説明

可塑性ハードコートならびにそれによってコートされる基体

基体上に可塑性ハードコートをもたらす方法であって、UV硬化性基および熱硬化性シラン基を有する二重硬化性シランの使用を含む。加水分解される二重硬化性シランとシラノール基部分は、シリカと縮合し、基体へと塗布される液体コート剤組成物をもたらす。UV照射による第一の硬化はコート剤を可塑性ハードコートへと硬化し、コート剤を傷つけることなく基体を熱成形したりエンボス加工したりできるようにする。その後、基体は熱硬化のために加熱され、完全に硬化した、硬くて耐摩耗性のハードコートをもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体へと塗布されて硬度、耐傷性および耐摩耗性を授けるような保護コート剤に関し、とりわけ可塑性ハードコートを提供する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスを粉砕しないような透明の物質へと置き換える事は、普及してきている。例えば、現在では、合成有機ポリマーから作られるガラスが、列車、バスおよび飛行機のような公共交通車両において用いられている。ガラスおよび他の光学機器のためのレンズ、ならびに大建築物のためのガラスはまた、耐粉砕性の透明なプラスチックを利用する。ガラスと比較するとそれらのプラスチックのより軽い重量は、特に、車両の重量がその燃料の経済性における主要な要素である交通産業において、さらなる利点である。
【0003】
透明なプラスチックは、粉砕により強いことおよびガラスより軽いことのような主要な利点を提供する一方で、ちり、洗浄装置および/もしくは通常の風化のような磨耗との日常の接触のためにこれらのプラスチックが傷ついたり擦り傷を作ったりしやすいという深刻な欠点が存在する。連続的な擦り傷および傷は、損ねられた可視性、芳しくない美観をもたらし、しばしばレンズのガラスの交換を必要とする。
【0004】
これらの透明なプラスチックの耐摩耗性を向上させるための試みがなされてきた。例えば、コロイド状シリカもしくはシリカゲルのようなシリカの混合物から作られるコート剤、および加水分解メディウム中の加水分解性シランが耐磨耗性を与えるために開発されてきた。米国特許出願番号第3,708,225号、第3,986,997号、第3,976,497号、第4,368,235号、第4,324,712号、第4,624,870号および第4,863,520号がそのような組成物を記載し、そして、それらは参照によりここに組み入れる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱プラスチックの傷耐性は、典型的に前記プラスチックのUVハードコートもしくは熱ハードコートによるコートによって与えられる。耐磨耗性はしばしば、コート剤の非常に高い架橋密度の結果である。多くの市販のハードコート製品において、最も一般的に用いられるコロイド状のシリカのような反応性のナノ粒子が化学結合によってコート剤へと組み込まれる。生じる組成物は一般に、硬化すると非常に硬い。ハードコートされたプラスチックしーとを折り曲げたり、再成形したりすることは細かい亀裂を生じる。このため、ハードコートは、典型的には平らな熱プラスチックもしくは予め成形された製品に対して用いられる。しかしながら、産業において予めハードコートされた熱プラスチックシートを熱成形することによって傷耐性の製品を製造するという強い欲求がある。これは、汎用のコートの過程が、完全にすべての表面を覆うように均一にラッカーを塗布する困難性を伴うような複雑な形のものをコートすることを含む用途にとって特に当てはまる。それゆえ、強い耐磨耗性と、そして一方で細かい亀裂を生じることなく再成形できるのに十分な可塑性とを提供する成形可能なハードコートを創出するという、熱成形産業における必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
基体へと可塑性のハードコートをもたらす方法がここに提供され、それは
(a) UV硬化性基、熱硬化性シラン基、ならびに、UV硬化性基と熱硬化性シラン基とを結合する少なくとも2個の炭素原子を持つ架橋基を有する二重硬化性オルガノシランを提供するステップ;
(b) 水および溶媒の存在下において二重硬化性オルガノシランの酸加水分解を実施してシラン基を対応するシラノール基へと転換し、オルガノシラノールをもたらすステップ;
(c) ステップ(b)のシラノール基の部分のわずかなものをシリカ粒子の表面に存在する−OH基と縮合し、オルガノシラノールとシリカとを共有結合するステップ;
(d) 光開始剤および熱硬化触媒と縮合ステップ(c)からのオルガノシラノールとを混合して液体コート剤混合物をもたらすステップ;
(e) 液体コート剤混合物を基体へと塗布するステップ;
(f) コート剤組成物を乾燥させるステップ;
(g) 乾燥したコート剤混合物にUV照射し、オルガノシラノールのUV硬化性基を架橋させ、ハードコートにダメージがなくコートされた基体を成形できるのに充分な可塑性を持つハードコートを提供するステップ;
