説明

可塑性油脂組成物

【課題】
トランス酸を低減させ折込み用可塑性油脂として求められる物性を満足させることで現行のクロワッサン、デニッシュ、パイなどの層状小麦粉膨化食品と同等の品質を提供すること。
【解決手段】
ランダムエステル交換により得られる可塑性油脂組成物であって、構成脂肪酸組成が、(1)飽和脂肪酸の合計量が75重量%〜85重量%、(2)不飽和脂肪酸の合計量が25重量%〜15重量%、(3)炭素数12以下の飽和脂肪酸が20重量%〜30重量%、(4)炭素数が14〜18の飽和脂肪酸が45重量%〜55重量%で、トランス酸含量が3重量%以下であることを特徴とする可塑性油脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランス酸含量が低減され、従来の折込み用油中水型エマルション等に用いられていた可塑性油脂組成物の代替として使用可能な可塑性油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
クロワッサン、デニッシュ、パイ等の層状小麦粉膨化食品は、層状を形成しており、その構造を形成する為に、通常、折込み用油中水型エマルションが用いられている。具体的には、折込み用油中水型エマルションとして、ペーストリー用マーガリン、ロールイン用マーガリン等と呼ばれるものが用いられており、生地に一定量折込み、伸展、一定の厚さで折り重ねて展延する操作を繰り返して生地の厚さを調整、分割、成型、焼成等の工程を経て層状小麦粉膨化食品が形成されている。この層状小麦粉膨化食品では、一旦、生地層と油脂層からなる積層を形成し、焼成することで層状と成し、これが食感、風味に特徴を持たせていることから、これを形成する為に用いられる折込み用油中水型エマルションの特性は重要視されている。
【0003】
特にこの折込み用油中水型エマルション等は、生地を折り重ねて展延する等のための伸展性、硬さ、更にホイロ等での耐熱性などが求められる。折込み用可塑性油脂組成物の伸展性、硬さが不充分であると均一な生地の層状が得られず商品価値のないものになってしまう。また、ホイロで折込み用可塑性油脂組成物が流れ出ると風味を損なうことは勿論、十分なボリュームを得ることが出来ない。
【0004】
これまで、これらの特性を得る為に、植物油脂を水素添加し、適度に油脂を硬化させることで意図的にトランス酸を生成させた油脂組成物が用いられていた。
しかし、最近トランス酸の多量摂取により動脈硬化や心筋梗塞のリスクが高められる可能性が示唆されており(非特許文献1など)、米国の食品医薬局(FDA)は2006年頭より食品などへのトランス酸含量の表示を義務づけられたり(2003年7月11日付け規則)、世界保健機構(WHO)より摂取エネルギーの1%未満(おおよその1日の摂取量としては2g強まで)にするよう勧告が出されている(http://www.who.int/nutrition/topics/5_population_nutrient/en/index.html)。
【0005】
この為、本発明者は先行文献を調査し、トランス酸量が低減され、尚かつ満足できる各種特性を有する代替油脂組成物を探したが、満足できるものは提案されていないのが実状であった。
【0006】
具体的には、例えば特許文献1には、パーム油分別油の高融点部50重量%とパーム核油の低融点部50重量%とのランダムエステル交換油であり炭素数16の飽和脂肪酸が42.1重量%、炭素数18飽和脂肪酸が3.9重量%である油脂組成物が開示されているが、炭素数16の飽和脂肪酸含量が高い為に折込み用可塑性油脂組成物製造時の結晶化が不充分で折込み用可塑性油脂が軟らかくなり、しっかりとしたシート成型状態にならず、製造上の課題が残されている。
【0007】
特許文献2には、飽和脂肪酸が炭素数12以下の飽和脂肪酸と炭素数20以上の飽和脂肪酸で構成される油脂組成物が記載されている。しかし、炭素数20以上の飽和脂肪酸は結晶化が速く、マーガリン製造機における冷却で捏和が必要以上に進むため、折込み用可塑性油脂組成物が軟らかく、しっかりとしたシート成型状態にならない。また、シート成型が出来たとしても折込み用可塑性油脂組成物は、軟質化しており、折込み物性に適していないため製造した膨化食品は、外観、内層が層状とならず品質見達となる。
