を減少させる気体供給手段と、
加熱筒外に開口部を有し加熱筒内を負圧にする負圧発生手段とが設けられたことを特徴とする可塑化装置。
【請求項2】
前記一定期間とは少なくとも可塑化工程の80パーセント以上の期間であり、加熱筒内は常時負圧にされていることを特徴とする請求項1に記載の可塑化装置。
【請求項3】
スクリュが配設された加熱筒内で成形材料を溶融状態として加熱筒前方から排出する可塑化方法において、
加熱筒外から加熱筒内を負圧に吸引しつつ、加熱筒内に向けて供給していた不活性ガスまたは乾燥空気の供給を成形サイクルにおける一定期間だけは停止するか又は供給量を減少させることを特徴とする可塑化方法。
【請求項4】
常時加熱筒内を負圧にしつつ、少なくとも可塑化工程の80パーセント以上の期間には供給していた不活性ガスまたは乾燥空気の供給を停止するか又は供給量を減少させることを特徴とする請求項3に記載の可塑化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−226652(P2009−226652A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72637(P2008−72637)
【出願日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【出願人】(000155159)株式会社名機製作所 (255)
【Fターム(参考)】