(h) ステップのコートされた基体を縮合していないシラノール基を縮合させるのに充分な温度まで加熱して完全に硬化したハードコートをもたらすステップ;
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施例以外において、もしくは他に示されていなければ、物質の量、反応条件、時間、物質の定量化された性質などを表す、明細書および請求項に述べられるすべての数字は、すべての場合において言葉「約」によって修飾されていると理解されるべきである。
【0008】
ここで列挙される任意の数値範囲は、その範囲中のすべてのサブ範囲(sub−range)を含むことを意図されているともまた理解されるべきである。
【0009】
構造的、構成的ならびに/または機能的に関連した化合物、物質もしくは基質の群に属するとして、明細書に明確にもしくは暗に開示される、ならびに/または請求項に引用される任意の化合物、物質もしくは基質は、その群の個々の要素およびそれらのすべての組み合わせを含むと理解されるべきである。
【0010】
本発明は二重硬化ハードコート組成物に関する。一実施態様において、組成物は、光開始剤の存在下でUV源によりラジカルに硬化されるアクリラート官能性と縮合反応によって熱的に硬化されるシラノールもしくはアルコキシシランとを含む。このように、ゾル−ゲルプロセスにおいて、UV硬化性基を持つオルガノシランは、水、酸性条件でのシリカもしくは他の酸化金属のような固体ナノ粒子の水分散液の存在下で加水分解する。限定されたレベルでの縮合が、オルガノシラン分子とコロイド状シリカ粒子との間で起こるようにされる。溶媒は、反応産物が溶液から沈殿することを防ぐように注意深く選択される。UV源の存在下でラジカル重合を起こすことが可能な光開始剤が添加される。同様に、シラノールの熱硬化を触媒することが可能な触媒を、硬化速度を上げるために添加できる。典型的にシリコーンもしくはフッ素系界面活性剤である、平滑剤を被膜性を向上させるために添加できる。耐候性のハードコートが望まれるならUV吸収剤もまた添加できる。重量当たり低いアクリラート官能性を持つ、単官能性もしくは多官能性のアクリラートもまた、コート剤の可塑性をさらに高めるために添加できる。
【0011】
触媒された配合物は熱プラスチックへとコートされ、溶媒は消失する。風乾されたコート剤が、UV照射にさらされると、オルガノシランと付着するアクリラートもしくはアクリラートにおいて重合化が起こり、それは中庸のレベルの縮合を通じ、直鎖の、分岐のもしくは軽度に架橋した構造へと重合化する。この時において、組成物は充分に架橋して耐摩耗性をもたらすが、ポリマー鎖が硬いネットワークへと完全に締まるほどではまだない。このように、このステージまでのコートされUV硬化された熱プラスチックは、十分な機械的な完全性と通常の操作に対する耐磨耗性とを持つ。そののち、コートされたシートは切断でき、コートの亀裂にまったく関係なく、予め定められた形へと熱成形するかエンボス加工される。製品の形が一端成形されると、典型的な熱ハードコート硬化と同様の方法による、残りのシラノールの縮合反応によって、熱はコート剤をさらに硬化する。代替的に、コートされたシートは、UV照射と熱との組み合わせによって所望の形へと成形される。二重硬化プロセスののち、コート剤は優れた耐傷性および耐磨耗性とを提供するように完全に開発される。
【0012】
特に、オルガノシランは、少なくとも2個の炭素原子を含有する架橋によって接続される、UV硬化性基とシラン基とを含む。UV硬化性基は、好ましくはアクリラート、メタクリラート、メタクリルアミドおよびビニルから選択される。シラン基は、好ましくは、トリメトキシシランもしくはトリエトキシシランのようなアルコキシシラン基である。架橋基−(CH−は好ましくはプロピル基であり、コート剤に可塑性を与える。
好ましい実施態様において、
オルガノシランは式(I):
R−(CH−Si(OR(R3−m (I)
を持つ。
【0013】
式中、Rはアクリラート、メタクリラート、メタクリルアミド、アクリルアミド、ビニルもしくはエポキシド基より選択される一価のラジカルであり、0から約10個の炭素原子を持つ。nの値は0と等しいかもしくは0より大きい。好ましくは、nは0から約5である。本発明の一実施態様において、nは3から5である。
【0014】
とRはそれぞれ独立して、1から8個の炭素原子の一価のアルキルラジカル、もしくは6から20個の炭素原子のアリールラジカルであり、そして好ましくは、メチル、エチル、プロピルもしくはブチルであり、そしてmは1から3であり、好ましくはmは3である。
【0015】
本発明において使用できる好ましいオルガノシランは、メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(Silwet A−174の名称で市販)、メタクリロイルアミノプロピルトリエトキシシラン(Silwet Y−5997の名称で市販)、ビニルトリメトキシシラン、ガンマ−グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン、もしくは3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン(Silwet A−186の名称で市販)を含む。