【0008】
特許文献3には、炭素数14以下の飽和脂肪酸2〜50重量%及び炭素数20以上の飽和脂肪酸1〜50重量%を含有する油脂配合物をランダムエステル交換してなる油脂組成物が開示されている。しかし、特許文献2と同様に炭素数20以上の飽和脂肪酸は、折込み用可塑性油脂に適しておらず、また、トランス酸含量に関する記載も無い。
【特許文献1】特開2001−262181号公報
【特許文献2】特許第3743179号公報
【特許文献3】特開平9−165595号公報
【非特許文献1】Tatematsu et al., Journal of Health Science, 50:108-111, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、トランス酸含量が低減され、更に従来の折込み用油中水型エマルション等に用いられていた可塑性油脂組成物の代替として使用可能な可塑性油脂組成物を提供することを目的とする。更に他の目的としては、進展性、硬さ、耐熱性の優れた折込み用油中水型エマルションが作製可能な折込み用可塑性油脂組成物、可塑性油脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、トランス酸含量が3重量%以下であって、特定の脂肪酸構成の可塑性油脂組成物を用いることによれば、従来の折込み用油中水型エマルション等に用いられていたトランス酸に特徴を持たせた硬化型の可塑性油脂組成物の代替として使用可能なことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の第一は、ランダムエステル交換により得られる可塑性油脂組成物であって、構成脂肪酸組成が、(1)飽和脂肪酸の合計量が75重量%〜85重量%、(2)不飽和脂肪酸の合計量が25重量%〜15重量%であって、尚かつ(3)炭素数12以下の飽和脂肪酸が20重量%〜30重量%、(4)炭素数が14〜18の飽和脂肪酸が45重量%〜55重量%で、トランス酸含量が3重量%以下であることを特徴とする可塑性油脂組成物に関する。
【0012】
また、構成脂肪酸組成が、(5)飽和脂肪酸の合計量が75重量%〜85重量%、(6)不飽和脂肪酸の合計量が25重量%〜15重量%であって、尚かつ(7)炭素数12以下の飽和脂肪酸が20重量%〜30重量%、(8)炭素数が14〜18の飽和脂肪酸が45重量%〜55重量%である油脂混合物をランダムエステル交換して得られることを特徴とする、トランス酸含量が3重量%以下である可塑性油脂組成物に関する。
【0013】
また、好ましい実施態様は、前記油脂混合物が、(A)常温液状油(菜種油、コーン油、大豆油など)と、(B)菜種極度硬化油(ローエルシン酸)、大豆極度硬化油、コーン極度硬化油から選ばれる1種以上と、(C)硬化パームカーネルオイル、硬化ヤシ油から選ばれる1種以上の混合物であることを特徴とする、前記可塑性油脂組成物。
【0014】
また本発明の第二は、前記可塑性油脂組成物を20重量%〜80重量%含有することを特徴とする折込み用可塑性油脂組成物。
【0015】
また、前記折込み用可塑性油脂組成物と水を含んでなる、折込み用油中水型エマルション、更にこの折込み用油中水型エマルションを用いて製造したことを特徴とする層状小麦粉膨化食品に関するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の可塑性油脂組成物によれば、トランス酸含量が低減され、更に従来の折込み用油中水型エマルション等に用いられていたトランス酸を含む可塑性油脂組成物とほぼ同等か、それ以上の特性を得ることができ、代替油脂として使用することが可能となる。また、特に折込み用油中水型エマルションを形成する為の折込み用可塑性油脂組成物、可塑性油脂組成物等として使用した場合、トランス酸含量を低減した上で、従来同様に進展性、硬さ、耐熱性の優れた折込み用油中水型エマルションを作製可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明は、ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物であって、構成脂肪酸組成が、(1)飽和脂肪酸の合計量が75重量%〜85重量%、(2)不飽和脂肪酸の合計量が25重量%〜15重量%であって、尚かつ(3)炭素数12以下の飽和脂肪酸が20重量%〜30重量%、(4)炭素数が14〜18の飽和脂肪酸が45重量%〜55重量%で、トランス酸含量が3重量%以下であることを特徴とする可塑性油脂組成物に関する物である。この可塑性油脂組成物は、特に構成脂肪酸組成が、(5)飽和脂肪酸の合計量が75重量%〜85重量%、(6)不飽和脂肪酸の合計量が25重量%〜15重量%、(7)炭素数12以下の飽和脂肪酸が20重量%〜30重量%、(8)炭素数が14〜18の飽和脂肪酸が45重量%〜55重量%である油脂混合物を、定法に基づいてランダムエステル交換して得ることが可能である。
【0018】
ここで、前記炭素数12以下の飽和脂肪酸としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸などが挙げられる。これら炭素数12以下の飽和脂肪酸を含み、ランダムエステル交換に供することのできる原料油脂としては、硬化パームカーネルオイル(融点36〜40℃)、または硬化ヤシ油(融点32〜34℃)が例示される。尚、それらに含まれるトランス酸の含量は、本発明の可塑性油脂組成物のトランス酸含量を3重量%以下とする為に、3重量%以下とすることが望ましい。この炭素数12以下の飽和脂肪酸を用いることで、他の特性を破綻することなく、本発明の可塑性油脂組成物の融点を低下させるよう調整することが可能となる。また、一般的には、折込み用の可塑性油脂組成物、或いは油中水型エマルション等で要求される硬さを得るために、結晶化の早い炭素数18以上の長鎖脂肪酸を結晶化促進の為に用いることが多いが、この場合、同時に口溶けが悪化するという問題があった。これに対し、炭素数12以下の脂肪酸自身はランダムエステル交換されて本発明の可塑性油脂組成物となった時に、結晶化のきっかけを作りやすくしていると考えられ、口溶けの悪化を生じることなく、必要な硬さを維持することが可能となっていると推定される。従って、炭素数12以下の飽和脂肪酸は、上記の様な作用を生じる割合で添加されている必要があり、本発明の可塑性油脂組成物の構成脂肪酸組成全体中、20重量%〜30重量%であることが好ましい。
【0019】
本発明で使用する炭素数14〜18の飽和脂肪酸とは、主にミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸のことであり、それらを含むランダムエステル交換前の原料油脂としては、菜種極度硬化油(ローエルシン酸)、大豆極度硬化油またはコーン極度硬化油等が例示される。尚、それらに含まれるトランス酸の含量は、本発明の可塑性油脂組成物のトランス酸含量を3重量%以下とする為に、2重量%以下とすることが望ましい(極度硬化油は、水素添加によって大半の不飽和脂肪酸が飽和脂肪酸に変えられおり、トランス酸含量が低く、都合良く使用できる。)。本来、折り込み用途では、折り込みの際に重要となる製パン性(展延性、硬さ、耐熱性など)を得る為に、炭素数20以上の長鎖飽和脂肪酸を配合して設計する方法がとられていたが、本発明では、炭素数14〜18の飽和脂肪酸と炭素数12以下の飽和脂肪酸を含み特定の配合でランダムエステル交換して可塑性油脂組成物を形成されている為に、その可塑性油脂組成物が微細結晶を生じ易く(結晶化のきっかけが作られやすい為と考えられる)、展延性、硬さ、耐熱性を高次元に達成しているものと推定している。また、微細結晶が形成され易い為か、折り込み用途として使用した時には、伸展の際に物性が変化しにくい(従来品に比べて折り込みを繰り返した際の伸展性変化を低減することが可能で、生地層を壊しにくい。)。本発明では、炭素数14〜18の飽和脂肪酸は、上記の様な作用を生じる割合で添加されている必要があり、本発明の可塑性油脂組成物の構成脂肪酸組成中、45重量%〜55重量%であることが好ましい。
【0020】