【0016】
一実施態様において、酸加水分解は水の存在下で実施される。他の実施態様において、酸加水分解はシリカの水分散液の存在下で実施される。使用されるシリカは、コロイド状シリカ、シリカゲルもしくはヒュームドシリカのような好ましくは約5から150ナノメートル(ミリミクリン)の範囲の平均粒子径を持つナノサイズのシリカ粒子を含有する。典型的にそのようなシリカ粒子はその表面に接着する−OH基を持ち、そしてシラノール(Si−OH)官能性をもたらす。
【0017】
他の実施態様において、酸加水分解は、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化銅、酸化鉄、酸化ビスマス、酸化セリウム、酸化ランタン、酸化プラセオジム、酸化ネオジム、酸化サマリウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、またはそれらの物理的もしくは化学的な組み合わせのうちの一つもしくはそれ以上のナノサイズ(5から150ナノメートル(ミリミクロン)の平均粒子径)の粒子の水分散液の存在下で実施される。本発明での使用に好適なそのような酸化物は、Nanophase Technologies Corporation of Romeoville、ILから入手可能である。
【0018】
第一のステップにおいて、酸加水分解と、後に続くオルガノシランの縮合が実施される。一実施態様において、オルガノシランは、酸加水分解触媒および溶媒と組み合わせられる。酸は例えば、適切な濃度での酢酸、塩酸もしくは他の任意の好適な酸であり得る。さまざまな好適な酸は米国特許第4,863,520号に開示される。溶媒は、アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、メトキシプロパノール、エチレングリコール、および/もしくはジエチレングリコールブチルエーテル)または、アセトン、メチルエチルケトン、エチレングリコールモノプロピルエーテル、および2−ブトキシエタノールのような他の水混和性の有機溶媒であり得る。シリカは水と別々に混合されて水分散液を形成し、混合しながらオルガノシラン溶液へとゆっくりと添加される。さらに、酸は、必要ならpH4〜5へと調整される。その間に加水分解と縮合が起きる8〜48時間の期間のさらなる混合の後、さらなる溶媒が添加され得、任意選択でさらなる酸性化を伴う。好ましくは、熱硬化触媒、光開始剤、平滑剤、UV吸収剤、可塑性向上剤などが混合物へと添加される。
【0019】
本発明において使用できるコロイド状シリカの水分散液は、2から150ナノメートル(ミリミクロン)の粒径、そして好ましくは5から30ナノメートル(ミリミクロン)の平均径を持つ。そのような分散液は当分野に公知であり、市販のものは、例えば、Ludox(DuPont)、Snowtex(Nissan Chemical)およびBindzil(Akzo Nobel)およびNalcoag(Nalco Chemical Company)の商標のものを含む。そのような分散液は、酸性および塩基性のハイドロゾルの形で入手可能である。市販の塩基性コロイド状シリカゾルは典型的には、pHを7.1から7.8の範囲に維持するのに十分な料の塩基をもたらす。それゆえ、コロイド状のシリカを用いるとき、シリカ中のアルカリ種が、選択された硬化温度において揮発性であることが好ましい。
【0020】
もともと酸性であるコロイド状シリカもまた使用できる。低いアルカリ含量のコロイド状シリカは、より安定なコート剤組成物をもたらし、そしてこれらは好ましい。ここでの目的に特に好ましいコロイド状シリカは、DuPont Companyにより販売される、Ludox ASとして知られる、アンモニウム安定化コロイド状シリカである。他の市販のアンモニウム安定化コロイド状シリカは、Nalco Chemical Companyにより販売されるNalcoag 3326およびNalcoag 1034Aを含む。
【0021】
好ましい熱硬化触媒は、式(II):
[(CN][OC(O)−R] (II)
のテトラブチルアンモニウムカルボキシラートである。
【0022】
ここでRは、水素、約1から約8個の炭素原子を含有するアルキル基、および約6から20個の炭素原子を含有する芳香族基からなる群より選択される。好ましい実施態様において、Rは、メチル、エチル、プロピル、ブチルおよびイソブチルのような約1から4個の炭素原子を含有する基である。式(II)の例示的な触媒は、テトラ−n−ブチルアンモニウムアセタート(TBAA)、テトラ−n−ブチルアンモニウムホルマート、テトラ−n−ブチルアンモニウムベンゾアート、テトラ−n−ブチルアンモニウム−2−エチルヘキサノアート、テトラ−n−ブチルアンモニウム−p−エチルベンゾアート、およびテトラ−n−ブチルアンモニウムプロピオナートである。本発明の硬化性、好適性の観点から好ましい硬化触媒はテトラ−n−ブチルアンモニウムアセタートおよびテトラ−n−ブチルアンモニウムホルマートであり、テトラブチルアンモニウムアセタートがもっとも好ましい。