本発明の可塑性油脂組成物によれば、従来の配合技術では得られたなかった高次元で特性がバランスされた折込み用油中水型エマルション、更には、これを得るための折込み用可塑性油脂組成物、可塑性油脂組成物を提供することを可能となる。また、これにより、従来の方法では長鎖脂肪酸を使用する為に膨化食品の口溶けが悪くなるという問題があったが、本発明ではこの問題を改善することが可能となった。
【0021】
また、炭素数12以下の飽和脂肪酸の供給源として硬化パームカーネルオイル、硬化ヤシ油等を用い、炭素数14〜18の飽和脂肪酸の供給源として菜種(ローエルシン酸)極度硬化油、大豆極度硬化油またはコーン極度硬化油等を使用する場合、得られる可塑性油脂組成物中の飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の割合を調整する目的で、これに加えて常温液状油を配合することが好ましい(使用する常温液状油についても、本発明の可塑性油脂組成物のトランス酸含量を3重量%以下とする為に、トランス酸含量が少ないものを使用することが望ましい。)。尚、ここで言う常温液状油とは、少なくとも20℃で液状となる油を意味する。尚、常温液状油としては各種油脂が使用可能であるが、例えば菜種油、コーン油、大豆油を好適に使用することができる。
【0022】
本発明の可塑性油脂組成物は、上記の各原料油脂を用い、ランダムエステル交換して得られるランダムエステル交換油脂において、構成脂肪酸組成中、飽和脂肪酸の合計量は75重量%〜85重量%であり、不飽和脂肪酸の合計量は25重量%〜15重量%であり、そして前記構成脂肪酸組成中、炭素数12以下の飽和脂肪酸が20重量%〜30重量%であり、炭素数が14〜18の飽和脂肪酸が45重量%〜55重量%となるように調整されており、更にトランス酸含量が3重量%以下となっている必要がある。この様な本発明の可塑性油脂組成物は、従来、折込み用可塑性油脂組成物の配合に使用されてきた硬化大豆油(通常、トランス酸を39重量%含む)の代替物、更には等量代替物として使用することができる。言い換えると、本発明の可塑性油脂組成物は、他の油脂を混合して折込み用可塑性油脂組成物等を形成する為に使用できる。この場合、特に本発明の可塑性油脂組成物を20重量%〜80重量%含有して折込み用可塑性油脂組成物を形成することが好ましい。また、この様にして形成した折込み用可塑性油脂組成物と水を含んで折込み用油中水型エマルションを形成することができる。この様にして形成した折込み用油中水型エマルションは、進展性、硬さ、耐熱性共に優れた特性を有している。更には、この折込み用油中水型エマルションを使用して、各種層状小麦粉膨化食品を製造することができる。
【0023】
また、本発明の可塑性油脂組成物は、上記の折込み用途と同様に、練り込み用途(硬化大豆油の代替物、等量代替物、更には練り込み用油中水型エマルション、各種小麦粉加工食品等)としても使用することができる。この場合も、折り込み用途に使用した際と同様に結晶の微細化が生じやすく、練り込み物のこしを強くし、液油の保持力を高めることが可能となる。特に、液油は風味向上に有効であり、より風味の優れた食品を製造することが可能となる。また、焼成後の型くずれ、胴膨れ(型枠通りの寸法としずらく寸法調整が困難となる現象)を低減することも可能となる。
【0024】
本発明の折込み用可塑性油脂の製造例を以下に例示する。常温で液体油の大豆油、コーン油、菜種油(ローエルシン酸) から1種以上と、大豆極度硬化油、コーン極度硬化油、菜種極度硬化油(ローエルシン酸)から1種以上と、硬化パームカーネルオイル(融点36〜40℃)、硬化ヤシ油(融点32〜34℃)から1種以上を調合した後、90℃に加熱、脱水を行ないソジウムメチラート0.2重量%添加して90℃で20分反応させる。その後、水洗を繰り返した後、活性白土を2%添加させ90℃、20分の条件で脱色する。脱臭は、250℃、60分にて行い可塑性油脂組成物を得る。前記可塑性油脂成物20重量%〜80重量%、精製ラード0重量%〜25重量%、常温で液体である大豆油、コーン油、菜種油(ローエルシン酸)を0重量%〜30重量%、ヤシ油0重量%〜10重量%、必要であれば魚油、パーム油、乳脂肪などを適宜配合し求める折込み用可塑性油脂の物性を調整したものを油相部とする。水相部は、水5重量%〜40重量%に風味素材などを適宜溶解し、80℃、20分で殺菌した後、約60℃にしておく。風味素材として各種乳製品、殺菌温度を低く調整するチョコレート、ココアなどの呈味材、食塩、異性化糖、砂糖、転化糖などの糖類、香料、着色料などを用途目的に応じて使用する。乳化剤は、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン、プロピレングリコール脂肪酸エステルなど適宜用いる。油相部、水相部ともに約60℃に温調し混合、予備乳化した後、コンビネーターなどの急冷捏和機を用いて冷却捏和、レストチューブなどを用いて結晶調整を行った後、ノズルで成型することでシート状折込み用可塑性油脂を得ることができる。本発明は、急冷が可能となった冷却捏和製造機に対応できる折込み用可塑性油脂組成物であり、製造時のシート成型性と層状膨化食品の物性を兼ね備えた可塑性油脂組成物である。
【0025】
得られた折込み用可塑性油脂は、クロワッサン、デニッシュ、パイ等の用途に用いられる。層状小麦粉膨化食品の製法によりシート状、スティック状、サイコロ状、短冊状など様々な形状があるが何れも層状膨化食品を得ることである。
【実施例】
【0026】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0027】
<可塑性油脂の脂肪酸組成並びにトランス酸量の測定法>
実施例、比較例で得られた可塑性油脂に対し、GC法(基準油脂分析試験法、2003年版)に準拠して、ガスクロマトグラフィー(機器名:6890Nガスクロマトグラフ、Agilent社製)を用いて、可塑性油脂中の脂肪酸組成、トランス酸量の測定を実施した。
【0028】
<ロールイン用可塑性油脂の硬さ評価法>
実施例・比較例で得た折込み用可塑性油脂を予めペネ缶に充填し、15℃の恒温水槽に2時間温調した後、ペネトロメーター・コーン(102.5g、JIS標準品)の先を油中水型乳化油脂組成物の表面に合わせてから落下させ、5秒後のコーン進入距離(単位:mm)を測定、その数値を10倍して針入度(15℃)として評価値とした。
【0029】
<製パン性試験:折込み用可塑性油脂折込み時評価法>
製パン時の伸展性、生地状態を熟練した研究員が評価した。その際の評価基準は以下の通りである。○:良好(伸展性が良く均一な生地を有すこと)、△:やや良好(やや伸展性が劣るがほぼ均一な生地を有すこと)、×:不良(伸展性が悪く、均一でない生地を有すこと)。
【0030】
<パンの官能評価法>
実施例、比較例で得られたパンを熟練した3人のパネラーによりサンプル名ブラインド方式でクロワッサンの外観、内層状態など総合的に評価した。その際の評価基準は以下の通りであった。○:良好(パンの内層が良く、膜が薄い。パンの外観、内層ともバラツキがない)、△:やや良好(パンの内層がやや良く、やや膜が薄い。パンの外観、内層ともバラツキが少ないない)、×:不良(パンの内層が劣り、膜が厚い。パンの外観、内層ともバラツキが見られる)。
(実施例1)
表1に従って、硬化パームカーネルオイル(融点36℃)60重量%、菜種極度硬化油(ローエルシン酸)(IV:1以下、融点:67℃以上)25重量%、菜種油(ローエルシン酸)15重量%を配合し90℃に加熱、脱水を行ないソジウムメチラート0.2重量%添加して20分反応させた。その後、水洗を繰り返し、活性白土2%添加、90℃、20分の条件で脱色、250℃、60分脱臭して可塑性油脂組成物を得た。得られた可塑性油脂組成物の脂肪酸の構成は、C12以下の飽和脂肪酸26.9重量%、C14〜18飽和脂肪酸51.3重量%、C20以上の飽和脂肪酸0.9重量%、飽和脂肪酸の合計79.1重量%でトランス酸2.5重量%であり、上昇融点は35.4℃であった。
【0031】
【表1】

(実施例2)
表1に従って、硬化パームカーネルオイル(融点36℃)60重量%、大豆油極度硬化油(IV:1以下、融点:67℃以上)25重量%、大豆油15重量%を配合し90℃に加熱、脱水を行ないソジウムメチラート0.2重量%添加して20分反応させた。その後、水洗を繰り返し、活性白土を2%添加、90℃、20分の条件で脱色、250℃、60分脱臭して可塑性油脂を得た。脂肪酸の構成は、C12以下の飽和脂肪酸27.9重量%、C14〜18飽和脂肪酸53.7重量%、C20以上の飽和脂肪酸0.4重量%、飽和脂肪酸の合計82.0重量%でトランス酸2.6重量%であり、上昇融点は36.2℃であった。