【0023】
本発明における使用に好適な光開始剤は、UV照射への曝露によってメタクリラート(アクリラート)もしくはエポキシドの重合化を促進するものである。そのような光開始剤はCiba Specialty ChemicalsよりIRGACURE(登録商標)もしくはDAROCUR(登録商標)の名称で入手可能であり、またはESACURE(登録商標)もしくはBASFより入手可能なLUCIRIN(登録商標)である。他の好適な光開始剤は、アルコキシアルキルフェニルケトンおよびモルホリノアルキルケトンのようなケトン系光開始剤、ならびにベンゾインエーテル光開始剤を含む。さらなる光開始剤は、ビスアリールイオドニウム塩(例えば、ビス(ドデシルフェニル)イオドニウムヘキサフルオロアンチモナート、ビスアリールイオドニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート)、トリアリールスルホニウム塩、ならびにそれらの組み合わせのようなオニウム系触媒を含む。好ましくは、触媒はビスアリールイオドニウム塩である。エポキシ樹脂モノマーの硬化剤としてここで有用なものはまた、超酸塩であり、例えば、ここでの参照如リそのすべての内容を組みいれる米国特許第5,278,247号に開示される尿素−超酸塩である。光開始剤は好ましくは、硬化する組成物を著しく変色させないような濃度で組成物に存在する。
【0024】
組成物は、平滑剤として界面活性剤をさらに含み得る。好適な界面活性剤の例は、Minn.St.Paulの3M社からのFLUORADのようなフッ素化界面活性剤、およびCT、WallingfordのBYK Chemie USAから入手可能なBYKの名称のポリエーテルを含む。
【0025】
組成物はまた、ベンゾトリアゾールのようなUV吸収剤を含み得る。好ましいUV吸収剤はシランと共反応可能なものである。そのようなUV吸収剤は、米国特許第4,863,520号、米国特許第4,374,674号および米国特許第4,680,232号に開示され、それらは参照によりここに組み入れられる。具体的な例は、4−[ガンマ−(トリメトキシシリル)プロポキシル]−2−ヒドロキシベンゾフェノンおよび4−[ガンマ−(トリエトキシシリル)プロポキシル]−2−ヒドロキシベンゾフェノンおよび3−(4,4,4−トリエトキシ−4−シリアブチル)−2,4−ジヒドロキシ−5−(フェニルカルボニル)フェニル フェニルケトンを含む。
【0026】
組成物は、ヒンダードフェノール(例えばCiba Specialty ChemicalsからのIRGANOX1010)のような抗酸化剤、染料(例えばメチレングリーン、メチレンブルーなど)、強化剤ならびに他の添加剤をもまた含み得る。
【0027】
可塑性向上剤は、上述のように単官能性もしくは多官能性アクリラートを含み得る。
【0028】
反応混合物の温度は、概して約20℃から約40℃の範囲で、そして好ましくは25℃未満に維持される。加水分解に用いられる反応時間がより長いほど、最終の粘度がより高くなる。
【0029】
シラノール、RSi(OH)は、対応するオルガノトリアルコキシシランとコロイド状シリカの水分散液との混合の結果としてその場(in situ)で形成される。メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシなどのアルコキシ官能性基は、加水分解でヒドロキシ官能性基を生成し、そして、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどのような対応するアルコールを放出する。
【0030】
それらのシラノールのヒドロキシル置換を生成するとき、縮合反応が始まり、ケイ素−酸素−ケイ素結合を形成する。この縮合反応は消耗性でない。産生するシロキサンはケイ素結合したヒドロキシ基の量を残ししており、それらはポリマーが水−アルコール溶媒混合物中にて可溶性である理由である。この可溶性の部分縮合物は、ケイ素結合したヒドロキシ基と−SiO連続単位とを持つシロキサノールポリマーとして特徴付けられる。
【0031】
さらに詳細には、オルガノシランのアルコキシ基の全てが縮合するのではない。縮合の度合いはT/Tの比によって特徴付けられ、ここでTは他のシランもしくはシラノールと3つのアルコキシ基で縮合したオルガノシランの量を表わし、Tは他のシランもしくはシラノールと2つのアルコキシ基で縮合したオルガノシランの量を表わす。T/Tの比は、0から3の範囲であり得、そして好ましくは0.05から2.5であり、そしてより好ましくは約0.1から約2.0である。
【0032】
加水分解が完了した後、コート剤組成物の固形含量は典型的にはアルコールを反応混合物へと添加することによって調整される。好適なアルコールは、低級脂肪族化合物、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、メトキシプロパノールなど、あるいはそれらの組み合わせのような1から6個の炭素原子を持つものを含む。イソブタノールが好ましい。溶媒系、すなわち水とアルコールの混合物は、好ましくは約20〜75重量%のアルコールを含有し、部分的な縮合物が可溶性であることを確かにする。
【0033】
任意選択で、ジアセトンアルコール、ブチルセロソルブなどのような追加の水混和性極性溶媒が、少量、通常は溶媒系の20重量%未満で含まれ得る。
【0034】
溶媒による調節の後、本発明のコート剤組成物は、好ましくは、全組成物の10〜50重量%の、そしてもっとも好ましくは約20重量%の固形分を含有する。コート剤配合物の非揮発性の固形分部分はコロイド状シリカとシラノールの部分縮合物との混合物である。ここでも好ましいコート剤組成物において、部分縮合物は、アルコール/水共溶媒中において、全固形物の約40〜75重量%の量で存在し、そしてコロイド状シリカは全組成物重量に基づいて約25〜60重量%の量で存在する。
【0035】
本発明のコート剤組成物は、好ましくは約4.0から6.0、そしてもっとも好ましくは約4.5から5.5の範囲のpHを持つ。加水分解反応の後、組成物のpHがこれらの値に入るように調整する必要があるかもしれない。pHを上昇させるために、水酸化アンモニウムのような揮発性の塩基が好ましく、pHを下げるために、酢酸およびギ酸のような揮発性の酸が好ましい。これらの揮発性の酸は、前記組成物を硬化するために用いられる温度の範囲に入る沸点を持つ。
【0036】
次のステップにおいて、組成物はプラスチックもしくは金属の表面のような基体上にコートされる。そのようなプラスチックの例は、例えばポリ(メチルメタクリラート)などのようなアクリルポリマーのような合成有機ポリマー基体;例えばポリ(エチレンテレフタラート)、ポリ(ブチレンテレフタラート)などのようなポリエステル;ポリアミド、ポリイミド、アクリロニトリルスチレンコポリマー、スチレンアクリロニトリル−ブタジエンターポリマー、ポリビニルクロリド、ポリエチレンなどを含む。
【0037】
特にポリカーボナートに関して、Sabic Innovative Plasticsから入手可能なLexan(登録商標)ポリカーボナート樹脂として知られ、そのような物質より作られる透明のパネルを含む。本発明の組成物は、そのような製品の表面の保護コートとして特に有用である。
【0038】
基体上の液体組成物は、例えば蒸発によるような全ての溶媒の除去により乾燥させられ、それにより乾燥したコートを残す。
【0039】
次に、「第一の硬化」において、乾燥したコートがUV照射へと曝露され、シリカ粒子状に縮合したシラノール上に存在するメタクリラート(アクリラート)、メタクリルアミド(アクリルアミド)、ビニルもしくはエポキシド基、および縮合していないシラノール上に存在するそのような基を架橋する。UV硬化は、UV照射への曝露のための標準的な手順に沿って実施される。
【0040】
この段階において、基体は十分な機械的な完全性と通常の操作に対する耐磨耗性とを提供するが、それはコートされたシートが、コート中に亀裂やひびを作ることなく、切断されたりエンボス加工されたり、予め定められた形へと熱成形されたりするのを可能にするのに充分に可塑性である。
【0041】
基体の所望の形への成形後、コートされた基体は、シラノール基の残りの部分を縮合するために、第二の段階でのコート剤のさらなる硬化のために加熱される。典型的に、コートされた基体は、約1分から約60分の範囲の期間、約40℃から約200℃でオーブンにおいて加熱される。本発明の二重硬化プロセスの第二の段階のあと、コート剤は完全に硬化され、優れた耐傷性および耐磨耗性を示す。
【0042】
本発明のさまざまな特徴が、下記の実施例および比較例によって例示される。実施例は発明を例示する。比較例は発明の例示しないが、比較の目的のために提示される。
【実施例】
【0043】
実施例1
スターラーバーを備えるビーカーへ、48.6gのSilwet A−174(メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン)、0.64gの酢酸、および33.5gのイソプロパノールが充填された。投入物は均一な溶液へと周囲環境下で混合された。別のビーカー中に、10.73gLudox AS−40(コロイド状シリカの水分散液)が9.44gの脱イオン水によって希釈された。コロイド状シリカの分散液はシラン溶液へ混合しながらゆっくりと添加された。添加が完了した後、6.52gの酢酸が添加され、分散液は終夜混合された。16時間の周囲環境下での混合の後、10.92gのn−ブタノールが添加され、7.4gのイソプロパノールが後に続いた。2つの溶媒が中で均一に混合された後、さらなる2.09gの酢酸が添加された。3.55gのイソプロパノール、0.088gのN,N,N,N−テトラブチルアンモニウムアセタート、0.048gのポリエーテル平滑剤(BYK302)、および0.29gの4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジノール−N−オキシル(未成熟のラジカル硬化を防ぐために使用される)の充填がその添加の後に続いた。