【0032】
(実施例3)
表2に従って、実施例1の可塑性油脂40重量%、精製ラード20重量%、ヤシ油4重量%、菜種油(ローエルシン酸)16重量%を調合し水17.6重量%に食塩2.0重量%を添加、溶解した。乳化剤は、グリセリン脂肪酸エステル0.2重量%、大豆レシチン0.2重量%用いた。油相部、水相部ともに約60℃に温調し混合予備乳化した後、コンビネーターの急冷捏和機を用いて冷却捏和、ノズルで成型してシート状折込み用可塑性油脂を得た。融点37.1℃、針入度15℃で80であった。この折込み用可塑性油脂を用いて表3に示した製パン評価のクロワッサン配合により、表4に示したクロワッサンの作製条件に従って作製して、表5にクロワッサンの評価を示した。製パン物性、クロワッサンの比容積、外観、内層、風味評価を実施して良好と判断した。
【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
【表5】

(実施例4)
表2に従って、実施例2の可塑性油脂40重量%、精製ラード20重量%、ヤシ油4重量%、大豆油16重量%を調合し水17.6重量%に食塩2.0重量%を添加、溶解した。乳化剤は、グリセリン脂肪酸エステル0.2重量%、大豆レシチン0.2重量%用いた。油相部、水相部ともに約60℃に温調し混合予備乳化した後、コンビネーターの急冷捏和機を用いて冷却捏和、ノズルで成型してシート状折込み用可塑性油脂を得た。融点38.1℃、針入度15℃で79であった。このロールイン用可塑性油脂を用いて、表3に示した製パン評価のクロワッサン配合により、表4に示したクロワッサンの作製条件に従って作製して、表5にクロワッサンの評価を示した。製パン物性、クロワッサンの比容積、外観、内層、風味評価を実施して良好と判断した。
【0037】
(比較例1)
表1に従って、硬化パームカーネルオイル(融点36℃)60重量%、菜種油(ハイエルシン酸)極度硬化油(IV:1以下、融点:67℃以上)25重量%、菜種油(ローエルシン酸)15重量%を配合し90℃に加熱、脱水を行ないソジウムメチラート0.2重量%添加して20分反応させた。その後、水洗を繰り返し、活性白土を2%添加、90℃、20分の条件で脱色、250℃、60分脱臭して可塑性油脂を得た。脂肪酸の構成は、C12以下の飽和脂肪酸22.7重量%、C14〜18飽和脂肪酸36.3重量%、C20以上の飽和脂肪酸18.3重量%、飽和脂肪酸の合計77.3重量%でトランス酸2.3重量%であり、上昇融点は36.2℃であった。
【0038】
(比較例2)
表1に従って、パームステアリン10重量%、硬化パームカーネルオイル(融点36℃)60重量%、菜種油(ローエルシン酸)極度硬化油(IV:1以下、融点:67℃以上)30重量%を配合し90℃に加熱、脱水を行ないソジウムメチラート0.2重量%添加して20分反応させた。その後、水洗を繰り返し、活性白土を2%添加、90℃、20分の条件で脱色、250℃、60分脱臭して可塑性油脂を得た。脂肪酸の構成は、C12以下の飽和脂肪酸29.4重量%、C14〜18飽和脂肪酸60.1重量%、C20以上の飽和脂肪酸0.8重量%、飽和脂肪酸の合計90.3重量%でトランス酸2.1重量%であり、上昇融点は40.3℃であった。
【0039】
(比較例3)
精製大豆油(ヨウ素価123.9)を用いて、定法による水素添加反応を行なって硬化した水素添加油脂(硬化大豆油)を得た。構成脂肪酸組成を表1に示した。トランス酸39.0重量%であった。
【0040】
(比較例4)
表2に従って、比較例1の可塑性油脂40重量%、精製ラード20重量%、ヤシ油4重量%、大豆油16重量%を調合し水17.6重量%に食塩2.0重量%を添加、溶解した。乳化剤は、グリセリン脂肪酸エステル0.2重量%、大豆レシチン0.2重量%用いた。油相部、水相部ともに約60℃に温調し混合予備乳化した後、コンビネーターの急冷捏和機を用いて冷却捏和、ノズルで成型してシート状折込み用可塑性油脂を得た。融点36.7℃、針入度15℃で88であった。この折込み用可塑性油脂を用いて表3に示した製パン評価のクロワッサン配合により表4に示したクロワッサンの作製条件に従って作製して表5にクロワッサンの評価を示した。折込み用可塑性油脂に必要な物性が劣り、シーターでの最終生地厚に対して5.2mmの厚さになり、クロワッサン評価の比容積、外観、内層、風味の何れも劣る結果となり折込み用可塑性油脂として実用性に適さない物性であった。