【0044】
実施例2
スターラーバーを備えるビーカーに対して、6.64gのSilwet A−174、0.68gの酢酸、および33.9gのイソプロパノールが充填された。投入物は周囲環境下で均一な溶液へと混合された。別のビーカーにおいて、10.77gのLudox AS−40(コロイド状シリカの分散液)が9.54gの脱イオン水によって希釈された。コロイド状シリカの分散液は混合中にシラン溶液へとゆっくりと添加された。添加が完了した後、1.63gの酢酸を添加してpHを4.89へと調整し、分散液は終夜混合された。16時間の周囲環境下での混合の後、10.92gのn−ブタノールが添加され、7.41gのイソプロパノールがあとに続いた。2つの溶媒が中で均一に混合された後、さらなる2.14gの酢酸が添加された。3.57gのイソプロパノール、0.09gのN,N,N,N−テトラブチルアンモニウムアセタート、0.05gの平滑剤(BYK302)、および0.29gの4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジノール−N−オキシルの充填が、その添加のあとに続いた。
【0045】
実施例3〜8
本発明を実証するためのさまざまなコート剤組成物が表1に示される充填量に従って周囲環境下で混合された。
【0046】
【表1】


Ebecryl 8402:Cytec Industriesからのアクリラートモノマー。
Daroucur 1173およびIrgacure 819はCiba Specialty Chemicalsからの光開始剤。
【0047】
コート剤は50.8マイクロメートル(2ミル)の厚さのポリエチレンテレフタラート(PET)シート上およびポリカーボナートプラーク上にフローコートされ、硬化の前に5〜15分間、風乾された。硬化は、コートされたプラークをUVまたはUVと熱の組み合わせに対して曝露させることによって実行された。UV硬化は、約7ジュール/cmの線量のUV−AによるFusion UVシステムにおいて実行された。熱硬化は、コートされた製品を1時間130℃のオーブンにおいて加熱することによって実行された。
【0048】
伸びはコートされたPETシートからMonsanto Tensometer 10を用いてカットされたダンベル上サンプル上において測定された。伸びはコートが最初の亀裂を示した時に報告された。ある場合には、コーティングより前に基体が壊れ、基体の破壊時の伸びが記録された。
【0049】
テーバー耐磨耗性はASTM法D1044−99に従って、CS−10Fホイールを用いて500g荷重で500回で測定された。
【0050】
結果は下の表2に示される。
【0051】
【表2】

【0052】
実施例9
スターラーバーを備えるビーカーに6.62gのSilwet A−186(3,4−(エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン)、0.69gの酢酸、および60gのイソプロパノールが充填された。投入物は周囲環境下で均一な溶液になるよう混合された。別のビーカーにおいて、10.74gのLudox AS−40(コロイド状シリカの水分散液)が9.84gの脱イオン水によって希釈された。コロイド状シリカの分散液は混合しながらシラン溶液へとゆっくりと添加された。添加が完了した後、18.5gの酢酸を添加してpHを4.86に調整し、そして分散液が終夜混合された。16時間の周囲環境下での混合ののち、10.94gのn−ブタノールが添加され、7.42gのイソプロパノールが後に続いた。2つの溶媒が中で均一に混合されたのち、さらなる2.1gの酢酸が添加された。3.58gのイソプロパノール、0.1gのテトラブチルアンモニウムアセタート、および0.05gの界面活性剤BYK302の充填がその添加の後に続いた。
【0053】
実施例10
スターラーバーを備えるビーカーへ、26.68gのSilwet A−186(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン)、0.69gの酢酸、および33.51gのイソプロパノールが充填された。投入物は、均一な溶液へと周囲環境下で混合された。別のビーカーにおいて、10.74gのLudox AS−40(コロイド状シリカの水分散液)が9.84gの脱イオン水によって希釈された。コロイド状シリカの分散液はシラン溶液へと混合しながらゆっくりと加えられた。添加が完了した後、1.85gの酢酸を添加してpHを4.86へと調整し、分散液は終夜混合された。周囲環境下での16時間の混合の後、10.94gのn−ブタノールが添加され、7.42gのイソプロパノールが後に続いた。2つの溶媒が中で均一に混合されたのち、さらなる2.1gの酢酸が添加された。3.58gのイソプロパノール、0.1gのテトラブチルアンモニウムアセタート、および0.05gの界面活性剤BYK302の充填がその添加の後に続いた。溶液はさらに1時間混合された。