【0041】
(比較例5)
表2に従って、比較例2の可塑性油脂40重量%、精製ラード20重量%、ヤシ油4重量%、大豆油16重量%を調合し水17.6重量%に食塩2.0重量%を添加、溶解した。乳化剤は、グリセリン脂肪酸エステル0.2重量%、大豆レシチン0.2重量%用いた。油相部、水相部ともに約60℃に温調し混合予備乳化した後、コンビネーターの急冷捏和機を用いて冷却捏和、ノズルで成型してシート状折込み用可塑性油脂を得ようとしたがマーガリンの硬さがでなくシート状とならなかったためその後の評価が出来なかった。
【0042】
(比較例6)
表2に従って、比較例3の大豆硬化油40重量%、精製ラード20重量%、ヤシ油4重量%、大豆油16重量%を調合し水17.6重量%に食塩2.0重量%を添加、溶解した。乳化剤は、グリセリン脂肪酸エステル0.2重量%、大豆レシチン0.2重量%用いた。油相部、水相部ともに約60℃に温調し混合予備乳化した後、コンビネーターの急冷捏和機を用いて冷却捏和、ノズルで成型してシート状折込み用可塑性油脂を得た。融点37.7℃、針入度15℃で79であった。このロールイン用可塑性油脂を用いて表3に示した製パン評価のクロワッサン配合により表4に示したクロワッサンの作製条件に従って作製して表5にクロワッサンの評価を示した。製パン物性、クロワッサンの比容積、外観、内層、風味共に良好と判断したが折込み用可塑性油脂としてトランス酸16.7重量%含む組成であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランダムエステル交換により得られた可塑性油脂組成物であって、構成脂肪酸組成が、(1)飽和脂肪酸の合計量が75重量%〜85重量%、(2)不飽和脂肪酸の合計量が25重量%〜15重量%であって、尚かつ(3)炭素数12以下の飽和脂肪酸が20重量%〜30重量%、(4)炭素数が14〜18の飽和脂肪酸が45重量%〜55重量%で、トランス酸含量が3重量%以下であることを特徴とする可塑性油脂組成物。
【請求項2】
構成脂肪酸組成が、(5)飽和脂肪酸の合計量が75重量%〜85重量%、(6)不飽和脂肪酸の合計量が25重量%〜15重量%であって、尚かつ(7)炭素数12以下の飽和脂肪酸が20重量%〜30重量%、(8)炭素数が14〜18の飽和脂肪酸が45重量%〜55重量%である油脂混合物をランダムエステル交換して得られたことを特徴とする、トランス酸含量が3重量%以下である可塑性油脂組成物。
【請求項3】
前記油脂混合物が、(A)常温液状油と、(B)菜種極度硬化油(ローエルシン酸)、大豆極度硬化油、コーン極度硬化油から選ばれる1種以上と、(C)硬化パームカーネルオイル、硬化ヤシ油から選ばれる1種以上の混合物を含有してなることを特徴とする、請求項2に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項4】
常温液状油が、菜種油、コーン油、大豆油から選ばれる1種以上の油脂であることを特徴とする、請求項3に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の可塑性油脂組成物を20重量%〜80重量%含有することを特徴とする折込み用可塑性油脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の折込み用可塑性油脂組成物と水を含んでなる、折込み用油中水型エマルション。
【請求項7】
請求項6に記載の折込み用油中水型エマルションを用いて製造したことを特徴とする層状小麦粉膨化食品。

【公開番号】特開2009−95312(P2009−95312A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−271865(P2007−271865)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】