【0054】
本発明を実証するためにさまざまなコート剤組成物が、表3に示される充填物に従って周囲環境下で混合された
【0055】
【表3】


*UVR6000=3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキシエタン;UVR6128=ビス−(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジパート;UVI6992=アリールスルホニウムヘキサフルオロホスファート塩、すべてはDow Chemicalsからのものである。
【0056】
コーティングはポリカーボナートパネルへとフローコートされ、硬化の前に5〜15分間風乾された。硬化はUV(実施例11〜14)、熱(実施例15)またはUVと熱の組み合わせ(実施例11〜14)への曝露によって達成された。UV硬化は、約7ジュール/cmの線量のUV−AによるFusion UVシステムにおいて実行された。熱硬化は、コートされた製品を1時間130℃のオーブンにおいて加熱することによって実行された。
【0057】
上の記載は詳細を含有するが、それらの詳細は本発明の限定と解釈されるべきでなく、それらの好ましい実施態様の例示に過ぎない。当業者は、ここに添付される請求項によって定義される本発明の範囲および趣旨に含まれる多くの多の実施態様を想像するであろう。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上にハードコートをもたらす方法であって:
(a) UV硬化性基、熱硬化性シラン基、ならびに、UV硬化性基と熱硬化性シラン基とを結合する少なくとも2個の炭素原子を持つ架橋基を有する二重硬化性オルガノシランを提供するステップ;
(b) 水および溶媒の存在下において二重硬化性オルガノシランの酸加水分解を実施してシラン基を対応するシラノール基へと転換し、オルガノシラノールをもたらすステップ;
(c) ステップ(b)のシラノール基の部分のわずかなものを縮合するステップ;
(d) 光開始剤および熱硬化触媒と縮合ステップ(c)からのオルガノシラノールとを混合して液体コート剤混合物をもたらすステップ;
(e) 液体コート剤混合物を基体へと塗布するステップ;
(f) コート剤組成物を乾燥させるステップ;
(g) 乾燥したコート剤混合物にUV照射し、オルガノシラノールのUV硬化性基を架橋させ、ハードコートにダメージがなくコートされた基体を成形できるのに充分な可塑性を持つハードコートを提供するステップ;
(h) ステップのコートされた基体を縮合していないシラノール基を縮合させるのに充分な温度まで加熱して完全に硬化したハードコートをもたらすステップ;
を含有する、方法。
【請求項2】
ステップ(b)が約5ナノメートルから約150ナノメートルの平均粒子径を持つ個体粒子の水分散液の存在下で実施され、ステップ(c)が、ステップ(b)のシラノール基の部分と固体粒子表面上に存在する−OH基とを縮合させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固体粒子がシリカである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
固体粒子が、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化銅、酸化鉄、酸化ビスマス、酸化セリウム、酸化ランタン、酸化プラセオジム、酸化ネオジム、酸化サマリウム、酸化ジルコニウム、および酸化イットリウムからなる群より選択される一つもしくはそれ以上の酸化物を含有する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記二重硬化性オルガノシランが式:
R−(CH−Si(OR(R3−m (I)
を持ち、
式中、Rがアクリラート、メタクリラート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ビニルもしくはエポキシド基より選択される一価のラジカルであり、2から10個の炭素原子を持ち;nが0と等しいかもしくは0より大きく;RとRがそれぞれ独立して、1から8個の炭素原子の一価のアルキルラジカル、もしくは6から20個の炭素原子のアリールラジカルであり;そしてmが1から3である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
nが3から5であり、mが3であり、そしてRがメチル、エチル、プロピルもしくはブチルである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
nが0であり、mが3であり、そしてRがビニルである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記二重硬化性オルガノシランが、メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロイルアミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、および3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシランから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(b)の酸加水分解が、酢酸および塩酸からなる群より選択される酸の存在下で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記溶媒がメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールtert−ブタノールおよびメトキシプロパノールからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記シリカがコロイド状シリカ、シリカゲルおよびヒュームドシリカより選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(c)の縮合が、Tが3つのアルコキシ基で他のシランもしくはシラノールと縮合するオルガノシランの量を表わし、そしてTが2つのアルコキシ基で他のシランもしくはシラノールと縮合するオルガノシランの量を表わし、そしてT/Tの比率が約0から約3の範囲であるようなT/Tの比率によって特徴付けられる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記T/Tの比率が約0.05から約2.5の範囲である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記T/Tの比率が約0.1から約2.0の範囲である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記光開始剤がアルコキシアルキルフェニルケトン、モルホリノアルキルケトン、ベンゾイン、ビスアリールイオドニウム塩および尿素−超酸塩より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記熱硬化触媒がテトラブチルアンモニウムカルボキシラートである、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記熱硬化性触媒が、テトラ−n−ブチルアンモニウムアセタートおよびテトラ−n−ブチルアンモニウムホルマートより選択される請求項1に記載の方法。
【請求項18】
一つもしくはそれ以上の、平滑剤、UV吸収剤、抗酸化剤、可塑性向上剤、染料および充填剤をさらに組み合わせる、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
平滑剤がフッ素系界面活性剤である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記UV吸収剤が一つもしくは両方の、4−[ガンマ−(トリエトキシシリル)プロポキシル]−2−ヒドロキシベンゾフェノンを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記抗酸化剤がヒンダードフェノール含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記可塑性向上剤が単官能性アクリラートもしくは多官能性アクリラートを含有する、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
ステップ(h)の加熱が40℃から約200℃の温度で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記基体が金属もしくは合成ポリマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
ステップ(g)の可塑性ハードコートを持つ基体を、ステップ(h)のコートされた基体を加熱するステップより前に、所望の形へと成形するステップをさらに含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記成形するステップが熱成形もしくはエンボス加工を含む、請求項21に記載の方法。


【公表番号】特表2011−518666(P2011−518666A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506291(P2011−506291)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際出願番号】PCT/US2009/002501
【国際公開番号】WO2009/131680
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(508229301)モメンティブ パフォーマンス マテリアルズ インコーポレイテッド (120)
【Fターム(参考)】